弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人福田哲夫の上告理由第二ないし第五について
 一 本件は、上告人の申請に係る酒類販売業免許を被上告人が拒否した処分の取
消訴訟であるところ、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、昭和六三年一月九日、被上告人に対し、酒税法(以下「法」とい
う。)九条一項に基づき、次の内容の酒類販売業免許の申請(以下「本件申請」と
いう。)をした。
   販売場の所在地  栃木県矢板市a町b番地c、同b番地d
   販売場の名称   D店
   販売酒類の種類  全酒類
   販売の方法    小売業
 2 被上告人は、昭和六三年一二月一九日付けで、法一〇条一〇号、一一号に該
当することを理由として、右免許を拒否する旨の処分(以下「本件処分」という。)
をした。
 3 本件処分当時における酒税法基本通達(昭和五三年六月一七日付間酒一―二
五「酒税法基本通達の全部改正について」国税庁長官通達の別冊。以下「基本通達」
という。)は、法一〇条一〇号に規定する「経営の基礎が薄弱であると認められる
場合」の意義について、「事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、
製品又は販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に
相当な欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合」をいうと定め、ま
た、同条一一号に規定する「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」
の意義について、「新たに酒類の製造免許又は販売業免許を与えたときは、地域的
又は全国的に酒類の需給の均衡を破り、その生産及び販売の面に混乱を来し、製造
者又は販売業者の経営の基礎を危くし、ひいては、酒税の保全に悪影響を及ぼすと
認められる場合」をいうと定めていた。
 また、本件処分当時における酒類販売業免許等取扱要領(昭和三八年一月一四日
付間酒二―二「酒類の販売業免許等の取扱について」国税庁長官通達の別冊。以下
「取扱要領」という。)は、酒類小売業の免許の要件として、申請者の人的要件、
酒類の需給調整上の要件等を定めていた。そのうち人的要件としては、「経験その
他から判定し、税務署長が酒類の小売業を経営するに十分な知識及び能力を有する
と認める者又はこれらの者が主体となって組織する法人であること」と定め、右の
者の判定基準として、免許を受けている酒類の販売業の業務に直接従事した期間が
引き続き三年以上である者、調味食品等の販売業を三年以上継続して経営している
者等を挙げていた。また、法一〇条一一号の需給調整上の要件の判断基準として、
全酒類小売業の免許の付与は、「1」申請販売場の小売販売地域内に所在する全酒
類小売業者の販売場から、その地域の小売基準数量の一〇倍以上の数量の販売実績
を有する大規模な既存小売販売場を除外した残りの全酒類小売販売場の最近一箇年
における総販売数量に酒類消費量の増減率を乗じて算出される数量を、その販売場
の数に申請販売場数を加えた数で除して得た数量が地域ごとに定められた小売基準
数量以上であること(以下「小売基準数量要件」という。)、「2」申請時に最も
近い時における申請販売場の小売販売地域内の総世帯数を、既存小売販売場数に申
請販売場数を加えた数で除して得た数が地域ごとに定められた基準世帯数以上であ
ること(以下「基準世帯数要件」という。)、のいずれかに該当する場合に限るこ
ととし、そのただし書(以下「本件ただし書」という。)として、これらの要件に
合致する場合であっても、既存の酒類販売業者の経営実態又は酒類の取引状況等か
らみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確
保に支障を来すおそれがあると認められる場合は免許を与えないこととする旨の運
用指針を規定していた。そして、本件申請に係る販売場の属する小売販売地域にお
ける小売基準数量は年間二四キロリットル、基準世帯数は二〇〇世帯であった。
 4 上告人の代表取締役であるAは、かつて家電店を個人で経営していたが、昭
和六〇年六月、本件申請に係る販売場所在地の自己所有の土地建物において、大手
のコンビニエンスストアのグループであるEのフランチャイズ店を開店した。Aは、
妻のF及びGとともに、資本の総額を一〇〇万円とする上告人を設立し、以後、上
告人が右店舗建物をAから賃借してコンビニエンスストアを経営しているが、上告
人の実態はA及びFによる小規模の同族会社である。その後、上告人の資本の総額
は、同六三年七月に三〇〇万円に、本件処分後の平成元年二月に五〇〇万円に増額
された。
 上告人の決算報告書によると、上告人は、第一期事業年度(昭和六〇年一二月五
