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平成19年7月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成16年(ワ)第11546号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結の日平成19年4月24日
判決
原告有限会社日本システム設計
訴訟代理人弁護士後藤真孝
同後藤美穂
被告株式会社ケル・システム
訴訟代理人弁護士室谷和彦
主文
1被告は,グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver3.00,同ver5.24,同
ver5.40,同ver5.50,同ver5.60,同ver5.70を複製,販売してはならな
い。
2被告は,原告に対し,700万円及びこれに対する平成16年11月1
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告に対し,257万5000円及びこれに対する平成16年
4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の
負担とする。
6この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項,第3項に同旨
2被告は,原告に対し,1013万2005円及びこれに対する平成16年11
月11日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,①主位的に,グラブ浚渫施工管理システムに関
するプログラムを作成した者から,そのプログラムの著作権を譲り受けたとして,
同プログラムの著作権に基づき著作権法112条1項により,予備的に,上記プ
ログラム作成者・被告間の上記プログラムの複製販売の許諾契約に基づき,プロ
グラムの複製,販売の差止めを求め,②主位的に,上記プログラム作成者から債
権譲渡された上記プログラムの著作権侵害による損害賠償を求め,予備的に,上
記複製販売許諾契約に基づき,上記プログラム作成者から債権譲渡された上記プ
ログラムの複製,販売の許諾料の支払を求め,③別のソフトについて,原告・被
告間のソフトの開発ないし改造等の請負契約に基づき,未払代金の支払を求めた
事案である。
第3前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。証拠の枝番
は省略することがある。)
1当事者等
(1)原告
原告は,主としてコンピュータソフトの開発,販売,リース等を業とする会
社で,代表取締役はA(以下「A」という。)であり,平成15年6月26日
に設立された。原告が設立される以前は,Aが個人で「日本システム設計」と
いう屋号でコンピュータソフトの開発等を行っていた。
(2)被告
被告は,業務用ナビゲーションシステムの開発,製造,販売,リース等を業
とする会社で,現在の代表取締役はB(以下「B」という。)であり,平成1
2年8月16日に有限会社として設立された後,株式会社となった。
(3)株式会社橘高工学研究所(以下「橘高工学」という。)
橘高工学は,業務用ナビゲーションシステムの開発,製造,販売,リース等
を業とし,Bが代表取締役を務める会社であった。
橘高工学は,平成12年5月22日に1回目の不渡りを出し,同月25日に
2回目の不渡りを出して,同年6月15日午後0時,大阪地方裁判所において
破産宣告を受けた。(不渡りを出した日付については乙54)
なお,Bも,同年7月6日午前10時50分,奈良地方裁判所葛城支部にお
いて破産宣告を受けた。
2船体位置決めシステム及びグラブ浚渫施工管理システムの開発経過
(1)船体位置決めシステム(LAHシリーズ・LAH-Ⅱ等)の開発
ア船体位置決めシステムの内容
橘高工学と国土総合建設株式会社(以下「国土総合建設」という。)は,
昭和61年ころから平成元年ころにかけて,「自動追尾方式の光波距離計測
装置」及び「船台位置決め方法」に関する技術を開発し,同技術に係る発明
について4件の特許出願をした。(乙12ないし14,21)
当時の船体位置決めシステムは,上記の「自動追尾方式の光波距離計測装
置」及び「船台位置決め方法」に関する技術を用いて,作業船の位置(座標
等の数値で表される。)を測定,算出するシステムであった。その方法は,
まず,作業船に設置された光波距離計測装置における2台の自動追尾光波距
離計を用いて,船体の位置を計算するのに必要な距離や水平角のデータを求
め,次に,同各データが作業船内のコンピュータに送付され,「船台位置決
め方法」により,上記の送付されたデータを作業船内のコンピュータで位置
演算処理をして,船体位置を計算するものであった。各データと演算処理さ
れた結果は,それぞれ座標の数字及び座標上の位置図として,作業船内のコ
ンピュータの画面ディスプレイに表示された。(乙54)
イ船体位置決めシステムに関するプログラム
(ア)船体位置決めプログラムN88BASIC版
Aは,橘高工学から依頼を受けて,昭和63年10月20日ころ,船体
位置決めシステムのアプリケーションソフト(マンマシンソフト)である
(甲15はその画面のハード船体位置決めプログラムver1.0N88BASIC版
コピーの一部,甲25はそのソースプログラム。以下「位置決めプログラ
ムNB版」という。)を作成した。同プログラムは,自動追尾光波距離計
測装置から送信されたデータによる位置演算処理,作業環境の設定,船体
位置を数値及び図で表示するものであった。(乙22,54)
(イ)橘高工学におけるプログラムの追加変更
橘高工学従業員C(以下「C」という。)は,昭和63年11月以降,
位置決めプログラムNB版に数回にわたり追加変更を加えた(ver1.5,
ver1.5b,ver1.6。)。同追加変更にAは関与していない。(乙23,2
4,31の2)
(ウ)船体位置決めプログラムQuickBASIC版
Cは,平成元年5月ころ,位置決めプログラムNB版について,その言
語をN88BASICからQuickBASICに書き換え,内容の一部を修正する作業
を行い,(LAH-ver2.0以降。乙船体位置決めプログラムQuickBASIC版
23はその画面のハードコピー,乙24はそのソースプログラムの一部。
以下「位置決めプログラムQB版」といい,位置決めプログラムNB版と併
せて「位置決めプログラム」という。)を作成した。同プログラムの作成
にAは関与していない。(原告代表者8ページ,乙31の2)
ウ船体位置決めシステムの納品
橘高工学は,平成元年4月,位置決めプログラムNB版(ただしCが変更
を加えた後のもの)を搭載した船体位置決めシステム(光波測距システム1
号機・LAHシリーズ)を国土総合建設に納品し,同年6月,位置決めプログ
ラムQB版がインストールされた船体位置決めシステム(LAHシリーズ)を
大石建設に納品した。(乙32,54)
なお,船体位置決めシステムは,そのプログラム部分も含めて,平成2年
6月29日に運輸大臣(当時)による評価証を受けている。(乙22)
エ著作物性
位置決めプログラムは著作物である。(争いがない)
(2)グラブ浚渫施工管理システムの開発(LAHシリーズ・LAH-V等)
アグラブ浚渫施工管理システムの内容
平成2年に開発されたグラブ浚渫施工管理システムは,グラブ浚渫船の船
体位置決めと堀跡管理の機能を有するものであった。
グラブ浚渫船は,グラブバケットによって水底土砂をつかみ揚げ,自船の
泥倉又は舷側に接舷した土運船に積載する浚渫作業船である(乙16)。堀
跡管理機能とは,浚渫船が行った作業(水底土砂の掘削)の状況(位置,範
囲,深さ等)を正確に把握して作業状況を管理する機能である。
当時のグラブ浚渫施工管理システムに組み込まれていた船体位置決めシス
テムは,従来の船体位置決めシステムにあった2台の自動追尾光波距離計に
よるデータ収集に加え,重機に備え付けられた旋回角計,ジブ角計,深度計
のセンサーからのデータの取込みが可能となり,あらかじめ入力された船体
の寸法に基づいて演算処理をして,船体の位置情報及びグラブバケットの位
置情報を計算し,これらを画面ディスプレイにリアルタイムで表示するもの
であった。
当時のグラブ浚渫施工管理システムのうちの堀跡管理システムは,上記の
船体位置決めシステムに,潮位データ等を取込み,堀跡指示用データ入力装
置を付加して堀跡の演算処理を行い,画面ディスプレイに平面図での1工区
ごとの浚渫堀跡深さ等(工区データ,仕掛りデータ,出来高データ等)を表
示するものであった。(乙17)
なお,平成3年に,重機に関する情報(旋回角,ジブ角,深度)について,
重機に取り付けたセンサーからデータ送信されていたものが,シリアル通信
(RS232c)により信号として重機から直接受けることができるようになった。
(乙54)
イグラブ浚渫施工管理システムに関するプログラム
橘高工学は,Aにグラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムの作成
グラブ浚渫施工管理プログラムを発注し,Aは,平成2年11月ころ,
(甲17〔LAH-Vver1.0,平成2年11月ころのバver1.00MS-DOSC言語版
ージョン〕,甲18〔LAH-Vver2.0,平成3年1月ころのバージョン〕はい
ずれもその画面のハードコピーの一部。後述するとおり,システムを設置す
る作業船によってプログラムの名称は異なるが,以下「GDX等」という。)
を完成させた。
ウグラブ浚渫施工管理システムの納品
橘高工学は,平成2年11月,GDX等がインストールされたグラブ浚渫施
工管理システム(LAH-V)を青木組に納品した。(乙32)
(3)GPS装置付きグラブ浚渫施工管理システム(NAV-LAHシリーズ)の開発
アGPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムの内容
平成8年,位置決め機能にGPS装置が追加され,船体位置決めの方法は,
自動追尾光波距離計とGPS装置のいずれかを選択できるようになった。GPS
装置は,GPS受信ボードとCPU演算装置を用いてリアル・タイム・キネマテ
ィック(RTK)演算を行い,アンテナの位置をX,Y座標で表現し,シリア
ル通信(RS232c)により出力するものであった。
イGPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムに関するプログラム(GNX及び
G1XシリーズMS-DOSC言語版)
(ア)Aは,平成8年8月ころ,橘高工学の依頼を受けて,GPS装置からの
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムGNXMS-DOS通信処理を追加した
を作成した(以下「GNX」という。当初の名称はGNXであり,平C言語版
成9年5月以降はG1Xシリーズ〔初期バージョンはG1Xver1.1〕とされた。
甲14,44)。
(イ)GPS処理(入力部分,演算部分,出力部分)のうちの演算部分は,
「RtGps3.dll」という名前のダイナミック・リンケージ・ライブラリ
(DLL,動的リンク専用のライブラリ)を始めとするWayPoint社が作成し
たGPS処理システムソフトのプログラムないしモジュールが用いられてい
た。(甲10,12,乙7)
GPS対応グラブ浚渫施工管理(ウ)Aは,平成9年5月,喫水計を追加した
(以下「G1Xver1.20」という。)プログラムG1Xver1.20MS-DOSC言語版
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムを完成させ,平成11年5月,
(乙46の1はそのソースプログラム。以下G1Xver2.00MS-DOSC言語版
「G1Xver2.00」といい,他のG1Xについても同様にバージョン名でいう。
また,GDX等,GNX,G1Xver1.1からG1Xver2.00までを併せて「G1XMS-DOS
版」という。)にバージョンアップした。上記の各プログラムは,マルチ
タスク・リアルタイム・モニター(乙46の2はG1Xver2.00に使用され
ているRTMのソースプログラムの一部〔ヘッダーファイル「rtm.h」。以
下「RTM」という。〕。原告代表者25ページ)のもとで作動するもので
あった。
(エ)RTMは,Aが平成5年に独自に開発した一種のOSであり,そのプロ
グラムの著作権はAに帰属する(争いがない)。
ウシステムの納品
橘高工学は,平成8年から平成11年まで,G1XMS-DOS版をグラブ浚渫施
工管理システム(NAV-LAH)にインストールして販売していた。
エ著作物性
G1XMS-DOS版は,位置決めプログラムを前提とするプログラムであるが,
その創作性については,後述するとおり,争いがある。
(4)プログラムの開発(G1WWindowsVisualBasic版)
Aは,平成10年ないし11年ころ,G1XMS-DOS版をWindows版に変更した
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1WWindowsVisualプログラムである
(乙33はその画面の一部。以下「G1W」という。)を作成した(時Basic版
期については被告代表者38,39ページ,甲40の52ページ,乙55の4,
平成17年2月3日付け原告の第2回準備書面9ページ参照)。
同プログラムでは,GPSの演算処理と位置決めプログラムが別々のCPUで演
算処理されていたものを組込型CPU装置を用いて1つのCPUで処理されるよう
修正された。また,GPSのRTK演算に新方式のGPAD(GPSPositionand
AzimuthDetermination)演算を用いることとし,船体位置決め・堀跡管理の
演算を一体とした。
G1Wはソナー装置に対応するように開発されていなかった。ソナー装置は,
超音波発信器と演算装置からなり,海底の形状を超音波の反射により解析する
装置である。(弁論の全趣旨)
(5)プログラムの開発(G1XWindowsVisualC++版)
アG1Xver3.00(WindowsVisualC++版)
(ア)Bは,平成12年1月,Aに対し,堀松建設工業株式会社(以下「堀
松建設」という。)に納品するNAV-LAHⅢに用いるグラブ浚渫施工管理シ
ステムのプログラム(第16堀松号〔あるいは「第16堀松丸」。いずれ
の名称が正しいかは記録上不明であるため,本判決ではとりあえず「第1
6堀松号」という。〕に設置されている新型ソナー装置に対応するもの)
の作成を発注した。
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver3.00Windows(イ)Aは,
(甲36は平成12年7月時点でのソースプログラム,乙4VisualC++版
1,42はその画面の一部。乙50は同年4月時点での取扱説明書。G1X
のWindowsVisualC++版の初期バージョンである。以下「G1Xver3.00」と
いう。)を少なくとも同月ころまで作成し(完成の時期については争いが
ある。),G1Xver3.00は,同月,第16堀松号に設置するNAV-LAHⅢの
GPS受信演算装置にいったんインストールされ,同装置は第16堀松号に
設置されたが,第16堀松号のNAV-LAHⅢのオプションであるソナー計測
装置に不具合があり,調整が必要となった。(乙39,42ないし44)
(ウ)同年6月,橘高工学が破産宣告を受けたため,Aは,重機メーカーで
ある「四国建機SKK」(堀松建設のグラブ浚渫船の発注先であり,うち
グラブ浚渫施工管理システムNAV-LAHⅢについては,橘高工学から日立造
船等を介して四国建機SKKに納品されている。以下「SKK」とい
う。)から依頼を受けて,G1Xver3.00についてソナーに関する調整,潮
位データの平均化の調整を行い,同年7月に同作業を終了した。Aは,S
KKから開発費等として335万円の支払を受けた。(甲33)
イG1Xver3.00のバージョンアップ
Aは,被告から,G1Xver3.00のバージョンアップを依頼され,次の各プ
ログラムを作成した(これらのプログラムの各バージョン情報画面は甲8の
とおりである。以下,G1Xver3.0に下記の各プログラムを併せて「本件プロ
グラム」という。また,位置決めプログラム,G1XMS-DOS版,G1Wを併せて
「本件前プログラム」という。)。本件プログラムは,いずれもバージョン
による細かな違いはあるものの,著作物としては同一のプログラムである。
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver5.24Windows(ア)
(以下「G1Xver5.24」という。)VisualC++版
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver5.40Windows(イ)
