弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 申立
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの本件仮処分申請は、いずれもこ
れを棄却する。申請費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を
求め、予備的に、「原判決主文第二項を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人ら
に対し、昭和四一年九月三日以降本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り、原判
決別紙(一)賃金表記載の各金員から、別表記載の金員を控除した金員を支払え」
との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二 主張
 当事者双方の事実上および法律上の主張は、次に付加するほか、原判決の事実の
項第二ないし第五に記載してあるとおりであるから、その記載を引用する。
 控訴代理人は、当審であらたに、次のとおり述べた。
一 本件解雇の理由となつた違法な行為について、更に次のとおり付加主張する。
1 ビラの配布
 本件において一般市民に配布されたビラは、その内容や表現において激越で侮辱
的であり、かつ誇張や虚偽にわたる事項が多く、しかもその内容は会社のみならず
役員個人に対しても強く向けられており、抗議先として役員の私宅や電話番号まで
も故意に記載されている。これらの点から判断すると、その目的は単に組合員の経
済的地位の向上を図るにとどまらず、積極的に会社の社会的信用や名誉の失墜なら
びに会社役員の個人的権利の侵害をも目的としたもので違法な争議行為と判断すべ
きものである。また組合は、組合名義および争議団共闘、安保破棄諸要求貫徹委員
会の名においてビラ(乙第二三号証ないし第二九号証)を多数一般市民に配布し
て、会社の名誉、信用等を傷つけている。
2 ロツクアウト告示の破棄
 再度にわたるロツクアウト告示の破棄は、その掲示箇所の高さや破棄された時間
等から判断すると、その場に集まつた被控訴人らを含む多数の組合員の共謀によつ
てなされたものとみるのが合理的である。かりに直接の破棄行為が外部の支援団体
員の手によつてなされたとしても、右多数の組合員との間の意思連絡ならびにその
協力がなければ不可能であつたと認めるべきであるから、いずれにしても、右告示
破棄行為について被控訴人らに責任があるものと解すべきである。
3 センターおよび新聞社社屋内への立入行為等
 右立入行為の目的は会社に対する就労要求とか団体交渉の申入であつたとは決し
て認められない。就労要求はロツクアウトに対する対抗戦術としてすでに当時連日
文書でなされていたし、また窓口交渉も継続していたのであるから、右のような目
的でことさらに多数の者が警備員ともみ合つてまで両社社屋内に立入る必要はなか
つたのである。思うに右立入行為の目的は、強行就労ないしは職場占拠により会社
の放送業務を止めることならびに両社への嫌がらせを目的としたものと解される。
その滞留時間も長い場合には三〇分にもわたつており、また侵入した社屋内でこと
さらに拡声器を使用したこと等は、明らかに両社に対する嫌がらせのため、業務の
妨害を企図したもので、正当な組合活動と解すべき余地はない。
4 社屋への立入とドアの損壊行為ならびに座り込み
 右行為の目的も単なる就労要求や団交の申入にとどまるものではなく、強行就労
ないしは職場占拠により会社の放送業務の妨害を企図したものである。
5 電報開披行為
 その時配達された電報は僅かに二通で、しかも表紙には名宛人が記載されている
のであるから、誤配であることは直ちに知り得たものである。誤配であることを知
りつつ開披し、開披後において敢えて多数組合員の面前で読みあげ、更にラジオ中
国労組へ通報したものであつて、これらの行為は公衆電気通信法等にも触れる違法
行為である。
6 ピケツテイング
 組合が五月二一日から数日間にわたつてなしたピケツトは単なる平和的説得の域
にとどまるものではなかつた。
7 ビラ貼り
 会社正面玄関の壁およびシヤツターの全面に貼られた多数のビラは、のりでベタ
ベタ貼つてあり、はがしてもそのあとがきれいにならないため、やむなく争議中は
とりあえず板囲いをしたうえ、その後において壁のぬりかえをせざるを得なかつた
実状であつた。本件ビラ貼りは刑法上も器物損壊罪を構成する違法な行為である。
8 会社役員の私宅訪問行為
 訪問行為のなされた時間やその状況から判断すると、当の会社役員が不在である
ことを充分承知し、更に電話等によつてこれを確認していながらも、敢えて計画的
になした家族に対する嫌がらせ行為である。その結果発病する家族も出た程で、そ
の行為は私生活の平和を侵害する違法行為以外の何ものでもない。
二 元来使用者は、企業の所有権に基づく経営権の行使として、生産性の向上と秩
序維持のため労働者を解雇し、これを懲戒する権利と自由を有するものであつて、
この自由は充分尊重されなければならず、司法権を以てしても濫りにこれを奪うこ
とは許されない筋合である。従つて、解雇の適否を判断するに当つても、それが全
く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか若しくは社会観念上著るし
く妥当を欠き使用者に与えられた解雇権を逸脱するものと認められる場合を除き、
使用者の裁量に任されていると解すべきである。この見地に立つて、被控訴人ら四
名の各違反行為の態様とその情状ならびに平素の勤務成績および処分の前歴等を考
慮すると、本件解雇はいずれも使用者に与えられた裁量の範囲に属する適法なもの
と解すべきである。
三 控訴人がなした本件解雇は、被控訴人らを懲戒するのが目的ではなく、あくま
でも被控訴人らとの間の雇用関係を消滅させることを目的としたものである。従つ
て、かりに被控訴人らの行為が懲戒解雇事由に当らないとしても、本件解雇の効力
には影響がない。けだし、懲戒解雇事由に当らない場合においても、使用者は普通
解雇としてその従業員を有効に解雇することができるものであるからである。
四 かりに、被控訴人らが昭和四一年九月三日以降も雇用契約上の権利を有し、控
訴人に対して原判決別紙(一)賃金表記載の金員を請求する権利があるとしても、
控訴人は労働基準法第二四条の例外として、所得税法、地方税法、失業保険法、健
康保険法、厚生年金法に基づき、被控訴人らの給与から別表記載の金員を源泉徴収
すべき義務があるので、判決主文においては、賃金額から別表記載の金員を控除し
た金員について支払が命ぜらるべきであり、右の範囲において原判決の一部取消を
求める。
被控訴代理人は、当審であらたに、次のとおり述べた。
一 懲戒解雇と普通解雇とは、その根拠、内容、効果において相異なるものがあ
り、争議行為の違法性を問責するのは、職場秩序、規律違反の点にある(いわゆる
秩序罰)と考えられるので、懲戒解雇の普通解雇への転換を主張することは許され
ないと解すべきである。
二 争議団共闘、安保諸要求貫徹実行委員会がビラを配布することは、それらの民
主団体の憲法に認められた言論、表現の自由として、当然の行為であり、本件ビラ
の内容は何ら違法視されるべき内容のものではない。本件ビラは右の諸団体が高知
放送労働組合の昭和四一年春闘を支援する目的で作成配布したものであつて、組合
が作成、配布するというようなものではない。
三 労働基準法第二四条第一項但書による控訴人主張の諸法令に基づく賃金の一部
控除の許されることは認めるが、右はいずれも賃金がその暦日に従い現実に当月分
を支払われている場合に、租税については源泉徴収を、保険料については当月分
(失業保険法第三三条)、又は前月分(健康保険法第七八条、厚生年金保険法第八
四条)を、それらの現実の全額賃金から控除することが許されているにすぎないも
のであつて、本件の如く解雇後賃金が全く支払われていない場合に、解雇時にさか
のぼつて控除することまでを許しているものではない。
 ちなみに、被控訴人らは、本件解雇後失業保険金を仮受領しており、健康保険法
による保険診療は中止されている。従つて、これらの問題は、被控訴人らが完全に
復職就労し得る状態になつた時に、事業主および関係諸官庁と協議して、過去の保
険料、租税等の納付が決済されるべきものであつて、労働基準法第二四条第一項但
書は、解雇無効を理由とする賃金支払請求という異常特別な場合には適用されない
のである(なお、解雇の効力を争う労働者に就労請求権ありとするならば別論であ
るが、控訴人は第一審判決後も被控訴人らの就労を拒否している)。
第三 疎明(省略)
       理   由
 当裁判所は、結論において、本件仮処分申請を認容すべきものと判断するもので
あつて、その理由は、次に訂正、付加するほか、原判決の理由のとおりであるか
ら、それを引用する。
一 原判決三七枚目表五行目以下の「被申請人の主張する各事由が……」より、同
枚目裏一行目の「……到底認められない。」まで(すなわち、申請人の「本件解雇
の理由が不明確、不特定である」との主張に対する判断の一部)を、次のとおり訂
正する。
 「被申請人の主張する各解雇事由に相応する事実が、本件解雇の意思表示以前
に、すでに客観的に存在していたことは、後記認定のとおりであり、その事実の態
様、証人A同Bの各証言(いずれも原審)の趣旨および本件仮処分審理における被
申請人の主張、立証態度に照らし、被申請人は、解雇当時右の各事実を解雇の原因
となるべき違法な事実として認識していたものと認めることができる。被申請人が
本件審理において、解雇事由を二回にわたつて主張したということのみからは、い
まだ右認定をくつがえすに足りない。」
二 原判決四一枚目裏九行目の「しかし……」より、四二枚目裏一行目終まで(す
なわち、ビラの配布による会社ひぼうの点についての判断の一部)を、次のとおり
訂正する。
「しかし、争議時においては、組合ビラの表現は概して激越、過激なものとなり勝
ちであることを考慮すべく、本件ビラ全体の趣旨としては、本件争議に際し、一般
労働者および市民の支援を得るため、ひろく被申請人の態度一般を攻撃し、組合の
要求の正当性を主張することを主眼としているものと認められ、前記のような表現
があるからといつて、直ちに正当性の範囲を逸脱した内容であるということはでき
ない。成立に争のない乙第二三、第二四号証(その文面自体に照らし組合がその作
成に関与したものと認められる)、第二八号証の一、二、第二九号証も右の趣旨以
上に出るものとは認められない(乙第二五号証、第二七号証については、組合がそ
の作成に関与したと認めるに足りる疎明はない)。
 しかしながら、さきのビラに、抗議先として、被申請人会社の役員ないし労務担
当者の私宅の住所、電話番号を記載し、私宅への抗議を求めた点(前認定のよう
に、その結果として、一般市民から、昼夜を問わず、被申請人会社の役員および労
務担当者の私宅に、ハガキや電話による抗議が申込まれた)は、正当な組合活動と
認めることはできない。個人の私宅はほんらい団体交渉の場でないばかりでなく、
ハガキや電話による抗議でも、家族に対する精神的な威迫とならざるを得ず、個人
の私生活に対するいわれのない侵害として、一般通念上許容し難いものであるから
である。」
三 原判決六八枚目表四行目初より同枚目裏六行目終まで(会社役員の私宅訪問の
点についての判断の一部)を、次のように訂正する。
 「そもそも会社役員や労務担当者がその私宅におらないことを知りながら、一〇
名前後の班をつくつて各私宅を訪問し、その妻に面接して組合の実情を訴えるよう
な行為は、正当な組合活動と認めることはできない。妻は会社業務に関して何らの
権限も義務も有しない者であるばかりでなく、右のような態様の訪問は、実質上、
妻および会社役員、労務担当者に対する精神的な圧迫となり、個人の私生活の平穏
に対する侵害となるからである。
 ただしかし、当時労使間に長期にわたつて団体交渉が開かれず(当審証人Bの証
言および同証言によつて成立を認め得る乙第七四号証によると、組合幹部は時折面
接又は電話により被申請人会社人事部長Bと接触し、また再三書面により就労要求
を申入れていたことが認められる。しかし、右証拠および原審および当審における
申請人C同Dの各尋問結果によると、被申請人会社の役員および総務局長は、四月
三〇日の回答は永久不変のものであるとし、組合側が新らしい提案をしてこない限
り、団体交渉はもとより面接をも絶対に行なわない、との態度を堅持していたこと
が認められる)、ロツクアウトの圧迫に屈して相当数の組合脱退者が出るに至り、
組合として局面の打開を求めて甚だ焦慮し、重役らとの面接ないしは団体交渉再開
の機会を得る手段として、私宅への訪問に思い及んだと認められるばかりでなく、
その訪問は相当多数の人数によるものとしては、まず平穏に行なわれており、一応
の節度を失なわなかつたと認められるので、この点情状としてしんしやくさるべき
である。」
四 原判決七三枚目裏二行目初めより六行目終まで(申請人らの行為に対する就業
規則の条項の適用)を、次のとおり訂正する。
 「そうすると、前判示(二)、2、の(1)のうち、会社役員、労務担当者の私
宅の住所、電話番号を記載し、私宅への抗議を求めたビラを配布した点および(1
1)の会社役員らの私宅訪問の点は、それぞれ右就業規則第三三条第一一号、第四
八条第一号に、(2)のミニスト実施の点、(5)の新聞社屋への立入りとドア損
壊の点は、それぞれ同規則第三三条第一一号第四八条第一号第三号に、(4)の両
社社屋内への立入りの点、(6)の両社社屋内への立入りとすわりこみの点、
(7)の電報開披の点は、それぞれ同規則第四八条第三号に、該当するものと認め
られる。
 しかしながら、右各行為の情状については、すでに判断したとおりであつて、と
りわけて悪質重大な非違行為と認めるに足るものはない。」
五 本件解雇の効力に関し、次のとおりの説示を付加する。
 本件の解雇は、控訴人において、被控訴人らには懲戒解雇に値する事由があると
しつつ懲戒解雇にせず、普通解雇にしたものである。そして控訴人は第一次的に懲
戒解雇の事由ありとし、第二次的には、普通解雇の事由ありと主張しているもので
ある。
 この点に関し、被控訴人らは、「懲戒解雇と普通解雇とは、その根拠、内容、効
果において相違するから、懲戒解雇の普通解雇への転換を主張することは許されな
い」旨主張する。なるほど、解雇の効力の転換に関しては、被控訴人ら主張のよう
に解するのが相当であるが、本件は、使用者が懲戒解雇の意思表示をしておきなが
ら訴訟上普通解雇の効力を主張した事案ではなく、懲戒解雇に値する事由ありとし
つつも、当初より普通解雇としての告知(普通解雇としての効果の発生を意図した
告知)をした事案であるから、ただちに無効行為の転換の法理をもつて律するのは
相当でないといわなければならない。
 そこで、一般に、懲戒解雇に処すべき事由があるのに、普通解雇としての告知を
した場合の効力について考えてみる。この場合、普通解雇の事由が存在しないのに
かかわらず普通解雇の意思表示をしたものではあるが、懲戒解雇の事由は存在して
