弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は、控訴人らの平等負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、「(1)原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。(2)被控
訴人が控訴人らに対し昭和四一年五月一九日付をもつてした各解雇の効力をかりに
停止する。(3)被控訴人は、控訴人らに対し、原判決添付別紙賃金目録中(一)
記載の各金員および昭和四一年六月以降毎月末日かぎり同目録(二)記載の割合に
よる金員を支払え。(4)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決を求め(控訴状添付の債権目録中A欄の「八、九五八円」は「八、九八八
円」の、B欄の「五、七七八円」は「五、四七八円」のそれぞれ誤記と認め
る。)、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
(証拠省略)
       理   由
一 被控訴会社が肩書地に本社工場を、千葉市<以下略>に千葉工場を有し、金型
および工作機械の設計、製作ならびにこれに附帯する事業を営み、もつぱら日産自
動車の下請会社である訴外鬼怒川ゴム工業株式会社(以下「鬼怒川ゴム」とい
う。)から同社で製作する自動車各種部品の金型(ゴムスポンジ型、三角窓枠型
等)の注文を受け、その生産と販売を行つてきたものであること、控訴人らがいず
れも被控訴会社に雇傭されていた従業員であつて、前記千葉工場に勤務していたこ
とおよび被控訴会社が控訴人らを含む全従業員に対し、昭和四一年五月一九日付を
もつて同日解雇の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、右解雇の意思表示の効力について判断する。
(一) 昭和四一年五月九日朝被控訴会社がタイムカードを引き上げ、従前の被控
訴会社の代表者Cが控訴人らに対し、同月六日の被控訴会社の株主総会において解
散決議がなされ、清算人が選任されて工場を閉鎖する旨告げたこと、これに対し控
訴人らが結成した労働組合の役員らが控訴人ら主張の書面を提示し、組合結成の通
告をするとともに待遇改善の要求をして団体交渉の申入れをしたこと、清算人Dが
同月九日工場内に「清算人の許可なく出入りを禁ず」と表示した文書を掲示したこ
と、同月一〇日右組合役員らが被控訴会社に対し、要求書と団体交渉申入書を交付
し、団体交渉がなされ、その際右組合役員らがCに対し、被控訴会社の経営内容、
解散の意図などにつき問いただしたところ、被控訴会社は当時黒字経営ではある
が、その売上げが減少してきているので、三か月以前から工場閉鎖を考えていた旨
告げ、右役員らの要求した被控訴会社の決算書類等の提示に応じなかつたこと、同
月一三日右役員らと被控訴会社との間で団体交渉がなされたこと、その後も役員ら
と被控訴会社との間で工場再開、事業継続の点につき数次の団体交渉がなされたこ
と、被控訴会社が解散決議をしたという同月六日当時黒字経営であつたことおよび
解散登記のなされた同月九日後も被控訴会社の従業員募集広告が京成電鉄の千葉
駅、船橋駅に掲示されていたことは、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 前記一および二の(一)各記載の当事者間に争いのない事実に、いずれも
成立に争いのない疎甲第一号証の一、二、同第二号証の一ないし一六、同第三ない
し第五号証、同第六号証の一ないし一五、同第八、三六号証、同第三七号証の一、
二、同第三九号証の一ないし三、同第四一、四二号証、同第四三号証の一、二、
(同第四三号証の一、二は原本の存在も争いがない。)、疎乙第六号証の一ないし
三、同第七、八号証の各一ないし一六、同第一〇号証の一ないし七、同第一一号証
の一ないし三、同第一五号証の二、同第三〇号証の一ないし三、同第三一ないし第
四三号証の各一ないし四、同第四四号証の一ないし三、同第四五号証の一ないし
八、押捺の印影が控訴人ら使用印章によるものであることに争いのない疎乙第四六
号証、公文書であるから真正に成立したと認めうる疎甲第一三号証の二、いずれも
原審における控訴人E本人尋問の結果によつて成立を認めうる疎甲第九号証の二、
同第一六号証の一ないし五、同第二八、二九、三一、三二、三五号証、いずれも原
審および当審証人Cの証言によつて成立を認めうる疎甲第一三号証の一、同第一九
号証の一ないし五、疎乙第二七号証、いずれも同証言および原審証人Fの証言によ
り成立を認める疎乙第一、二号証、同第三号証の一、二、当審における控訴人G本
人尋問の結果により成立を認めうる疎甲第二七号証、原審証人Hの証言により成立
を認めうる疎甲第三四号証、原審および当審証人Iの証言により成立を認めうる疎
乙第二六号証、原審における被控訴会社代表者尋問の結果により成立を認めうる疎
乙第二八号証、いずれも弁論の全趣旨により成立を認めうる疎甲第一五号証、同第
一七号証の一、二、同第二一号証の二二ないし二八、疎乙第五号証の一、二、同第
二五号証、原審証人J、同K、同F、同H、原審および当審証人I、同C、当審証
人Lの各証言、原審および当審における控訴人E、当審における控訴人G、同M各
本人尋問の結果、原審および当審における被控訴会社代表者尋問の結果(ただし、
疎乙第二七号証の記載、証人H、同F、同Cの供述中後記採用しない部分を除
く。)、弁論の全趣旨を総合すると、つぎのような事実を一応認めることができ
る。
1 被控訴会社の事業は、もと訴外Cが訴外Hおよび同人が役員をしている鬼怒川