(甲19はそのソースプログラムの一部〔G1xLan.cpp〕。以VisualC++版
下「G1Xver5.40」という。)
G1Xver5.40は,「現在の潮位データをDOボードに転送させる。」よう
にバージョンアップされている(甲13)。
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver5.50Windows(ウ)
(甲20,乙18,乙47の1・2はそのソースプログラムVisualC++版
の一部。以下「G1Xver5.50」という。)
G1Xver5.50は,「転船時,船体表示モードを追加」するようにバージ
ョンアップされている(甲13)。平成15年2月ころから3月ころ,サ
ハリンのホルムスク港において西村組のグラブ浚渫船に残されていたソー
スプログラムは同バージョンである。(甲13,22,44)
GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver5.60Windows(エ)
(甲21はそのソースプログラムの一部〔G1xLan.cpp〕。以VisualC++版
下「G1Xver5.60」という。)
G1Xver5.60は,「GPS(NovatelRT2)タイプに対応」するようバージョ
ンアップされている(甲13)。
GPS対応(オ)
(以下グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver5.70WindowsVisualC++版
「G1Xver5.70」という。)
G1Xver5.70は,「ジブ角度計と旋回角度計のエンコーダーが異なるタ
イプに対応」,「ジブ角度系と旋回角度計のエンコーダーの12ビット,
10ビットの2種類に対応」する機能を追加したもので,平成15年7月
ころに修正された(甲13)。
ウ著作物性
本件プログラムは,少なくともG1XMS-DOS版を前提とするプログラムで
あるが,その創作性については,後述するとおり,争いがある。
3金銭の授受
(1)橘高工学は,受取人をAとして,次のとおり約束手形を振り出した(以下,
下記表の一番左側の欄の丸数字により,例えば同欄①の手形を「本件手形①」
のようにいい,これらを併せて「本件各手形」という。)。
振出日満期日額面手形番号証拠バック
①H12.1.20H12.4.25170万円GE2607乙4049万円
②H12.1.20H12.4.25200万円GE2608乙40200万円
③H12.2.21H12.5.25250万円HB03314甲5の1250万円
④H12.2.21H12.5.25130万円HB03315甲5の2100万円
⑤H12.3.21H12.6.25150万円HB03378甲5の335万円
⑥H12.4.20H12.7.25200万円HB03407甲5の4100万円
(2)本件各手形の手形金の支払
ア「バック」について
橘高工学のAに対する支払は,主として手形により行われていたが,橘高
工学は,手形金の一部について,いわゆる「バック」ないし「キックバッ
ク」として,Aが割引を受けて受領した手形金について,Aから橘高工学に
払い戻させていた。
イ本件各手形
本件各手形については,前記(1)の表の「バック」欄記載の各金額につい
て,Aは,橘高工学に対し,「バック」させられている。
ウ不渡り
本件手形③ないし⑥は不渡りとなった。
4本件プログラムの複製販売
被告は,本件プログラムについて20の複製をして,グラブ浚渫施工管理シス
テムにインストールし,平成12年11月から平成16年3月まで,別紙1のと
おり,取引先に販売し納品した。
5権利の譲渡等
(1)橘高工学から被告への譲渡
ア特許権及び什器備品等
橘高工学の破産宣告後,被告は,橘高工学の破産管財人弁護士谷口由記か
ら,橘高工学が有していた特許権,サーバ,什器備品を譲り受けた。同サー
バ内には,G1XMS-DOS版の一部のプログラムが保存されていた。(乙9,1
0,54,58)
イ著作権
橘高工学の破産宣告後,同社に帰属していた著作権が第三者に譲渡された
ことはない。
(2)Aから原告への譲渡
ア著作権
Aは,遅くとも平成18年5月までに,本件プログラムの著作権(ただし,
著作権の有無・帰属については争いがある。)を原告に譲渡した。(甲39
の1)
イ著作権侵害に基づく損害賠償債権
Aは,遅くとも平成18年5月までに,上記4の本件プログラムの複製に
関して,本件プログラムの著作権侵害による損害賠償債権(ただし,債権の
存否については争いがある。)を原告に譲渡し,同年8月19日,上記の譲
渡について被告に通知した。(甲39の1・2)
ウ契約に基づく複製許諾料債権
Aは,遅くとも平成18年5月までに,上記4の本件プログラムの複製に
関し,契約に基づく複製許諾料債権(ただし,債権の存否については争いが
ある。)を原告に譲渡し,平成19年3月29日,上記の譲渡について被告
に通知した。(甲48の1・2)
6ソフト開発・改造契約に基づく請求に関する事実
(1)ソフト開発・改造契約の成立(以下,次の各契約を併せて「本件ソフト開
発・改造契約」という。)
ア原告は,被告との間で,平成15年8月ころ,ポンプ浚渫ソフトPIX一式
を代金210万円で開発する契約をし,同月25日ころ,上記ソフト一式を
完成させて被告に対して引き渡した。
イ原告は,被告との間で,平成15年10月ころ,福丸建設のG1Xを代金3
1万5000円で改造する契約をし,同月10日ころ完成させて被告に引き
渡した。
ウ原告は,被告との間で,平成15年12月ころ,吉田組のIPXバージョン
アップと現地調整を代金115万5000円でする契約を締結し,同月31
日ころ,バージョンアップを完成させて被告に引き渡し,現地調整を行った。
被告は,原告に対し,上記代金のうち110万円を支払った。
エ原告は,被告との間で,平成16年3月ころ,13福丸建設,大和(山
陽)のGPAD(世界測地系)のソフト(GPADver4.0及びGPADver4.1s。以下
「本件GPADver4ソフト」という。)を代金10万5000円で開発する契
約をし(以下「本件GPADver4開発契約」という。),同月20日ころ,被
告に引き渡した。
(2)相殺1に関する事実
ア被告は,平成14年5月ころ,Aに対し,森長組向けに,橘高工学時代に
作成された斜杭打設管理システムのソフト(ver1.0,MS-DOSC言語版。以下
「本件斜杭打設管理ソフト」という。)のWindowsVisualC++版を作成する
よう依頼し(以下「本件斜杭打設管理ソフト変更契約」という。),Aは,
外注費を受領して,本件斜杭打設管理ソフトのWindowsVisualC++版を完成
させた。(甲1の14,甲2の4,甲3)
イ原告は,斜杭打設管理システムソフトを株式会社アムテックスを介して古
野電気株式会社(以下「古野電気」という。)に納品し,古野電気は,同ソ
フトをインストールした斜杭打設管理システムを,平成15年11月30日,
大旺造機に納品し,同システムは,中国籍の「寧波海力801」という船に
設置された。
ウ被告は,平成19年4月24日の第3回口頭弁論期日において,原告の被
告に対する本件ソフト開発・改造契約に基づく代金債権と被告の原告に対す
る後記第5の11(1)記載の損害賠償債権とを対当額で相殺する旨の意思表
示をした。
(3)相殺2に関する事実
ア原告は,平成16年5月ないし6月,被告の取引先25社に対し,別紙2
の文書(乙5,6。以下,乙5の文書を「乙5文書」,乙6の文書を「乙6
文書」といい,これらを併せて「本件送付文書」という。)をファックスな
いし内容証明郵便等により送付した。
イ被告は,平成19年4月24日の第3回口頭弁論期日において,原告の被
告に対する本件ソフト開発・改造契約に基づく代金債権と被告の原告に対す
る後記第5の12(1)記載の損害賠償債権とを対当額で相殺する旨の意思表
示をした。
第4争点
1著作権に基づく請求
(1)本件プログラムの創作性の有無
(2)本件プログラムの著作権の帰属
(3)G1XMS-DOS版の創作性の有無
(4)本件前プログラムの著作権の帰属
(5)著作権の権利主張についての対抗要件の要否
(6)著作権に基づく差止請求についての侵害のおそれの有無
(7)著作権侵害についての被告の故意過失の有無
(8)著作権侵害による損害発生の有無及びその数額
2複製許諾契約に基づく請求
本件プログラムについての複製許諾契約の有無
3本件ソフト開発・改造契約に基づく請求
(1)本件GPADver4開発契約に基づく代金の支払拒絶の可否
(2)相殺1の成否
(3)相殺2の成否
第5争点に関する当事者の主張
1本件プログラムの創作性の有無(前記第4の1(1)の争点)
(1)原告の主張
ア言語及びOSの変更
本件プログラムは,G1XMS-DOS版を前提としているが,OSもMS-DOSと
Windowsとで異なり,言語もC言語とVisualC++とで異なるので,創作性が
ある。
イ機能の追加等
次の機能が追加され,本件プログラムのソースプログラムのコーディング
文字数を単純に比較しても,本件プログラムは,G1XMS-DOS版の5倍以上に
増加している(甲24)。
1)GPSデータの取込みの選択
G1XMS-DOS版では,RTKにより国家座標に変換する装置からの取込みは,
RS232C通信による外部からの取込みのみであったが,本件プログラムで
は,それに加えてGPAD(GPS処理システム)による取込みを選択できるよ
うになった。
2)光波計システムとGPSシステムの共用
G1XMS-DOS版では,光波計システムとGPSシステムのいずれか1つしか
使用できなかったが,本件プログラムでは,両システムの共用が可能とな
った。
3)RTMに相当する部分の関数
G1XMS-DOS版では,RTM(Windows自体には対応していない。)がその
機能を担っていたマンマシン・インターフェイスを担う関数を,本件プロ
グラムで新たに構築する必要があり,これを構築した。
ウ新たに可能となった処理
次の処理が,G1XMS-DOS版では不可能又は困難であったが,本件プログラ
ムでは可能となった。
①マウス操作による施工実績データのエクセル等のシステムへの転送,統
計等の資料作成
G1XMS-DOS版では,施工実績データの解析や統計等の処理をするのに別
のソフトを組む必要があったが,本件プログラムでは,施工データ自体を
そのままエクセルなどのシステムにコピーでき,エクセル等において施工
実績データの解析や統計等の処理が可能である。これはWindows上で動作
していれば自動的に備わるものではなく,Windows版のG1Xに必要なAPI
関数を作動させるようにプログラミングすることにより初めて可能となる
ものである。
②ソナー装置のデータからの鳥瞰図の表示,施工実績データからの鳥瞰図
の疑似的表示
G1XMS-DOS版では,データから鳥瞰図を表示することができなかったが,
本件プログラムでは可能となった。鳥瞰図の態様は,創作者の個性が現れ
るものであり,いかなるプログラマーが作成しても乙48の23ページの
ようになるわけではない。
本件プログラムの鳥瞰図は,a)任意に設定した深度範囲の色テーブルで
描画され,b)マウスを描画された鳥瞰図の任意の位置に移動させると,そ
の位置のローカル座標と深度が表示され,堀残し位置が特定でき,c)魚礁
設置等での活用や実際の施工運用で有能な機能があること等に特徴がある。
d)鳥瞰図のデザイン,大きさ,縮尺,色等もAが機能性や見やすさをふま
えて独自に設定したものである。e)目標座標の設定,視点の位置(方位角,
仰角,斜距離の要素),拡大縮小及び前記b)は,鳥瞰図のプログラムで
あれば当然に付随するものではなく,Aが鳥瞰図のプログラムを有用にす
るために付けた機能である。f)最も特徴的であるのは,本件プログラムで
は,ソナー装置がなくても,擬似的に鳥瞰図を作成できることである。
陰線処理等のプログラム設計はソフト技術者ごとに手法が異なるもので,
難易度の高いソースを記述する必要にせまられる。一般化している機能で
あっても,難易度が高く,技術者ごとに手法が異なる処理プログラムの設
計の場合は個々の技術者の個性が生かされるので創作性はある。
③潮位データの印刷
④カラー印刷での画面ハードコピー
G1XMS-DOS版では,カラー印刷はできなかったが,本件プログラムでは,
カラー印刷をするためのプログラムを追加した。G1XMS-DOS版のメイン画
面のハードコピー印刷は,画面の背景色を濃紺で作成しているためそのま
までは印刷が見づらいので,画面印刷時には,背景色等変更して印刷を見
やすくしている。
⑤現在の工区別施工データ件数の表示
⑥操船室からの重機室のコンピュータ電源,システム再起動操作
G1XMS-DOS版では操船室から重機室のコンピュータの電源,システム再
起動操作はできなかったが,本件プログラムでは可能となった。グラブ浚
渫施工管理プログラムは,操船側と重機側がセットで使用されるもので通
信回線でつながれているところ,コンピュータ操作は,通常操船側から重
機側のコンピュータの電源も遠隔操作しなければならず,ソフトの入替も
操船側から重機側に転送し再起動操作も可能である。
エまとめ
本件プログラムは,上記のとおり,G1XMS-DOS版とは異なる独自の創作性
があり,本件前プログラム(主としてG1XMS-DOS版)とは同一の著作物で
はない。
(2)被告の主張
ア言語及びOSの変更
(ア)本件プログラムに独自の創作性はなくG1Xver2.00及びG1Wを修正し
て作成したものにすぎず,実質的にはその複製である。G1WはG1XMS-DOS
版をWindows版にしたものにすぎないし,G1Xver3.00は,G1Wを前提に,
G1Xver2.00をMS-DOSC言語版からWindowsVisualC++版にしたものにすぎ
ず,コーディングにある程度の時間はかかったとしても創作行為はない。
したがって,本件プログラムが(二次的)著作物となることはない。
(イ)原告は,本件プログラムは,G1XMS-DOS版とは,OSがMS-DOSと
Windowsとで異なり,プログラム言語もC言語とVisualC++とで異なるの
で,創作性が認められると主張する。
しかし,MS-DOS対応C言語からWindows対応VisualC++言語への変更に
必要となる作業は,Ⅰ)画面リソースの構築,Ⅱ)ボタン,メニュー,入
力項目イベントの記述,Ⅲ)Windowsでのグラフィック表現をするための
手続追加,Ⅳ)文法上の制約による文法の記述の変更であるが,いずれも
創作性を伴うようなものではない。
Ⅰ)は,G1Xver2.00と同ver3.00では基本的に画面表示形式は同じで
あり,Ⅱ)は,Windowsに対応して入力方法が変わることによるボタン,
メニュー,入力項目のイベントの記述であるからプログラマーの個性が問
題となるものではない。Ⅲ)はWindowsに対応させるための作業にすぎず,
Ⅳ)は,文法が異なる部分を修正するだけでプログラマーの個性が反映さ
れるものではない。
なお,C言語をVisualC++に変更するにあたって,基本的なモジュール
はそのままコピーして使用できる。したがって,MS-DOS対応C言語から
Windows対応VisualC++言語への変更により,新たな創作性が生じること
はない。
イ機能の追加等
原告は,前記(1)イ3)において,本件プログラムでは,G1XMS-DOS版にお
いてRTMがその機能を担っていたマンマシン・インターフェイスを担う関数
に特徴があると主張する。
しかし,原告の主張する関数は,RTMを用いる前から用いていたものであ
るから,Windows版に対応するように記述したからといって何らの創作性が
生じるものではない。
ウ新たに可能となった処理
前記(1)ウにおいて原告が主張する機能の追加は,WindowsというOSを用
いることで付加された機能であり,Aが創作して付加した機能ではない。
(ア)前記(1)ウ①について(エクセルデータへの変換)
エクセルデータへの変換のプログラム(甲36の3の「G1x.cpp」の25
ページ下から1行目から27ページ下から15行目まで)は,Windowsのも
とでは極めてありふれたプログラムで創作性はない。
G1Xver3.00のデータをエクセルデータに変換するには,Ⅰ)
G1Xver3.00からデータを切り取り,クリップボードにコピーして貼り付
け,Ⅱ)クリップボードからデータを切り取り,エクセルにコピーして貼
り付ける。逆に,Ⅲ)エクセルデータをG1Xver3.00に変換する場合も,
エクセルからデータを切り取り,クリップボードへコピーして貼り付け,
クリップボードからデータを切り取り,G1Xver3.00へのコピーして貼り
付ける。
Ⅰ)のうちG1Xver3.00のデータの「切り取り」「コピー」は,マイク
ロソフトの機能部品MSFlexGridを用い,クリップボードへの「貼り付
け」は,MSFlexGridの機能GetClipを用いる。Ⅱ)のうち,クリップボ
ードからのデータの切り取りは,マイクロソフトの関数GetClipBoardに
