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平成13年(行ケ)第146号 審決取消請求事件
平成13年12月11日口頭弁論終結
判          決
原      告     大豊工業株式会社
訴訟代理人弁護士     上   谷       清
同            宇   井   正   一
同            笹   本       摂
訴訟代理人弁理士     永   坂   友   康
同            島   田   哲   郎
被      告     大同メタル工業株式会社
訴訟代理人弁理士     浅   村       皓
同            浅   村       肇
同            小   池   恒   明
同            岩   井   秀   生
同            金   子   憲   司
同            吉   田       裕
主          文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成11年審判第35104号事件について平成13年2月21日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
(1) 本案前の答弁
主文と同旨。
(2) 本案に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「すべり軸受」とする特許第2795305号(平成
6年3月18日出願。平成10年6月26日設定登録。以下「本件特許」といい,
その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は,平成11年3月9日,本件特許を請求項1ないし3のいずれに関し
ても無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を平成11年審判
第35104号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,特許請求の範囲
の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするとして,訂正請求を行った。特許庁
は,審理の結果,平成13年2月21日に,「特許第2795305号の請求項1
ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」
という。)をし,同年3月14日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点
別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,①上記訂正請求に
係る発明は,その出願前に頒布された刊行物である審判甲第3号証に記載された発
明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため,特許出願の
際,独立して特許を受けられるものと認めることはできないから,上記訂正は認め
られない,②本件発明は,審判甲第3号証に記載された発明であるから,本件特許
は,特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであり,同法123条1
項2号の規定に該当するものとして,無効とすべきである,というものである。
3 本件特許の特許請求の範囲
(1) 訂正請求に係るもの(下線部が訂正請求に係る部分である。)
「【請求項1】ボーリング加工によって摺接面の円周方向に伸びる環状の連
続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面とすべ
り軸受側の摺接面の山部の間隙が小さくなるように,軸方向の断面における山形を
した各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一とな
る位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の
基準線から上記各山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山
形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをと
った直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される
直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=5/1.9△C ・・・(2)
h=8・・・(3)
△C=1・・・(4)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項2】ボーリング加工によって摺接面の円周方向に伸びる環状の連続
した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面とすべり
軸受側の摺接面の山部の間隙が小さくなるように,軸方向の断面における山形をし
た各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる
位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基
準線から上記各山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形
の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとっ
