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裁判例


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平成17年(行ケ)第10691号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年5月10日
判決
原告コーニンクレッカフィリップス
エレクトロニクスエヌヴィ
訴訟代理人弁理士津軽進
同宮崎昭彦
同笛田秀仙
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人上田忠
同杉野裕幸
同山口敦司
同高木彰
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2000-1714号事件について平成17年5月9日にした審決を取り消
す。
第2事案の概要
本件は,後記特許出願の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたの
で,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁から同請求不成立の審決を
受けたため,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「口金付高圧放電ランプ」とする発明につき,平成5年5
月10日(パリ条約による優先権主張1992年(平成4年)5月11日,オランダ
国)に特許出願(特願平5-108507号,以下「本願」という。甲2)をし
た。
その後原告は,平成10年11月30日(甲14),平成12年3月15日(甲15)
に,それぞれ手続補正をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,不服の
審判請求をし,同請求は不服2000-1714号事件として特許庁に係属した。
同事件の中で,原告は,平成15年10月10日(甲16),平成16年9月16日
(甲3)に,それぞれ手続補正をしたが,特許庁は,審理の上,平成17年5
月9日,出訴期間として90日を附加して,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「本件審決」ということがある。)をし,審決謄本は
平成17年5月19日原告に送達された。
(2)発明の内容
平成16年9月16日付け補正(甲3)後の特許請求の範囲は,請求項1~4
から成るが,その請求項1に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願
発明」という。)。

「イオン化可能な充填剤が収容され気密に封じられたランプ容器を有する
光源であって,前記ランプ容器は,それぞれ封じ部を具え互いに対向して
いる第1及び第2頸状部を有し,第1及び第2電流供給導体がそれぞれ前
記封じ部を貫通して前記ランプ容器内に配置された一対の電極まで延在し
ている当該光源と,
絶縁材料の口金であって,前記第1電流供給導体に接続された第1接点
部材と,第2接点部材とを有する当該口金と,
前記ランプ容器の側方に沿って前記口金まで延在し,前記第2電流供給
導体及び第2接点部材に接続されている接続導体と,
空気が充填されたほぼ同心的な管状外側エンベロープと,
を有している口金付高圧放電ランプにおいて,
前記接続導体が前記外側エンベロープの外側に延在し,この外側エンベ
ロープは,SiOの含有量が少なくとも95重量%であるガラスより成ってお2
り,この外側エンベロープは,ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有
し,放電空間の領域における前記ランプ容器と前記外側エンベロープとの
最小隙間が1.5mm以下であり,前記外側エンベロープがそのそれぞれの小径
部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結合され,前記ランプ容器が
その第1頸状部又は前記外側エンベロープを以て前記口金に固着されてい
ることを特徴とする口金付高圧放電ランプ。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要旨は,本願発明は,その出願前に頒布された下記刊行物1
~6に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,
としたものである。

刊行物1:実願昭60-153859号(実開昭62-62755号)のマイクロフィル
ム(甲4)
刊行物2:米国特許第3,867,661号明細書(甲5)
刊行物3:欧州特許出願公開478058号(甲6。特開平4-233123号公報
〔甲7〕参照。)
刊行物4:特開平3-233853号公報(甲8)
刊行物5:特開平4-4555号公報(甲9。ドイツ連邦共和国特許出願公開
