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平成29年8月30日判決言渡
平成29年(ネ)第10012号商標権侵害差止等反訴請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成28年(ワ)第16340号)
口頭弁論終結日平成29年6月12日
判決
控訴人(1審反訴原告)X
控訴人(1審反訴原告)有限会社マス大山エンタープライズ
両名訴訟代理人弁護士笠原静夫
被控訴人(1審反訴被告)一般社団法人国際空手道連盟
極真会館世界総極真
訴訟代理人弁護士中澤佑一
柴田佳佑
西郷豊成
船越雄一
延時千鶴子
松本紘明
訴訟復代理人弁護士平津慎副
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従い,原判決で付され
た略称に「反訴原告」とあるのを「控訴人」に,「反訴被告」とあるのを「被控訴人」と,適宜
読み替える。
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,空手の教授に関する広告,空手の興行の企画・運営又は開催に
別紙被控訴人標章目録記載の各標章を使用してはならない。
3被控訴人は,空手の教授を行うに際して,空手衣に別紙被控訴人標章目録記
載の各標章を使用してはならない。
4被控訴人は,被控訴人の道場の建物の看板,建物ドア又は表示板に別紙被控
訴人標章目録記載の各標章を使用してはならない。
5訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1訴外A(以下「A」という。)は,フルコンタクトルールを特徴とする極真空
手を創設した上,昭和39年に国際空手道連盟極真会館(以下「極真会館」という。)
を設立し,その館長ないし総裁と称された。そして,被控訴人の代表理事を務める
訴外B(以下「B」という。)は,昭和42年に極真会館に入門し,昭和46年には
極真会館徳島県支部長に,同52年には同愛知県支部長に重ねて就任し,極真会館
を示す別紙被控訴人標章目録記載の各標章(以下「被控訴人各標章」という。)を使
用していた。また,被控訴人の理事を務める訴外C(以下,「C」といい,BとCを
併せて「Bら」という。)は,昭和44年に極真会館に入門し,昭和51年には極真
会館山梨県支部長に,同52年には同静岡県支部長に重ねて就任し,被控訴人各標
章を使用していた。その後,Aが平成6年4月26日に死亡したことから,その後
継者と称されていた訴外D(以下「D」という。)は,平成6年5月,極真会館の館
長に就任したものの,極真会館は,その後極真空手を教授する多数の団体に分裂す
るに至った。
2他方,控訴人X(以下「控訴人X」という。)は,Aの子であり,相続により
同人の権利義務を単独で承継したものの,A死亡当時,極真会館の事業活動には関
与していなかった。しかしながら,控訴人Xは,平成11年2月17日に成立した
裁判上の和解に基づき,同年3月31日,Dらから極真会館総本部の建物の引渡し
を受け,その後当該建物を利用して極真会館の事業を行うようになった。そして,
控訴人Xは,同人が代表取締役を務める控訴人有限会社マス大山エンタープライズ
(以下「控訴人会社」という。)と共に,本件各商標権を取得した。
3本件は,控訴人らが,被控訴人において被控訴人各標章を使用する行為が本
件各商標権を侵害すると主張して,控訴人Xが,被控訴人に対し,商標法36条1
項に基づき,別紙被控訴人標章目録1ないし3記載の各標章の使用等の差止めを求
めるとともに,控訴人会社が,被控訴人に対し,同項に基づき,別紙被控訴人標章
目録4及び5記載の各標章の使用等の差止めを求めた事案である。
原審は,控訴人らが,被控訴人に対し,本件各商標権に基づき極真関連標章であ
る被控訴人各標章やこれと類似する標章の使用を禁止することは権利の濫用に当た
るとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らは,これを不服としてい
ずれも控訴した。
4なお,控訴人らは,株式会社国際空手道連盟極真会館に対しても,本件各商
標権に基づき,差止請求及び損害賠償請求を求めて訴えを提起していたところ,東
京地方裁判所は,原審が上記に説示するところと同様に,平成28年6月30日,
本件各商標権に基づき極真関連標章である本件各商標の使用を禁止することは権利
の濫用に当たるとして,上記差止請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(平
成27年(ワ)第20338号)。控訴人らは,これを不服として控訴したところ,
知的財産高等裁判所も,平成29年5月17日,控訴人らが極真会館としての活動
を継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,客観的に公正な競業秩序
を乱すものとして権利の濫用であるとして,控訴をいずれも棄却する旨の判決を言
い渡した(平成28年(ネ)第10076号)。これに対し,控訴人らは上告又は上
告受理の申立てをしなかったため,同判決はその後に確定した。
5前提事実
