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平成22年3月30日判決言渡
平成21年(ネ)第10055号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成20年(ワ)第12952号)
口頭弁論終結日平成22年2月9日
判決
控訴人(一審原告)エイディシーテクノロジー株式会社
同訴訟代理人弁護士水野健司
被控訴人(一審被告)ソフトバンクモバイル株式会社
同訴訟代理人弁護士森崎博之
同岡田誠
同上野さやか
同訴訟代理人弁理士稲葉良幸
同高村和宗
被控訴人補助参加人株式会社東芝
同訴訟代理人弁護士尾崎英男
同人見友美
同鷹見雅和
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,補助参加によって生じた費用を含め,控訴人の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,金3440万円及びこれに対する平成20年
5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1概要
控訴人(以下,「原告」という。)は,「携帯型コミュニケータおよびその
使用方法」に関する発明の特許(以下,「本件特許」という。)の特許権者で
ある。控訴人は,被控訴人(以下,「被告」という。)に対し,別紙物件目録
記載の製品(以下,「被告製品」という。)を販売し,販売のために展示その
他販売の申出をしている行為が,本件特許に係る特許権(請求項2及び請求項
5に係る特許権)を侵害し,被告の上記行為が特許法101条4号,5号に該
当すると主張して,①被告製品の販売等の差止め(特許法100条1項)及び
廃棄(同条2項)を求めるとともに,②損害賠償金3440万円(民法709
条,特許法102条3項)及び所定の遅延損害金の支払を請求した。原判決
は,原告の各請求をいずれも棄却したので,原告は上記損害賠償請求及び遅延
損害金請求について控訴を提起した。
ところで,原告は,本件特許の請求項2につき,平成21年3月30日,特
許庁に対して訂正審判請求をし,特許庁は,同年5月1日に訂正を認める旨の
審決をし,同審決は原審口頭弁論終結後に確定した(以下,この訂正を「本件
訂正」という。)。そこで,原告は,当審において,本件訂正前の特許権の請
求項2に基づく請求を本件訂正後の特許権の請求項2に基づく請求に変更する
とともに,請求項5に係る特許権に基づく請求を取り下げた。
なお,略語については,原判決と同一のものを使用する。
2前提となる事実
(1)原告は,コンピュータソフトウエアの開発及び販売,コンピュータ及び
コンピュータ関連機器の開発及び販売等を目的としている株式会社である。
(弁論の全趣旨)
(2)被告は,移動体通信事業,電気通信に関するソフトウエアの制作及び販
売,移動体通信に係る電気通信用品及びシステムの保守及び販売,通信機器
の販売等を目的とする株式会社である。(争いのない事実)
(3)本件特許権
原告は,本件特許の特許権者である(以下,この特許権を「本件特許権」
といい,本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。請
求項の数は6である。)。
ア登録番号第2590397号
イ発明の名称携帯型コミュニケータおよびその使用方法
ウ出願日平成5年3月30日
エ登録日平成8年12月19日
オ請求項2原判決別紙特許公報の各該当欄に記載のとおり。
(4)本件特許に係る請求項2の訂正
原告は,平成21年3月30日,本件特許に係る請求項2について特許庁
に対し訂正審判を請求したところ(訂正2009−390042号),特許
庁は,同年5月1日,上記請求項2に対する訂正を認めた(甲14,16。
以下訂正後の発明を「本件訂正発明」という。また訂正後の本件明細書を「
本件訂正明細書」という。)。
(5)構成要件の分説
本件訂正発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成
要件を「構成要件a」等という。なお,訂正部分に下線を付した。)。
【a】携帯可能な筐体と,
【b】上記筐体内に設けられ,公衆通信回線に無線によって接続され,該公
衆通信回線を経由して発信,または受信を行う無線通信手段と,
【c】上記筐体内に設けられ,該無線通信手段に対する制御指令の出力,上
記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを入力,または
上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータを送出する携帯
コンピュータとを備え,
【d】上記携帯コンピュータは,さらに上記筐体に保持された,又は該筐体
外のGPS利用者装置から位置座標データを入力する位置座標データ入
力手段と,
【e】ディスプレイと,
【f】CPUと,
【g】上記ディスプレイに表示された所定の業務名を文字画像で示す発信先
一覧から選択された選択項目の名称に基づき,上記位置座標データ入力
手段の位置座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,会社あ
るいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選
択手段と,
【h】上記選択手段の選択した発信先の発信先番号に電話発信を実行して通
信する電話発信手段と,
【i】上記電話発信処理によって電話が接続されて後,上記通話中の文字画
像を上記ディスプレイに表示する通話中手段と,を備え,
【j】上記位置座標データ入力手段と,上記選択手段と,上記電話発信手段
と,上記通話中手段とは,上記CPUによって実行されることを特徴と
する携帯型コミュニケータ。
(6)被告の行為
被告は,平成20年3月15日から被告製品を販売し,また,販売のため
の展示その他販売の申出をしている。
(7)被告製品の構成
別紙被告製品説明書記載のとおりである。(争いのない事実,甲6の3,
8,弁論の全趣旨)
(8)構成要件の充足
被告製品は,本件訂正発明の構成要件aないしc,e,fを充足する。(争
いのない事実)
3本件の争点
(1)被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属するか(争点1)。
ア構成要件d「位置座標データ入力手段」の充足性
イ構成要件g「選択手段」の充足性
ウ構成要件h「電話発信手段」の充足性
エ構成要件iの充足性
オ構成要件jの充足性
(2)構成要件gにおける均等の成否(争点2)
(3)本件特許には,乙5に記載された発明及び周知技術による進歩性欠如(
特許法29条2項)の無効理由(特許法104条の3)があるか(争点3)
(4)損害の発生及び数額(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1ア(被告製品は,構成要件dの「位置座標データ入力手段」を具備し
ているか)
(1)原告の主張
被告製品は,以下の理由により,「筐体に保持された・・・GPS利用者
装置から位置座標データを入力する位置座標データ入力手段」を備えてい
る。
ア「位置座標データ入力手段」の意義
(ア)「位置座標データ」は,緯度経度そのものでなくとも,緯度経度を
算出できるデータであれば現在位置を特定できる。したがって,構成要
件dの「位置座標データ」とは,GPS利用者装置の現在位置を特定で
きるデータを指し,緯度経度そのものに限られない。
(イ)構成要件dは,「上記筐体に保持された,又は該筐体外のGPS利
用者装置から,位置座標データを入力する位置座標データ入力手段」と
規定されているとおり,「GPS利用者装置」と「コミュニケータ」と
は別体であるとの限定はない。実施例においては,両者が別体であるも
のが示されているが,別体のものに限る合理性はない。
(ウ)緯度経度を算出できる基礎データに基づいて,緯度経度を算出する
処理は,GPS利用者装置内のCPUとコミュニケータの筐体内のCP
Uのいずれが行ってもよいというべきである。
(エ)「位置座標データに基づいて・・・発信先番号を選択する」場合,
CPUが基礎データから算出した緯度経度を用いることになる。しか
し,これは「位置座標データに基づいて」選択をしているのであり,「
位置座標データにより」選択しているのではない。
イ被告製品について
(ア)被告製品において,GPS衛星からの位置データと信号発信時刻デ
ータがあれば,「位置座標データ」に相当するGPS受信機の緯度経度
は一義的に特定できる。
(イ)被告製品は,CPUの処理能力が高く,一元的に当該CPUで処理
されているため,GPS利用者装置とコミュニケータが別体になってい
ないにすぎない。
(ウ)緯度経度の計算は,「GPS利用者装置」に相当するGPS受信専
用回路によってなされても,「携帯コンピュータ」に相当するCPUに
よってなされても,いずれも差異はない。
(エ)被告製品において,「位置座標データ」が緯度経度そのものである
としても,被告製品のCPUは,緯度経度を算出してレジスタ等を含む
何らかのメモリに記憶し,その緯度経度を読み出しているのであるか
ら,当該メモリ領域をも含めて「GPS利用者装置」に含まれると解さ
れる。よって,被告製品のCPUが当該緯度経度を読み出す処理は,構
成要件dの「位置座標データを入力する」との構成に該当する。
(2)被告及び被告補助参加人(以下,併せて「被告ら」という。)の反論
構成要件dにおける「位置座標データ」とは,GPS利用者装置の現在位
置を示す座標データを指す。これに対して,被告製品において,GPS受信
専用回路からCPUに対して入力されるのは,「GPS衛星の位置データ」
と「GPS衛星からの信号発信時刻データ」のみであり,これらのデータ
は,いずれも被告製品の現在位置を示す「位置座標データ」には該当しない
から,被告製品のCPUは,「位置座標データ入力手段」を具備しない。し
たがって,被告製品は,構成要件dの「位置座標データ入力手段」を充足し
ない。
2争点1イ(被告製品は,構成要件gの「選択手段」を具備しているか)
(1)原告の主張
ア構成要件gにいう「選択」とは,「①えらぶこと,適当なものをえらび
だすこと,良いものをとり,悪いものをすてること。」(広辞苑第6版)
をいうのであり,文言上「先方のコンピュータにデータ処理を指令してこ
れが送り返されること」が除外されているわけではない。すなわち「選
択」とは,本件訂正明細書の実施例のように,携帯コンピュータ自体のC
PUが筐体内部のEPROMコネクタ76に差し込まれた地図ROM96
からデータを読み出す場合だけを指すものではなく,他の装置にデータが
記憶されている場合に,携帯コンピュータのCPUが「先方のコンピュー
タにデータ処理を指令してこれが送り返されること」により,その記憶装
置からデータを読み出す場合も含むものと解すべきである。後者の場合
も,選択する主体は,携帯コンピュータ自体のCPUであるから,本件訂
正発明が後者の場合を除外しているとは解釈できない。
イ本件訂正明細書(甲14,16)の各記載(【0074】,【0104