4112911号明細書〔甲13〕参照。)
刊行物6:欧州特許出願公開465083号(甲10。特開平4-229942号公報
〔甲11〕参照)
イなお,審決は,本願発明と刊行物1に記載された発明(以下「引用発
明」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認定してい
る。。
(一致点)
「イオン化可能な充填剤が収容され気密に封じられたランプ容器を有す
る光源であって,前記ランプ容器は,それぞれ封じ部を具え互いに対向
している第1及び第2頸状部を有し,第1及び第2電流供給導体が前記
ランプ容器内に配置された一対の電極に接続されている当該光源と,
前記ランプ容器がその第1頸状部を以て固着されている絶縁材料の口
金であって,前記第1電流供給導体に接続された第1接点部材と,第2
接点部材とを有する当該口金と,
前記ランプ容器の側方に沿って前記口金まで延在し,前記第2電流供
給導体及び第2接点部材に接続されている接続導体と,
ほぼ同心的な管状外側エンベロープと
を有している口金付高圧放電ランプにおいて,
前記接続導体が前記外側エンベロープの外側に延在し,この外側エン
ベロープは,SiOの含有量が少なくとも95重量%であるガラスより成っ2
ており,光源を囲むこの外側エンベロープは,ほぼ円筒状であり,前記
ランプ容器の放電空間の領域と前記外側エンベロープとの最小隙間が
1.5mm以下であり,
前記ランプ容器が前記外側エンベロープを以て前記口金に固着されて
いることを特徴とする口金付高圧放電ランプ。」である点。
(相違点a)
前記「第1及び第2電流供給導体」について,本願発明では,「それ
ぞれ前記封じ部を貫通して電極まで延在している」としているのに対し
て,刊行物1記載の発明では,リード線(電流供給導体)は,封じ部を
貫通することなく,外管(外側エンベロープ)内に存在し,電極には封
じ部を介して接続されている点。
(相違点b)
前記「外側エンベロープ」について,本願発明では,「空気が充填さ
れた」としているのに対し,刊行物1記載の発明では「真空気密」であ
って,空気は充填されていない点。
(相違点c)
前記「外側エンベロープ」について,本願発明では,「小径部分を有
し,」かつ「それぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部
に結合され,」としているのに対し,刊行物1記載の発明では,そのよ
うな小径部分を有していない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおり,相違点cに係る進歩性(容易想
到性)の判断を誤った違法があり,取り消されるべきである。
ア本願発明は,「外側エンベロープは,ほぼ円筒状であるとともに小径部
分を有し」,「それぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部
に結合され」ることを特徴とする口金付高圧放電ランプの発明である。
本願明細書の【図1】に実施例として記載された放電ランプにお(甲2)
いて,外側エンベロープ20は,小径部分21を持ち,この小径部分21は,小
径の部分が,ランプの長手方向に,ある程度の距離をもって存在する。外
側エンベロープ20は,ほぼ円筒状であり小径部分でも円筒状である。ま
た,【図3】に記載されたエンベロープ50は,小径部分51,52を持ち,長
手方向にわずかな距離ではあるが,頸状部2,3に橋絡するように結合し
ている。
本願発明によれば,外側エンベロープがほぼ円筒状を保ったままなの
で,せいぜい外側エンベロープとランプ容器の双方の頸状部とをそれぞれ
結合するだけでよい。ここで「結合」とは,外側エンベロープの小径部分
(明細書の段落【0037】参で頸状部とわずかな距離で接するようなことをいう
。外側エンベロープが頸状部とわずかな距離で接するとしても,外側照)
エンベロープは,中身が詰まった円柱状のものではないから,ほぼ円筒状
といえる。質量を軽くして耐衝撃性及び耐振動性を高めるために,外側エ
ンベロープを細くしたとしても,外側エンベロープはほぼ円筒状で小径部
分を持つので,外側エンベロープとランプ容器とを別々に作った後,ラン
プ容器に外側エンベロープをかぶせ,その後に,小径部分でランプ容器と
外側エンベロープとを結合させればよく,複雑な製造工程を回避でき,構
(明細書の段落【0011】~【0013】参成が簡単なランプが容易に実現される
。照)
イこれに対して,引用発明(甲4参照)では,外側エンベロープに相当す
る「外管8」は,ピンチシールで封止されているだけであり,封着部7は
とても長く,外側エンベロープが「ほぼ円筒状であるとともに小径部分を
有し」という本願発明の特徴を備えていない(相違点c)。
かかる相違点cについて,審決は,
「刊行物2及び刊行物6(第6図)に記載されているように,外側エンベロープを有
する放電ランプにおいて,外側エンベロープを結合させる方法として,外側エンベ