いたのであり、いずれにせよ解雇の事由が存在していたのである。そうだとする
と、このような解雇も、解雇原因の存在する解雇というに妨げないと共に、被解雇
者になんらの不利益を及ぼさず、法律関係を別段不安定ならしめる点もないから、
法律上許容されるものと解する。
 ただしかし、本件の場合は、原審が判断しているように、被控訴人らの行為は、
その情状よりみて、懲戒解雇に値しないと認められるものである。
 そこで次に、懲戒解雇に値する事由ありとして普通解雇の意思表示をしたが、客
観的にみて、懲戒解雇に値する事由が存在しなかつた場合、普通解雇としての効力
が認められるかどうかについて考えるに、普通解雇に該当する事由が存在する限り
は、普通解雇としての効力を生ずるものと解する。けだし、懲戒解雇の事由ありと
してなす解雇であつても普通解雇としての告知をしている以上、法律上普通解雇の
意思表示がなされたものと解すべく、普通解雇の要件の存在する限りは、普通解雇
の効力を認めざるを得ないと考えられるからである。
 そこで次に、「かりに被控訴人らの行為が懲戒解雇事由に該当しないとしても、
就業規則第一五条第三号のやむを得ない事由には該当するから、本件解雇は有効で
ある」旨の控訴人の主張について判断する。
 成立に争のない乙第一八号証の二、三(控訴会社の就業規則)の第一五条による
と、「従業員が次の各号の一に該当するときは、三〇日前に予告して解雇する。但
し会社が必要とするときは平均賃金の三〇日分を支給して即時解雇する。ただし、
労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。1精神又は身体の障害により業務
に耐えられないとき。2天災事変その他已むを得ない事由のため事業の継続が不可
能となつたとき。3その他前各号に準ずる程度の已むを得ない事由があるとき。」
となつていることが認められる。そうすると、右条項にいう已むを得ない事由と
は、就労困難な心神の障害や天災事変等による事業の廃止に準ずるような事由を指
し、本件事案のような懲戒解雇事由に至らない程度の非違行為を指さないことが明
らかである。むしろ、職場規律、経営秩序に対する違反行為は、その程度に応じて
懲戒処分により措置し、前記の条項によつては解雇しないのが就業規則の本旨とす
るところであると解される。もとより已むを得ない事由の判断に当つては、本人の
行動態度も無関係ではなく、たとえば、職務に対する甚だしい不適格性のごときも
考慮に入るであろうが、さきに認定した被控訴人らの行為の程度では、いまだ職務
に対する甚だしい不適格性ないしは已むを得ない事由が存すると認めることはでき
ない。
 よつて、控訴人の前記主張は採用することができない。
 また控訴人は、「かりに被控訴人らの行為が、懲戒解雇事由に該当せず、また就
業規則第一五条第三号の已むを得ない事由に該当しないとしても、使用者はほんら
い解雇の自由を有するから、本件解雇は有効である」旨主張する。
 わが国の実定法上、解雇につき別段の事由を必要とする旨を定めた規定は存在せ
ず、その限りにおいて、使用者は解雇の自由を有すると称し得る。しかし、解雇の
自由を有するといつても、就業規則に解雇の事由を定めた場合には、その規則に拘
束を受けるのであり、また、解雇の権利を濫用することの許されないことはいうま
でもない。本件においては、結局、控訴人のなした解雇を、解雇権の濫用にあたる
ものと判断し、その解雇の効力を認めなかつたものであつて、控訴人の右の主張は
理由がない。
六 控訴人はまた、「かりに被控訴人らが原判決別紙(一)賃金表記載の金員を請
求する権利があるとしても、控訴人は、諸税金、諸保険料を源泉徴収すべき義務が
あるので、判決においては、右賃金表の金額から別表記載の金員を控除した金額に
ついて、支払が命ぜらるべきである」旨主張する。
 しかしながら、まず諸保険料についていえば、これらの保険料を賃金から控除す
ることはなんら使用者の義務ではない。すなわち、失業保険法第三四条第一項第三
三条、健康保険法第七七条第七八条第一項、厚生年金法第八二条第二項第八四条第
一項等の規定によると、これらの保険料を納付する義務を負担しているのは、労働
者でなくして事業主であり、事業主として自己の出捐によつて保険料を納入して当
然なのであるが、保険料の中に労働者負担分なるものがあり、結局使用者は労働者
よりその分を取立てることになるので、取立の便宜の措置として、賃金から控除す
ることが許されているにすぎないことが明らかである。そうであるから事業主にお
いて未だ保険料を納付していないにかかわらず、判決において諸保険料を控除する
と、法律の所期するところを越えて事業主に利便を与える結果になり、妥当ではな
いといわなければならない(前記の諸規定の趣旨からすると、労働者が判決に基づ
く強制執行によつて、賃金全額の満足を得、その後に使用者が諸保険料取立のため
債務名義を要することとなつてもやむを得ないというべきである)。
 次に税金についていえば、所得税法第一八三条、地方税法第三二一条の五等の規
定によると、使用者は、諸保険料の場合と異なり、右各税金について源泉徴収の義
務を負つていることが明らかである。
 しかしながら、源泉徴収は、その事務の性質上、使用者が任意に賃金を支払う場
合において負担する義務であり、その意に反して強制執行により取立を受ける場合
においてまで負担する義務ではないと解するのが相当である。したがつて、裁判所
としては、賃金の全額について支払を命ずべきであり、労働者が強制執行により賃
金の取立をした場合においては、税務官庁は労働者より税金を徴収すべく、使用者
に源泉徴収の責任を問うべきではないこととなる。
 なお付言すると、使用者が判決に従い任意に賃金支払義務を履行する場合におい
ては、賃金より税金の源泉徴収を行ない又は諸保険料の控除をなし得ることは当然
である。
 よつて、控訴人の前記主張も失当である。
以上の次第で、原判決は相当で本件各控訴は理由がないからこれを棄却することと
し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 橘盛行 今中道信 藤原弘道)
<17582-001>
<17582-002>
〔参考資料〕
仮処分申請事件
(高知地方昭和四一年(ヨ)第一七五号 昭和四三年七月三日判決)
(申請人 D外三名  被申請人 株式会社高知放送)
       主   文
 申請人ら四名が、被申請人に対して雇用契約上の権利を有する地位を仮に定め
る。
 被申請人は、申請人ら四名に対し、昭和四一年九月三日以降本案判決確定に至る
まで毎月ニ五日限り、別紙(一)賃金表記載の各金員を支払え。
 申請費用は被申請人の負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
 申請人ら訴訟代理人は、主文第一、ニ項と同旨の判決を求め、被申請人訴訟代理
人は、「申請人らの本件仮処分申請はいずれもこれを棄却する。申請費用は申請人
らの負担とする。」との判決を求めた。
第二 申請の理由
一(一) 被申請人は、肩書地において従業員約一八〇名を雇用し、テレビ・ラジ
オの放送事業を営む株式会社である。
(ニ) 申請人ら四名は、いずれも被申請人に雇用されて、被申請人の本社事業場
に勤務している従業員であり、また、被申請人の従業員をもつて組織されている高
知放送労働組合(以下、単に組合という。)の組合員である。
ニ(一) 被申請人は、昭和四一年九月三日付けをもつて、申請人ら四名に対し、
いずれも解雇する旨の意思表示をなしたが、その解雇理由は、「貴殿は、就業規則
第三三条第六号等に違反し、同第四八条第一号、第三号等に該当し、その情状が重
いので、同第四九条第五号に則り懲戒解雇すべきところであるが、本人の再就職な
ど将来のことを考慮して普通解雇とする。」というものである。
(ニ) ところで、右就業規則の各該当条号は次のとおりである。
第三三条 従業員は、業務の特殊性を自覚するとともに所定の規則を守り、従業員
相互の人格を尊重し、協力して職務の誠実な遂行と職場秩序の保持に努力しなけれ
ばならない。
6 会社の名誉、信用を傷つけまたは業務上の秘密を漏らすなど会社に不利益を与
えてはならない。
第四八条 従業員が次の各号の一に該当するときは、これを懲戒する。
1 服務規律に違反し、その程度が重いとき。
3 正当な理由がなく会社の諸規定、支持に従わず、また事業の内外を問わず不正
な行為があつたとき。
第四九条 懲戒は始末書をとり、その程度により次の一またはニ以上を合わせ行な
う。
1 けん責-将来をいましめる。
2 減給-一回の額が平均賃金の一日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金
総額の一〇分の一の範囲内で行なう。
3 出勤停止-期間を一〇日以内とし、この間における一切の給与を停止する。
4 懲戒休職-期間を三ヶ月以内とし、この間における一切の給与を停止する。
5 懲戒解雇-即時解雇する。
三 しかしながら、申請人ら四名に対する右各解雇の意思表示(以下、本件解雇と
いう。)は、いずれも、次の理由により無効である。
(一)解雇理由の不特定、不明確
 本件解雇の理由は、前記のとおり、「就業規則第三三条第六号に違反し、同第四
八条第一号、第三号等に該当し、」とあるのみで、申請人ら四名のいかなる行為
が、いかなる具体的事実が解雇理由とされたのか不明である。
 ところで、被申請人は、本件仮処分審理手続において、初めて本件解雇理由を明
らかにするに至つたが、それは、二回にわたつて追加的に主張するという形でなさ
れたものであり、しかも、被申請人の主張する解雇理由は、いずれも、昭和四一年
度の春季要求において組合のなした一連の争議行為に関し、申請人ら四名の争議行
為責任を追及するというものであるところ、右責任追及がいずれも申請人ら四名の
具体的行為に対する責任追及であるのか、または申請人ら四名が組合三役(委員
長、副委員長、書記長)であつたことによる幹部責任としての責任追求であるのか
さえ、必ずしも明確にされていなかつたのである
 以上のような事実に照らせば、本件解雇は、解雇時において、解雇理由が不特
定、不明確の状態でなされたことが明らかであるから、解雇理由を欠くものという
べきであり、従つて、就業規則の適用を誤つたものとして、明らかに無効であると
いわなければならない。
(二) 不当労働行為
1(1) 申請人Dは、昭和三六年度組合書記長(以下、書記長という。)、同三
七年度組合執行委員長(以下、委員長という。)、三八年度組合執行委員(以下、
執行委員という。)、三九年度書記長、四〇年度、四一年度委員長にそれぞれ選出
され、今日に至つている。
(2) 申請人Cは、昭和三四年度夏期一時金要求における闘争委員長、三五年度
より三七年度までの三年間執行委員、三九年度執行委員、四〇年度書記長、四一年
度副委員長にそれぞれ選出され、今日に至つている。
(3) 申請人Eは、昭和三八年一二月に執行委員に補充選出され、三九年度、四
〇年度副委員長、四一年度執行委員にそれぞれ選出され、今日に至つている。
(4) 申請人Fは、昭和三九年度書記次長、四〇年度副委員長、四一年度執行委
員および代議員会議長にそれぞれ選出され、今日に至つている。
2(1) ところで、昭和三五年当時、組合はラジオ高知労働組合と称していた
が、完全な労使協議協調主義に立脚する組合であつて、被申請人の提示する条件を
組合執行部が組合員に説得して了解に努めるというような状況であつたところ、同
年以降三年間の期限をもつて労使間に安定賃金協定が結ばれ、賃金その他の労働条
件が被申請人の思うままに組合員に押しつけられるとうようなことになつた。
(2) ところが、昭和三六年被申請人がテレビ部門を開設するにあたり、新たに
同部門に勤務する従業員として雇用した者の中から、同年書記長として申請人D、
執行委員(組織部長)として申請人Cがそれぞれ選出され、その時から両名を中心
に、組合員は労働者としての自覚と権利意識にめざめ、組合の組織化に積極的に取
組むようになつていつた。
(3) まず、安定賃金協定が労働者に劣悪な賃金や労働条件を強いるものである
ことを明らかにするため、学習活動を組織するとともに、右協定の範囲外にあつた
夏、冬の一時金要求闘争に取組むこととし、同年一二月には、全面二四時間ストラ
イキを実施したところ、右ストライキ後、被申請人は「書記長のDの首を切る」と
いう意向をもらしていた。
(4) 昭和三七年度委員長に選出された申請人Dは、同じく執行委員(組織部
長)に選出された申請人Cとともに引き続き組合内に学習活動を強化し、夏、冬の
一時金要求闘争にストライキを実施して要求を解決し、大衆的な討議と職場を基礎
にした要求にもとづく組合活動の基盤を着々と形成していつた。
(5) この頃から、被申請人は従業員を労使協調路線に引きずり込むための呼び
かけを行なうとともに、組合のストライキを批判する文書を従業員の間に配付し、
組合執行部を「灰色の思想の持主」とか「組合至上主義者」などと中傷ひぼうする
に至つた。
(6) 昭和三八年八月申請人Dは執行委員(法規対策部長)に、同年一二月申請
人Eは執行委員(組織担当)に、それぞれ選出されたが、同年は有給休暇その他の
労働基準法遵守の点検闘争に取組んだ結果、被申請人をして遂に「今後労働基準法
を守つて正しい労務管理を行ないます。」との社長名の告示を社内に掲示させ、さ
らに、昭和三九年一月には安定賃金協定を執行するに至らしめた。
(7) ところで、このような形で組合活動が進められて来ると、被申請人の重役
たちは、ことさらに申請人らを嫌悪し、社内で出会つても顔をそむけて通りすぎる
ありさまであつたが、他方、被申請人は、多数の職制を設けるとともに、新しく申
請外高知新聞社(以下、単に新聞社という。)から総務局長としてAを迎え入れ、
組合対策に本格的に取組むようになつた。
 そして、同年四月被申請人は、これまで慣行的に行なつてきた組合費のチエツ
ク・オフ制を一方的に打切り、社内施設の利用についても許可基準を設けるなどし
て組合活動の規制を強化し、さらに、当時時間外労働協定をめぐつて組合と被申請
人間に見解の対立が生じ、組合がストライキを実施して被申請人の一方的な勤務時
間の変更命令に対抗したのに対し、当時の組合執行部三役に出勤停止一週間という
懲戒処分をもつて臨むなどして、A総務局長を頭とする被申請人の組合対策、組合
攻撃は日毎に激しさを加えていつた。
(8) 同年七月申請人Dは書記長に、同Cは執行委員(組織部長)に、同Eは復
位委員長に、同Fは書記次長にそれぞれ選出され、委員長Gを中心にして組合の組
織強化と民主的運営に力を注いだ。
 ところで、同年度の春季要求は、同年七月に解決し、八月に支給されたが、その
賃上げ額には、それまでに行なわれていなかつた男女の賃金差別が実施されていた
ので、組合はこれに反対し、差別賃金撤回の闘争を組合内にとどまらず地域の労働
者に呼びかけて実施した。
(9) すると被申請人は、このような組合の闘争方針に対し、闘争を地域に広め
ることは、企業を無視した闘争至上主義であり、企業破壊の思想であるなどと組合
攻撃を行ない、組合が地域の労働者と階級的に連帯し共闘を結ぶことを非難中傷