】等)によれば,本件訂正発明の実現手段として,地図データROM96
からの読み出しに係る技術のみが開示されているのではなく,「先方のコ
ンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返される」技術も開示され
ていると解される。
ウ甲17は,本件特許出願日(平成5年3月30日)前の昭和62年3月
26日に出願され,昭和63年10月3日に公開された公開特許公報であ
る。甲17には「数千点以上のプラントデータ」(1頁右下欄14行)の
伝送システムにつき,従来例として,「データプロセッサを構成したデー
タ処理装置のプロセッサCPUA2と,プロセッサCPUA2を介したデ
ータサーバ3と」(2頁右上欄8行∼10行)を備えたデータ処理システ
ムであり,「プラントデータは伝送装置17,伝送ケーブル18により遠
隔地に設置した伝送装置17−1を介してデータ処理装置19に送られ
る。データ処理装置19では,プロセッサCPUB20と,(m×m)の
画数のCRT表示装置21と,CRT表示装置21のデータを記録する記
録装置22で構成され,発電プラントに設置したデータ処理装置1のプラ
ントデータを遠隔地に伝送するシステムである。」(2頁左下欄14行∼
同頁右下欄1行,なお第4図)旨が記載されている。すなわち,遠隔地間
で大量のデータを伝送するためにCPU間でデータ通信行うために,サー
バに所定のデータを読み出して送信する指令を送信する技術は,本件特許
出願当時に公知であった。
また,甲18(昭和62年9月24日に公開された公開特許公報)に
は,ローカルエリアネットワークを介してダウンロードにデータを伝送す
る技術が開示され(例えば,3頁右下欄11行∼14行,第1図),甲1
9には,地図データにつきネットワークを介して読み出す技術が開示され
ている。
上記の本件特許出願当時の技術水準を前提にすれば,構成要件gについ
て,「先方のコンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返される」
技術は,当業者であれば,データ量が多い場合に当然に考える態様である
から,構成要件gの「選択」について,上記のような技術を含むものと解
釈できる。
エ以上のとおり,本件訂正発明の特許請求の範囲である構成要件gには,
先方のコンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返される技術思想
が開示されているということができる。
オ被告製品のCPUは,①現在位置情報とユーザの選択内容(所定の業務
名)をナビタイムサーバに送信して,ナビタイムサーバに記憶されている
現在位置に最も近い施設の電話番号を選び出しており,また,②ディスプ
レイに表示された「駐車場」,「コンビニ」,「銀行/信金/ATM」な
どの業務名を文字情報で示した発信先一覧から選択項目の名称に基づき,
上記選択する処理を実行するものであるから(甲8),構成要件gの「選
択手段」を具備している。
(2)被告らの反論
本件訂正発明の構成要件gは,構成要件dの「上記携帯コンピュータは,
・・・」を受け,「上記ディスプレイに表示された所定の業務名を文字画像
で示す発信先一覧から選択された選択項目の名称に基づき,上記位置座標デ
ータ入力手段の位置座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,会
社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選
択手段と,」と記載され,それに続けて,構成要件iの「上記電話発信処理
によって電話が接続されて後,上記通話中の文字画像を上記ディスプレイに
表示する通話中手段と,を備え,」が記載されている。すなわち,構成要件
gは,「携帯型コミュニケータ」の「携帯コンピュータ」が「現在位置に最
も近いものの発信者番号を選択する選択手段」を備えていることを前提とし
ている。
これに対し,被告製品では,CPUは,GPS受信専用回路から3個以上
のGPS衛星が送信したGPS衛星の位置及び信号発信時刻のデータを入力
し,その入力に応答して信号到達時刻データを生成した上で,これらの衛星
の位置,信号発生時刻及び信号到達時刻の各データに基づいて演算を行うこ
とにより,被告製品の現在位置の緯度経度情報(現在位置情報)を取得す
る。そして,CPUが,現在位置情報及びユーザの選択内容(「周辺スポッ
ト検索」,カテゴリー選択の「施設種類」)をインターネットを介してナビ
タイムジャパン株式会社(以下「ナビタイム社」という。)の所有,運営す
るナビタイムサーバに送信すると,ナビタイムサーバは,サーバの有するデ
ータベースにより,前記現在位置情報を中心として東西南北方向へ各2k
m(4km四方)の正方形エリア内に存在する施設について,現在位置との
直線距離をそれぞれ計算して,施設の名称及び距離数を距離の近い順に表示
したリスト画面データを作成し,被告製品に送信し,CPUがリスト画面デ
ータを表示する。そして,ユーザが施設のリスト画面の中から特定の施設(
現在位置に最も近い施設に限らずユーザの任意の選択による。)を指定する
と,CPUは,現在位置情報及びユーザが指定した施設を特定する情報をナ
ビタイムサーバに送信する。ナビタイムサーバは,指定された特定の施設の
詳細情報(名称,電話番号,住所)の表示等からなる画面データを作成し,
被告製品に送信する。
このように,被告製品では,ナビタイムサーバが,被告製品の現在位置情
報に基づいて現在位置の周辺に存在する施設を距離の近い順に並べたリスト
の画面データを作成し,インターネットを介して被告製品に送信し,その画
面上でのユーザの選択に従って特定された施設(現在位置に最も近い施設を
特定するとは限らない。)の電話番号等をナビタイムサーバのデータベース
より抽出し,画面データを作成し,CPUが受信した情報の表示を行ってい
るのである。被告製品のCPUは,位置座標データに基づいて現在位置に最
も近いものの発信先番号を選択するという処理は行っていない。
したがって,被告製品は,構成要件gの「選択手段」を備えていないか
ら,構成要件gを充足しない。
3争点1ウ(被告製品は,構成要件hの「電話発信手段」を具備しているか)
(1)原告の主張
被告製品は,選択した発信先の電話番号に電話発信を実行して通信するも
のであるから(甲8),「電話発信手段」を備え,構成要件hを充足する。
(2)被告らの反論
ア構成要件hの「電話発信を実行して通信する電話発信手段」とは,本件
訂正明細書の詳細な説明及びフローチャートの記載に裏付けられるように
ユーザの行為を介さずになされるものに限定される。
被告製品においては,現在位置に一番近いものを含む4キロメートル四
方に存在する全店舗のリストの「選択」は,ナビタイムサーバにおいて現
在位置との距離を算出し行っているものであって,被告製品のCPU
は,「現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段」を備え
ていないから,かかる「選択手段の選択した発信先の発信先番号」に電話
発信を実行して通信する電話発信手段は備えていない。
イ仮に,ナビタイムサーバによる選択も,「選択」に含まれると解釈した
としても,ナビタイムサーバによる選択は,現在位置に最も近いものを含
む4キロメートル四方に存在する所定の業務を行うすべてのもののリスト
の選択であり,「最も近いものの発信先番号を選択」していない。すなわ
ち,リストの画面には,別紙被告製品説明書第2図中「(2)周辺検索」に
示された「③コンビニのリスト画面の表示」のように,電話番号は表示さ
れていない。同図の「③コンビニの詳細情報を表示」の画面に示されるよ
うに,電話番号は,ユーザがリスト中から,所望の一店舗を選択した場合
にはじめて,ナビタイムサーバから送信されて表示されるものであるか
ら,仮にユーザが選択した店舗が「最も近いもの」であったとしても,位置
座標に基づいてCPUが当然に選択するものではなく,「位置座標データ
に従って」選択された「発信先番号」ではない。
ウ被告製品においては,ナビタイムサーバによって選択されてディスプレ
ーに表示された1番目に近い店舗等を含むリストから,ユーザが所望の店
舗等を指定する行為を行ない,かかるユーザの指定によりはじめてディス
プレーに表示される電話番号について,さらに,電話発信を実行すべきこ
とを指定する行為をユーザが行うことによって,はじめて,電話発信が実
行されるものであるから,被告製品のCPUは,「発信先番号に電話発信
を実行」して通信する「電話発信手段」を備えるものではない。
4争点1エ(被告製品は,構成要件iを充足するか)
(1)原告の主張
被告製品は,電話発信処理によって電話が接続されると,「音声通話中」
の文字画面をメインディスプレイに表示するものであるから(甲6),構成
要件iを充足する。
(2)被告らの反論
被告製品において,電話が接続されると「通話中」の文字画像がディスプ
レイに表示されるが,被告製品においては,「上記電話発信処理によって電
話が接続され」ることはないし,「上記ディスプレイ」も存在しない。被告
製品は,構成要件iを充足しない。
5争点1オ(被告製品は,構成要件jを充足するか)
(1)原告の主張
被告製品のCPUは,位置座標データ入力手段,選択手段,電話発信手段
及び通話中手段を実行する携帯型無線通信機であるから,構成要件jを充足
する。
(2)被告らの反論
前記のとおり,被告製品は「位置座標データ入力手段」,「選択手段」及
び「電話発信手段」を備えておらず,被告製品のCPUは,「位置座標デー
タ入力手段」,「選択手段」及び「電話発信手段」を実行するものではな
い。被告製品は構成要件jを充足しない。
6争点2(構成要件gの均等の成否)
(1)原告の主張
仮に,被告製品が構成要件gを充足しないとしても,被告製品のCPUに
より実行される処理は,構成要件gと均等である。
ア相違点は本件訂正発明の本質的部分ではないこと
本件訂正発明の構成要件gについて,仮に自己の筐体内のCPUにより
すべての処理がなされなければならず,先方のコンピュータにデータ処理
を指令してこれが送り返される場合は含まないと解するとしても,自己の
CPU自体がデータを読み出すか,他の記憶装置にデータを読み出す指令
を送信してデータを読み出すかの相違は,本件訂正発明の特有の作用効果
を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴部分ということはできない。
すなわち,本件訂正発明は,無線電話装置と,携帯型コンピュータと,
GPS利用者装置との個々の機能を複合させた機能を実用的に得るという
目的のもと,最寄りの発信先や緊急発信先に電話が接続されることから,
実際に役立つ相手に電話が接続され,利便性が高い情報交換装置が得られ
るという効果を奏する。このような目的,効果に照らせば,上記部分を他
の構成に置き換えたとしても,本件訂正発明の目的を達することができ,
同一の作用効果を奏する。
したがって,構成要件gおける被告製品の相違する部分は,本件訂正発
明の本質的部分ではない。
イ置換可能性・置換容易性
「自己の筐体内のCPUによりすべての処理がされる」との構成と「先
方のコンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返される」との構
成」とは,サーバとのデータの送受信によりデータを取り出す技術が周知
であることに照らして(甲17,18),解決原理に相違はないから,置
換は可能である。
また,被告製品の製造時において,構成要件gにおける,「自己の筐体
内のCPUによりすべての処理がされる」との構成を,被告製品におけ
る「先方のコンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返される」と
の構成に置換することは,容易であるといえる。
ウ被告製品の容易推考性
被告製品は,本件特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれ
から本件特許出願時に容易に推考できたものとはいえない。
エ意識的除外
被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除
外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
(2)被告らの反論
ア相違点は本件訂正発明の本質的部分であること
乙5(7の(1)のア)には,本件訂正明細書の記載及びGPS装置を利
用して現在位置に最も近い施設を検索して選択することが記載され,同技
術は,自動車電話において公知であった。乙5記載の公知技術に照らすな
らば,本件訂正発明は,「携帯コンピュータ」が「選択手段」を有するこ
とが,本件訂正発明の本質的部分である。
被告製品は,本件訂正発明の本質的部分について相違するから,原告の
均等の主張は失当である。
イ置換可能性がないこと
被告製品は,本件訂正発明の本質的部分,すなわち「携帯コミュニケー
タ」の備える「携帯コンピュータ」が,「位置座標データ入力手段の位置
座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の
中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段」を備え
ておらず,本件訂正発明の作用効果を奏さないのであるから,本件訂正発
明の構成要件gにつき被告製品の構成との置換可能性は存在しない。
また,本件訂正発明の「携帯コンピュータ」が「選択手段」を有する構
成と,インターネットを利用した被告製品の構成とでは,現在位置に最も
近い施設を選択し通信を行う機能において,その作用,効果は異なる。例
えば,被告製品では,インターネットに接続できる環境下においてのみ使
用可能である一方,製品中に膨大な地図データを保存したりその処理を行
う機能を有する必要がないので筐体をコンパクトにでき,サーバに対して
非常に多くの携帯端末を接続できるので多数の端末に対して同一のサービ
ス(処理)を供給でき,さらに地図データや施設データのアップデートも
サーバ単位で行えばよいので迅速かつ容易に行え,そのためユーザに対し
て常に最新情報を提供できる等の効果がある。このように,被告製品にお
いては,本件訂正発明とは極めて顕著に異なる構成が採用されており,そ
の結果,その異なる構成に基づいた別個の作用効果を奏している。このよ
うな点に照らすならば,本件訂正発明の「選択手段」の構成と被告製品の
インターネットを介したサーバによる選択の構成とは,解決課題及び解決
原理が異なり,置換可能とはいえない。
7争点3(本件特許に特許法104条の3の無効理由があるか)
(1)被告らの主張
以下のとおり,本件訂正発明の技術的事項は,乙5(特開平4−5642
9号公報)にそのすべてが開示されているか,又は,周知技術を組み合わせ
ることにより容易に想到し得るから,本件特許には特許法104条の3の無
効理由が存する。
ア乙5の記載
乙5には,以下の記載がある。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は,車両に搭載される移動無線電話機からなる自動車用電話に
関するものである。」(1頁右下欄1行ないし3行)
「〔従来の技術〕
従来,例えば特公平1−13255号公報に示されるように,車両に
搭載された移動無線電話機によって諸施設に設置された電話機と通話で
きるように構成された自動車用電話が知られている。そしてこの自動車
用電話は,走行時等において容易に通話相手を呼び出すことができるよ
うにするため,予め登録した諸施設の電話番号をワンタッチで呼び出す
呼び出しスイッチを設けることが行われている。」(1頁右下欄4行な
いし13行)
(イ)「〔発明が解決しようとする課題〕
上記呼び出しスイッチによって呼び出される諸施設としては,ガソリ
ンスタンド,病院もしくは自動車販売店等が考えられるが,これらの施
設が各地域ごとに設けられている場合において,自車の現在位置に対応
した最寄りの施設を呼び出して通話するためには,最寄りの施設の電話
番号を電話帳等から探し出す必要があり,上記呼び出しスイッチを有効
に利用することができないという問題がある。
本発明は,上記問題点を解決するためになされたものであり,自動車
が走行することによって変化する自車位置に対応した最寄りの施設を呼
び出しスイッチによってワンタッチで呼び出すことができる自動車用電
話を提供することを目的としている。」(同1頁右下欄14行ないし2
頁左上欄9行)
(ウ)「(実施例)
第1図は,本発明に係る自動車用電話の実施例を示している。この自
動車用電話は,送信器と受信器とからなる電話機本体1と,ブラウン管
デイスプレイ等からなる表示手段2と,予め登録された自動車販売店も
しくは病院等の諸施設の電話番号およびこの諸施設の設置位置を記憶す
るコンパクトディスク等からなる記憶手段3と,呼び出しスイッチ4の
操作に応じて上記記憶手段3から最寄りの諸施設の電話番号を読出して
上記電話機本体1の送信器に出力する読出手段5と,自車の現在位置を
推測して上記読出手段5に自車位置を示すデータを出力する自車位置推
測手段6と,この自車位置推測手段6によって読出された自車位置に応
じて上記表示手段2の表示内容を更新する更新手段7とを備えている。
上記表示手段2は,第2図に示すように,自動車販売店名を表示する
第1画面と,病院名を表示する第2画面と,ガソリンスタンド名を表示
する第3画面と,サービス工場名を表示する第4画面とからなってい
る。また,上記呼び出しスイッチ4は,表示手段2の第1∼第4画面に
対応する第1∼4スイッチを備えている。また,上記自車位置推測手段
6は,図外の地図記憶手段に記憶された地図データと,地磁気センサお
よび車輪速センサ等の車両に設けられた各センサの実測データとに基づ
いて車両の現在位置を読出す自立推測航法と,人工衛星から送信される
電波を受信し,そのデータに基づいて車両の絶対位置を読出す衛星航法
とを組み合わせることにより,自車の現在位置を高精度で推測するよう
に構成されている。
そして例えば上記呼び出しスイッチ4の第1スイツチが操作された場
合に,自車位置推測手段6によって読出された自車位置のデータに応
じ,読出手段5において,記憶手段3に記憶された販売店データから自
車の現在位置に最も近い位置にある自動車販売店を検索してその電話番
号を読出し,この電話番号データを電話機本体1に出力して上記販売店
の電話を呼び出すようにしている。」(同2頁右上欄16行ないし右下
欄14行)
(エ)「上記のように,呼び出しスイッチ4の操作時点において,自車位
置推測手段6により推測された自車の現在位置に応じ,記憶手段3の記
憶データから最寄りの施設を検索してその電話番号を読出すように構成
したため,自車の現在位置に最も近い施設を電話帳等から探し出してダ
イヤル操作するという繁雑な操作を要することなく,上記呼び出しスイ
ッチ4を利用して最寄りの施設をワンタッチで自動的に呼び出すことが
できる。
また,上記のように各施設名を表示する表示手段2を設け,この表示
手段2の表示内容を自車位置の変化に応じて最寄りの施設名に更新する
ように構成した場合には,上記呼び出しスイッチ4を操作した場合に呼
び出される施設名を上記画面によって事前に確認することができ
る。」(同3頁左上欄6行ないし20行)
イ本件訂正発明と乙5記載の発明との対比
(ア)構成要件aについて
乙5に記載された自動車用電話が「携帯可能な筺体」を備えること
は,出願時の技術水準を参酌することにより当業者が導き出せる事項で
あるから,構成要件aは,乙5に開示されている。仮に,乙5に開示さ
れているとまではいえなくとも,乙5に記載の自動車用電話を,出願時
において既に発売されていた携帯可能型の「ショルダーホン」等の自動
車用電話(乙8,9)と組み合わせて,「携帯可能な筺体」に収め「携
帯型」とすることは,当業者にとって容易に想到し得る。
(イ)構成要件bについて
乙5には,「自動車用電話は,送信器と受信器とからなる電話機本体
1と・・・を備えている」と記載されている(2頁右上欄18行ないし
同左下欄11行)。「本発明は,車両に搭載される移動無線電話機から
なる自動車用電話に関するものである。」との記載(1頁右下欄2行な
いし3行。)によれば,上記送信器と受信器とが無線により発信,受信
を行うこと,及び「公衆回線を経由」することは,当業者にとって自明
である(乙10)。すなわち,上記電話機本体1の送信器と受信器と
は,「公衆通信回線に無線によって接続され,該公衆通信回線を経由し
て発信,または受信を行う」ものであるから,構成要件bの「無線通信
手段」に相当する。
乙5の車両に「搭載」される移動無線電話機からなる自動車用電話
が,「携帯可能な筐体」を備えることは,乙5の頒布時における技術常
識を参酌することにより当業者が導き出せることであり,乙5に記載さ
れているに等しい事項である。乙5には,構成要件bが開示されてい
る。
(ウ)構成要件cについて
乙5の「本発明によれば,呼び出しスイッチの操作時点において,自
車位置推測手段により推測された自車位置の最も近くに位置する自動車
販売店の施設を,ワンタッチで自動的に呼び出して通話する」(2頁右
上欄6行ないし同10行)との記載から,電話機本体1の送信器と受信
器とに,制御指令が出力されているとの事項が開示されている。また,
通話の際に,公衆通信回線から,少なくともアナログ音声信号及びデジ
タル制御信号を含むデータが入力され,公衆通信回線に,少なくともア
ナログ音声信号及びデジタル制御信号を含むデータが送出されることは
技術常識であることを踏まえると,乙5には,電話機本体1が,送信器
と受信器とを介して,公衆通信回線から少なくともアナログ音声信号及
びデジタル制御信号を含むデータを入力され,公衆通信回線に少なくと
もアナログ音声信号及びデジタル制御信号を含むデータを送出している
ことが開示されている。また,これら制御指令の出力,データの入力,
送出がコンピュータ(CPU)により実現されている。
以上により,電話機本体1を含む乙5に記載された自動車用電話は,
コンピュータ(CPU)により「無線通信手段に対する制御指令の出
力,上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを入力,
