弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、被控訴代理
人は控訴棄却の判決を求めると述べた。
 当事者双方の事実上の主張、並びに証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人に
おいて従来の主張のうち本件被担保債権が商事債権であることを前提とする消滅時
効の主張(原判決事実摘示中請求原因五項イ号)は撤回すると述べたほか、いずれ
も原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。
         理    由
 一、 被控訴人の主張事実中、原判決摘示の請求の原因一ないし三項については
当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、訴外亡Aは昭和二
四年四月二三日訴外Bに対し金一〇〇、〇〇〇円を、弁済期昭和二四年六月二二日
と定め、利息は月一割、毎月二三日限り翌月分を支払い、期限後は日歩一〇銭の割
合による遅延損害金を支払うことの約で貸し付け、右債権を担保するため同訴外人
所有にかゝる原判決添付の別紙目録記載の土地につき順位一番の抵当権の設定を受
けたことが認められ、他に右認定を妨げる証拠はない。
 二、 つぎに、右貸金債権および遅延損害金債権については、昭和三四年六月二
二日をもつて一〇年の消滅時効期間が満了しているところ、被控訴人は訴外Bが右
消滅時効を援用しないので、同訴外人に対する請求原因一項記載の債権を保全する
ため同訴外人に代位して右消滅時効を援用すると主張し控訴人はその効力を争うの
でその当否につき判断する。
 <要旨>おもうに、時効制度は一定の事実状態が永続する場合において、これに権
利得喪の法律効果を賦与し、その状態を法律関係にまで高めることによつ
て、その上に築かれている社会的秩序を維持しようとするものであつて、公共的理
由に先ずその存在意義を有するものであるが、他面、右事実状態自体に内在する当
事者の道義的ないし情誼的感情も尊重されるべきものとし、その法律効果を享受す
べきか否かは専ら当事者自身の自由な意思、すなわち援用に委ねているのであるか
ら、かゝる法制の立前に鑑みると、時効の援用は一般的にいつて一身専属的な色彩
を帯びた権利ということはできるけれどもしかしながら本来右権利は当事者の財産
的利益のみに関するものであつて、純粋な意味で債務者の身分ないし人格そのもの
と結合するものはないのであるから、当事者が自己の債務を完済しえないような無
資力の状態に陥つている場合においてまでも、かゝる個人感情尊重の理念を優越せ
しめるのは相当でなく、かゝる場合においては、時効を援用する権利はなお、債権
の共同担保の保全のため債権者代位の目的になりうるものと解するのが相当であ
る。
 しかるところ、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三(いずれも本件強制競
売手続において作成された配当期日調書および配当表)同第七号証の一(判決書)
並びに弁論の全趣旨によると、訴外Bは既に本件強制競売の開始当時から多額の債
務を負担していたほか公租公課も滞納していた事実を認めうるのであつて、この事
実によると同訴外人は当時所謂無資力の状態にあつたものと推認されるから、被控
訴人が訴外Bに代位して右時効を援用したことにより(右援用が昭和三六年九月四
日の原審第五回口頭弁論期日になされたことは本件記録上明らかである)控訴人に
対しても前記貸金および遅延損害金債権の時効消滅の効果を有効に主張しうるに到
つたものというべきであつて、右各債権の存在を前提として作成された配当表は不
適法なものであることは明らかであり、被控訴人が右配当表に対して申し立てた異
議は理由がある。
 控訴人は、時効の援用をなし得べきものは債務者およびその承継人、保証人、連
帯保証人のごとく直接に権利を得または義務を免れる者のみに限られ、配当異議の
訴における原告のごときは、他の債権者の債権が消滅することによつて自己の債権
に対し配当額の増加を受けるものであつて、間接の利益を得るにすぎないから時効
を援用しうる当事者にあたらない旨主張するが、債務者に代位してなす時効援用権
の行使は債権者がその名において債務者自身に属する右権利を行使するものであつ
て債権者固有の権利としてこれを行使するのではないのであるから、この場合時効
援用の当事者はあくまでも債務者たる訴外B自身にほかならないわけであり、して
みれば控訴人の右主張はそれ自体失当であるといわざるをえない。
 更に、控訴人は、もし被控訴人主張のように債権者代位権に基づく時効の援用が
許されるとすれば、控訴人においてもまた債権者代位権に基づき時効完成後に債務
の承認をなしうることになるから被控訴人の主張は時効援用の法理を誤るものであ
る旨主張するが、債権者代位権は債権者が自己の債権を保全するために認められる
ものであるから代位されるべき権利は債務者の財産を保存ないし増加するに足るも
のであるを要し、債務承認のように財産の減少を目的とする行為はこれを代位援用
することはできないから、控訴人の右主張もまた失当というべきである。
 三、 そうすると、訴外Aに対して前記遅延損害金分として金七三、一〇〇円、
および元金分として金一〇〇、〇〇〇円を各配当することはいずれも誤つているか
ら、本件配当表中同人に対する右配当額は取り消すべきものであり、かつ前顕甲第
五号証の一ないし三によると、右配当表中訴外亡Aの債権について異議を述べたの
は被控訴人のみであつて、他の債権者との間においてはすでに右配当表は確定して
いることを認めうるから、右売得金中Aに対して交付するものとされた金員は全部
被控訴人に対して配当されるべきものであり、したがつて右配当表中被控訴人に対
する配当額が金一九四、六五九円とあるのは金三六七、七五九円に変更されなけれ
ばならない。
 そうして、訴外亡Aが昭和二七年二月二五日死亡し、控訴人が単独で相続したこ
とは当事者間に争いのないところであるので、控訴人に対してなされた被控訴人の
本訴請求は結局理由があり、これを認容した原判決は正当であつて、本件控訴は理
由がないから民訴法三八四条一項に則りこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法
九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 三淵乾太郎 裁判官 伊藤顕信 裁判官 土井俊文)

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