弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人が平成15年7月29日付けでした控訴人の仙台市a区b字c
d-eに所在するAについての新増設に係る事業所税の決定(ただし,同年
11月13日付けの更正により減額された後のもの)のうち,納付すべき税
額6902万1900円を超える部分を取り消す。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第2事案の概要
1本件は,地方税法(平成15年法律第9号による改正前のもの。以下「法」
という。)701条の31第1項1号の「指定都市等」に該当する仙台市の市
長である被控訴人が,平成15年7月29日付けで,控訴人が新築した事業所
用家屋であるA(合計床面積1万9016.79㎡。以下「本件物件」とい
う。)につき,法701条の32第1項に基づき9189万1500円(課税
床面積1万5315.26㎡)の課税決定をしたところ,控訴人が異議を申し
立て,その結果,課税額は同年11月13日付けで8522万2500円(課
税床面積1万4203.76㎡)と更正されたものの,なおこれに不服な控訴
人が課税額を6902万1900円(課税床面積1万1503.66㎡)にす
べきであるとして,上記の課税決定(ただし,上記更正決定で減額された後の
もの)の一部取消しを求めて取消訴訟を提起した事案である。
本件訴訟においては,本件物件の控訴人の主張に係る部分が法701条の3
4第4項の規定によって非課税となる防災に関する施設又は設備(以下「防災
用設備等」という。)に当たるか否か,当たる場合に非課税となる床面積の範
囲いかんが争われている。すなわち,本件物件は,その中に12の映画館,サ
ウナ・マッサージルーム・大浴場・露天風呂等の施設,パチンコ・スロットマ
シーン・ボウリング・ビリヤード・ゲームセンター等の娯楽施設,喫茶室・回
転寿司・食堂等の飲食施設,飲食物・玩具等の販売施設などがある複合アミュ
ーズメント施設であり,消防法17条1項が規定する「複合用途防火対象物」
に該当し,法701条の34第4項によって非課税の対象となるものであるが,
このような事業所用家屋について,控訴人の主張する部分が控訴人の主張する
ような防災用設備等といえるか否か,より具体的にいえば,原判決別紙2記載
の1階の青色部分及び緑色部分並びに2階の青色部分が地方税法施行令56条
の43第3項5号イに規定する「避難通路」に該当するか否か,原判決別紙2
記載の1階以外の階の緑色部分が同条第3項1号ロに規定する「廊下」に該当
するか否か,原判決別紙2記載の1階の橙色部分が同条第3項1号ロに規定す
る「出入口」に該当するか否かが争われている。上記の「避難通路」に該当す
ればその全床面積が非課税となり,上記の「廊下」又は「出入口」に該当すれ
ばその2分の1の床面積が非課税となる(地方税法施行令56条の43第4
項)。
被控訴人は,控訴人が「避難通路」と主張している部分のうち原判決別紙2
記載の1階及び2階の青色部分は「避難通路」には当たらないが「廊下」に該
当するとしてその床面積の2分の1を非課税としたが,原判決別紙2記載の1
階の緑色部分は「避難通路」にも「廊下」にも当たらないとし,控訴人が「廊
下」又は「出入口」と主張している部分はいずれも「廊下」ないしは「出入
口」に該当しないと主張している。なお,被控訴人は,本件物件のうち映画館
及び飲食店の用途に供される部分の廊下を含む通路(原判決別紙2記載の1階
及び2階の赤色部分)についてはこれを「避難通路」と認めて全床面積を非課
税にしている。
原審が控訴人の主張を認めず,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が不服
を申し立てた。
そのほかの本件の事案の概要は,次の2のとおり原判決の訂正等があり,次
の3,4のとおり当審における控訴人の主張とこれに対する被控訴人の反論が
あるほかは,原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要」に記載のとおり
であるから,これを引用する。