または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータを送出」
しており,「携帯コンピュータ」に相当するので,乙5には,構成要件
cが開示されている。
(エ)構成要件dについて
a乙5の第1図及び「自動車用電話は,・・・自車の現在位置を推測
して上記読出手段5に自車位置を示すデータを出力する自車位置推測
手段6・・・を備えている」との記載(2頁右上欄18行ないし同左
下欄11行)によれば,乙5には,読出手段5が自車位置推測手段6
から自車位置を示すデータを入力することが開示されている。ここ
で,読出手段5のデータの入力がコンピュータにより実現されている
のは明らかである。そして,乙5の「自車位置推測手段6は,図外の
地図記憶手段に記憶された地図データと,地磁気センサおよび車輪速
センサ等の車両に設けられた各センサの実測データとに基づいて車両
の現在位置を読出す自立推測航法と,人工衛星から送信される電波を
受信し,そのデータに基づいて車両の絶対位置を読出す衛星航法とを
組み合わせることにより,自車の現在位置を高精度で推測するように
構成されている」との記載(2頁左下欄18行ないし右下欄6行)か
ら,自動車用電話が備える自車位置推測手段6は,構成要件dの「G
PS利用者装置」に相当し,また上記自車位置を示すデータは,「位
置座標データ」に相当する。
したがって,「読出手段5」は,コンピュータにより「GPS利用
者装置から位置座標データを入力」しており,「携帯コンピュータ」
が備える「位置座標データ入力手段」に相当するので,乙5には,構
成要件dが開示されている。
b自立推測航法と衛星航法(GPS)とを組み合わせた自車位置推測
手段6は,乙5の請求項1の「地図上における自車の位置を推測する
自車位置推測手段」の1実施例であって,「地図上における自車の位
置を推測する自車位置推測手段」が自立推測航法と衛星航法(GP
S)とを組み合わせた態様のみに限定されるものでない。そして,自
車の位置を推測する手段として,乙5の頒布時において,少なくとも
①衛星航法(GPS),②自立推測航法,③両航法の組み合わせの3つ
の手段があったことは技術常識である(乙21,22)。したがっ
て,当業者であれば,乙5に記載がなくとも,乙5の「地図上におけ
る自車の位置を推測する」手段の1つとして,衛星航法(GPS)
を,前記技術常識に照らして当然に導き出すことができるから,自車
位置推測手段として衛星航法(GPS)のみを用いることは,乙5に
実質的に開示されている事項であるといえる。
したがって,乙5には,構成要件dが開示されている。
(オ)構成要件eについて
乙5には,「この自動車用電話は,・・・ブラウン管ディスプレイ等
からなる表示手段2と,・・・を備えている」(2頁右上欄18行ない
し2頁左下欄11行),「表示手段2は,第2図に示すように,自動車
販売店名を表示する第1画面と,・・・第4画面とからなっている」(
2頁左下欄12行ないし16行)と記載されている。すなわち,乙5に
記載された「表示手段2」は,構成要件eの「ディスプレイ」に相当す
る。
したがって,乙5には,構成要件eが開示されている。
(カ)構成要件fについて
乙5には,「呼び出しスイッチ4の操作時点において,自車位置推測
手段6により推測された自車の現在位置に応じ,記憶手段3の記憶デー
タから最寄りの施設を検索してその電話番号を読出すように構成したた
め,・・・上記呼び出しスイッチ4を利用して最寄りの施設をワンタッ
チで自動的に呼び出すことができる。」(3頁左上欄6行ないし14
行)と記載されている。同記載によれば,自動車用電話の「読出手段
5」,「電話機本体1」等の各種制御は,手動によるものではなく,ま
た,手動では行えるものではない。そうすると,乙5に記載の自動車用
電話がCPUを備え,CPUにより当該自動車用電話の各構成を制御し
ていることは,当業者なら当然に導き出せる事項である。構成要件f
は,乙5に実質的に開示されている事項である。
したがって,乙5には,構成要件fが開示されている。
(キ)構成要件gについて
乙5には,「上記表示手段2は,第2図に示すように,自動車販売店
名を表示する第1画面と,病院名を表示する第2画面と,ガソリンスタ
ンド名を表示する第3画面と,サービス工場名を表示する第4画面とか
らなっている。また,上記呼び出しスイッチ4は,表示手段2の第1∼
第4画面に対応する第1∼第4スイッチを備えている。」(2頁左下欄
12行ないし18行)と記載され,図2の表示手段2の各画面には,自
動販売店,病院,ガソリンスタンド,サービス工場なる一覧が表示され
ている。これら一覧は,「所定の業務名を文字画像で示す」ものであ
り,またこれら一覧の1つを選択することで電話が発信されるから,「
発信先一覧」にほかならない。
そして,乙5には,「例えば上記呼び出しスイッチ4の第1スイッチ
が操作された場合に,自車位置推測手段6によって読出された自車位置
のデータに応じ,読出手段5において,記憶手段3に記憶された販売店
データから自車の現在位置に最も近い位置にある自動車販売店を検索し
てその電話番号を読出し,この電話番号データを電話機本体1に出力し
て上記販売店の電話を呼び出すようにしている。」(2頁右下7行ない
し14行)と記載されている。同記載によれば,自動販売店,病院,ガ
ソリンスタンド,サービス工場からなる「所定の業務名を文字画像で示
す発信先一覧」から選択スイッチによって選択された1つの選択項目の
名称に基づいて,現在位置から最も近い位置にあるものの電話番号を選
択することが開示されている。乙5には,構成要件gが開示されてい
る。
(ク)構成要件hについて
乙5には,「読出手段5において,・・・自車の現在位置に最も近い
位置にある自動車販売店を検索してその電話番号を読出し,この電話番
号データを電話機本体1に出力して上記販売店の電話を呼び出す」(2
頁右下欄9行ないし14行)と記載されている。電話機本体1は,読出
手段5から発信先の電話番号が入力され,電話発信を実行していると理
解されるから,乙5の「電話機本体1」は,構成要件hの「電話発信手
段」に相当する。乙5には,構成要件hが開示されている。
(ケ)構成要件iについて
乙5には,「自車の現在位置に最も近い自動車販売店もしくは病院等
の施設を自動的に呼び出して通話することができる」と記載されている
ものの(3頁右上欄12行ないし14行),発信先の施設と接続した後
で,「通話中」との文字画像をディスプレイに表示することは記載され
ていない。したがって,構成要件iの「通話中手段」は,乙5には記載
されていない(以下,この相違点を「被告ら主張の相違点1」とい
う。)。
(コ)構成要件jについて
乙5に記載の自動車用電話がCPUを備え,CPUにより,当該自動
車用電話の各構成を制御していることは,当業者なら当然に導き出せる
事項である。したがって,「上記位置座標データ入力手段と,上記選択
手段と,上記電話発信手段と」が「上記CPUによって実行される」こ
とについては,乙5に実質的に開示されている。
また,乙5に記載された自動車用電話が「携帯型」であり,かつ「コ
ミュニケータ」としての機能を備えることは,本件特許出願当時の技術
水準を参酌することにより当業者が導き出せる事項であるから,乙5に
実質的に開示されている。仮に,「携帯型」であることが乙5に開示さ
れているとはいえないとしても,乙5に記載の自動車用電話を,出願時
において既に発売されていた携帯可能型の「ショルダーホン」等の自動
車用電話と組み合わせて,「携帯型」とすることは,当業者にとって容
易に想到できる事項である。
他方,乙5には,構成要件iの「通話中手段」についての明示の記載
はないので,乙5には,「通話中手段」が,「上記CPUによって実行
される」ことについての記載はない(以下,この相違点を「被告ら主張
の相違点2」という。)。
(サ)小括
以上のとおり,本件訂正発明は,乙5において,被告ら主張の相違点
1及び2を除くすべての構成要件が開示されている。
ウ被告ら主張の相違点についての容易想到性
被告ら主張の相違点1及び2は,乙5記載の発明に,周知技術(乙2
3,24)を適用することで,当業者が容易に想到できるものである。
(ア)被告ら主張の相違点1について
乙23には,「ディスプレイ8に各種の情報を表示するようにされた
携帯電話機」が記載されている(段落【0005】,図1,図2)。そ
して,この携帯電話機においては,「相手が電話に出ると,制御回路6
の処理はステップ143からステップ144に進み,このステップ14
4において図7に示すような画面244,すなわち,相手の電話番号
と,その通話の経過時間と,それまでの通話料金と,オフフックマーク
とが,LCD8に表示される。」(段落【0024】)。ここで,ステ
ップ143は,「発呼処理」であり,ステップ144は,「通話表示」
である(図6)。また,通話表示画面244は,相手の電話番号とその
通話の経過時間を示す文字画像を含んでいる。
以上の記載から,乙23には,「電話発信処理によって電話が接続さ
れた後,相手の電話番号や経過時間等を示す文字画像をディスプレイに
表示する」発明が記載されていると認められる。ここで,携帯型の通信
機器での通話中に,ディスプレイに「通話中」という文字画像を表示す
ることは,本件特許出願時における当該分野においては周知の技術であ
る(例えば,本件特許出願時に,既に市販されていた自動車用電話MP
−301Nの取扱説明書(乙24)の22−23頁でも,「2電話機
をとる」と,「通話中」と表示され,「4終了を押す」と,「通話
中」表示が消えることが記載されている。)。
そうであれば,乙5の自動車用電話における通話の際に,乙23に記
載された上記技術的事項を適用し,電話発信処理によって電話が接続さ
れた後,相手の電話番号等を示す文字画像を表示手段2に表示させ,ま
た,その際に,上記周知技術を参酌し,相手の電話番号等を示す文字画
像に換えて(又は加えて),「通話中」という文字画像を表示させるこ
と(すなわち「通話中手段」を構成すること)は,当業者であれば容易
に想到できる事項である。
(イ)被告ら主張の相違点2について
前記のとおり,「通話中手段」を構成することは,当業者に容易に想
到できる事項である。そうであれば,乙5に記載の自動車用電話の「電
話機本体1」による通話がCPUによって制御されていることは明らか
であるから,通話中の処理である「通話中処理手段」を当該CPUで制
御することも,当業者なら容易に想到できる事項である。
エ顕著な作用効果があるとの主張に対し
原告は,本件訂正発明には乙5記載の発明にはない顕著な作用効果を奏
すると主張するが,主張自体が失当であるか,又は,乙5記載の発明等か
ら当然に得られるか,当然に予測される作用効果にすぎない。
(ア)「電話発信処理によって電話が接続されて後,通話中の文字画像を
ディスプレイに表示する構成(構成要件i)」について
乙23には,電話発信処理によって電話が接続された後,相手の電話
番号や経過時間等を示す文字画像をディスプレイに表示することが記載
されている。これにより,ユーザは,電話が接続されると,ディスプレ
イを参照して通話の相手,通話時間を確認できる。この場合,当然なが
