弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要
1本件は,訴訟参加人が,原判決別紙物件目録記載1の各土地(以下,併せて
「本件土地」という)上に同目録記載2の建物(以下「本件建物」という)。。
を建築することを計画し,大阪市長から同計画につき本件土地を開発区域とす
る開発許可(以下「本件開発許可」という)を受けた上,被控訴人株式会社。
A(以下「被控訴人会社」という)から本件建物の建築につき建築確認(以。
下「本件建築確認」という)を受けたことから,本件土地に隣接する土地を。
所有し居住する控訴人らが,本件開発許可及び本件建築確認はいずれも違法で
あると主張して,本件開発許可については,被控訴人大阪市に対してその無効
確認を,本件建築確認については,被控訴人会社に対し,主位的にその取消し
を,予備的にその無効確認を求めるとともに,本件建物の建築及び本件土地の
,,開発行為により重大な損害を被るおそれがあるとして被控訴人大阪市に対し
大阪市長において訴訟参加人及び本件建物の建築を請け負った株式会社B原,(
審被告ら補助参加人)に対する建築基準法9条1項に基づく是正命令及び都市
計画法81条に基づく是正命令をそれぞれ発令することの義務付けを求め,併
せて,大阪市風致地区内における建築等の規制に関する条例(昭和45年大阪
市条例第10号。以下「本件風致条例」という)10条1項に基づく是正命。
令を発令することの義務付けを求めたのに対し,被控訴人らが,本件各訴えに
係る請求はいずれも訴えの利益がなく不適法であるなどとして,本件各訴えの
却下を求めた事案である。
原審が,本件各訴えに係る請求はいずれも訴えの利益あるいは原告適格がな
く不適法であるとして,本件各訴えを却下すべきものと判断したところ,これ
を不服として控訴人らが本件各控訴を提起した。
2法令等の定め
原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「2法令等の定め」
(原判決3頁1行目から5頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
3前提事実(証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣
旨から容易に認めることができる)。
原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「3前提事実(原」
判決5頁17行目から7頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引
用する。ただし,証拠番号は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。
4争点
原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「4争点(原判決」
7頁9行目から同頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用す
る。
5争点についての当事者の主張の要旨
(1)後記(2)のとおり当審における控訴人らの補充主張を付加するほかは,原
判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「5(原判決8頁2行」
目から21頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
()当審における控訴人らの補充主張2
ア開発許可処分と訴えの利益
(ア)開発許可処分がなされた後は,処分行政庁が事後的に当該処分を取
り消すか撤回しない限り,その効力は失われないというべきである。し
たがって,本件開発許可を受けた者である訴訟参加人が,大阪市長に対
し,開発行為に関する工事を廃止した旨を都市計画法38条に基づいて
届け出た(本件廃止届出)としても,これによって当該開発許可処分の
効力は失われず,当該開発許可処分の無効確認を求めることについての
法律上の利益は消滅しない。
(イ)また,仮に本件廃止届出によって開発許可処分の無効確認を求める
ことについての法律上の利益が消滅するとしても,訴訟係属中に,処分
の受益者である訴訟参加人が開発行為の廃止届出というような作為的行
動に出ることによって,無効確認の訴えの利益が消滅したと主張して当
該無効確認の訴えの却下の申立てをすることは,訴訟上の信義則の観点
から容認されるべきではないから,訴えの利益が消滅しているとして訴
えを却下すべきではなく,本件開発許可処分の違法を宣言した上で事情
判決を言い渡すべきである。
(ウ)さらに,訴訟参加人によって都市計画法38条所定の廃止届出がな
されたとしても,控訴人らは将来同様の処分によって不利益な扱いを受
けるおそれがあるから,事実上の不利益にも訴えの利益を認め,当該処
分の違法を公的に宣言して国民の権利救済に資するべきである。
(エ)加えて控訴人らは大阪地方裁判所平成▲年ワ第▲号事件以,,()(
下「別件民事訴訟」という)における訴訟上の和解によって,開発許。
可を受けた者である訴訟参加人との間に,本件開発区域(本件建物の建