日から同六一年四月三〇日まで)に四九万九一九二円、第二期事業年度(同年五月
一日から同六二年四月三〇日まで)に一一七万八〇四九円の各損失金を計上し、同
日現在で一六七万七二四一円の未処理損失金を抱え、六七万七二四一円の債務超過
となっており、第三期事業年度(同年五月一日から同六三年四月三〇日まで)にお
いて、一〇万六三六四円の利益を計上したものの、依然として一五七万〇八七七円
の未処理損失金を抱え、債務超過の状態が継続し、第四期事業年度(同年五月一日
から同年八月三一日まで)に一八〇万八六三一円の利益金を計上している。なお、
上告人の売上高は、第二期事業年度が二億〇六八二万七一九〇円、第三期事業年度
が二億五一〇三万四八三七円、第四期事業年度は九一七五万三二六三円であり、右
各年度の売上総利益は、それぞれ五七九八万一六六八円、七〇五五万一四七五円、
二五九五万四三二七円である。しかし、第三期事業年度における当期利益は一二八
万円余増加しただけであり、第四期事業年度における次期繰越金は一七万九七五四
円にすぎないことがうかがわれる。
 上告人は、第三期事業年度において、昭和六三年一月からA所有の前記店舗の賃
借料を月額三五万円から三〇万円に減額しており、右減額がなければ、同事業年度
においても、九万三六三六円の損失金を計上することとなり、前期からの繰越損失
金との合計一七七万〇八七七円が未処理損失金として計上されたはずである。また、
第四期事業年度においては、決算期を変更して期間四箇月の短期決算を組み、右の
とおり店舗賃借料を減額したまま据え置くとともに、Aの役員報酬を月額七五万円
から五五万円に、Fの役員報酬を月額五五万円から四〇万円に、それぞれ減額し、
右四箇月間に賃借料及び役員報酬を合計一六〇万円減額することにより、前記利益
金を計上して前期までの未処理損失金を補てんしているが、これらを減額しない場
合には、その利益金は二〇万八六三一円にとどまり、第三期事業年度からの繰越損
失金一七七万〇八七七円を補てんしても第四期事業年度末において依然として一五
六万二二四六円の未処理損失金を抱えることとなる。
 上告人は、有限会社H酒販との間で、同社において上告人が酒類販売業免許を取
得することを促進、指導し、これに対し上告人が顧問料一三〇〇万円を二回に分割
して支払うことを内容とするコンサルタント業務契約を締結し、昭和六二年一二月
一六日、同契約に基づき同社に顧問料として六五〇万円を支払い、これを第三期事
業年度の決算上前払金として処理した。右契約によれば、上告人は、右免許を取得
したときは、五日以内に残額六五〇万円を支払う約定となっている。
 なお、Aは、矢板市a町に土地二四六八平方メートル及び建物五棟を所有し、平
成元年度の右不動産の固定資産税評価額は約三五〇〇万円であるものの、右不動産
には既に極度額三〇〇〇万円の根抵当権が設定されている。
 5 Aは、3の取扱要領の定める人的要件を満たしていなかったため、これを形
式的に充足させるため、H酒販と相談の上、同社の経理部長であり右基準を満たす
Iを昭和六二年一二月三〇日開催の上告人の臨時社員総会において上告人の取締役
に選任し、同六三年一月七日その就任の登記を経由し、本件申請に際しては、Iは
常動で販売、仕入れを担当する旨書類に記載するなどした。しかし、実際は、Iが
上告人の経営に関与したことはなく、同人は本件申請について上告人が免許取得の
ための人的要件を充足しているかのような形式を整えるため、一時的、名目的に取
締役に就任したにすぎない。そして、Iは、本件処分当時、同六二年分の市県民税
七万六三八〇円のほか同六三年分の同税のうち納期が到来した二万六三〇〇円を滞
納していた。
 6 本件申請に係る販売場の小売販売地域内に所在する小売販売場は七場であり、
小売基準数量の一〇倍以上の数量の販売実績を有する販売場はない。右七場の合計
酒類販売数量は昭和六二年においては二三一・八四六キロリットルであるが、同六
〇年においては二三五・七七五キロリットル、同六一年においては二三一・七九七
キロリットルであって、横ばいの状態である。同小売販売地域内の世帯数は、同六
三年一一月一七日現在で一四九五世帯であるが、同六一年一〇月一日現在では一四
一九世帯、同六二年一〇月一日現在では一四六八世帯、同六三年一〇月一日現在で
は一四九五世帯であった。同販売地域の既存業者七者七場の平均営業所得は年間二
五〇万円程度であり、うち四者の販売数量は年間二四キロリットル未満である。上
告人の販売見込数量は、年間六七・六〇九キロリットルであり、右四者の合計販売
数量に匹敵する。
 上告人の店舗と同様国道四号線沿いにある他のコンビニエンスストアの例でも、
店舗の顧客全体としては通行客がかなり見られるものの、酒類の販売の場合の顧客
はそのほとんどが周辺地域の住民であり、他地域からの通行者が購入する例はごく
わずかである。
 二 原審は、右事実関係に基づき、次のとおり判断した。
 1 法一〇条一〇号該当性