ら,電話が通話状態となったことも確認できる。したがって,乙23に
記載の携帯電話は,「相手先に接続されたか否かについては,受話器を
耳に当てて音声信号により,現在の状態が,呼び出し中か,話し中かな
どといったことを確認する必要」はないし,「ユーザはディスプレイを
見たままの状態を維持したままで,電話の接続を確認することができ,
確実に電話が接続された場合にのみ受話器を耳に当てて相手方と会話を
始めればよいことになる」という作用効果を奏する。すなわち,原告が
主張する顕著な作用効果は,乙23に記載の技術的事項から当然に得ら
れる又は予測されるものにすぎない。
(イ)「発信先一覧と,通話中とが両方とも同一のディスプレイに文字画
像によって表示させる構成(構成要件e,g,i)」について
まず,本件特許出願時において,①ディスプレイを1つのみ備える携
帯型の通信機器が一般的であり(乙8,9,23),また,②通話に際
して,発信先一覧や通話中の情報を文字画像でディスプレイに表示する
ことは周知技術である(乙23の図7)から,原告が主張する「視認対
象の同一化と視認性状の同一化」とは,本件特許出願時における携帯型
の通信機器において,当業者によって通常行われていた手段にすぎず,
顕著な作用効果があるとはいえない。
また,乙5記載の発明に乙23に記載された技術的事項を適用した場
合,「発信先一覧」も「通話中」も表示手段2に文字画像によって表示
され,「視認対象の同一化と視認性状の同一化」がなされる。
したがって,原告が主張する顕著な作用効果は,乙5記載の発明に乙
23記載の技術的事項を適用することで,当然に得られるか,当然に予
測される作用効果にすぎないといえる。
(ウ)「業務名の発信先一覧を表示して,その一覧から項目を選択する構
成(構成要件g)」について
原告は,「業務名の発信先一覧を表示して,その一覧から項目を選択
する構成」による本件訂正発明の顕著な作用効果を縷々主張するが,当
該構成は,乙5にすべて開示されているから,原告が主張する顕著な作
用効果は,乙5記載の発明から当然に得られる又は予測されるものにす
ぎない。
(エ)「同一CPUと同一ディスプレイとによって,行われる構成(構成
要件eないし構成要件j)」について
原告は,同一のCPUと同一のディスプレイによって行われる構成を
とることにより,上記(イ)及び(ウ)を実効化していると主張する。しか
し,同一のCPUと同一のディスプレイによって行われる構成は,乙5
に周知技術を適用することで,当業者が容易に想到することができるも
のである。
また,装置における複数の処理を,1つのCPUで行うか異なるCP
Uで行うかは,処理の内容や負荷の程度等を加味して,当業者が適宜選
択できる設計事項にすぎないところ,携帯型の通信機器において,小型
化等の要請から,複数の処理を一つのCPUで行うようにすることは当
業者であれば当然に行うことである。そして,本件特許の出願時におい
て,ディスプレイを1つのみ備える携帯型の通信機器はむしろ一般的で
ある。したがって,同一CPUと同一ディスプレイとによって,行われ
る構成は,本件特許の出願時の携帯型の通信装置が通常備える構成にす
ぎないのであって,格別なものとはいえない。
(2)原告の反論
ア本件訂正発明と乙5記載の発明との対比
(ア)構成要件aについて
乙5記載の発明の「自動車電話」について「携帯可能」とする記載は
ない。そして,乙5の自動車用電話が予定しているのは「ガソリンスタ
ンド,病院若しくは自動車販売店等」の施設であり,その目的は「自動
車が走行することによって変化する自車位置に対応した最寄りの施設を
呼び出すことができる自動車電話を提供すること」である。そうであれ
ば,本件特許の出願当時に,いわゆるショルダーホンが存在していたと
しても,自動車用電話をあえて携帯可能とする必要性はないから,乙5
に構成要件aが開示されているとはいえない。
(イ)構成要件cについて
乙5には,「呼び出して通話する」に至る処理がCPUにより実行さ
れていることの記載はあるが,公衆通信回線(電話回線)を通じてデジ
タル制御信号が送受信されることまで記載も示唆もないし,本件特許の
出願当時の技術水準からして技術常識であるともいえない。したがっ
て,乙5に構成要件cが開示されているとはいえない。
(ウ)構成要件dの「GPS利用者装置」について
乙5には,「地磁気センサ及び車輪速センサ等の車両に設けられた各
センサの実測データとに基づいて車両の現在位置を読み出す自立推測航
法と,人工衛星から送信される電波を受信し,そのデータに基づいて車
両の絶対位置を読み出す衛星航法とを組み合わせることにより,自車の
現在位置を高精度で推測するように構成されている」構成が記載されて
いるにすぎず,自車位置推測手段として衛星航法(GPS)のみを用い
ることが乙5に記載されているとはいえない。
(エ)構成要件gについて
本件訂正発明は,乙5記載の発明のように運転者が電話発信先に行く
ことを便利にしたり瞬間操作を便利にする技術というよりは,コンビニ
エンスストア,銀行,駐車場といった業務を含めて日常生活で連絡をし
たり注文をしたりなどの使用法に便利に使えることが求められ,あらゆ
る業務名の中から所望の業務名を選択することができることで利便性が
著しく向上する。
したがって,乙5には構成要件gの「上記ディスプレイに表示された
所定の業務名を文字画像で示す発信先一覧から選択された選択項目の名
称に基づき」との構成は開示されていない。
イ被告ら主張の相違点についての容易想到性に対し
以下の理由により,乙5記載の発明及び乙23,24記載の技術的事項
から本件訂正発明を容易に想到することはできない。
(ア)本件訂正発明の「通話中」の文字画像をディスプレイに表示するこ
とは,選択手段と電話発信手段とを経由後,電話が接続される特有の構
成であり,同構成により有効な機能を発揮することができる。これに対
し,仮に乙5記載の自動車電話に乙23,24記載の技術的事項を組み
合わせたとしても,表示手段2に「通話中」の文字を表示させる構成に
はならず,受話器に「通話中」の表示がされるだけである。そうであれ
ば,表示画面2を見ながら操作していたユーザが必ずしも受話器の表示
に気付くとは限らず,本件訂正発明の構成及び効果は得られない。
したがって,乙5記載の発明に乙23,24記載の技術的事項を組み
合わせたとしても,本件訂正発明の構成及び効果も得られないことか
ら,両者の組合せの動機付けは存在しない。
(イ)乙5記載の発明では,公衆通信回線を介して電話機本体からデジタ
ル信号を入力する構成を備えておらず,表示手段2に通話中の表示をす
ることはできない。したがって,乙5の表示手段2に「通話中」の文字
表示をする構成を組み合わせることは技術的に不可能である。
また,乙5記載の発明の目的は,「自動車が走行することによって変
化する自車位置に対応した最寄りの施設を呼び出すことができる自動車
電話を提供すること」にあるから,車両の走行時に利用することが予定
されている自動車用電話については,ディスプレイの表示を見ながら操
作をするということは予定されておらず,むしろそのような表示をする
こと自体,危険であることから回避される。
以上により,乙5記載の発明に乙23,24記載の技術的事項を組み
合わせることにつき阻害事由が存在する。
ウ顕著な作用効果の存在
本件訂正発明は,乙5記載の発明にない独自の構成を備えることにより
顕著な作用効果を奏するので,乙5記載の発明から容易に想到し得るもの
ではない。
(ア)電話発信処理によって電話が接続されて後,通話中の文字画像をデ
ィスプレイに表示する構成(構成要件i)
本件訂正発明の構成要件iによれば,電話が接続されて後,通話中の
文字画面がディスプレイに表示される。すなわち従来の電話機では,相
手先に接続されたか否かについては,受話器を耳にあてて音声信号によ
り,現在の状態が,呼出中か,話中かなどといったことを確認する必要
があった。しかし,本件訂正発明によれば,電話が接続されると通話中
の文字画面がディスプレイに表示されるため,ユーザはディスプレイだ
けを参照して電話が通話状態となったか否かを確認できる。そのため,
受話器を耳にあてて,現在の通話状態がどのようなものであるかを逐一
確認する必要がなくなる。このことによりユーザはディスプレイを見た
ままの状態を維持しながら,電話の接続を確認することができ,確実に
電話が接続された場合にのみ受話器を耳に当てて相手方と会話を始めれ
ばよいことになる。この点は特に,携帯型コミュニケータにあっては,
山間部,ビルの影,地下など無線電波が届きにくい場合も想定され,電
波状態も含めて電話が接続されたことを確認できるため,ユーザにとっ
ては利便性がよい。
したがって,本件訂正発明の構成要件iの構成により,従来の電話機
では得られない格段に向上した操作性が得られるという顕著な作用効果
を奏する。
(イ)発信先一覧と,通話中とが両方とも同一のディスプレイに文字画像
によって表示される構成(構成要件e,g,i)
本件訂正発明によれば,発信先一覧と,通話中とが両方とも同一のデ
ィスプレイに文字画像によって表示されるという独自の構成を備えるこ
とにより顕著な作用効果を奏する。すなわち外出先で手軽に使用するこ
とが予定されている携帯型コミュニケータでは,ディスプレイに注視す
ることなく正確に情報を認識することができる機能が必要とされてい
る。このためには,視認対象の同一化と視認性状の同一化とが有効であ
り,特に一連の処理においては,より一層重要である。例えば,発信先
一覧の表示と,通話中の表示とが相違するディスプレイである場合に
は,発信先一覧を見て,業務の名称を選択するという相当の注視を要す
る作業の後に,通話中の表示が行われているディスプレイを探さなけれ
ばならず,現実的に見ることを阻害する要因になる。また,発信先一覧
が文字画像で通話中の表示がランプの点灯である場合,あるいは他の図
形である場合には,発信先一覧を選択した結果としての通話中であるこ
とを常に認識できるとは限らない。例えば,通話中であることを認識で
きたとしても,それが発信先一覧を選択した結果なのか,その他の要因
にる通話中なのかを認識できず,予期しない操作の結果で通話中になっ
たと誤解して,操作を繰り返す無駄が生じる。
本件訂正発明の構成によれば,視認対象の同一化と視認性状の同一化
とが図られているため,発信先一覧を選択した結果として通話中である
ことを認識でき,携帯型コミュニケータとして理想的な使用環境を提供
することができるという顕著な作用効果がある。
(ウ)業務名の発信先一覧を表示して,その一覧から項目を選択する構
成(構成要件g)
業務名を直接ディスプレイに表示してその項目を選択する操作を必須
とすることにより,外出先で手軽に使用する携帯型コミュニケータとし
て理想的な使用環境を提供することができる。例えば,タクシーなどの
業務の名称の一覧を選択する操作がない場合に,タクシーを選択すると
したら,○○交通××営業所というような発信先の一覧を最初に選択す
ることになる。この様な発信先を選択することは大画面を利用すること
が可能で,ディスプレイを注視して操作することが可能なカーナビやパ
ソコンならば,細部のタクシーなどの説明を読んで,それから発信を選