よりG1Xver3.00の内部変数に保存し,クリップボードとエクセル間の相
互のコピーはエクセルの機能によるもので,G1Xver3.00の機能ではない。
Ⅲ)のうち,データのG1Xver3.00への貼り付けは,MSFlexGridのセルに
順次貼り付ける。
これらの作業は,プログラマーであれば誰でも同様の処理をするもので
個性が表れるものではない。
(イ)同②について(鳥瞰図表示)
鳥瞰図表示のプログラム(甲36の3のG1xChokan.cpp)について,原
告が創作性を主張する鳥瞰図の表示(乙50の23ページ)は極めてあり
ふれたもので創作性はない。視点を移動できる点についても,平行移動,
回転には行列計算を用いるが,これは数学上当然のものであり,プログラ
ムとして目新しいものではない。陰線処理は,Zバッファ法(視点から物
体への距離〔Z値〕について遠い〔Z値が大きい〕方から表示していくこ
とにより,遠くの物体は近くの物体によって塗り替えられ立体感のある絵
になるというもの)が用いられているが,当時でも鳥瞰図作成によく用い
られたありふれたものである。
(ウ)同④について(カラー印刷)
G1Xver3.00にカラー印刷の機能はなく,フリーソフトのWincap95を使
用していた。
G1Xver5.50においてカラー印刷の機能は追加されたが(乙47の1の
G1x.cppの31ないし34ページ),次のとおり,他人が作成した公開ソフ
トをコピーして使用している可能性が高い。
すなわち,Ⅰ)Aは,プログラミングにおいてほとんどコメントを入れ
ないが,カラー印刷モジュールでは多数のコメントが入っており,Aの記
述スタイルとは異なる。Ⅱ)カラー印刷モジュール34ページ5行目には,
「すべてのケースでGetD1Bitsを使用する(1998.11.13)」という記載が
あるが,Aが作成していたとすれば,その時期は平成12年1月ないし4
月であるはずである。Ⅲ)カラー印刷モジュール34ページ8行目には
「Win95/98では主にこちらを使用する」との記載があるが,橘高工学で
は,Win95/98のOSを使用したことはない。
画面上に表示されたカラー表示をそのままカラー印刷するためのプログ
ラムは従来から存する極めてありふれたもので,何ら創作性はない。
(エ)同⑥について(電源,再起動操作)
他のコンピュータからの電源,再起動操作は,Windowsが有する機能で
あり,原告が独自に作成したものではない。電源・再起動操作のプログラ
ム(甲36の3の「G1xExit.cpp」2ページ14行目ないし4ページ)と同
じ記述がインターネット上でマイクロソフトのウェブサイトのMSDNライ
ブラリの「DisplayingShutdownDialogBox」(乙53)に公開されてい
る。相違点は,「returnFALSE」が「AfxMessageBox」に変更されている
点だけである。したがって,Aは,MSDNライブラリ内のプログラムをコ
ピーしたにすぎない。
2本件プログラムの著作権の帰属(前記第4の1(2)の争点)
(1)原告の主張
アソースプログラムの保有・管理
(ア)ソースプログラムの保有
Aは,本件プログラムのソースプログラムを橘高工学に提出したことは
ない。
もっとも,G1Xver5.50(G1XLan.cpp,甲20)については,Aが,平
成15年2月,被告の注文によりサハリンのホルムスク港において西村組
のグラブ浚渫船にプログラムを納入した際,海外であり不具合等の場合に
早急に対応をとる必要上,例外的にソースプログラムを西村組のグラブ浚
渫船に限り残したところ,被告は,A及び原告に無断でこれを入手した
(乙18は甲20とまったく同じである。乙47の1・2)。
(イ)被告の主張について
被告は,Aが本件プログラムのソースプログラムを開示しなかったのは,
被告がAないし原告に対し,バージョンアップや修補を専属的に依頼した
ので,特に必要がなかったからであると主張する。
しかし,仮に橘高工学に著作権が帰属していたのであれば,被告は,橘
高工学から著作権の移転を受ける機会を有していたにもかかわらず,移転
を受けなかったのであり,この事実自体が,Aに著作権が帰属していたこ
とを認めていたことを示唆するものである。
イ対価の支払の有無
(ア)開発費・著作権譲渡の対価の支払の有無
Aは,G1Xver3.00の開発や著作権の譲渡の対価として,橘高工学から
開発費,修正費その他いかなる名目による金銭も受領していない。
(イ)被告の主張について
被告は,橘高工学が平成12年1月にAに対し,新型ソナーに対応する
第16堀松号用のプログラム(G1Xver3.00)を発注した際,仮払金を支払
ったとか,外注加工費の仮払の支払約束があったと主張する。
しかし,本件各手形については「バック」させられているし,本件手形
③ないし⑥はすべて不渡りとなっており,結局本件各手形のうち,現実に
Aに支払われたのは本件手形①のバック分(170万円のうち上乗せ分7
0万円の7割である49万円)を除く121万円のみである。
しかも,Aは,G1Xver3.00の発注を受けたのと同じ日に,橘高工学か
ら,G1Wにソナー処理を付け足す改造依頼も受けており(改造費は未定),
その他にも,当時(平成12年1月ないし4月ころ),複数のシステム開
発やシステムの現地調整の受注をしていたので,手形により支払予定であ
った金銭もG1Xver3.00の対価であると定まっていたわけではない。むし
ろ,Aとしては,平成11年に受注した本間組向け捨石均しシステムの現
地調整費(交通費も含め109万円相当で作業は平成12年5月まで続い
ていた。)やフジタ向け水中打設システムの開発(新規システム開発費3
50万円相当)の開発費として支払われたものと認識している。
ウ各人の行動・認識
(ア)橘高工学の行動・認識
橘高工学の破産申立ての段階においても,宣告後の管財業務の段階にお
いても,橘高工学に本件プログラムの著作権が帰属していたとの指摘はな
く,橘高工学の破産管財人は,本件プログラムの著作権を処分したことが
なく,橘高工学の財産として本件プログラムの著作権が存在するとの認識
はなかった。
(イ)被告の行動・認識
被告は,橘高工学の破産宣告後,Aに対し,橘高工学時代と同様の取引
を継続したい旨を申し出て取引を開始したが,その際,後記のとおり,本
件プログラム等についてソフト複製販売許諾契約を締結し,被告が納入先
の顧客をAに報告し,Aが納品請求書を送付して,プログラム複製1セッ
トにつき50万円の支払を受けていた。このように,被告は,本件訴訟提
起まで,Aに本件プログラムの著作権が帰属することを前提とする行動を
してきた。
被告は,金銭の支払は橘高工学のAに対する損害の補償であると主張す
るが,Aの橘高工学に対する債権は,橘高工学の破産手続の終了により法
律的に行使できなくなったので,損害補償をする必要性はないはずであり,
にもかかわらず,損害補償的な意味も込めてAと取引を継続する必要があ
ったのは,Aに本件プログラムの著作権が帰属し,それを利用する必要が
あったからである。メール(乙3)も複製許諾契約の存在を前提とするも
のである。
(ウ)Aの行動・認識
被告は,Aが,平成16年4月までは,橘高工学ないし被告に対し,著
作権者である旨の主張をしたことはない,橘高工学破産管財人に対して,
自己に著作権が帰属するとして取戻権を行使したことはないと主張するが,
それまでは橘高工学ないし被告から本件プログラムの開発及び利用に対す
る対価を受けており,Aにとっては著作権侵害の事実がなかったので,あ
えて著作権の権利行使をする必要がなかったのである。
なお,Aは,平成12年8月ころ,SKKの他にも,佐賀県の大潮建設
にG1Xver3.00を日本測器株式会社(以下「日本測器」という。)を経由
して販売している。
エプログラム作成時の橘高工学からの指示の有無
Aが,平成12年にG1Xver3.00を開発した際,橘高工学は,G1Xを
VisualC++でバージョンアップするよう指示することも,言語を指定するこ
ともなく,Windowsに対応するプログラムの開発を依頼したにとどまり,
G1Wとは別の独自プログラムを開発するのか,G1Wをソナーに対応する形に
追加,修正するかについての指示もせず,すべてAの裁量に委ねていた。
Aは,G1Wを開発した際,G1Wに必要なDLLは当時技術的にVisualBasic
で作成することができずVisualC++で作成されたため,G1Wを調整するには
VisualBasicとVisualC++の両方の開発ツールを使用する必要があるなど,
調整が煩雑であり,安定性の点でVisualBasicは常時作動するか疑問があり,
VisualBasicは故障時の原因追及が困難で,オーバーフロー時などに適切に
対応することができないことなどの問題点があったため,GPS処理ソフト
GPADVisualC++を橘高工学から指示されることなく,独自で開発し完成させ
ていた。
Aが完成させたプログラムを現地調整する際は,橘高工学の従業員はAの
指示に従って行動し,逆に,橘高工学からAに対する指示は全くなかった。
橘高工学では,従業員に対するプログラムに関する教育はほとんどなく,シ
ステムの説明等はすべてAに頼っており,橘高工学が指示したのは納期くら
いであった。
オ著作権表示
(ア)G1Xver3.00
本件プログラムのうちG1Xver3.00は,G1Xの中核となるG1X.rcに
「NihonSystemPlanning」ないし「A」の表示があるので(甲36の1,
乙47の1の7),その著作権がAに留保されていたことは明らかである。
起動時画面には橘高工学の著作権表示が現れるが(乙50),過去に競
業他社に無断で模倣されたことがあるので,競合他社によるソフトデザイ
ン等の類似や同様のソフトの作成を防ぐ目的で,Aの個人名義より知名度
の高い橘高工学の表示をしたものである。通常,著作権表示をソースに書
き記す場合は,重要なソースの冒頭にするのが一般的であるところ,ソー
スプログラムの冒頭に著作権表示はないが,これは,Aがソースを橘高工
学に提供していないので,無断利用のおそれがなかったからである。その
後,橘高工学の破産に伴い,起動画面及びバージョン情報の記載を変更し
た。
なお,被告は,G1Xver5.50の「CalhaVa.cpp」がG1Xver3.00にないこと
について不利な証拠を隠したと主張するが,同モジュールは座標計算テス
トをする際にG1Xと同一フォルダに入れたものであり,実際の船体傾斜の
位置補正ルーティンを内容とし,G1Xver3.00のモジュール「G1x.cpp」の
「RotZpr」「RotPr」をもとに作成した社外説明のためのソナー制御装置
のプログラミング用のもので,G1Xver3.00の一部ではなく,本来
G1Xver3.00に不必要なものである。
(イ)G1Xver5.24ないしver5.70
本件プログラムのうちG1Xver5.24ないしver5.70は,コンピュータ作
動時にバージョン表示メニューを操作すれば,「(c)CopyrightNihon
SystemPlanning」「Programer:A」という表示を確認できる(甲8)。
同プログラムの起動時にも数秒間,同じ表示が現れる。
カG1Xver3.00の完成時期
Aは,平成12年3月末ないし4月初めころ,G1Xver3.00の暫定版を完
成させ,橘高工学従業員Dに現地動作テストを依頼したが,潮位データの平
均化が未了であったため,浚渫にバグが生じ,調整の必要が判明した。また,
第16堀松号のソナー装置にトラブルがあり,同装置の動作検証ができなか
ったため,動作検証,バグの調整,総合検証は延期となり,この段階では,
G1Xver3.00は未完成であった。
プログラムは,動作環境に適応できるよう改変する必要があり,第16堀
松号用のG1Xは,本体及びオプションに対応できるようセットアップできる
状態になって初めてプログラムとして完成したものといえる。また,プログ
ラムは一体不可分のものであることから,ソナーに不具合があってG1Xを検
証,調整できないのであれば,それはプログラム全体の未完成を意味する。
SKKは,同年6月ころ,元橘高工学従業員のEを通じ,Aに対し,ソナ
ー装置のトラブルが解消したとして,総合検証を依頼し,Aは,第16堀松
号に出向いて現地調整を行い,総合検証を実施した後,同年7月3日,G1X
ver3.00を完成させ,SKKから,開発費及び現地出張費として335万円
の支払を受けた。
したがって,G1xver3.00が完成したのは,橘高工学の破産宣告後の同年
7月である。G1Xver3.00のファイルホルダーリスト(甲38)をみれば,
同年4月以降も完成のための更新がされている。
仮に,同年4月にG1Xver3.00が完成していれば,Aは,橘高工学に対し,
直ちに開発費の請求をしているところ,実際には完成していなかったため,
請求をしなかった。
なお,被告は,Aが納品書,請求書を交付していなかったと主張するが,
甲40,甲41のとおり,納品と同時に,納品書,請求書を交付していた。
キシステム全体におけるプログラムの位置づけ
被告は,取引先との関係ではグラブ浚渫管理施工システム一式が売買の目
的であって,本件プログラムはその一部にすぎない旨主張するが,グラブ浚
渫管理施工システムにおいては,G1Xはシステムの全体を統括管理する重要
な役割を担っているプログラムであって,単にシステムの一部にすぎないと
いうものではない。むしろ,ハード部分は,大半既製品を集めて組み立てら
れたものであり,ハード部分だけでは競合他社との優劣の比較はできないし,
営業においても,ハードの機能説明よりソフトの機能説明の方が,重要なア
ピールポイントになるものである。
クまとめ
以上の事情からすれば,本件プログラムの著作権は,Aに帰属しており,
その後に原告に譲渡されたのであり,Aから橘高工学に対して黙示の譲渡が
あったとは認められない。
(2)被告の主張
アソースプログラムの保有・管理
Aないし原告は,一部のソースプログラムを被告に開示していないが,被
告は,原告ないしAに対し,バージョンアップや修補を専属的に依頼してい
たので,特にソースプログラムは必要がなかったからにすぎない。なお,被
告は,G1Xver3.00のオブジェクトプログラムを所持している(乙41,4
2)。
イ対価の支払の有無
(ア)対価の支払
橘高工学は,平成12年1月にAに対し,新型ソナーに対応する第16
堀松号用のプログラムを発注した際,本件手形①②を振り出して仮払をし
た。Aは,本件手形①の手形金170万円のうち少なくともバック分を除
いた121万円は受領している。本件手形③ないし⑥についても,バック
分を除いた合計245万円については,不渡りになっていなければ,Aに
支払われる予定のものであった。
(イ)原告の主張について
原告は,上記の金員がG1Xver3.00の対価として支払われたものではな
いと主張するが,橘高工学が同月に第16堀松号用のプログラムを納期を
同年3月として発注し,同年2月ないし4月に外注加工費の仮払の支払約
束がされて,本件各手形が振り出されているので,本件各手形の振出によ
り支払約束された外注加工費仮払金には,G1Xver3.00に対するものが含
まれていた。
ウ各人の行動・認識
(ア)橘高工学の行動・認識
本件プログラムは,橘高工学に著作権が帰属するG1Xver2.00をバージ
ョンアップしたもので,橘高工学が開発したグラブ浚渫施工管理システム
専用のプログラムであり,橘高工学は,本件プログラムを多数複製してグ
ラブ浚渫施工管理システムのハードにインストールして,同システムを多
数販売することを目的とし,その後のバージョンアップやデバッグを予定
しているものであるから,橘高工学としては,複製の都度,Aに許諾料を
支払うつもりで依頼したとは考えられず,従前同様,著作権は橘高工学に
帰属するとの認識で多額の外注費を支払って外注していたので,本件プロ
グラムの著作権は,当然橘高工学に帰属するとの認識であった。
(イ)被告の行動・認識
原告は,被告が本件プログラム等について,ソフト複製販売許諾契約を
締結していたと主張するが,否認する。後述するとおり,被告がAに支払
った金銭は,橘高工学のAに対する損害の補償である。
(ウ)Aの行動・認識
Aないし原告は,平成16年4月まで,本件プログラムの著作権者であ
る旨の主張をしたことは一度もなく,橘高工学ないし被告に対し,複製許
諾料を要求したことも,販売数量の報告を求めたこともない。Aは,橘高
工学から外注を受け外注費を受領していたのみで,橘高工学が破産宣告を
受けた際も,破産管財人に対して,自己に著作権が帰属するとして取戻権
を行使したこともない。
エプログラム作成時の橘高工学からの指示の有無
Bは,Aに対し,平成12年1月20日,「3月に堀松にソナー付きのも
のを納めるので準備するように」と指示した。
オ著作権表示
(ア)G1Xver3.00
G1Xver3.00の取扱説明書(平成12年4月20日作成,乙50)にあ
る起動時画面及びバージョン情報画面には「(c)CopyrightbyKittaka
