弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1処分行政庁が原告に対し平成19年5月21日付けでした別表記載の各建物
の平成18年度固定資産課税台帳の登録価格に関する審査申出に対する決定
中,原告の審査申出を棄却した部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
原告は,別表記載の各建物(以下,同表の「番号」欄記載の順に「本件建物
1」などといい,各建物をまとめて「本件各建物」という)を所有する者で。
あり,那覇市長が決定した本件各建物の平成18年度固定資産課税台帳の登録
価格(以下「本件登録価格」という)を不服として処分行政庁に対し,審査。
申出(以下「本件審査申出」という)をした。。
処分行政庁は,平成19年5月21日付けで,本件審査申出の一部につい
て理由があるとして,本件登録価格の9割を超える部分を取り消したが,そ
の余の申出を棄却する決定(以下「本件審査決定」という)をした。。
本件は,原告が被告に対し,本件審査決定中,原告の審査申出を棄却した部
分は違法であると主張して,当該部分の取消しを求める事案である。
1地方税法(以下「法」という)の定め。
(1)(固定資産税に関する用語の意義)
第341条固定資産税について,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞ
れ当該各号に定めるところによる。
(前略)
五価格適正な時価をいう。
(以下略)
(2)(固定資産税の課税客体等)
第342条1項固定資産税は,固定資産に対し,当該固定資産所在の市町
村において課する(以下略)。
(3)(固定資産税の納税義務者等)
第343条1項固定資産税は,固定資産の所有者(略)に課する(以下。
略)
(4(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準))
第349条1項基準年度(昭和31年度及び33年度並びに昭和33年度
から起算して3年度又は3の倍数の年度を経過したごとの年度。法341
条6号)に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地
」。),又は家屋というに対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は
当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で(固定資産)
課税台帳(中略)に登録されたものとする(以下略。)
(5(固定資産税の税率))
第350条1項固定資産税の標準税率は,100分の1.4とする(2。
項以下略。)
(6)(固定資産税の賦課期日)
第359条固定資産税の賦課期日は,当該年度の初日の属する年の1月1
日とする。
(7)(固定資産税に係る総務大臣の任務)
第388条1項総務大臣は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方
法及び手続(以下「固定資産評価基準」という)を定め,これを告示し。
なければならない。この場合において,固定資産評価基準には,その細目
に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めること
ができる(2項以下略)。
(8(固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務))
第403条1項市町村長は,第389条又は第743条の規定によって道
府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外,第388条第
1項の固定資産評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければなら
ない(以下略)。
(9)(固定資産の価格等の決定等)
第410条1項市町村長は,前条第4項に規定する評価調書(固定資産評
価員作成の評価調書)を受理した場合においては,これに基づいて固定資
産の価格等を毎年3月31日までに決定しなければならない(2項以下。
略)
(10)(固定資産の価格等の登録)
第411条1項市町村長は,前条第1項の規定によって固定資産の価格等
を決定した場合においては,直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税
台帳に登録しなければならない。
2市町村長は,前項の規定によって固定資産課税台帳に登録すべき固定資
産の価格等のすべてを登録した場合においては,直ちに,その旨を公示し
なければならない。
(以下略)
2固定資産評価基準
家屋の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について,固定資産評
価基準は以下のとおり規定している。
(1)家屋の評価
家屋の評価は,木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」と
いう)の区分に従い,各個の家屋について評点数を付設し,当該評点数に。
評点一点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものと
する。
(固定資産評価基準第2章第1節一。)
(2)評点数の付設
各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに
家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとする。この場合にお