ロープに小径部分を設け,その小径部分によりランプ容器の頸状部に結合すること
は,本願の優先日前に既に周知である。」(8頁最終段落~9頁第1段落)
と認定し,この周知技術の認定を前提に,相違点cに係る構成を採用する
ことは当業者にとって容易に想到し得ることであると判断したが,以下の
とおり,この認定判断は誤りである。
ウ刊行物2について
(ア)刊行物2では,外管14(本願発明の「外側エンベロープ」に(甲5)
相当する。)とバルブ12(同「ランプ容器」に相当)とが完全に一体成
形されるだけである。本願発明のように外側エンベロープが「ほぼ円筒
状であるとともに小径部分を有し」,「小径部分により……ランプ容器
の……頸状部に結合され」ている,とはいえない。
すなわち,刊行物2の図面及び「バルブの各端部は外管14と一体成形
されてい」るとの記載によれば,刊行物2のランプでは,バ(甲5訳文)
ルブ12と外管14とが,製作の当初から完全に一体化されている。また,
刊行物2のランプでは,外管14の「小径部分」と呼べるものを特定する
ことができないから,「小径部分」によりバルブ12の「頸状部」と「結
合」しているということもできない。
したがって,刊行物2には,外管14に小径部分を設け,その小径部分
により外管14をバルブ12の頸状部18,20と結合させることの開示も示唆
もない。
(イ)被告は,「結合」とは「結び合わせて一つにすること」を意味する
から,本願発明の特許請求の範囲にいう「結合」も,そのような本来の
意味に解するべきであると主張する。しかし,原告は,「結合」の用語
の意義を論じているわけではなく,外側エンベロープが小径部分を有
し,ランプ容器の頸状部との結合が,その小径部分によりされているこ
とを主張しているのであり,上記被告の主張は,原告の主張を正しく理
解しないものである。
エ刊行物6について
(ア)刊行物6(甲10,11)の【図1】に図示された放電ランプでは,内
側エンベロープ12の管状部分16,18の端部に円盤状膨出部30,32を形成
し,囲み部20と熱により一体化させている。
この構成では,囲み部20(本願発明の「外側エンベロープ」に相当す
る。)が内側エンベロープ12(「ランプ容器」に相当)の円盤状膨出部
30,32(「頸状部」に相当)と完全に一体化されており,本願発明のよ
うに,「外側エンベロープは,ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有
し」,「それぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結
合され」ているとはいえない。
この構成では,囲み部20は,内側エンベロープ12の管状部分16,18に
別途設けた円盤状膨出部30,32により内側エンベロープ12と結合されて
いるのであり,囲み部20自体の「小径部分」によって管状部分16,18と
結合されているわけではない。
また,刊行物6の【図6】に図示されたものでは,通常の密閉部100
が図の左側に形成されており,この部分では,囲み部20と内側エンベロ
ープ12の管状部分16とが別体であるが,密閉部100はかなりの長手距離
を必要とし,その形成には多量の熱を長時間加え,長時間冷却しなけれ
ばならない。そのために,【図6】に図示され(甲11の段落【0003】参照)
たものにおいて,図の右側の部分では,通常の密閉部100ではなく,内
側エンベロープ12の管状部分18に円盤状膨出部32を設けて利用すること
にしている。上記密閉部100はかなり長く,囲み部20の小径部分で,内
側エンベロープの長い管状部分が囲まれているから,本願発明のように
外側エンベロープが「ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有し」てい
るとはいえない。
(イ)被告は,刊行物6の放電ランプにおける囲み部20には「へこみ」が
あり,これが小径部分に相当すると主張するが,審決では,当該「へこ
み」について何ら記述しておらず,上記被告の主張は,審決で判断され
ていない事項についてのものであって採用されるべきではない。
オ以上のとおり,審決が周知技術であるとした「外側エンベロープを有す
る放電ランプにおいて,外側エンベロープを結合させる方法として,外側
エンベロープに小径部分を設け,その小径部分によりランプ容器の頸状部
に結合すること」は,刊行物2,刊行物6のいずれにも記載されていな
い。また,審決が引用したその他の刊行物にも,外側エンベロープが「ほ
ぼ円筒状であるとともに小径部分を有し」,「小径部分により……ランプ
容器の……頸状部に結合され」た構成は,開示も示唆もされていない。
したがって,審決が,上記周知技術の存在を根拠に,相違点cに係る構
成を採用することに格別の創意を要するものとはいえないとしたことは,