た直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直
線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=2△C     ・・・(2)
h=8・・・(3)
△C=1.5・・・(4)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項3】ボーリング加工によって摺接面の円周方向に伸びる環状の連続
した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面とすべり
軸受側の摺接面の山部の間隙が小さくなるように,軸方向の断面における山形をし
た各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる
位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基
準線から上記各山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形
の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとっ
た直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の3つの数式で示される直
線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=5       ・・・(2)
△C=3・・・(3)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。」
(2) 訂正請求前のもの
「【請求項1】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連
続な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の
断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部
分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形
の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さを
hとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにお
いて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞され
る範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=5/1.9△C ・・・(2)
h=8・・・(3)
△C=1・・・(4)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項2】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続
な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断
面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分
と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形の
頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをh
としたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおい
て,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞される
範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=2△C     ・・・(2)
h=8・・・(3)
△C=1.5・・・(4)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項3】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続
な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断
面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分
と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形の
頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをh
としたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおい
て,上記△Cおよび高さhを,次の3つの数式で示される直線によって囲繞される
範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C      ・・・(1)
h=5       ・・・(2)
△C=3・・・(3)
ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。」
第3 本案前の申立てに関する当事者の主張の要点
1 被告
原告と被告は,1999年(平成11年)9月24日付けの「覚書」と題す
る書面(乙第1号証。以下「本件覚書」という。)により,本件審決に対し取消訴
訟を提起しないとの,不起訴の合意をした。本件訴えは,この不起訴の合意に違反
