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主文
1原判決主文第1項ないし第3項を次のとおり変更する。
(1)被控訴人の茨城県知事に対する,同知事が平成16年11月25日付けで
被控訴人に対してした個人情報部分開示決定(障福第×号及び竜保指令第×
号)のうち,原判決別紙第2及び第3の「開示を求める部分」欄記載の各部
分についての不開示処分に係る取消請求を棄却する。
(2)被控訴人の茨城県知事に対する,同知事が平成16年11月25日付けで
被控訴人に対してした個人情報部分開示決定(障福第×号及び竜保指令第×
号)のうち,上記不開示部分に係る開示の義務付けの訴えを却下する。
2訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が,茨城県知事に対し,茨城県個人情報の保護に関する条
例(平成5年茨城県条例第2号。平成17年茨城県条例第1号による改正前の
もの。以下「本件条例」という)に基づき,後記精神保健法による自己に対。
,,する入院措置に関する一切の資料について開示請求をしたところ同知事から
平成16年11月25日付けで同請求に係る資料のうち個人に関する情報事,(
業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって,開示することによ。
り,個人の正当な利益を害すると認められるもの(本件条例15条2号,及)
び,個人の診療,診断,評価,判定,選考,相談,指導等の業務に関する情報
であって,開示することにより,当該業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
のあるもの(同条4号)にそれぞれ該当するものがあることを理由に,これら
の個人情報を開示しないでその余を開示する旨の個人情報部分部分開示決定
(障福第×号及び竜保指令第×号。以下「本件処分」という)を受けたこと。
から行政不服審査法に基づく異議申立手続を経て原判決別紙2及び3の開,,「
示を求める部分」欄記載の各部分(以下「本件開示請求部分」という)を不。
開示とする処分の取消しを求めるとともに,本件開示請求部分について開示の
義務付けを請求した事案である。
原審は,本件処分のうち,原判決別紙1開示部分目録記載の部分を不開示と
した部分については,これを取り消し,茨城県知事に対し,本件処分に係る保
有個人情報のうち,同目録記載の部分につき開示決定をすることを命じ,その
余の被控訴人の請求を棄却した。これを不服として,控訴人が控訴した。
2前提事実
次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案
の概要」1(同2頁21行目から同10頁4行目まで)記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(1)同3頁3行目の「資料の開示」を「資料に関して,本件処分中本件開示請
求部分を不開示とする部分の取消し及び当該部分の開示」に改め,同行目の
「,,,。」末尾に被控訴人は入院措置当時25歳であり○○の症状があった
を加える。
(2)同頁10行目の「23条1項」の前に「18条1項」を加える。,
(3)同4頁22行目の「乙8」の前に「甲3,4,10の2ないし4」を,,
同5頁8行目の末尾に「茨城県保健福祉部長は,本件入院措置を被控訴人の
父親に通知した」をそれぞれ加える。。
(4)同9頁3行目の「審査請求をした」を次のとおり改める。。
「審査請求をした(以下「前審査請求」という。甲13の3。この前審査)
請求に対し,処分庁である茨城県知事は,同年11月29日,厚生労働大臣
あてに,前審査請求を棄却するとの裁決を求める旨の弁明書を送付した。厚
生労働大臣は,平成15年1月22日,被控訴人に対し,平成14年法律第
152号による改正前の行政不服審査法22条3項の規定により,同弁明書
の副本を送付し,それに対する反論書の提出を求めた。同副本には,証拠書
,(),(),類として精神障害者等診察保護申請書茨城県事務委任規則抜粋
入院措置に関する診断書が添付された。この弁明書,精神障害者等診察(保
護)申請書及び入院措置に関する診断書には,同各書面に係る本件開示請求
