弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、別紙目録記載の電動式ストレツチヤーを製造し、販売してはならな
い。
二 被告は、その占有する前項掲記の製品を廃棄せよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
 主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発
明」という。)を有する。
発明の名称 物体搬送装置
出願日 昭和四四年二月一〇日
優先権主張 アメリカ合衆国 一九六八年二月一四日
公告日 昭和四七年八月三〇日
登録日 昭和四八年四月三日
特許番号 第六八四三二四号
2 本件発明の特許出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)
の特許請求の範囲の記載は、別添特許公報該当欄記載のとおりである。
3(一) 右特許請求の範囲第一項の発明(以下「第一発明」という。)を構成要
件に分説すると、次のとおりである。
イ 少なくとも一個の下側無端コンベヤベルトと、前記下側ベルトの上方に位置す
る少なくとも一個の上側無端コンベヤベルトとを含んだ搬送装置を動かすのに先立
つて、該物体に接近して位置せしめる過程
ロ 前記下側ベルトが前記物体の位置する表面に沿つて回転前進し、前記上側ベル
トか該下側ベルトと反対の方向に回転して、前記搬送装置を該物体に向つて動かす
過程
ハ 前記物体が前記上側ベルトの先導縁に接し、前記下側ベルトが前記表面に沿つ
て前進する時に該先導縁の上方に位置する方向の回転運動が物体を該上側ベルトの
上に運び上げることにより該物体を該上側ベルトに運び上げ積込む過程
ニ 前記下側ベルトの回転運動を維持して前記物体を所望位置に動かす間、該物体
を上側ベルト上に停止保持するために、該上側ベルトのそれ以上の回転運動を防ぐ
過程
ホ 所望位置に到着した時に前記上側ベルトの先導縁を下方に位置する方向に回転
させることにより、前記搬送装置から前記物体を卸す過程
ヘ 右イないしホの過程を含んだ物体を動かす方法
(二) 前記特許請求の範囲第二項の発明(以下「第二発明」という。)を構成要
件に分説すると、次のとおりである。
a 下側無端ベルト、該下側ベルトの上方に位置した上側無端ベルトとを有する少
なくとも二個の無端コンベヤベルトを含んでいること
b 前記各ベルトは、前記下側無端ベルトの内面に接する下側支持装置及び前記上
側無端ベルトの内面に接する上側支持装置を含んでいること
c 各ベルトはそれぞれの支持装置の周りを容易に回転できるように支持されてい
ること
d 該下側ベルトは移動すべき物体が載る表面に沿つて回転運動が可能で、該上側
ベルトは該下側ベルトとは反対の方向に回転できること
e 該上側ベルトは、該下側ベルトが前記表面に沿つて進む時に前記物体を該上側
ベルト上に運び上げるように、搬送装置が前記物体に接触した時に上方向に回転す
る先導縁を具えていること
f 前記表面に沿う下側ベルトの連続回転運動中に前記物体を所望位置に運ぶ間、
これを上側ベルト上に停止保持するために、下側ベルトに対する該上側ベルトの回
転運動を阻止する装置を含んでいること
g 物体搬送装置であること
4 被告は、別紙目録記載の患者移動機(以下「被告製品」という。)を製造し販
売している。
5(一) 被告製品による患者の移動方法を分説すると、次のとおりである(被告
製品に関する番号及び記号は別紙目録記載のものを指す。以下同じ。)。
イ′ 油圧で昇降し、かつ水平方向に往復運動する可動寝台1と該可動寝台を支持
して電動機で駆動される台車2とからなり、右各油圧の各駆動はスイツチ3によつ
て操作できる。可動寝台1は、患者を載置するに足る長方形に構成され、その上部
に平面コ字状のフレーム4が設けられ、フレーム4上に、ベルト6を掛け回したス
ライド板5が載置されている。
 スライド板は、上下二枚の長方形状の板5、5′で構成され、その長辺方向の両
側端には、フレーム4内に装置された回動チエン7の適所に一端を固定したブラケ
ツト8の他端が固定されていて、回動チエン7の動きに従つて上下スライド板5、
5′が同期して短辺方向に水平に往復動する。上スライド5の先端は、フレーム4
の開放縁側においてフレーム4より突出して下方に屈曲し上ベルト6の先端縁6a
を形成する。
 上スライド板5の短辺方向には複数枚のベルト6が並列して掛け回され、各ベル
ト6の両端は、該ベルトを跨いでフレーム4の長辺方向に横設された係止杆9の裏
側に固定されている。下スライド板5′の短辺方向にも、上スライド板5のベルト
6に対向して、複数枚のベルト6′が並列して掛け回され、各ベルト6′の下面の