する不適法なものであるから,却下されるべきである。
(1) 本件覚書の第2項には,「大豊(判決注・原告のこと。以下同じ。)およ
び大同メタル(判決注・被告のこと。以下同じ。)は,本件問題を両社間の話合い
で解決することに基本同意する。」との記載がある。ここにいう「本件問題」と
は,「すべり軸受に関する特許係争」のことであることは,本件覚書の冒頭の「す
べり軸受に関する特許係争(以下本件問題という)」(覚書2行)との文言によ
り,その具体的な事件内容は,本件審決に係るものであることは,本件覚書の「大
豊の所有する特許権(特許第2795305号,以下本件特許という)に対し,大
同メタルは無効審判(平成11年審判第35104号)を申立てている。」(覚書
5行~6行)との記載により,いずれも明らかである。原被告双方は,この本件問
題を話し合いで解決することを基本同意事項としたものであるから,原被告間にお
いて,本件審決に対し,取消訴訟を提起しないとの合意があったことは,明らかで
ある。
(2) 本件覚書の第4項には,「(1)大豊および大同メタルは,本件審決に従
うことに合意し,その結果に応じて次の取扱いとすることに合意する。」との記載
がある。ここにいう「本件審決」とは,当時係属していた本件特許についての無効
審判(平成11年審判第35104号)の審決,すなわち,本件訴訟における本件
審決のことであり,「従う」とは,特許庁においてされた本件審決の結果を,上記
「本件問題」の最終的な結果としてこれに従う,との意味である。
ここにいう「本件審決」が「確定した」本件審決ではないことは,上記本
件覚書第4項(1)の記載から明らかである。
(3) 本件覚書の合意内容が,本件審決が「確定した」ことを要するとしたもの
でないことは,覚書第4項(2),(3)の合意内容全体からも明らかである。
本件覚書第4項(2)には「本件審決が,特許無効の場合。大豊は,受領
した尊敬料を大同メタルへ返却することとする。」との規定がある。原告は,本件
審決が確定していないにもかかわらず,上記尊敬料を被告に返却しており,このこ
とは,本件覚書4項(1)の合意内容が,本件審決が「確定した」ことを要するも
のではなかったことを示すものである。
本件覚書第4項(3)の4.には,「本件審決が,特許有効の場合。」,
「大豊および大同メタルは,本件に関する契約書を審決の直後に調印することに同
意する。なお,本件審決前に両社で協議を行い,その他の条項に関し基本の合意を
しておくこととする。」と規定され,同規定に従って,原被告間において,「特許
許諾契約書(案)」と題する書面(乙第2号証)が既に取り交わされている。同契
約書(案)の第4条(1)には「本件審判の決定において本件特許の有効性が確認
された場合に当たるため,」との文言があり,この文言からも,本件覚書が,本件
審決が「確定した」ことを要するものではなかったことが明らかである。
(4) 本件覚書第2項が上記不起訴の合意を規定したものであることは,本件覚
書の成立に至る交渉の経緯からも裏付けられる。すなわち,原被告双方は,本件覚
書の成立に至るまでも,本件審決が出た段階で,これにつき訴訟を提起することな
く,これに従う形で,本件問題を話合いで解決する,との指針に基づいて行動して
きているのである。
(5) 上記契約書(案)の12条には「本件覚書に規定のない事項または・・・
に疑義を生じた場合は,相互に善意と信頼をもって協議の上,解決する。」との記
載がある。この記載も,原被告間では,本件問題を訴えによらず話合いで解決する
ことが約束されていたことを物語るものである。
2 原告
本件覚書(乙第1号証)の合意内容の解釈に当たっては,その文言のみによ
るのではなく,合意に至る経緯や当事者間の言動などの諸事情をも十分に勘案する
必要がある。これらの諸事情をも勘案して総合的に考察するならば,本件におい
て,不起訴の合意があったとは認められないというべきである。
(1) 本件覚書の前提となっている「特許係争」は,原告が,被告の製造販売し
ている「すべり軸受」が原告の本件特許を侵害するものと判断して,特許権侵害差
止訴訟を提起するのもやむなしと考え,その事実を被告に通知したことに端を発す
るものである。
本件覚書は,原被告間で,本件特許に基づく侵害訴訟の取扱いについて合
意したものである。同覚書にいう「本件問題」とは,その前文で定義されているよ
うに「すべり軸受に関する特許係争」,すなわち特許侵害問題のことであって,特
許無効審判のことではない。本件覚書第1項で,被告の請求した特許無効審判が,
「前提となる事実関係」として記載され,「本件問題」とは峻別されているのは,
このことを示すものである。本件覚書第2項で「本件問題を両社間の話合いで解決
することに基本同意する。」と規定されているのも,侵害問題を話合いで解決しよ
うとする意図を表したものであり,特許無効審判の結論について,裁判ではなく話
合いで決着しようと定めたものではない。
本件覚書第3項は,侵害問題については話合いで解決するものの,現に被
告から請求されている特許無効審判事件の取扱いをどのようにするかを定めたもの
であり,①無効審判の結論が出されるまでは原告は被告に対する侵害訴訟を控え,
②侵害訴訟を控える見返りとして,被告は本件特許を尊重し,敬意を表する趣旨で
尊敬料を原告に預託し,③当該尊敬料の預託期限を定める,という内容のものであ
る。
本件覚書第4項で,「本件審決に従うことに合意し」と規定されているの
も,当事者の認識としては本件特許が有効の場合を前提として定めたものであり,
審決に対する不服申立をしないとする趣旨ではない。そして,尊敬料については,
審決の結果に応じ,特許無効審決があった場合には尊敬料を返却し,特許が有効だ
った場合には被告が原告に実施料を支払うという取扱いを定めたのが第4項
(2),(3)である。
