弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人名尾良孝の論旨一について。
 抵当不動産の買主がその売主に対し滌除権を取得するには、その所有権を取得し
たことを以つて足るのであつて、右所有権取得につき登記を経ることを要件としな
いものと解するを相当とする。従つて、被上告人は、原判示の如く、借地法に基づ
く上告人の買取請求の意思表示によつて本件抵当建物の所有権を取得した以上、未
だその取得につき登記を経て居らなくても、売主である上告人に対し滌除権を有す
るものとなすべきである。被上告人が本件抵当建物につき滌除権を有しないとする
上告人の主張は、独自の見解であつて、正当でない。
 又、本件において、上告人が所論買取請求権の行使をしたのは、昭和三五年六月
二四日の原審口頭弁論においてであつて、この意思表示により、直ちに、上告人と
被上告人との間に、上告人を売主、被上告人を買主とする本件抵当建物の売買が成
立し、同時に、その所有権が被上告人に移転したものとなすべきである(大審院昭
和六年(オ)第一四六二号同七年一月二六日判決、民集一一巻一六九頁、同院昭和
一三年(オ)第一七八〇号同一四年八月二四日判決、民集一八巻八七七頁、当裁判
所昭和二八年(オ)第七五九号、同三〇年四月五日第三小法廷判決、民集九巻四三
九頁参照)から、右口頭弁論の時において既に、実体的に、被上告人は、右抵当建
物につき、所有権と共に滌除権をも取得し了つたものであつて、これを訴訟におい
て予備的請求原因として主張したからといつて、右権利取得に何等の消長をもきた
さないものである。右口頭弁論の時以後においては、何時でも、売主より民法五七
七条但書の滌除の催告をなすことがあり得べく、また、買主において売主の代金支
払請求に対し滌除を前提として同条本文の代金支払拒絶を主張することもあり得る
とするに何等妨げがない。従つて、予備的請求原因として、買取請求権行使の効果
が主張せられる場合に、民法五七七条の適用は考えられないとすることも亦、独自
の見解であつて、失当である。
 論旨は、結局、すべて、前提において既に失当であつて、採るを得ない。
 同二について。
 借地法に基づく買取請求権行使によつて成立する売買の代価は、その行使当時に
おける建物の時価により客観的に定まるものであつて、所論の如くに、買主が主観
的に算定して定めるものではない。又、論旨が引換給付判決として主文に売買代金
額が掲記せられない限り右時価は定まらないとするは、独自の見解に過ぎない。
 したがつて、論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであつて、採
るを得ない。
 同三について。
 論旨は、滌除の制度を以つて、不動産の時価が抵当債権を完済し得ない場合にの
み効果を発揮するものであるとし、或は抵当債権額が不動産の時価より少い場合に
は、その差額についてのみ売主に留置権及び同時履行の抗弁が生ずるものであると
するけれども、いづれも独自の見解に過ぎない。論旨は、結局、これ等独自の見解
を前提として、原審が借地法一〇条に基づく本件買取請求による売買に民法五七七
条を適用すべきものとしたことを非難するにつきる。
 論旨は、すべて、前提において既に失当に帰するものであつて、採るを得ない。
 同四について。
 原審が所論建物の時価を五三〇、六二五円と算定判示したことは、所論の如くに、
無意味不必要ではない。そもそも、借地法一〇条による買取請求の対象となる建物
の時価は、その請求権行使につき特別の意思表示のない限り、その建物の上に抵当
権の設定があると否とに拘りなく定まつて居るものと解するを相当とするから、原
審が、本件買取請求権行使当時の本件建物の時価は、所論根抵当権の負担あること
を考量に入れない鑑定価格に基づき五三〇、六二五円である旨認定判示したのは、
正当であり、判断についての右の立場を明示する意味においても、原審が右具体的
価額を判示したことに意義がある。されば、原審が本件建物の時価を具体的に判示
したことを無意味不必要とし、これを前提として本件に民法五七七条を適用する余
地がないとする論旨は、前提において既に失当である。
 更に、反対債権たる代金請求権は、当該訴訟における訴訟物とならず、したがつ
て、これが引換給付判決の主文に掲記せられて居る場合においても、その存在及び
数額について既判力を生ずる余地はないのであるから、原審が判決主文においてこ
れとの引換給付を命じなかつたことが所論代金請求権の存否につき既判力を生ぜし
めない結果を招いたとして原審判断を非難する論旨も亦、前提において既に失当で
ある。
 その他の点につき論旨は縷々主張するところがあるけれども、原審の認定判示に
添わないことを仮定して原審の判断を非難するものであつて、上告適法の理由とな
らない。
 論旨は、すべて、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
 裁判官河村又介は退官につき署名捺印できない。
         裁判長裁判官    石   坂   修   一

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