両端はフレーム4の開放縁10に固定されている。
 そして、患者12を固定ベツド13から搬出するに当たつては、可動寝台1を固
定ベツド13に接近させる。
ロ′ ロツク機構11によつて係止杆9をフレーム4の開放縁側に固定し、上下ス
ライド板5、5′を駆動する。
 この場合、上ベルト6の上面の各両端は係止杆9の裏側に固定されており、係止
杆9はフレーム4の一定位置に固定されているので、上スライド板5がフレーム4
の開放縁方向に水平移動すると、これに押されて上スライド板5の下側部分の上ベ
ルト6が同方向に移動することにより、上スライド板5の下側又は上側に位置して
いた上ベルト6の各部分が下から上へたくし上げられるような態様において順次上
スライド板5の上側又は下側に転位し、上スライド板5の最後部が係止杆9の固定
位置まで進行した時、上スライド板5の移動は停止し、上ベルト6の転位は終了す
る。
 この上スライド板5の移動と同期して下スライド板5′も同方向に移動するが、
下ベルト6′の下面の各両端がフレーム4の開放縁に固定されているので、下スラ
イド板5′の移動に伴い、これに押されて下スライド板5′の上側部分の下ベルト
6′が同方向に移動することにより、下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又
は下側に位置していたその各部分が上から下へたくし下げられるような態様におい
て順次下スライド板5′の下側又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に
沿つて進行し、
下スライド板5′の最後部が下ベルト6′を固定しているフレーム4の開放縁に達
したときに、下スライド板5′の移動は停止し、下ベルト6′の転位は終了する。
ハ′ 下ベルト6′が固定ベツト13上の表面に沿つて進行する過程で、上ベルト
6は患者12に接し、その先端縁6aを患者12の下部にもぐらせ、右ロ′に記載
されているような上下ベルト6、6′の作動により患者12を持ち上げ、上ベルト
6上に載せる。
ニ′ 患者12を上ベルト6上に載せた後、係止杆9のロツク機構11を解除し
て、上下のスライド板5、5′を前とは逆方向に移動させると、下ベルト6′の下
面の両端はフレーム4の開放縁に固定されているので、下スライド板5′の復帰に
伴い、下ベルト6′は前記ロ′と逆方向に転位する。また、この場合、係止杆9
は、ロツク機構11が解除されており、その裏側が上ベルト6に固定されているた
め、上スライド板5の移動と共に移動し、かつ上ベルト6は前記の転位動作をする
ことなく、患者12を載置したまま、可動寝台1上の原位置に復帰する。
ホ′ 可動寝台1上に患者12が載置されている状態においては係止杆9のロツク
機構は解除されており、かつ係止杆9はフレーム4の開放縁と逆の端部にある。
 上下スライド板5、5′を駆動してフレーム4の開放縁方向に水平移動させる
と、下ベルト6′は固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、上ベルト6は、転位
動作をすることなく、患者12を載置したまま固定ベツド13上を移動する。そし
て係止杆9は上スライド板5の移動と共に移動し、係止杆9がフレーム4の開放縁
にあるロツク機構11の位置に達すると、上下スライド板5、5′の移動は停止す
る。
 その後、ロツク機構11により係止杆9をフレーム4の開放縁側に固定し、上下
のスライド板5、5′を可動寝台1方向に移動させると、上下の各ベルト6、6′
は原位置に復帰する。そして患者12は、右復帰の過程における上ベルト6の転位
動作のため、上下スライド板5、5′の移動と共に移動することなく、上ベルト6
が固定ベツド13から離れるにしたがつて上ベルト6の先端縁6aから次第に離脱
し、上下スライド板5、5′が可動寝台1上の原位置に復帰したときには、固定ベ
ツド13上に残留する。
ヘ′ 右イ′ないしホ′の過程を有する患者の移動方法である。
(二) 被告製品による患者の移動方法に関する右イ′ないしヘ′は、前記3
(一)の構成要件イないしヘを順次充足するから、右方法は第一発明の技術的範囲
に属する。また、被告製品は、第一発明にかかる方法の実施にのみ使用される装置
であるから、その製造販売行為は本件特許権を侵害する。
6(一) 被告製品の構造を分説すると、次のとおりである。
a′、b′
 上スライド板5の短辺方向には複数枚のベルト6が並例して掛け回され、各ベル
ト6の両端は、該ベルトを跨いでフレーム4の長辺方向に横設された係止杆9の裏
側に固定されている。下スライド板5′の短辺方向にも、上スライド板5のベルト
6に対向して、複数枚のベルト6′が並列して掛け回され、各ベルト6′の下面の