2原判決の訂正等
(1)原判決4頁22行目の「として政令で定めるものの範囲」を削る。
(2)原判決6頁19行目の「指定都市等の条例の規定に基づき設置する」を
削る。
(3)原判決7頁3行目の「仙台市条例第4号。」の次に「ただし,平成14
年条例第56号による改正前のもの。」を加え,同8行目の「本条例47条
5項」を「本条例47条5号」に,同9行目及び同13行目の各「基準座
数」をいずれも「基準席数」にそれぞれ改める。
(4)原判決8頁5行目の「本条例48条4項」を「本条例48条4号」に,
同7行目及び同9行目の各「いす座」をいずれも「いす席」にそれぞれ改め
る。
(5)原判決14頁9行目の「単独の法人が」を「単独の法人によって」と改
める。
(6)原判決18頁2行目の「第3項1号」を「第3項1号ロ」に改める。
3当審における控訴人の主張
(1)非課税となるべき「避難通路」について
被控訴人は,地方税法施行令56条の43第3項5号イは条例で設置が義
務付けられた避難通路のみを非課税の対象としている旨の主張をするが,こ
れは誤りである。すなわち,法701条の34第4項は,指定都市等は百貨
店,旅館その他の消防法17条1項に規定する防火対象物で多数の者が出入
するものとして政令で定めるものに設置される同項に規定する消防用設備等
で政令で定めるもの(消防用設備等)及び当該防火対象物に設置される建築
基準法35条に規定する避難施設その他の政令で定める防災に関する施設又
は設備のうち政令で定める部分(防災用設備等)に係る新増設事業所床面積
に対しては新増設に係る事業所税を課することはできないとしている。この
趣旨は,不特定多数の者が出入りする建築物における消防用設備等及び防災
用設備等は一般公衆の安全を確保する上で必要不可欠なものであることなど
を考慮し,一般公衆の安全を確保する上で必要不可欠な一定の要件を充たす
消防用設備等及び防災用設備等に係る床面積の全部又は一部について事業所
性を否定することを相当としたことにある。そして,この規定を受けた地方
税法施行令56条の43第3項5号はイとして「指定都市等の条例の規定に
基づき設置する避難通路で,スプリンクラー設備の有効範囲内に設置するも
の」と規定しているが,この「基づき設置する」との文言は,必ずしも「条
例で設置を義務付けられた」もののみを指すものと解すべきではない。上記
施行令の文言は,「条例の規定に基づき」であって「条例の規定で設置が義
務付けられた」とはなっておらず,また,設置についても,施行令の文言は
「設置する」であって,強制的な設置を想起させるような「設置される」と
いう文言は使用されていないからである。さらに,上記施行令のいう条例に
当たる仙台市火災予防条例(本条例)が避難通路に言及しているのは,47
条ないし52条であるが,事業用途としては,「劇場等」,「キャバレー
等」及び「百貨店等」についてのみ避難通路の言及があるだけである。つま
り,法が「防火対象物で多数の者が出入するものとして政令で定めるもの」
のうち,本条例はわずか3種の事業所についてのみその避難通路を言及して
いるにすぎない。上記施行令が定める他の防火対象物,例えば,旅館,ホテ
ル又は宿泊施設,病院,診療所又は助産所,老人福祉施設,幼稚園,公衆浴
場などの避難通路については一切言及されていない。しかし,これらの施設
についても避難通路の設置が必要なことはいうまでもなく,本条例に規定が
ないからといって,本条例が避難通路の必要性を否定しているわけでないこ
とは明らかである。そして,劇場等の客席を規定した本条例47条5号が
「客席の避難通路は,次によること」としてそのイ以下で椅子の座席数を基
準とした避難通路の設置や避難通路の幅員等を規定し,同48条4号も
「(劇場等の野外の)客席の避難通路は,次によること」としてそのイ以下
で同様に避難通路についての管理方法を規定しているが,これらの規定も,
「劇場等においては次の基準を充たす避難通路を設置しなければならない」
といった規定の仕方ではなく,あたかも劇場等には避難通路が存することを
当然の前提として,これらの管理方法について述べていると自然に読める規