いて,家屋の状況に応じ必要があるものについては,さらに家屋の需給事
情による減点を行うものとする。
(固定資産評価基準第2第1節二。)
(3)非木造家屋の評点数の算出方法
ア評点数の算出方法
非木造家屋の評点数は,当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎とし
て,これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設するものとし,次
の計算式によって求めるものとする。この場合において,当該非木造家
屋について需給事情による減点を行う必要があると認めるときは,当該
非木造家屋の評点数は,次の算式によって求めた評点数に需給事情によ
る減点補正率を乗じて求めるものとする。
〔算式〕
評点数=再建築費評点数×経過年数に応ずる減点補正率
(経過年数に応ずる減点補正率によることが,天災,火災その他の事由
により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合にあ
っては,評点数=(部分別再建築費評点数×損耗の程度に応ずる減点補
正率)の合計)
(固定資産評価基準第2章第3節一1)
イ損耗の状況による減点補正率の算出方法
非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は,経過年数に応ずる減点
補正率によるものとする。ただし,天災,火災その他の事由により当該
非木造家屋の状況からみて経過年数に応ずる減点補正率によることが適
当でないと認められる場合においては,損耗の程度に応ずる減点補正率
によるものとする。
非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は,次の「損耗の状況によ
る減点補正率の算出要領」によって算出するものとする。
〔損耗の状況による減点補正率の算出要領〕
(ア)経過年数に応ずる減点補正率
a経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という)。
は,通常の維持管理を行うものとした場合において,その年数の経過
に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであって,非木造家
屋の構造区分に従い「非木造家屋経年減点補正率基準表」に示され,
ている当該非木造家屋の経年減点補正率によって求めるものとする。
b第2節五1(2)の表中「率」の欄に定める積雪地域の率と寒冷地
域の率を合計した率が百分の十八以上の地域に属する市町村に所在す
る非木造家屋(その構造が「軽量鉄骨造「れんが造」又は「コン」,
クリートブロック造」のものに限る)に対する経年減点補正率は,。
非木造家屋経年減点補正率基準表の経年減点補正率に,百分の三(木
造家屋に係る積雪寒冷補正率が百分の二十五以上の地域に属する市町
村に所在する非木造家屋にあっては,百分の五)を上記アから控除し
て得られる補正率を乗じて得た率とする。ただし,当該補正率を乗じ
た経年減点補正率が百分の二十に満たない場合においては,百分の二
十とする(以下略。)
c経過年数が一年半未満であるとき又は経過年数に一年未満の端数が
あるときは,それぞれ一年未満の端数は,一年として計算するものと
する。
d第1節四ただし書きにより,増築された部分とその他の部分とに区
分しないで一棟の非木造家屋の評点数を付設する場合における経年減
点補正率は,それぞれの部分ごとに求めた経年減点補正率に,それぞ
れの部分の床面積をその他適当と認められる基準に基づいて定めたそ
れぞれの部分の当該非木造家屋全体に占める割合を乗じて得た数値を
合計して得た数値によるものとする。
(イ)損耗の程度に応ずる減点補正率
(「」。)a損耗の程度に応ずる減点補正率以下損耗減点補正率という
は,部分別損耗減点補正率基準表によって各部分別に求めた損耗残価
率を,当該非木造家屋について非木造家屋経年減点補正率基準表によ
って求めた経年減点補正率に乗じて各部分別に求めるものとする。損
耗残価率は,各部分別の損耗の現況を通常の維持管理を行うものとし
た場合において,その年数の経過に応じて通常生ずる損耗の状態に修
復するものとした場合に要する費用を基礎として定めたものであり,
当該非木造家屋の各部分別の損耗の程度に応じ,部分別損耗減点補正
率基準表により求めるものとする。ただし,市町村長は,当該市町村
に所在する非木造家屋の損耗の程度,構造等の実態からみて部分別損
耗減点補正率基準表を適用することが困難であると認める場合その他
特に必要があると認める場合は,部分別損耗減点補正率基準表につい
て所要の補正を行い,これを適用することができるものとする。
b損耗減点補正率は,非木造家屋の各部分別ごとに,当該部分別を通
じた損耗の状況に応じて一の損耗減点補正率を求めるものとする。
(固定資産評価基準第2章第3節五。)
ウ需給事情による減点補正率の算出方法
(ア)需給事情による減点補正率は,建築様式が著しく旧式となっている
非木造家屋,所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非
木造家屋等について,その減少する価額の範囲において求めるものとす
る。
(固定資産評価基準第2章第3節六)
(イ)固定資産評価基準は,需給事情による減点補正率の具体的な補正率
を明らかにしていないが,昭和42年10月21日改正の固定資産評価
基準の取扱いについての依命通達(以下「本件通達」という)は「需。,
給事情による減点補正率は,建築様式が著しく旧式となっている家屋,
所在地域の状況によりその価額が減少するものと認められる家屋等につ
いて,その減少する価額の範囲において求めるものとされているが,具