前提事実は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1前提事
実」の(1)から(6)まで(原判決2頁23行目から7頁6行目まで)に記載のとおり
である。
6争点及びこれに関する当事者の主張
争点は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「2争点」の(1)
及び(2)(原判決7頁8行目及び9行目)に記載のとおりであり,争点に関する当事
者の主張は,下記(1)及び(2)において当審における当事者の主張を付加するほかは,
「3争点に関する当事者の主張」の(1)及び(2)(原判決7頁11行目から13頁
2行目まで)に記載のとおりである。
(1)控訴人らの補充主張
ア極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
原判決は,極真会館の支部長らが独自の権限に基づき自由に極真関連標章を使用
していたことなどを一つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利
行使が権利の濫用に当たるとしている。しかしながら,極真関連標章は,A個人の
活動を示すものとして周知・著名となったものであるから,極真関連標章に関する
法的利益はA個人に帰属するものであり,このような法的利益は,相続の対象にも
なるものである。したがって,原審の判断には,その前提において誤りがある。
イAの生前におけるBらの地位等
原判決は,Aの生前,死後を通じてのBらの極真空手家としての経歴,支部長と
しての活動歴などを一つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利
行使が権利の濫用に当たるとしている。しかしながら,Bらは,Aの許諾を得て支
部長として各地で極真空手の指導普及に従事していたものであって,Aの創始した
極真空手という空手流派の指導普及要員にすぎないものであるから,被控訴人各標
章の周知性及び著名性の形成等にBらの寄与はない。したがって,原審の判断には,
その前提において誤りがある。
ウ被控訴人による極真空手に関する活動
原判決は,Aが自らの後継者を公式に指名することなく死亡し,Dを後継者とす
る旨が記載された本件遺言が作成されていたことなどを一つの事情として,控訴人
らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるとしている。しかし
ながら,本件遺言は,Aの意思にかかわらずに作成され,無効なものであるから,
極真会館における極真空手の教授業であるAの個人事業は,X家の家業であって当
然に相続人である控訴人Xに承継されることになる。そのため,被控訴人は,極真
会館を簒奪し,乗っ取ったものにほかならず,これらの簒奪者につき,相続人を承
継者とする極真会館と並列的に扱うのは不当である。したがって,原審の判断には,
その前提において誤りがある。
エ控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
原判決は,控訴人らはBら及び被控訴人が国内外で被控訴人各標章を使用して大
規模に極真空手の教授等を行っていたことを認識していたにもかかわらず,控訴人
らが合理的な理由もなく早期に本件各商標権に係る商標登録出願を行っていないこ
となどを一つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利
の濫用に当たるとしている。しかしながら,控訴人らが上記商標登録出願を行わな
かったのは,Dが極真関連標章を個人として商標登録していたことから,その無効
が確定するまで混乱を避けるため商標登録出願を留保したにすぎず,上記事情には
合理的な理由が存在する。したがって,原審の判断には,その前提において誤りが
ある。
(2)被控訴人の反論
ア極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
控訴人らは,極真関連標章はA個人の活動を示すものとして周知・著名となった
のであり,極真関連標章に関する法的利益は,A個人に帰属するものであるなどと
主張する。しかしながら,現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面
の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法
律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権
利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や
文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞ
れの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権
の及ぶ範囲,限界を明確にしている(最高裁平成13年(受)第866号,第86