定の仕方となっている。これらの条文の規定の仕方からすると,条例に明文
化されている施設についてのみ避難通路を要求していると読むべきではなく,
「防火対象物で多数の者が出入りするものとして政令で定めるもの」には当
然にすべて避難通路が存在することを前提として,その中で特に幅員等,管
理状況に注意すべきものにつき規定したものであると読むべきである。また,
本条例52条が「防火対象物の避難口,廊下,階段,避難通路その他避難の
ために使用する施設は,次に定めるところにより,避難上有効に管理しなけ
ればならない。」と規定しているのであるが,同条の規定する避難施設には
条例で明文化されていない避難通路も含まれており,少なくともこれには設
置が義務付けられていないものも含まれている。そして,「事業所税申告の
手引き」(乙1)は,「非課税の適用を受ける避難通路は,仙台市火災予防
条例第47条~第54条の規定に基づき設置されたものをいいます。」と明
記し,52条を除外していないのである。したがって,52条によって管理
される避難施設は,設置が義務付けられたものでなくても,本条例に基づき
設置されたものとして非課税の対象になるというべきであるから,原判決別
紙2記載の1階の青色部分及び緑色部分並びに2階の青色部分は避難通路と
して床面積全部を非課税とすべきである。
(2)本件物件の本条例上の位置付けについて
仮に仙台市火災予防条例(本条例)によって設置が義務付けられた避難通
路のみが非課税となるとしても,本件物件は,その全体が本条例によって避
難通路の設置が義務付けられた「百貨店等」に準ずるものであるから,同条
例50条の要件を備えた避難通路(原判決別紙2記載の1階の青色部分及び
緑色部分並びに2階の青色部分)は全床面積を非課税とすべきである。確か
に本条例は消防法にいう複合用途防火対象物について明文の規定を置いてい
ないが,本件物件は,その中に12の映画館,サウナ・マッサージルーム・
大浴場・露天風呂等の施設,パチンコ・スロットマシーン・ボウリング・ビ
リヤード・ゲームセンター等の娯楽施設,喫茶室・回転寿司・食堂等の飲食
施設,飲食物・玩具等の販売施設などが存し,これらが一体性をもって複合
アミューズメント施設を構成しているのであって,「遊びの百貨店」「遊園
地の百貨店」のようなものであり,本条例が規定するものの中では「百貨店
等」に最も類似し,かつ,これと同様の避難施設が必要な施設なのである。
本条例が設置を義務付けた施設として挙げている施設も限定列挙したもので
はなく,例示的に列挙したものであり,挙げられた施設に準ずる施設も含ま
れるものと解すべきであるから,本件物件は,百貨店等に含まれるものとし
て避難通路をみるべきなのである。本件物件を映画館の部分,飲食施設の部
分などと分けて避難施設を論ずることは,消防法の趣旨にも反することであ
る。
(3)地方税法施行令56条の43第3項1号ロに規定する「廊下」について
地方税法施行令56条の43第3項1号ロに規定する「廊下」について,
原判決は,「壁等で区別された室と室とをつなぐ通路」と定義し,控訴人の
主張を排斥しているが,同条は壁等で区別されることを要求してはいない。
同じ部屋の中に存する通路であっても,その部屋を出ることにより他の部屋
につながっているといえるのであり,かつ,避難空間としての役目も全うし
得るのである。したがって,原判決別紙2記載の1階以外の階の緑色部分は
「廊下」に該当するものというべきである。
(4)他の類似施設との比較について
名古屋市に所在するB,愛知県豊田市に所在するCは,いずれも本件物件
に類似する施設であるが,これらの施設については非課税の範囲につき控訴
人の考えに基づき申告し,名古屋市や豊田市は控訴人の考えに沿った扱いを
している。名古屋市や豊田市がどのような考えに基づき控訴人の申告に沿っ
た扱いをしたのかは立証することができないが,これらの市が条例を形式的
に適用したのではなく,現実に合致するよう条例を柔軟に解釈し,運用して
いることは明らかであり,本件物件についても,そのような解釈・運用がさ
れるべきである。
4控訴人の主張に対する被控訴人の反論
(1)非課税となるべき避難通路について