誤りである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定及び判断は正当であり,原告の主張する取消事由は,理由がな
い。
(1)刊行物2につき
ア刊行物2の図面には,外管14がほぼ円筒形状であって小径部分を(甲5)
有し,小径部分でバルブ12の頸状部18,20と結合しているランプが記載さ
れている。
したがって,審決が,刊行物2について,
「第1図には,バルブ(bulb12)と外管(jacket14)を有するランプの構造が図示さ
れており,該図から,
(2a)外管の形状は,両端に小径部分を有する円筒状であって,それぞれの小径部分
で,バルブ(bulb12)の頸状部(necks18,20)に結合していること
(2b)2つの電流供給導体(electricalleads30,32)が,それぞれ頸状部(necks
18,20)を貫通して陰極(cathode22)及び陽極(anode24)に接続されているこ

がみてとれる。」(4頁第2段落)
と認定したことに誤りはない。
イ原告は,刊行物2発明が,外管14(本願発明の「外側エンベロープ」に
相当)とバルブ12(「ランプ容器」に相当)とを完全に一体化しているこ
とから,本願発明と相違する旨主張するが,本願発明はランプ容器と外側
エンベロープとが完全に一体化されたものを包含するものであり,原告の
主張は失当である。
すなわち,明細書の段落【0037】の記載によれば,本願発明の結合の態
様として,外側エンベロープとランプ容器の頸状部との結合を気密に行な
う場合があることが示されており,この場合には,外側エンベロープとラ
ンプ容器とは完全に一体化されたものとなっているものである。原告は,
「結合」とは,外側エンベロープの小径部分で頸状部とわずかな距離で接
することをいうなどと主張するが,「結合」という用語の本来の意味に反
するものであって,失当である。
(2)刊行物6につき
刊行物6(甲10,11)には,囲み部20が,内側エンベロープ12の円盤状膨
出部30,32が設けられた管状部16,18に結合されたものが記載されている。
そして,刊行物6には,かかる結合を作製するため,内側エンベロープの管
状部分を円盤状に膨出させるとともに,囲み部20をへこませることが記載さ
れており(甲11の段落【0013】,【0038】参照。),これによる「へこみ」
は,囲み部の「小径部分」に当たるものである。
(3)したがって,審決の周知技術の認定に誤りはなく,相違点cに係る判断
にも誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告主張の取消事由について判断する。
2取消事由について
(1)審決が,相違点cに係る本願発明の構成は周知であるとし,その例とし
て刊行物2,6を挙げたことに関し,原告は,かかる周知技術の認定は誤り
であると主張する。その理由として原告が主張するところは,審決は,相違
点cに係る本願発明の構成,すなわち外側エンベロープが「ほぼ円筒状であ
るとともに小径部分を有し」,「小径部分により……ランプ容器の……頸状
部に結合され」ていることの意義を正しく理解せず,このため,刊行物2,
6にも本願発明と同様の構成が開示されていると誤認した,というものであ
る,
しかし,原告の上記主張は採用することができない。その理由は以下のと
おりである。
(2)相違点cに係る本願発明の構成の技術的意義について
アまず,本願発明において,外側エンベロープが「ほぼ円筒状であるとと
もに小径部分を有し」ているとの構成の技術的意義について検討する。
(ア)「外側エンベロープ」について,本願発明の特許請求の範囲には,
「空気が充填されたほぼ同心的な管状外側エンベロープ」「この外側エンベロープ,
は,ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有し,放電空間の領域における前記ランプ
容器と前記外側エンベロープとの最小隙間が1.5mm以下であり,前記外側エンベロープ
と記載がそのそれぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結合され」
「ランプ容器は,それぞれ封じ部をされており,また,「頸状部」について,
と記載されている。具え互いに対向している第1及び第2頸状部を有し」
これらの記載からすると,本願発明の「外側エンベロープ」は,ほぼ
円筒状を呈するものであり,それぞれの小径部分により,ランプ容器の
頸状部に結合されるものであることが認められる。
もっとも,特許請求の範囲の上記記載からでは,上記「ほぼ円筒状」
であるとは,「小径部分」の径とその他の(小径でない)部分の径との
差が小さいことを意味するのか,「小径部分」とその他の部分のいずれ
もその断面が円形であることを意味するのかが,必ずしも明らかではな
い。
(イ)そこで,明細書の発明の詳細な説明を参酌すると,平成12年3月15
日付け補正,平成15年10月10日付け補正後の明細書に(甲15)(甲16)