体的には,次のような家屋について適用するものであること。
,,①草葺屋根の木造家屋又は旧式のれんが造の非木造家屋その他間取
通風,採光,設備の施工等の状況等からみて最近の建築様式又は生活
様式に適応しない家屋で,その価額が減少するものと認められるもの
②不良住宅地域,低湿地域,環境不良地域その他当該地域の事情によ
り当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在
する家屋
③交通の便否,人口密度,宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合
において,当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地
域に所在する家屋」としていた。
(乙1)
(ウ)本件通達は,平成12年度に廃止されたが,同通達の趣旨は失わ
れたわけではなく,その後も,全国の市町村において,同通達を参考に
して需給事情による減点補正の要否を判断しているのが実情である(乙
1,弁論の全趣旨。)
(エ)昭和38年12月25日付け依命通達により,需給事情による減点
補正は30%を限度とするとされていたが,本件通達により上記の制限
は撤廃され,減点補正率は減少する価額の範囲内で適用することとされ
た。本件通達廃止後,全国の市町村においては,おおむね1割を限度
として需給事情による減点補正がされている。
(乙1,弁論の全趣旨)
エ経過措置
(ア)再建築費評点補正率
固定資産税に係る平成18年度における在来分の評価に係る再建築費
評点補正率は,次のとおりとする。
第3節四に定める再建築費評点補正率(非木造家屋)0.95
(固定資産評価基準第2章第4節一2)
(イ)評点一点当たりの価額
固定資産税に係る平成18年度から平成20年度までの各年度におけ
る家屋の評価に限り,評点一点当たりの価額は(中略,1円にaに,)
定める「物価水準による補正率」とbに定める「設計管理費等による補
正率」とを相乗した率を乗じて得た額(小数点以下二位未満は切り捨て
るものとする)を基礎として市町村長が定めるものとする。。
a物価水準による補正率
物価水準による補正率は,家屋の工事原価に相当する費用等の東京
都(特別区の区域)における物価水準に対する地域的格差を考慮して
定めたものであって,木造家屋及び非木造家屋の区分に従い,次のと
おりとする。
(a)木造家屋
(略)
(b)非木造家屋
全市町村を通じて1.00とする。
b設計管理費等による補正率
設計管理費等による補正率は,工事原価に含まれていない設計監理
費,一般管理費負担額の費用を基礎として定めたものであって,全市
.,.。,町村を通じて木造家屋105非木造家屋110とするただし
木造家屋及び非木造家屋とも床面積がおおむね10平方メートル以下
の簡易な構造を有する家屋については設計管理費等による補正率は
1.00とする。
(固定資産評価基準第2章第4節二)
(ウ)基準年度における在来分家屋に係る価額の据置措置
固定資産税に係る平成18年度における在来分の家屋の評価に限り,
次のいずれかの低い価額によってその価額を求めるものとする(ただし
書き(略。))
a第1節から本節二までによって求めた家屋の価額
b当該家屋の平成17年度の価額(平成17年度の家屋課税台帳又は
家屋補充課税台帳に価格として登録されたものをいう)。
(固定資産評価基準第2章第4節三)
3前提となる事実(証拠を挙げていない事実は,当事者間に争いがない)。
(1)当事者
ア原告は,昭和31年11月21日,航空業者,航空旅行者,その他航空
関係者及び航空貨物に対する役務の提供(以下「空港ターミナル事業」と
いう)を目的として,設立された株式会社である。。
原告は,昭和32年2月18日,琉球政府(当時)から那覇空港にお
ける空港ターミナル事業及び附帯施設を運営する免許を付与され,その
後,沖縄の復帰に伴い制定された特別措置に関する法律等の関係法令に
より,那覇空港における空港ターミナル事業及びその附帯施設を運営す
るために必要な法令上の承認を受けた者とみなされた。
また,原告は,昭和49年6月6日,大阪航空局長から那覇空港にお
ける構内営業の承認を受け,平成11年5月25日に大阪航空局長から
営業の承認を取り消されるまでの間,那覇空港旧国内線第1ターミナル
ビル(昭和50年4月14日供用開始。以下「旧第1ターミナルビル」
という,同第2ターミナルビル(昭和34年5月9日供用開始。以下。)
「旧第2ターミナルビル」といい,旧第1ターミナルビルと併せていう
ときは「旧ターミナルビル」という)及び同国際線ターミナルビル(昭。
和62年7月2日供用開始)を各所有・管理していた。
イ被告は,固定資産価格の決定に関する不服を審査するために,那覇市に
設置された機関である。
(2)原告の従前の空港ターミナル事業等
ア原告は,大阪航空局長から,同局の管理財産である沖縄県那覇市A−B
番地に所在する下記の土地(以下「本件敷地」という)を,設立以来許。
可を得て使用しており,同地上に本件各建物を建築しこれを所有していた
(甲16。)

所在沖縄県那覇市A−B(那覇空港)
区分土地(敷地)
数量地上5708.08㎡,地下50.56㎡
地下(官民共用)58.70㎡上空111.81㎡
イ本件各建物は,それぞれ別表の「建築年月日」欄記載の時期に建築され
たものであるが,相互に連結してつながっており,構造的にも機能的にも
一個の建物として,原告の空港ターミナル事業に係る旧第1ターミナルビ
ルとして利用されてきた(甲1ないし14。)
なお,本件各建物の所在する地域には,那覇空港のほか,那覇軍港,
自衛隊基地及びその関連施設があり,民間の建物はほとんど存在しない
(弁論の全趣旨。)