択することができるので,それ程の困難性はないが,携帯型コミュニケ
ータでは,ディスプレイが小さく表示文字数や文字フォントに制限があ
り,手持ちで不安定なディスプレイ位置で使用することで,視力の低下
がある動体視力下での使用の考慮や,緊急時などで一瞬での使用を考慮
しなければならず,利便性が著しく低下して,現実的ではない。
この点,本件訂正発明の業務名の発信先一覧を表示して,その一覧か
ら項目を選択する構成は,ディスプレイが小さく表示文字数や文字フォ
ントに制限があり,手持ちで不安定なディスプレイ位置で使用すること
で,視力の低下がある動体視力下での使用や,緊急時などで一瞬での使
用の場合でも,最善の使用環境を提供するという顕著な作用効果を得る
ことができる。
(エ)同一CPUと同一ディスプレイとによって,行われる構成(構成要
件eないし構成要件j)
前記(イ)と(ウ)の構成を得るには,同一CPUによる各種手段の実行
の結果,同一ディスプレイに各種の表示を行うことが必須であり,異な
るCPUで,異なるディスプレイに表示を行う装置では,前記(イ)と(
ウ)の構成の提供はできない。本件訂正発明の構成によれば,同一CP
Uと同一ディスプレイによって行われる構成を採ることにより,前記(
イ)及び(ウ)を実効化している。
8争点4(損害の発生及び数額)
(1)原告の主張
ア被告は,被告製品についてこれまでに少なくとも2万個を販売し,その
単価は3万4440円を下らないため,被告製品の総売上額は,6億88
00万円を下らない。
イ原告が本件特許権の実施に対し受けるべき実施料相当額は,被告製品の
総売上額に対して5%の割合を乗じた金額である3440万円を下らな
い。
(2)被告らの主張
原告の主張はすべて否認する。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,被告製品は本件訂正発明の構成要件gの「選択手段」を具備せ
ず,また,被告製品は,本件訂正発明の均等物ではないと判断する。その理由
は,以下のとおりである。
1争点1イ(被告製品は,構成要件gの「選択手段」を具備するか)について
(1)特許請求の範囲の記載
本件訂正発明の特許請求の範囲には,「上記携帯コンピュータは,・・・
上記ディスプレイに表示された所定の業務名を文字画像で示す発信先一覧か
ら選択された選択項目の名称に基づき,上記位置座標データ入力手段の位置
座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中
から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段と,・・・を
備え」と記載されている。上記特許請求の範囲の記載によれば,「選択」
は,「所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に
最も近いものの発信先番号」を対象としているが,「所定の業務を行う複数
の個人,会社あるいは官庁」の発信先番号等の情報取得態様及び選択態様に
ついて,必ずしも明確であるとはいえない。そこで,本件訂正明細書の発明
の詳細な説明を参酌する。
(2)発明の詳細な説明の記載
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
【0002】【従来の技術】従来,携帯型の情報装置として,無線呼出装置
や無線電話装置,あるいはGPS利用者装置が用いられている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来の情報装置
では,無線電話装置と,携帯型コンピュータと,GPS利用者装置とを持
ち歩けば,個々の機能を活用することは可能であるが,全てを携帯するこ
とが現実的ではなく,かつ相互を組み合わせてそれらを複合した機能を得
ることができなかった。
【0005】本発明は,上記の問題を解決して,これらの個々の機能を複合
させた機能を,実用的に得ることを目的とする。
【0020】【実施例】次に本発明の実施例を説明する。・・・パーソナル
コミュニケータ1は,・・・本体5と,無線電話装置7と,GPS利用者
装置8とを備えている。
【0022】無線電話装置7と,本体5とは,収容箱21に収容されてい
る。収容箱21には,CPU23と,・・・EPROMコネクタ76・・
・とが備えられている。
【0023】・・・EPROMコネクタ76には,地図データROM96が
差し込まれる。・・・地図データROM96は,道路地図や地名,施設名
などの地図データと,公的施設の住所や電話番号などの地図関連データと
を備えている。例えば,JAF等のロードサービスや,タクシ,警察署な
どの住所,位置座標,電話番号などの地図関連データを備えている。電話
番号は,1の名称に対して,課毎や要件先毎に複数登録されている。
【0041】図9は,コミュニケータ制御処理ルーチンのフローチャート・
・・である。コミュニケータ制御処理ルーチンは,オンスイッチ17から
オン信号が出力されたときCPU23によって起動され・・・る。
【0064】図20は,電話処理ルーチンのフローチャート・・・である。
【0065】電話処理が起動されると,まず電話メニュー画面の表示が行わ
れる(S1000)。電話メニュー画面は,・・・発信選択領域243とを
備えている。・・・発信選択領域243には,発信先選択(次ページ)表示
251・・・が設けられて・・・いる。
【0066】ここで,発信先選択(次ページ)表示251の次ページ表示25
1Aを選択すると,図22に示す電話メニュー画面に変更される。この電
話メニュー画面には,・・・最寄発信表示265と,発信先一覧266・
・・が設けられている。
【0067】電話メニュー画面の表示後,次に判断を行う(S1010)。判
断では,何れかの発信先名257が選択されたか,設定表示245が選択
されたか,留守録表示247が選択されたか,中止表示249が選択され
たか,何れかの最寄り発信先が選択されたか,何れかの緊急発信先が選択
されたかを判断する。
【0069】S1010の判断で,最寄発信が選択された場合には,最寄発
信処理が行われる(S1031)。最寄発信処理とは,発信先一覧266の
中から,何れかの発信先が選択された場合に実行される処理のことであ
る。この処理では,まず,現在位置の座標NEを入力し,次いで最寄りの
発信先の名称を入力する。例えば,名称としては,「1JAF」表示26
6Aを入力する。
【0070】次いで,この現在位置から最も近い選択項目の名称の電話番号
を地図データROM96から入力する。地図データROM96から読み込
んだ電話番号が複数の場合,例えば「○○警察署の受付○○番,交通課○
○番,防犯課○○番など」の場合には,図22に示す電話メニュー画面に
選択枠266Bが表示される。選択枠266Bには,選択一覧266C
と,次ページ表示266Dと,削除表示266Eと,実行表示266Fと
が設けられている。選択一覧266Cには,「1受付○○番」などのよ
うに表示される。
【0072】最寄発信処理(S1031),又は緊急発信処理(S103
2)の処理後,電話発信処理を実行する(S1030)。この電話発信処
理では,速やかに設定された電話番号の発信を行う。これにより,最寄り
の発信先,又は緊急発信先に電話が接続される。
【0074】通話先名称表示269Aは,現在電話が接続されている先方の
名称を表示するものである。これを表示するためのデータは,発信先名2
57を表示するために用いられたデータや地図データROM96から読み
込まれたデータである。通話先機器表示269Bは,現在電話中の先方の
機器がコミュニケータの○形であると表示するものであって,所定の規則
に則って,先方との間でデータ交換されることにより,表示される。
【0077】地理アナウンス処理は(S1035),現在位置の地理をアナ
ウンスするものである。この処理では,まず,現在位置の座標NEを,入
力する。次いで,現在位置の地図データを地図データROM96から読み
込む。次に,現在位置の地理的特徴を抽出する。ここでは,地名のデー
タ,公的施設からの距離と方向,国道,県道などの案内標識の位置と,案
内標識からの距離,方向を読み込む。
【0104】・・・以上に説明したデータ処理により,先方のコンピュータ
に直接データを送信したり,先方から送られてきたデータを表示したりす
ることができる。
【0135】これにより,緊急時に,電話通話に現在位置の付近の特徴を具
体的に示した道案内を行うアナウンスが行われ,利便性が高い情報交換装
置が得られるという極めて優れた効果を奏する。請求項2および請求項5
は,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に
最も近いものの発信先番号を選択し,その発信先と通信することができ
る。
【0136】これにより,最寄りの発信先や緊急発信先に電話が接続される
ことから,実際に役に立つ相手に電話が接続され,利便性が高い情報交換
装置が得られるという極めて優れた効果を奏する。
(3)「選択手段」の意義について
以上によれば,本件訂正発明は,従来の無線電話装置と,携帯型コンピュ
ータとGPS利用者装置とをすべて携帯することができず,かつ相互を組み
合わせてそれらを複合した機能を得ることができないとの課題を解決するた
めに,複合した機能を,実用的に得ることを目的とするものである。そうす
ると,本件訂正発明は,携帯型の情報装置がこれらの装置の機能を複合させ
た機能を有することに特徴があり,機能の一部を他のサーバ等に置くことを
想定したものということはできない。
そして,前記認定の本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれ
ば,「携帯型コミュニケータ」は,CPUを備えた携帯コンピュータと無線
電話装置とGPS利用者装置とを備えるとともに,地図情報を備えた地図デ
ータROMが接続されており,CPUにより実行される最寄発信処理におい
ては,まず,現在位置の座標と発信先の名称が入力され,次に,地図データ
ROMから現在位置から最も近い発信先番号を選択する処理を行い,それ
は,現在位置の座標と地図データROMから読み込まれた地図情報とに基づ
いて選択しているものと認められる。したがって,「選択手段」による「発
信先番号の選択」は,携帯コンピュータのCPUが,携帯型コミュニケータ
自体で取得できるデータを用いて,発信先番号の選択に係る処理を実行する
ことを指すと解するのが相当である。
(4)被告製品の「選択手段」の充足性
ア被告製品の構成は,別紙被告製品説明書に記載のとおりである(争いの
ない事実)。このうち,構成要件gの「選択手段」に対応する部分は,次
のとおりである。
「(1)現在地の地図の表示のフロー
①「NAVITIME」のメニュー画面が表示されている状態で,
ユーザは「現在地(GPS)」を選択する。
②CPUは,被告製品の現在位置情報を取得する。
③CPUは,取得した現在位置情報をナビタイムサーバに送信する。
④ナビタイムサーバは,受信した現在位置情報に基づいて現在位置
を中心とする所定範囲の地図画面データを作成し,被告製品に対し
送信する。
⑤CPUは,受信した地図画面データをディスプレイに表示する。