は,下記の記載がある。

a「外側エンベロープをほぼ円筒状にすることによる利点は,ランプ容器に結合する
以前に外側エンベロープを整形する必要がないということである。放電空間を囲む
ランプ容器の最も幅広な部分からの外側エンベロープのすき間を小さくするという
ことは,外側エンベロープをランプ容器に結合するのに外側エンベロープがほんの
わずかの距離を橋絡する必要があるということを意味する。」(段落【0024】)
b「【実施例】図1に示す本発明の口金付高圧放電ランプは,……ランプ容器1を有′
する光源1を具えており,……ランプ容器1は,空気が充填されたほぼ同心的な管′
状外側エンベロープ20を有している。……この外側エンベロープは光源1を囲む小
径部分21を有する。」(段落【0028】~【0029】)
c「図3……の場合,ほぼ円筒形の外側エンベロープ50がその小径部分52,51により
ランプ容器1の頸状部2,3にそれぞれ結合されている。これらの小径部分52,51′
はわずかな距離で頸状部2,3に橋絡するようにする必要がある。図3では,外側
エンベロープ50が小径部分52より第1頸状部2の,一端が開放したほぼ円筒状の管
状部2に直接結合されているばかりではなく,小径部分51により第2頸状部3に直′
接結合されている。第1頸状部2には封じ部10が存在する。第2頸状部は同様な封
じ部によりほぼ完全に占められており,小さな管状部3のみを有する。第1頸状部′
2は封じ部10に続いて,一端が開放したほぼ円筒状の管状部を有し……」(段落
【0037】)
(ウ)本願に係る明細書のこれらの記載及び図1,図3に示さ(甲2参照)
れた内容からすると,「小径部分」は,外側エンベロープを,ランプ容
器の頸状部に結合するために設けられるものであって,ランプ容器の頸
(上記段落【0037】,下状部の「一端が開放したほぼ円筒状の管状部2」′
に結合されるものであるから,「小径部分」におい線は本判決が付した。)
てもその断面は円形を呈するものであると認められる。
そうすると,本願発明において,外側エンベロープが「ほぼ円筒状で
あるとともに小径部分を有し」ているということは,長手方向のいずれ
の断面においても円形を呈するが,その円形の径が他の部位に比べて小
さくなる領域があることを意味していると解される。
(エ)この点につき原告は,小径部分が,ランプの長手方向に一定の距離
を有するものであることも本願発明の構成要件に含めて解釈すべきであ
ると主張する。しかし,上記図1に示された小径部分21,図3に示され
た右側の小径部分51,同じく左側の小径部分52は,それぞれその形状を
異にしており,特に図3の右側の小径部分51は径が一定となる部位を有
していないことからみても,原告の主張は採用できない。
イ次に,外側エンベロープとランプ容器の頸状部との「結合」の技術的意
義について検討する。
(ア)本願発明の特許請求の範囲の記載では,「結合」の具体的態様が規
定されていないので,この点についても前記各補正後の明細書(甲15,
16)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,下記の記載がある。

a「好適な例では,本発明による口金付高圧放電ランプが,ランプ容器の頸状部に結
合させた小径部分を有する外側エンベロープを具えるようにする。本例のランプの
製造に当っては,ほぼ円筒状のガラス管をランプ容器にかぶせ,このガラス管の一
部分を加熱してこの一部分を軟化させる。次に,この軟化部分をつぶし,すなわち
工具により頸状部の方向に押圧し,小径部分を形成する。このようにしてランプ容
器との機械的な結合を達成する。」(段落【0020】)
b「本発明の他の特徴的事項は,外側エンベロープをドーム状端部を以って封じする
必要がなく,単に小径にするだけであるということである。」(段落【0012】)
c「外側エンベロープと頸状部との結合を気密にしない場合には大気圧で,結合を気
密に行なう場合には大気圧よりも低い圧力で且つ室温で空気を外側エンベロープ50
の内側の空間に充填する。結合を達成するのに要するガラスの加熱中に空気が熱を
吸収することにより,空気が膨脹する。結合が達成された後,空気は冷却され,大
気圧よりも低くなる。」(段落【0037】)
(イ)上記(ア)aの記載によると,外側エンベロープの作製に当たって
は,ランプ容器とは別に円筒状のガラス管を準備し,このガラス管の一
部分を機械的に縮径することによって「小径部分」を形成するものであ
るとされている。このような作製方法によれば,外側エンベロープとラ
ンプ容器の頸状部とが互いに溶融して一体化するとは限らず,両者の間
には隙間が生じることになる。また,上記(ア)bも,外側エンベロープ
とランプ容器の頸状部との間に隙間があることを示唆している。
しかしながら,本願発明に係る上記(ア)aの記載は,作製方法の「好
適な例」の一つを示したものにすぎない。かえって,上記(ア)cの記載