EngineeringLaboratoryCo.,ltd2000AllRightreserved」「ProgramerA
2000/3/12」「(c)CopyrightKittakaEngineeringLaboratoryCo.,ltd」
の表示が現れるが,これはA自身が記載したものである(乙49)。
Aは,橘高工学の破産宣告をきっかけにG1Xver3.00に原告の著作権表
示をしたにすぎない。被告は,橘高工学破産管財人からサーバの譲渡を受
けたが,元従業員がパスワードを設定しており,開くことができなかった
ため,G1XMS-DOS版の修正に関与し,ソースプログラムを有していたAに
協力を求めることとしたが,Aはこのような状況を奇貨として,Aが著作
権者である旨の表示をしたのである。被告は,取引先に納品するときに画
面表示に橘高工学の著作権表示が出ると逆に困るので,Aがソースプログ
ラムを所持していたこともあり,勝手に日本システム設計の著作権表示を
することを放置していた。
(イ)G1Xver5.24ないしver5.70
G1Xver5.24ないしG1Xver5.70において,原告の著作権表示が現れるが
(甲8),同表示画面はヘルプからバージョン情報に入ってようやく取り
出しうるものであり,このシステムを購入した者がこの表示を認識するこ
とは希有である。また,G1Xは,起動時に数秒だけ,原告の著作権表示が
現れるが,あまりに短時間であることから,いずれも原告を著作者である
と推定する根拠とはならない。
G1Xver5.50のソースプログラムのモジュール「CalhaVa.cpp」のトップ
には平成12年2月1日付けで橘高工学の著作権表示が現れるので,
G1Xver3.00の4月版及び7月版のソースプログラムにも橘高工学の著作
権表示のある「CalhaVa.cpp」が入っているはずであるが,原告が提出し
た甲36(G1Xver3.007月版のソースプログラム)に同モジュールはな
く,原告は意図的に不利な証拠を提出していない。
カG1Xver3.00の完成時期
甲13によれば,G1Xの初期バージョンは,橘高工学の破産宣告日より前
の平成12年3月11日に作成されている。G1Xver3.00の画面には,バー
ジョン情報「2000/3/12」(乙42)の表示が現れる。
平成12年3月末に出荷準備がされたNAV-LAHⅢの装置の一部であるGP
S受信演算装置にはG1Xver3.00が使用され,「NAV-LAHⅢ本体及び周辺機
器製造番号表」(乙44)には,備考欄に「新型ソフトG1Xver3.00使用」
と記載されている。原告は,ソナーのトラブルがあったので,完成品とはな
らなかったと主張するが,ソナーはオプションであり,だからこそG1Wはソ
ナー対応ではなかったし,G1Xver3.00もソナーに関して不具合があったか
ら完成していないとはいえない。
原告は,平成12年4月の時点で開発費の請求をしていないことを
G1Xver3.00が同時点で未完成であったことの根拠とするが,そもそも,A
は,橘高工学に対し,従来から納品書,請求書,明細書を交付していなかっ
た(乙40の2ないし9は後日作成されたものである。)。Aは,同年3月
ころに,G1Xver3.00を完成したとして橘高工学に納品し,前記のとおり,
外注加工費の仮払金も支払われていたが,同年5月に橘高工学が破産宣告を
受けたため,上記外注加工費の精算には至らなかったにすぎない。
キシステム全体におけるプログラムの位置づけ
グラブ浚渫施工管理システムの売上に寄与するのは,全体的なシステムの
使いやすさと施工管理の制度であって,プログラムの出来不出来ではなく,
システム全体構成の出来不出来こそが問題となり,これらはすべて橘高工学
の従業員により開発されている。
クまとめ
以上の事情からすれば,Aは,橘高工学に対し本件プログラムの著作権を
譲渡し,同一性保持権を放棄する旨の黙示の合意をしていた。なお,仮に,
平成12年4月時点でG1Xver3.00が未完成であったとしても,同プログラ
ムは作成と同時に完成部分ごとに橘高工学に譲渡されていた。
3G1XMS-DOS版の創作性の有無(前記第4の1(3)の争点)
(1)原告の主張
仮に,本件プログラムに独自の創作性がなく,G1XMS-DOS版と同一の著作物
であったとしても,G1XMS-DOS版は,位置決めプログラムを超える独自の創作
性を有し,位置決めプログラムとは同一の著作物ではない。
すなわち,位置決めプログラムは,単発的な船体の位置決めに関するプログ
ラムにすぎず,船体を固定して位置決めが完了すれば役目は終了し,継続的に
浚渫施工を管理する機能はないが,G1XMS-DOS版は,浚渫の経過を常時記録し
管理するものであって,作業データの内容の表示や施工データのメンテナンス
等に関するプログラムが追加され,プログラムの分量も増大している。また,
位置決めプログラムは,グラブ浚渫船のみならず,サンドコンパクション船等
を含む種々の船の位置を決めるための汎用性を有するプログラムであるのに対
し,G1XMS-DOS版は,グラブ浚渫船という国内で総数100にも満たない特殊
な船について,浚渫施工を管理する特殊なプログラムであり,その一部に船体
位置決めに関するプログラムを含んでいても,プログラム全体としての機能,
性質,内容は,位置決めプログラムとは全く異なる。
(2)被告の主張
G1XMS-DOS版は,Aに著作権が留保されていたRTMは別にして,それ以外の
部分については,位置決めプログラムに付加的な変更(①従前は堀跡管理につ
いて深度認識スイッチを押すことで堀跡が画面上に表示されたが,新たに深度
信号を自動で取り込み,その深度に伴う色づけを行うように変更した,②従前
は方位角表現を本船の絵に基づく捻れ角表現をしていたのを,新たにインジケ
ーター表現に変更した,③メインメニュー画面の項目を増やし見やすくし
た。)を加えたものにすぎず,独自の創作性はない。したがって,G1XMS-DOS
版は,著作物としては位置決めプログラムと同一の著作物である。
4本件前プログラムの著作権の帰属(前記第4の1(4)の争点)
(1)原告の主張
アソースプログラムの保有・管理
(ア)ソースプログラムの提出の有無
Aは,当初,依頼を受けたソフトのソースプログラムはすべて提出して
いたが,橘高工学従業員が,位置決めプログラムNB版を無断使用し,プ
ログラム解説書を作成して,光波距離計のメーカーに提出したので,GDX
等もG1Wもソースプログラムを提出しなかった。G1Xver1.20及び
G1Xver2.00についても,そのベースであるRTMのソースプログラムを厳
格に管理していた。なお,Aは,Bから,著作権者である橘高工学にソー
スプログラムを提出するのは当然であると言われたことはない。
(イ)被告の主張について
被告は,平成9年ころ,AがG1XMS-DOS版の微修正にあたり,橘高工
学にソースプログラムを提出し,橘高工学の従業員がプログラムの内容を
チェックして修正すべき内容を変更していたと主張する。
確かに,Aは,担当者が調整する便宜のため,G1XMS-DOS版のソースプ
ログラムを納入時に納入先のコンピュータに記録させていたが,当時出荷
が増大し,Aは直接現地調整を行うことができなかったので,不具合等が
生じた場合,橘高工学の従業員に,内容を報告させて電話等で指示を与え
て修正させ,その修正に必要な部分のソースプログラムを渡したものにす
ぎず,プログラムの著作権まで譲渡したものではない。橘高工学の従業員
は,ソースプログラムを理解した上でチェックすることはできず,せいぜ
い現地調整の段階において,Aの指示のもとに簡単な修正,訂正をするの
みであった。
イ対価の支払
(ア)昭和63年ころから平成3年ころまで
Aは,昭和63年から平成3年ころまで,橘高工学から,プログラムの
開発費として,1時間当たりの単価にその月内にプログラム開発に従事し
た時間を乗じた額(月20万円ないし70万円)を開発費として受領して
いた。位置決めプログラムNB版の対価は,開発期間2か月で90ないし
100万円であり,GDX等の開発の対価は150万円であった。
(イ)平成3年ころから平成6年ころまで
Aは,平成3年ころから,橘高工学からの申出により,月100万円の
固定報酬で受注プログラムの開発に専従することになったが,橘高工学は,
従業員が与えられるようなロッカー,机等の備品も一切貸与せず,橘高工
学の従業員が出張先等からの連絡用に使用していた無料専用電話の番号さ
えAに教えなかった。
(ウ)平成6年ころから平成9年ころまで
Aは,平成6年ころ,橘高工学から依頼されるプログラムの仕事が多か
ったので,前年及び前々年の作業実績表を提示し,報酬の改定を申し入れ
たところ,橘高工学の専従ではなくなり,報酬も出来高払に変更されたが,
報酬の一部はバックさせられていたので,実際に受けた報酬は平均月額1
00万円にも満たなかった。
SEの報酬は,経験年数や技量により考慮されるところ,当時経験10
年以上のSEの相場は月100万円ないし180万円であり,Aの報酬は
当時の相場の最低ランクであった。そして,Aは,本件前プログラム以外
にも,開発工数が同等以上の他のプログラムも開発したのであり,開発費
の内訳としては,他のプログラムの方が多い。
なお,橘高工学は,平成6年4月に販売したグラブ浚渫管理施工システ
ムプログラムの販売定価を350万円ないし420万円,原価を70万円
ないし90万円と設定していたが,原価の意味するものは,プログラムの
仕入原価であると考えられる。
(エ)平成9年ころから平成12年まで
被告は,橘高工学が平成9年から平成12年までに,Aに,手形交付に
より支払った金額は合計約5880万円,平成10年だけで2085万円
以上であると主張するが,これには7割のバック分が含まれている。
ウ各人の行動・認識
(ア)Aの認識・態度
Aが,橘高工学破産管財人に取戻権を行使しなかったのは,著作権侵害
の事実がない限り,あえて行使をする必要がなかったからにすぎない。
被告は,Aが橘高工学に対し,複製許諾料を請求したことも販売数量の
報告を求めたこともないと主張するが,Aは,橘高工学から外注を受けて
外注費を受領し,複製許諾料相当額が補償されていたので,格別著作権を
主張する必要がなかった。
(イ)橘高工学の認識・態度
橘高工学の破産手続において,橘高工学の財産として本件前プログラム
の著作権があるとの認識はなく,同著作権は処分されていない。
エプログラム作成時の橘高工学の指示の有無
(ア)位置決めプログラム
Aは,依頼を受けるにあたり,橘高工学から具体的な指示を受けていな
いし,開発のための具体的な詳細仕様書を示されたこともない。
橘高工学が,位置決めプログラムNB版の開発をAに依頼した際,橘高
工学は,ソフト仕様書(画面デザイン,ダイヤブロックチャート,ディテ
ールフロー等を示したもの)を有しておらず,Aに対し,株式会社測器舎
(以下「測器舎」という。)が作成した操作マニュアルソフトを示し,具
体的な内容・方法はすべてAの裁量に一任するとの前提で依頼した。Aは,
画面デザイン,操作性等を独自に設計して,位置決めプログラムNB版を
完成させたが,同プログラムは,測器舎のプログラムとは異なる画面,操
作性を有するものであった。
被告は,Aが,乙25ないし乙30を前提に位置決めプログラムNB版
を作成したと主張するが,「作業船位置決めシステムの位置測定原理」
(乙26)は,Aが位置決めプログラムNB版を完成させた後に橘高工学
従業員Hが作成したものであるし,位置決めプログラムNB版はジャイロ
を用いていないので,「ジャイロを用いた船体位置決め」(乙27)は関
係ないし,座標計算(乙28)及び変数リスト及びメインメニューのレイ
アウト(乙30)は,Aが作成した位置決めプログラムNBのソースプロ
グラム及び乙15から橘高工学従業員Fが解析して作成したものである。
仕様書(乙29)のソフト部分は,国土総合建設従業員が橘高工学を訪れ
た際,Aは,ほぼ完成していた位置決めプログラムNB版を作動させてデ
モンストレーションをしたが,このとき国土総合建設従業員から依頼され
て作成した。「船体位置決めシステム座標計算ロジック」(乙15)も,
Aが昭和63年に作成したものである。
また,被告は,位置決めプログラムについて,橘高工学が開発した自動
追尾光波距離計による測量データを演算処理し,画面上に視覚的に表現す
るためのソフトであり,Aは,ハード部分の開発に何ら関与していない以
上,具体的指示なくして修正できるはずはないと主張する。しかし,被告
が橘高工学の特許に係る部分であると主張する位置計算ロジックの部分に
対応するプログラムは,初等幾何学の知識で容易に導出できるものなので,
被告の主張はあたらない。
(イ)G1XMS-DOS版
橘高工学が,GDX等の開発をAに依頼した際,Aは,納入予定先から橘
高工学の従業員を介して,プログラムの画面デザインの1つ(主要画面)
を示されただけであり,それ以外のシステムに必要な他の画面(15枚)
の設計及びそれに見合う機能を持つプログラムはAが開発した。当時,橘
高工学の従業員には,C言語でプログラムを作成できる者はおらず,Aは,
橘高工学の従業員から,プログラムのデザイン,機能,操作等に関するア
ドバイスは一切受けていない。
オ著作権表示
(ア)G1XMS-DOS版
G1XMS-DOS版のメニュー画面には「KittakaEngineeringLaboratory」
の表示があるが(乙38),これはユーザーのためにシステムの販売保守
をする会社名をソフト上に記載しておくことにより,その会社の宣伝効果
としての意味をサービスしたものである。「(c)Copyright」の表示を欠く
から著作権の所在についての意味はない。
他方,同プログラムのソースプログラムには「autherA」の表示があ
り,「KittakaEngineeringLaboratoryCo.,Ltd」の表示もあるが(乙4
6の1),通常ソースプログラムには著作者と納入先を記載するのが慣例
であり,その慣例に従って納入先の名称が記載されているにすぎない。
なお,被告は,RTMとそれ以外の部分を分けて,RTMの著作権はAに,
それ以外の部分は橘高工学に帰属すると主張するが,G1XMS-DOS版は,O
SであるRTMの管理下で作動するので,その開発はRTMがなければ困難で
あり,RTMとG1XMS-DOS版の著作権が分離するようなことはない。
(イ)G1W
G1Wのトップメニューには,「(c)CopyrightbyKittakaEngineering
Laboratory」の表示があるが(乙33),これは競合他社によるソフトデ
ザイン等の類似や同様のソフト作成を防止する目的で,A個人より知名度
の高い橘高工学の表示をしたものである。具体的には,オー・ケー・イー
サービス株式会社がMS-DOS版のシステムを新洋海工に売り込み,後にA
は,上記システムが設置された36龍王丸のソフトを入れ替えたが,従前
設置されていたシステムはG1XMS-DOS版の模倣であることが明らかであ
ったため,AとBは,模倣防止のための著作権表示の必要性について話し
たが,著作権譲渡の話はなかった。ソースプログラムには著作権表示はな
い。
なお,被告は,G1Wではマルチタスク機能のあるWindowsが用いられて
いるので,RTMは不要になったと主張するが,G1Wに用いた
VisualBasicVer5.0はマルチタスク機能をサポートしていないし,RTMに
はマンマシンインターフェース機能があり,その基礎的な考え方はG1Wの
プログラム内に取り込まれている。
(ウ)位置決めプログラムNB版
位置決めプログラムNB版には著作権者の表示はなかった。
カ本件前プログラムの著作権の帰属
Aは,位置決めプログラムNB版の作成の際も,GDX等の作成の際も,橘
高工学から具体的な指示を受けておらず,開発費は受領していたものの,A
が橘高工学の指揮監督下において労務を提供するという実態はなく,橘高工
学がAに支払った金銭も労働の対価であるとはいえず,ソースプログラムも,
位置決めプログラムNB版は提出したが,G1XMS-DOS版及びG1Wは,修正に
必要な範囲でやむを得ず渡した分以外は,ベースとなるRTMも含めて提出し
ていない。プログラムのメニュー画面に現れる表示に橘高工学の表示があっ
ても,知名度の高い橘高工学の名を表示したものであって,著作権の所在の
決め手となるものではない。
したがって,本件前プログラムはいずれも職務著作として橘高工学に帰属
することはないし,本件前プログラムの著作権の黙示の譲渡も認められない。
G1XMS-DOS版の著作権はAに帰属するし,位置決めプログラムNB版の著作
権もAに帰属する。
被告は,職務著作であると主張するが,職務著作であるというには,橘高
工学が与えた指示がプログラマーに比肩するほど専門的な内容で,プログラ
マーであったAを単なる補助者にするような創作的作業を橘高工学がしたこ
とが主張立証される必要があるところ,被告は橘高工学がしたという具体的
な指示内容について何ら主張立証しない。