し、組合の運営に支配介入する態度を明らかにして来た。
(10) 昭和四〇年七月、申請人Dは委員長に、同Cは書記長に、同Eおよび同
Fはいずれも副委員長に、それぞれ選出され、組合執行部を中心として昭和四一年
度の春季要求をなすに至つた。
3(1) 同年二月一五日組合は、同年度春季要求として被申請人に対し、次の内
容の要求事項を提出し、同年三月一日までにその回答を求めた。
(イ) 一律六、〇〇〇円の基本給増額
(ロ) 年令ごとに平均三、〇〇〇円の増額
(ハ) 現行の賃金体系を是正するため、平均一、〇〇〇円を当てること
(ニ) 諸要求については、すでに提出している各項目について継続的に交渉を進
めること
(2) これに対し被申請人は、三月一日には回答をなさず、四月一日になつて、
平均三、〇〇〇円を増額する、ただし配分内容その他については今後の交渉によつ
て決める旨の回答をなした。そしてその後、同月一五日には平均三、三〇〇円を増
額する旨のいわゆる第二次回答をなしたが、その配分内容を明示しないまま交渉を
長びかせ、同月三〇日になつて、ようやく配分内容を、基本給増額分(平均)一、
四五〇円、一律増額分一、〇五〇円、査定分八〇〇円(ただし、査定内容は、最低
四〇〇円から最高一、二〇〇円まできざみの五段階に分けるもの)とする旨回答し
た。
(3) そこで組合は、被申請人に対し、三、三〇〇円の第二次回答はともかくと
して、右のような格差の大きい査定内容には応じられないとして、格差是正につい
て交渉を申し入れたところ、被申請人はこれを了承せず、五月に入つてからは組合
との団代交渉を一切拒否し、同月一五日になつてやつと開かれた団体交渉におい
て、四月三〇日の回答は永久不変のものであり、組合がこれを受け入れるというな
ら、その説明のための団体交渉には応じるが、それ以外の団体交渉には一切応じな
い旨意思を表明した。
(4) そこで組合は、被申請人の右態度表明に対して反省を求めるとともに、切
実な組合員の要求を貫徹するため、同月一六日から一九日までの間、営業管理部、
テレビ進行部およびテレビ技術部の組合員に対し、部分、時限ストライキを指示
し、これを実行させた。
(5) ところが、被申請人は、五月ニ〇日午前五時組合に対し、「ロツクアウト
宣言」を通告し、本社社屋から、当時の組合員八六名を締出した。
(6) 右「ロツクアウト」は、以後、同年八月一ニ日までの八五日間続けられた
が、組合は同年七月一五日「ロツクアウト」の違法を理由として、被申請人を相手
に高知地方裁判所に対し、「ロツクアウト」期間中の賃金支払いの仮処分命令を申
請した。
(7) 右「ロツクアウト」は、先制的、攻撃的のものであるうえ、組合の団結を
否認ないし弱化させる目的でなされたのであつて、同年六月一〇日組合が四一年春
季要求に対する被申請人の回答を受諾する旨回答したのちにおいても、被申請人は
なおこれを中止しなかつたため、組合員はあい次いで脱退し、現在三九名に激減し
ている状態である。
(8) このようにして、四一年春季要求は、組合員が被申請人の回答を全面的に
受諾することにより同年八月一ニ日終結したところ、被申請人は、同月三〇日申請
人ら四名を個別に呼び出して、「自分の将来を考えるなら今の内に辞表を出した方
がよい。」などといつて、暗に解雇をほのめかして脅迫し、申請人ら四名が辞表の
提出を拒否するや、本件解雇を通告するに至つたものである。
4 以上のとおり、申請人ら四名は、いずれも組合執行部の中心的役割を果たして
きた者であるが、右解雇の経緯および申請人ら四名の組合活動に対する被申請人重
役の日頃の嫌悪の態度から明らかなとおり、本件解雇は、申請人ら四名が正当な組
合活動をしたことの故をもつて、申請人ら四名を被申請人企業内から放逐せんとす
る意図のもとになされた不利益取扱いであるから、労働組合法第七条第一号の不当
労働行為に該当し、無効のものである。
(三) 解雇権の濫用
 仮に、本件解雇に理由が存するものとしても、その理由は、当初組合がビラを配
布して被申請人をひぼうしたことと、組合員が被申請人の重役宅に不法侵入したこ
とに対する責任追及の二点のみであつたところ、被申請人は、のちになつて、つぎ
つぎと解雇理由としてその他の事実を付加補強し、これを幹部責任の追及という名
のもとに、本件解雇の理由として根拠づけようとしている。
 しかし、仮に、昭和四一年度の春季争議(以下、本件争議という。)において、
組合の実施した争議行為に、多少行き過ぎた点があつたとしても、その行き過ぎ
は、いまだ被申請人の経営秩序の維持、生産性の阻害を招来するようなものではな
かつたのであるし、また組合の実施した争議行為は、いずれも組合大会、闘争委員
会、中央闘争委員会の段階的決定にもとづいて争議手段として採択されたものであ
り、しかも、被申請人の「ロツクアウト」実施という非常事態の発生している中で
なされたものであるから、これらの諸事情を考慮すれば、申請人ら四名が組合の三
役であるという一事をもつて、ただちに解雇に値するものということは到底許され
ないところであり、本件解雇は、解雇権の濫用として無効のものである。
四 申請人ら四名が、毎月二五日に被申請人から支給を受けていた平均賃金の額
は、それぞれ別紙(一)賃金表記載のとおりである。
五 申請人ら四名は、被申請人に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認と賃
金の支払を訴求しようとするものであるが、いずれも被申請人から支給される賃金
を唯一の収入として生計を維持している労働者であるから、本案判決が確定するま
で被申請人から従業員として扱われず、その賃金が支払われないことにより、生活
に著しい損害を被るおそれがある。
六 よつて、申請人ら四名は、被申請人との間に、いずれも申請人ら四名が雇用契
約上の権利を有する地位を仮に定め、かつ、被申請人に対し、申請人ら四名がそれ
ぞれ従業員として支給されていた前記各平均賃金を、本件解雇がなされた昭和四一
年九月三日から本案判決確定の日まで毎月二五日限り支払うことを求めるため、本
件仮処分申請におよんだ。
第三 被申請人の答弁
一 申請の理由一、二の事実は、いずれも認める。
二 同三の事実について、
(一)は争う。
(二)のうち、2はすべて争う。
3(1)は認める。
 同(2)は、三月一日被申請人が回答をしなかつたこと、四月一日被申請人が平
均三、〇〇〇円を増額する旨の回答をしたこと、同月一五日被申請人が申請人ら主
張のような第二次回答をしたことおよび同月三〇日被申請人が、申請人ら主張のと
おりの配分内容を回答したことは、いずれも認める。その余は争う。
 同(3)は、組合が被申請人に対し、第二次回答の査定内容を不満として、団体
交渉を申入れたことおよび五月に入つてから一四日までの間組合と被申請人間に団
体交渉が開かれなかつたことはいずれも認める。五月一四日団体交渉が開かれた
が、双方とも四月三〇日の態度に変化が見られなかつたため、決裂したものであ
る。
 同(4)は、組合が五月一六日から一九日までの間、申請人ら主張の三部門の組
合員に部分、時限ストライキを指示し実効させたことは認める。その余は争う。
 同(5)は、被申請人が同月二〇日午前五時組合に対し、ロツクアウトの通告書
を交付して、本社社屋から組合員を締出したことは認める。
 同(6)は認める。
 同(7)は争う。組合は六月一〇日の団体交渉において、第二次回答を了解する
と称したが、了解の範囲は、組合の要求事項のうち、諸要求を除く三項目にとどま
り、その後も争議行為を継続していたので、被申請人は、その争議行為に対抗して
ロツクアウトを継続したものである。また、組合からの脱退者があい次いだのは、
組合執行部の誤つた闘争至上主義に対する批判の表われによるものである。
 同(8)は、組合の昭和四一年度春季要求が、八月一二日組合、被申請人双方の
合意点に達し、妥結したことおよび、被申請人が申請人ら四名に対し、退職を勧告
したことは、いずれも認める。その余は争う。
4は争う。
(三)はすべて争う。
三 同四の事実中、被申請人の申請人ら四名に対する賃金の支給日が毎月二五日で
あつたことは認める。
四 同五の事実はすべて争う。
第四 被申請人の主張(本件解雇の理由)
一 組合ないし組合員は、本件争議において、次のとおり数々の違法な争議行為を
実施した。
(一) ビラの配布による会社ひぼう
 被申請人は、放送事業を営む企業であるから、真実の報道を迅速、正確に放送す
るのが最も重要な社会的、公共的使命であるところ、組合は、被申請人の使命を知
悉しながら、「会社のテレビ・ラジオ放送等は必ずしも真実は伝えず、事実は隠さ
れている。我々労働者はこのことを知つており、真実の報道をすべく闘いを進めて
いる。経営者は、言論統制による戦争へのマスコミ利用を狙つている政府と結託し
て、我々を弾圧しようとしている。」などと、あたかも、被申請人がことさらに真
実を隠ぺいして虚偽の報道を放送しているかのように、真実に反し、かつ、被申請
人らをひぼうする内容の記載されているビラを多数の一般市民に配布して、被申請
人の名誉、信用を傷つけ、よつて重大な不利益を与えた。
(二) ミニストの実施
 組合と被申請人間においては、ストライキをなすにつき事前に通告することが労
働慣行となつているのに、組合は昭和四一年五月一七日以降右慣行を無視して、無
通告または事後通告をもつて短時間・反復・時限ストライキ(以下、ミニストと称
す。)を実施した。これは、組合がミニストを実施することにより、積極的に被申
請人の放送業務の運行を妨害せんとしたものであつて、このようなミニストは、積
極的サボタージユの性質を帯びるものとして、違法な争議行為というべきである。
(三) ロツクアウト告示の破棄
 同月二〇日の早朝被申請人が、本社社屋正面玄関と南側出入口の壁に、いずれも
「ロツクアウトの告示」を掲示したところ、同日午前八時二〇分ごろ組合員がこれ
を毀棄してしまつたので、被申請人は,同日午前一〇時一〇分ごろ再び同一場所に
同一内容の告示を掲示したところ、これもまた組合員が破棄した。
 仮に、右の各告示を破棄した者が組合員でないとしても、組合支援団体員が、こ
れらを破棄したものである。
(四) センターおよび新聞社社屋内への立入り
 被申請人が、右のとおりロツクアウトを実施してから数日間、連日組合は、組合
員数十名をもつて、新聞社の警備員の警告や制止にもかかわらず、申請外高知広告
センター(これのみを以下、単にセンターという。)および新聞社(以下、センタ
ーも含めて両社という。)社屋内の通路に立入り、通路をふさいで、被申請人の非
組合員のみならず、両社の従業員や来客の通行を妨害し、さらに、拡声器を使用し
て大声をあげるなどして、被申請人やセンターなどの業務の執行を不能ならしめ
た。
(五) 新聞社社屋への立入りとドア損壊
 同月二二日組合は、組合員約三〇名をもつてセンター入口から両社社屋内の通路
に立入り、警備員がこれを阻止しようとしたのを突破して、新聞社三階の被申請人
社屋入口まで立入り、同所で被申請人から通行を拒否されたにもかかわらず、組合
員のうち五名は、あえて右入口のドアを叩いたり身体で押したりなどして、これを
損壊した。
(六) 両社社屋内への立入りとすわり込み
 組合は、同年六月二日から四日までの三日間連日、組合員二十数名をもつて、新
聞社警備員の制止にもかかわらず、センター入口から両社社屋内に立入り、新聞社
の二階から三階に通ずる階段等にすわり込んだりして、被申請人の従業員のみなら
ず、両社従業員の通行を妨害するなどした。
(七) 電報開披
 同月二〇日申請外ラジオ中国総務局長Hから、被申請人総務局長宛に発信された
「ロツクアウトの御成功を念願し、御健闘を祈る。」旨の内容の電報が、誤つて組
合に配達されたところ、組合は、右電報を、ただちに電報局に返還するかまたはそ
の旨を電話するとともに信書の秘密を守るべき義務があるにもかかわらず、あえ
て、これを開披し、さらに、その内容を右Hの勤務するラジオ中国の従業員をもつ
て組織されている申請外ラジオ中国労働組合に通報し、あるいは、組合機関誌に公
表するなどして、組合活動にこれを利用し、もつて、信書の秘密を犯した。
(八) ピケツテイング
 組合は、同月二一日から数日間、組合員多数をもつて、連日被申請人の非組合員
が本社社屋の出入口として使用していたセンター入口附近にピケツトを張り、平和
的説得の範囲を越えて実力を行使し、非組合員の出入りを妨害した。
(九) ビラ貼りと風船揚げ
 組合は、就業規則第四八条第八号により、社屋内における文書等の貼付、配布行
為が禁止されており、かつ被申請人の制止すべき旨の警告にもかかわらず、争議行
為として、社屋内で執務している従業員の机上に、アジ宣伝文句を記入した風船を
揚げ、また、同月二三日社屋正面玄関の壁全面にわたつて、多数のビラを貼付し、
もつて、社屋の美観を失わせるとともに、被申請人の名誉および信用を失墜させ
た。
(一〇) 会社施設の使用
 組合は、服務規律第三三条第一〇号により、あらかじめ、被申請人の許可を受け
ることなく、被申請人の施設を使用することができないのに、本件争議の闘争資金
を獲得する目的をもつて、被申請人の管理する高知市<以下略>所在の社員アパー
ト三階娯楽室および食堂内に許可なく立入り、被申請人の施設および備品を使用し
て、テレビその他電気製品の修理を行なつたほか、許可なく社屋風呂場を物置とし
て使用し、さらに、被申請人の承諾なくして組合書記局への電話架線引込み工事を
なして社屋の一部を損壊した。
(二) 会社役員の私宅訪問
 同月七日組合は、組合員多数を三班に分けて、被申請人の経営とは何ら関係もな
い被申請人代表取締役I、同常務取締役J、同総務局長Aの各自宅に赴かせ、その
家族に面会を求めて抗議させるなどし、中でもJ宅においては、閉めてあつた門戸
を開けて邸内に立入り、わめきながら玄関の戸を叩くなどして、家人に面会を強要
した。
二(一) 一般に組合幹部は、組合の最高責任者として、組合員または組合支援団
体員による行為が、違法行為にわたるような場合には、それを防止または阻止すべ
き義務があるものであり、また、組合機関の誤つた決定に対しても、これに拘束さ
れることなく、その執行を拒否すべき義務を負うものである。そして、右の義務
は、争議行為が企業経営に重大な影響をおよぼすものである以上、使用物に対する
義務であると解すべきである。
(二) ところで、本件争議当時、申請人Dは委員長、同Eおよび同Fはいずれも
副委員長、同Cは書記長として、組合執行委員会を構成し、平常の場合と争議の場
合とを問わず、組合業務の執行につき、最高責任者としての地位にあつたものであ
り、また、申請人ら四名は、組合が争議状態に入つている時には、いずれも闘争委
員として争議行為のすべてを企画、指令、遂行させる地位にあつた。
(三) そして、さらに、申請人ら四名は、それぞれ右一の各違法争議行為のう
ち、次のものを自らも実行した。
(一) 申請人D、同F、同Cにつき(五)の両社社屋内立入りならびにドア損壊
行為。
(二) 申請人C、同Eにつき、(四)の両社社屋内への立入り、通行妨害ならび
に業務妨害行為。
(三) 申請人Cにつき、(七)の電報開披行為。
(四) 申請人Fにつき、(二)の被申請人重役宅家族への面会行為。