両端はフレーム4の開放縁10に固定されている。
c′ 患者12を固定ベツド13から搬出する場合、ロツク機構11によつて係止
杆9をフレーム4の開放縁に固定し、上下スライド板5、5′を駆動する。
 この場合、上ベルト6の上面の各両端は係止杆9の裏側に固定されており、係止
杆9はフレーム4の一定位置に固定されているので、上スライド板5がフレーム4
の開放縁方向に水平移動すると、これに押されて上スライド板5の下側部分の上ベ
ルト6が同方向に移動することにより、上スライド板5の下側又は上側に位置して
いた上ベルト6の各部分が下から上へたくし上げられるような態様において順次上
スライド板5の上側又は下側に転位し、上スライド板5の最後部が係止杆9の固定
位置まで進行した時、上スライド板5の移動は停止し、上ベルト6の転位は終了す
る。
 この上スライド板5の移動と同期して下スライド板5′も同方向に移動するが、
下ベルト6′の下面の各両端がフレーム4の開放縁に固定されているので、下スラ
イド板5′の移動に伴い、これに押されて下スライド板5′の上側部分の下ベルト
6′が同方向に移動することにより、下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又
は下側に位置していたその各部分が上から下へたくし下げられるような態様におい
て順次下スライド板5′の下側又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に
沿つて進行し、下スライド板5′の最後部が下ベルト6′を固定しているフレーム
4の開放縁に達したときに、下スライド板5′の移動は停止し、下ベルト6′の転
位は終了する。
d′ 下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又は下側に位置していたその各部
分が上から下へたくし下げられるような態様において順次下スライド板5′の下側
又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、上ベルト6は、
上スライド板5の下側又は上側に位置していたその各部分が下から上へたくし上げ
られるような態様において順次上スライド板5の上側又は下側に転位する。
e′ 上スライド板5の先端は、フレーム4の開放縁側においてフレーム4より突
出して下方に屈曲し上ベルト6の先端縁6aを形成する。下ベルト6′が固定ベツ
ド13上の表面に沿つて進行する過程で、上ベルト6は患者に接し、その先端縁6
aを患者12の下部にもぐらせてこれを持ち上げ、上ベルト6上に載せる。
f′ 患者12を上ベルト6上に載せた後、係止杆9のロツク機構11を解除し
て、上下のスライド板5、5′を前とは逆方向に移動させると、下ベルト6′の下
面の両端は前記のとおりフレーム4の開放縁に固定されているので、下ベルト6′
は、下スライド板5′の復帰に伴い、前記c′と逆の転位を経て原位置に複帰す
る。また、この場合、係止杆9は、ロツク機構が解除されており、その裏側が上ベ
ルト6に固定されているため、上スライド板5の移動と共に移動し、かつ上ベルト
6は前記の転位動作をすることなく患者12を載置したまま、可動寝台1上の原位
置に復帰する。
g′患者移動機である。
(二) 被告製品の構造に関する右a′ないしg′は、前記3(二)の構成要件a
ないしgをそれぞれ充足するから、被告製品は第二発明の技術的範囲に属し、した
がつて、被告製品の製造販売行為は本件特許権を侵害する。
7 よつて、原告は、被告に対し、被告製品の製造販売行為の差止め及び被告の占
有する被告製品の廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし4は認める。
同5ないし7は争う。
三 被告の主張
 本件発明にいうベルトの「回転」とは、無端ベルトが直接駆動されて支持装置の
移動とは無関係にそれ自体で支持装置の周りを回転すること、換言すれば該ベルト
が搬送装置に対して回転する態様のみを意味していると解すべきであり、被告製品
におけるベルトの作動は、右の「回転」に含まれないから、被告製品及び被告製品
による患者の移動方法は本件発明の技術的範囲に属さない。
 すなわち、(1)本件明細書には五つの実施例が記載されているが、そのいずれ
も、ベルト自体が直接駆動され、支持装置の移動とは無関係に支持装置の周りを回
転し得る態様、換言すれば該ベルトが搬送装置に対して回転する態様(以下「A態
様」という。)のもののみであり、ベルト自体が直接駆動されることなく、ベルト
の支持装置の移動によりこれに従動してベルトが支持装置に対して相対的に移動す
る態様(以下「B態様」という。)のものには何ら言及されていないこと、(2)
