弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を墨田簡易裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人中野博義の控訴趣意に別紙のとおりであつて、これに対し次のように判断
する。
 本件昭和二五年一月一二日付追起訴状の公訴事実は被告人は昭和二四年九月三日
より同年一〇月三一日までの間前後二〇回に亘り江東区abのcA方外一七軒より
衣類及び現金その他計八八点時価合計一四万二七五三円二〇銭相当のものを窃取し
たもの(参照犯罪一覧表)というのであるが、これに対し原判決はその三、として
被告人は昭和二四年九月三日より同年一〇月三一日に至るまでの間前後一九回に亘
り江東区ab丁目c番地A方外一六個所に於て、煙草、衣類、現金その他八〇余点
(価格合計一四万余円)を窃取したものと摘示しておることは所論のとおりであ
る。これによつて見れば原審は右追起訴にかゝる二〇の事実中いずれかの一につい
て判決をしなかつたものという外はない。従つて原判決は破棄を免れない。もつと
も、右追起訴状添付の表によれば一九の事実はこれに未遂と記入しながら掲げられ
た事実そのものはまだ窃盗未遂に至らない行為であり、且つ原判決の示す証拠中の
各被害届をこの表と照合すれば原判決から除かれている事実は右一九に外ならない
ことを容易に知ることはできるのであるが、既に右のように公訴事実として起訴状
に明記せられ九ものである以上検察官がこれにつき起訴したものであることは明ら
かであるからこれに対し判決をなさないまゝに済ますことはできない理である。従
つて原審はやはり不当としなければならない。加之原判決の右三、の摘示はこれに
起訴状及びその別表を引用したわけではなく、たゞ漫然と一九回の事実を一括<要
旨>して示しただけのものでおるから、その一々の具体的事実については全くこれを
記されていない。およそ判決に事実を示すのは、その刑の言渡の基である具
体的犯罪事実を明らかにしてその公正を担保し、更にこれによつて既判力の範囲を
も明確にするものであるから併合罪たる各個の事実を示すにはその一々を明記しな
ければならないことは勿論であつて、仮りに継続的集合的に行われた犯罪行為でそ
の一々の被害数量や取引の相手方等について明記することが不可能のような場合で
あつても少くとも右の判決の公正を担保しその既判力の範囲を明確にすることので
きる程度にはこれを具体的に記るさなければならないものである。しかるに原判決
の三、は右のように一九回の個々の窃盗事実についてこれを一括して記載し(実は
一及び二の日時も亦右三の期間内に該当するわけであるが)たのはこれによつてそ
の間如何為る具体的窃盗行為があつたかを到底知ることができず、従つて判決の公
正とその既判力の範囲とを知ることもできないものであるから、このような摘示は
判決理由として十分でない。従つて原判決は理由不備という外なくこの点において
も破棄を免れない。
 よつて刑訴法第三九七条第四〇〇条に則り主文のとおりに判決する。
 (裁判長判事 佐伯顕二 判事 武田軍治 判事 仁科恒彦)

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