(3)原告の空港ターミナル事業の廃止及び解散
ア那覇空港は,沖縄の復帰前は,旧第2ターミナルビルのみで航空需要に
対応してきたが,復帰と同時に日本の他の都道府県及び外国との交流が盛
んに行われるようになり,出入域者の増大等航空需要の著しい増加に伴い
ターミナル施設が狭あい化し,また,昭和50年開催の沖縄国際海洋博覧
会に対応するため,ターミナルビルの設置が必要となった。そこで,原告
,,,は昭和48年8月14日運輸省航空局飛行場部及び航空会社との間で
那覇空港における新ターミナルビル及び暫定ターミナルビルの建設・管理
等に関する基本事項について合意し,確認書を作成した。その要旨は,①
那覇空港における新ターミナルビルを建設し,同ターミナルビルの管理及
び運営は,運輸省の基本方針に従って設立される新会社が行う,②新ター
ミナルビルが建設されるまでの間,原告において暫定ターミナルビルを建
設し,その管理及び運営に当たる,③新ターミナルビルが新会社によりそ
の運営を開始され,暫定ターミナルビルの暫定使用期間が終了した後は,
同ビルは航空会社に残存価格で売却するか,新会社に承継される,④賃借
料,協力金,償還条件については,原告と航空会社との間で十分に協議す
るというものであった。
イ原告は,確認書における合意等に基づいて,昭和50年に暫定ターミナ
ルビルとして旧第1ターミナルビルを建設し,同年4月14日にその供用
を開始し,その後,別表「建築年月日」欄記載の時期に,数度にわたり同
ビルの増築,改築を行ない,本件各建物が建築された。
ウ原告と沖縄県は,上記確認書の作成以降,同文書の合意に基づく新ター
ミナルビルの建設等について協議を継続していたところ,平成4年1月2
7日,分散・狭あい化している旧ターミナルビルの統合整理のために覚書
を締結し,旧ターミナルビルを統合整理し,新ターミナルビルの建設に着
手した。そして,上記覚書に基づき,原告を筆頭株主,沖縄県,那覇市及
び航空会社等をその他の株主として,平成4年12月1日,那覇空港ビル
ディング株式会社(以下「NABCO」という)が設立され,原告が行。
っている空港ターミナル事業を,NABCOに引き継がさせることとなっ
た。その後,新たに那覇空港国内線旅客ターミナルビル(以下「新ターミ
ナルビル」という)が建築され,NABCOがこれを所有することとな。
り,平成11年5月26日から,新ターミナルビルの供用が開始されるこ
ととなった。
エこのように,新ターミナルビルの供用開始が決まったことから,大阪航
空局は原告に対する本件敷地の使用許可の期限を,新ターミナルビルの供
用開始の前日である平成11年5月25日までとした。
オ新ターミナルビルは,平成11年5月26日から供用が開始され,原告
も,空港ターミナル事業を廃止し本件各建物を使用しなくなった。
カ原告は,平成17年6月30日,解散し,現在,清算手続中である。
(甲1ないし14,16,17,乙20,21及び弁論の全趣旨)
(4)原告とNABCOとの交渉経緯等
原告とNABCOは,本件各建物を帳簿価格で有償譲渡する交渉を重ね
ていたが,結局,両者の間で本件各建物の売買契約又は売買予約契約が成
立することはなかった。
原告は,NABCOを被告として,主位的に,本件各建物について売買
予約契約が成立しており,その予約完結権を行使したとして,売買契約に
基づく代金13億9679万7551円の支払,予備的にNABCOの契
約締結上の過失によって同額の損害を被ったと主張してその支払を求める
(。「」。)訴え那覇地方裁判所平成14年第111号以下別訴事件という
を提起したが,同裁判所は,平成16年6月30日,原告とNABCOと
の間で,本件各建物の売買契約又は売買予約契約が成立した事実を認める
ことはできないし,売買契約が不成立となったことについて,NABCO
に契約締結上の過失は認められないとして,原告の請求をいずれも棄却す
る判決をした。
原告は,これを不服として福岡高等裁判所那覇支部に対し控訴したが,
同裁判所は,同年11月30日,同様の理由で原告の控訴を棄却する判決
をし,これに対し,原告は,最高裁判所に対し,上告及び上告受理申立て
をしたが,最高裁判所は,平成17年3月25日,上告棄却及び上告不受
理の決定をした。
(甲20ないし22。)
(5)本件各建物に対する固定資産税の課税状況
原告は,平成12年度から平成17年度までの本件各建物の固定資産税
を納付した。なお,上記各年度の本件各建物の固定資産税額は,別表の「税
額相当額」欄記載のとおりである(なお,平成12年度及び同13年度の
固定資産税額は,被告が記録を廃棄したため認定することができない。。)
(6)本件審査申出と本件審査決定
ア本件登録価格の決定
(ア)那覇市長は,原告に対し,平成18年5月1日付けで平成18年度
の本件各建物の固定資産価格を決定し,固定資産税額を通知した。平成
18年度の本件各建物の固定資産価格は,別表の「平成18年度評価額
(円」欄記載のとおりである。)
(イ)本件登録価格の算出過程
固定資産税における家屋の評価は,再建築価格方式によるところ,固
定資産評価基準によると在来分の非木造家屋の評価額は,次の計算式で
行うこととされている(前記2(3)ア。ただし,平成18年度の評)
価額が,前年度の評価額を上回った場合は,前年度の評価額に据え置か
れることとなっている(前記2(3)エ(ウ。))
(計算式)
評点数(再建築費×経年減点補正率×需給事情による減点補正率)×
評点1点当たりの価額(1.1円)
(ウ)本件各建物の本件登録価格の算出過程は以下のとおりである。
a本件建物1
本件建物1の平成17年度再建築費評点数は497万2152点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.