 (一) 法一〇条一〇号に規定する「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」
の意義に関する基本通達の前記一3の立場は、合理的で相当なものということがで
きる。
 (二) 前記一4の事実によれば、上告人は、第一期及び第二期事業年度におい
て損失金を計上し、第三期及び第四期事業年度には、利益金を計上して未処理損失
金を補てんしたものの、賃借料及び役員報酬を減額しなかったとすれば、依然とし
て一五六万二二四六円の未処理損失金を抱えていたものと認められる。また、証拠
によれば、賃借料及び役員報酬の減額をし、第四期事業年度において短期決算を組
んだのは、上告人において酒類販売業免許の取得を目的として作為的に上告人の経
営状況が良好であるような体裁を整えるためにしたものであることがうかがわれる。
そして、上告人の売上高、売上総利益とも増加しているが、当期利益の増加はわず
かであるなど、H酒販に対して支払った顧問料六五〇万円の償却及び後払分の六五
〇万円のねん出は、上告人にとって大きな負担である。さらに、Aに上告人のため
十分な資金を調達する能力があったとは認め難い。これらからすると、本件処分当
時、酒類販売店経営のために必要な資金的要素に相当の欠陥があり、確実な経営は
見込まれない状態にあったとされてもやむを得ない。
 また、前記一5の事実によれば、Iは、本件申請について上告人が免許取得のた
めの人的要件を充足しているかのような形式を整えるため、一時的、名目的に取締
役に就任したにすぎないものであるが、本件処分当時被上告人はそのことを知るこ
とができなかったから、本件処分において被上告人が上告人の経営の人的要素の判
断をするためIについて検討したのは当然のことである。そして、被上告人が、I
について、市県民税滞納の事実から遵法精神に欠け、健全な経営を行う能力にも問
題があると判断したことは、首肯し得る。また、Aは、虚偽の手段をろうして免許
を取得しようと図ったものであるから、そのこと自体同人の遵法精神及び健全な経
営を行う能力に疑問を抱かせるものである。
 (三) 以上によれば、被上告人が本件処分当時上告人について経営の資金的、
人的要素に相当な欠陥があって事業の経営が確実とは認められないと判断したこと
には、合理性があるというべきであるから、上告人が法一〇条一〇号の「経営の基
礎が薄弱であると認められる場合」に該当するとした本件処分における被上告人の
判断に違法はない。
 2 法一〇条一一号該当性
 (一) 法一〇条一一号の要件に関する基本通達及び免許取扱要領の前記一3の
定めは、同号の運用基準として合理的で相当なものということができ、一概に、小
売基準数量要件又は基準世帯数量要件のいずれかを満たす申請に対しては原則とし
て免許を付与すべきであり、ただし書の適用は慎重にすべきものであると解するこ
とは相当でない。
 (二) 前記一6の事実によれば、本件申請が許可された場合の小売販売地域内
における免許後一場当たり販売見込数量は二八・九八一キロリットル、免許後一場
当たり世帯数は一八七世帯となり、本件申請は、免許取扱要領に定める基準世帯数
の要件は満たさないが、小売基準数量の要件は満たしている。しかし、本件申請に
係る小売販売地域における酒類の消費量は頭打ちとなっており、同販売地域の世帯
数の推移も同様に横ばい状態であり、既存業者のうち四者は零細業者であって、既
存業者の経営状態は必ずしも良好とはいえないなど、前記一6の事実からすれば、
本件処分当時、被上告人が上告人に免許を与えることは上告人の店舗周辺の小売販
売地域における酒類の需給の均衡を破り適当でないと判断したことには、合理性が
ある。
 (三) したがって、上告人に酒類販売業免許を与えることは法一〇条一一号に
該当し適当でないとした本件処分における被上告人の判断には違法はない。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 酒類販売業につき免許制が採られているのは、酒税の納税義務者とされた酒
類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒
税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業
者を酒類の流通過程から排除することとして、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図
るためであると解される。そして、右免許の要件を定めた法一〇条は、同条各号の
一に該当するときは免許を与えないことができると規定しているが、これは、右免
許制が憲法二二条一項の保障する職業選択の自由に対する規制措置であることにか
んがみ、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考え
られる場合を限定的に列挙して、免許の申請がそれらのいずれかに該当すると認め