部分の内容は,すべて記載されている(甲11の1ないし7。これに対。)
し,被控訴人は,同年2月4日,反論書を提出した(甲11の8」)。
(5)同頁8行目の「乙9」の前に「甲13の4」を加える。,
(6)同頁18行目の「本件処分に対し」を「茨城県知事に対し,本件処分に,
ついて」に改める。,
「」「(「」。)」(7)同頁19行目の異議申立ての次に以下本件異議申立てという
を,同行目の「乙4の1」の前に「甲13の5・6」を,同行目の末尾に,
改行して次のとおりそれぞれ加える。
「被控訴人は,平成17年2月4日,茨城県保健福祉部長あてに「請願書」
と題して,本件入院措置に関する説明を書面によって行うよう求める文書を
。,,,提出したこれに対し茨城県保健福祉部障害福祉課長は被控訴人に対し
同月15日,本件処分に関する異議申立てがされているので,本件条例の規
定に基づき必要な手続を実施している旨の回答を書面で行い,併せて,同課
担当課長補佐は,被控訴人に対し「茨城県個人情報の保護に関する条例に,
係る異議申立ての処理について」と題する書面で本件異議申立てに関する手
続の流れ,被控訴人の意見を表明する時期などを教示した(甲5の1」。)
(8)同頁21行目の「審議会は」の次に「被控訴人に対し,同年5月9日,,
被控訴人の異議申立ての理由に対する不開示を相当とする意見が記載された
茨城県知事作成の「諮問庁意見書」の写しを送付し,これに対する異議申立
人の意見書の提出を求めた(甲5の2。被控訴人は,審議会に対し,同年)
6月13日「異議申立人意見書」を提出した(甲6の1。茨城県知事も,,)
同年7月20日,同「異議申立人意見書」に関する「諮問庁補足意見書」を
提出し(甲6の2,これに対し,被控訴人も,同年8月24日「諮問庁),
補足意見書について」と題する書面により,追加の意見を審議会に提出した
(甲7。審議会は,これらの」を加える。)
(9)同10頁3行目の「乙7」の前に「甲1」を加える。,
(10)同頁4行目の「本件訴えを提起した」を「控訴人に対し,本件訴えを提
起し,本件開示請求部分を不開示とする処分の取消しと本件開示請求部分の
()。,開示の義務付けを請求した裁判所に顕著な事実本件開示請求部分には
本件入院措置に関する指定医の診察内容や,控訴人の職員が関係者から得た
とされている聴取結果等が記載されている(弁論の全趣旨」に改める。)。
3争点及び当事者の主張
次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第2事案の
概要」2及び3(同10頁5行目から同14頁9行目まで)記載のとおりであ
るから,これを引用する。
(1)原判決の付加,訂正
ア同11頁6行目の末尾に,改行して次のとおり加え,同頁7行目から9
行目までを削る。
「イこの点に関し,被控訴人について本件入院措置を採るに至った経緯
並びに本件入院措置後において被控訴人及びその両親がとった行動に
ついてみると,その内容は次のとおりである。
(ア)被控訴人が通所していた精神障害者の共同作業所であるA共同作
,(「」。)業所の職員は茨城県竜ヶ崎保健所以下竜ヶ崎保健所という
に対し,平成▲年▲月▲日午後▲時ころ,被控訴人が突然興奮状態
で不穏な言葉を大声で出すなどし,また同作業所内にあった包丁を
持ち出したことなどを報告した。
報告を受けた竜ヶ崎保健所では,同日,直ちに精神保健法27条
1項に基づく診察の要否を決定するため,関係者からの情報等を基
に事前調査を行い,他害のおそれがあることから入院措置に関する
診察が必要であると判断し,被控訴人に精神保健法18条の指定医
2名の診察を受けさせた。
その結果は,被控訴人が精神障害者であり,かつ,医療及び保護
のために入院させなければ自傷他害のおそれがあるとの判断で一致
,,(「」。)したため茨城県知事は同人を医療法人B以下Bという
に入院させる措置を採った。
同年10月10日,病院管理者から竜ヶ崎保健所へ指定医が作成
した措置入院者の症状消退届が提出されたことにより,本件入院措
置は同月11日に解除された。
(イ)被控訴人及びその両親は,控訴人の職員に対し,以下のように,
入院措置に至る経緯や入院措置を採った根拠等についてその真偽や
詳細を確かめるため,又は,入院措置を受けたこと自体を否定し入