によれば,「結合」を気密にする場合もあるものと認められ,「結合」
が一般に「結び合せて一つにすること。」(「広辞苑」第5版)を意味
することをも考慮すれば,本願発明において「小径部分により・・・頸
状部に結合され」とは,外側エンベロープの小径部分とランプ容器の頸
状部とが完全に一体化されている態様を排除するものではないと解する
のが相当である。
ウ以上のとおりであるから,本願発明の相違点cに係る構成において,外
側エンベロープが「ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有し」ていると
の点は,外側エンベロープは,その長手方向のいずれの部位においても断
面が円形であるが,その円形の径が他の部位よりも小さくなる部位(小径
部分)があることを意味すると解するべきである。また,「小径部分によ
り……ランプ容器の……頸状部に結合され」るとの点は,小径部分におい
てランプ容器の頸状部に一体的に結合される場合を含むものと解するのが
相当である。
(3)刊行物2につき
ア刊行物2の図面には,バルブ(bulb12)と外管(jacket14)を(甲5)
有するランプの構造が図示されており,この図示内容からすると,外管
は,両端に小径部分を有する,ほぼ円筒状のものであって,両端の小径部
分によって,バルブの互いに対向する頸状部(necks18,20)に一体化して
結合していることが認められる。
イ原告は,刊行物2のランプでは,①外管とバルブとが作製の当初から
完全に一体化されていること,②外管の「小径部分」を特定できず,小
径部分によりバルブの頸状部と結合しているということもできないこと,
を理由に,刊行物2には,外管(本願発明の「外側エンベロープ」に相当
する。)に小径部分を設け,その小径部分により外管をバルブ(同「ラン
プ容器」に相当)の頸状部と結合させることの開示も示唆もない旨主張す
る。
しかし,まず上記①については,本願発明にいう「結合」の態様には,
一体化したものが含まれていると解されることは上記(2)のとおりであ
り,しかも,結合の方法が限定されているとも解されないのであるから,
仮に,刊行物2のランプにおいて,外管とバルブとが当初から完全に一体
化されているものであるとしても,本願発明における「結合」と技術的意
義が異なるということはできない。
また,上記②については,刊行物2の
「外管14は,バルブ及び周囲環境との間に絶縁スペース16を設けるように,バルブ全
体を軸として配置されている。バルブの各端部は外管14と一体成形されていて,中
実の頸状部18及び20が外管内に位置し且つバルブから互いに正反対に延びてい
る。」(甲5の訳文)
との記載及び図示内容からすると,軸となるバルブの頸状部が外管内に位
置するのであるから,外管14が両端部においてバルブの頸状部18,20に接
続される部位は,バルブの一部分であると同時に外管14の一部分でもある
と解するのが相当であり,この部分を,外管15の「小径部分」として把握
できることは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4)刊行物6につき
ア刊行物6(甲11)には,下記の記載がある。

「……図1を参照すると,メタルハライド型の放電ランプ10が示されており,この放電
ランプ10は光透過性ガラス質材料,好ましくは石英からなる内側エンベロープ12を有
している。内側エンベロープ12は球根状中心部14とこの中心部14に一体的に設けられ
るとともに,この中心部14から互いに反対方向に延びている2つの管状部16および18
を有している。」(段落【0017】)
「内側エンベロープ12を取り囲んでガラス質材料,好ましくは石英の管状囲み部20が設
けられている。この囲み部20は内側エンベロープの中心部14の周りに設けられた拡大
した中心部22を有している。この拡大した中心部22から延びる2つの管状部24および26
が設けられ,この2つの管状部24および26はそれぞれ内側エンベロープの管状部16お
よび18を取り囲んでいる。また,石英の2つの円盤部材30および32が囲み部20を内側
エンベロープに接合している。更に詳細に説明されるように,これらの円盤部材30お
よび32は内側エンベロープの管状部16および18に一体化され,それぞれの外周部にお
いて囲み部の周囲領域に接合され,円盤部材と囲み部との間に真空環状密閉部33およ
び35を形成している。」(段落【0018】)
「……囲み部と内側エンベロープとの間の密閉部は簡単な短時間の加熱動作(図5)に
よって形成される。この加熱処理は熱で軟化した囲み部の領域を円盤状膨出部30およ
び32に高度の密閉部を形成するのに必要な短い距離へこませるものである。」(段落
【0038】)
イ刊行物6の上記記載からすると,囲み部20は,「管状」のものであるか
ら,「ほぼ円筒状」であるということもできる。そして,囲み部20は,そ
の長手方向の両端に近い部位において,円盤部材30,32に接合されている