ゴムの下請としてその後援のもとに個人で経営していたものであつたが、Cは昭和
三六年一二月資本金二五〇万円の株式会社たる被控訴会社を設立して被控訴会社に
従前の個人事業を引継がせた。その代表取締役に同人が、取締役にその妻Nおよび
Nの兄弟Fが、監査役に前記後援者のHがそれぞれ就任した。その資本金は昭和三
九年一〇月一三日五〇〇万円に増資され、同月二〇日Hが監査役を辞任するととも
にIが監査役に就任し、爾来右の者らが重任されて昭和四一年五月六日に至つた。
2 被控訴会社は、当初、すなわち資本金二五〇万円当時全発行株式五〇〇〇株の
うち三二〇〇株をCが、残余を妻Nを始めとしてすべてCの縁故者が持つており、
五〇〇万円に増資してからは、全発行株式一万株のうち八四〇〇株をCが持つてい
て、その生い立ちからいつても、同人のいわゆる個人会社であつた。会社経営に移
行してからも前記鬼怒川ゴムの後援をうけ、その下請として、仕事量のほとんどす
べてを同社からの注文によつていた。
3 その業績は、鬼怒川ゴムの発展につれて次第に上り、同社が千葉市に工場を建
設するに伴い、被控訴会社も昭和三六年に鬼怒川ゴムの右工場の近くに前記千葉工
場を建設した。昭和四〇年五月には工場の増築を行つた。その敷地の面積は約一二
五〇坪、工場建物の面積は約二〇〇坪になり、また、同年一一月には東京都から三
〇〇万円の融資を受けて新しい機械を購入したし、従業員も次第に増えて二十数名
に達し、なお増募の体勢をとつていた。
4 もともと鬼怒川ゴムがおもちやを主体としたゴム工場であり、そのための金型
をC個人、後には被控訴会社に発注していたのであるが、鬼怒川ゴムが自動車用部
品を多く扱うようになつてからは、被控訴会社に注文する金型も自動車部品製造用
のものとなつてきた。おのずから製品の精度が要求されるようになつたが、被控訴
会社は歴史も浅く、技術も不充分であつたため、鬼怒川ゴムから苦情や返品が出る
こともあつた。しかしながら一方では鬼怒川ゴムとしてもその業種からいつて金型
が重要な地位を占めるのではあるが、企業内にその設備を持つことの経営上の不利
益からして業務上同社に従属している形をとつていた被控訴会社を保護育成してい
たのである。そして、昭和四一年一月には被控訴会社を鬼怒川ゴムの専属金型工場
に指定し、一層積極的に技術上の指導および資本の援助を与えることを約し、これ
を実行していたし、被控訴会社もその指導の下に労使が一丸となつて技術の向上に
努めていた。
5 ところで、被控訴会社の仕事はその受注量および納期の点から忙しく、労働条
件は相当苛酷になつていた。すなわち、祝祭日は休日となつておらず、日曜出勤も
度重なり、残業はほとんど当然のように行われ、徹夜就労が行われることもあつ
た。しかし、控訴人ら従業員は労働組合を結成しておらず、たんに親睦会があるだ
けで、これは従業員の旅行、慶弔などについて活動するだけであつて、労働条件の
向上について被控訴会社と交渉するような性格のものではなかつた。したがつて、
労働条件について労使の交渉が行われることはほとんどなかつた。
6 控訴人らは、いずれも現場において生産に従事していたものであるが、かかる
状況下において、その労働条件に不満をいだき始め、その向上をはかるため、控訴
人Eらが中心となつて労働組合を結成することとなり、総評全国金属労働組合千葉
地方本部の指導をえて、昭和四一年四月二四日ごろから従業員に組合加入を勧誘
し、同年五月二日ごろには、被控訴会社の千葉工場の全従業員二四名中二〇名が組
合に加入する旨の申出をするに至つた。このような事情であつたため、控訴人Eら
は、結成される組合は当然総評全国金属労働組合に加入すべきものと決めていた。
7 このような従業員の動向につき、C、F、Iらは、従業員が同年四月中旬ごろ
から快く残業に応じなくなつたことなどからこれに不審を持ち、労働組合が結成さ
れることをうすうす感知していた。そこで、Cは、親会社たる鬼怒川ゴムのHに相
談したところ、同人から被控訴会社で結成される労働組合が総評全国金属労働組合
に加入すれば鬼怒川ゴムとしては被控訴会社に注文を継続することができない旨い
われたので、受注量のほとんどを依存している鬼怒川ゴムにそのような態度に出ら
れ、一方では控訴人らが前記労働組合に加入することを予定している状況下におい
ては、被控訴会社の将来の見透しは暗いものと判断するに至つた。かくして、C
は、現在は黒字であるが、今後組合が結成されそれが鬼怒川ゴムの嫌悪する全国金
属労働組合に加入した状態で会社の経営を行つてみても、そのひつぱくは必然であ
るから、このまま経営を継続することは不得策であるとして、会社を解散すること
を決意し(不当労働行為意思の存否については、後に述べる。)、同月二五日被控
訴会社の取締役会を招集し、同日取締役の全員一致で解散する旨の決議をし、さら
に、同年五月六日臨時株主総会を開催し、総株主九名(一万株)のうち五名(九二
〇〇株)が出席し、出席株主全員一致で解散決議をするとともに、清算人にあらか
じめCにおいて依頼し、就任の承諾をえていたDを選任した。右Dは個人タクシー
を営んでいるものであつて、会社の清算等の事務の経験がある訳のものではなく、
たんにCの友人というだけの理由で選任されたものである。
8 このようにして、解散が行われたが、当時被控訴会社の経営は黒字であつた
し、賃金の支払の遅滞もなく、鬼怒川ゴムからの注文も沢山あり、従業員の仕事量
も従前と変わるところなく残業の必要があつたし、同年五月六日には京成電鉄の千
葉駅および船橋駅に従業員募集の広告を掲示し(五月一九日まで掲示)たほか当時
公共職業安定所にも従業員の紹介方を依頼していた。
9 そして、Cらは、解散決議をした日の翌日である五月七日控訴人らに対し、控