四(一) 申請人ら四名は、右二で主張したとおり、組合幹部として右一の組合員
または組合支援団体員のなした各違法争議行為につき、これを企画、指令、遂行さ
せたもの、またはこれを阻止しえたにかかわらず阻止しなかつたものとして、被申
請人に対し、一般組合員に比し、加重された責任があるものというべきである。
(二) なお一般に、組合幹部は、反証のない限り、争議行為のすべてを企画、指
令、遂行させたものと推定されるから、申請人ら四名は、右一の各違法争議行為に
つき、この点においても責任がある。
(三) さらに、申請人ら四名は、右三で主張したとおり、右一の違法争議行為の
一部を自ら実行しているから、それぞれ、当該違法争議行為の実行者としての責任
をも負うべきものである。
五 ところで、申請人ら四名の勤務成績は、いずれも被申請人従業員のうちで下位
に属するものであるところ、
(一) 申請人Dは、アナウンス担当員として勤務中、正当な理由がないのに職場
を離脱し、おりからなすべき放送職務を果し得なかつたために、昭和三九年一二月
二九日、被申請人から始末書の提出を命ぜられた。
(二) 申請人Cは、たびたび注意されていたのに無断欠勤や遅刻を反復したた
め、昭和三八年七月一二日被申請人から懲戒休職一ヵ月に処せられた。
(三) 申請人Eは、上司の職務上の指示ないし命令に従わず、これに反抗して放
送業務の運行に支障を生じさせたため、昭和四〇年六月一日、被申請人から懲戒休
職三ヶ月に処せられた。
六(一) 申請人ら四名は、右四で主張したとおり、組合幹部として、ならびに組
合員として、いずれも別紙(二)記載の被申請人の就業規則所定の第四章「服務規
律」第三三条第六号、第一〇号および第一一号に違反し、第一〇章「懲戒」第四八
条第一号、第三号および第八号に該当するので、右五で主張した申請人ら四名の各
勤務成績、処分前歴を情状として考慮すると、いずれも同第四九条第五号所定の懲
戒解雇に相当するものである。
 しかし、およそ懲戒解雇は、懲戒処分として極刑であり、これを受ける者として
は、対内的対外的に著しい不利益を被るおそれがあるので、被申請人としては、申
請人ら四名の再就職その他将来を考慮して、いずれも懲戒解雇に代えて普通解雇と
したものである。
(二) 仮に、右組合幹部責任および個別的実行責任が、申請人ら四名の情状など
に照らし、いずれも就業規則所定の懲戒解雇に相当しないとしても、右各責任は、
いずれも普通解雇事由たる就業規則第一五条第三号所定の「やむを得ない事由」に
該当するものである。
(三) 仮に、以上の各主張がいずれも認められないとしても、使用者は本来解雇
の自由を有するものであるから、使用者が就業規則において解雇事由を設けている
場合には、それが制限的列挙である旨明示されていない以上、例示的列挙であると
解すべきものである。そして本件の場合、就業規則第一五条には解雇事由につき、
制限的列挙である旨の表示が何ら存しないので、申請人ら四名の右各責任が同条号
所定の解雇事由に該当しないとしても、その情状に照らし、普通解雇事由があるも
のとして、解雇することができると解すべきである。
第五 申請人らの主張(本件解雇理由に対する答弁と反論)
一(一) 被申請人主張の第四、一、(一)の事実中、組合が被申請人主張のよう
な内容のビラを配布した点は認めるが、その余は否認する。
 右ビラの内容は、いずれも現在のテレビ・ラジオ放送事業の実態をそのまま伝え
たものであつて、「真実を伝えていない」ということは「虚偽の放送をしている」
ということを意味するものではなく、組合が、勤労市民に対し、思想、表現の自由
を守るたたかいを呼びかけ、言論統制と組合や組合員の諸権利に対する抑圧とが必
ずしも無関係でないことを知らせようとしたものである。しかも、文書による宣伝
活動は、労働組合にとつて、本来その集団性維持のため不可欠の要素としての意義
を有するものであり、それは、単に、組合員の団結強化のためばかりでなく、一般
労働者や市民などに争議の実態を知らせ、それらの人々の連帯感情に訴えて支援を
要請するためにも用いられるものであつて、右のような文書による宣伝活動は、当
然に正当な争議手段に属するものである。
(二)同第四、一、(二)の事実中、組合が五月一七日以降短時間の時限ストライ
キを実施した点は認めるが、その余は否認する。
 組合が、短時間時限ストライキを実施するに至つたのは、一方において、被申請
人の放送業務の機械化、自動化が進められ、また、争議時にストライキに入つた者
の代替要員となりうる職制が多数増員された結果、通常のストライキを実施しても
実効性があがらなくなつたことと、他方において、地方放送局の特殊性から、被申
請人が独自にコマーシヤル等を製作放送する時間帯におけるストライキの実施のみ
が実効性を有し、しかも、右時間帯は一定の間隔をおいて存在するため、そのよう
な時間帯をねらつて実施するストライキは、必然的に、短時間・時限・波状的・反
復的なものとならざるをえないことによるものである。そして、右のような短時
間・時限ストライキは、それによつて、阻害される被申請人の業務としても、当該
ストライキ実施時間中におけるもののみであつて、ストライキが解除されれば、即
刻旧に復して、別段爾後の放送業務の運行に支障を及ぼすようなものではないの
で、業務妨害などとして、何ら違法視されるいわれのないものであり、また、スト
ライキに入る組合員は、ストライキ時間中一切の労務の提供を拒否して、職場外に
出ているのであるから、サボタージユでないことも明白なところである。
(三) 同第四、一、(三)の事実中、被申請人主張の日に、「ロツクアウトの告
示」が掲示された点は認めるが、その余は否認する。
 告示の破棄については、組合および組合員の全く関知しないところであり、申請
外高知県総評会長Kと同事務局長Lが破棄したものである。
(四) 同第四、一、(四)の事実中、「ロツクアウト」実施後の五月二〇日以降
数日間、両社社屋内の通路に組合員が立入つた点ならびに組合員が社屋外から、被
申請人社屋三階に向つて、拡声器を使用して意思を伝達した点は認めるが、その余
は否認する。
 それらは、いずれも「ロツクアウト」実施に対する抗議と就労要求の方法として
とられたものであつて、非組合員その他の者の通行や執務を妨害する意図に出たも
のではない。しかも、右通路は、平常時において、被申請人従業員も一般に通行を
容認されていたばかりでなく、当然のことながら、「ロツクアウト」の範囲内にも
含まれていないので、組合員が被申請人に対し、就労を要求するために、同通路を
通行することは何ら支障がない筈であり、被申請人が「ロツクアウト」をしたから
といつて、第三者であるセンターが、従来まで容認していた被申請人従業員(組合
員がロツクアウトをうけたとしても、従業員としての地位を失うものではない。)
の通行を阻止すべき根拠は全く認められない。しかし、仮に、「ロツクアウト」後
のセンターの通行禁止の措置が適法であり、組合員のセンター入口からの立ち入り
行為が不法行為にあたるとしても、それはセンターに対するものであつて、被申請
人に対する不法行為ではありえないから、右通路への立入りを理由として、被申請
人が組合員に対し、懲戒権を行使することは到底許されないところである。そして
また、右立入り行為は別段暴力の行使を伴うものではなく、しかも長く滞留してい
たときでも二〇分間位であつたのであるから、これらの事実をもつて、組合の実施
した争議行為の全体が違法性を帯びるものでないことを明らかである。
(五) 同第四、一、(五)の事実中、被申請人主張の新聞社三階の被申請人社屋
入口まで組合員五名が立入つた点は認めるが、その余は否認する。
 右(四)で主張したとおり、本来、被申請人社屋への通路の一つとして、センタ
ー入口からの通行が認められており、平常、被申請人従業員が同入口を使用して社
屋に出入りしていたのであるが、被申請人が「ロツクアウト」を実施すると、両社
はこれに呼応して、センター入口に警備員を配置し、組合員が新聞社三階から被申
請人社屋入口へ行こうとするのを妨害するに至つたため、組合員らが、被申請人と
話合うため同入口まで通行させるよう警備員に申入れた結果、警備員も組合代表五
名に対してその通行を認めたので、組合員五名が同入口まで赴いたのである。しか
し、同入口のドアは、施錠されていたので、組合員らはこれをノックするなどした
が、被申請人が全く話合いに応じようとしなかつたため、何らの衝突も起こさず引
返して来たのであつて、その際組合員が右ドアを損壊するというような行動に出た
ことはない。
(六) 同第四、一、(六)の事実中、組合員二〇名余が被申請人主張の階段の所
まで立入り、同所ですわり込んだ点は認めるが、その余は否認する。
 被申請人は「ロツクアウト」実施後、組合からのたび重なる団体交渉の申入れと
就労要求に対し、一切耳をかさず、六月に入つても争議打開のため誠意のある態度
を示さないので、組合員らはやむをえず、「ロツクアウト」されている社屋入口に
おいて、就労要求と団体交渉の申入れをなしたものである。そして、すわり込んだ
時間は二〇分間位であつて、その態様も階段の一方に寄つて、通路部分はあけ、非
組合員らの通行は確保するように配慮していたのである。しかも、(四)および
(五)で主張したとおり、すわり込んだ場所は、「ロツクアウト」の範囲外であ
り、被申請人従業員が平常通行を容認されている場所であるから、何ら被申請人に
対する不法行為を構成するものではなく、従つて、懲戒権行使の対象になりうる筈
もない。
(七) 同第四、一、(七)の事実中、被申請人主張の電報が組合に誤つて配達さ
れたことは認めるが、その余は否認する。
 当時、「ロツクアウト」を受けた組合に対し、全国各地の民放労連傘下の組合
や、民主団体などから激励の電報があい次いで届いていたので、それらを組合員が
つぎつぎと開披し、その場にいた組合員に朗読していたところ、それらの電報の中
に被申請人主張の電報が一通まじつていたため、朗読後になつて、宛名を確かめ、
誤配の事実が判明したものである。しかも、当時、「ロツクアウト」直後の混乱し
た事態の下にあつたので、右電報の開披は全く避けがたい状態にあつたのである。
なお、組合は、電報を被申請人に回送すべく努力したが、当時、組合書記局の電話
は、被申請人によつて不通とされていたし、また、被申請人は組合からの電話だと
わかれば、直ちに応答を拒否するという態度に出ていたので、連絡方法がとれない
まま回送が遅れたのである。そして、電報の内容を申請外ラジオ中国労働組合に通
報したのは、組合員ではなく、当時民放労連中四国地連からオルグとして来ていた
申請外Mが朗読の際に同席していてこれを知り、同労働組合に通報したものであ
る。
(八) 同第四、一、(八)の事実中、被申請人主張の日および場所で、組合員ら
がピケットを張つた点は認めるが、その余は否認する。
 右ピケットは、非組合員に対する平和的説得のためのものであつて、スクラムを
組んだこともなく、非組合員が現実に社屋への出入りを妨害された事実は存しな
い。
(九) 同第四、一、(九)の事実中、組合が要求を記入した風船を揚げた点およ
び被申請人主張の日に、社屋正面の壁にビラを貼つた点は認めるが、その余は否認
する。
 風船は、執務に支障のない場所に揚げたものであり、社屋正面に貼付したビラ
は、いずれも壁面および入口シヤツターにおけるものであつて、ビラ貼付によつ
て、それらの施設の管理に支障を来たすものではなく、わずかにそれらの美観を損
うおそれが生ずるのみである。しかも、その枚数は一〇〇枚以下であり、貼付の方
法も比較的整然となされており、ビラの内容は、「ロツクアウト」に対する抗議な
いし本件争議に対する組合の決意、要求等であつて、争議目的を逸脱したものは見
当らない。それらは争議中の組合活動として当然に認められているものであり、ま
た従来においても、被申請人から就業規則にもとづき、組合の文書教宣活動を制約
されたことはない。
(一〇) 同第四、一、(一〇)の事実中、組合員が、被申請人主張のアパート三
階娯楽室兼食堂でテレビの修理をなした点、社屋風呂場を物置に使用した点および
組合書記局への電話架線工事をした点は認めるが、その余は否認する。
 アパート三階娯楽室は、平常から被申請人従業員が自由に出入りしており、食堂
も当時は食堂として使用されておらず、空室になつていたので、組合員中技術を有
する者が、「ロツクアウト」中の闘争資金を獲得するため、テレビ修理などのアル
バイトを行なう場所として使用したものである。また風呂場は、組合書記局の隣り
にあつて、これも従来から使用されておらず、物置同然の状態であつたため、本件
争議以前から、組合が物置として使用して来ていたのものであつたが、七月になつ
て被申請人から風呂場内にある物品の撤去を通告して来たので、これに応じて撤去
し、明渡した。次に、組合書記局への電話架線工事については、被申請人が「ロツ
クアウト」実施と同時に書記局への内線電話の取次ぎを拒否してしまつたので、や
むなく電信電話公社から臨時電話の架設を受けたのである。そしてその際、公社の
職員が社屋壁面に釘をうとうとしたところ、被申請人から抗議があつたので宙づり
にして架線したため、何ら社屋を損壊した事実はない。
(二) 同第四、一、(二)の事実中、被申請人主張の日に、組合員らが被申請人
主張の幹部の自宅を訪問した点は認めるが、その余は否認する。
 被申請人は、「ロツクアウト」実施後、組合の団体交渉の申入れに対し、文字ど
おり門戸をとざし、単なる連絡や意思の伝達すらも拒否するという態度をとつたた
め、組合は何とか被申請人幹部との話合いの方途を見つけ、この硬直した争議状態
を打開する端緒を見出さんとして、被申請人側の団体交渉メンバーであつた代表取
締役、常務取締役および総務局長の各自宅へ赴いたのである。そして、J宅の場
合、庭園のある邸宅を訪問するためには、門戸をあけなければならないのは当然の
ことであり、しかも、同家は玄関に施錠してあつて、家人一同不在であつたため、
面会できずに引き返して来たものである。ところで、組合には憲法上団体交渉権が
保障されており、団体交渉の相手方である被申請人幹部は、組合の団体交渉の申入
れに応じる義務があるところ、団体交渉ないしその申入れは、企業内でなさなけれ
ばならないとう制約はないのであるから、被申請人が「ロツクアウト」実施を口実
に組合の団体交渉の申入れその他話合いや連絡さえも拒否している場合に、組合
が、やむをえない手段として、右三名の自宅を訪問してその機会を見出そうとした
ことは、団体交渉権の行使として、当然に許されるべきものである。
二(一)1 被申請人は、本件解雇をもつて、申請人ら四名に対し、本件争議の組
合幹部責任と個別的実行責任を追及したものであると主張するが、被申請人が違法
争議行為として主張する争議行為は、いずれも正当なものである。すなわち、
(1) 本件争議は、先に申請の理由において主張したとおり、組合が組合員の労
働条件の維持改善という経済的要求を実現するために、実施したものであるから、
争議の目的において正当性を有することは明らかである。
(2) 次に、争議行為の方法の正当性については、争議行為が労働者団体の統一