出願番号昭四六ー三〇八五号の特許出願(出願公告番号昭五一ー四〇三八号。以下
「後願」といい、その発明を「後願発明」という。)は、本件発明と同一の発明者
の発明にかかるものであり、また出願人も本件発明の出願人と同一であるが、同出
願人は、後願の願書に添附した明細書(以下「後願明細書」という。)において、
本件発明の優先権主張の根拠をなし、本件発明と同一内容である米国特許第三四九
三九七九号(以下「米国特許」といい、その発明を「米国発明」という。)を明記
して特定のうえ、後願発明は、米国発明と「物体を上部エプロンに注意深く積み込
み、またはこれから積卸するために無端ベルト型式の重ねたエプロンを利用する点
で同等である」としながら、米国発明とは「多くの点で異なり、また改良されてい
る」として、B態様のものを述べ、米国発明との差異について種々論及している
が、このことからすると、本件及び後願の両発明の出願人としては、本件発明にお
いてA態様のもののみを考え、後願発明においてB態様のものを考え出したと思わ
れること、以上の二点に鑑みれば、本件発明の発明者又は出願人としては、本件発
明においては、B態様のものは本件発明にいう「回転」から除外されるものと認識
していたというべきであるから、本件発明にいうベルトの「回転」の意義も前記の
とおりA態様のものに限定して解すべきである。そして、被告製品における上下の
各ベルトは、各支持装置の移動により支持装置に対して相対的に移動するだけであ
つて、直接駆動されてそれ自体で支持装置の周りを回転するようには構成されてお
らず、該ベルトが搬送装置に対して回転する態様のものではないから、すなわち被
告製品におけるベルトの作動態様はB態様であつてA態様ではないから、本件発明
にいう「回転」には当たらない。
 したがつて、被告製品による患者の移動方法は第一発明の構成要件ロを、また、
被告製品は第二発明の構成要件c、dをそれぞれ充足しない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1、2及び4の事実は当事者間に争いがない。
二 右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(別添特許
公報と同じ。)によると、本件発明のうち第一発明については請求原因3(一)の
イないしヘの、第二発明については同3(二)のaないしgの各構成要件からなる
ものと認められ、なお、この点は被告もこれを争わない。
三 被告製品の構成及び作動態様を表示するものであることについて当事者間に争
いのない別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品による患者の移動方
法は請求原因5(一)のイ′ないしヘ′のとおりであり、被告製品の構造は同6
(一)のa′ないしg′のとおりであることが認められる。
四 被告製品による患者の移動方法と第一発明の構成要件を対比すると、右方法の
工程イ′、ハ′、ニ′、ホ′及びヘ′は第一発明の構成要件イ、ハ、ニ、ホ及びヘ
をそれぞれ充足し、また被告製品の構造と第二発明の構成要件を対比すると、被告
製品の構造a′、b′、e′、f′及びg′は第二発明の構成要件a、b、e、f
及びgをそれぞれ充足すると認められる。
五 被告において、本件発明の発明者及び出願人は本件発明の技術的範囲からB態
様のものが除外されると認識していたから、本件発明にいう「回転」とはA態様の
もののみを意味し、B態様のものは除外して解すべきである旨主張するので、この
点について検討する。
 ところで、特許を受けようとして出願する者は、その発明について可能な限り最
大限の保護を求めていると考えるのが自然かつ合理的であるから、出願人が意識し
てその発明の技術的範囲を限定しているというためには、明細書その他出願書類に
限定している旨が明らかにされていることを要するというべきである。しかしなが
ら、本件明細書の発明の詳細な説明の項において、特許請求の範囲に記載された
「回転」の意義を限定するような記載を見い出すことはできない。被告は、本件明
細書の発明の詳細な説明の項に記載された五つの実施例がいずれもA態様のもので
あつてB態様のものでないことを意識的に除外したことの根拠の一つにするが、一
般に実施例は発明思想を実際上どのように具体化するかを示すための例示的な説明
にすぎないものであるから、実施例にB態様のものがないからといつて、B態様の
ものを意識的に除外しているといえないことはいうまでもないところである。かえ
つて、本件明細書の発明の詳細な説明の項に「特定の実施例を参照して物体を動か
す方法及び装置について記載したが、搬送装置を変更し得ることが当業者に明らか