訴人らが労働組合を結成しても総評全国金属労働組合に加入すると親会社たる鬼怒
川ゴムからの注文がとれなくなるから同労働組合には加入しないようにしてほしい
旨、もし同労働組合に加入すれば会社は閉鎖せざるをえない旨伝え、翌五月八日に
もその旨強く要望した。
10 一方控訴人ら従業員は、予定どおり同日組合結成大会を開催し、所定の手続
を履践して労働組合を結成し、執行委員長に控訴人Eが選任されたが、その際前示
Cらの要求を検討した結果、総評全国金属労働組合千葉地方本部の勧めもあつて、
当面被控訴会社を刺戟することを避けることとして同労働組合への加入は見合わせ
ることとした。
そして、同日Cに対し口頭で組合結成を通告し、さらに前記労働組合には加入しな
い旨伝えた。
11 これに対し、Cらは、口頭の約束だけでは不充分であるとして、控訴人らに
対し、同日同労働組合に加入しない旨の書面を作成するよう要求したが、控訴人ら
がこれに応じなかつたので、同労働組合に加入しないとの控訴人らの言明に疑念を
抱き、かくては既定方針どおり解散手続を実行するほかないものと考えるに至つ
た。
12 かくして、翌五月九日に解散、清算人D就任の各登記がなされ、千葉工場の
タイムカードが引き上げられ、鬼怒川ゴムからの注文品は完成品はもちろん未完成
品もすべて同社へ運び去り、Dが同工場に来て清算人として行動しはじめたので、
控訴人らは非常に驚き、控訴人Eら組合役員が中心となつて被控訴会社に待遇改善
等につき団体交渉を求め、以後引き続いて被控訴会社側のC、F、I、Dらと団体
交渉をした。
13 右団体交渉において、組合役員らは解散の理由をたずね、強く事業の再開を
要求したが、Cは営業の不成績による経営意欲と自信の喪失を理由に右の要求を拒
絶した。これに対し、組合側は、いまだ被控訴会社の経営は黒字であつてなんら解
散の理由のないことを強調し、被控訴会社の決算書類等の提示を要求して事業の再
開を迫つたが、Cはこれに応じなかつた。
14 被控訴会社の清算人Dは、五月一九日付の書面で被控訴人らを含む従業員全
員に対し会社は解散したからとの理由で同日解雇の意思表示をするとともに予告手
当金の受領を催告したが、これに従業員全員が応じなかつたため、同年六月二二日
これを千葉地方法務局に供託し、さらに一方では解散に伴う諸手続を実行した。
15 事態がこのように変つたので、控訴人らの労働組合は総評全国金属労働組合
に加入し、その千葉地方本部の応援をえて団体交渉をつづけたが、その目的を達す
ることができなかつた。
16 控訴人らは、解散決議は控訴人ら組合員を排除するためにとられた偽装のも
のと考えていたので、解雇の意思表示を受けて後、清算手続が進行することを防止
するとともに労働組合員の結束を強めるため被控訴会社の千葉工場を占拠し、当初
生活の糧を失業保険、控訴人らを守るためにもうけられた後援会の援助に求めてい
たが、間もなく、自らの生計費を獲得するため控訴人らの労働組合の別名としての
合資会社西垣製作なる名のもとに自ら他から注文をとつて同工場で金型の生産を開
始し、現在に至つている。
17 右生産のために使用される電力は被控訴会社名義のものであり、控訴人らが
占拠を始めた当時被控訴会社は東京電力にその撤去方を申請したが、控訴人らの妨
害に会つて実現せず、結局被控訴会社は撤去をあきらめる代り使用電力料金を組合
側に負担させることにし、組合側もこれを了承し、以後組合側がこれを負担してい
る。その料金は月々約三・四万円であつて、これは被控訴会社が解散決議前に生産
をしていた当時とほとんど変らぬ金額である。
18 このような状況にあるので、被控訴会社は解散決議をしたものの、清算手続
はほとんど進展せず、従前のまま放置されているが、会社債権者らから苦情がでる
という状態でもない。被控訴会社は、控訴人らの占拠を承認している訳ではない
が、積極的にこれを排除しようとしたことはなく、また、近い将来そのような動き
を示す気配もない。これに対して、控訴人側は、解散決議は虚偽仮装であつて無効
であるとの主張を背景として右占拠を続けているのであつて、解散決議は有効であ
るとして清算手続を進行させようとしている被控訴会社に対し右工場を返還する意
向は全くなく、もとより返還する気配を示すこともない。
 以上の事実を一応認めることができ、右認定に反する前掲疎乙第二七号証の記載
部分、証人H、同F、同Cの各供述部分は、にわかに採用できず、他に右認定を左
右するに足る証拠はない。
三 控訴人らは、解散決議は偽装であつて実際は不存在である、かりに存在してい
ても解散の真意はないと主張する。しかしながら、前叙のとおり解散決議の存在は
一応これを認めうるのである。もつとも、右株主総会議事録たる前掲疎乙第二号証
には右総会は昭和四一年五月六日開催された旨記載されているのに、前掲疎甲第二
号証の一ないし一六、疎乙第六号証の一ないし三によれば、被控訴会社代表者清算
人Dは官報には同月九日開催の臨時株主総会の決議により解散した旨の公告をし、
控訴人らに対する解雇通告書にも右同旨の記載をしていることが疎明されるので、
その間にそごが生じているが、前認定のとおり、被控訴会社が解散の登記をしたの
は五月九日であるから、関係者が右登記の日を解散の日と誤認して右官報および解
雇通告書にその旨の記載をしたとも考えうるのである。右疎乙第二号証は前認定の
とおりの株主が出席のうえ解散決議をした旨の記載があり、それには被控訴会社の
取締役たるC、N、Fらの記名押印があり、なお、株主O、同Pの委任状(前掲疎
乙第三号証の一、二)も添付されているのであつて、もともと被控訴会社はCがそ
の株式の八四%を持つている同人の個人会社であるから、その運営は結局はCの意
思いかんにかかつているといつても過言ではなく、そのC自身が解散の決意をかた
