弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人青木定行、同山田璋、同中野慶治、同青木達典の上告理由第一点につ
いて。
 譲渡人の捺印のみで記名を欠く裏書により記名株式の譲渡を受けた者が、記名を
補充せず、会社に対して株主名簿の名義書換請求をしても、会社はこれに応ずる義
務はない。しかし、原審の確定した事実によれば、上告会社は、被上告人らの名義
書換の請求に応じてその株券を預りながら、訴外D(上告会社の代表取締役)と被
上告人並びに訴外Eらとの紛争について、Dの立場を有利にするため名義書換をせ
ず、株券の返還もせず、被上告人らが記名の補充することを妨げているというので
あり、その事実認定は、原判決挙示の証拠により首肯できる。右のような事実関係
のもとにおいては、上告会社が右記名の欠缺を主張することは、自ら違法に阻止妨
害している記名補充権の行使を求めることにより、被上告人またはEらに不能を強
い、誠実に書換をなすべき自己の義務に反するから、右記名の欠缺を主張して株式
の名義書換の請求を拒否できない旨の原審の判断は正当である。また、所論主張の
確定判決は、訴外Eらが上告会社に対し本件株式の名義書換を請求した別訴の判決
であつて、被上告人を右Eらと同一視すべき自由は認められないから、右確定判決
の既判力が被上告人に及ばない旨の原審の判断も、正当である。したがつて、原判
決には所論違法は認められず、論旨は、採用できない。
 同第二点について。
 上告会社は、正当な理由がないのに、株主名簿の名義書換に応じないことは、論
旨第一点において説示したとおりであるから、新株主である訴外Eらが株主名簿に
記載されていないという事由を主張することは許されず、かかる新株主Eらに招集
通知を欠く株主総会の招集手続は違法である旨の原審の判断は、正当である。原判
決には所論違法はなく、所論は採用できない。
 同第三、四点について。
 本件株式の名義書換停止期間の前である昭和三三年二月二八日、被上告人は上告
会社に対して本件株式の名義書換の請求をした旨の原審の認定は、原判決挙示の証
拠に照らして首肯でき、原判決には所論違法はない。所論は、ひつきょう、原判決
の認定しない事実に基づき原判決を非難するか、原審の専権に属する証拠の取捨判
断、事実の認定を争うに帰し、いずれも採用できない。
 同第五点について。
 株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集
手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのであるから、被上告人が
株主たるEらに対する招集手続の瑕疵を理由として本件決議取消の訴を提起したの
は正当であり、何等所論の違法はない。しかして、原審認定の事実関係の下におい
ては、訴外Eらが総会招集の通知を受けず議決権を行使し得なかつたことが、本件
総会の決議に影響を及ぼさないとのことを認めるべき証拠はないとした原審の判断
も正当である。もつとも裁判所は諸般の事情を斟酌して株主総会の決議取消を不適
当とするときは取消の訴を棄却することを要するが、原審認定の事実関係の下にお
いてはかかる事情も認められない。結局論旨は、いずれの点よりして理由がなく、
採用し得ない。
 同第六点について。
 原判決は、所論株式について被上告人が権利者であると認定しているのであるか
ら、所論正当性の主張に対して判断していないのは当然であり、原判決には所論違
法はなく、所論は採用の限りではない。
 同第七点について。
 訴外Eらが、上告人主張のような意図及び経緯で本件株式を取得したことを認め
るに足る証拠はなく、また株主の資格に所論のような制限を認める根拠もない旨の
原審の判断は、原判決挙示の証拠関係、その確定する事実関係に照らして首肯でき、
原判決には所論違法はない。従つて、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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