院措置に係る診断書や事前調査票の情報そのものが虚偽であること
を認めさせるために,電話等によって何度も長時間にわたり同じこ
,,,とを一方的に繰り返し主張し又は長時間にわたる面談を強要し
時には対応する者に罵詈雑言を浴びせるなど,様々な行動に出た。
具体的には,被控訴人の父親が被控訴人の代理人となって,厚生
労働大臣に対し本件入院措置の撤回を求めた前審査請求をした平成
14年10月から,同請求の却下の裁決がされた平成16年8月ま
での間に,被控訴人の母親が控訴人の職員に対しかけた電話の回数
は,当該職員の記録によると27回である。
前審査請求の却下後の同年9月から同年10月までの間,控訴人
の職員は,被控訴人の両親に対し,計4回,延べ12時間にわたっ
て,本件入院措置に関する手続,その経緯等についての説明を行っ
たが,被控訴人の両親は「保健所,作業所,病院はグル「診断,」,
書のCの署名は偽造「再調査せよ「当時の担当者を集めろ」」,」,
などと一方的な主張を繰り返した。
平成18年11月20日,被控訴人の母親は,前審査請求に対し
て弁明書等の資料を作成した当時の控訴人の職員の転勤先である土
浦保健所を訪問し,でたらめな書面を作成したと一方的に非難しな
がら,同職員の勤務時間終了後も2時間半にわたり居座り続けた。
同日,被控訴人の父親は,控訴人障害福祉課の職員からの説明の
電話を受けたところ,同人に対し,2時間半にわたり入院措置当日
の情報が虚偽であることを主張すると同時に「ドブネズミ「う,」,
じ虫「県職員を辞めろ」等,罵詈雑言を浴びせた。」,
同月22日,被控訴人の父親は,本件入院措置時の竜ヶ崎保健所
の担当課長であった控訴人の職員を,事前の連絡なく訪問し,すぐ
に卑猥な言葉を浴びせた上,本件入院措置時に竜ヶ崎保健所が作成
した書類の内容がでたらめであること,その書類を作成した担当者
が誰であり,現在の勤務先はどこであるかということなどにつき1
時間にわたり繰り返し同職員を詰問し,被控訴人の母親は,土浦保
健所に弁明書等の資料を作成した控訴人の当時の職員を訪ね,同職
員に対し,同月30日に予定される控訴人障害福祉課との面談に立
ち合うよう要求した。
同月30日,被控訴人及びその両親は,控訴人障害福祉課を訪問
し午後1時から午後8時10分まで保健所にはめられた当,,「」,「
時の担当者と話す機会をつくれ」など,7時間10分にわたり,そ
の要求を一方的に繰り返した。
平成19年1月24日,被控訴人の両親は,竜ヶ崎保健所を訪問
し,被控訴人の本件入院措置当日の情報について訂正を強要した。
控訴人の職員の記録によると,入院措置後の平成14年9月から
平成19年1月までの間における被控訴人及びその両親による上記
の行動の内訳及び時間は,電話でのやり取りが37回,面談が10
回であり,その対応時間は延べ42時間余りである」。
イ同11頁10行目冒頭の「イ」を「ウ」に改め,同頁12行目の「措置
入院は」から同頁19行目の末尾までを次のとおり改める。
「そして,本件条例15条2号該当性については,入院措置が,本人の意
思にかかわらず強制的に入院させる制度であり,指定医等の個人情報を
開示した場合,措置された者やその関係者が,入院措置となった経緯や
,,入院措置と判断した根拠等についてその真偽や詳細等を確かめるため
指定医等に対し不当な追及をし,その平穏な社会生活に影響を及ぼすお
それがあることに照らすと,同号の「個人に関する情報」とは,個人の
氏名,生年月日など,それから直接的に請求者以外の特定の個人を識別
できる情報だけでなく,その記述内容から容易に請求者以外の特定の個
人が識別され得る場合の係る記述内容も個人に関する情報に該当し,ま
た,同号の「開示することにより,個人の正当な利益を害すると認めら
れるとき」とは,当該個人情報の性質や内容,請求者と当該個人との関
係等から見て,当該情報を不開示とすることが客観的にも期待され,か
つ,その期待が正当として是認される場合に係るものであるか否かによ
って判断すべきである」。
ウ同11頁20行目の「ウ」を「エ」に改め,同12頁1行目の「規定し
ている」の次に「そもそも,精神保健法に基づく入院措置は,自傷他害。
のおそれのある精神障害者について,都道府県知事が指定する2名以上の
医師の診断が一致した場合に,緊急に,しかも本人の意思にかかわらず入