設予定地)の原状回復と景観保持について合意していることから,本件
建築確認処分によるのと同様のマンション建設を将来とも排除するとい
う法的利益が認められるから,訴えの利益が認められるべきである。
イ建築確認処分と訴えの利益
建築確認処分がなされた後は,処分行政庁が事後的に当該処分を取り消
すか撤回しない限り,その効力は失われないというべきであるところ,原
判決は,処分行政庁による工事取りやめ届の受理をもって,同時に当該建
築確認処分の撤回もあったと評価しているが,受理と撤回とは別個の行政
,()処分であるから同一の処分行政庁の行為を二つの行政処分受理と撤回
と評価することは許されない。
そうすると,本件建築確認処分については処分行政庁の撤回があったと
はいえないから,訴えの利益は消滅していない。
ウ風致条例に関する義務付け訴訟の原告適格
最高裁判所平成18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号94
8頁は,良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵
沢を享受する利益(以下「景観利益」という)を,私法上の法律関係に。
おいて,法律上保護に値するものとしているから,控訴人らは,本件風致
条例10条1項に規定する是正命令がなされないことにより,自己の権利
又は法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれの
ある者に当たり,風致条例に関する義務付け訴訟の原告適格が認められる
べきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件訴えは,いずれの請求に係る部分についても不適法であっ
て,却下すべきものと判断するが,その理由は,後記2のとおり当審における
,「」控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほかは原判決の事実及び理由
の「第2当裁判所の判断」の「1」ないし「6(原判決21頁23行目か」
ら36頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における控訴人らの補充主張に対する判断
()開発許可処分と訴えの利益1
ア控訴人らは,開発許可処分がなされた後は,処分行政庁が事後的に当該
処分を取り消すか撤回しない限り,その効力は失われないというべきであ
るから,本件開発許可を受けた者である訴訟参加人が,大阪市長に対し,
開発行為に関する工事を廃止した旨を都市計画法38条に基づいて届け出
た(本件廃止届出)としても,これによって当該開発許可処分の効力は失
われず,当該開発許可処分の無効確認を求めることについての法律上の利
益は消滅しない旨を主張する。
しかしながら,都市計画法における開発許可は,これを受けなければ適
法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものにすぎ
ず,開発行為を行う者のために開発許可が出されるのであるから,その受
益者が開発行為を廃止した旨の届出をすることにより開発許可の効力が失
われると解しても,受益者との関係で何ら問題は生じない。また,廃止届
の提出があった場合には,都市計画法施行規則37条により開発登録簿が
閉鎖されるのであるから,廃止届の提出により開発許可の効力が失われた
と解しても,第三者に不測の損害を与えることはない。したがって,原判
決が,都市計画法38条,46条,都市計画法施行規則37条の規定及び
その趣旨から,都市計画法38条所定の廃止の届出により,都道府県知事
による何らの処分等も必要とせずに当該届出に係る開発許可の効力が消滅
すると解釈していることは相当であり,控訴人らの上記主張は採用できな
い。
イまた,控訴人らは,訴訟係属中に行政処分の受益者において自ら行政処
分の効力を消滅させておいて,当該無効確認(取消)の訴えの却下の申立
てをすることが,訴訟上の信義則の観点から許されない旨を主張する。
しかしながら,訴えの却下は当事者の申立てによるものではない上,本
件開発許可の無効確認の当事者は,行政処分の受益者である訴訟参加人で
はなく,本件開発許可処分をした行政庁の所属する公共団体である被控訴
人大阪市であるし,証拠(甲45)及び弁論の全趣旨によれば,訴訟参加
人は,控訴人Cらとの間の別件民事訴訟において成立した訴訟上の和解に
基づき,開発行為の原状回復を行い,開発行為廃止届や工事取りやめ届を
提出しているのであり,被控訴人はもとより,受益者である訴訟参加人に
も信義則に反するような行為はないのであるから,控訴人らの上記主張も
採用することができない。
ウさらに,控訴人らは,訴訟参加人によって都市計画法38条所定の廃止
届出がなされたとしても,控訴人らは将来同様の処分によって不利益な扱
いを受けるおそれがあるから,事実上の不利益にも訴えの利益を認め,当
該処分の違法を公的に宣言して国民の権利救済に資するべきである旨を主
張する。
しかしながら,過去の行政処分の取消(無効)判決によって将来の同種
類似行政処分が禁止されるという法的関係にはないから将来同種類(),(