控訴人の主張は争う。地方税法施行令56条の43第3項5号イは,「指
定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路」となっており,この文言
からすれば,条例の規定により設置が義務付けられた避難通路のみを意味す
ることは明らかであり,そう解することが,一般公衆の安全を確保する上で
必要不可欠な一定の要件を充たす防災施設に係る床面積の一部について事業
所性を否定することを相当とした法701条の34第4項の趣旨にも合致す
る。また,本条例は,47条ないし50条(49条の2を除く。)の規定に
該当する用途に供された部分にのみ避難通路の設置を義務付けたものである。
避難経路の確保は,本条例だけではなく,消防法,建築基準法等によっても
されているのであるから,本条例が上記以外の用途について避難通路の設置
に言及していないからといって不当なことではない。控訴人の主張は,独自
の見解に基づくものである。
(2)本件物件の本条例上の位置付けについて
控訴人は,本件物件を本条例上の「百貨店等」として扱うべきである旨主
張するが,この主張は失当である。本条例は,規制する建物等の用途を限定
的に列挙したものであり,本条例にいう「百貨店等」とは,「百貨店,マー
ケットその他の物品販売業を営む店舗又は展示場」であり(本条例25条),
本件物件がこれに該当しないことは明らかであって,類似性を論じることは
意味がない。
(3)地方税法施行令56条の43第3項1号ロに規定する廊下について
控訴人の主張は争う。地方税法施行令56条の43第3項1号ロに規定す
る「廊下」は,建築基準法35条に規定する「廊下」に限られるところ,こ
こにいう廊下とは「室」と「室」とをつなぐものである。控訴人が「廊下」
と主張する部分はいずれも室内の動線部分にすぎず,廊下とはいえない。避
難空間の確保にあることからすれば同じ部屋の中にある通路部分も「廊下」
に当たるとする控訴人の主張は,廊下と室との区別をあいまいにするもので
あり,失当である。
(4)他の類似施設との比較について
控訴人の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判
断する。その理由は,次の2のとおり原判決の訂正等があり,3のとおり控訴
人の当審における主張に対する判断があるほかは,原判決の事実及び理由欄の
「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これをここに引用す
る。
2原判決の訂正等
(1)原判決19頁24行目冒頭から同20頁2行目末尾までを次のとおり改
める。
「そして,証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件物件の1階には,
正面出入口に通じる風除室・エントランスホール,ゲームセンター・パチ
ンコ・スロットマシーン・ビリヤード・カラオケルームなどの娯楽施設,
大浴場・露天風呂・サウナ・マッサージルームなどの入浴施設,マンガ喫
茶・回転寿司・レストランなどの飲食店施設などのほか,自動販売機コー
ナー,控訴人の事務室,従業員の休憩室などがあること,別紙2記載の1
階青色部分は,エントランスホール部分,ゲームセンターの廊下部分,パ
チンコ及びスロットマシーン施設の廊下部分,カラオケルームの廊下部分,
入浴施設の廊下部分であり,別紙2記載の1階緑色部分は,パチンココー
ナー内の通路部分,スロットマシーンコーナー内の通路部分,ゲームセン
ター内の通路部分,ビリヤードコーナー内の通路部分,入浴施設内の通路
部分であること,また,本件物件の2階には12の映画館とボウリング場
があり,このうち,別紙2記載の青色部分は,2階のエントランスホール
部分,ボウリング場の廊下部分であることが認められるのであって,いず
れも,本条例が規定する『劇場等』,『キャバレー等及び飲食店』,『百
貨店等』の用途に供されるものではないといわざるを得ず,本条例の規定
により規制される『避難通路』には当たらないものというべきである。確
かに,エントランスホールやこれに通じる廊下は,万一の場合,映画館の
入場者や飲食店の利用客の避難のためにも使用されるが,他の施設の利用