,,,院させる措置であるから本人が納得しないのが通常であり本人に対し
診断内容の詳細や入院経過に関する関係者の陳述内容を告知することは予
定されておらず,精神障害が寛解状態になった後に,本人が診断の詳細な
内容や入院措置の経緯を知れば,意に反した供述や診断内容に関し,関係
者や指定医に対し,恨みを持ち,執拗な攻撃行動に出たり,平穏でない態
様で病院や関係者のもとに押しかけて騒ぎ立てるおそれが潜在的に存在し
ていることは公知の事実であるため」を加える。,
エ同頁14行目の末尾に改行して次のとおり加える。
「本件条例15条4号該当性については,同号が,個人の診療,診断,評
価,判定,選考,相談,指導等の業務の円滑な遂行を保持するために定め
られたものであり,その趣旨に沿って,当該個人情報が,個人の診療,診
断等の業務に関する情報か否か,及び当該個人情報が当該業務に関する情
報であるとした場合,当該個人情報を開示することによって,当該業務の
適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか否かによって判断すべきであ
る。
なおここでの当該業務とは被控訴人の業務に限らず県以外の者民,,,(
間も含む)が行う業務も含まれ,支障を及ぼすおそれのあるものには,。
現に行われている業務のみならず,将来における業務の遂行に支障を及ぼ
すことになる同種の業務も含まれると解すべきである」。
(2)当審における被控訴人の補充主張
ア個人が実施機関の保有する自己に関する個人情報の開示を求める権利
は,本件条例14条1項において当該権利を創設してはじめて具現化した
権利であり,本件条例の範囲内において実現されるものであるから,本件
条例における個人情報の開示請求権は,本件条例15条の制限を受けない
範囲において実現されるものと解すべきである。
イ個人情報の開示請求権が本件条例によって付与されたものである以上,
本件条例15条各号に係る該当性は,本件条例の趣旨・文言に即して個別
に,本件条例の開示請求に係る個人情報の種類,性質,内容,開示に伴い
合理的に予想される影響を含めて,判断されるべきものである。これに対
して,これと異なって,開示請求に係る個人情報を開示することによる不
利益が,法的保護に値する程度の蓋然性をもって客観的かつ具体的に生じ
ること,又はそのおそれがあることが認められる場合に同条各号に該当す
,,,るとしその解釈に当たって開示請求をした者の当該情報を知る利益と
客観的具体的に想定される当該情報の開示により生じる不利益とを比較考
量して判断するという考え方は,個人情報の開示請求権が本件条例により
付与されたものであることを看過しているものである。
第3当裁判所の判断
1争点(1)本件開示請求部分の本件条例15条2号及び同条4号該当性につい

,(,,,,,,(1)前記の前提事実証拠甲1345の1・26の1ないし37
9の1・2,10の2ないし4,11の1ないし8,12の1・2,13の
3ないし6,14の1,15の2,17の1,24の1,28の1,31,
,,,,,,,乙123の1・24の1・25ないし914ないし17証人D
同E)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア被控訴人は,昭和▲年▲月▲日生まれであり,Cを父,Fを母とし,本
件入院措置当時25歳であり,平成▲年に精神障害者又はその疑いのある
者として認められるようになり,平成▲年▲月▲日には,○,○の診断を
受けた。
被控訴人は,A作業所に通所していたところ,同月▲日午後▲時ころ,
同作業所において,同作業所の作業員といさかいになり,興奮し,大声で
怒鳴り声を上げるなどしながら,同作業所内にあった包丁を手に取ったり
。,,,,したそこで同作業所の職員は竜ヶ崎保健所に対しその旨を報告し
警察と救急車を呼んだ。この怒鳴り声は,連絡を受けた竜ヶ崎保健所の職
員にも電話を通じて聞こえるほどの音量であり,竜ヶ崎保健所職員が,同
作業所に到着した時点では,被控訴人は救急車の担架に横になり拘束され
ながらも,顔面を紅潮させ,被控訴人の父親を罵るなどして同じ言葉を繰
り返し怒鳴っていた。
竜ヶ崎保健所は,被控訴人につき,精神保健法23条1項に規定による