(2)被告の主張
アソースプログラムの保有・管理
(ア)ソースプログラムの提出の有無
Aは,平成2年ころから平成5年6月ころまでは,橘高工学にソースプ
ログラムを提出しなかったが,Bは,同年6月ころ,従業員からAがソー
スプログラムを提出しないのは不合理であるとの指摘を受けて,Aに対し,
今後も発注する旨約束し,橘高工学が作成や改造を依頼したソフトは橘高
工学のものであるから提出するのがあたりまえである,メンテナンスに必
要であると伝えて,ソースプログラムを提出してもらった。
RTMについては,Aからソースプログラム(乙46の2)の提出はあっ
たものの,Aに帰属するものであり,橘高工学において無断使用しないで
ほしいとの申し入れがあったので,その旨約束したが,G1XMS-DOS版につ
いては,このような申入れはないままソースプログラムが提出された。
Aは,平成8年ないし平成9年に,橘高工学にソースプログラムを提出
し,橘高工学従業員からチェックを受け,橘高工学は,G1Xver2.00のソ
ースプログラムを保有していた。
(イ)原告の主張について
原告は,G1XMS-DOS版のソースプログラムを橘高工学に提出していたこ
とを否認し,納入時に納入先のコンピュータに記録させていたと主張する。
しかし,被告が橘高工学破産管財人から譲り受けたパソコンのハードデ
ィスクにG1Xver2.00のソースプログラム(乙46の1)は保管されてい
たし,乙18,乙46の1の10のソースプログラムに橘高工学の従業員
による修正がされていることから,Aがソースプログラムを提出して橘高
工学の従業員のチェックを受けていたことは明らかである。
イ対価の支払
(ア)昭和63年ころから平成3年ころまで
橘高工学は,Aに,位置決めプログラムNB版の作成料としてかなり高
額の金額を支払った。
(イ)平成3年ころから平成9年ころまで
Aは,平成3年ころから平成12年の橘高工学の破産宣告まで,専従外
注として橘高工学の仕事のみをしていた。
橘高工学は,平成3年ころから平成6年ころまで,Aに対し,外注した
ものが完成していなくても,前払として外注費の分割払をし,全く仕事を
依頼していないときも仮払処理で外注費を支払い,一定の外注が完了する
と清算するというように,月100万円の固定報酬で実質的には労務提供
の対価として外注費を支払っていた。Aは,橘高工学に対し,納品書も請
求書も出していなかった。
平成6年以降も,Aは,原則として月100万円の報酬を受け,プログ
ラム作成料が同額を超える場合には,追加して超過分の支払を受け,同額
を下回る場合には,仮払として後に精算していた。
(ウ)平成9年ころから平成12年まで
橘高工学が平成9年3月から平成12年2月までにAに支払った金銭は,
合計約5880万円(月平均163万円)である。すなわち,橘高工学が
Aを受取人として振り出した約束手形は約9600万円で,うち約120
0万円は貸付金(融通手形)で,残りのうち約2ないし3割は水増し分で,
うち7割はAから橘高工学にバックされていた。平成10年では,手形振
出額3141万円のうち400万円が融通手形,656万円が水増し分で,
残りの2085万円(月平均173万円)が外注加工費(バージョンアッ
プ代。出張交通費,宿泊費,工賃を含むが,その割合は少ない。)で,バ
ックは水増し分656万円の7割の459.2万円である。
ウ各人の行動・認識
(ア)Aの認識・態度
Aは,本件前プログラムについて著作権者である旨の主張をしたことは
一度もないし,橘高工学に対し,複製許諾料を要求したことも,販売数量
の報告を求めたこともなく,外注を受け外注費を受領していたのみである。
Aは,橘高工学が破産宣告を受けた際も,破産管財人に対し,本件前プ
ログラムが自己に帰属するとして取戻権を行使したこともない。Cが位置
決めプログラムNB版に修正を加え,同QB版を作成したことについても,
橘高工学は,Aないし原告から何らの異議も受けていない。原告が著作権
を初めて主張したのは,平成16年4月になってからである。
(イ)橘高工学の認識・態度
橘高工学がAにプログラム作成を依頼した当時,著作権の帰属について
明示の取決めはなかったが,橘高工学としては,動産の製造委託と同様に,
納品がされて代金を支払えば,そのプログラムは橘高工学に帰属すると考
えていた。位置決めプログラムは,橘高工学が開発した船体位置決めシス
テム専用のプログラムであり,橘高工学は,位置決めプログラムを多数複
製して同システムの装置にインストールし,同システムを多数販売するこ
とを目的としていたので,位置決めプログラムの著作権は,当然橘高工学
に帰属するとの認識であり,複製の都度,Aに許諾料を支払うつもりで依
頼したとは考えられない。代金額も高額で,橘高工学は具体的な指示をし
ていたし,プログラムの用途も限定されていたので,Aも同様の認識であ
ったと思われる。G1XMS-DOS版は,位置決めプログラムを元に作成され,
やはり他の用途に用いることができないものであるから,同様に考えるべ
きである。
エプログラム作成時の橘高工学の指示
Aは,本件前プログラムの修正にあたってBから具体的な指示を受け,作
業が終了すると,橘高工学の従業員にソースプログラムを提出し,作業内容
についてチェックを受け,再修正がある場合にはさらに指示を受けていた。
(ア)位置決めプログラム
橘高工学は,国土総合建設と共同で,「光波測距装置の使用方法につい
て」(乙25),「作業船位置決めシステムの位置測定原理」(乙26),
「ジャイロを用いた船体位置決め」(乙27),座標計算(乙28),仕
様書(乙29),変数リスト及びメインメニューのレイアウト(乙30)
を作成した。これらを前提として,Aは,橘高工学従業員から,光波測距
装置の具体的内容,データの取込方法,データの構造等,位置計算ロジッ
クの説明を受け,操作性や画面レイアウトについての具体的な指示を受け
て,位置決めプログラムNB版を記述した。その後のテスト,デバッグは,
Aと橘高工学の従業員が協力して行った。
(イ)G1XMS-DOS版
橘高工学は,G1XMS-DOS版の各発注時に,Aに詳細な技術説明を行い,
プログラムの修正を依頼した。
オ著作権表示
(ア)G1XMS-DOS版
GDX等のトップページには,「KittakaEngineeringLaboratory」の画面
が現れ,取扱説明書にも「株式会社橘高工学研究所」の記載がある(乙3
5)。G1Xver1.2ないしG1Xver2.0のメニュー画面には,「Kittaka
EngineeringLaboratory」の画面が現れる(乙38)。
Aに権利が帰属するRTMについては,「Copyright(c)Nihonsystem
plannig」の表示をしているのに対し,G1XMS-DOS版には上記のとおり橘
高工学の表示をしていることからすれば,Aは,G1XMS-DOS版は橘高工学
に帰属するという認識であった。G1XMS-DOS版について,第三者にまねを
されないためであれば,RTM同様,「Copyright(c)Nihonsystemplannig」
の表示でよいはずであり,同表示で足りないというのであれば,RTMにそ
のような表示をしていることに説明がつかない。
(イ)G1W
G1Wのトップメニュー画面(乙33)には,A自身により
「(c)CopyrightbyKittakaEngineeringLaboratory」の表示がされている。
(ウ)位置決めプログラムNB版
位置決めプログラムNB版には橘高工学の表示が現れる(甲25)。
カ本件前プログラムの著作権の帰属
(ア)職務著作
上記のとおり,橘高工学とAとの関係は,実質的には,橘高工学の指揮
監督下においてAが労務を提供するという実態にあり,橘高工学がAに対
して支払う金銭は労務提供の対価と評価できるので,本件前プログラムは,
いずれも橘高工学の発意に基づき作成されたプログラムであって,職務著
作として,橘高工学が著作者である。
(イ)黙示の譲渡の合意
仮に,本件前プログラムが職務著作ではなかったとしても,Aは,橘高
工学従業員から指示を受け,同従業員と協力しながら,本件前プログラム
を作成・完成させたので,本件前プログラムは,橘高工学従業員との共同
著作であるし,橘高工学にソースプログラムを提出し,プログラムに橘高
工学の表示がされ,Aは橘高工学の指示により高額の作成料でプログラム
を作成し,ライセンス料の請求をしたことがない等の上記の事情からすれ
ば,Aは,橘高工学に対し著作権(共同著作と認められる場合は持分)を
譲渡し,同一性保持権を放棄する旨の黙示の合意をしたといえる。
特に,位置決めプログラムについては,Aはソースプログラムを橘高工
学に提出し,バージョンアップにAは関与せず,Cが修正追加をし,その
後のプログラムに橘高工学の著作権表示があることからしても,譲渡され
ていることは明らかである。
その他の本件前プログラムについても,著作権譲渡の明示的な書面はな
いが,橘高工学は,Aに対し,かなり高額の作成料を支払っていることか
ら,Aが著作権を留保しているとは考えがたい。G1XMS-DOS版はいずれも
グラブ浚渫施工管理システムNAV-LAHのGPS受信演算装置にインストール
して用いるものであり,他の用途はなく,橘高工学が製造するハード専用
で橘高工学以外の者が利用することはできないことからしても,橘高工学
がAにプログラムのバージョンアップを依頼する際,それらのプログラム
の著作権は橘高工学に帰属することを当然の前提としていたものである。
(ウ)橘高工学から被告への譲渡
橘高工学破産管財人は,平成13年3月,被告に対し,特許権及び動産
一式を譲渡したが,その中にはプログラムが保存されたサーバも含まれて
おり,プログラムの著作権も売買の目的物として被告に移転している。そ
のプログラムの中にはG1XMS-DOS版も含まれている。
仮に,橘高工学から被告へのG1XMS-DOS版の著作権の譲渡が認められ
ないとしても,橘高工学以外の者に著作権が帰属することとなるものでは
ない。
(エ)まとめ
G1XMS-DOS版は,創作性がないので(二次的)著作物ではなく,位置決め
プログラムと同一の著作物であり,位置決めプログラムの著作権が,橘高工
学に帰属する以上,G1XMS-DOS版の著作権も橘高工学に帰属する。仮に,
G1XMS-DOS版が著作物ないし位置決めプログラムを原著作物とする二次的著
作物であったとしても,G1XMS-DOS版の著作権も橘高工学に帰属する。
5著作権の権利主張についての対抗要件の要否(前記第4の1(5)の争点)
(1)被告の主張
原告は,Aから本件プログラムの著作権を譲渡されたと主張するが,著作権
移転のための対抗要件である登録をしていないので,被告に対し,著作権を有
していることを主張できない。
(2)原告の主張
著作権の移転を登録しなければ対抗できない「第三者」とは,登録の欠缺を
主張する正当な利益を有する者であり,被告のような著作権を侵害する者は
「第三者」には該当しない。したがって,原告は,登録なくして被告に対し,
本件プログラムの著作権を主張することができる。
6著作権に基づく差止請求についての侵害のおそれの有無(前記第4の1(6)の
争点)
(1)被告の主張
被告は,現在,G1Xver5.24ないし同5.70をグラブ浚渫施工管理システムに
使用していないので,差止請求の要件である「侵害のおそれ」はない。
(2)原告の主張
否認ないし争う。
7著作権侵害についての被告の故意過失の有無(前記第4の1(7)の争点)
(1)原告の主張
被告は,従前,Aとの間で,本件プログラムにつき複製販売許諾契約を締結
し,本件プログラムの供給を受けていたのであるから,著作権の帰属に十分な
注意をすべきであり,著作権法に詳しい弁護士に相談すれば,本件プログラム
の著作権がAに帰属していたことを容易に知り得た。被告は,十分な調査も検
討もすることなく,独善的にAが著作権者ではないと思いこんでいるにすぎず,
少なくともそのことにつき過失がある。
(2)被告の主張
争う。被告は,橘高工学の破産管財人から橘高工学の動産,特許権等を譲り
受けて,橘高工学と同種の営業を始めたものであり,Aも自らG1Xver3.00の
トップページに「(c)CopyrightKittakaEngineeringLaboratoryCo.,Ltd2000
AllRightReserved」と表示していた。したがって,仮に,本件プログラムの
著作権の一部がAに帰属していたとしても,被告が橘高工学に帰属していたと
認識していたことについて過失はない。
8著作権侵害による損害発生の有無及びその数額(前記第4の1(8)の争点)
(1)原告の主張
本件プログラムの複製許諾料は1セットにつき50万円が相当であり,被告
は少なくとも20セットを複製販売した。したがって,Aが被った損害は,1
000万円をくだらない。
また,Aは,著作権侵害の事実調査のため,別紙3のとおり13万2005
円を要した。
よって,被告がAの著作権を侵害したことによる損害は1013万2005
円である。
(2)被告の主張
損害の発生及びその額は否認ないし争う。
なお,被告がAに,50万円又は80万円を支払っていたのは,後述のとお
り,橘高工学時代の損失を補償する趣旨である。
9本件プログラムについての複製許諾契約の有無(前記第4の2の争点)
(1)原告の主張
ア本件プログラムの複製販売許諾契約
Aと被告は,平成12年11月ころ,本件プログラムにつき,複製販売1
セットにつき50万円を支払うとの約定で,プログラムソフト複製販売許諾
契約を締結した(以下「本件複製販売許諾契約」という。)。
被告は,納入先の顧客をAに報告し,Aは,納品請求書を送付し,被告は,
Aに,50万円ないし80万円を許諾料の一部として支払っていた。
イ損害の填補であるとの主張について
被告は,Aに50万円又は80万円を支払っていたのは,Aの橘高工学に
対する債権の損害填補として贈与したものであると主張する。
しかし,Aの橘高工学に対する債権は,橘高工学の破産手続の終了により
法律的に行使できなくなったのであるから,填補の必要はないはずである。
にもかかわらず,被告がAと取引を継続する必要があったのは,Aに本件プ
ログラムの著作権が帰属し,これを利用することが必要だったからである。
被告がAに宛てたメール(乙3)の記載は,Aが被告との契約に基づき作業
をしていた事実や本件複製販売許諾契約が存在していたことを前提とするも
のであって,50万円の支払が損害補償のための贈与ではないことを示すも
のである。
(2)被告の主張
ア本件複製販売許諾契約の主張について
Aと被告との間で,本件複製販売許諾契約を締結した事実はない。G1X
MS-DOS版ないし本件プログラムの著作権は橘高工学に帰属し,Aに帰属し
ていなかったので,被告がAから許諾を受ける理由はない。Aは,プログラ
ムにプロテクトもしていない。なお,原告は,本件複製販売許諾契約の締結
は平成12年6月ころであると主張していたが,その時期には橘高工学が破
産宣告を受けており,Bは,Aと複製販売許諾契約等について話をしていな
い。
イ損害の填補
被告がAないし原告に対して金銭を支払ったのは,損害補償として贈与し
たものである。
すなわち,橘高工学は,破産宣告時,Aに対し,549万円の債務を負っ
ていた。被告が,橘高工学と同種の営業を行うに当たり,Aの協力なしで円
滑な業務を行うことはできなかったので,取引を依頼したところ,Aから,
回収不能となった橘高工学の債務の支払を求められた。被告は,資力がなく,
一括支払が不可能であったため,資金にゆとりができる都度,損害補償をす
ることをAに約束した。
被告は,Aに対して,50万円ずつ6回,80万円ずつ3回の合計540
万円を支払ったが,分割して支払ったのは,被告が取引先から受注を受け,
資金にゆとりが出る都度,支払ったのであり,納品書及び請求書を同時に送
付しているのは,税金対策として適当な名目をつけたにすぎない。平成13
年1月10日付け納品書(甲1の1)の「坂口工業向けソフトバージョンア
ップ」については,その内容の仕事はしていないことをA自身が認めている。
10本件GPADver4開発契約に基づく代金の支払拒絶の可否(前記第4の3(1)の
争点)
(1)被告の主張
本件GPADver4開発契約に基づく代金10万5000円については,本件
GPADver4ソフトにバグがあり,同ソフトは動かなかったため,未完成である
から,代金の支払義務はない。
バグの内容は,乙11のとおりであり,本来であれば,いずれの公共基点,
いずれの測地系を選択しても作動するはずであるところ,GPADver4.0は,世
界測地系を選択しても,基点座標は別のソフトを用いて変換した日本測地系に
基づく座標値を入れないと,偽の座標値が出力されるという不具合があり,原
告自身も,甲10で「GpadVersion4.20SVersion4.0の基準座標不具合を訂
正」と記載して,不具合があったことを認めている。
GPADver4.1sの場合,公共基点Ⅰ(RTCMデータ・フォーマット)には対
応しない。
(2)原告の主張