(2) 当事者が本件覚書の趣旨につき,上記のように認識していたことは,当事
者間の書面のやりとりから,明確に理解することができる。
本件覚書第4項(3)4では,特許無効審判で特許が有効であるとの審決
がなされた場合には,実施許諾をすることによって侵害問題を解決することが合意
されており,当事者双方は,審決前に実施許諾契約につき,あらかじめ基本合意を
しておくとの条項に従い,交渉を開始した。
この交渉の過程で,原告が,平成11年12月1日付けで,被告に対し,
書簡に特許許諾契約書(案)を添付したもの(甲第6号証)を送付したのに対し,
被告は,平成12年1月18日付けで,原告に対し,書簡及び特許許諾契約書(大
同修正案)(甲第7号証)を送付し,この大同修正案において,「本件審判の決定
が如何なる内容であっても,大豊および大同メタルはその決定に従い,それ以降の
訂正審判請求,審決取消訴訟等の法的対応をとらない」旨の条項の追加を提案し
た。もし,被告の主張するように,本件覚書によって不起訴の合意がなされたもの
と認識されていたとすれば,このような提案をする必要もないのであるから,被告
から,このような提案があったということは,本件覚書では不起訴の合意はなかっ
たことを端的に示すものである。
原告が,上記大同修正案に対し,同月25日付けの回答書に,特許許諾契
約書(大豊修正案)及びその説明書を付したもの(甲第8号証)を送付し,上記条
項の追加について,「本契約は,特許が有効であるとの本件審決の決定後に締結す
るものであり,ご提案の追加条項1は,本契約の締結には不要の条項でありま
す。」と説明したのに対し,被告は,その後の交渉の経緯において,上記追加条項
のことについて,一切言及していない。このことから,被告は,原告の上記説明を
承諾し,追加条項の主張を取り下げたものと理解することができる。
このように,本件特許の無効審判についての不起訴の合意が,被告からい
ったんは提案されたことは確かであるものの,この提案は,その後取下げないし撤
回されたものである。結局,本件審決についての不起訴の合意は存在しないのであ
る。
第4 当裁判所の判断
1 前記当事者間に争いのない事実及び乙第1,第2号証並びに弁論の全趣旨に
よれば,原告は,被告が「ボーリング軸受」の名称で製造販売する,すべり軸受
が,原告が特許権者である本件特許を侵害すると判断して,平成10年にその旨を
被告に通知したこと,被告は,本件特許につき無効審判の請求(平成11年審判第
35104号)をしたこと,原告と被告は,上記すべり軸受に関する特許係争につ
き協議,交渉した結果,1999年(平成11年)9月24日付けで,次の文言の
本件覚書を作成しこれに調印したこと,原告と被告は,その後,本件覚書第4項
(3)4の規定に従い,協議のうえ,本件審決が出される前に,あらかじめ,特許
許諾契約書(案)(乙第2号証)を作成したこと,が認められる。
「             覚  書
大豊工業株式会社(以下大豊という)と,大同メタル工業株式会社(以下
大同メタルという)とは,すべり軸受に関する特許係争(以下本件問題という)の
解決に当たり,次の事項につき同意したので覚書を取り交わす。
第1項 前提となる事実関係について
(1)大豊の所有する特許権(特許第2795305号,以下本件特許とい
う)に対し,大同メタルは無効審判(平成11年審判第35104号)を申立てて
いる。
(2)大同メタルは,『ボーリング軸受』と自称して,本件問題に関連する
すべり軸受(以下対象軸受という)を製造販売している。
第2項 基本同意について
大豊及び大同メタルは,本件問題を両社間の話合いで解決することに基本
同意する。
第3項 尊敬料について
(1)大豊は,本件特許の無効審判の決定(以下本件審決という)まで,提
訴を控える。
(2)大同メタルは,その代りに尊敬料を大豊に支払うとともに,本件特許
を尊敬する。
(3)尊敬料は,金1000万円とする。この尊敬料は遅くとも1999年
9月30日までに支払うこととする。
第4項 本件審決後の取扱いについて
(1)大豊および大同メタルは,本件審決に従うことに合意し,その結果に
応じて次の取扱いとすることに合意する。
(2)本件審決が,特許無効の場合。
大豊は,受領した尊敬料を大同メタルへ返却することとする。
(3)本件審決が,特許有効の場合。
1.大同メタルは,別途に特許料を大豊に支払うこととする。
2.特許料は,対象軸受の販売価格の5%とする。
3.但し,大同メタルが支払った尊敬料は,特許料の一部に充当させる
こととする。
4.この場合,大豊および大同メタルは,本件に関する契約書を審決の
直後に調印することに同意する。なお,本件審決前に両社で協議を行い,その他の
条項に関し基本の合意をしておくこととする。   」
2 被告は,本件覚書により,本件審決に対し取消訴訟を提起しないとの不起訴
の合意がなされたと主張する。
上記1の認定によれば,原告と被告は,本件覚書の第2項で,本件特許に関
し両者間に存在する紛争を,当事者間の話合いで解決するとの基本合意をし,この
基本合意に基づく話合いによる解決の方法として,第3項で,原告は,本件審決が
出されるまでの間,被告に対する侵害訴訟の提起を差し控え,被告は,その見返り
として,原告に対し尊敬料の名目で1000万円を支払うことを,第4項で,最終
的に,当事者双方が本件審決の結論に従って行動することを,約束したものである
ということができる。
より具体的には,①本件審決の結論が特許無効である場合には,原告は,被
告に対し,尊敬料名目の金員を返還し,②本件審決の結論が特許有効である場合に
は,原被告間で,審決の直後に特許実施許諾契約書に調印して,被告が原告に対し
特許実施料を支払うことを内容とする特許実施許諾契約を締結することとしたもの
である。
本件覚書には,本件審決につき,取消訴訟を提起しうるか否かについて,直