めていることが前認定により明かに認められる以上、右株主総会議事録が存在し、
しかもそれにもとづく解散登記が行われているのに、官報の公告等における多少の
そごをもつて右決議が不存在であるとすることは困難である。また、前記のとお
り、右株主総会の日の翌日たる同月七日にCが控訴人らに対し、全国金属労働組合
に加入すれば会社を閉鎖する旨述べているのであつて、その際Cは同月六日の株主
総会のことを持出してはいないのであるが、その種交渉の過程において事実が常に
正確に述べられるとは限らないから、右の事情が解散決議の存在を疑わしめるに足
るものとはいえない。なお、同月七日に労使間で右のような交渉が行われたこと、
当時会社は黒字であつたこと、従業員の募集をもしていたこと等の諸点からすれば
被控訴会社の解散が経営上の観点から余儀ないものではなかつたのではないかと疑
われるのであるが、それだけでただちに解散決議の存在を疑わせるものとはいえな
い。以上の事実は右解散決議の非真意性を疎明するに足るものではなく、他にこれ
を認めるに足る疎明はない。
四 つぎに、控訴人らは、右解散は組合排除を目的とするものであるから、企業廃
止自由の濫用で、憲法第二八条、労働組合法第七条第一、三号に違反し、同時に公
序良俗に違反して無効であると主張する。後に述べるとおり、被控訴会社の本件解
散は組合を嫌悪し、これを排除することを動機としているといいうるのであるが、
企業を廃止するか否かは株主の自由に委されているところというべきであつて、労
働者の団結権の保障は企業の存在を前提とするものであるから、解散決議の際反組
合的意図が存在していたとしても、このことの故に決議が無効となるものではない
と解するのを相当とする。叙上に反する控訴人らの主張は採用できない。
五 さらに、控訴人らは、解雇は不当労働行為であつて無効であると主張する。
(一) 解散当時の被控訴会社の経営の状態についてみるに、前認定の事実によれ
ば、被控訴会社は鬼怒川ゴムの下請会社として発展してきたものであつて、受注
量、従業員の残業時間ともに多く、工場建物の増築、新機械の導入、従業員の増募
等を行つていたものである。技術上の問題がない訳ではなかつたが、鬼怒川ゴムの
積極的な指導のもとに労使一丸となつて技術向上のための諸方策を講じていたので
あり、鬼怒川ゴムも被控訴会社を自社の専属工場として育成していくべく約してい
たのである。したがつて、その経営は黒字であり、解散決議当時も黒字であつた。
もつとも、前掲証人Cは、「経営に対する意欲と自信を失いはじめ、昭和四一年
二、三月ごろには解散を考えるようになり、同年四月ごろその決意をかためた」旨
供述するが、右に述べたところからすれば被控訴会社の経営にはいちぢるしく困難
といえるような問題はなく、むしろ、努力次第では将来の一層の発展が期待されて
いたのであり、経営の先細りが予想されるような客観的状勢にあつたとはいえない
のであつて、右Cの供述はただちに採用しがたい。ただ、控訴人らが結成を意図し
ていた労働組合は全国金属労働組合に加入することが予定されていたところ、Cは
鬼怒川ゴムのHから控訴人らの労働組合が右全国金属労働組合に加入すれば注文を
中止するといわれ、これが本件解散を決意した動機となつたことは前認定のとおり
であり、たしかに、被控訴会社が鬼怒川ゴムからの受注がなくなると当面経営が成
立たなくなることは明らかであるが、さりとて、右解散決議の時点において控訴人
らは労働組合を結成していたものでも、全国金属労働組合に加入していたものでも
なく、また、現実に鬼怒川ゴムからの受注がなくなつていたものでもないから、右
解散はまことに唐突といわざるをえないのであつて、本件全疎明によつても、解散
にあたつて有利な買手があつたとか、清算について具体的な方法を検討した形跡も
なく、かつ、清算人に選任されたDは、清算事務等にはなんの経験もない個人タク
シーの運転手たる者であつて、清算人としてかならずしもふさわしい人とはいえな
いのである。しかして、解散のための取締役会が開かれたのは昭和四一年四月二五
日であるが、これは丁度控訴人らが労組結成の動きを見せていた時期と一致してい
るところ、当時Cら経営者側は右結成の動きを察知していたし、同年五月六日に解
散決議をした後同月八日の組合結成大会を前にして同月七、八日の両日Cらは控訴
人らに対し全国金属労働組合に加入しないよう、かつ、加入すれば会社を閉鎖する
などと働きかけているから、同月六日の右解散決議は、むしろ同月八日に予定され
ていた組合結成大会を前にして既成事実をつくつて労働組合の結成、運営を牽制し
ようとした意図をうかがいうる。そして、同月九日解散登記を経たが、被控訴会社
は、まだ控訴人ら従業員の解雇も行われていないのに、ただちに、従業員のタイム
カードを引き上げ、立入禁止の表札を掲げている。これら一連の事実からすれば、
被控訴会社、具体的には、その支配者であり、代表者であるCが解散の決意をした
のは、従前労働組合のなかつた被控訴会社に組合ができることおよびその組合が全
国金属労働組合に加入することを嫌悪し、これを排除するためのものであつたと断
ぜざるをえない。
(二) ところで、会社の解散は、かならずしもただちに労働者の解雇事由となる
ものではない。解散と解雇は一応別個のことであつて、解散が有効と認められて
も、それに引き続いて行われた解雇が不当労働行為としてその効力を持ちえない場
合がありえないわけではない。たしかに、会社は解散により清算事務に入るから必
然的に従業員解雇の事態が生ずべきことは一応これを肯定しうるが、本件において
は、前叙のごとく、五月六日の解散そのものが組合排除の目的をもつており、解散
後においても控訴人らの組合が被控訴会社の要求を入れて全国金属労働組合に加入