的組織的な活動である以上、争議行為の全体について正当性の有無を判断すべきも
のであつて、争議行為中に生じた偶発的事故や少数組合員の不法行為によつて、全
体としての争議行為が違法となるものではないことに留意すべきである。しかも、
その評価にあたつては、当該争議において使用者が組合に対し、どのような態度で
臨んでいるかという労使相互の実態関係を正確に把握し考慮すべきものである。
(3) ところで、被申請人の主張する違法争議行為は、大半において「ロツクア
ウト」実施期間中の組合の活動に関するものであるところ、本件争議における被申
請人の組合に対する態度は、昭和三九年一月新聞社から、Aを総務局長として迎入
れ、それ以後、団体交渉ルールの規制、チエツクオフの廃止、男女差別賃金強行な
ど反組合的体制を強化し、昭和四〇年春季争議において、すでにロツクアウトの実
施を検討するという段階を経て、遂に本件争議において、何ら誠実な団体交渉に応
じないまま「ロツクアウト」を実施するに至つたものである。そして、被申請人
は、「ロツクアウト」を実施することによつて、組合員全員を職場から締出し、組
合が就労を要求し、団体交渉の申入れをなし、果ては六月一〇日の団体交渉におい
て、被申請人の回答案を受諾する旨の意思を表明しているにもかかわらず、なお
「ロツクアウト」を継続するという態度に出ていたものであつて、以上の本件争議
における労使間の相互関係を考慮すれば、被申請人の実施した「ロツクアウト」こ
そが違法な争議行為であつて、組合がこれに対抗するためになした各争議行為は、
全面的に正当なものである。
2 しかし、仮に、組合が被申請人の主張するとおりの違法争議行為をなしたもの
としても、
(1) 労働者が使用者の指揮支配の下におかれているのは、法律的には、両者の
間に労働契約関係が成立しているからに外ならないものであつて、懲戒権の行使
は、使用者が右個別的労働契約関係の存在を前提として、経営秩序を維持するため
に、その違反者に対して、個別的に科する制裁である。
(2) しかし、争議行為は、組合が、その要求を実現するために、組合員を統括
して、団体意思を形成し、使用者に圧力を加えんとして実施する団体行動であつ
て、それは、平常は使用者の指揮支配下にある個々の組合員の労働力を一時的に掌
握してなすものであるから、争議中争議行為の一環としてなされる組合員の行為
は、もはや、組合員の個人的行為とは全く異質の団体意思にもとづく団体行動の一
部を占めるものであり、その行為の主体は組合自身であるべきものである。
(3) 従つて、違法争議行為がなされたとしても、使用者は、それをなした個々
の組合員に対し、経営秩序維持のため、個別的労働契約上の規範として定めている
就業規則を適用して、懲戒責任を問うことは、法理上許されるべきでなく、違法争
議行為によつて被つた損害はすべて、組合に対してのみ請求しうるものであると解
すべきである。
(4) そして、右の事理は、組合幹部の違法争議行為の場合においても当てはま
ることである。すなわち、組合幹部は、労働組合の機関として活動するものであつ
て、幹部が争議行為を企画し、指令したとしても、それは、個別的労働契約関係上
の問題ではないから、使用者は、組合幹部の争議行為の企画、指令に対し、就業規
則を適用して、個別的労働契約上の懲戒責任を追及することは許されないところで
ある。
(5) 従つて、被申請人の主張する組合幹部責任および個別的実行責任の追及を
理由とする本件解雇は、全く法的根拠を欠いたものというべきであつて無効であ
る。
(二) 1 被申請人主張第四、二、(二)の事実中、本件争議当時申請人ら四名
が被申請人主張の組合役員の地位にあつた点および争議時にいずれも闘争委員であ
つた点は認めるが、その余は否認する。
2 組合は、平常時においては、組合の最高意思決定機関である組合大会と、組合
大会に次ぐ決議機関として、各職場から一名ないし二名宛選出された代議員をもつ
て構成される代議員会および大会で選出された委員長一名、副委員長二名、書記長
一名の三役および執行委員若干名をもつて構成される執行委員会が、組織機関とし
て存在するところ、争議においては、争議体制として、右執行委員会と代議員会の
全構成員をもつて構成する拡大闘争委員会と、さらに、同闘争委員会の構成員のう
ちから選出された中央闘争委員五名をもつて構成する中央闘争委員会とを設置する
こととし、中央闘争委員は、通常、執行部三役のうち三名と執行委員および代議員
各一名とをもつて構成することになつている。そして、争議行為に関しては、大会
が意志決定をすると、中央闘争委員会が執行機関としてこれを執行することになる
が、執行にあたつては、大会の意思決定にもとづく争議手段、方法等につき、拡大
闘争委員会にはかつて、意見を聞いたうえで、これをさらに具体化し、全組合員に
指導、実行せしめることになるものである。
 なお、争議時おいても、通常の組合業務の執行は、執行委員会がこれにあたるも
のである。
3 そして、申請人ら四名の本件争議時における地位については、申請人D、同
C、同Fは、いずれも中央闘争委員であり、同Eは闘争委員であつた。
三(一) 被申請人主張第四、三、(一)の事実につき、申請人D、同Fが関与し
た点は認める。
(二) 同第四、三、(四)の事実につき、申請人Fが関与した点は認める。
四 被申請人主張第四、五の事実中、(一)ないし(三)の各処分を各申請人らが
受けたことは認める。
五 被申請人主張第四、六の事実について、申請人らは、本件解雇が、いずれも就
業規則第四八条および第四九条にもとづく懲戒処分としてなされたものとして、そ
の無効を主張している。従つて、本件解雇が普通解雇とされているのは、被申請人
が懲戒権の行使にあたり、自らの裁量にもとづいて処分の程度を軽減したことによ
ると主張するものである。
第六疎明(省略)
       理   由
第一 申請人らの攻撃防禦方法却下の申立てについて
 申請人ら訴訟代理人は、昭和四二年一二月二二日の本件第一九回口頭弁論期日に
おいて、被申請人訴訟代理人が陳述した被申請人の主張第四、一、(二)中、ミニ
ストが積極的サボタージユの性質を帯びるとの主張は、時機に後れた攻撃防禦方法
であるとして、却下を求める旨申立てた。
 そこで、判断するに、被申請人の右主張は、従前から本件解雇理由の一つとして
主張立証して来たミニストが積極的サボタージユに該当するから、そのゆえに違法
であると主張するに至つたものであることおよび右弁論期日以前に右趣旨の主張
は、何ら被申請人から提出されていなかつたことが、いずれも本件記録上明らかで
ある。
 そうすると、右主張は、すでに事実上の主張立証が行なわれて来ていたミニスト
の違法性に関する法律上の陳述であると解されるが、本件訴訟の審理経過に照らせ
ば、被申請人が右法律上の陳述をしたことによつて、当事者双方から、格別新たな
証拠の申出が必要となつたものとも認められず、かつ、そのような証拠の申出がな
されたかつたことも、本件記録上明らかなところであるから、仮に、右法律上の陳
述が時機に後れた攻撃防禦方法に該当するものとしても、そのため、本件訴訟の完
結を遅延させたものとは、到底認めることができない。
 よつて、申請人ら訴訟代理人の前記攻撃防禦方法却下の申立は、理由がないもの
として、これを却下することとする。
第二 本件仮処分申請について
一 当事者間に争いのない事実
申請人らが申請の理由一および二として主張する各事実は、いずれも当事者間に争
いがない。
二 本件解雇の効力について
(一) 解雇理由の不特定、不明確の点について
1 本件解雇が就業規則の該当条号のみを摘示して、申請人ら四名に告知されてい
ることは、右一のとおり、当事者間に争いのないところであり、また、被申請人が
本件仮処分審理手続において、本件解雇理由としての具体的事由を二回にわたつて
主張していることも、本件記録上明白である。
2 ところで、使用者は、労働者の行為が懲戒解雇事由に該当するとしつつ、懲戒
解雇に代えて普通解雇をなすことも、許されるものと解すべきであるが、このよう
に、懲戒の目的をもつてした普通解雇が正当とされるのは、労働者の行為が、懲戒
解雇事由に該当することが必要であり、そしてまた、使用者が労働者に対し、解雇
の意思表示をなすにあたり、解雇理由を告知したかつたとしても、それのみで、た
だちに当該解雇の意思表示が無効となるものではないと解すべきところ、この点に
関しては懲戒解雇の場合であつても同様というべきである。しかし、解雇の告知の
要否と解雇理由となるべき事由の存否とは、おのずから、別個の問題であつて、こ
とに、懲戒解雇の場合においては、解雇理由となるべき事由は、使用者が解雇の意
思表示をなした時点において、すでに、客観的に存在しており、かつ、それを使用
者が特定できる程度の具体性をもつて認識していることを要するものと解すべきで
ある。
3 そこで、右2の観点から、本件解雇の理由が不特定、不明確であるかどうかに
ついて検討すれば、被申請人の主張する各事由が、本件解雇以前に、すでに客観的
に存在していたことは、被申請人の主張自体から、明白であり、また、被申請人が
右事由を、昭和四一年一〇月五日受付の答弁書とそれに次ぐ同月一三日受付の準備
書面をもつて短時日の間に具体的に主張していることも、本件記録上明らかである
から、被申請人が、単にそれらの事由を二回にわたつて主張したという事実のみで
は、いまだ、被申請人が右事由を本件解雇当時、認識していなかつたとは到底認め
られない。なお、申請人らは、被申請人主張の解雇理由が、幹部責任を追及するも
のか、個別的実行責任を追及するものかさえ、明確にされていなかつたと主張する
が、右の点については、すでに被申請人の答弁中において、一応の主張がなされて
いることが本件記録上明らかでり、後に至つて、裁判所の釈明の結果一層明確にさ
れたにすぎないから、それをもつて、ただちに、本件解雇理由が不特定、不明確で
あつたということはできない。その他、本件解雇理由が不特定、不明確であつた事
実を認めるに足りる疎明は存しないから、申請人らのこの点を根拠とする本件解雇
無効の主張は、何ら理由がなく失当である。
(二) 被申請人が解雇理由として主張する事由の存否
1 争議行為の目的の違法性の有無について
 被申請人は、本件争議解雇理由として、本件争議における違法争議行為の責任追
及をなしたものであると主張しているところ、組合が、本件争議に先立ち、その主
張のような要求事項を被申請人に提出していた事実は当事者間に争いがなく、本件
争議が右要求事項の実現以外の目的をもつて実施せられたことを認めるに足りる疎
明は存しないから、結局、本件争議は、組合が右要求事項を実現するために実施さ
れたものと認めるのが相当であり、従つて、争議行為の目的については、正当性を
有するものであるというべきである。
2 次ぎに、各争議行為自体の違法性の有無について
(1) ビラの配布による会社ひぼうの点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実と、いずれも成立に争いのない疎乙第八号証の一ない
し五、第三五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第五三
号証の二、同第三六号証および第五一号証の二ないし三一の各存在ならびに証人A
の証言および申請人D、同F、同Cの各本人尋問の結果を総合し、弁論の全趣旨を
考え合わせると、組合は、昭和四一年五二一日から、同年八月一二日までのロツク
アウトの期間中、組合情宣部あるいは高知県総評および民法労連中四国地連との連
名をもつて、特に高知市内を中心とし、高知県下全域にわたつて街頭で、または家
庭を訪問するなどの方法で多数のビラを配布したこと、右配布されたビラには、
「どうしてて私達が……?どうして経営者は……?」とかあるいは「真実の報
道!!電波を国民のものに!」との見出し文句のもとに、いずれも、「最近私たち
マスコミ労働者には資本と結びついた官憲による物凄い弾圧が加えられています。
新聞やラジオ・テレビ等は必ずしも真実を伝えていません。真実は隠されていま
す。私たちはその真実をたくさん知つています。云々」との文言(以下、本件文言
という。)が記載され、中には右文言部分に傍線を引いてあるもの、更にまた、右
文言に次いで、昭和四〇年中に弾圧により放送中止となつたテレビ放送番組とし
て、多数の番組が掲記されているのもあり、以上のビラには、いずれも、抗議先と
して、被申請人所在地、会社名および社長名、あるいは、「私たちを職場から締出
し、目茶目茶の放送をしている経営者への抗議をお願いします。」との文句ととも
に、抗議先として、被申請人所在地、会社名、社長名のほか、被申請人重役および
労務担当者の私宅、電話番号が記載れていたこと、右ビラが配布された結果、一般
市民から、連日にわたり、昼夜を問わず、被申請人ならびに被申請人重役および労
務担当者の私宅に、ハガキや電話による抗議が申込まれたこと、しかし、組合とし
ては、本件文言を記載することによつて、一般市民に対し、文字通り、真実は隠さ
れており、報道機関が真実を正確に伝えていないという趣旨を伝えるとともに、こ
のような報道の実態を背景として、真実の報道を伝えようとしているマスコミ労働
者に対し、報道機関の弾圧が加えられているということを知らせ、また、ビラに抗
議先を記載することによつて、一般市民から、被申請人やその重役などに対し、直
接抗議をしてもらおうと意図していたこと、配布されたビラは、全部が同一内容の
ものではないため、表現において、多少の異同はあるとしても、いずれも、被申請
人の実施しているロツクアウトが不当に組合を弾圧するものであることを訴える趣
旨を一番大きな見出し文句として掲記しているが、本件文言の記載場所について
は、右見出し文句の内容としてさらに数項目にわたつて、本件争識に関する実情を
訴えるという形式がとられ、しかも、文章の後半部分の一項目中において、内容説
明部分として記載されているものであること、なお、そこで用いられている文字な
いし活字の大きさも、当該ビラのうちで最小の部類に属すること、以上の各事実が
一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 一般に、ビラの配布は、ビラ貼りとともに、組合の宣伝活動として、最も通常の
方法の一つであるが、ことに、争議中の組合にとつては、これらは必要不可欠の宣
伝活動に属するものと考えられる。従つて、争議中の組合が使用者の経営方針や経
営の実態を批判する内容の宣伝ビラを組合員に限らず広く一般市民に配布し、その
批判が多少の誇張的表現に及ぶ場合があつても、その目的が組合員の経済的地位の
向上を図るためであつて、特に不法不当の目的に出たものと認められない限り、正
当な組合活動に属するものといわなければならない。
 ところで、本件の場合、右認定事実によると、本件文言部分は、その内容につい
てみれば、真実性の存否はさておくとして、報道機関一般について言及しているも
のであつて、被申請人固有の事実を摘示しているものでないことが明らかである
が、組合の意図いかんにかかわらず、争議中の組合活動としての宣伝ビラの言辞と
して考えるときには、組合が、一般市民に対し、あたかも被申請人が虚偽の報道を