客にも利用され,普段は複合用途施設である本件物件のエントランス又は
廊下としてすべての客に利用されるのであって,これらを映画館ないし飲
食店の避難施設とみることはできないのである。」
(2)原判決20頁25行目の「また,」から同21頁7行目末尾までを「ま
た,本条例は,避難通路の規制をする建物又は施設の用途として,『劇場,
映画館,演芸場,観覧場,公会堂又は集会場』,『キャバレー,カフェー,
ナイトクラブその他これらに類するもの及び飲食店』及び『百貨店,マーケ
ットその他物品販売業を営む店舗又は展示場』としているが,本条例47条,
48条,49条及び50条が火災予防の見地から特定の用途に供される建物
又は施設について一定の避難通路を設置することを義務付けた規定であるこ
とからすると,建物又は施設の用途については,これを限定的に列挙したも
のと解すべきである。なるほど,『キャバレー等』については『その他これ
らに類するもの』との文言があるが,これも,名称はともかくとしてその実
質が社会通念に照らして『キャバレー,カフェー,ナイトクラブ』と同視し
得るか,ほとんど同視し得るものに限定されるものと解すべきである。」に
改める。
(3)原判決22頁14行目の「本件物件が」を「本件物件全体が」に改める。
(4)原判決27頁15行目冒頭から同20行目末尾までを次のとおり改める。
「ウ証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,本件物件の3階には映写機
械室が,R階には空調機械室が,地階には温泉機械室が設けられている
こと,これらの各機械室内には通路部分が存すること,しかし,これら
の通路部分は,各機械室の一部を構成するものであって,他の部分と区
別する壁等は存在しないことが認められる。そして,控訴人が『廊下』
であると主張する別紙2記載の1階以外の緑色部分は,上記の各通路部
分のことであるが,上記認定の態様からすれば,上記各通路部分は,建
築基準法35条に規定する『廊下』には当たらないものというべきであ
る。」
3控訴人の当審における主張について
(1)非課税となるべき避難通路について
控訴人は,原判決別紙2の1階の青色部分及び緑色部分並びに2階の青色
部分は地方税法施行令56条の43第3項5号イに規定する「指定都市等の
条例の規定に基づき設置する避難通路」に当たると主張するところ,控訴人
の主張は,要するに,上記施行令56条の43第3項5号イが規定する「指
定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路」とは必ずしも条例によっ
て設置が義務付けられた避難通路に限られるものではなく,法701条の3
4第4項の「消防法17条1項に規定する防火対象物で多数の者が出入する
ものとして政令で定めるもの」に設置される避難通路であり,かつ,スプリ
ンクラー設備の有効範囲内に設置するものであれば,非課税の対象となるも
のと解すべきであるというものである。
しかしながら,控訴人の上記主張は採用することができない。その理由は
以下のとおりである。
まず,法701条の34第4項は,消防法17条1項に規定する防火対象
物で多数の者が出入りするものとして政令で定めるものに設置されるべき消
防用設備等及び防災用設備等で政令で定める部分については課税することが
できないとしているところ,これらの部分を非課税とした趣旨は,多数の者
が出入りする建築物における消防用設備等及び防災用設備等は一般公衆の安
全を確保する上で必要不可欠なものであるため,建物等の所有者の経済的利
益にかかわらず,消防法,建築基準法等の法令でこれを設置するよう規制さ
れているのであるが,そうである以上,一方で設置するよう法令で規制して
おきながら,他方でこれらについてその全部について事業所性を認めて課税
することは背理となるがゆえと解される。そして,法701条の34第4項
の非課税の対象となるものを規定した地方税法施行令56条の43は,その
第1項で非課税の対象となる建物等について規定し,その第2項で非課税の
対象となる消防用設備等を規定し,その第3項で非課税の対象となる防災用