しないならば再開する意向を有していたのである。
しかも、会社側は五月九日の解散登記後まだ従業員の解雇も行われていないのに従
業員のタイムカードを引き上げてその立入を禁止し、その後行われた組合側との団
体交渉継続中の五月一九日にその大部分が組合員である全従業員を同時に解雇した
が、それの解雇理由は会社が解散したからというだけで、具体的な清算手続の進展
との関連は明らかにされなかつた。前認定の事実によれば、被控訴会社はCが個人
で築き上げた会社で、相当の業績を上げており、本件組合の結成以外にさしたる問
題がなかつたから、解散後の本件解雇当時においても控訴人ら組合側がその結束を
弱め会社側の要求を入れることになれば、Cが解散した会社を継続することになん
の障害もなかつたということができるし、むしろ、そのような状態が現出すれば会
社を継続すべく望むのが自然といえる。そして、Cが継続を欲すれば、前叙のとこ
ろからすれば、その決議がたやすく実現することも多言を要しない。これらの事情
を総合すれば、会社側は、解散から解雇にかけ一貫して反組合的意図を有していた
といえるのであつて、本件解雇は解散後の清算における必然的なものというよりも
これをもつて組合排除の手段とする点に重点があつたとみうるのである。したがつ
て、本件解雇は不当労働行為として無効のものといわなければならない。
六 被控訴人は、控訴人Qおよび同Mを除くその余の控訴人らは昭和四一年六月一
日、右控訴人二名は同月六日本件解雇を承認し、失業保険の給付を受けるため離職
票に記名捺印して公共職業安定所に提出したと主張するが、成立に争いのない疎乙
第一二号証、前掲控訴人E本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、控訴人ら
は、本件仮処分申請(同月二日付)後の控訴人らの生活を維持するために失業保険
金の給付を受ける必要があつて被控訴人主張の日にそれぞれ右離職票を受領しこれ
を公共職業安定所に提出したにすぎず、同月二日には解雇の無効を主張して本件仮
処分申請をしていることを認めることができるから、控訴人らの右行為をもつて解
雇の承認と目することはできない。
七 そこで、本件仮処分の必要性について判断する。
(一) まず、賃金相当の金員の給付を求める部分についてみるに、前記疎明され
た事実によれば、控訴人らは、本件解雇後一時失業保険金の給付あるいは後援会の
援助で生計をたてていたが、まもなく占拠している被控訴会社千葉工場でその生産
設備を利用して合資会社西垣製作なる名のもとに自ら金型の生産をしており、その
生産のための使用電力料金が解散前の被控訴会社の支払額とほぼ等しいところから
みれば、その生産量は相当のものと思われるから、その収益は控訴人らの生活を補
いうるものであると一応認めることができる。そして、右生産は本件口頭弁論終結
当時まで続けられており、被控訴会社側も右時期まではあえて電力の撤去もせずに
工場の使用を控訴人らの意のままに任せていた訳である。近い将来に、被控訴会社
が控訴人らの右工場占拠を排除すべき行動に出る気配もなく、控訴人らが右生産を
中止して右工場を被控訴会社に返還する気配を示しているものでないことも一応認
めうる。そうであつてみれば、控訴人らはさしあたつて生計費を得ており、当面そ
の状態に変更をきたす可能性も少いといえるから、かりに金員の給付を求める緊急
の必要性があるということはできない。
(二) つぎに、解雇の意思表示の効力停止を求める部分についてみるに、前認定
の事実によれば、被控訴会社は、解散した清算法人であつて、もとより解散前に行
つていたような生産を行うものではないから、本件仮処分により解雇の意思表示の
効力をかりに停止して控訴人らの従業員たる地位をかりに確立しても、とうてい控
訴人らの就労の実現が期待されるものでもなく、むしろ、控訴人らは解散は無効で
あると主張して自ら工場を占拠して生産を行いつつ、被控訴会社が行うべき清算事
務の遂行を妨害しているのであるから、その行動は清算会社の従業員たる地位の確
立を求める本件申請とは矛盾しているといえるのである。もとより右の仮の地位の
確立が控訴人らの右占拠を適法化するよすがとなりうるものでも、清算手続を排除
する事由たりうるものでもなく、また、解散した会社を継続させることに意味を持
ちうるものでもない。そして、控訴人らの賃金相当金員の仮払を求める仮処分の必
要性がないことは前叙のとおりであり、控訴人らは、他に右解雇の意思表示の効力
停止の仮処分を求める具体的必要性についてはなんらの主張、疎明をしない。
八 そうだとすると、本件仮処分の申請は必要性の疎明がないものというべく、か
つ保証をもつて右疎明に代えることは適当でないから、右申請は失当である。よつ
て、右申請を却下した原判決は結局相当であつて、本件控訴はいずれも理由がない
から、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、
第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川善吉 小林信次 川口富男)
〔参考資料〕
       主   文
本件仮処分申請はいずれもこれを却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
一 申請人ら
被申請人が昭和四一年五月九日付をもって申請人らに対してなした各解雇の意思表
示の効力を仮に停止する、被申請人は申請人らに対し、別紙賃金録記載(一)の各
金員およぴ昭和四一年五月二六日以降毎月かぎり同記載の(二)の割合の各金員を
仮に支払え、との判決。
二 被申請人
申請人らの申請をいずれも却下する、訴訟費用は申請人らの負担とする、との判