95を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を472万3544
点と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数472万3544点
に,経年減点補正率0.6185を乗じ,これに評点1点当たりの
価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物1の評価額を3
21万3663円と算出した。
(計算式)4,723,544×0.6185×1.10円=3,212,663円
平成17年度の本件建物2の評価額は,218万1990円である
ところ,上記平成18年度の本件建物2の評価額はこれを上回ってい
ることから,那覇市長は,前年度の評価額に基づき平成18年度の本
件建物2の評価額を218万1990円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
b本件建物2
本件建物2の平成17年度再建築費評点数は1556万6280点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.9
5を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を1478万7966点
と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数1478万7966
点に,経年減点補正率0.6000を乗じ,これに評点1点当たり
の価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物1の評価額を
976万0057円と算出した。
(計算式)14,787,966×0.6000×1.10円=9,760,057円
平成17年度の本件建物1の評価額は,1109万5645円であ
るところ,上記平成18年度の本件建物1の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物1の評価額を9
76万0057円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
c本件建物3
本件建物3の平成17年度再建築費評点数は2091万9695点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.9
5を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を1987万3710点
と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数1987万3710
点に,経年減点補正率0.6000を乗じ,これに評点1点当たり
の価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物3の評価額を
1311万6648円と算出した。
(計算式)19,873,710×0.6000×1.10円=13,116,648円
平成17年度の本件建物3の評価額は,1491万1559円であ
るところ,上記平成18年度の本件建物3の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物3の評価額を1
311万6648円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
d本件建物4
本件建物4の平成17年度再建築費評点数は1億1075万423
,,.1点であるところ那覇市長はこれに再建築費評点補正率である0
95を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を1億0521万65
19点と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数1億0521万65
19点に,経年減点補正率0.5556を乗じ,これに評点1点当
たりの価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物4の評価
額を6430万4127円と算出した。
(計算式)105,216,519×0.5556×1.10円=64,304,127円
平成17年度の本件建物4の評価額は,7418万2077円であ
るところ,上記平成18年度の本件建物4の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物4の評価額を6
430万4127円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
e本件建物5
本件建物5の平成17年度再建築費評点数は948万1382点で
あるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.95
を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を900万7312点と付
設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数900万7312点
に,経年減点補正率0.7440を乗じ,これに評点1点当たりの
価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物5の評価額を7
37万1584円と算出した。
(計算式)9,007,312×0.7440×1.10円=7,371,584円
平成17年度の本件建物5の評価額は,826万0181円である
ところ,上記平成18年度の本件建物5の評価額はこれを下回ってい
ることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物5の評価額を73
7万1584円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
f本件建物6
本件建物6の平成17年度再建築費評点数は1420万2350点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.9
5を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を1349万2232点
と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数1349万2232
点に,経年減点補正率0.6800を乗じ,これに評点1点当たり
の価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物6の評価額を
1009万2189円と算出した。
(計算式)13,492,232×0.6800×1.10円=10,092,189円
平成17年度の本件建物6の評価額は,1137万3243円であ
るところ,上記平成18年度の本件建物6の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物6の評価額を1
009万2189円と決定した。
需給事情による減点補正は,本件各建物の所在地域の状況に変化が
,,。ないものとして減価の必要を認めず同減点補正を適用しなかった
g本件建物7
本件建物7の平成17年度再建築費評点数は84万6045点であ
るところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.95を
乗じて,平成18年度の再建築費評点数を80万3742点と付設し
た。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数80万3742点に,
経年減点補正率0.7600を乗じ,これに評点1点当たりの価額
1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物7の評価額を67万
1928円と算出した。
(計算式)803,742×0.7600×1.10円=671,928円
平成17年度の本件建物7の評価額は,75万1966円であると
ころ,上記平成18年度の本件建物7の評価額はこれを下回っている
ことから,那覇市長は,平成18年度の本件建物7の評価額を67万
1928円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
h本件建物8
本件建物8の平成17年度再建築費評点数は2億8933万305
,,.4点であるところ那覇市長はこれに再建築費評点補正率である0
95を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を2億7486万64
01点と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数2億7486万64
01点に,経年減点補正率0.7600を乗じ,これに評点1点当
たりの価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物8の評価
額を2億2978万8311円と算出した。
(計算式)274,866,401×0.7600×1.10円=229,788,311円
平成17年度の本件建物8の評価額は,2億5715万9219円
であるところ,上記平成18年度の本件建物8の評価額はこれを下回
っていることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物8の評価額
を2億2978万8311円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
i本件建物9
本件建物9の平成17年度再建築費評点数は35万4410点であ
るところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.95を
乗じて,平成18年度の再建築費評点数を33万6689点と付設し
た。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数33万6689点に,
経年減点補正率0.6471を乗じ,これに評点1点当たりの価額
1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物9の評価額を23万
9658円と算出した。
(計算式)336,689×0.6471×1.10円=239,658円
平成17年度の本件建物9の評価額は,27万9797円であると
ころ,上記平成18年度の本件建物9の評価額はこれを下回っている
ことから,那覇市長は,平成18年度の本件建物9の評価額を23万
9658円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
j本件建物10
本件建物10の平成17年度再建築費評点数は95万3275点で
あるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.95
を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を90万5611点と付設
した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数90万5611点に,
経年減点補正率0.7000を乗じ,これに評点1点当たりの価額
1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物10の評価額を69
万7320円と算出した。
(計算式)905,611×0.7000×1.10円=697,320円
平成17年度の本件建物10の評価額は,79万6939円である
ところ,上記平成18年度の本件建物10の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物10の評価額を
69万7320円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
k本件建物11
本件建物11の平成17年度再建築費評点数は2426万1831
点であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.
