弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主        文
       本件控訴を棄却する。
       控訴費用は,控訴人の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,91万円及びこれに対する平成12年11月10
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被控訴人
   控訴棄却
第2 事案の概要
 1 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,「控訴人の提起した選挙無効訴訟の上告
審の審理は,上告提起から770日の長期間に及んだ。これは最高裁判所裁判官が
ことさらに訴訟を遅延させたものというべきであって,公職選挙法上のいわゆる百日
裁判の規定に違反するとともに,控訴人の裁判を受ける権利を侵害する違法な行為
である。これにより控訴人は多大の精神的苦痛を被った。」として,国家賠償法1条1
項に基づいて,損害金91万円とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案であ
る。
原判決は,控訴人の請求を棄却したので,これに対し,控訴人が不服を申し立てた
ものである。
 2 以上のほかの事案の概要は,次に記載するほか,原判決の該当欄記載のとお
りであるから,これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
 原判決は,裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法
な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには,当該裁判官
が,違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の
趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合で
あることを要するとし,本件において上記の特別の事情があるとは認め難いと認定し
た。
 しかし,本件における事実関係からすると,最高裁判所裁判官がその付与された権
限の趣旨に明らかに背いて訴訟を遅延させ,控訴人の訴えの利益を失わしめ,控訴
人の本案判決を受ける権利を侵害したという特別の事情がある。
 原判決の判断は,公職選挙法213条1項の百日裁判の趣旨に沿わないものであ
る。また,昨今の司法改革,裁判の迅速化の流れに逆行するものである。2年以上の
長期間を要しても合法であるなどということはできない。最高裁判所長官及び第二小
法廷裁判長の証人尋問なくして,本件における審理の適正は図れない。このような
審理を経ない原審の訴訟手続には,法令違反があるというべきである。
第3 当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとお
りである。
 2事実の経過
 証拠(甲1,2,4,5,7,9,11,12,13,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件の事実の経過として,次の各事実を認めることができる。
  (1) 控訴人は,平成10年3月29日に施行された衆議院小選挙区(東京都第4
区)の衆議院議員補欠選挙に,無所属候補として立候補したが,落選した。
  (2) 控訴人は,平成10年4月28日,前記選挙において政党候補との間で選挙
活動上著しい差別を受けたとして,前記選挙区の選挙人であるAとともに,東京都選
挙管理委員会を被告として,選挙無効の訴えを東京高等裁判所に提起した(平成1
0年(行ケ)第121号)。
  (3) 控訴人は,上記訴訟において,次の各主張をした。
 ア 公職選挙法の政党要件を定める規定及び重複立候補を認める規定は,憲法
に違反する。
 イ 候補者届出政党の届出による候補者と本人等の届出による候補者との間の選
挙運動上の差別は,憲法に違反する。
 東京高等裁判所は,平成10年9月21日,控訴人らの上記各主張を排斥して,控
訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
  (4) 控訴人は,平成10年10月2日,前記(3)の判決を不服として,最高裁判所
に上告を提起し,同月29日,上告理由書を提出した。その後,東京高等裁判所は,
平成11年2月2日までに,最高裁判所に事件記録を送付し,最高裁判所において
平成11年(行ツ)第16号事件(以下「本件上告事件」という。)として立件され,第二
小法廷で審理されることになった。
  (5) 他方,平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙のうち東京都の小選挙
区選挙及び東京都選挙区の比例代表選挙について,選挙人から,複数の選挙無効
の訴訟が提起され,東京高等裁判所は,平成10年10月9日判決を言い渡した。そ
して,この判決に対して,上告が提起され,最高裁判所は,平成11年に事件を立件
した。
  (6) 最高裁判所は,上記(5)の事件について,大法廷で審理を遂げ,平成11
年11月10日,平成11年(行ツ)第7号事件,平成11年(行ツ)第8号事件及び平成1
1年(行ツ)第35号事件につき,それぞれ判決を言い渡した。
  (7) 平成11年(行ツ)第7号事件の判示事項は,選挙区割りに関するものである
が,平成11年(行ツ)第8号及び同第35号事件の判示事項は,次のとおり,本件上