決。
第 二当事者の主張
一申請人ら
(申請理由)
(一) 被申請人は、肩書本店所在地に本社工場を、同事業所所在地に千葉工場を
有し、金型およぴ工作機械の設計、製作ならぴにこれに附帯する事業を営み、もつ
ぱら日産自動車の下請け会杜である鬼怒川ゴム工業株式会社から同社で製作する自
動車各種部品の金型(ゴムスポンジ型、三角窓枠型等)の注文を受け、その生産と
販売を行なって来たものであり、その代表者社長はCであつた。申請人らは、いず
れも被申請人に雇傭されている従業員で前記被申請人の千葉工場に勤務し、総評全
国金属労働組合千葉地方本部中村型機分会に所属している組合員である。
(二) ところで、被申請人は昭和四一年五月一九日付をもって、申請人らを含む
従業員全員に対し解雇の意思表示をなした。
(三) しかしながら、前記解雇の意思表示は、労働組合法第七条第一号、第三号
に該当する不当労働行為であるから、無効である。すなわち、
 1申請人らは、かねてから被申請人の残業が一か月平均六〇時間余におよび、日
曜日に出勤することも多く、祝祭日も公休でないなど超過労働が多いことをはじめ
として、各種労働条件、待遇が劣悪であることに不満を持ち、これらを改善するた
めに労働組合を結成することが必要であることを痛感し、申請人Eが中心となり、
昭和四一年四月末頃から総評全国金属労働組合千葉地方本部の指導を得工従業員間
に労働組合の結成を呼びかけたところ、多くの賛同をうることができたので、同年
五月八日を労働組合結成大会の予定日として、着々とその準備を進めていた。
 2被申請人は、前記のような組合結成の動向をいち速く察知し、同年五月七日全
従業員を工場内事務所に呼び集めて、当時の被申請人の代表者Cから、労働組合が
結成されて総評全国金属労働組合に加入することになると、鬼怒川ゴム工業株式会
社から注文が来なくなり、そうなると工場を閉鎖せざるを得なくたるので、仮に労
働組合を結成しても総評全国金属労働組合に加入することのないように、との要請
をなした。
 3そして、予定どおり同年五月八日夜労働組合結成大会が開催され、従業員二四
名中申請人ら書二〇名が組合に加入し、執行部役員として申請人ら中一〇名ほか二
名(うち委員長申請人E)を選出して組合の結成がなされたが、その際、前記被申
請人からの要請につき、総評全国金属労働組合千葉地方本部の役員を加えて討議し
た結果、ことさら被申請人を刺戟するのは好ましくないとの判断から、総評全国金
属労働組合加入の直ちに表面化することを避け、とりあえず企業内組合として発足
することとし、翌九日被申請人に対し文書をもつて労働組合結成通告をなすととも
に、一率金七、〇〇〇円のベースアップ、実働時間の短縮などを含む各種の要求を
提示して、団体交渉の申入れをなすことと定めた。
 4ところが、その九日朝になってみると、被申請人のタイムカードは引き上げら
れており、被申請人は非組合員である従業員らを使用して工場内の製品、仕掛品等
一切を被申請人のトラックに積み込んで鬼怒川ゴム工業株式会社に持ち去ったう
え、前記のCが申請人らに対し、同年五月六月の株主総会において被申請人の解散
決議がなされ、すでにその清算人も決まつているので工場を閉鎖する、自分はすで
に被申請人の代表ではないので、以後の話合いは清算人としてもらいたい、と告げ
るに至つた。かかる通告を受けた申請人らは、予想外の通告に驚ろきながらも、執
行部役員ら(以下単に役員という。)において前記内容の組合結成通告書、待遇改
善要求書、団体交渉申入書等を提示し、組合結成の通告をするとともに、待遇改善
の要求をして団体交渉の申入れをなしたが、Cはこれに対し、申請人らが被申請人
の希望を容れず労働組合を結成したため、かかる事態となつたこと、親睦会であれ
ば容認するが、労働組合としては認めることができない、と述べ、右組合結成通告
書等の受理をしようともしなかった。
 5そして同日、清算人と称するDが工場内に「清算人の許可なく出入りを禁ず」
と表示した文書を貼付した。
 6そこで、役員らは同日急きよ臨時組合大会を開催し、前記C発言を組合員全員
に伝えたうえ、組合の性格をどうするかにつき改めて討議した結果、絶対名数で組
合の存続を決議したが、右役員らは、翌一〇日再ぴ要求書と団体交渉申入書を被申
請人に提示し、これを受理させた結果、被申請人との間で団体交渉をなした。その
際、役員らは、被申請人の経営内容、解散の意図などにつき、前記Cに問いただし
たところ、同人は、被申請人は今は黒字経営であるが、その売上げが減少して来て
いるので、三か月以前から工場閉鎖を考えていた、などと言いながらも、役員らの
要求した被申請人の決算書類等の提示には応じなかつた。
 7役員らは、その後さらに臨時組合大会を開催し、右大会は総評全国金属労働組
合に加入する旨の決議をなしたが、役員らは、同月一三日その旨を被申請人に伝え
たうえ、前記C、Dらと団体交渉をなした。ところが、Dは、自分は名ばかりの清
算人であつて、被申請人のことは何も解らない、と言うだけで、役員らの質間に対
して全く答えることができたかつた。
 8その後も役員らは、工場再開、操業継続を求めて、被申請人と数次の団体交渉
をなしたが、前記C、Dはともにたんらの誠意のある回答をしないまま推移し、つ
いに同年五月一九日付でD名義の解雇通知書が申請人らを含む全従業員に対して同
日送付されて来た。
 9しかしながら、以上1ないし8において述べた経過およびCの発言、さらには
後に述べるところがら明らかなように、申請人らに対する前記解雇は、被申請人に
おいて、申請人らが労働組合を結成し、総評全国金属労働組合に加入することを極
度に嫌悪し、組合を壊滅し、組合員である申請人らを企業外に排除しようとする意
図のもとに解散を口実としてなされた不当労働行為である。