7号同16年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁)。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,Aの生前において極真関連標章が顧客
吸引力等を有していたとしても,法令等の根拠なく当該標章の利用権その他の法的
利益を認めることは相当ではない。そのため,上記法的利益がAに帰属していたこ
とを前提として,当該法的利益がその相続人である控訴人Xに帰属するという控訴
人らの主張は,その前提を欠く。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人ら
の主張は理由がない。
イAの生前におけるBらの地位等
控訴人らは,A生前の極真会館について,Aとは別個独立した組織団体ではなく
Aの個人事業にすぎないとの前提に立ち,Bらを初めとする極真会館の旧支部長・
指導員らは,Aの創設した極真空手という空手流派の指導普及要員にすぎず,極真
関連標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に寄与した事実はないと主張す
る。しかしながら,そもそも極真会館は社団性を有し,A個人とは別個独立した組
織団体であり,極真関連標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大にBらの多
大な貢献・寄与があったことは明らかである。したがって,原審の判断に誤りはな
く,控訴人らの主張は理由がない。
ウ被控訴人による極真空手に関する活動
控訴人らは,極真会館において館長又は総裁の地位につき世襲制が採用されてい
たことを前提として,被控訴人を極真会館の「簒奪者」とした上,正当な承継人で
ある控訴人らと同列に扱うべきではないと主張する。しかしながら,上記のような
世襲制を裏付ける証拠はなく,被控訴人はBらの地位を引き継ぎつつA死後におい
て極真会館としての活動を継続し,大規模な世界大会も開催するなどして,A死後
においても極真関連標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に多大な貢献・
寄与をしている。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は理由が
ない。
エ控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
控訴人らは,極真関連標章の商標登録出願を行わなかったのは,Dが極真関連標
章を個人として商標登録していたことから,その無効が確定するまで混乱を避ける
ため商標登録出願を留保したにすぎず,合理的な理由が存在するなどと主張する。
しかしながら,そもそも控訴人Xが上記商標登録の無効審判を請求したのはAの死
後から10年後の平成16年になってからであり,既にその時点で合理的な理由は
存在しない。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,
下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人らの主張に対
する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の
1(原判決13頁4行目から20頁14行目まで)に記載のとおりである。
1原判決の補正
(1)原判決14頁9行目の末尾に「極真会館は,世襲制を採用するものではな
く,Aは,生前「極真カラテ,極真会館という流派にしても,私は,自分の子供を
後継者にしようとは考えていない。誰か優れた人物がいたら,みんなで選んで“彼”
を後継者にしたらいいだろう」と周囲の者に述べていた(甲74)。」を加える。
(2)同15頁24行目の「4月2日,」の次に「Aが残した武道空手を正しく継
承し,普及,発展させることを目的として,」を加える。
(3)同17頁4行目の「同裁判所は,」の次に「平成15年9月30日,極真関
連標章はAの死亡後も極真会館を表すものとして需要者の間に広く知られており,
極真会館内部の構成員に対する関係では,Dが極真関連標章の商標登録を取得して
商標権者として行動できる正当な根拠はないなどと認定した上で,」を加える。
(4)同頁6行目の「同旨の理由により」を「極真関連標章に関し自己名義で商
標登録を受けたとしても,極真会館の外部の者に対する関係ではともかく,極真関
連標章の周知性・著名性の形成に共に寄与してきた団体内部の者に対する関係では,
少なくとも極真関連標章の使用に関する従来の規制の範囲を超えて権限を行使する
ことは不当であるというべきであり,Dによる上記商標登録に係る商標権の行使は
権利の濫用に当たり許されないなどとして,」に改める。
(5)同20行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(オ)控訴人らは,株式会社国際空手道連盟極真会館に対しても,本件各商標権
に基づき,差止請求等を求めて訴えを提起していたところ,東京地方裁判所は,平
成28年6月30日,本件各商標権に基づき極真関連標章である本件各商標の使用
を禁止することは権利の濫用に当たるとして,上記差止請求等をいずれも棄却する
旨の判決を言い渡した(平成27年(ワ)第20338号)。控訴人らは,これを不
