弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人後藤徳司の上告理由第一点ないし第三点、同森本精一の上告理由一、
二、同中込一洋の上告理由一、二について
 原審の適法に確定した事実関係の下においては、被上告人が本件土地の登記簿の
表題部の所有者欄の「a町bノcD外七名」という記載のうち「外七名」という部
分の記載をしたことに違法はなく、したがって、被上告人が本件所有権保存登記申
請及び更正登記申請を却下した処分にも違法はないとした原審の判断は、正当とし
て是認することができる。論旨は、独自の見解に立ち、又は原判決を正解しないで
これを論難するか、原判決の結論に影響しない点をとらえてその違法をいうもので
あって、採用することができない。
 上告代理人後藤徳司の上告理由第五点及び同中込一洋の上告理由三のうち無効確
認訴訟に関する部分並びに同森本精一の上告理由三について
 登記官が不動産登記簿の表題部に所有者を記載する行為は、所有者と記載された
特定の個人に不動産登記法一〇〇条一項一号に基づき所有権保存登記申請をするこ
とができる地位を与えるという法的効果を有するから、抗告訴訟の対象となる行政
処分に当たると解するのが相当である。そして、上告人は、本件土地の登記簿の表
題部の所有者欄に記載されたDの一般承継人であるというのであるから、右所有者
欄の「外七名」という記載の無効確認を求める上告人の訴えは適法であって、これ
を不適法として却下した原判決の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるも
のというべきである。しかしながら、被上告人が右の「外七名」という記載をした
ことに違法はないと解すべきであることは前記のとおりであるから、右無効確認請
求は、理由がないことが明らかである。そうすると、右請求は棄却を免れないとこ
ろであるが、不利益変更禁止の原則により、上告を棄却するにとどめるほかはなく、
結局、原判決の右違法は、結論に影響を及ぼさないものというに帰する。
 上告代理人後藤徳司の上告理由第四点、同第五点及び同中込一洋の上告理由三の
うちその余の部分並びに同森本精一の上告理由四について
 所論の点に関する原審の判断及び措置は、正当として是認することができ、その
過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を非難するものであ
って、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。
 本件の登記簿表題部所有者欄の記載は、いわゆる登記簿と台帳の一元化に際して
土地台帳から移記することによりされたものであるが、右記載行為を行政処分と解
すべきことは、法廷意見のとおりである。ところで、不動産登記法によれば、登記
官は、登記用紙の枚数過多により登記を新用紙に移記することがある(同法七六条)
ほか、土地の分筆、合筆、建物の分割、区分等に際しても、登記を移記することが
ある(同法八二条、九四条等)ものとされている。磁気ディスクをもって調製され
た登記簿についても、同様である(同法一五一条ノ五第一項、一五一条ノ八)。ま
た、このほか、いわゆる粗悪用紙の新用紙への移記や、新たに磁気ディスクをもっ
て登記簿を調整するための移記も行われる。いうまでもなく、本件の移記行為が行
政処分に当たることから、このような新旧の不動産登記簿相互間でされる移記行為
も行政処分に当たるということにはならないのであるが、事案にかんがみ、念のた
め一言補足しておく次第である。
 なお、表題部の所有者欄の記載行為が抗告訴訟の対象となるといっても、当然の
ことながら、審査基準に違反するところがない限り、記載内容が真実の所有権の帰
属と異なっているとしても、そのことは、処分の取消しや無効の理由にはなり得な
い。所有権の帰属と登記の記載の食い違いを正すためには、本来、実体権の帰属が
争いとなる当事者間における民事訴訟によるべきものであることを、ここに付言し
ておきたい。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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