であろう。当業者に明らかなこのような変更は凡て本発明の範囲に属すると考え
る。」(別添特許公報第一八欄二〇行ないし同二四行)と記載していることからす
るならば、出願人においてA態様以外の作動態様のものも本件発明の技術的範囲に
含まれると考えていることが推認されるのであつて、出願人が本件発明の技術的範
囲をA態様のもののみに意識的に限定しているとは到底いえない。また、他に本件
発明にいう「回転」の意義を限定する趣旨が記載された出願書類のあることを認め
るに足りる証拠は見当たらない。
 なお、被告において、本件及び後願の発明者としては、本件発明においてA態様
の構成のみを考え、後願発明においてB態様の構成を考え出した旨主張するので、
後願明細書に記載された実施例におけるベルトの作動態様について付言しておきた
い。
 思うに、後願明細書の実施例におけるベルトの作動態様は、被告が主張するよう
なB態様のものではないと考えられる。すなわち、成立に争いのない乙第一号証に
よれば、後願明細書の発明の詳細な説明の項に「下部エプロンは装置の基部に一部
を固定された下部の無端ベルトの一部であり、両エプロンは各連結支持装置の同時
運動によつて同時に伸張および収縮される。しかし上部の無端ベルトの一部の上部
エプロンは必要な時には上部エプロンの上面上で物体の転位ができるようにその支
持装置に対して回転したりまたは回転しないようにすることができる。両エプロン
の伸張および収縮運動は上部エプロンの上面上での物体の転位を効果的にするため
の運動とは別に制御されうる。」(第四欄四〇行ないし第五欄六行)、「無端ベル
ト34の一部の下部エプロンは支持装置自身の前進および後退運動によるほかはそ
の支持装置40に対して別個に回転することはできない。これと対照的に無端ベル
ト32の一部の上部エプロンは三個のローラ104と106によつて選択的に固定
または回転できる。無端ベルト32は積込み、積卸し過程中は三個のローラでロツ
ク即ち固定され、回収および位置決め過程中は駆動ローラ104によつて回転され
る。無端ベルト32の回転は支持装置40が別個の駆動装置によつて移動する速度
と同じ速度で行なわれる。」(第一三欄一八行ないし二九行)等と記載されている
ことが認められるところ、これらの各記載から明らかなように、積込み後に支持装
置を収縮させるとき及びこの収縮位置から伸長させるときには、無端ベルトは、支
持装置による前進及び後退と同時に駆動ローラによる回転駆動を受け、支持装置に
対して相対的に移動するだけでなく搬送装置に対しても移動しているのであるか
ら、後願発明においてB態様の構成すなわちベルトの支持装置の移動により無端ベ
ルトに支持装置に対する相対的移動を生ぜしめるだけで搬送送置に対してはベルト
は回転しない構成を考え出したとはいえない。
 以上のとおり、本件明細書及びその他出願書類に、本件発明の技術的範囲をA態
様のものに意識的に限定する旨が明らかにされていないのみならず、本件発明と後
願発明との関係等に関する被告の主張も失当というべきであるから、本件発明にい
うべルトの「回転」の意義を被告主張のように限定して解釈する理由はなく、本件
発明にいうベルトの「回転」とは、ベルトがその支持装置の周囲を転位移動するこ
と一般を指すものと解すべきである。
 被告製品におけるベルトの作動態様は、前記のとおり、請求原因5(一)及び同
6(一)のとおりであり、これによると被告製品のベルトは支持装置の周囲を転位
移動するから、本件発明にいう「回転」にあたるということができ、被告製品によ
る患者の移動方法の工程ロ′は第一発明の構成要件ロを、被告製品の構造c′、d
′は第二発明の構成要件c、dをそれぞれ充足すると認められる。
 したがつて、被告製品による患者の移動方法は第一発明の技術的範囲に、また、
被告製品は第二発明の技術的範囲にそれぞれ属するものというべきである。
六 被告製品の構造及び作動態様を表示するものであることについて当事者間に争
いのない別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、第一発明の方法
の実施にのみ使用される装置であると認められる。
七 以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費
用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれ
ぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野崎悦宏 安倉孝弘 一宮和夫)
特許公報、目録(省略)

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