服として控訴したところ,知的財産高等裁判所も,平成29年5月17日,控訴人
らが極真会館としての活動を継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,
客観的に公正な競業秩序を乱すものとして権利の濫用であるとして,控訴をいずれ
も棄却する旨の判決を言い渡した(平成28年(ネ)第10076号)。これに対し,
控訴人らは上告又は上告受理の申立てをしなかったため,同判決はその後確定した。」
(6)同頁21行目から19頁7行目までを次のとおり改める。
「(2)ア(ア)前記事実関係によれば,被控訴人の代表理事を務めるBは,昭和42
年に極真会館に入門し,昭和46年には極真会館徳島県支部長に,同52年には同
愛知県支部長に重ねて就任して,極真会館の許可を得て極真会館を示す被控訴人各
標章を継続的に使用していたことが認められる。また,被控訴人の理事を務めるC
も,昭和44年に極真会館に入門し,昭和51年には極真会館山梨県支部長に,同
52年には同静岡県支部長に重ねて就任して,極真会館の許可を得て極真会館を示
す被控訴人各標章を継続的に使用していたことが認められる。そして,両名は,A
が平成6年4月26日に死亡した後も,被控訴人各標章の使用を継続して極真空手
の教授等を行っており,平成25年4月2日,Aが残した武道空手を正しく継承し,
普及,発展させることを目的として,被控訴人を設立するに至ったことが認められ
る。その後,極真会館は極真空手を教授する複数の団体に分裂するに至ったものの,
極真会館を示す被控訴人各標章は,本件各商標の商標登録出願当時はもとより,A
の死亡後にあっては,極真会館又はその活動を表すものとして広く一般に知られて
いたことが認められる。
他方,控訴人Xは,Aの子であり,相続により同人の権利義務を単独で承継した
ものの,A死亡当時,極真会館の事業活動に全く関与せず,Aが後継者を公式に指
定せず,また,極真会館において世襲制が採用されていなかったことからすると,
極真会館の事業を承継した者ではないことが認められる。
そうすると,控訴人Xは,平成11年2月17日に成立した裁判上の和解に基づ
き,同年3月31日,Dらから極真会館総本部の建物の引渡しを受け,その後当該
建物を利用して極真空手に関する事業を行うようになったものの,控訴人らの活動
は,A死亡後に分裂して発生した極真会館の複数団体のうちの一つにとどまるもの
と認められる。
(イ)これらの事情の下においては,本件各商標は,Bらが拡大発展に相当な寄与
をして海外にも大規模に展開された極真会館という団体を識別する標章として,そ
の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり,客観的に公正
な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと,
控訴人らが,極真会館の許諾を得て被控訴人各標章の使用を開始して極真会館とし
ての活動を承継,継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,客観的に
公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用であると認めるのが相当である(最
高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻
5号876頁,前記知財高裁平成28年(ネ)第10076号同29年5月17日
判決参照)。」
2当審における控訴人らの補充主張に対する判断
(1)極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
控訴人らは,極真関連標章はA個人の活動を示すものとして周知・著名となった
のであって,極真関連標章に関する法的利益はA個人に帰属するものであるから,
このような法的利益は,相続の対象にもなるなどと主張する。
しかしながら,現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に
関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一
定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護
を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活
動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的
財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範
囲,限界を明確にしている(最高裁平成13年(受)第866号,第867号同1
6年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁)。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,Aの生前において極真関連標章が空手
の愛好家及び入門者に対して一定の顧客吸引力等を有していたとしても,法令等の