精神障害者等診察(保護)申請を受け,直ちに同法27条1項に基づく診
察の要否を決定するため,関係者からの情報等を基に事前調査を行い,そ
の結果,他害のおそれがあると判断し,上記診察を行うことを決定した。
被控訴人は,同日,医療法人社団G病院に移送され,そこで指定医の診
察を受け,主たる精神障害が○,従たる精神障害が○であり,入院措置を
要するとの診断を受け,その後,Bにおいても指定医の診察を受け,主た
る精神障害が○,○であり,入院措置が必要であるとの診断を受け,2名
の指定医の診察結果は,被控訴人が精神障害者であり,かつ,医療及び保
護のために入院させなければ自傷他害のおそれがあるとの判断で一致し
た。そこで,茨城県知事は,被控訴人をBに入院させる措置を採った。
同年10月10日,病院管理者から竜ヶ崎保健所へ指定医が作成した措
置入院者の症状消退届が提出されたことにより,本件入院措置は同月11
日に解除された。
イ被控訴人の両親は,被控訴人から,被控訴人が包丁を手に持ったのは事
実であるが,その行為はA作業所の作業員に対して危害を加えるというよ
うな本気で行ったものではないという説明を受けたこともあり,子の人権
や名誉が侵害されたと考え,その回復を図るべく,複数の控訴人の職員に
対し,中には,本件入院措置当時の担当職員の人事異動後の新たな職場を
聞き出した上その職場にまで出向いて,本件入院措置の必要性はなかった
旨を主張し,平成14年9月から平成19年1月までの間,たびたび,本
件入院措置に至る経緯や入院措置が決定された根拠等について,その真偽
や詳細を確かめるため,関係した職員の名前を明かすように求めたり,関
係した職員を一同に集めて被控訴人の両親の調査に応じるように求めた
り,竜ヶ崎保健所,A作業所及び被控訴人が受診した病院らが不正なこと
をしているとして,その旨を数十回にわたる電話等によって長時間にわた
り一方的に繰り返し主張したり,又は,十回程度,関係職員に対し面談を
求めるなどした。
その状況を具体的にみると,まず,平成14年9月11日,被控訴人の
母親は,控訴人の保健福祉部障害福祉課の職員に対し,約1時間,本件入
院措置について納得できないと電話をかけ,同月14日同課職員及び竜ヶ
崎保健所職員2名が被控訴人の両親と面談し,2時間25分をかけて本件
入院措置について説明した後も,被控訴人の母親は,30回弱(同年10
月9日,同月15日,同月23日,同月25日,同月29日,同年11月
,,,,,7日同月12日同月下旬同年12月20日平成15年1月10日
同月15日,同月20日,同月23日,同年4月9日,同年7月15日,
平成16年2月23日,同年4月1日,同月13日,同月19日,同年5
月10日,同月12日,同年7月2日,同月27日,同年8月19日,同
年9月2日,同月7日,同年11月8日,平成18年11月20日)にわ
たって控訴人の職場に電話をかけ,さらに,被控訴人の両親は,10回弱
(平成16年9月8日,同月28日,同年10月14日,同月29日,平
成18年11月20日,同月21日,同月22日,同月30日,平成19
年1月24日,控訴人の職員からの説明を求めて,単独で又は両名が共)
にその職場に足を向けた。被控訴人の母親の電話には,本件入院措置及び
前審査請求に関する事務上の連絡のほか,本件入院措置の撤回を求めて控
訴人の職員に執拗に抗議をする内容のものもあった。被控訴人の両親が控
訴人の職員を訪ねて説明を受けた中には,約7時間もの時間をかけたもの
もあったが,被控訴人の両親は,控訴人の職員の説明に対して納得せず,
「保健所,作業所,病院はグル「診断書のCの署名は偽造「再調査」,」,
せよ「当時の担当者を集めろ」などという主張を繰り返した。これらの」
被控訴人の両親の行動により,控訴人の保健福祉部障害福祉課の職員は,
その対応に長時間拘束されることにより,業務に支障が生じたこともあっ
た。
(2)本件条例は,茨城県における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定め
ることにより,個人の権利利益の保護を図るとともに,県行政の適正な執行
(),,,に資することを目的とするものであり1条何人も実施機関に対して
自己に関する個人情報の開示を請求することができるものとして(14条1