(2)周辺スポット検索のフロー
Aユーザが,地図画面においてセンターボタンを押下することによ
って表示されるメニュー画面で「ナビゲーションメニュー」を選択
し,さらに「周辺スポット検索」を選択すると,
①CPUはその時点で取得されている現在位置情報とユーザの選
択内容をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,現在位置情報に応じた現在位置周辺の施
設をカテゴリー別に検索することができるカテゴリー選択画面デ
ータを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは②で受信したカテゴリー選択画面を表示する。
Bユーザがカテゴリー選択画面で,施設種類を選択すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザの選択内容をナビタイム
サーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,サーバの有するデータベースにより,前
記現在位置情報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)
の正方形エリア内に存在する施設について,前記現在位置との直
線距離をそれぞれ計算し,施設の名称及び距離数を距離の近い順
に表示したリスト画面データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは受信した施設のリスト画面データを画面表示する。
Cユーザが施設のリスト画面の中から特定の施設を指定すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザが指定した施設を特定す
る情報をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,指定された特定の施設の詳細情報(名
称,電話番号,住所)の表示並びに現在地から当該施設へのルー
ト地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等へのリンク
からなる画面データをデータベースに基づいて作成し,被告製品
に送信する。
③CPUは受信した当該施設の詳細情報を含む画面データを画面
表示する。
Dユーザが当該施設に電話をかける場合,
①ユーザが詳細情報の中から「電話番号」を指定すると,当該施
設の電話番号が通常の形式でディスプレイに表示される。
②ユーザの発信ボタン押下により,CPUは,通常の電話処理動
作に入り,表示されている電話番号に対し電話接続処理を行う。
③通話が終了すると,当該施設の詳細情報表示画面に戻る。」
イ上記認定によれば,
(ア)被告製品のCPUは,
「(1)②現在位置情報の取得,
(1)③現在位置情報のナビタイムサーバへの送信,
(1)⑤ナビタイムサーバから受信した地図画面データのディスプレイへ
の表示,
(2)A①現在位置情報とユーザの選択内容のナビタイムサーバへの送
信,
(2)A③ナビタイムサーバから受信したカテゴリー選択画面の表示,
(2)B①現在位置情報とユーザの選択内容のナビタイムサーバへの送
信,
(2)B③ナビタイムサーバから受信した施設のリスト画面データの画面
表示,
(2)C①現在位置情報とユーザが指定した施設を特定する情報のナビタ
イムサーバへの送信,
(2)C③ナビタイムサーバから受信した画面データの画面表示,
(2)D①電話番号のディスプレイ表示,
(2)D②電話接続処理」
など,現在位置情報及びユーザの選択内容の送信並びにナビタイムサー
バからの画面データの受信及びその表示と電話接続に関係する処理を実
行している。
(イ)他方,ナビタイム社が所有,運営するナビタイムサーバは,
「(1)④CPUから受信した現在位置情報に基づいて現在位置を中心とす
る所定範囲の地図画面データを作成して被告製品に対し送信し,
(2)A②現在位置情報に応じた現在位置周辺の施設をカテゴリー別に検
索することができるカテゴリー選択画面データを作成して被告製品に
送信し,
(2)B②ナビタイムサーバが有するデータベースに基いて,現在位置情
報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)の正方形エリア内
に存在する施設について,現在位置との直線距離をそれぞれ計算し,
施設の名称及び距離数を距離の近い順に表示したリスト画面データを
作成して被告製品に送信し,
(2)C②ナビタイムサーバが有するデータベースに基づいて,施設の詳
細情報(名称,電話番号,住所)の表示並びに現在地から当該施設への
ルート地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等へのリンク
からなる画面データを作成して被告製品に送信し」
ている。
すなわち,現在位置に最も近い施設を含む施設及びその電話番号の検
索並びにその検索結果たるリストの作成は,データベースを有するナビ
タイムサーバが実行している。
ウ以上からすると,被告製品においては,専らナビタイムサーバが,その
データベースを用いてディスプレイに表示される発信先番号の「選択」に
係る検索処理を実行しており,被告製品は,地図情報も備えておらず,構
成要件gの「選択手段」に相当する検索処理を実行することなく,単に,
施設カテゴリーの選択及び現在位置情報の送信と検索結果の取得のみを行
っている。
したがって,被告製品は,構成要件gの「選択手段」を具備するもので
はなく,同構成要件を充足しない。
(5)原告の主張に対し
ア構成要件gの「選択手段」の意義についての原告の主張について
(ア)原告は,構成要件gは,どのメモリ領域から電話番号を選択すべき
かについて何らの限定も付していないから,ネットワークのいずれの記
憶領域であっても,同構成を充足する旨主張する。
しかし,構成要件gは,前記のとおり,携帯コンピュータのCPU
が,携帯型コミュニケータ自体で取得できるデータを用いて,発信先番
号の選択に係る処理を実行する技術を提供するものであるから,これを
外部のコンピュータにデータ処理を指令して,これが送り返される態様
を含むものではない。したがって,原告の主張は,理由がない。
(イ)原告は,本件訂正明細書の段落【0074】,【0104】の記載
には,構成要件gでは,先方のコンピュータにデータを処理を指令して
これが送り返される技術が開示されていると主張する。しかし,原告が
指摘する本件訂正明細書の段落【0074】,【0104】の記載は,
電話が接続されている相手方との間でデータ交換をするというにすぎ
ず,一方のCPUで行うべき処理を接続先のコンピュータに命令して実
行させ,その結果を得るとの技術事項は記載されていない。また,上記
【0074】,【0104】の記載は,構成要件gの「選択手段」に関
する記載ではなく,前記認定の本件訂正明細書の記載に他の通信装置に
指令を送りデータを受け取る場合についての記載や示唆は認められな
い。原告の上記主張は理由がない。
イ被告製品の構成要件gの充足性に係る原告の主張について
(ア)原告は,被告製品のCPUが現在位置に最も近いものの発信先番号
を選択するための指令を発しない限り,ナビタイムサーバがこれに該当
するデータを送信することはあり得ないから,最も近い「コンビニ」を
選択しているのは,被告製品のCPUであると解するのが相当である旨
主張する。
しかし,上記のとおり,「選択手段」による「発信先番号の選択」と
は,現在位置の位置座標データに基づいて最も近い施設を選択し,それ
と関連付けて記憶されている同施設の発信先番号を取り出すことであっ
て,処理を他のコンピュータに指令することを含まないと理解すべきで
ある。そして,被告製品のCPUは,そのような処理をすることなく,
単にその前提となる現在位置情報とユーザの選択内容を外部のナビタイ
ムサーバに送信して,その結果であるナビタイムサーバが作成した画面
データを受信しているにすぎないから,被告製品のCPUは,選択に係
る検索処理に関与しているとはいえない。原告の上記主張は,採用する
ことができない。
(イ)原告は,被告製品にあっては,地図データが膨大となる等の理由で
遠隔地にあるサーバに記憶されているデータを読み出しているにすぎな
いのであって,筐体内部のメモリや外付けのSDカードに記憶させる場
合と実質的に相違がない旨主張する。
しかし,被告製品にあっては,ナビタイムサーバの地図データが利用
されているだけではなく,その検索処理についても,被告製品のCPU
ではなくナビタイムサーバが行っているのであって,単に地図データを
外部のサーバから取得する態様とは異なる。したがって,原告の主張は
その前提において誤りがあり,採用できない。
2争点2(構成要件gの均等の成否)について
原告は,被告製品のCPUにより実行される処理が「選択手段」に該当しな
いとしても,同処理は,構成要件gの「選択手段」と均等である旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
(1)置換可能性の有無について
本件訂正発明は,従来技術において,無線電話装置と携帯型コンピュータ
とGPS利用者装置とをすべてを携帯することができず,かつ相互を組み合
わせてそれらを複合した機能を得ることができないという課題を解決するた
めに,それらを複合した機能を,実用的に得ることを目的としたものであ
る。本件訂正発明は,上記の解決手段として,「携帯コミュニケータ」の「
携帯コンピュータ」が,「位置座標データ入力手段の位置座標データに従っ
て,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最
も近いものの発信先番号を選択する選択手段」によって,発信先番号の選択
に係る処理を実行することとしたものである。
これに対して,被告製品は,ナビタイムサーバがそのデータベースを用い
て検索処理を実行するものであり,被告製品は,ナビタイムサーバに現在位
置情報と施設カテゴリーの選択内容を送信することにより,ナビタイムサー
バから検索結果として施設の情報を取得し,通信を行うものである。
したがって,本件訂正発明における「携帯コンピュータ」が,「位置座標
データ入力手段の位置座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,
会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する
選択手段」との構成を被告製品における上記処理手段に置換することは,解
決課題及び解決原理が異なるから,置換可能性はないものというべきであ
る。
(2)本質的部分か否かについて
乙5(前記第3,7(1)ア)によれば,自動車電話において,GPS装置
を利用して現在位置に最も近い施設を検索して選択することは公知であると
認められる。したがって,乙5の開示内容と対比するならば,本件訂正発明
においては,構成要件gの「携帯コンピュータ」が「・・・上記位置座標デ
ータ入力手段の位置座標データに従って,所定の業務を行う複数の個人,会
社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選