られる場合に限って免許を与えないことができるものとし、それらに該当するとは
認められない場合には申請どおり免許を与えなければならないものとする規定であ
るというべきである。本件で問題となる法一〇条一〇号及び一一号の規定を酒類販
売業の免許の関係においてみると、一〇号は、物的、人的、資金的要素に欠陥があ
って申請者自身の経営の基礎が薄弱であると認められるため、酒類製造者において
酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがある場合を規定したものと解され、また、
一一号は、申請者の参入により酒類の需給の均衡が破れる結果酒類販売業者の経営
の基礎が危うくなると認められるため、酒類製造者において酒類販売代金の回収に
困難を来すおそれがある場合を規定したものと解される。これらの規定は、前記の
立法目的に沿う合理的なものということができるが、以上に述べたところからすれ
ば、「経営の基礎が薄弱である」(一〇号)、「酒類の需給の均衡を維持する必要
がある」、「免許を与えることが適当でない」(一一号)という抽象的な文言をも
って規定されている免許拒否の要件を拡大して解釈適用するときは、右の立法目的
を逸脱して、事実上既存業者の権益を保護するため新規参入を規制することにつな
がり、憲法の前記規定に違反する疑いを生ずるといわなければならないのであって、
あくまで右の立法目的に照らしてこれらの要件に該当することが具体的事実により
客観的に根拠付けられる必要があるものと解すべきである。
 2 右の見地に立って、前記事実関係に基づき、まず、本件申請が法一〇条一〇
号に該当すると認められるか否かについて検討する。
 (一) 上告人は、大手のコンビニエンスストアのグループであるEのフランチ
ャイズ店であるところ、その本件処分当時までの経営実績は、創業当初の第一期事
業年度(約五箇月間)に四九万九一九二円、第二期事業年度に一一七万八〇四九円
の損失金をそれぞれ計上したが、第三期事業年度には一〇万六三六四円、第四期事
業年度(四箇月間)には一八〇万八六三一円の利益金をそれぞれ計上し、第二期事
業年度末現在で一六七万七二四一円あった未処理損失金も第四期事業年度において
解消されたというのである。上告人の売上高が第二期事業年度においては二億〇六
八二万七一九〇円であったことからすれば、右の同期損失金の売上高に占める割合
はわずか〇・五七パーセントにすぎないのであり、右のように創業期において若干
の損失金が出ることは何ら異常なこととは考えられない上、その後、上告人の売上
高は着実に伸びているということができる。これら事実に基づけば、上告人が免許
取得後五日以内に顧問料残額六五〇万円の支払をしなければならない契約を締結し
ていることなど原審の確定したその余の事実関係を考慮しても、本件処分当時にお
いて上告人の経営の基礎が薄弱であると断定することはできなかったものといわな
ければならない。
 原審は、第三期事業年度以降の業績の回復は、Aから賃借している店舗の賃借料
及びAとFの役員報酬を減額したことによるものであることを問題としているが、
上告人はA及びFによる小規模の同族会社であり、減額後の金額が社会常識に照ら
して不相当なものであるとまでは解されないのであって、経営安定のためAやFの
同意の下にこのような措置を採ることも何ら異常なことではないから、帳簿上の粉
飾ではなく、現実にこのような措置が採られた以上、このような措置を採らなかっ
たならば経営が不安定であったであろうということを過大に考慮すべきではない。
原審は、右の賃借料及び役員報酬の減額をし、第四期事業年度において短期決算を
組んだのは、上告人において酒類販売業免許の取得を目的として作為的に上告人の
経営状況が良好であるような体裁を整えるためにしたものであることがうかがわれ
ると判示しているが、右減額等があくまで免許取得のための一時的な方便であり、
免許取得後は再びこれらを増額して赤字経営に逆戻りするおそれがあるとまで認定
するものではない。これらによれば、原審の挙げる点は、上告人の経営が順調とま
ではいえないというにとどまり、その基礎が薄弱であると断ずる根拠としては不十
分というほかはない。
 (二) 次に、本件申請において上告人の取締役とされていたIが市県民税を滞
納していたという事実は、実際には同人が上告人の経営に関与したことはなく今後
も関与することは予定されていないとみられる以上、上告人の経営の基礎が薄弱で
あることの根拠となるものではないといわざるを得ない。被上告人には同人が名目
的取締役であることが分からなかったということは、被上告人に落ち度がなかった
ことを意味するにとどまり、右判断を左右するものではない。
 なお、上告人が取扱要領の定める基準を形式的に充足させるためIを名目的取締
役に就任させて本件申請を行ったことは、上告人の遵法精神に一定程度疑問を抱か
せる事実ということができるが、更に進んで上告人の経営の基礎が薄弱であって酒