被告は,本件GPADver4ソフトにバグがあり,同ソフトは未完成であるため,
その代金を支払わなかったと主張する。
しかし,Aが被告に本件GPADver4開発契約に基づいて本件GPADver4ソフト
を供給したのは平成15年10月ころであるが,当時,被告からは同ソフトに
バグがあるとの連絡はなく,平成16年5月ころに至って,突如,同ソフトに
不具合がある旨の連絡があったが(乙3),その時点においても不具合の内容
についての詳細な説明はなかった。
そこで,Aが詳細を被告従業員に確認したところ,GPADver4.0は,基地局
の座標入力(同一工事現場で設定は1度。同一工事現場は数か月間続く。)に
おいて日本測地系の座標を入力すれば,システムは正常に機能するとのことで
あった。そして,実際にユーザーがこの状態で使用している以上,同ソフトに
バグがあって動かないとはいえない。被告自身も,基点座標の座標値をわざわ
ざ別ソフトを用いて日本測地系の座標値に変換しなければならないと主張して
いるように,変換ソフトを使用して変換すればよいのであり,同ソフトは「バ
グがあって動かない」とはいえないから,代金支払を拒絶する根拠とはならな
い。
GPADver4.1sについては,否認する。対応しないの意味も不明であるし,原
告は,本件訴訟における被告の主張により,初めてその旨を知らされたのであ
り,同ソフト供給当時は被告からは何ら苦情はなかった。
11相殺1の成否(前記第4の3(2)の争点)
(1)被告の主張
被告は,次のとおり,原告に対し,債務不履行による損害賠償債権を有して
いる。
アAは,本件斜杭打設管理ソフト変更契約により,被告が販売する本件斜杭
打設管理ソフトを,被告に無断で競業他社に販売しないという信義則上の義
務を負った。すなわち,被告は,Aに対し,本件斜杭打設管理ソフト変更契
約を締結して外注加工費を支払ったのであり,注文者としては当然その成果
物及び提供した情報を,注文者の利益のためにのみ用いることを予定し,競
業他社に対して類似のソフトを販売することを禁止していたし,契約書に明
文がなくても,継続的な外注加工依頼がされていた以上,受注者の善管注意
義務,信義則上の不作為義務が生じる。
イにもかかわらず,原告(Aが法人なりしたもの。)は,被告のためにAが
保管していた被告の本件斜杭打設管理ソフトを複製して,平成15年10月
に中国の某会社向け斜杭打設管理システムソフト(以下「本件中国向けソフ
ト」という。)を競業他社に納品した。古野電気は,船舶用重機の施工管理
システムの製造販売を目的とする会社であるところ,株式会社アムテックス
に対し,斜杭打設管理システムソフトを発注し,その際,原告のソフトを使
用することを指定した。
ウ本件中国向けソフト(乙51)は,次のとおり,本件斜杭打設管理ソフト
(乙52)と同一のものである。したがって,本件中国向けソフトは,Aが
被告のために保管していた本件斜杭打設管理ソフトの複製物である。
①画面の構成が同一である。
②取り込むデータの項目が,旋回角,ジブ角,トリム,ヒール,アウトリ
ーチであり同一である。これは重機のどの部分からどのように測定するか
という点において共通していることを意味する。
③取り込んだデータを演算して杭の設計位置と現在の杭の位置とのズレ量
を表示するシステムであるところ,その演算結果,表示方法も同じである。
④取り込みデータ,演算内容,表現方法がすべて同じである。
⑤乙51の1添付の画面タイトルバーには,「第一豊号斜杭打設管理シ
ステムIpxVer1.00」と記載されているが,これは本件斜杭打設管理ソフ
ト(乙52)と同じ名称である。原告は,本件斜杭打設管理ソフトをその
まま本件中国向けソフトとして古野電気に納品した。
エ原告が上記の行為をしなければ,被告は,上記の注文を受注できたはずで
あり,斜杭打設管理システムの価格は1800万円で,利益額は少なくとも
1000万円であるから,被告には得べかりし利益相当額1000万円の損
害が生じた。なお,杭打船に関するマンマシンソフトは,他社が製造してお
らず,そのノウハウ(センサーの取付位置,センサーからのデータ処理のア
ルゴリズム等)は被告が独占し,平成15年当時,斜杭打設工管理システム
を製造販売する業者は国内では被告のみで,被告がシェアを独占していたの
で,原告が本件中国向けソフトを提供しない限り,確実に被告が受注できた
ものである。
オよって,被告は,原告に対し,Aの契約における信義則上生じる義務違反
により,1000万円の損害賠償債権を有している。
カ原告の主張について
原告は,本件斜杭打設管理ソフトの著作権はAに帰属すると主張するが否
認する。本件斜杭打設管理ソフトは,橘高工学が開発し,その後修正を施し
たもので,Aは,上記の修正に関与したにすぎない。
(2)原告の主張
ア販売禁止義務の有無
本件斜坑打設管理ソフトは,Aが平成3年9月20日に創作したもので,
その著作権はAに帰属する。したがって,原告が被告から斜坑打設管理ソフ
トを競業他社に販売することを禁止されることはない。
本件斜杭打設管理ソフトは,橘高工学の依頼により開発したが,実際の杭
打ちの演算における高度な3次元空間における演算ロジックはAが考案し,
このノウハウをもとに同ソフトを作成したのであり,橘高工学は,依頼時に
センサーなど機器構成図を示したのみで,ソフト開発をAに一任し丸投げ状
態であった。そして,上記機器構成図は被告独自のノウハウではない。なお,
Aは,橘高工学に対し,同ソフトのソースプログラムも渡していない。
イソフト画面の同一性
乙51と乙52のソフト画面は同一であるが,乙51のソフト画面は,原
告が古野電気に対し,単なる営業資料として提出したものであり,原告が実
際に中国に納入した本件中国向けソフトの画面は次の点で異なる。
Ⅰ)杭頭(杭の打止め高さ)の管理について,測量員が光波計を用いて行っ
ていたのを本件中国向けソフトでは自動計測(リアルタイム)とした。
Ⅱ)GPSを2台使用して重機の姿勢を計測しているとき,旋回時GPSの1台
に,電波の遮断等による計測不良が頻繁に生じるが,本件中国向けソフト
では,対処法として別個のGPS方位計測器を設置して船体の誘導を可能と
した。
Ⅲ)本件中国向けソフトでは,リーダーの上部と下部の支点間距離が可変と
なっている。
Ⅳ)本件中国向けソフトでは,各種センサーのデータを手動入力し,シミュ
レーションを行うこともできる。
Ⅴ)本件中国向けソフトでは,すべての画面の文字を中国向け仕様にし,ひ
らがな,カタカナを使用せず作り替えた。
12相殺2の成否(前記第4の3(3)の争点)
(1)被告の主張
被告は,次のとおり,原告に対し,不正競争防止法2条1項14号,4条に
基づく損害賠償債権を有している。
ア競争関係
原告は,主にコンピュータソフトの開発,販売,賃貸を業務内容とする会
社であり,被告は,主に業務用ナビゲーションシステムの開発,製造,販売,
修理,賃貸を業務内容とする会社で,両者は,ナビゲーションシステムの関
連ソフト開発,製造,販売,修理等において競争関係にある。
イ営業上の信用を害する事実の告知・流布
本件送付文書には,「弊社製」という表現が用いられており,原告が「グ
ラブ浚渫ソフト」(G1W,G1X,RTPS,GPAD)を開発し,原告が著作権を有する
「グラブ浚渫ソフト」について,被告が原告の許諾を得ることなく,あるい
は許諾の範囲を超えて複製しているかの印象を与える。
したがって,本件送付文書の被告取引先への送付は,被告の営業上の信用
を害する事実の告知・流布である。
ウ告知・流布された事実が虚偽であること
「グラブ浚渫ソフト」のうち,G1W及びG1XMS-DOS版については,橘高工
学及び被告の開発,製作によるもので,Aはプログラマーとして関与したに
すぎず,ましてや原告の製作によるものではないし,その著作権は原告に帰
属するものではない。
GPAD及びRTPSについては,カナダのWayPoint社のプログラムであり,
被告がライセンスを受けて利用していたもので,Aの関与は,橘高工学の発
注に対し,インターフェース部分についてマニュアルどおりに設定したにす
ぎない。
本件送付文書の表現からすれば,あたかも「グラブ浚渫ソフト」の著作権
が原告に帰属し,原告が被告にライセンスしているかのような誤解を受ける
ので,本件送付文書の送付により告知・流布された事実は虚偽である。また,
本件送付文書の記載内容は,被告は原告に対して販売報告義務があると誤認
させる点でも虚偽である。
したがって,上記原告の行為は,不正競争防止法2条1項14号に該当す
る。
エ故意・過失
原告は,プログラムを扱う者である以上,著作権の帰属には十分に注意す
べきであり,橘高工学の時代からの開発経緯も知っているので,これを整理
して著作権法に詳しい弁護士に相談すれば,原告にグラブ浚渫ソフトの著作
権がないことは容易に知り得たはずであるから,原告には少なくとも過失が
ある。
オ損害の発生及びその数額
上記の原告の行為により,被告は営業上の信用を毀損され,その損害損害
額は合計500万円をくだらない。
(2)原告の主張
争う。
第6当裁判所の判断
1著作権に基づく請求についての争点の整理と判断の順序
本件においては,船体位置決めプログラムを前提として,G1XMS-DOS版,本件
プログラムという順番で,プログラムが順次作成されているところ,著作物性に
関しては,船体位置決めプログラムの著作物性は争いがなく,G1XMS-DOS版及び
本件プログラムの著作物性は争いがある。他方,プログラムの著作権の帰属につ
いては,船体位置決めプログラム,G1XMS-DOS版,本件プログラムのいずれにつ
いても争いがある。
したがって,①本件プログラムが著作物であり,その著作権は原告に帰属する,
②仮に,本件プログラムがG1XMS-DOS版の複製であって著作物性がないとして
も,G1XMS-DOS版が著作物であり,その著作権は原告に帰属する,③仮に,G1X
MS-DOS版が船体位置決めプログラムの複製であって著作物性がないとしても,
船体位置決めプログラムの著作権が原告に帰属する,のいずれかが認められれば,
原告は,本件プログラムの複製販売の差止めを求めたり,同プログラムの著作権
侵害による損害賠償請求をすることができる。
もっとも,上記①(本件プログラムが著作物であり,その著作権は原告に帰属
する)が認められたとしても,それが二次的著作物であって,原著作物に付加さ
れた部分が小さい場合などには,原著作物の著作権の所在も,損害額の認定にお
いて相当額の決定に影響を与える。
そこで,本件では,まず,本件前プログラム及び本件プログラムをめぐる事実
経過(後記2)について認定した後に,時系列の順序に従って,G1XMS-DOS版の
創作性の有無(後記3),本件前プログラムの帰属(後記4)について判断し,
次に本件プログラムの創作性の有無(後記5),本件プログラムの帰属(後記
6)について判断し,これらの判断を前提として,損害額について判断する(後
記9)。
2本件前プログラム及び本件プログラムをめぐる事実経過
前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨に
よれば,次の事実が認められる(争いのない事実も含む)。
(1)位置決めプログラムについて
アソースプログラムの保有・管理
Aは,位置決めプログラムNB版のソースプログラムを橘高工学に提出し,
Cが変更を加えたり,QuickBASIC版を作成し,橘高工学の著作権表示を付
した(乙23,24,31の2)。もっとも,A自身も位置決めプログラム
NB版のソースプログラムは保有していた(甲15,25,28)。
イ対価の支払
(ア)当時の報酬支払状況(位置決めプログラムNB版以外も含む)
Aは,昭和63年から平成2年ころまでは,プログラムの開発につき時
間制でその月内にプログラム開発に従事した時間に乗じた金額を開発費と
して完成後に支払を受けていた。(原告代表者12ページ,被告代表者1
ページ)
(イ)位置決めプログラムNB版の対価
位置決めプログラムNB版の対価としては,橘高工学はAに対し,開発
期間2か月(昭和63年9月から10月まで)として,総額90万円ない
し100万円を開発費として支払った(甲44)。なお,平成6年当時,
「浚渫用位置決めソフト」は,複製物の販売価格(定価)は320万円,
標準仕切価格は215万円,最低仕切価格は30万4000円,原価すな
わち開発に要した費用は20万円とされている(原告代表者14,15ペ
ージ,甲42)
位置決めプログラムは,Cにより改変された後,複製されて船体位置決
めシステムにインストールされて,橘高工学の著作権表示を付した状態で
橘高工学により販売されていたが,個々の販売に際して,Aは調整等に関
与しておらず,対価も受けていない。(前記第3の2(1)イ)
ウ橘高工学からの指示
橘高工学は,測器舎の操作マニュアルと通信ルーチンを示して詳細な仕様
書を示さず,また,プログラム言語の指定もすることなく,Aに位置決めプ
ログラムの作成を依頼した。Aは,昭和63年当時,一般的によく使用され
ていた日本電気株式会社製のパソコンで使用できるよう,プログラム言語と
してN88BASICを選択して,画面及び操作性は測器舎のものとは異なる内容
で,位置決めプログラムNB版を作成した。
橘高工学からAに対して具体的な指示がなかったことについては,被告が
具体的に指示するために示したと主張する資料のうち,「座標計算」(乙2
8)は,位置決めプログラムNB版の作成後,FがA作成のプログラムを解
析して作成したものであるし(甲29),「座標計算ロジック」(乙15)
及び「自動追尾光波距離計製作仕様書」(乙29)は,A自身が作成したも
ので,これらはいずれも,Aがプログラム作成にあたり橘高工学から示され
たものではなかった(被告代表者は,その尋問において〔調書33ページ〕,
乙29は国土総合建設の従業員が作成したと述べるが,筆跡及び乙29の5
ページの「終予」の字の誤りの記憶に関する原告代表者の説明からすれば,
Aが作成したものと認められる。)。(原告代表者5ないし7,48ないし
52,56,57ページ,被告代表者28,33ページ,甲44)
エ著作権表示
位置決めプログラムNB版のソースプログラムの冒頭には「Kittaka
engineeringlaboratoryCo.,Ltd」の文字が記述されているが(甲25),
メニュー画面やバージョン画面等に「(c)Copyright」の表示は現れない(甲
15)。
位置決めプログラムQB版には,「(c)CopyrightMicrosft/Kittaka
EngineeringLaboratoryCo.,Ltd.1989AllRightReserved.」の表示が現れる
(乙23,24)。
オ汎用性
位置決めプログラムは,グラブ浚渫船,サンドコンパクション船等,様々
な種類の海洋土木作業船の船体の誘導位置決めに使用することができる船体
位置決めシステムに対応するプログラムで,グラブ浚渫施工管理システムに
対応するプログラム(GDX等,G1Xシリーズなど)の前提となるものでもあ
った。(原告代表者7ページ)
(2)G1XMS-DOS版,G1Wについて
アソースプログラムの保有・管理
(ア)G1XMS-DOS版
Aは,平成3年ころから平成5年ころは,GDX等のソースプログラムを
橘高工学に提出していなかったが,平成5年ころ,橘高工学から提出する
ように指摘され,その後,橘高工学から要求があった場合はソースプログ
ラムを提出していた。Aは,現場で修正が必要な場合に備えて,G1X
MS-DOS版のソースプログラムを納入時に納入先のコンピュータのハード
ディスクに記憶させていた。G1XMS-DOS版について,平成8年6月ころ,
橘高工学従業員Fが,平成9年5月ころ,橘高工学従業員Gが,修正及び
コメントを加えている。(原告代表者46,59,60ページ,甲44,
乙18,19)
(イ)RTM
RTMについては,そのヘッダーファイル「rtm.h」のみが橘高工学に提
出されているが,それ以外のソースプログラムは橘高工学に渡されておら
ず,AとBとの間で,その著作権がAに帰属することについて確認してい
た。(原告代表者46ないし48,59,60ページ,被告代表者2ない
し4ページ,甲44)
(ウ)G1W
Aは,G1Wのソースプログラムを橘高工学に提出していない(乙58)。
イ対価の支払
(ア)当時の報酬支払状況(G1XMS-DOS版及びG1W以外も含む)
a平成2年ころから平成6年ころまで
Aは,平成2年ころは,個別に注文書により受注・対価の決定をして
いたが,平成3年ころから平成6年ころまでは,月100万円の固定報
酬で受注プログラムの開発に専従していた。(被告代表者1ページ,甲
44,乙54)
b平成6年ないし平成8年ころから平成10年ころまで
Aは,平成6年ないし平成8年ころ以降は,橘高工学の専従ではなく
なり,出来高払で開発費を受領していたが,報酬の一部(約7割)は
「バック」させられていたため,実際に受領した金額は平均で月約10
0万円であった(原告代表者12,27ないし29ページ,被告代表者