95を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を2304万8739
点と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数2304万8739
点に,経年減点補正率0.7333を乗じ,これに評点1点当たり
の価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物11の評価額
を1859万1804円と算出した。
(計算式)23,048,739×0.7333×1.10円=18,591,804円
平成17年度の本件建物11の評価額は,2099万5462点で
あるところ,上記平成18年度の本件建物11の評価額はこれを下回
っていることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物11の評価
額を1859万1804円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
l本件建物12
本件建物12の平成17年度再建築費評点数は205万1892点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.9
5を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を194万9297点と
付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数194万9297点
に,経年減点補正率0.3800を乗じ,これに評点1点当たりの
価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物12の評価額を
81万4806円と算出した。
(計算式)1,949,297×0.3800×1.10円=814,806円
平成17年度の本件建物12の評価額は72万8339円であると
ころ,上記平成18年度の本件建物12の評価額はこれを上回ってい
ることから,那覇市長は,前年度の評価額に基づき平成18年度の本
件建物12の評価額を72万8339円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
m本件建物13
本件建物13の平成17年度再建築費評点数は489万7698点
であるところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率である0.9
5を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を465万2813点と
付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数465万2813点
に,経年減点補正率0.7000を乗じ,これに評点1点当たりの
価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物13の評価額を
358万2666円と算出した。
(計算式)4,652,813×0.70000×1.10円=3,582,666円
平成17年度の本件建物13の評価額は409万4476円である
ところ,上記平成18年度の本件建物13の評価額はこれを下回って
いることから,那覇市長は,平成18年度の本件建物13の評価額を
358万2666円と決定した。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
n本件建物14
本件建物14の平成17年度再建築費評点数は16億4538万4
271点であったところ,那覇市長は,これに再建築費評点補正率で
ある0.95を乗じて,平成18年度の再建築費評点数を15億63
11万5057点と付設した。
そして,上記平成18年度の再建築費評点数15億6311万5
057点に,経年減点補正率0.5040を乗じ,これに評点1点
当たりの価額1.10円を乗じて,平成18年度の本件建物14の
評価額を8億6659万0987円と算出した。
(計算式)1,563,115,057×0.5040×1.10円=866,590,987円
平成17年度の本件建物14の評価額は8億1946万2468円
であるところ,上記平成18年度の本件建物14の評価額はこれを上
回っていることから,那覇市長は,前年度の評価額に基づき平成18
年度の本件建物14の評価額を8億1946万2468円と決定し
た。
需給事情による減点補正については,本件各建物の所在地域の状況
に変化がなく減価の必要は認められないとして,同減点補正は適用さ
れなかった。
イ本件審査申出及び本件審査決定
原告は,那覇市長が決定した本件登録価格を不服として,処分行政庁
に対し,平成18年6月13日付けで本件審査申出をした。
処分行政庁は,平成19年5月21日付けで,本件各建物については
需給事情による減点補正を適用すべきであり,原告の本件審査申出には
一部理由があるから,本件各建物の固定資産価格を別表の「審査決定価
格」欄記載の各金額(以下「本件審査決定価格」という)とするのが相。
当であるとして,本件登録価格の9割を超える部分を取り消すとともに,
その余の審査申出を棄却した。
本件審査決定の理由の要旨は,①本件審査決定は,新ターミナルビル
の供用開始に伴う原告の空港ターミナル事業の廃止によって,本件各建
物の所在地域の状況が変化し,所有者である原告と無関係な一般的,普
遍的な事情により需給が制限され,本件各建物は,その価額が減少した
事情があり,この事情は,固定資産評価基準が定める需給事情による減
点補正を適用すべき事情に該当する,②原告が事業廃止後,本件各建物
の固定資産の賦課基準日である平成18年1月1日までの約6年7か月
の間,本件各建物を取り壊して撤去することなく所有し保有していたこ
とからすると,本件各建物自体に財産的価値が存していたことを意味す
るから,減価割合は1割程度の僅少にとどまり,減点補正率は,0.9
とするのが相当であり,本件各建物の本件登録価格に減点補正率0.9
を乗じた金額(本件審査決定価格)を本件各建物の適正な時価とするが
相当であるというものである。
(7)本件各建物の現況等
ア本件各建物は,平成11年5月26日以降使用されなくなったため,塩
害によるさびと腐食が進み,台風による雨漏りの被害が発生するなど老朽
化した状態にある。
平成18年4月の時点の本件各建物の状態は,同建物1階において,9
か所の天井ボード等の落下,3か所の天井・壁側面部等の落下,4か所の
床タイルの隆起・剥離が認められ,同建物の2階において,26か所の天
井ボード等の落下,9か所の天井・壁側面部等の落下,1か所の床タイル
の剥離が認められ,同建物の3階において,10か所の天井ボードの落下
及び著しい雨漏り,2か所の壁側面の破損が認められ,同建物の外観にお
いても,8か所の天井・壁等の落下,破損,亀裂及び剥離等が認められる
というものであった(枝番を含む甲18,19。)
イ原告は,別訴事件の確定後,本件各建物の取壊しに着手した(公知の事
実。)
4争点及び争点に関する当事者双方の主張
(1)争点1(本件審査決定が需給事情による減点補正率を0.9としたこ