設備等について規定するものであるが,同項の1号から4号までは建築基準
法又は同法施行令で規制している施設又は設備について規定し,5号におい
て,2項に規定するもの及び3項1号から4号までに掲げるもののほかとし
て,そのイで「指定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路」と規定
し,そのロで「避難通路(イに該当するものを除く。)その他防災に関する
施設又は設備で総務省令で定めるもの」と規定しているのである。このよう
な規定の仕方からみると,地方税法施行令56条の43第3項5号は,同項
1号から4号と同じように,条例又は総務省令によって規制されたものにつ
いて非課税の対象とするとの趣旨で規定されたものと解される。すなわち,
消防用設備等や防災用設備等は,本来的には消防法や建築基準法とその関係
法規によって規制されるべきものであり,現に消防法17条1項を受けた消
防法施行令はその第2章で「消防用設備等(避難設備も含む。)」について
規制の詳細を規定し,また,建築基準法35条に規定する用途の建物(劇場,
映画館,演芸場,観覧場,公会堂,集会場その他これに類するもの,病院,
診療所,ホテル,旅館,下宿,共同住宅,寄宿舎その他これに類するもの,
学校,体育館その他これに類するもの,百貨店,マーケット,展示場,キャ
バレー,カフェー,ナイトクラブ,バー,ダンスホール,遊技場その他これ
に類するもの)については,建築基準法施行令がその第5章で「避難施設
等」について規制の詳細を規定しているところである。そして,消防法17
条2項は,市町村はその地方の気候又は風土の特殊性により同条1項の消防
用設備等の技術上の基準に関する政令又はこれに基づく命令の規定のみによ
っては防火の目的を十分に達し難いと認めるときは条例で当該政令又はこれ
に基づく命令の規定と異なる規定を設けることができるとしており,また,
建築基準法40条も,地方公共団体は建築物の構造及び建築設備について防
火上必要な制限を附加することができるとしているのであって,市町村等は,
消防法や建築基準法には規定されていない規制を条例によって行うことがで
きることになっている。もっとも,本条例が規定する「避難通路」は,室内
の避難経路のことであり,消防法17条2項,消防法施行令第2章にいう
「消防用設備等」や建築基準法施行令第5章にいう「避難施設等」に該当す
るものではないから,厳密にいえば,「避難通路」に関する本条例の規定は,
消防法17条2項や建築基準法40条によって委任された,いわゆる附加条
例ではない。しかし,普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて
条例を制定することができ,条例によって義務を課し又は権利を制限する規
制を行うことができるのであるから(地方自治法14条1項,2項),消防
法や建築基準法が規制していない事柄についても,条例によって火災予防上
の規制を行うことができ,現に行っている。そして,本条例自体には「避難
通路」に関する罰則の規定はないが,「避難通路」に関する規定が人命の安
全を図るための避難管理の規定であることは明らかであり(乙7),「避難
通路」の規制に従わない防火対象物については,避難管理がされていないも
のとして消防法5条,8条の規定により消防長又は消防署長による措置命令
の対象となり得るものである。したがって,「避難通路」の規制を規定した
本条例は,該当する建物の所有者等に対し,一定の「避難通路」の設置を義
務付けているものといえる。このようなことから,地方税法施行令56条の
43第3項5号イは,消防法や建築基準法及びそれらの関係法規によって規
制されたものと並んで条例で設置が義務付けられた「避難通路」についても
非課税にする趣旨で規定されたものと解されるのである。したがって,条例
で規制が規定されていないものについては,地方税法施行令56条の43第
3項の1号から4号又は5号のロに該当しない限り,法701条の34第4
項に規定する「防災用設備等」に該当しないものといわざるを得ない。
ところで,消防法17条1項に規定する防火対象物で多数の者が出入する