 イ被申請人は、昭和四一年五月九日解散登記手続をしているが、架して株主総会
が開催されて解散決議がなされたかどうかも疑わしいばかりでなく、仮に右がなさ
れたとしても真実の解散とはいうことができない。このことは、団体交渉の際にお
ける前記Cの発言の中にもみられるように、被申請人の経営内容は解散決議をした
という五月六日当時においても黒字でむしろ安定しており、その時まで賃金の支払
に渋滞もなく、鬼怒川ゴム工業株式会社からの注文も二か月先の分まであり、仕事
の品が多いため従業員は残業、休日労働を強いられていた状態であるほか、被申請
人は解散登記手続後も同年五月一九日まで京成電鉄の船橋駅をはじめ各所に工員の
新規募集広告を掲示しているほどであって、企業廃止の必要も必然性も全くなかっ
たものである。他方、被申請人の組合嫌悪の情は、前記組合結成前後に亘る前記C
の発言に明らかに示されており、申請人らに対する解雇が、典型的な組合壊滅のた
めの偽装解散によるものであることは明らかである。
 ロ仮に、右解散が偽装によるものでなく、また企業の継続、廃止が企業主体の
「営業の自由」に属することを一般論として肯定するにしても、これと絶対無制限
のものではなく、濫用に亘つてはならないものであり、ことに企業能力を有する会
社が労働組合の合法的組織活動を弾圧し、全組合員を解雇することによつて、これ
を壊滅させることを決定的原因として解散決議をなし、企業を廃止することは、企
業廃止の自由の濫用で、憲法第二八条、労働組合法第七条第一号、第三号に違反、
同時に公序良俗に違反して無効であり、また仮に、解散決議自体が無効でたいとし
ても、いずれの場合も、前記意図に基づき解散を手段としてなされた解雇であるこ
とは明らかである。
(四)申請人らは、被申請人から、前月二六日から当月一〇日までの賃金を当月一
五日に、当月一一日から同二五日までの賃金を当月末日にそれぞれ支給されていた
ものであるが、本件解雇の意思表示を受けた当時において、別紙賃金目録記載のよ
うな平均賃金をそれそれ得ていたものである。
(五)そこで、申請人らは、雇傭関係の存在確認、解散決議無効確認の本訴を提起
すベく準備中であるが、申請人らはいずれも毎月の賃金を唯一の生活の資とする労
働者で、他に収入の途もないので、右本訴において勝訴するまで賃金の支払を受け
なければ各自の生活に重大な影響を受ける結果となるので、本申請におよんだ。
(被申請人の主張に対する答弁)
被申請人主張の解雇の承認の事実((一五))は否認する。
申請人らは、いずれも毎月の賃金を唯一の生活の資とする労働者であるところ、被
申請人は解散を口実として申請人らを解雇し、昭和四一年五月二〇日以降の賃金を
不当に支払わないため、申請人ら本件申請におよんでいるものであるが、本件にお
いて申請が容れられるためには相当の日時を要することが予想され、その間におけ
る申請人の生活維持の必要から、申請人らは公共職業安定所に事情を話し、すでに
本件が当庁に係属中であること告げたうえ、その了解のもとに失業保険の仮給付を
受けることとなり、その手続として離職票を提出したにすぎない。したがつて、こ
れをもって申請人らが解雇をしたとすることはできないものである。
二 被申請人
(申請理由に対する答弁およぴ主張)
(一)申請理由(一)の事実中、申請人らが総評全国金属労働組合千葉地方本部中
村型機分会に所属する組合員であるとの点は不知、その他の点は認める。
(二)同(二)の事実は認める。
(三)同(三)の冒頭の主張は争う。
(四)同(三)の一の事実中、申請人らの労働条件、待遇が劣悪であったとの点を
否認し、申請人らが労働組合を結成した経緯は不知。
 残業時間につき、ある従業員について一か月最高六〇時間におよんだことはある
が、平均すると約四〇ないし六〇時間であった。祝祭日は休業としていなかったこ
と、時には日曜日に出勤させることのあったことは認めるが、残業、日曜日出勤の
際には、就業規則に基づ<各手当を支給するほか、その時間に応じ食事代として金
七〇円ないし金二〇〇円を支給していた。
(五)同(三)の2の事実は否認する。
被申請人は、もつぱら鬼怒川ゴム工業株式会社から注文を受けて営業していたので
あるが、申請人ら従業員が昭和四一年四月二七日以来残業を拒否する態度に出たた
め(注文品の納期が遅れ、同社から以後も同様の遅滞があるとすると被申請人に対
しては注文しない旨強い警告を受けたため、その旨を従業員に対して伝えたにすぎ
ず、申請人らの組合結成を阻止する旨の発言はしていない。
(六)同(三)の3の事実は不知。
(七)同(三)の4事実中、九日朝被申請人がタイムカードを引き上げ、Cが申請
人らに対し被申請人の解散、清算人の決定、工場閉鎖を告げたこと、組合役員らが
これに対し申請人ら主張の書面を掲示し、組合結成の通告をするとともに、待遇改
善の要求をして団体交渉の中入れをなしたことは認めるが、被申請人の製品、仕掛
品等一切を搬出したこと、Cが申請人らに対し、組合が結成されたため株主総会に
おいて解散決議がなされ、工場閉鎖となった旨告げたとの点は否認する。
被申請人は自己の自動車に納期の遅れた製品等を積んで注文者の鬼怒川ゴム工業株
式会社にこれを納入したものにすぎない。
(八)同(三)の5の事実は認める。
清算人Dがかかる表示をしたのは、被申請人の従業員、組合員らの工場への出入り
を禁止する趣旨ではなく、解散、工場閉鎖の混乱に紛れて他の無関係の者がむやみ
に出入りするのを防止するためにすぎない。現実には、申請人らはその後も自由に
被申請人の施設に出入りし、かえつて、現在、千葉工場は申請人らがこれを占拠
し、許可なくしてこれに出入りすることを禁ずる旨の表示をなし、被申請人の清算