との適否)について
(被告の主張)
本件審査決定がした需給事情による減点補正は,本件通達の「③交通の便
否,人口密度,宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において,当該地
域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋」に該
当するとして行われたものである。
上記需給事情による減点補正は,新ターミナルビルの供用開始に伴う原告
の空港ターミナル事業の廃止によって,空港敷地内にある本件各建物の所在
地域の状況が変化し,所有者である原告と無関係な一般的,普遍的な事情に
より需給が制限されその価額が減少すると認められたことによるものであ
る。
需給事情による減点補正のうち,上記の所在地域の状況の変化による減点
補正は,10ないし30%を限度として行うことが一般的であるとされてい
る。また,原告は,空港ターミナル事業を廃止した平成11年5月26日か
ら本件各建物の固定資産税の賦課期日である平成18年1月1日までの約6
年7か月間,本件各建物を取り壊して撤去することなく所有していたもので
あり,このことは,本件各建物に財産的価値が存していたことを意味するも
のである。
本件審査決定は,以上の点から,需給事情による減価の割合は大きいもの
とはいえず,減点補正率を0.9とするのが相当であるとしたものである。
(原告の主張)
本件各建物の固定資産価格を算定するに当たっては,評価額が0円となる
ように,需給事情による減点補正が行われるべきであり,本件審査決定価格
は,本件各建物の適正な時価を超えており違法である。
,「,需給事情による減点補正率は建築様式が著しく旧式となっている家屋
所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる家屋」について,そ
の減少する価額の範囲において求めるものとされている。本件では「所在,
地域の状況によりその価額が減少すると認められる家屋」に本件各建物が該
,,,当するかが問題となるが本件各建物の所在する地域には那覇空港のほか
那覇軍港,自衛隊基地及びその関連施設があり,民間の建物はほとんど存在
していない。
したがって,需給事情としては,那覇空港及びその関連施設について検討
することとなるが,これらは,那覇空港の空港関連事業と深く結びついてお
り,これと結びつきを持たない施設は取引の対象とはなり得ない。
本件各建物は,原告の空港ターミナル事業にかかる旧第1ターミナルビル
としての役割を終え,本件敷地の敷地利用権を失い,現況は廃屋となってい
,,るのであって本件各建物の所在する地域の上記のような特殊性に照らせば
本件各建物が建物として取引されることはなく,本件敷地の所有者である国
の要求に従い,同建物を取り壊すしかないから,減点補正率を0とするのが
相当である。
なお,原告が空港ターミナル事業廃止後も,本件各建物を取り壊すことな
く所有していたのは,同建物に財産的価値を見いだしていたからではなく,
NABCOとの間で,別訴事件が係属しており,その解決策として,本件各
建物をNABCOに売却することを意図していたからであるにすぎない。
(2)争点(2(その余の減額事由)について)
(原告の主張)
仮に,需給事情による減点補正がされないとしても,①本件各建物は暫定
的な建物であること,②本件各建物の敷地利用権が消滅していること,③不
動産鑑定士による本件各建物の鑑定評価額は1433万円と低額であるこ
と,④本件各建物は,新ターミナルビルが供用開始されたことにともない,
ターミナルビルとしての役割を終え,耐用年数も超過し廃屋となっているこ
となどから,固定資産評価基準によっては価格を適切に算定することができ
ない特別の事情があるというべきであって,その評価額は0円とすべきであ
る。
(被告の主張)
否認又は争う。
第3判断
1争点1(本件審査決定が需給事情による減点補正率を0.9としたことの適
否)について
(1)前記第2の2(3)ウのとおり,固定資産評価基準は,需給事情によ
る減点補正率について「建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋,,
所在地域の状況によりその価額が減少するものと認められる非木造家屋等に
ついて,その減少する価額の範囲において求めることとする」と規定し,。
本件通達は,需給事情による減点補正を適用する具体例として「①最近の,
建築様式又は生活様式に適応しない家屋で,その価額が減少するものと認め
られるもの,②当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少
すると認められる地域に所在する家屋,③交通の便否,人口密度,宅地価格
の状況等を総合的に考慮した場合において,当該地域に所在する家屋の価額
が減少すると認められる地域に所在する家屋」を挙げている。
上記①は,当該建物の「建築様式が著しく旧式になっている」こ
と(建物自体の個別的要因)により,②及び③は,当該建物の「所在地域の
状況(地域要因)により,それぞれ需給事情による減点補正を適用すべき」
ものをいうものと解される。
(2)前提となる事実(6)イのとおり,本件審査決定が本件各建物の需給
事情による減点補正率を0.9とした理由の要旨は,①新ターミナルビルの
供用開始に伴う原告の空港ターミナル事業の廃止によって,本件各建物の所
在地域の状況が変化し,所有者である原告と無関係な一般的,普遍的な事情
により,需給が制限され,本件各建物はその価額が減少した事情があると認
,,「」められこの事情は固定資産評価基準が定める需給事情による減点補正
を適用すべき事情に該当する,②需給事情による減点補正率は,原告が事業
廃止後,本件各建物の固定資産税の賦課期日である平成18年1月1日まで
の約6年7か月の間,本件各建物を取り壊して撤去することなく所有し保有
していたことからすれば,本件各建物自体に財産的価値が存していたことを
意味するから,減価割合は1割程度の僅少にとどまり,減点補正率は,0.
9とするのが相当であるというものである。
(3)本件審査決定が本件各建物について需給事情による減点補正を適用す
べきとした理由が,建物自体の個別的要因によるものなのか,その地域要因
によるものなのか決定自体からは必ずしも判然としない(被告の主張は,地
域要因(上記(1)の③)によるとする趣旨のようである)が,新ターミ。
ナルビルの供用開始とこれに伴う原告の空港ターミナル事業の廃止によっ
て,上記地域(狭くは那覇空港の所在する地域,広くは同空港のほか,上記
軍港・基地等の所在する地域)内の建物全体の需給が減少するような地域要
因の変化が生じたと認めることはできず(むしろ,那覇空港の所在する地域
については,新ターミナルビルの供用開始による観光客等の増大により,経
済価値が上昇する一方,上記軍港・基地等の所在する地域には格別の変化が
ないのが通常であろう,新ターミナルビルの供用開始によって,旧第1。)
ターミナル(本件各建物)が旧式のものとなり,その経済価値が相対的に減
少したという個別的要因(上記(1)の①)が需給事情による減点補正を適
用すべき理由と解するのが相当である。
(4)そこで,本件審査決定が本件各建物の需給事情による減点補正率を0.