している事実を暴露したものと誤解されるおそれが多分に存するものと認めざるを
えないので、表現方法として、若干行きすぎた点があるものといわなければならな
い。しかし、本件文言の記載場所、使用されている文字ないし活字の大きさを考慮
し、かつ、ビラ全体の表現しようとしている趣旨について検討すると、右ビラは、
本件争識に関する実情を訴えることを基調としているものと認めるのが相当であ
り、本件争議の目的が適法であることは、右(二)1において判示したとおりであ
るから、右ビラ中に、本件文言が記載されているからといつて、組合が被申請人を
ひぼうする意図に出たものとは認められず、また、組合が右ビラを配布した結果、
一般市民から被申請人ならびに被申請人重役ないし労務担当者の私宅に多数の抗議
が寄せられたとしても、(なお、組合が、ビラに、抗議先として、被申請人重役等
の私宅、電話番号を記載した点についても、いささか相当性を欠くものと考え
る。)それをもつて、ただちに、組合のビラ配布行為が組合活動として正当性を失
うに至るものではないといわなければならない。
(2) ミニスト実施の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎甲第一三、一四号証の
各一、二、疎乙第四八号証、第四九号証の一ないし一一、同号証の一二の一、二、
同号証の一三ないし六一、第五〇号証の一、二、証人Aの証言により真正に成立し
たものと認められる乙第五三号証の一ならびに証人B、同N、同Gの各証言、同A
の証言の一部および申請人D、同Cの各本人尋問の結果を総合すると、組合は、大
会決定にもとづき、本件争議中の五月一六日以降、テレビ技術部、テレビ進行部、
営業管理部の三部門(以下、単に三部門という。)において、同部門に勤務する組
合員約三〇名を中心として、重点的に指名、部分ストライキを実施させ、これを強
化していつたこと、組合が、右のような指名、部分ストライキを採用したのは、昭
和三七年頃から、被申請人のテレビ部門の機械化が促進されるとともに、職制が多
くなり、従前においては、実効のあつた全面ストライキも、もはや効果をおさめえ
たくなつて来たこと、全面ストライキを実施すれば、組合員全体として喪失する賃
金が大きくなること、三部門は、被申請人のテレビ放送業務を行なう中心部門であ
つて、最も重要な職場であるため、同部門に争議行為の焦点を合わせれば、組合員
全体の喪失する賃金が小さいのに比して、被申請人に与える打撃が大きくなる公算
が強くなるので、最も効果的であると判断したことによること、右三部門において
実施されたストライキは、事前通告、同時通告あるいは事後通告をとりまぜてなさ
れたものであつて、主として、効果的なコマーシャルおよびローカルニユース番組
の放送時間帯をねらつたものであること、組合と被申請人間には、ストライキの通
告に関し、労働協約その他において何らの約定がないところ、組合としては、従来
から、文書による事前通告を原則として来たが、本件争議中においても、五月一六
日以前に、例外的に事後通告をなした場合もあつたこと、組合が、同日以降三部門
において、右のような指名、部分ストライキを強化したのは、被申請人の職制など
のストライキ代替要員が、あらかじめ、待機している場合には、単に三部門にスト
ライキを実施するだけでは、放送業務の運行にほとんど支障を与えることがないと
判断したため、三部門のストライキを強化することによつて、代替要員である職制
や非組合員に早朝から深夜まで待機を余儀なくさせ、長時問の待機に困つた代替要
員から、被申請人に対し、早期解決を要望させるようにして、五月一四日以降断絶
したままとなつている団体交渉の機会を持つとともに、組合の要求をさらに有利な
形で実現しようとしたことによること、そして、組合員が、右のような指名、部分
ストライキを実施する場合には、実施直前までの放送業務は、全く平常通り運行さ
せ、実施と同時に、職場外に退出して、ストライキ時間中は職場内に帰らず、その
時間経過後、再び職場に帰つて、引続き従前の放送業務を運行させるという方法が
とられていたこと、組合が五月一七日以降実施した争議行為は、別紙(三)「組合
の争議行為」として記載されているとおりであること、被申請人のような民法放送
企業の営業収入源は、主として、ラジオ・テレビのコマーシヤル放送に負つている
ところ、被申請人のテレビ放送業務は、特に三部門のうち、テレビ技術部とテレビ
進行部の二部門(以下、単に二部門という。)において、その運行に従事する従業
員が、秒単位の緊張と、特殊専門技術のほか、相互の連けい作業を要求されるとい
う複雑な職種となつているため、少くとも約一〇分間の余裕をもつた事前通告がな
ければ、職制による一応の代替が不可能となること、しかるに、組合が同日以降右
のような形で指名、部分ストライキを実施したことによつて、代替要員である職制
の疲労とも相まつて、代替が著しく困難となり、テレビコマーシヤルの放送を含め
て、放送内容が相当混乱するところとなつたこと、以上の各事実が一応認められ
る。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 一般に、争議行為は正常な業務の運営を阻害するものであるから、労働組合の争
議行為が、正当性を有する場合には、その当然の帰結として、使用者はそれによつ
て、被る程度の損害について、当然これを受忍しなければならないものであるとこ
ろ、右のような、争議行為も、その実施される職場および態様いかんによつて、使
用者に対し、これに対する対策措置を講ずる機会を失わせる結果、労働組合側の喪
失する賃金額に比して、著しく過大な損害を被らせることになるので、そのような
場合には、もはや争議行為として、正当性の限界を越え、違法となるものと解する
のが相当である。
ところで、本件の場合、右認定事実によれば、組合が五月一六日以降三部門におい
て実施した指名、部分、時限、波状ストライキは、いずれも争議行為としては、一
般的に正当性を容認すべき範囲内のものと認められ、その実施の態様についても、
一応は、単純な職場放棄の形をとつていて、積極的に被申請人の放送業務の運行を
妨害せんとする意図に出たものとは認められないので、これをもつて、被申請人の
主張するような積極的サボタージユとしての性質を有するものとは、認めることが
できない。
しかし、右のうち、組合が二部門において実施したストライキについては、なお検
討を要するものと考える。すなわち、同部門は、被申請人のような民間放送企業に
とつて、営業収入源を確保する中枢的部門であり、しかも、その運行に従事する従
業員が、秒単位の緊張と特殊専門技術のほか相互の連けい作業を要求されるという
複雑な職場であるから、このような部門において、組合が、事前、同時および事後
通告をとりまぜ、それをコマーシヤルおよびローカルニユース番組の放送時間帯を
ねらつて、右判示のような態様のストライキとして実施する場合には、被申請人と
しては、これに対し、対策措置を講ずることが著しく困難となり、組合の喪失する
賃金額に比して、被申請人の被る損害は著しく過大となるものと認められるので、
組合が、右のような職場に、右のような態様のストライキを実施する場合には、ス
トライキ通告についての協定の有無ないし、組合のストライキ実施の意図いかんに
かかわらず、少くとも、事前通告義務を負うべきものと認めるのが相当である。
そうすると、組合が、同月一七日以降一九日までの間に実施した争議行為中、右二
部門において、同時通告および事後通告をもつてなしたストライキは、争議行為と
して、いずれも正当性の限界を越えたものというべきであつて違法であるといわな
ければならない。しかし、また、組合と被申請人間にストライキ通告について、何
らの協定も存しないこと、組合の二部門に対するストライキ実施およびその強化の
意図は、窮極的には、団体交渉の機会を持つとともに組合の要求をさらに有利に解
決しようとしたところにあつたこと、事後通告時間は、いずれもストライキ実施時
間に近接していたことの諸事情が認められることは、右違法争議行為における情状
として、相当程度しんしやくされてよいものといわなければならない。
(3) ロツクアウト告示破棄の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎甲第一四号証の一、乙
第一五、五六号証の各一、二および前掲同第五三号証の二ならびに証人O、同Pの
各証言および申請人Cの本人尋間の結果を総合すると、五月二〇日午前五時すぎ、
被申請人は、社屋正面玄関横の壁と、南側入口の壁に、ロツクアウトの告示を各一
枚貼つたところ、同日午前八時二〇分ごろ、それらがいずれも破棄されたため、同
日午前一〇時一〇分ごろ再び、同一場所に同一内容の告示を各一枚掲示したが、こ
れもまた、間もなく破棄されてしまつたこと、右各告示が破棄された時刻には、い
ずれも社屋正面玄関附近に組合員多数が集合していたこと、ところで、組合幹部
は、これまで、被申請人からロツクアウトを実施された経験がなく、しかも、被申
請人のロツクアウト実施が予想外であつたため、適切な対策処置をとることができ
なかつたが、同日午前七時ごろには、社屋正面玄関前に、組合員約三〇名が集合
し、間もなく、同所で組合集会を開き、午前八時三〇分ごろには、その人数は約五
〇名となつたこと、そして、組合員らも被申請人のロツクアウト実施に対し、相当
動揺を示していたこと、その間において、第一回目の告示は、申請外高知県総評会
長のKが、第二回目の告示は、同事務局長のLが、それぞれ、破棄したものである
こと、以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、申請外Kおよび同Lは、組合の支援者であつて、被申請人
の貼付したロツクアウトの告示を故意に破棄したものと認められるので、両名の告
示破棄行為は、いずも違法行為に該当するものである。しかし、組合は、右告示が
破棄された当時、被申請人から初めて実施されたロツクアウトの対策措置につぎ、
組合員が相当の動揺を示していたものと認められ、かつ、右二名はいずれも組合外
部の者であるので、組合幹部を含め、組合員らに、右破棄行為の阻止を期待するこ
とは困難な状況であつたと認めるのが相当であり、従つて、右両名の告示破棄行偽
について、組合および組合員の責任を問うことは許されないところというべきであ
る。
(4) 両社社屋内への立入行為の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎乙第一五、二一号証の
各一、第五六号証の一、二および前掲同第五三号証の二ならびに証人Qの証言、同
Rの証言の一部、申請人E本人尋問の結果および同F本人尋問の結果の一部を総合
すると、被申請人が五月二〇日ロツクアウトを実施してのち、数日間、連日にわた
つて、センター入口から約二・三十名の組合員が両社社屋内の通路に立入つたが、
その滞留時間は長くて約二〇分間であつたこと、その際、右立入りを阻止しようと
した新聞社警備員との間に、多少の押し合いがあつたほか、組合員から、怒声やば
声があびせられ、そのため、センター入口附近は相当騒がしい状態となり、また、
組合員の通路内滞留時間中は、両社社屋に出入りする記者、来客等の通行が一時的
にしや断されたこと、組合員がセンター入口から両社社屋内通路に立入つたのは、
ロツクアウトが実施されるまでは、センター入口は、組合員を含め、被申請人従業
員が被申請人社屋への通路として、平常、通行使用することを黙認されていたとこ
ろ、被申請人は、ロツクアウト実施後、就労のため出勤して来る非組合員をセンタ
ー入口から通行証を持たせて出入りさせ、その他の場所からは、被申請人社屋へ出
入りできないようしたため、組合員は、被申請人社屋への唯一の通路であるセンタ
ー入口から両社社屋内の通路を通つて、被申請人社屋に通ずる三階まで行き、そこ
で、被申請人に対し、就労要求と団体交渉の申入れをしようとしたためであるこ
と、両社の社長はいずれも、被申請人の会長の地位にある申請外Sであるところ、
両社は、被申請人がロツクアウトを実施すると、センター人口附近が争議の場とな
り業務に支障を来たすおそれがあるという理由から、被申請人従業員のうち、通行
証を有する者のみの通行を許可し、通行証を所持しない組合員の通行を拒否しよう
としたこと、五月二〇日の立入り行為には、申請人Cが参加していたこと、また、
組合は、社屋外から、被申請人社屋三階に向けて、拡声器を使用し、就労と団体交
渉を要求する旨の意志表明をしたこと、以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、組合員がセンター入口から、「両社社屋通路内に立入つた
行為は、その施設管理権を侵害し、業務を妨害したものとして、違法な行為である
といわなければならない。しかし、被申請人がロツクアウト実施と同時に、自己の
経営権の範囲外に属するセンター入口を非組合員の出入口として指定したこと、被
申請人の会長と両社の社長が、いずれも同一人であること、および両社が、従前は
一般に被申請人の従業員として、組合員の通行をも黙示的に承認して来たのに、ロ
ツクアウト後は、披申請人従業員のうち、通行証を有する非組合員のみの通行を許
可する方針に出たことを総合すれば、被申請人は、両社と相呼応して組合員の就労
要求と団体交渉の申入れを不可能ならしめるように企図したのではないかと推測さ
れるので、右の事情と、組合が右両社に立つた行為の目的が、被申請人との就労要
求および団体交渉の申入れにあること、右通路内の滞留時間が比較的短時間である
こととを考慮すれば、組合の右違法立入行為は、情状において、相当しんしやくす
べき点があるものといわなければならない。なお、組合が、拡声器を便用した点に
ついては、右認定事実の程度では、正当な組合活動として認めるのを相当とする。
(5) 新聞社社屋への立入りとドア損壊の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎乙第一二号証、第二一
号証の一ないし三および前掲同第五三号証の二の一部ならびに証人Q、同P、同A
の各証言および申請人Fの本人尋問の結果の一部を総合すると、五月二二日組合員
約三〇名がセンター入口から新聞社社屋内の通路に立入つたが、その状況は、ほぼ
右(4)(イ)の事実関係として認定したとおりであること、右通路内に立入つた
組合員のうち、申請人D、同F、同Cのほか二名の合計五名が、新聞社警備員の制
止にもかかわらず、さらに、被申請人社屋に通ずる三階まで立入つたこと、右五名
は、被申請人社屋に通ずるドアの前まで来たが、閉鎖してあつたドアの内側(被申
請人社屋内)に人影が見えたので、それらに向つて、「あけろ」、「話し合いをし
ろ」、「労務担当重役なり総務局長を呼んでくれ」などといつて、その把手を引張
つたり、押したりしたこと、被申請人総務局長Aは、当時ドアの内側に、警備員と
ともにいたが、組合員らがドアを押したりしているうち、そのガラスの木枠のつぎ
日あたりがばりばりと音を立て出したため、警備員に命じて、ドアに背をあてさ
せ、支えるようにしたこと、また、当時、新聞社社屋の警備を担当していた申請外