項,実施機関の保有する自己に関する個人情報について知ることができる)
権利を個人に付与しているものであるところ,本件条例の目的及び本件条例
の背景となっている,知る権利の憲法上の重要性にかんがみれば,自己に関
する個人情報は,原則として,開示されるべきであり,第三者の利益の保護
又は公益の保護等の観点から「開示しないことができる」としている本件,
条例15条1号ないし8号の規定のいずれかの不開示事由に該当する場合に
は,例外的にその個人情報の全部又は一部を開示しないことができるものと
して定められていると解すべきである。
控訴人は,個人が実施機関の保有する自己に関する個人情報の開示を求め
る権利は,本件条例14条1項において当該権利を創設してはじめて具現化
した権利であり,本件条例の範囲内において実現されるものであるから,本
件条例における個人情報の開示請求権は,本件条例15条の制限を受けない
範囲において実現されるものと解すべきであると主張するが,前記の本件条
例の目的及び本件条例の背景となっている,知る権利の憲法上の重要性にか
んがみれば,本件条例15条各号の不開示事由に該当することを主張立証し
て初めて例外的に不開示が認められると解すべきである。
,。(3)そこで本件開示請求部分の本件条例15条2号該当性について検討する
そもそも,精神保健法29条に基づく入院措置は,本人が精神障害者であ
り,かつ,放置すれば自傷他害のおそれがあると認めて,本人の意思にかか
わらず強制的に入院させる制度であるから,入院措置手続の関係者等に係る
上記の個人に関する情報を開示した場合,一般に,当該措置を受けた者やそ
の親族が,入院措置となった経緯や入院措置と判断した根拠等について,そ
の真偽や詳細等を確かめるため,入院措置手続の関係者等に様々な働きかけ
をし,その平穏な社会生活に影響を及ぼすおそれがあることは否定すること
ができない。換言すれば,精神衛生法27条の規定に基づく診察は,通常の
医師と患者の診療契約関係とは異なり,都道府県知事の指定によるものであ
って,指定医は,通常の診療契約に基づく場合のように診療内容を被診察者
やその家族に対して知らせるべき義務を負う立場にあるとは認められないの
であり,そのような関係の下で,仮に,情報開示により,入院措置を採られ
た者やその親族が,当該指定医により精神障害者であって入院措置を要する
という診断がされた旨の情報に接した場合,誰しもが例外なくこれを従順か
,,つ平穏に受容するという事態は想定しがたいのでありそれらの者の中には
深刻に思い悩み,当該指定医の診断に誤りがあるのではないかと強く疑い,
当該指定医に対して怒りの念を抱くに至る者がないともいえず,あるいは,
精神保健法の入院措置に関する診察は,入院措置手続の関係者等から提供を
受けた過去の生活歴や病歴を基に,現時点での病状や状態像についての判断
を行うものであることから,指定医に対し提供された情報が虚偽であること
を明らかにしたいと考え,様々な行動に出る者があることも予想されないで
はなく,しかも,それらの行動が必ずしも平穏な態様でされる保証もないと
いわざるを得ない。
してみると,本件条例15条2号の「個人に関する情報」とは,個人の氏
名,生年月日など,それから直接的に請求者以外の特定の個人を識別できる
情報だけでなく,その記述内容から容易に請求者以外の特定の個人が識別さ
れ得る場合の係る記述内容の情報も含まれるというべきであり,また,同号
の「開示することにより,個人の正当な利益を害すると認められるとき」と
は,当該個人に関する情報の性質や内容,請求者と当該個人との関係等から
見て,当該情報を不開示とすることが客観的にも期待され,かつ,その期待
が正当として是認される場合に係るものであるか否かによって判断すべきで
ある。
,,,以上に照らして本件開示請求部分をみるに前記前提事実記載のとおり
本件入院措置に関する指定医の診察内容や,控訴人の職員が関係者から得た
とされる聴取結果等が記載されているところ,その欄の形式等から,本件開
示請求部分には,本件入院措置手続の関係者等の中の特定の個人について,
その氏名などを直接識別できる情報だけでなく,その記述内容から容易に特
定の個人が識別され得る情報が含まれているものと認められる。
してみると,本件においては,被控訴人及びその両親が本件入院措置に至