似)の行政処分が繰り返される危険を予防することを目的として,既に効
力を失った過去の行政処分の取消(無効)を求めることは許されない。し
たがって,控訴人らの上記主張も採用の限りでない。
エなお,控訴人らは,上記の訴訟上の和解によって,開発許可を受けた者
である訴訟参加人との間に,原状回復と景観保持について合意しているこ
とから,本件建築確認処分によるのと同様のマンション建設を将来とも排
除するという法的利益が認められるから,訴えの利益が認められるべきで
あると主張するが,そのような合意が私人間でなされたからといって,行
政訴訟における訴えの利益が認められる理由はない。
()建築確認処分と訴えの利益2
控訴人らは,同一の行政庁の行為を二つの行政処分と評価することは許さ
れないところ,受理と撤回とは別個の行政処分であるから,処分行政庁によ
る工事取りやめ届の受理をもって,当該建築確認処分の撤回もあったと評価
することは許されず,その結果,本件建築確認処分については処分行政庁の
撤回があったとはいえないこととなるから,訴えの利益は消滅していない旨
を主張する。
しかしながら,同一の行政庁の行為を二つの行政処分と評価することが常
に許されないとすべき根拠は見出し難いところ,建築基準法による建築確認
は,これを受けなければ適法に建築工事を行うことができないという法的効
果を有するものにすぎず,建築工事を行おうとする者のために建築確認許可
が出されるのであるから,建築確認処分を受けた者が工事を取りやめ,処分
行政庁に工事を取りやめた旨の届出を提出した場合に,処分行政庁が,これ
を受理することによって,同時に,建築確認処分の撤回を行ったものと解し
ても,受益者との関係で何ら問題は生じない。したがって,原判決が,処分
行政庁による工事取りやめ届の受理をもって,同時に当該建築確認処分の撤
回もあったと評価していることは相当であり,控訴人らの上記主張は採用で
きない。
なお,控訴人らは,建築確認処分についても,開発許可に関するのと同様
の信義則違反等の主張(前記第2の5()アの(イ)∼(エ))をするが,これ2
に理由がないことは,上記()イ∼エのとおりである。1
()風致条例に関する義務付け訴訟の原告適格3
,,,,控訴人らは前掲最高裁判決が景観利益を私法上の法律関係において
法律上保護に値するものとしているから,控訴人らが,本件風致条例10条
1項に規定する是正命令がなされないことにより,自己の権利又は法律上保
,,護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たり
風致条例に関する義務付け訴訟の原告適格が認められるべきである旨を主張
する。
しかしながら,原判決も説示するとおり,控訴人らの義務付けの訴えは,
行訴法3条6項1号に規定するいわゆる非申請型義務付けの訴えであると解
されるところ,これについて原告適格を認められる「法律上の利益を有する
者」とは,当該一定の処分がされないことにより,自己の権利又は法律上保
護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,
当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益
の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益とし
てもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるか否かによって決せ
られるものというべきである。そして,本件においては,原判決が説示する
とおり,都市計画法,風致地区内における建築等の規制に係る条例の制定に
関する基準を定める政令(昭和44年政令第317号)及び本件風致条例の
規定内容から,景観利益を個々の周辺住民の個別的利益として保護する趣旨
を読み取ることはできないから,景観利益が,私法上の法律関係において,
法律上保護に値するものとされるからといって,風致条例に関する義務付け
,。訴訟の原告適格を認めることができず控訴人らの上記主張は採用できない
なお,控訴人らは,上記の訴訟上の和解において,開発許可を受けた者で
ある訴訟参加人との間に「本件開発区域(本件建物の建設予定地)内の樹,
木の伐採については,大阪市風致条例に従った適切な処置・対応をとること
を約する」との合意をしていることから,景観利益はより具体的な,また。
個別的な利益となっている旨を主張するが,そのような合意が私人間でなさ
れたからといって,行政訴訟における原告適格が認められる理由はない。
3以上によれば,本件各訴えに係る請求はいずれも訴えの利益あるいは原告適
格がなく不適法であるから,本件各訴えを却下した原判決相当であって,本件
各控訴は理由がない。
,,。よって本件各控訴をいずれも棄却することとして主文のとおり判決する
大阪高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官三浦潤
裁判官大西忠重
裁判官中村昭子

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