告事件における控訴人の主張の論点と共通するか深く関連するものであった。
 平成11年(行ツ)第8号事件の判示事項
 ア 公職選挙法が衆議院議員選挙につき採用している重複立候補制の合憲性
 イ 公職選挙法が衆議院議員選挙につき採用している比例代表制の合憲性
 平成11年(行ツ)第35号事件の判示事項
 ウ 公職選挙法が衆議院議員選挙につき採用している小選挙区制の合憲性
 エ 衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党に選挙運動を認め
る公職選挙法の規定の合憲性
  (8) 前記(6)の判決後,最高裁判所第二小法廷は,本件上告事件について審
理をしたが,(6)の大法廷判決の判示事項と共通するか深い関連を有する控訴人の
主張の論点について判断するに当たり,第二小法廷所属裁判官のうち,3名の裁判
官が,(6)の大法廷判決の判示事項について,法廷意見に対して,反対意見を表明
していた関係から,平成12年2月16日,本件上告事件を最高裁判所大法廷で審理
することとした。
  (9) 最高裁判所大法廷は,平成12年4月19日ころ,本件上告事件の口頭弁論
期日を同年7月5日と指定した。
 (10) ところが,平成12年4月にときの総理大臣が急逝する事態が生じ,平成12
年6月2日,衆議院は解散された。そのために,平成12年6月28日,本件上告事件
は,再び第二小法廷で審理されることとなった。
 (11) 最高裁判所第二小法廷は,平成12年9月29日に口頭弁論を開いた上,同
年11月10日,衆議院の解散によって前記(1)の補欠選挙の効力は将来に向かって
失われたものと解すべきであるから,控訴人らの訴えはその法律上の利益を失ったと
して,原判決を破棄し,控訴人らの訴えを却下する旨の判決を裁判官全員一致の意
見で言い渡した。
 3 裁判の遅延について
 裁判が遅延した場合に,国家賠償請求をすることができるか否かについては,さま
ざまな意見があり,ここで直ちに結論を示すことはできない。しかし,仮に賠償請求が
可能であるとしても,裁判が違法に遅延したのでなければ,賠償を請求できないこと
は争いはない。
 そこで,本件において違法な裁判の遅延があったかどうかを検討する。
 控訴人は,公職選挙法の百日裁判の規定があることを理由に,770日を要した本
件の場合は,違法な遅延がある旨主張する。しかし,百日裁判の規定は,あくまでも
訓示規定であり,それに反することによって,直ちに裁判が違法になるものではな
い。
 選挙訴訟は,民主国家における統治の機構を健全に維持するために,特に法律
によって設けられた制度である。したがって,裁判所は,このような制度の趣旨を体し
て,その事案事案に応じて,適切に事件を処理するべきものである。それゆえ,個々
の事件の裁判の遅速というものを,それだけを取り上げて,事件処理の適否を論じる
のは適当ではない。判断を求められている事項の重要性,その問題に関する国民世
論の動向,同種事件の審理の状況その他を含め,総合的に考慮して,選挙訴訟全
体の事件処理を適切に行うよう配慮するべきものであるからである。
 このような観点から,本件を見ると,最高裁判所の裁判官は,平成11年のほぼ同時
期に最高裁に係属した選挙訴訟の中で,衆議院議員選挙が施行された時期が早い
上記2の(5)の事件の処理を優先させたことが認められる。そして,そのような事件処
理は,上記のような選挙訴訟全体の事件処理として,適切な判断によるものと考えら
れる。
 そして,その結果,本件上告事件の審理に遅れが生じているが,本件上告事件で
控訴人が主張する論点は,優先処理された上記2の(5)の事件の判示事項と共通す
るか,あるいは深い関連を有するものである。そうすると,本件上告をした控訴人とし
ても,上記2の(5)の事件の大法廷判決が示されることにより,控訴人の主張に対す
る最高裁判所の見解の大要を把握することができるものと考えられる。
 したがって,最高裁判所が選挙訴訟の全体を適切に処理するために,一部の事
件を優先処理したことによって,控訴人が実害を受けたとまでは認められない。
 そして,最高裁判所の裁判官は,上記2の(5)の事件の審理を終えた後,本件上
告事件の審理をするに当たり,適法に審理する必要から,事件を大法廷で処理する
こととしたものであって,その判断も適切なものである。その後,再び第二小法廷に戻
され,そこで所定の手続きを経て,判決に至っているが,そのような結果となったの
は,思いがけなく,ときの総理大臣が急逝し,衆議院が解散されたことによるものであ
る。その間の最高裁判所裁判官の処置や判断に,不適切な点は認められない。
 以上検討してみると,最高裁判所裁判官は,選挙訴訟の全体を適切に処理してお
り,本件上告事件の処理についても,なんら違法な点は認められないものといわねば
ならない。
 そうすると,最高裁判所裁判官の処理に違法な点があったことを前提とする,控訴
人の請求は,理由のないものといわねばならない。
4 したがって,控訴人の請求を棄却した原判決は,結論において相当であって,
本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
 (口頭弁論終結の日 平成15年1月21日)
   東京高等裁判所第19民事部
     裁判長裁判官    淺   生   重   機
        裁判官    及   川   憲   夫
        裁判官    原       敏   雄

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