人およぴその指示により清算事務を担当する者が工場内事務室に入ることができ
ず、清算事務に支障を来たしている状態である。被申請人としては、これら組合民
の退去、妨害排除等の法的手続をしようとしたこともあつたのであるが、ことさら
申請人らを刺戟することを避けて隠忍自重して今日におよんだものである。
(九)同(三)の6の事実中、申請人らの組合組織についての行動の点は不知、そ
の他の点は認める。
ただし、被申請人が決算書類の提示要求に応じなかつたのは、故意にその提示を拒
否したのではなく、被申請人が三月末決算期で五月中に作成を計理士に依頼してい
た決算書類等が当時作成されていなかつたため、申請人らの右要求に応じられなか
つたのである。
(一〇)同(三)の7の事実中、組合大会の総評全国金属労働組合への加入決議の
点は不知、団体交渉をしたことは認める。
その際、Dは名ばかりの清算人であると言つたのではなく、組合員からの各種質問
要求等に対し、従前被申請人とは関係がなく、清算人に就任したばかりで、十分解
らないことがある旨述べたものである。
(一一)同(三)の8の事実中、C、Dに誠意がなかったとの点は否認、その他の
事実は認める。団体交渉の際、組合役員らはあくまで被申請人の事業再開、待遇改
善の要求を強く主張し、これに対し被申請人側はCをはじめ全株主が事業再開の意
思が全くないので、清算人Dは組合員の事業再開を前提とする要求には応じられな
い旨述べたのである。また、同年五月一三日の団体交渉の際、Dが事業廃止に伴な
い従業員全員の解雇はやむを得ない旨口頭で伝えたところ、申請人ら組合員は被申
請人の決算書の提示があるまでは、解散、事業廃止、解雇等一切を認めないとの態
度であったため、Dは清算人として早急に決算書類を作成してこれを申請人らに提
示すること、右提示までの間は全従業員を出勤したものとみなしてその間の賃金を
支払うべきことを申し入れ、同月一七日に至り被申請人の決算書類を提示してその
説明をしたのであるが、申請人らは解散、解雇を承認するに至らなかった。そこで
Dは、同月一九日従業員全員に対し、株主総会の決議により解散したので解雇する
旨の意思表示をなし、かつ就業規則に基づく解雇手当を支払う旨通知したものであ
る。
(一三)同(三)の9の冒頭の主張および同ロの主張はこれを争い、同イの事実
中、被申請人が解散後(ただし日時の点は争う。)も従業員募集広告を掲示してい
たとの点、解散当時被申請人が黒字経営であったとの点、解散登記の点はいずれも
認めるが、その他の点は否認する。
右広告掲示は、被申請人の係員が未だ被申請人の事業廃止の意思を知らずに広告の
申込みをしておいたため、偶々解散後に至る玄で広告が存続していたのであって、
被申請人は右事実を知り、直ちにその取消しを申し入れた結果、同年五月九日千葉
駅の掲示が、同月一四日船橋駅の掲示がそれぞれ撤去された。
被申請人の当時の代表者Cは、昭和四一年二月頃から高血圧症にてやや健康を害し
ており、会社経営の意欲を喪失しつつあって、その間親族らとも相談した結果、極
端な事業不振となって倒産してから解散するよりも、むしろかかる事態に至る以前
において解散すれば、他の株主、債権者、従業員らに多大の迷惑をおよぼすことな
く解決することができると考えるに至った。もともと、近代的な教育を受けず、い
わゆる町工場の個人企業を昭和三八年一〇月一二日法人組織として出発したCであ
るが、労働問題等に関する知識は全くなく、労働組合についてもこれをただ恐れる
のみで、なんらこれに対する知識、対策等は持っていなかったものである。そのた
め、近代的な会社、工場等の経営をする自信も意欲も喪失していたCは、各株主に
対してその意向を示したところ、各株主もCの意向を汲み解散もやむを得ないとの
ことであったので、同年五月六日開催された株主総会において、全員一致で解散決
議をなしたものである。したがって、被申請人は、解散
後直ちにその旨の登記手続をなし、裁判所への清算人の届出、被申請人の債権者に
対する債権申出の催告の公告、知れたる債権者に対する債権申出の催告、労働基準
監督署、公共職業安定所等に対する事業廃止に伴なう従業員解雇の届出等の諸手続
を行なったものである。そうであるから、Cや株主らは労働組合の結成を歓迎する
意向はもとよりなかったけれども、これを阻止するため表面上形式的に解散し、組
合員を排除して後、再び事業を継続するとか、企業を他の者に承継し経営させると
かの意思も全くなかったのである。企業経営者が企業を継続するか、廃止するか
は、特別の法令によって義務付けられていないかぎり、その自由に委ねられている
ところである。不当労働行為は、企業の継続が前提となってはじめて起る問題であ
って、右のように企業の自由に委ねられている企業廃止は、従業員の意思によって
制限されるものではない。
(一三)同(四)の事実は認める。
(一四)同(五)の事実は不知。
(一五)仮に、被申請人のなした解雇の意思表示が効力を生じないとしても、申請
人らは任意離職を承諾しているので、被申請人の従業員たる身分を有しない。すな
わち、役員らは団体交渉中において、事業再開、待遇改善要求だけを主張していた
ため、なんら妥結に至る点は存しなかったのであるが、申請人らのうち、R、Q、
Mの三名を除くその他の者は昭和四一年六月一日に、右三名の者は同月六日に、い
ずれも解雇を承認し、失業保険の給付を受けるため、離職書に記名捺印して、これ
を公共職業安定所に提出したものである。したがって、申請人らと被申請人との間
の雇傭契約は、右により同年六月一日と同月六日をもつて終了した。
第三疎明関係(省略)
理由(省略)
(裁判官 堀部勇二 渡辺 昭 片岡安夫)

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