4,5ページ,甲40,44,乙54)。なお,当時,10年以上の経
験があるSEの報酬の相場は,月額100万円から180万円であった。
(甲37,44)
c平成10年及び平成11年
平成10年及び平成11年における橘高工学からAへの金銭の支払状
況は,別紙4のとおりであり,約束手形により支払われた。Aから橘高
工学への「バック」分及び橘高工学からAへの貸付分を除いた実払額は,
平成10年で月100万円ないし200万円(合計1551万円。月平
均約130万円),平成11年で40万円ないし240万円(合計12
57万円,月平均約100万円)であった(被告代表者5ないし13ペ
ージ,甲40,乙55,56)。
BとAは,毎月20日ころ,1か月分の支払額について話し合い,A
がその場で請求書等を発行し,Bが約束手形を振り出して支払っていた。
なお,Aが発行した請求書(甲40)の内訳は,Bに言われたものを記
載したものであって,実体を表しているものではない。(原告代表者1
0,11ページ。なお,甲40と乙55,56,58の添付別表は平成
10年の部分について,金額的にはほぼ一致するが,明細は一致しな
い。)
(イ)個別のプログラムの対価
aG1XMS-DOS版の対価
平成2年9月11日に発注されたGDX等の開発(開発費,客先への納
品・インストール作業,オペレーターへの指導・インストレーション)
の対価は「2船分」(青木組所有船向けと小島組所有船向け。プログラ
ムの販売自体は青木組に2船分)で150万円であった。橘高工学は,
青木組から上記プログラムの開発費用として1船分につき200万円な
いし300万円を請求していた。(原告代表者11ないし14,40ペ
ージ,甲30)
橘高工学は,平成6年4月に販売したGDX等の複製物を定価350万
円ないし420万円,実売価格を200万円ないし300万円で販売し
ていたが,うち原価すなわち開発ないし修正に要した費用は70万円な
いし90万円に設定されていたから,これが原告に支払われた費用と推
認される。また,上記実売価格からすれば,GDX等の著作権を譲渡する
場合の相当な価格は,上記実売価格を大きく上回るものと推認される
(Aは2000万円をくだらないと供述する。)。(原告代表者14,
15ページ,被告代表者2,34,35ページ,甲42,44)
G1Xver1.62(平成10年2月ころコンパイル)までは,対象の作業船
ごとにプログラムを調整する必要がありバージョンが変更されていたが
(そのために「GDX等」のプログラムの名称も,GDX,GDT,GOT,GDM,
GSM,GTM,GSX,G2X,88KYO,18RYU,25RYUなどと作業船ごとに細かく
異なっている。甲14,40,乙34,35,55など),橘高工学は
その調整をAに依頼し,Aは,調整の都度,修正費ないし改造費として
橘高工学から報酬を受けていた。したがって,Aは,橘高工学が複製販
売したプログラムの数をほぼ把握していたが,G1Xver1.62以降につい
ては,特に船ごとに修正ないし改造を加えなくても,多種多様のグラブ
浚渫船に対応できるようになったため,Aは,橘高工学による
G1Xver1.62以降のプログラムの複製販売数を把握していない。(原告
代表者16,62ページ,甲44。なお,G1Xver2.00〔乙46の1〕の
ソースプログラムには複数の船名の記載がある。例えば「G1X_MODE」
〔乙46の1の15〕には「18東照号」「38海栄号」「25龍王
丸」「21須山丸」の記載がある。)
bG1W
橘高工学は,Aに対し,G1Wの開発費として300万円を支払った
(被告代表者37ないし39ページ,甲40,乙55)。
ウ橘高工学からの指示
(ア)GDX等
橘高工学が,GDX等の開発をAに依頼した際,Aは,納入予定先から橘
高工学の従業員を介して,プログラムの画面デザインの1つ(主要画面)
を示され,それ以外の画面(15枚)の設計及びそれに見合う機能を持つ
プログラムはAが開発した。当時,橘高工学の従業員には,C言語でプロ
グラムを作成できる者はおらず,Aは,橘高工学の従業員から,プログラ
ムのデザイン,機能,操作等に関するアドバイスは受けていない。(被告
代表者29ページ,甲44)
(イ)G1W
橘高工学は,平成11年,Aに対し,G1XMS-DOS版をWindowsに対応さ
せるよう開発の依頼をしたが,プログラム言語の指定はなかった。
Aがプログラム言語としてVisualBasicを選択してG1Wを作成したの
は,Ⅰ)VisualBasicはVisualC++に比して容易に開発できるよう工夫さ
れた独特の開発環境と共に提供された言語で手軽であり,Ⅱ)当時,Aは,
Windows対応VisualBasicを用いたプログラムを数例組んだ経験はあった
ものの,Windows対応VisualC++によるプログラム開発の経験はなく,Ⅲ)
納期も考慮したことによる。なお,このころ,Aは,GPADのVisualC++版
を開発しており,G1Wについても,GPADのDLLの部分は,当時のVisual
Basicで作成することは不可能であったため,VisualC++で記述しなけれ
ばならなかった。(甲44)
エ著作権表示
(ア)GDX等
GDX等の画面のトップページには,会社名等の表示は一切ないものもあ
るが(甲17,乙17,平成2年11月ころのバージョン。甲18,平成
3年1月ころのバージョン),「KittakaEngineeringLaboratory」の表
示が現れるものもある(乙35,平成6年11月ころのバージョン。乙3
4,平成7年11月ころのバージョン)。
なお,原告は,GDX等のソースプログラムにはAの著作権表示が入って
いた旨主張するが(平成17年8月29日付け第6回準備書面4ページ),
原告はGDX等のソースプログラムを保有しているはずであるにもかかわら
ず,それを提出しない。
(イ)G1Xver1.20ないしG1Xver2.00
G1Xver1.20,G1Xver1.50,G1Xver1.61,G1Xver1.61B,G1Xver1.61C,
G1Xver1.62,G1Xver2.00のメニュー画面には,「KittakaEngineering
Laboratory」の表示が現れ(乙36ないし乙38,うち乙36は
G1Xver1.50の平成9年10月のバージョン),G1Xver2.00のソースプロ
グラムの冒頭には「KittakaengineeringlaboratoryCo.,Ltd.」の表示が
あるが,これらは納入先を記載したものである。他方,G1Xver2.00に使
用されているRTMのソースプログラムの冒頭には,「Copyright(c)Nihon
systemplannning」の表示がある。(原告代表者58,59ページ,乙4
6の1・2)
(ウ)G1W
G1Wのメニュー画面には,「Copyright(c)byKittakaEngineering
Laboratory」の表示が現れるが,これはAが記載したものである(原告代
表者24ページ,乙33)。
オ汎用性
GDX等は,各作業船ごとに改造,修正をすれば,他のグラブ浚渫船に用い
ることができ,当時,グラブ浚渫施工管理システムを導入できる可能性のあ
るグラブ浚渫船は国内で100隻くらいあった。(原告代表者15ページ)
(3)G1Xver3.00について
アソースプログラムの保有・管理
Aは,G1Xver3.00のソースプログラムを橘高工学に提出しておらず,橘
高工学も同プログラムのソースプログラムを保有していない(乙58)。
イ対価の支払
Aは,G1Xver3.00の対価として,橘高工学に対し,1セットあたり25
0万円で合計2セット(堀松建設向けと大潮建設向け)分500万円(消費
税抜き)を請求したが,橘高工学からは支払を受けることができず,平成1
2年7月以降に,SKKから335万円(消費税抜き。うち300万円が開
発費で35万円が現地調整費)を受領した(原告代表者19,38ないし4
1ページ,甲7,33,40,44)。
ウ橘高工学からの指示
G1Xver3.00の開発にあたり,橘高工学からプログラム言語の指定はなか
った。
Aは,G1WをWindows対応VisualBasicで完成させていたが,Ⅰ)G1Wのう
ちDLLを用いる部分についてはVisualC++で作成するなど,VisualBasicを
使用する場合でもVisualC++を一部併用しなければならず,VisualBasicの
ままでは調整が煩雑であったこと,Ⅱ)当時VisualBasicは故障時の原因追
及が困難で,オーバーフロー時等に適切に対応することができない等,安定
性の点で疑問があったこと,Ⅲ)平成11年にすでにGPADはVisualC++のも
のを開発済みであったことから,G1Xver3.00についてはVisualC++を使用す
ることとした。(甲44)
エ著作権表示
(ア)画面表示
G1Xver3.00の「G1xのバージョン情報」の画面には「(c)Copyright
NihonSystemPlannnig2000AllRightsReserved」の表示が現れる(甲3
6,乙1,442)。他方,Aが作成したG1Xver3.00の平成12年4月
付けの取扱説明書(乙50)に載せられているシステムの起動時画面,バ
ージョン情報画面には,「(c)CopyrightKittakaEngineeringLaboratory
Co.,ltd.2000AllRightsReserved」の表示がある。(原告代表者24,
25ページ,乙50)
(イ)ソースプログラムの記載
G1Xver3.00のソースプログラムのうちG1Xの中核となるG1X.rcには
「(c)Copyright」「NihonSystemPlanning」「2000-2003AllRight
Reserved」の記述の表示がある(甲36の1,乙47の1の7)。
G1Xver5.50に含まれているモジュール「CalHaVa.cpp」の冒頭には
「Copyright(c)byKittakaengineeringLaboratoryCo.,Ltd」の記載があ
るが(乙47の2の1),モジュール「CalHaVa.cpp」は,G1Xver2.00
(乙46の1)及びG1Xver3.00(甲36)には含まれていない。
オ汎用性
Aは,平成12年8月ころ,日本測器経由で,大潮建設にG1Xver3.00
(販売価格200万円)を販売した。(原告代表者19ページ,甲7)
(4)G1Xver5.24ないしver5.70及び被告設立後の状況
アソースプログラムの保有・管理
Aは,本件プログラムのソースプログラムを橘高工学ないし被告に渡して
いない。そのため,橘高工学の破産宣告後,被告は,取引再開をAに依頼し
た(被告代表者本人19ページ)。
被告が書証として提出しているG1Xver5.50のソースプログラム(甲20,
乙18,乙47の1・2)は,Aが,サハリンのホルムスク港で西村組のグ
ラブ浚渫船にソースプログラムを残したものについて,被告の従業員ないし
Bが持ち帰ったものである(被告代表者本人43ページ,甲44)。
イ対価の支払
(ア)金員の授受
被告は,平成12年10月ころ,Aに対し,グラブ浚渫施工管理システ
ムのプログラムの供給を依頼し,Aは,同年11月ころから,既に開発済
みの本件プログラムのオブジェクトプログラムを被告に納入するようにな
った。Aは,バージョンアップ等の作業をし,その支払を受けているが,
例えば次のとおり,作業をしていない分についても,50万円ないし80
万円を受領したことがある。(被告代表者17ないし19ページ,甲4
4)
a納品書(甲1の1)の「坂口工業向けバージョンアップ費」50万円
については,被告は,本件プログラムに関して,ソフト及びハードを代
金800万円強で坂口工業に納品したが,Aは「坂口工業向け」のプロ
グラムの作成等の作業をしていない。
b納品書(甲1の2)の「大新土木向けソフトバージョンアップ費」5
0万円については,被告は,代金約400万円でMS-DOSのプログラム
をWindowsのプログラムに入れ替える作業をしたが,Aは「大新土木向
け」のプログラムの作成等の作業はしていない。
c納品書(甲1の15)の「伯新G1Xソフト一式」については,被告は
Aに代金20万円でプログラムの改造を依頼したが,実際には50万円
を支払った。
(イ)金銭授受の趣旨
Bの認識としては,被告がAと取引を開始するにあたって,Aから橘高
工学時代の損失補償を求められ,G1Xver3.00等のソースプログラムはA
が保有し,その意味において被告はAより弱い立場にあったたため,Bは,
Aの要望を容れて損失補償をすることとし,G1X関係のプログラムが販売
された際に,その修正費・改造費に付加する形で,あるいは具体的に仕事
の発注はないが発注があったかのような名目で,50万円ないし80万円
ずつ,合計540万円(別紙5の「売上高」欄に記載されている数字に黄
色のマーカーがされている部分)を支払った。(被告代表者16ないし2
0ページ,乙58)
Aは,訴状8ページ下から3行目以下において,被告が橘高工学時代の
「負債を補償すると約束した」ので被告との取引に応じることとしたと述
べ,被告から報酬として受領した金員の一部(実際にした仕事の対価を超
える額)あるいは具体的な仕事なくして受領した金員について,少なくと
もその一部は損失補償の趣旨であったと理解していた(原告代表者22,
23,42ないし44,訴状8ページ,平成16年12月8日付け原告の
第1回準備書面2ページ)。なお,授受のあった金員の名目は「ソフト
料」「バージョンアップ費」等であったが,Aは,被告との間で,その実
質はライセンス料であるとの確認はしていない。(原告代表者61,62
ページ)
もっとも,上記「損失補償」は支払時期や金額が決まっていたのではな
く,被告は,橘高工学がAに与えた損失と認識していた金額(約540万
円)を支払い終わった後も,支払を終わらせると言えば,A(原告)が,
損失額を増加させて主張したり,他の理由で金銭の要求をすることを予想
しており,G1Xver3.00等のソースプログラムを保有しているA(原告)
からプログラム(バージョンアップ版)の供給を絶たれることを恐れて,
金銭の支払の終了や支払うべき金額の確定を申し入れたことはなかった
(乙58,被告代表者19,20ページ)。
ウ著作権表示
本件プログラムのうちG1Xver5.24ないしver5.70は,コンピュータ作動
時にバージョン表示メニューを操作すれば,「(c)CopyrightNihonSystem
Planning」「Programer:A」という表示を確認できる(甲8,乙47の1)。
同プログラムの起動時にも数秒間,同じ表示が現れる。
3G1XMS-DOS版の創作性の有無(前記第4の1(3)の争点)
(1)前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣
旨によれば,次の事実が認められる(争いのない事実及び前記2で認定した事
実も含む)。
ア昭和63年当時の船体位置決めシステム及び位置決めプログラムNB版
昭和63年当時の初期の船体位置決めシステムは,作業船に設置された光
波距離計測装置における2台の自動追尾光波距離計を用いて,船体の位置を
計算するのに必要な距離や水平角のデータを求め,次に,各データが作業船
内のコンピュータに送付され,「船台位置決め方法」により,上記の送付さ
れたデータを作業船内のコンピュータで位置演算処理をして,船体位置を計
算するものであった。各データと演算処理された結果は,それぞれ座標の数
字及び座標上の位置図として,作業船内のコンピュータの画面ディスプレイ
に表示された。
なお,プログラムを作成したAの感覚では,位置決めプログラムNB版は,
比較的単純で,Aの経験と技量によれば短期間で完成できるものであった
(弁論の全趣旨・原告の平成17年9月16日付け第7回準備書面2ペー
ジ)。
イ平成2年ころ以降のグラブ浚渫施工管理システム及びGDX等
GDX等は,船体位置決めシステムを前提とするものであるが,船体の位置
決めと,堀跡の管理の機能を有するプログラムである。
(ア)船体位置決めの機能
平成2年ころ以降のグラブ浚渫施工管理システムにおける船体位置決め
の機能は,従来の船体位置決めシステムにあった2台の自動追尾光波距離
計によるデータ収集に加え,重機に備え付けられた旋回角計,ジブ角計,
深度計のセンサーからのデータの取込みが可能となり,あらかじめ入力さ
れた船体の寸法に基づいて演算処理をして,船体の位置情報及びグラブバ
ケットの位置情報を計算し,これらを画面ディスプレイにリアルタイムで
表示するものであった。
(イ)平成2年当時のグラブ浚渫施工管理システムのうちの堀跡管理の機能
は,上記の船体位置決めの機能において取得したデータや潮位に関するデ
ータ等を基に,堀跡指示用データ入力装置を付加して堀跡の演算処理を行
い,画面ディスプレイに平面図での1工区ごとの浚渫堀跡深さ等を表示す
るものであった。(乙17)
(ウ)橘高工学は,平成2年10月ころ,船体位置決めシステムに堀跡管理