Qは、警備員から、組合員五名が社屋三階に向つた旨の連絡を受けて、急いで右ド
アの附近まで来たところ、その前には、組合員五名がいたが、同人が退去を要求す
ると、組合員五名があつさり引きあげたため、やや意外に感じたこと、右ドアは、
ガラスを支える木枠の下部が若干はずれかかつた状態になつて破損していたこと、
以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、まず、組合員がセンター入口から、両社社屋通路内に立入
り、さらに、そのうち、五名の組合員が、新聞社社屋三階にまで立入つた行為は、
右(4)(ロ)において判断したとおり、両社の施設管理権を侵害し、業務を妨害
したものとして違法な行為であるというべきであり、次に、ドア損壊の点は、右五
名の組合員のうちの誰かの故意または過失行為によるものと推認せざるを得ないの
で、これもまた、被申請人の施設を損壊した違法な行為に該当するものというべき
である。しかし、その損壊の程度は、軽微であること、右五名の組合員は、被申請
人の労務担当者に対し、面会を求めようとしていたこと、ドア附近における滞留時
間はさほど長かつたものとは認められないことの諸事情および先に右(4)(ロ)
において判示した事情を合わせ考えれば、組合員の右違法立入り、ドア損壊行為に
ついても、情状の点において、相当程度しんしやくすべきものがあると認めるのが
相当である。
(6) 両社社屋内への立入りとすわり込みの点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎乙第九号証の一、二、
第一六号証、第二一号証の一ないし三、および前掲同第五三号証の二ならびに、証
人Q、同Tの各証言および申請人F、同Eの各本人尋問の結果を総合すると、六月
二日から四日までの三日間、連日組合員二〇数名が新聞社警備員の制止にもかかわ
らず、センター入口から両社社屋内に立入り、新聞社社屋の二階から三階に通ずる
階段にすわり込んだこと、組合員は、被申請人がロツクアウトを実施して以来、全
く被申請人の労務担当者と会う機会がないため、団体交渉の申入れと、就労要求を
する目的をもつて右の階段にすわり込み、被申請人の労務担当者が前判示のドアか
ら出てくるのを待つていたものであつて、その時間は二、三〇分間位であつたこ
と、組合員のすわり込み当時の状況は、階段の両脇部分にすわり込み、閉鎖されて
いるドアに向つて、「ドアをあけろ」とか、「局長に会わせろ」などといつてお
り、それらの状況は、当然、その附近に職場をもつている新聞社の従業員にわかる
ような状態であつたが、同従業員等は、組合員のすわり込みにかかわらず、その階
段を通行に使用することができたこと、以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、組合員がセンター入口から、両社社屋通路を通つて、新聞
社社屋二、三階に通ずる階段に立入り、そこにすわり込んだ行為が違法と認められ
ることは、右(4)(ロ)において判断したとおりである。しかし、右すわり込み
は、被申請人労務担当者がロツクアウト実施以来全く組合と面接折衝を行わなかつ
たため、労務担当者と面会し、就労要求と団体交渉を申入れる目的をもつてなされ
たものであること、その滞留時間は比較的短時間で、すわり込みの態様について
も、新聞社従業員らが通行できるよう配慮していたと認められることの諸事情およ
びこれに右(4)(ロ)において判示した事情を総合して考えれば、組合員の右違
法立入り、すわり込み行為についても、情状の点において、相当しんしやくすべき
ものがあるというべきである。
(7) 電報開披の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎乙第一〇考証の一ない
し四、第三三号証および前掲同第五三号証の二ならびに証人Aの証書および申請人
Cの本人尋問の結果の一部を総合すると、被申請人主張の電報が、五月二〇日午後
一時五七分他の電報一通とともに組合に誤つて配達され、これを組合員である申請
外Uが受領して、組合書記局の机上に置いておいたところ、約三〇分後に、組合員
多数が開披し、これを読んでいたこと、さらに、右誤配された電報は、申請人Cが
組合員の面前で、他の電報と一緒に読みあげたこと、同電報は、電報局に一且返さ
れたのち、同日午後九時八分被申請人警備員がこれを受領したこと、申請外ラジオ
中国労働組合は、同電報が申請外ラジオ中国総務局長から打電されたことを「高知
放送労組の仲間からの連絡により」知つた旨組合ニユースに記載していること、以
上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、誤配された電報を、組合員が開披したときの状況に照ら
し、これを故意になしたものと認めることは相当でないというべきであるが、右開
披後において、申請人Cが電報を組合員の面前で読みあげた行為については、すで
に誤配の事実を承知していたうえでなしたものと認められるので、その点について
は違法といわなければならない。従つて、組合が右電報を右ラジオ中国労働組合に
通報した点についてもまた、違法行為に該当するものというべきである。しかし、
電報の内容が被申請人の実施したロツクアウトの成功を念願するというものであつ
たから、組合としては、争議行為という相対立する立場から、これを逆に組合の団
結に利用したいと願うこともまた人情として一応肯首しうるので、右の各違法行為
につき、しんしやくすべき情状として考慮されてよいものと思料する。
(8) ピケツテイングの点
(イ) 事実関係
 組合が五月二一日から数日間連日にわたり、組合員多数をもつて、被申請人の非
組合員が出入りしていたセンター入口付近でピケツトを張つたことは当事者間に争
いがない。そして、申請人Eの本人尋問の結果により真正に成立したものと認めら
れる疎甲第四号証、いずれも成立に争いのない疎乙第一七号証の一、二ならびに申
請人F、同Eおよび同Cの各本人尋問の結果を総合すると、右ピケツトの方法は、
大体において、一五・六名の組合員が、出勤して来る臨時アルバイトや嘱託等の非
組合員(大半が女性)に対し、個別的に組合負の実情を訴え、被申請人に何とか解
決をはかるよう伝言を依頼するとか、通常の仕事だけをするように頼むとか、激励
するとかいう形でなされ、女性には、女子組合員が中心となつて説得にあたつたこ
と、また、センター入口の両脇に約二メートルの間隔をもつて組合員が立並び、非
組合員がその間を通行しなければならないような方法をとつたこと、以上の各事実
が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、組合の実施したピケツテイングのうちには、組合員が約二
メートルの間隔をもつて、両脇に立並び、その間を非組合員が通行しなければ就労
することができないような方法をとつたこともある点で、非組合員に対し、心理的
圧迫を加えたことがあつたものと考えられるが、右の程度の行為をもつては、いま
だ実力を行使したものとは到底認めることができないので、結局、右ピケツテイン
グは、穏当な言葉による説得活動がその主な方法であつたものと認められ、いわゆ
る平和的説得の域を出なかつたものというべきであるから、もとより、正当な争議
行為であつたと認めるのが相当である。
(9) ビラ貼りと風船掲揚の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎乙第一三号証、第一八
地号証の一ないし三および前掲同第五三号証の二ならびに証人Aの証言および申請
人D、同F(一部)の各本人尋問の結果を総合すると、被申請人就業規則第四八条
には、「従業員が次の各号の一に該当するときは、懲戒する。」として、第八号に
「会社の施設内において、正規の手続を経ない業務外の活動または文書図画等の掲
示、印刷物の貼付、配布もしくはこれに類似する行為をしまたはさせたとき」との
規定が設けられていること、被申請人は、組合に対し、掲示枚を社屋内で使用する
ことを許可していること、組合は、五月以降被申請人がロツクアウトを実施するま
での間、組合の要求や風刺的文句を記入した風船約八〇個余(組合員一名が各一個
あて)を、机上の私物、電話器、階段の手すり、ドアなど各所に針金でしばりつけ
て掲げたこと、右風船は、三日から五日後にはしぼんで来るため、しぼんだものは
その都度取除けたこと、また組合は、五月二三日被申請人社屋正面玄関の壁および
シヤツターの全面に多数のビラをのりではつたこと、ビラの内容は、ほとんどが組
合の要求事項、組合員の決意、就労要求、団体交渉の要求などを記載したものであ
り、枚数は約一三〇枚前後であつて、その貼付の態様は、二、三枚が斜めにたつて
いるほか、大体整理された形で、特に外観が見苦しいものではないこと、被申請人
は、同ビラの貼付を発見して、直ちにこれを手でむしり取り、その後その前部を板
囲いして外部から見えないようにしたこと、以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 一般に、使用者の意に反して、その施設に、宣伝文句等を記載したビラを貼付
し、あるいは風船を掲揚することは、使用者の施設管理権を侵害するものといわな
ければならないが、ビラ貼り行為が、争議中の組合にとつて、必要不可欠な宣伝活
動というべきことは、先に(1)、(ロ)において判示したとおりであり、風船の
掲揚もまたビラ貼り行為に準ずるものと解されるから、施設に対するビラ貼りや風
船の掲揚が、単に使用者の意に反してなされたというだけで、直ちに違法な組合活
動と認めることはできないものというべきである。そして、その相当な限度につい
ては、それらの内容、文句、貼付または掲揚場所、数、貼付または掲揚方法等を考
慮し、使用者がそれによつて被る業務運営ないし施設管理上の支障の程度等を、総
合的に検討して具体的に判断されるべきものと解するのが相当である。
 ところで、右認定事実によれば、風船の掲揚の点については、記載文句、掲揚場
所、方法、個数および掲揚期間を考慮すれば、それらが、被申請人の業務運営ない
し施設管理に対し、格別の支障を及ぼしたものとは認められないから、組合活動と
して、正当性を有するものと認めるのが相当である。次に、ビラ貼りの点について
は、貼付場所が、被申請人の正面玄関の壁およびシヤツターの全面にわたるもので
あるから、ビラの記載内容や、貼付方法いかんによつては、被申請人の業務運営な
いし施設管理に支障を及ぼす等のおそれがあるものといわなければならないが、組
合のなした右認定程度の記載内容、貼付方法、枚数、によつては、いまだ、被申請
人の業務運営ないし施設管理等に対し、格別支障を与えたものとも認められないの
で、右ビラ貼り行為もまた、組合活動として、正当な範囲に属するものというべき
である。
(10) 会社施設の使用の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎甲第一三号証の一、乙
第一四号証の一、二、第一八号証の一ないし三および前掲同第五三号証の二ならび
に証人Pの証言および申請人Fの本人尋問の結果を総合すると、前掲就業規則第四
章服務規律第三三条は「従業員は、業務の特殊性を自覚するとともに所定の規則を
守り、従業員相互の人格を尊重し、協力して職務の誠実な遂行と職場秩序の保持に
努力しなければならない。」として、第一〇号に「会社の施設内で行う業務外の総
ての行為については、あらかじめ会社の許可を受けなければならない。」との規定
が設けられていること、組合は、五月二十四・五日ごろから、本件争議の闘争資金
を獲得するため、組合員五名位をして、被申請人の管理する高知市<以下略>所在
の社員アパート三階娯楽室兼食堂内に、被申請人の許可なく立入らせ、その施設、
その他机、椅子などの備品を使用して一般市民から委託を受けて来たテレビ・ラジ
オ、その他電気製品の修理を行なわせたこと、右娯楽室兼食堂は、被申請人のロツ
クアウト告示の範囲内に入つていたが、平常時においても、ほとんど使用されず、
時たま被申請人従業員がマージヤンや飲酒場所として使つており、組合が右使用中
においても、アパートの居住者から格別苦情の申出はなかつたこと、被申請人は、
七月八日、組合の右アパート使用の事実を知つたので、同日および同月一八日の二
度にわたつて、組合に対し退去命令を出したところ、組合は同月二〇日になつて右
場所から退去したこと、また、組合は、ロツクアウト後、組合書記局が手狭となつ
たため、同書記局の建物に隣接している被申請人風呂場の脱衣場内に許可なく、本
件争議の闘争資金獲得のための販売活動に使用した買物寵、人形、ちり紙などを置
いたこと、右風呂場もまた、ロツクアウト告示の範囲内に入つており、ロツクアウ
ト以前は、被申請人の夜勤業務に従事する者が入浴のため使用していたが、ロツク
アウト後は、使用していなかつたこと、被申請人は七月六日組合が右風呂場を使用
している事実を知つたので、同日組合に対し、物品の撤去を命じたところ、組合
は、翌七日これを撤去したこと、さらに、組合は、ロツクアウト後、組合書記局に
電話架線の引込み工事をしたこと、しかし、右工事は、被申請人が社屋の一部に触
れたり、穴をあけたりすることを拒否したため、窓枠に板をはめ込んで架線を引き
込むという方法によつたものであること、以上の各事実が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 右認定事実によれば、組合員が、社員アパートの娯楽室兼食堂および風呂場を被
申請人の許可なく使用したのは、本件争議の闘争資金を獲得する目的に出たものと
いうのであるから、いずれも組合活動の一環としてなしたものと認められる。とこ
ろで、組合が、右施設を使用した当時、被申請人および非組合員は、右施設をほと
んど使用していない状態であり、また、組合の使用方法についても、これら施設を
汚損、破損するというようなものでなく、さらに、組合は、被申請人から退去ない
し撤去を命ぜられると、間もなく、その使用を中止しているのみならず、右の施設
は被申請人の業務運営には何ら影響のない場所であるから、これらの点を総合して
考えれば、被申請人としては、実質上、何ら右施設の管理権を侵害されていないと
いうのが相当であり、また電話架線の引込み工事の点も何ら被申請人の施設を損壊
していないことが明白であるから、組合の右施設の使用および電話敷設は、いずれ
も正当な組合活動の範囲に属するものというべきである。
(11) 会社役員の私宅訪問の点
(イ) 事実関係
 当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない疎甲第一三、一四号証の
各一、二、乙第二号証、第三四号証、第五四、五五号証、第六一号証および前掲同
第五三号証の二ならびに証人O、同A、同Gの各証言および申請人F、同E、同C
の各本人尋問の結果の一部を総合し、弁諭の全趣旨を考え合わせると、組合は、被
申請人がロツクアウトを実施して以来、被申請人に対し、連日団体交渉の申入れを
なして来たが、被申請人は、一貫してこれを受けつけず、組合の電話による折衝申