が,この円盤部材30,32が内側エンベロープ12の管状部16,18と一体化さ
れているものであることからすると,囲み部20は,円盤部材30,32を介し
て,内側エンベロープ12の管状部16,18と結合しているということができ
る。
また,上記記載においては,囲み部20を,円盤部材30,32に接合してい
る領域において,「へこませる」ことも開示されており,図面に示された
ところも参酌すれば,この領域は「小径部分」であるということができ
る。
そうすると,刊行物6に記載された放電ランプの囲み部20は,「ほぼ円
筒状であるとともに小径部分を有し」,「小径部分により……ランプ容器
の……頸状部に結合され」ているものということができる。
ウ上記イの認定に反する原告の主張は,以下のとおり,いずれも採用する
ことができない。
(ア)原告は,刊行物6記載の放電ランプは,円盤状膨出部30,32を別途
設けることによって,囲み部20と内側エンベロープ12の管状部16,18と
を一体化したものであるから,本願発明の相違点cに係る構成とは異な
ると主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲の記載からすると,本願発明のラ
ンプ容器の「頸状部」は,「頸状」であること以外に格別の形態上の特
徴を有するものではないから,刊行物6記載の放電ランプにおいて内側
エンベロープの管状部に円盤状膨出部が形成されているとしても,これ
が本願発明における「ランプ容器」の「頸状部」に相当すると評価する
ことが妨げられるとはいえない。現に,本願発明においても,本願に係
る図面の図3の記載によれば,図の右側で外側エンベロープ50が(甲2)
ランプ容器1に結合される領域では,ランプ容器の頸状部3が膨出し′
「第2頸状部は同様な封じ部ている部位(3)があるが,段落【0037】には′
と記載されてによりほぼ完全に占められており,小さな管状部3のみを有する」′
いるところからすると,膨出した部位も,「頸状部」の一部分として扱
われているのである。
(イ)なお,原告は,上記「へこみ」について,審決は何ら言及していな
い旨主張する。
しかし,審決は,刊行物6の図1に関する説明(段落【0017】~
(審決の5頁最終段落)「外側【0018】)を引用した上で,刊行物6には,
エンベロープを有する放電ランプにおいて,外側エンベロープを結合させる方法とし
て,外側エンベロープに小径部分を設け,その小径部分によりランプ容器の頸状部に
結合すること」(審決の8頁最終段落~9頁第1が示されていると認定しており
,上記の図1からは,「へこみ」すなわち小径部分の存在が明ら段落)
かに看取できるのであるから,審決が「へこみ」について直接言及して
いないとしても,実質的にこれを考慮していることは明らかである。
(ウ)原告は,刊行物6(甲11)の図6に示された「密閉部100」は,か
なりの長手方向の長さを必要とするから,外側エンベロープが「ほぼ円
筒状であって小径部分を有し」ている本願発明の構成とは異なると主張
する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,小径部分の長手方向の長さ
が規定されているわけではないから,「密閉部100」が長いものである
としても,これが,本願発明の「小径部分」に相当することは明らかで
ある。
(5)上記認定したところによれば,刊行物2,刊行物6は,いずれも,外側
エンベロープを有する放電ランプにおいて,外側エンベロープに小径部分を
設け,その小径部分によりランプ容器の頸状部に結合することを開示してい
るということができる。そして,中でも,刊行物2は,本願出願の優先日
(平成4年(1992年)5月11日)より17年以上も前の1975年2月18日
(Feb.18,1975)に発行されたものであるから(甲5の右上の日付け),こ
れに記載された技術は,本件出願の優先日当時に周知のものであったと認め
られる。
そうすると,本願発明の相違点cに係る構成において,「外側エンベロー
プは,ほぼ円筒状であるとともに小径部分を有し」,「前記外側エンベロー
プがそのそれぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結合さ
れ」ていることは周知技術であり,引用発明において,かかる周知技術を採
用することに何の困難性もないといえる。したがって,審決が,本願発明の
相違点cに係る構成を採用することに格別な創意を要するものとは認められ
ないと判断したことに,誤りはない。
3結語
以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは理由がない。よっ
て,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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