類製造者において酒類販売代金の回収を図ることに困難を来すおそれがあることま
でを根拠付けることは、困難であるというほかはない。
 (三) 以上によれば、原審の確定した事実関係の下においては、本件処分当時、
上告人が法一〇条一〇号に該当するとは断定することはできず、同号に該当するこ
とを理由に免許を拒否することは許されないものというべきである。
 3 そこで、さらに、前記の見地に立って、本件申請が法一〇条一一号に該当す
ると認められるか否かにつき検討する。
 (一) 取扱要領は、免許を与えるのは小売基準数量要件又は基準世帯数要件の
いずれかを充足する場合に限ることとした上、本件ただし書において、これらのい
ずれかを充足する場合でも、酒類の需給均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を
来すおそれがあると認められる場合は免許を与えないものとする旨定めている。前
述したところによれば、右のような取扱要領の定め方が同号の趣旨に沿うものであ
るかどうかには、問題があるが、小売基準数量要件及び基準世帯数要件自体には、
相応の合理性があるものと考えられるから、これらのいずれかを充足する場合、と
りわけ需給のバランスを直接的に示す小売基準数量要件を充足する場合には、それ
でもなお酒類の需給均衡を破るおそれがあることが具体的事実により客観的に根拠
付けられて初めて、同号に当たるということができるものと解するのが相当である。
本件ただし書きの定めは、極めて一般的抽象的であり、運用指針としての意義に乏
しいが、右のような例外的な場合には免許を与えないことができることをいう趣旨
に理解するほかはないものというべきである。
 (二) 本件申請は、小売基準数量要件を充足し、基準世帯数要件は満たさない
ものの、免許後一場当たり世帯数が一八七世帯となるというのであるから、基準世
帯数である二〇〇世帯を大きく下回るものではない。したがって、それでもなお酒
類の需給均衡を破るおそれがあることが具体的事実により客観的に根拠付けられな
い限り、本件申請が法一〇条一一号に該当するとは断定し得ないものというべきで
ある。
 原審は、本件申請に係る小売販売地域における酒類の消費量は頭打ちとなってお
り、同販売地域の世帯数の推移も横ばいであること、既存業者七者のうち四者は零
細業者であって、既存業者の経営状態は必ずしも良好とはいえないことなどから、
上告人に免許を与えることは酒類の需給の均衡を破るものと被上告人が判断したこ
とに合理性があるとしている。しかし、本件処分時において小売基準数量要件を充
足しており、酒類の消費量や世帯数が今後大幅に減少するというのではないことか
らすれば、特別の事情が認められない限り、今後も既存業者の経営はおおむね成り
立ち得ると推測される。そして、零細とされる四者の販売数量は右地域における小
売基準数量を下回ってはいるものの、取扱要領の定める小売基準数量は、右地域と
同様の市制施行の市街地(B地域)においては二四キロリットルとされているが、
町制施行の市街地(C地域)においては、その半分の一二キロリットルとされてお
り、その程度の販売数量でも十分経営が成り立つものと想定されていること、同様
に取扱要領の定める基準世帯数は、B地域においては二〇〇世帯であるが、C地域
においては一五〇世帯とされていること、そもそも申請者をも加えた販売業者の販
売数量の平均値が小売基準数量を上回るという小売基準数量要件を充足しても半数
以上の既存業者は小売基準数量を下回る可能性があるのであり、そのことを根拠に
需給の均衡が破れるというのであれば、小売基準数量要件は意味をなさないことに
なること、右の四者が酒類の販売以外にいかなる営業をしているのかは明らかとさ
れておらず、その総体としての経営状況が良好ではないのか否かが不明であること
にかんがみれば、原審の確定した事実のみをもって酒類の需給の均衡が破れるもの
と即断することはできないものというのが相当である。
 (三) 以上によれば、原審の確定した事実関係の下においては、本件処分当時、
本件申請が法一〇条一一号に該当すると断定することはできないというべきである。
 4 以上のとおりであるから、原審の確定した事実関係の下において、本件申請
が法一〇条一〇号及び一一号に該当するとして免許を拒否した本件処分に違法はな
いとした原審の判断には、右各条項の解釈適用を誤る違法があり、右違法は判決に
影響を及ぼすことが明らかである。したがって、その余の点につき判断するまでも
なく、原判決は破棄を免れない。そして、本件申請が法一〇条一一号に該当するか
否かについては、前記四者の総体としての経営状況等を含め、本件申請が小売基準
数量要件を充足するにもかかわらず、なお酒類の需給均衡を破るおそれがあるとい
うべき具体的な事由があるかどうかにつき更に審理を尽くして判断する必要がある
から、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