根拠なく当該標章の利用権その他の法的利益を認めることは相当ではない。そうす
ると,上記法的利益がAに帰属していたことを前提として,当該法的利益がその相
続人である控訴人Xに帰属するという控訴人らの主張は,その前提を欠くものであ
る。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(2)Aの生前におけるBらの地位等
控訴人らは,BらはAの許諾を得て支部長として各地で極真空手の指導普及に従
事していたものであって,Aの創始した極真空手という空手流派の指導普及要員に
すぎないものであるから,被控訴人各標章の周知性及び著名性の形成等にBらの寄
与はないなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人Xは,Aの死亡
当時極真会館の事業活動に全く関与していなかったのに対し,Bは,昭和42年に
極真会館に入門し,昭和46年には極真会館徳島県支部長に,同52年には同愛知
県支部長に重ねて就任して,極真会館の許可を得て極真会館を示す被控訴人各標章
を継続的に使用し,また,Cも,昭和44年に極真会館に入門し,昭和51年には
極真会館山梨県支部長に,同52年には同静岡県支部長に重ねて就任して,極真会
館の許可を得て極真会館を示す被控訴人各標章を継続的に使用していたことが認め
られる。さらに,Aが平成6年4月26日に死亡した後も,両名は,被控訴人各標
章の使用を継続して極真空手の教授等を行っており,平成25年4月2日,Aが残
した武道空手を正しく継承し,普及,発展させることを目的として,被控訴人を設
立するまでに至ったことが認められる。
これらの事情の下においては,被控訴人各標章の周知性及び著名性については,
Aの業績なくしては形成されなかったものの,Bら及び被控訴人についてもその形
成に大きな寄与があったと認めるのが相当である。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(3)被控訴人による極真空手に関する活動
控訴人らは,極真会館における極真空手の教授業であるAの個人事業は,X家の
家業であるから当然に相続人である控訴人Xに承継されることになり,被控訴人は,
極真会館を簒奪し,乗っ取ったものにほかならず,これらの簒奪者につき,相続人
を承継者とする極真会館と並列的に扱うのは不当であるなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人Xは,Aの子で
あり,相続により同人の権利義務を単独で承継したものの,A死亡当時,極真会館
の事業活動に全く関与せず,しかも,Aが後継者を公式に指定せず,また,極真会
館において世襲制が採用されていなかったことからすると,極真会館の事業を承継
した者ではないことが認められる。そうすると,控訴人Xが極真会館の事業を承継
したことを前提とする控訴人らの主張は,その前提を欠くものである。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(4)控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
控訴人らは,極真関連標章の商標登録出願を行わなかったのは,Dが極真関連標
章を個人として商標登録を受けていたため,その無効が確定するまで混乱を避ける
ため商標登録出願を留保したにすぎず,合理的な理由が存在するなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人XにおいてDが
商標登録を受けた極真関連標章の一部について無効審判を請求したのは,平成16
年であって,その時点においてもAの死亡から既に約10年が経過しているのであ
るから,控訴人らが主張する上記の事情は,控訴人らが早期に本件各商標権に係る
商標登録出願を行わなかった合理的な理由とまでいうことはできない。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(5)その他
控訴人らのその他の主張を十分に検討しても,控訴人らの主張は,極真関連標章
の利用権その他の法的利益が相続により控訴人Xに帰属するというものに帰し,当
該主張が採用できないことは,上記(1)で説示したとおりである。かえって,前記引
用に係る原審の認定事実によれば,Aは,その生前において,極真会館を極真空手
の道を極める者に譲ることを希望し,その旨を周囲の者に伝えていたと認められる
のであるから,極真会館を相続した趣旨をいう控訴人らの主張は,実質的にみても,
Aの相続に関する意思に照らし,採用し得るものではない。
第4結論
以上によれば,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件
控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中島基至
裁判官
岡田慎吾
(別紙)
被控訴人標章目録
1極真
2-1極真カラテ
2-2極真空手
3極真会館

5KYOKUSHIN

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