ものとして政令で定めるもの(以下「特定防火対象物」という。)としては,
劇場・映画館・演芸場又は観覧場,公会堂又は集会場,キャバレー・カフェ
ー・ナイトクラブその他これらに類するもの,遊技場又はダンスホール,待
合・料理店その他これらに類するもの,飲食店,百貨店・マーケットその他
の物品販売業を営む店舗又は展示場,旅館・ホテル又は宿泊所,病院・診療
所又は助産所,老人福祉施設・有料老人ホーム・介護老人保健施設・救護施
設・更生施設・児童福祉施設(母子生活支援施設及び児童厚生施設を除
く。)・身体障害者更生援護施設(身体障害者を収容するものに限る。)・
知的障害者援護施設又は精神障害者社会復帰施設,幼稚園・盲学校・聾学校
又は養護学校,公衆浴場のうち蒸気浴場,熱気浴場その他これらに類するも
の,消防法8条1項の定める複合用途防火対象物(消防法施行令別表第1の
(1)項から(15)項までに掲げる用途のうち,いずれか2以上の用途に供され
る防火対象物)など多数のものがあるところ(消防法施行令6条,別表第
一),仙台市火災予防条例(本条例)は,これら特定防火対象物のうち,劇
場,映画館,演芸場,観覧場,公会堂又は集会場については47条と48条
で,キャバレー,カフェー,ナイトクラブその他これらに類するもの(キャ
バレー等)及び飲食店については49条で,百貨店,マーケットその他の物
品販売業を営む店舗又は展示場(百貨店等)については50条で,それぞれ
それらの避難通路を規定し,その他の用途の建物については避難通路の言及
をしていない。また,本条例は,「キャバレー等及び飲食店」や「百貨店
等」についても,客席や売場の階の床面積が150㎡以上のものと限定して
規定しているのであり(本条例49条,50条),用途を同じくする「キャ
バレー等及び飲食店」,「百貨店等」であっても,客席や売場の階の床面積
が150㎡未満のものについては何ら言及していない。
こうしてみると,本条例は,特定防火対象物のうち特定の用途についての
み,特に避難通路の規制を必要と認めてその規定を設けたものといわざるを
得ない。本条例により規制の規定が設けられなかった特定防火対象物につい
ても避難のための施設又は設備は必要であろうが,本条例は,それについて
は消防法や建築基準法及びそれらの関係法規の規制するところで足り,特に
条例で規制するまでの必要はないと判断し,規定を設けなかったものと思わ
れる。
控訴人は,本条例52条が「防火対象物の避難口,廊下,階段,避難通路
その他避難のために使用する施設は,次に定めるところにより,避難上有効
に管理しなければならない。」と規定していることをもって,設置が義務付
けられていない避難通路も「指定都市等の条例の規定に基づき設置する避難
通路」に当たると解すべきである旨主張するが,上記条文は避難施設の管理
の在り方を規定したものにすぎず,ここに「避難通路」の文言があるからと
いって,すべての避難通路が「条例の規定に基づき」設置されたものと解す
ることはできない。仮に控訴人の主張のように特定防火対象物に設けられた
避難通路はすべて含まれると解すると,地方税法施行令56条の43第3項
5号イの「条例の規定に基づき設置する」との文言が全く意味をなさないも
のになってしまうのである。
したがって,本条例によって設置が義務付けられていない避難通路につい
ても,地方税法施行令56条の43第3項5号イの避難通路に当たると解す
べきであるとの控訴人の主張は,採用することができない。そして,控訴人
が主張する原判決別紙2の1階の青色部分及び緑色部分並びに2階の青色部
分が本条例によって設置が義務付けられた避難通路に当たらないことは明ら
かである。
(2)本件物件の本条例上の位置付けについて
控訴人は,仮に本条例によって設置が義務付けられた避難通路のみが非課
税の対象となるとしても,本件物件はその全体が本条例によって避難通路の
設置が義務付けられた「百貨店等」に準ずるものと解すべきであり,本条例
50条の要件を備えた本件物件の避難通路は非課税とすべきである旨主張す
る。
しかしながら,本条例が特定防火対象物のうち特定の用途に限定して避難