択手段」を有することが,本件訂正発明の本質的部分であるといえる。
被告製品は,ナビタイムサーバが,ナビタイムサーバのデータベースを用
いて検索処理を実行するものであって,上記の構成を具備しない点において
相違する。被告製品における本件訂正発明との異なる構成部分は,本件訂正
発明の本質的部分における相違であるというべきである。
(3)したがって,原告の均等に係る主張は,理由がない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,本件
控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸
(別紙)
物件目録
携帯電話無線機
商品名SoftBank921T
製造元株式会社東芝
(別紙)
被告製品説明書
1被告製品の型名
Softbank921T
2被告製品の概要ブロック図
被告製品は本件に関係する範囲で,第1図のブロック図に示すように,下記の
(1)ないし(9)の構成要素を含む構造を有している。
(1)デジタルベースバンドプロセッサ(以下「CPU」という。)
被告製品の種々の動作を行うマイクロプロセッサである。
(2)メモリ
「NAVITIME」「S!GPSナビ」「Gガイドモバイル」「TVアプ
リ」などのCPUが実行できるアプリケーション(以下「アプリ」という。)の
コンピュータプログラムを格納している記憶装置である。
(3)無線部
携帯電話の無線通信を行うブロックで,内蔵アンテナを有し,受信部と送信
部からなる。受信部はアンテナで受信した信号を共用器を介して受け取り,復
調し,受信データとしてCPUに送る。送信部は,CPUから受け取った送信
データを変調し,共用器を介してアンテナから近隣の基地局に送信する。
(4)電源ASIC
被告製品に内蔵された電池の電源を制御して被告製品内の各部に電力を供給
するICである。
(5)操作ボタン部
電源ボタンのほか,ユーザがメニュー画面で選択を行うためのボタンなど,
様々な機能をユーザが選択,実行するためのボタンが配置されている。
(6)GPS受信専用回路
内蔵GPSアンテナにより,3ないし4個のGPS衛星から,衛星の位置を
示す信号と同信号の発信時刻を示すデータを受信し,受信した衛星の位置及び
発信時刻データをCPUに出力する回路である。
(7)マルチメディア処理IC
ディスプレイに表示する画像データを生成,制御するICである。電源ボタ
ンの押下によって,マルチメディア処理ICは電源供給状態となり,ディスプ
レイに待受画面を表示させる。
(8)ディスプレイ
マルチメディア処理ICによって生成,制御される画像を表示する有機EL
ディスプレイである。
(9)TV用受信アンテナ,地デジチューナ
TV用受信アンテナはワンセグTV放送を送信している各放送局からの電波
を受信する。地デジチューナはこれらの電波の中から,指定されたチャンネル
の所定の搬送周波数に基づいて,同チャンネルの放送波のみを抽出し,次い
で,抽出された放送波を復調して(抽出された放送波から搬送波の高周波成分
を除去して),ビデオ,オーディオ信号等からなるデジタル放送信号を取り出
し,マルチメディア処理ICに送る。
3被告製品の基本諸動作の説明
(1)操作ボタン部の電源ボタンにより電源ONした時の被告製品の動作状態
ユーザが操作ボタン部の電源ボタンを押下すると,被告製品に内蔵された電
池の電源が電源ASICと結合され,電源ASICからCPUに電源が供給さ
れる。次いで,CPUの制御の下で,無線部,操作ボタン部,マルチメディア
処理IC,ディスプレイに電源が供給され,これらが動作可能な状態となる。
すなわち,CPUは無線部を起動して携帯無線通信を受信可能な状態とすると
ともに,所定の待受画面をディスプレイに表示させ,ユーザがさらに操作ボタ
ン等により操作をするまで待機状態となる。
(2)アプリの実行
ユーザがメニュー画面から所望のアプリを選択すると,CPUはメモリから
該当するアプリのコンピュータプログラムを読み込んで,当該アプリが終了す
るまで,CPUと当該アプリのプログラムの協働により諸動作を行う。
(3)インターネットを介したサーバとの通信
「NAVITIME」「Gガイドモバイル」などのアプリでは,後に詳述す
るように,被告製品が,それらのアプリを提供するコンテンツプロバイダのサ
ーバと,インターネットを介して通信をする場合がある。
ア被告製品からサーバへの送信
被告製品からデータやコマンドをサーバに送信する場合は,被告製品の無
線部から携帯電話の無線通信手順に従って自動的に近隣に所在する被告(ソ
フトバンクモバイル)の基地局に送信し,基地局から被告のネットワークを
経由してインターネットで所定のサーバに送信をする。
イサーバから被告製品への送信
サーバは被告製品から受信したデータやコマンドに応答して,所定のデー
タを被告製品に向けて送信する。その場合は,サーバから被告のネットワー
クまでインターネットで送信し,その時被告製品が所在する位置の近隣の基
地局から被告製品の無線部までは携帯電話の無線通信で送信される。
4ユーザがメインメニュー画面から順次「ツール」「S!GPSナビ」を選択し
た時の動作
被告製品には,GPSに関連して,「S!GPSナビ」と「NAVITIM
E」の2種類のアプリがある。ユーザがメインメニュー画面から順次「ツー
ル」「S!GPSナビ」を選択し,さらに「現在地地図」を選択すると,CPU
は,「NAVITIME」アプリを起動し,その後の処理は「NAVITIM
E」アプリに移行する。
5ユーザがメインメニュー画面から順次「S!アプリ」「S!アプリライブラ
リ」「NAVITIME」を選択した時の動作
ユーザがメインメニュー画面から順次「S!アプリ」「S!アプリライブラ
リ」「NAVITIME」を選択すると,CPUは「NAVITIME」アプリ
を起動し,メモリに格納されている「NAVITIME」アプリのプログラムを
読み出し,実行する。
ユーザが「NAVITIME」アプリのメニュー画面において「現在地(GP
S)」を選択した時に現在地の地図が表示されるフローと,さらにユーザが現在
地の地図に基づいてメニューから「周辺スポット検索」を選択した時のフローの
概要は以下のとおりである(第2図フローチャート参照。なお,第2図のフロー
チャートには,下記の説明に含まれていない,実際の被告製品の操作に即したプ
ロセスも記載されている。)。
(1)現在地の地図の表示のフロー
①「NAVITIME」のメニュー画面が表示されている状態で,ユーザ
は「現在地(GPS)」を選択する。
②CPUは,GPS受信専用回路から,3個以上のGPS衛星が送信した
GPS衛星の位置及び信号発信時刻のデータを入力し,その入力に応答し
て信号到達時刻データを生成した上で,これらの衛星の位置,信号発信時
刻及び信号到達時刻の各データに基づいて演算を行うことにより,被告製
品の現在位置の緯度経度情報(「現在位置情報」)を取得する。
③CPUは,取得した現在位置情報をナビタイムジャパン株式会社の所
有,運営するサーバ(以下「ナビタイムサーバ」という。)に送信する。
④ナビタイムサーバは,受信した現在位置情報に基づいて現在位置を中心
とする所定範囲の地図画面データを作成し,被告製品に対し送信する。
⑤CPUは,受信した地図画面データをディスプレイに表示する。
⑥その後,ユーザの移動により被告製品の現在位置が変更した場合は,C
PUは新しいGPS衛星の位置と発信時刻データを受け取って,更新され
た現在位置情報を演算し,ナビタイムサーバに送信し,ナビタイムサーバ
は地図画面データを更新して被告製品に送信し,CPUは現在地の地図の
表示を更新する。
(2)周辺スポット検索のフロー
Aユーザが,地図画面においてセンターボタンを押下することによって表
示されるメニュー画面で「ナビゲーションメニュー」を選択し,さらに「
周辺スポット検索」を選択すると,
①CPUはその時点で取得されている現在位置情報とユーザの選択内容
(「周辺スポット検索」)をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,現在位置情報に応じた現在位置周辺の施設をカ
テゴリー別に検索することができるメニュー画面(以下「カテゴリー選
択画面」という。)データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは②で受信したカテゴリー選択画面を表示する。
Bユーザがカテゴリー選択画面で,施設種類(例えば「コンビニ」)を選択
すると,
①CPUは,前記現在位置情報(ユーザが周辺スポット検索操作中に移
動しても,周辺スポット検索で用いられる現在位置情報は更新されな
い。)とユーザの選択内容(コンビニ)をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,サーバの有するデータベースにより,前記現在
位置情報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)の正方形エリ
ア内に存在する施設(コンビニ)について,前記現在位置との直線距離を
それぞれ計算し,施設(コンビニ)の名称及び距離数を距離の近い順に表
示したリスト画面データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは受信した施設(コンビニ)のリスト画面データを画面表示す
る。
Cユーザが施設(コンビニ)のリスト画面(最も近い施設が反転表示された
状態である。)の中からある施設(最も近い施設であることもあるが,それ
に限られない)を指定すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザが指定したある施設(あるコン
ビニ)を特定する情報をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,指定された当該施設(当該コンビニ)の詳細情報
(名称,電話番号,住所)の表示,並びに,現在地から当該施設(当該コ
ンビニ)へのルート地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等
へのリンクからなる画面データをデータベースに基づいて作成し,被告
製品に送信する。
③CPUは受信した当該施設(当該コンビニ)の詳細情報を含む画面デー
タを画面表示する。
Dユーザが当該施設(当該コンビニ)に電話をかける場合,
①ユーザが詳細情報の中から「電話番号」(反転表示された状態であ
る。)を指定すると,当該施設(当該コンビニ)の電話番号が通常の形式
でディスプレイに表示される。
②ユーザの発信ボタン押下により,CPUは,通常の電話処理動作に入
り,表示されている電話番号に対し電話接続処理を行う。
③通話が終了すると,当該施設(当該コンビニ)の詳細情報表示画面に戻
る。
6図面の説明
第1図被告製品のブロック図
第2図「NAVITIME」のフロー概要
以上
(別紙)

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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