接に言及した記載はない。しかしながら,上記のとおり,本件審決の結論が特許有
効である場合においては,「審決の直後」に特許実施許諾契約書に調印することと
されていることからすれば,特許実施許諾契約を締結した被告が,その特許を有効
とした審決の取消訴訟を提起することが,許されないものとされていることは,明
らかというべきである。
また,①の本件審決の結論が特許無効である場合に,原告は,尊敬料の返還
をする義務を負担するだけで,その審決の取消訴訟を提起することができるとする
と,取消訴訟の結論が出るまで,原被告間の本件特許に関する係争は,解決しない
こととなり,しかも,本件覚書には,取消訴訟の結論に従ってどのように上記紛争
を解決するのかについては,何ら規定がないから,本件覚書をわざわざ取り交わし
て話合いによる解決をするとの基本合意をしたことがその限りでは無意味となると
いわざるを得ない。加えて,このような結論は,上記のとおり,本件審決の結論が
特許有効である場合には被告に取消訴訟の提起が認められていないこととの間に大
きな不公平を生じさせることになる。したがって,原告が審決取消訴訟を提起する
ことを被告が了承していたなど特段の事情が認められない限り,本件覚書第4項
(2)は,本件審決が特許無効との結論となった場合にも,原告は,これに従い本
件特許が無効であることを認めてそれに応じた内容で紛争を解決するとの趣旨であ
って,この審決の取消訴訟を提起することは許されないと解するのが相当である。
原告は,本件覚書の合意に至る経緯や,当事者の言動を勘案するならば,上
記特段の事情が認められるとして,原告の交渉担当者の陳述書(甲第5号証)を提
出する。
しかしながら,甲第5号証のうち,本件覚書の趣旨についての記載は,結論
を述べるだけであり,本件覚書の締結に至る経緯について,この結論を裏付けるに
足りる具体的な事実の記載はなく,この点に関する当事者間のやりとりを示す文書
等の客観的な資料も提出されていない。
また,甲第5号証中には,本件覚書締結後の特許実施許諾契約書(案)の作
成過程において,被告側から,本件審決がいかなる内容であっても,原被告は,こ
れに従い審決取消訴訟を提起しない旨の記載を特許実施許諾契約書に追加すべきで
あるとの提案があったのに対し,原告側が,原告には審決取消訴訟をする自由があ
ると主張してこれを拒絶したところ,被告から異議が唱えられなかったので,被告
は,原告が審決取消訴訟をする自由があることを,少なくとも黙示的に同意した旨
の記載があり,甲第6ないし第17号証によれば,被告は,2000年1月18日
付け「貴社との特許問題の解決の件」と題する書面において,特許実施許諾契約書
に「本件審判の決定が如何なる内容であっても,大豊及び大同メタルはその決定に
従い,それ以降の訂正審判請求,審決取消訴訟等の法的対応をとらない。」との条
項を追加条項1として入れることを提案したこと,原告は,同月25日付け「貴社
との特許問題の解決に関する件」と題する書面により上記条項の追加を拒絶したこ
と,被告は,その後の交渉過程においては,原告に送付した文書中に,上記追加条
項に関する記載をしていないことが認められる。
しかしながら,甲第8号証によれば,原告は,上記同月25日付け書面にお
いて,上記条項の追加を拒絶する理由につき,「本契約(判決注・特許実施許諾契
約のこと)は,特許が有効であるとの本件審決の決定後に締結するものであり,ご
提案の追加条項1は,本契約の締結には不要の条項であります。」と回答するにと
どまり,原告に審決取消訴訟を提起する自由があるとは回答していないことが認め
られ,他に,原告が被告に対し,原告が本件審決につき審決取消訴訟を提起する自
由があると述べたことについては,その裏付けとなる文書等の証拠がなく,認める
ことができない。したがって,被告が,これを黙示的に承諾したことを認めること
もできない。
原告は,上記追加条項の提案は,被告が,本件覚書において,不起訴の合意
がなかったことを認識していたことを示すものであり,かつ,被告は,その後の交
渉過程において,上記提案を撤回し,原告が審決取消訴訟を提起しうることを認め
た,と主張する。しかしながら,上記追加条項の提案をしたことだけから,直ち
に,被告が,不起訴の合意がなかったことを認識していたことを認めるには足りな
い。かえって,上記認定の本件覚書の記載内容及び弁論の全趣旨によれば,被告の
提案は,本件覚書の趣旨を明確にする意図の下になされたものであること,原告か
らは,特許許諾契約書(案)の締結とは直接の関係がないとの理由で条項の追加を
拒絶されたものの,審決取消訴訟を提起できるとの主張はなされなかったことか
ら,その後の交渉過程では,追加条項に言及しなかったものであること(特許実施
許諾契約書は,本件特許を有効とする審決がなされた場合にのみ,その直後に作成
されるものであるから,被告の提案は,実質的には,誤解あるいは検討の不足に基
づく,無用なものであったということができる。)を推認することができる。
以上のとおりであるから,原告提出の上記各証拠から,前記特段の事情を認
めることはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。
3 以上述べたところによれば,本件においては,原被告間において,本件審決
につき取消訴訟を提起しないとの不起訴の合意があったと認めることができるか
ら,本件訴えは,不起訴の合意に違反する不適法なものであるというべきである。
第5 よって,原告の本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     設   樂   隆   一
裁判官    阿   部   正   幸

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