通路の規制を設けたものと解すべきことは上記(1)のとおりである。そして,
本条例47条,48条,49条,50条がこれらの条文に記された建物の所
有者に一定の義務を課する規定であることにかんがみれば,これらの条文に
記された建物については限定的に考えるべきである。なるほど,本条例49
条は,「キャバレー,カフェー,ナイトクラブその他これに類するもの」と
規定しており,キャバレー,カフェー,ナイトクラブのほかこれに類するも
のを対象としているのであるが,これも,名称はともかくとしてその実質が
社会通念に照らしキャバレー,カフェー,ナイトクラブと同視し得るか,ほ
とんど同視し得るものに限定されるものと解すべきである。
しかるところ,本件物件全体が本条例50条にいう「百貨店等」,すなわ
ち,「百貨店,マーケットその他の物品販売業を営む店舗又は展示場」(本
条例25条)に当たらないことは明らかであり,社会通念に照らしても,こ
れらのものに類するものともいえない。本件物件が「遊びの百貨店」などと
いわれることがあるとしても,それはあくまでも多種類の遊興施設,娯楽施
設等を備えているという意味での比喩的表現にすぎず,本件物件は,多種類
の物品の販売を主たる目的とする大型店舗である百貨店と同視し得るとは到
底いえない。控訴人は,避難通路が必要なことは本件物件も百貨店と同じで
ある旨主張するが,そうであるとしても,本件物件を本条例が規定する「百
貨店等」又はこれに類するものとみることはできない。
したがって,本件物件が本条例の規定にいう「百貨店等」に準ずるものと
解すべきことを前提とした控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3)地方税法施行令56条の43第3項1号ロに規定する廊下について
控訴人は,原判決別紙2記載の1階以外の緑色部分について地方税法施行
令56条の43第3項1号ロに規定する「廊下」である旨を主張し,その前
提として,廊下とは必ずしも壁等で区別されていることは必要ではなく,同
じ部屋の中に存する通路であっても,その部屋を出ることにより他の部屋に
つながっており,かつ,避難空間としての役目も全うし得るものは建築基準
法35条が規定する「廊下」に当たるものというべきである旨主張する。
しかしながら,廊下とは,一般的に,室と室とをつなぐ一定の幅をもった
建物内通路と観念されており(乙4),このことからすると,それ自体が室
とは独立した一つの空間を形成しているものを指すものと解すべきである。
この空間を形作っているものが必ずしも壁である必要はないが,何らかのも
のによって室とは異なった空間として形作られていることを要するのである。
しかるところ,控訴人が「廊下」と主張する部分は,原判決が認定したよ
うに,いずれも温泉機械室(地階),映写機械室(3階),空調機械室(R
階)という一つの室の中の一部にすぎないのであり,その部分が主に通路と
して使用されているとしても,一つの独立した空間を形成しているとはいえ
ない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(4)他の類似施設との比較について
控訴人は,本件物件と類似する名古屋市に所在するB,愛知県豊田市に所
在するCにおいては,非課税床面積について控訴人の主張に沿った扱いがさ
れているとして,被控訴人の課税決定を非難するが,本件は,B等の課税処
分の適否を問題とするものではなく,本件物件に関する仙台市火災予防条例
や建築基準法等の解釈適用の是非を問題とするものであって,被控訴人がし
た課税決定につきこれらの解釈適用について誤りがない以上,他の類似施設
との比較は意味を持たないというべきである。控訴人の主張は,採用するこ
とができない。
4よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由
がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官大橋弘
裁判官鈴木桂子
裁判官中村恭

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