込みすらも、ほとんど拒んでいた状態であつたため、ロツクアウト以来六月一〇日
までの間、右労使間には、全く団体交渉が開かれなかつたこと、そして、同月一・
二日の両日に、計一六名の組合員が集団で組合を脱退するに至つたため、組合は、
組織上の大きな問題に直面し、検討を加えた結果、早期解決のため、あらゆる機会
を求めようとの方針を決定したこと、同月七日組合は、被申請人主張の三名が、労
務担当者で被申請人側の団体交渉の当事者であるところから、同人らの私宅を訪問
し、その妻に面会を求めて、組合の実情を訴えようとしたこと、そして、同日午前
一〇時ごろ、組合員は三班に分れ、一班を約一〇名前後として、右三名の私宅を各
班別をもつて訪問したこと、右三名の私宅においては、本人らはいずれもすでに出
社後であつたが、I宅およびA宅においては、組合員は、それぞれ両名の妻に面会
したこと、しかし、J宅においては、電話をかけた結果同人の妻が在宅しているこ
とがわかつたので、申請人Fが一人で同家の屋敷内に入つて行つて、玄関の戸をた
たき、面会を求めたが、同女は、右玄関に施錠したままこれに応じなかつたため、
面会することができなかつたこと、I宅における面会の状況は、時間にして約一五
分問であつたが、同人の妻は、組合員に座布団をすすめ、組合員も団体交渉を開い
て早急に解決したい旨組合の意向を伝え、同女が、その旨を主人に伝言することを
約したという経過でなされたこと、そして、A宅における状況については、出社し
ていた同人から、組合員が私宅に抗議に赴く旨事前に電話連絡してあつたため、同
人の妻は、玄関に施錠していたところ、組合員は電話を利用して同女の在宅を確か
めて面会を求めて来たので、同女が「会社のことだつたら主人に言つて下さい」と
いつて面会を断わつたところ、「ちよつとでいいから奥さんにお願いしたい。」と
いつて、さらに面会を求め、同女がやむをえず会うことにすると、組合員多数が玄
関内に入つて来て、同女に対し、「団交を開かないので非常に困つている。」「会
社にも言つているが、家庭にも頼みに来た。」などと口々に話し騒がしくなつたの
で、その後、一人ずつ交替で面会することにして、一方的に言分を述べていつたこ
と、右組合員の言分のうちには、被申請人の不当性を訴えるものや、団体交渉を要
求するもののほか、Aの趣味や年令についてまで尋ねたりしたこともあつたこと、
同女は、その夜発病して、血圧がさがり、発熱し、下痢をするに至つたこと、右の
ようにして、J宅では面会できず、I宅では約一五分間で面会を終えた組合員は、
あい次いで、A宅前附近に集合したが、A宅においては、同家を担当した班の者一
二・三名が面会したのみで、他の組合員は、面会しなかつたこと、同日夕刻から組
合は、大会を開いて、全員による無記名投票を行なつた結果、組合の春季要求につ
いては、被申請人の回答案を全面的に了解することに決定したこと、以上の各事実
が一応認められる。
(ロ) 右事実にもとづく判断
 一般に組合が使用者に対し、団体交渉等を要求する目的をもつて、使用者の私宅
を訪問する行為は、特段の事情のない限り、不当な組合活動というべきであるが、
それ自体からただちに違法ということはできないので、結局、右のような組合活動
の違法性の有無についてはさらに具体的事情を検討して判断すべきものといわなけ
ればならない。
 ところで、本件の場合、右認定事実によれば、組合が、三名の労務担当者の私宅
に、その妻を訪問するに至つた経緯については、労使間に、被申請人のロツクアウ
ト実施以来、団体交渉が開かれなかつた点、また、右私宅訪問後、その日の内に組
合が被申請人の回答案を全面的に受諾する決議をせざるをえなかつた事実から、組
合は、右訪間決議の当時、すでにそのような窮状に追込まれていた事情が看取され
る点は、いずれも相当程度の事情として考慮されるが、なお、右事情のほか、その
余の事情を総合しても、組合の右私宅訪問行為を正当とするに足りる特段の事情と
は到底認められない。
 しかし、右三名の私宅における組合員の訪問の全般的状況、人数、言辞、面会時
間および面会方法については、A宅において、組合員十二・三名が一人ずつ面会す
るという方法をとつた結果、時間的に、やや長くなつたと認められるほか、格別、
不法な点は認められないし、右A宅においても、同人の妻が、相当の心理的圧迫を
受けたであろうことは容易に推認されるが、右の程度の心理的圧迫は、訪問行為か
ら当然に生ずる程度のものというべきであり、面会時間が長くなつた点について
も、右認定の事情からすれば、組合員の不法な目的に出たものとは認められないの
で、右判示の組合の私宅訪問の動機をも考え合わせれば、結局、右私宅訪問行為
は、不当な組合活動とは認めることができても、違法行為には該当しないものとい
わざるをえない。
(三) 違法行為に対する申請人ら四名の責任の有無について
1 一般に、違法な争議行為ないし組合活動は、集団的労働関係すなわち労働者の
組織的な団体的行動の一部分としてのみならず、それを実行した労働者と使用者間
の個別的労働契約関係としても把握されるべきものと解するのが相当であるから、
使用者は、その違法争議行為または組合活動を実施した労働者あるいはこれを企
画、指揮、遂行させた労働組合幹部に対し、個別的労働契約上の責任を追及し、就
業規則の懲戒規定を適用して、懲戒処分を科することができるものと考える。そし
て、その場合、組合幹部については、特段の反証のない限り、違法な争議行為ない
し組合活動を企画、指導、遂行させたものと推定するのが相当である。
2 そこで、これを本件についてみると、本件争議当時、申請人ら四名が被申請人
主張の組合役員の地位にあり、さらに、本件争議時において、申請人ら四名が闘争
委員の地位にあつたことは、いずれも当事者間に争いがなく、いずれも成立に争い
のない疎甲第一四号証の二、乙第四九号証の一ないし一一、同号証の一二の一、
二、同号証の一三ないし六一、第六二ないし六六号証ならびに証人Gの証言、申請
人D、同C、同F(一部)、同E(一部)の各本人尋問の結果を総合すると、組合
には、労働組合規約が設けられていて、それによれば、平常時においては、組合の
機関として、大会、代議員会および執行委員会が置かれていること、大会は、全組
合員を構成員とする最高の議決機関であるが、代議員会は、各職場から選出された
代議員と執行委員会の構成員である役員をもつて構成され、大会に次いで、組合運
営に関する諸方針を審議決定する議決機関であり、さらに、執行委員会は、執行委
員長一名、副委員長二名、書記長一名および相当数の執行委負(本件当時一三、四
名)をもつて構成され、大会および代議員会の決議事項、その他規約に従つて、組
合の業務を執行し、かつ、組合の緊急事項を処理する執行機関であること、そし
て、執行委員長は、組合を代表して、組合に関する一切の業務の統轄を、副委員長
は、委員長の補佐を、また書記長は、執行委員長の命を受けて、書記局の長とし
て、常時組合業務の処理管轄を、それぞれ担当することになつていること、しか
し、組合が闘争状態に入る時には、闘争委員会と中央闘争委員会が置かれ、闘争委
員会は、執行委員会の構成員と代議員とで構成されることになつているので、結
局、右代議員会の構成と全く同一となるものであるが、これは、争議を指導すると
ともに、具体的な争議戦術を決定する機関であり、また、中央闘争委員会は、執行
委負長、副委員長のうち一名、書記長、代議負のうち一名および執行委員のうち一
名の計五名で構成され、闘争委員会で決定した具体的な争議戦術をさらに細部にわ
たつて検討し、執行できるように決定するとともに、その執行を組合員に指揮し、
遂行させる機関であること、そして、中央闘争委員としては、申請人D、同F、同
Cの三名が入つていたこと、しかし、本件争議においては、組合は、組合委員長D
または組合執行委員長Dの名義でストライキ通告をなし、本件争議の前後において
行なわれた争議時においても、組合は、執行委員長名義で労使間の折衝を行なつて
来ていること、以上の各事実が一応認められる。
3 そこで、右2で認定した事実によれば、組合は、組合規約上においては、大会
を除き、平常時と争議時とで、それぞれ担当機関を区別する立前をとつているもの
と認められるが、他方、争議時における実際の組合活動機関としては、平常時の組
合機関が、争議時においても同じく機関として活動するという外形をとつていたこ
とがうかがわれるので、一見相矛盾するかのようであるが、その点については、次
のように考えるのが相当である。すなわち組合においては、平常時と、争議時とを
問わず、担当機関の構成員がほとんど一致していたという事情もあつて、争議中
は、争議時における担当機関が、現に活動していたにもかかわらず、対外的には担
当機関の表示について特に注意することなく、安易に平常時の組合機関を表示する
に至つたものであると思料されるのである。
4 そうすると、結局、他に格別の反証のない本件においては、本件争議時におい
て、闘争委員でありかつ中央闘争委員としての地位にあつた申請人D、同F、同C
は、右判示(二)の(2)、(4)ないし(7)の各違法組合活動ないし違法争議
行為を企画、指揮遂行させたもの、また、闘争委員としての地位にあつた申請人E
は、右各違法行為を企画したものと、いずれも推定するのが相当であるから、申請
人ら四名は、いずれも、被申請人に対し、右各違法行為について、右判示の態様に
よる組合幹部としての責任を負うべきものといわなければならない。
5 そして、さらに、右判示(二)の(4)、(7)の違法行為については申請人
Cが、同(5)の違法行為については申請人D、同Fおよび同Cが、それぞれ実行
行為者として関与していることは、先に認定したとおりであるから、右申請人ら
は、被申請人に対し、当該各違法行為を実行したことによる個別的実行責任につい
てもまた負担すべきものと認めるのが相当である。
(四) 解雇権濫用の点について
1 ところで、使用者が就業規則に軽重数段階の懲戒処分の種類を定めた場合にお
いて、同規則違反の行為をした労働者に対し、いずれの懲戒処分を科するかについ
ては、元来、使用者の自由な裁量に委ねられているものと解するのが相当である
が、使用者の懲戒処分選択に関する判断は、違反行為の態様とその情状に照らし、
常に社会通念上肯認される程度の客観的妥当性を有することを要し、ことに解雇処
分(先に第二、二、2において判示したとおり、懲戒解雇にかえて普通解雇に付す
る場合を含む。)の採択については、違反行為および情状を考慮し、その労働者を
企業内に存置するときには、経営秩序をみだし、生産性を阻害することが明白であ
る場合に限つて許されるものと解すべきであり、右の程度に至らない場合に解雇処
分をもつて臨むことは、解雇権の濫用として許されないところといわなければなら
ない。
2 そこで、先に判示した申請人ら四名の各有責行為の就業規則該当性の点につい
て検討すると、
(1) 被申請人に、別紙(二)記戦の内容の就業規則が設けられている事実は、
右内容のうち、第三三条第六号、第四八条第一、三号および第四九条第一ないし五
号についてはいずれも当事者問に争いがなく、その余については、申請人らにおい
て、明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。
(2) そうすると、前判示(二)の(2)および(5)の各行為は、いずれも右
就業規則第三三条第一一号、第四八条第一、三号に、判示(二)の(4)、(6)
および(7)の各行為は、いずれも同規則第四八条第三号に各該当するものと認め
られる。
3 次に、申請人らの平常の勤務成績および処分前歴について検討すると、申請人
D、同C、同Eが、それぞれ、被申請人主張の各処分を受けたことは、当事者問に
争いがなく、証人Bの証言によれば、右申請人三名の勤務成績は、あまりよくな
く、申請人Fの勤務成績は普通であつたことが認められる。
4 そこで、右1の趣旨に沿つて、本件解雇が解雇権の濫用にあたるかどうかを判
断すると、申請人ら四名について、いずれも責任を追及されるべき前判示の各違法
行為は、当該違法行為自体につき、いずれも情状において、相当程度しんしやくさ
れるべき点が認められることは、先に判示したとおりであるから、これに、申請人
ら四名の右3で認定した平常の勤務成績および処分前歴を考慮しても、申請人ら四
名を被申請人の企業内に存置することが、明白に、被申請人の経営秩序をみだし、
その生産性を阻害するに至るものとは到底認めることができない。
 そうすると、結局、本件解雇は、いずれも社会通念上、肯認される程度の客観的
妥当性を有せず、苛酷にすぎるものというべきであるから、解雇権を濫用したもの
といわなければならない。
(五) 従つて、本件解雇は、申請人ら主張の不当労働行為の点について判断する
までもなく、解雇権の濫用として無効のものである。
三 被保全権利について
右のとおり、本件解雇が無効である以上、申請人ら四名は、いずれも被申請人に対
し、なお現に、雇用契約上の権利を有する地位にあることが明らかであり、従つ
て、当然に賃金の支払いを受ける権利を有するものである。そして、右賃金の額
は、労働基準法所定の平均賃金により算定するのを相当とするところ、いずれも成
立に争いのない疎乙第一ないし四号証の各二によれば、被申請人は、申請人ら四名
に対し、本件解雇にあたり、解雇予告手当として、別紙(一)賃金表記載の各金額
を支給する旨通知している事実が一応認められるので、右の各金額は、労働基準法
第二〇条所定の平均賃金の額に該当するものと認めるのを相当とする。また、被申
請人の給与支払日が毎月二五日であることは当事者間に争いがなく、被申請人が、
本件解雇の日以降申請人ら四名に対して賃金を支払つていない事実については、弁
論の全趣旨によりこれを認めることができる。そうすると、申請人ら四名は、被申
請人に対し、本件解雇の日である昭和四一年九月三日以降毎月二五日限り、一ヶ月
につき、別紙(一)賃金表記載の金額による平均賃金の支払いを受ける権利を有す
るものと認められる。
四 仮処分の必要性について
 申請人E、同Dの各本人尋問の結果を総合し、弁論の全趣旨を合わせ考えれば、
申請人ら四名は、いずれも被申請人から支給される賃金のみによつて生計を維持し
ている労働者であるところ、本件解雇後は、各方面から金員を借入れ、あるいは廃
品回収等の臨時アルバイトによつて得た収入をもつて、かろうじて生計を維持して
来ている事実が一応認められるから、申請人ら四名が、被申請人の従業員たる地位
および権利を有する旨の本案判決の確定をまつていては、その生活に著しい損害を
被るおそれがあるものと認めるのが相当であつて、本件仮処分申請の必要性がある
ものというべきである。
五 結論
 よつて、申請人ら四名の本件仮処分申請は、すべて理由があるから、保証を立て
させないでこれを認容すべきものとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九
条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 安間喜夫 西尾幸彦 荒木友雄)
(別紙省略)

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