9としたことの適否について検討する。
ア本件通達廃止後も,全国の市町村において,需給事情による減点補正が
おおむね1割を限度としてされてきたことは,前記第2の2(3)ウのと
おりであり,被告は,このような前例を参考として,本件においても減点
補正率を0.9としたものと推認される。
イしかしながら,前記第2の2(3)ウ(エ)のとおり,固定資産評価基
準は,需給事情による減点補正率の具体的な適用について,何ら制限をし
ておらず,本件通達の発出後は,需給事情による減点補正率は減少する価
額の範囲内で適用するものとされ,行政解釈上も何ら制限はなかったもの
である。
ウまた,前提となる事実(3)アないしウで認定したとおり,本件各建物
は,那覇空港の航空需要の著しい増大に対処するために,昭和50年に旧
第1ターミナルビルとして建築された暫定的な建物であったところ,新タ
ーミナルビルは,原告と沖縄県が,平成4年1月27日,分散・狭あい化
している旧ターミナルビルの統合整理に着手し,旧ターミナルビルに代わ
り空港ターミナル事業を行うために建築されたものであり,平成11年5
月26日にその供用が開始されたものである。
上記のような旧第1ターミナル(本件各建物)及び新ターミナルビルの
建築の経緯に照らせば,旧第1ターミナル(本件各建物)は,新ターミナ
ルビルの供用が開始された平成11年5月26日以降は,その歴史的使命
を終えた,著しく旧式のものとなっており,本件通達の「最新の建築様式
に適応しない家屋で,その価額が減少するものと認められるもの(1)」(
の①)であり,固定資産評価基準の「建築様式が著しく旧式となっている
非木造家屋」に当たるというべきである。
エさらに,前提となる事実(2)及び(3)で認定したとおり,本件各建
物は,国が所有し原告がその許可を得て使用していた本件敷地上に存在し
ていたものであり,新ターミナルビルが建築され空港ターミナル事業が,
原告からNABCOに引き継がれることとなったことにより,同敷地の使
用許可は,新ターミナルビルの供用開始の前日の平成11年5月25日を
もって終了している。また,上記のとおり,本件各建物は,原告が空港タ
ーミナル事業を行うに当たり,旧第1ターミナルビルとして暫定的に利用
することを目的として建築された建物であり,その用途も限られていたも
のである。
このような本件各建物の建築目的・用途等からすると,本件各建物が,
他に転用されて利用される可能性もほとんどないと考えられる(前提とな
る事実(7)イのとおり,原告は,別訴事件の確定後,本件各建物の取壊
しに着手している。。)
オ以上によれば,新ターミナルビルの供用開始後の本件各建物は「建築,
様式が著しく旧式となっている非木造家屋」に当たり,これによる同建物
の減価割合は,1割にとどまらないと解するのが相当であり,本件審査価
格が適正な時価を超えることは明らかである。
そうすると,本件審査決定が本件各建物の需給事情による減点補正率を
0.9としたのは,全国の市町村が需給事情による減点補正をおおむね1
割を限度としていた前例を安易に適用したものすぎず,本件各建物の特殊
性について十分な検討がされておらず,違法というほかない。
したがって,本件審査決定中,本件審査申出を棄却した部分は取消しを
免れないというべきであり,本件全証拠によっても,本件各建物に適用す
べき需給事情による減点補正率が0といえるかは必ずしも明らかでない
(原告は,不動産鑑定による本件各土地の鑑定評価額は1433万円であ
ると主張している)から,上記部分の全部を取り消すのが相当である。。
(5)これに対し,被告は,原告が空港ターミナル事業が廃止された平成11
年5月26日以降も,本件各建物の固定資産税の賦課期日である平成18年
1月1日までの約6年7か月の間,本件各建物を取り壊して撤去することな
く所有していたことは,同建物に財産的価値が存していたことを意味すると
主張する。
しかしながら,前提となる事実(4)で認定したとおり,原告は,NAB
COとの間で本件各建物を帳簿価格で有償譲渡する交渉をし,その後,原告
は,NABCOを被告として,本件各建物についての売買契約に基づく売買
代金等の支払を求める別訴事件を提起しており,原告が本件各建物を取り壊
わさないでいたのは同事件が係属していたためにすぎないと推認される前,(
提となる事実(7)のとおり,本件各建物は,平成11年5月26日以降使
用されなくなったため,塩害によるさびと腐食が進み,台風による雨漏りの
,,,被害が発生するなど老朽化した状態にありまた原告が別訴事件の確定後
本件各建物の取壊しに着手していることは上記推認を裏付けるものであ
る。。)
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
2結論
よって,原告の請求は,争点(2)について判断するまでもなく,いずれも
理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
那覇地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官大野和明
裁判官田邉実
裁判官小西圭一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