る客観的経緯を知るために文書の開示を求める権利は尊重に値するものであ
るとともに,被控訴人の両親は,被控訴人の親として,その経歴や将来を案
ずる心情から行動したことは理解できるものの,上記(1)イにおいて認定し
たとおり,控訴人の担当者らは本件入院措置に関して被控訴人及びその両親
に対して十分に説明を重ねてきたにもかかわらず,被控訴人の両親は,それ
を理解し納得しようとする姿勢をいささかも示すことなく,たびたび本件入
院措置当時の担当職員に電話をかけたり,その職場を訪ね,人事異動により
職場が変わった職員については,その現在の職場を聞き出した上,その職場
にまで出向いて,本件入院措置に至る経緯について事情を問い質し,本件入
院措置に関する苦情を執拗に申し立てた経緯があることに照らすと,被控訴
人及びその両親の行動は,特に前審査請求の却下後は,権利の行使という範
ちゅうを超えたものというべきであり,本件入院措置手続の関係者等の個人
,,,に関する情報を開示した場合被控訴人の両親がそれらの関係者等に対し
本件入院措置の経緯や入院措置と判断された根拠等について,その真偽や詳
細等を確かめるための様々な働きかけや苦情の申立てをするなど,その平穏
な社会生活に影響を及ぼすおそれが極めて高いものといい得る。
したがって,本件開示請求部分のうち個人に関する情報については,当該
情報を開示することにより,個人の正当な利益を害するものと認められ,当
該部分は,本件条例15条2号に該当するものと認められる。
(4)次に,本件開示請求部分の本件条例15条4号に係る該当性について見る
に,前記判示のとおり,本件開示請求部分には,本件入院措置に関する指定
医の診察内容や,控訴人の職員が関係者から得たとされる聴取結果等が記載
されているところ,本件開示請求部分を開示した場合,前記(3)のとおり,
被控訴人及びその両親が,入院措置に至る経緯や入院措置と判断された根拠
等について,その真偽や詳細等を確かめるため,指定医その他の本件入院措
置手続に関与した者に対し不当な追及をし,その平穏な社会生活に影響を及
ぼし,ひいては入院措置等精神障害者福祉業務の適正な遂行に影響を及ぼす
おそれがあるものと認められる。
よって,本件開示請求部分のうち個人識別情報を除く部分を開示すること
は,適正な事務の執行に支障が生じるおそれがあるものと認められ,同部分
は本件条例15条4号に該当するものと認められる。
(5)なお,厚生労働大臣が,平成15年1月22日,被控訴人に対し,平成1
4年法律第152号による改正前の行政不服審査法22条3項の規定により
((),送付した弁明書の副本及びその証拠書類精神障害者等診察保護申請書
茨城県事務委任規則(抜粋,措置入院に関する診断書)には,同各書面に)
係る本件開示請求部分のすべての事項が記載されているが,これは前審査請
求の手続上関係法令の求めるところに従って行われるものであり,本件処分
とは,その趣旨及び目的が異なるため,被控訴人に送付された上記各書面に
これらの記載がされていることをもって,被控訴人の本件条例に基づく開示
請求に対する本件処分が違法となるものではないことはいうまでもないとこ
ろである。
(6)以上によれば,茨城県知事が,本件処分において,本件開示請求部分を不
開示としたことは適法であり,被控訴人の本件開示請求部分についての開示
請求は理由がなく,棄却すべきである。
2争点(2)本件義務付け訴訟の適否について
被控訴人の茨城県知事に対する,本件処分のうち不開示部分に係る開示の義
務付けの訴えは,上記のとおり,本件処分が適法である以上,行政事件訴訟法
,。37条の3に定める訴え提起の要件を欠くものであるから却下すべきである
3以上によれば,本件控訴は理由があるから,原判決主文第1項ないし第3項
を変更して,被控訴人の本件請求のうち,茨城県知事が本件開示請求部分を不
開示とした決定の取消しを求める請求を棄却し,本件開示請求部分に係る開示
の義務付けの訴えを却下することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官大谷禎男
裁判官杉山正己
裁判官吉村真幸

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