機能を付加して構成することを企画して,「グラブ浚渫工事施工管理装置
計画仕様書」(乙17)を作成した。
船体位置決めプログラムNB版の画面(甲15)とGDX等のうちの一つ
であり,18東照号向け仕様として作成されたグラブ浚渫施工管理プログ
ラムGOTVer.1.0(平成4年11月3日作成,平成6年4月7日ソナー仕
様に変更。甲14)の画面(乙35)を対比すると,両者は,メインメニ
ューも異なるうえ,例えば,タイトルとしては似ており船体位置決めに用
いるものと認められる「船体の属性入力画面」(甲15)と「船体属性の
設定画面」(乙35)も,入力すべき項目が,前者は「基準点と距離計の
相互距離」であるのに対し,後者は「船体の形状,船首からの旋回中心の
距離,光波計位置(座標系で入力)」等と異なるうえ,画面表示も大きく
異なるなど,全体として共通性に乏しいことから,GDX等は,単に,従来
の船体位置決めプログラムNB版に堀跡管理のプログラムを付加したにす
ぎないものであるとは認めがたい。
また,プログラムを作成したAの感覚では,G1XMS-DOS版ないし本件プ
ログラムにおいて船体位置決め機能の占める割合は,堀跡管理機能の占め
る割合に比して小さかった。(原告代表者本人8ないし9ページ)
ウ平成8年ころ以降のグラブ浚渫施工管理システム及びGNXないしG1Xシリ
ーズ
平成8年当時のGPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムは,その名称も
LAHシリーズからNAV-LAHシリーズに変更され,船体位置決めの方法は,自
動追尾光波距離計とGPS装置のいずれかを選択できるものとなり,プログラ
ムにおいてもGPS装置に対応する部分が追加された。
GPS装置に対応する部分のプログラムの最も特徴的な部分であるRTK演算
部分は,WayPoint社が作成したGPS処理システムソフトのDLLのプログラ
ムないしモジュールが用いられていた。
GDX等(平成4年ないし平成5年ころ)のモジュール数が13であったの
に対し,平成8年以降のGNXないしG1Xシリーズのモジュール数は,通信制
御,描画,重機処理,LAN処理などが追加されて22となり,各モジュー
ルの更新も繰り返されている(甲14)。
(2)G1XMS-DOS版の創作性の有無
以上のとおり,グラブ浚渫施工管理システムは,船体位置決めの機能を担う
部分についても,それ以前の位置決めシステムと比較して,処理内容が,重機
に備え付けられたセンサーからのデータ(旋回角計,ジブ角計,深度計)等を
計測し,これらのデータとあらかじめ入力された船体の寸法データに基づいて
演算処理をして,船体の位置情報及びグラブバケットの位置情報を計算する方
法と光波計による方法とを一体化して全体として船体位置決めをするというよ
うに相当複雑になっており,各プログラムの画面においても共通性が乏しい。
これに加えて,G1XMS-DOS版が位置決めプログラムに用いられていたN88
BASICやQuickBASICとは言語体系が全く異なるC言語で記載されていること
からすれば,G1XMS-DOS版は,プログラムの表現方法に選択の幅が十分にある
うちから作成者が選択したものであって,作成者の個性が表れているものと認
められる。
また,新規追加された堀跡管理機能も,GDX等の浚渫管理メニュー画面(甲
17)をみると,「工区メッシュ設定」「潮位設定」「浚渫作業」「工区座標
の設定」「仕掛りデータの編集」「出来高データの編集」等といった項目があ
り,新規追加された堀跡管理機能の処理部分の内容の複雑さ及びそれらの処理
に必要と推測されるプログラムの量からすれば,そのプログラムの表現方法に
は選択の幅が十分にあり,その中から作成者が選択した表現であって,作成者
の個性が表れているものと認められる。
なお,G1XMS-DOS版は,平成2年のGDX等の作成以降,モジュール数が増加
し,機能も追加されているが,これらの各プログラムはいずれもG1XMS-DOS
版の他のバージョンからの複製又は翻案にすぎないものと認められる。
以上より,G1XMS-DOS版(GDX等からG1Xver2.00まで)は,位置決めプロ
グラムと同一の著作物ではなく,少なくとも,位置決めプログラムを原著作物
とする二次的著作物であるということができる。
なお,G1Xver1.20ないしG1Xver2.00は,RTMのもとで作動するものであり,
RTMは,Aに著作権が帰属する著作物であるが,それ自体はOSであって,
G1Xver1.20等とは別個の著作物であることはいうまでもない。
(3)被告の主張について
被告は,G1XMS-DOS版は,RTMを除くと,位置決めプログラムに付加的な変
更を加えたものにすぎず,その内容は,①従前は堀跡管理について深度認識ス
イッチを押すことで堀跡が画面上に表示されたが,新たに深度信号を自動で取
り込み,その深度に伴う色づけを行うように変更した,②従前は方位角表現を
本船の絵に基づく捻れ角表現をしていたのを,新たにインジケーター表現に変
更した,③メインメニュー画面の項目を増やし見やすくしたというものである
から,独自の創作性はないと主張する。
しかし,前記(1)(2)で認定したとおり,位置決めプログラムとGDX等を比較
すると,被告が主張するように,単に画面表示を変更して使いやすくしただけ
の相違ではないことは明らかであるから,被告の主張は採用できない。
4本件前プログラムの著作権の帰属(前記第4の1(4)の争点)について
(1)G1XMS-DOS版の著作権の帰属
アG1XMS-DOS版の開発経緯及びその後の事情
(ア)開発時の報酬の金額
前記2において認定したとおり,橘高工学は,平成2年ころ,Aによる
プログラムの開発につき,個々の注文書により発注・対価の決定をし,A
に対し,平成3年ころ以降は月100万円の固定報酬を支払っていたが,
平成2年11月に作成されたGDX等の対価としては,開発費(客先への納
品・インストール,オペレーターへの指導・インストレーションも含
む。)は「2船分」で150万円を支払い,客先である青木組に対しては
開発費用として,1船分につき200万円ないし300万円を請求してい
た。また,橘高工学は,平成6年4月ころ販売していたG1XMS-DOS版に
ついて,定価を350万円ないし420万円,実売価格を200万円ない
し300万円と設定し,開発ないし修正に要した費用(原告に支払った費
用)は70万円ないし90万円としていた。上記実売価格からすれば,
GDX等の著作権を譲渡する場合の対価は上記実売価格を大きく上回り,A
の供述する2000万円をくだらないとの金額も,誇張ともいえないもの
と認められる。
橘高工学は,平成6年ないし平成8年ころ以降は,Aに対し,プログラ
ムの開発について出来高払で開発費を支払っており,その額は「バック」
分を除くと月平均約100万円で,平成10年,平成11年も同様の状況
であった。GPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムに対応するプログラ
ムの初期版(GNX)の対価は,甲40の24枚目の平成9年1月20日付
け「NAV-LAH・LAH一体化ソフト開発」の金額が220万円とされている
ことから,約220万円であったと推認される(前記のとおり,甲40は,
実際の項目と金額が一致しているわけではないが,G1Xver1.10が完成し
たのが平成9年5月であり〔甲14〕,時期的に近接していること,従前
の本件前プログラムの具体的対価,当時の支払状況などから,そのように
推認される。)。
(イ)ソースプログラムの管理
前記2において認定したとおり,Aは,位置決めプログラムNB版のソ
ースプログラムを橘高工学に渡したところ,Cにより,そのプログラムの
ノウハウを使用されたことから,平成3年ころから平成5年ころは,一般
的にソースプログラムを橘高工学に提出しなくなり,GDX等のソースプロ
グラムも橘高工学に提出していなかった。しかし,平成5年ころ,橘高工
学からソースプログラムを提出するよう求められ,そのころから,橘高工
学からの要求に応じてG1XMS-DOS版のソースプログラムを提出し,現場
で修正が必要な場合に備えて,G1XMS-DOS版のソースプログラムを納入時
に納入先のコンピュータのハードディスクに記憶させていた。実際に,平
成8年6月ころ,橘高工学従業員Fが,平成9年5月ころ,橘高工学従業
員Gが修正及びコメントを加えている。もっともG1XMS-DOS版は,RTMの
もとで作動するものであり,Aは,RTMのソースプログラムをヘッダーフ
ァイルを除いて橘高工学に渡していないし,橘高工学との間でRTMの著作
権がAに帰属することを確認している。
なお,G1Xver1.62(平成10年作成)までは,対象の作業船ごとにプロ
グラムを調整する必要があり,Aが橘高工学から依頼を受けてバージョン
を変更していたので,Aは,その変更内容を承知していたし,調整の都度,
修正費ないし改造費として橘高工学から報酬を受け,橘高工学が複製販売
したプログラムの数をほぼ把握していた。
(ウ)著作権表示
前記2において認定したとおり,GDX等の画面のトップページには,
「KittakaEngineeringLaboratory」の表示が現れ,取扱説明書にも「株
式会社橘高工学研究所」の記載があるが,これらは納入先(プログラムが
組み込まれるシステムのメーカー)の名称を記載して,システムのユーザ
ー(上記メーカーの顧客)等にメーカー名を認識させようとしたものと考
えられる一方で,「(c)Copyright」等が付された著作権表示は橘高工学の
ものもAに関するものもない。
G1Xver1.2ないしG1Xver2.00のメニュー画面には,「Kittaka
EngineeringLaboratory」の表示が現れ,G1Xver2.00のソースプログラム
の冒頭には「KittakaengineeringlaboratoryCo.,Ltd.」の表示があり,
これらは納入先を記載したものと考えられるが,その画面ないしソースプ
ログラムに「(c)Copyright」等が付された著作権表示は橘高工学のものも
Aに関するものもない。
G1Xver2.00に使用されているRTMのソースプログラムの冒頭には,
「Copyright(c)Nihonsystemplannning」の表示がある。
ただし,G1WにはAが自ら橘高工学の著作権表示を付している。
イG1XMS-DOS版の著作権の帰属
(ア)著作権譲渡の対価の支払の有無について
プログラムの著作権を譲渡する場合,当然のことながら,譲渡後は,譲
渡人は同プログラムの著作権(著作者人格権を除く)に関して何らの権利
も有さなくなるのであって,同著作権に係る著作物を自らも複製・頒布・
翻案することができない上,第三者が同著作物を複製等しても,同著作権
に基づく差止請求,損害賠償請求をすることもできなくなる。他方,譲受
人は,同著作物を複製・頒布・翻案することができるし,第三者(譲渡人
も含む)による同著作物の複製等に対して,同著作権に基づく差止請求や
損害賠償請求をすることができる。
このように,著作権を譲渡するということは,著作権法21条ないし2
8条が規定する著作者の権利を全て譲渡するということであり,対象とな
る著作物の経済的価値が大きければ大きいほど,譲渡する著作権の対価も
高額なものとなるのは当然である。そして,著作物の経済的価値の大小に
ついては,同著作物の複製物が販売されている場合は,その販売価格の多
寡が参考となる。
本件において,G1XMS-DOS版の著作権の譲渡の対価であると評価するこ
とができる程度の額の金銭の授受の有無について検討すると,GDX等の開
発からG1Xシリーズの開発ないし修正に至るまで,例えば,GDX等の複製
物が少なくとも一船分200万円ないし300万円で販売されていること
に見合うような著作権譲渡の対価が,著作権の譲渡時に授受されたと認め
るに足りる証拠はない。
むしろ,G1XMS-DOS版については,GDX等の複製物が一船分200万円
ないし300万円で販売されるものについて,Aは,システムを導入する
作業船に併せてプログラムを修正し,複製物が作業船所有者に納品,販売
される際に,一船につき70万円ないし90万円等の報酬を受領していた
というものであった。このことからすると,G1XMS-DOS版に関してAに支
払われた対価は,著作権の譲渡代金ではなかったと思われる。
(イ)ソースプログラムの提出について
Aは,G1XMS-DOS版のソースプログラムを橘高工学に提出し,現場で修
正が必要な場合に備えて,G1XMS-DOS版のソースプログラムを納入時に納
入先のコンピュータのハードディスクに記憶させている。
しかし,Bの説明(乙54)によっても,これは,平成5年ころ,今後
の仕事がなくなるのではないかと心配するAに対し,Bが,①今後の注文
もAに回すことを約束し,②橘高工学が依頼してAが作成したプログラム
はもともと橘高工学に帰属するから,ソースプログラムを提出するのは当
り前である,③納品した製品のメンテナンスにソースプログラムは必要で
あると説得した結果であるというのである。
そうすると,上記のBの説明は,Aが,ソースプログラムを開示すると,
橘高工学にとってそのソースプログラムに基づくG1XMS-DOS版の修正
(複製の範囲内に止まる修正と翻案となる修正の両方を含む)が可能とな
るため,これを恐れてソースプログラムを提出しなかったのに対し,橘高
工学が,Aのプログラムを他人に利用されない権利(複製の範囲で修正す
る権利及び翻案権)を尊重することを約束した趣旨であるように解される。
なお,その際,Bは,「橘高工学が依頼してAが作成したプログラムは
もともと橘高工学に帰属する」と説明したというのであるが,これは,当
該特定のバージョンの複製物の所有権ないしこれに伴う権利(デッドコピ
ーすることの許諾も問題となるが,平成5年ころは,特定のバージョンを
デッドコピーして他の船に使用することはできなかったから,この時点で
そこまでの意味があったとは認められない。)を指していると理解する余
地がある。したがって,上記Bの説明によるソースプログラム提出の経緯
は,AがG1XMS-DOS版について著作権(翻案権及び複製権)を有してい
る(譲渡していない)ことと矛盾するものではない。
(ウ)プログラムの複製について
G1XMS-DOS版は,G1Xver1.62までは,対象の作業船ごとにプログラム
を調整する必要があり,橘高工学はその調整をAに依頼していたため,橘
高工学がAに対する「バージョンアップ代金」「ソフト修正代」名目での
支払なしにプログラムの複製物を販売したことはなかった。
また,G1XMS-DOS版は,平成5年ころにRTMが開発された後には,RTM
のもとで作動するもので,RTMについてはAが著作権を主張し,そのソー
スプログラムを管理し,Bは,RTMを無断使用せず,これを使用するよう
なソフトを作成する場合にはAに依頼することを約束していた(被告第1
7準備書面)。
したがって,G1XMS-DOS版を大きく翻案して,新たな創作性が加えられ
たプログラムをAの承諾なく作成して販売する場合は,依然としてRTMを
使用するプログラムとなってしまい,RTMの著作権侵害となるとともに,
Aに対する約束違反にもなると考えられる。
このことからすれば,G1Xver1.62以降は,橘高工学はAの関与なしに
プログラムの複製物を販売することができるようになったものの,その著
作権が橘高工学に譲渡されたのではなく,Aが,橘高工学による当該バー
ジョンのデッドコピーを許諾ないし黙認していたにすぎないものと解され
る。
(エ)著作権表示
G1XMS-DOS版の各ソースプログラムないしメニュー画面に,橘高工学の
表示が現れるが,これらについて「(c)Copyright」等が付された著作権表
示はなく,単にAから見た納入先である橘高工学の名称を記載したものに
すぎないと考えられる。そして,Aが自らG1XMS-DOS版のプログラムに
橘高工学の著作権表示をしたり,第三者によって橘高工学の著作権表示が
されている状況を放置・黙認するといった事実はない。
(オ)まとめ
これらの事情に鑑みれば,Aは,G1XMS-DOS版の著作物について,橘高
工学に特定のバージョンのデッドコピーによる複製,譲渡を許諾ないし黙
認していた可能性はあるものの,その著作権自体までも橘高工学に譲渡し,
自らの著作権を失ってしまったと評価することはできない。
したがって,G1XMS-DOS版の著作権はAに帰属し,同著作権は,平成1
8年5月までにAから原告に譲渡されているので,原告に帰属する。
ウ被告の主張について
(ア)共同著作・黙示の譲渡の合意の主張について
a被告は,Aは,橘高工学従業員から指示を受け,同従業員と協力しな
がら,G1XMS-DOS版を作成したので,G1XMS-DOS版は,橘高工学従業員
との共同著作であると主張する。
しかし,技術的説明や指示をしたとしても,そのことにより直ちにプ
ログラムの表現をしたことにはならないところ,被告が,橘高工学の
G1XMS-DOS版の各発注時に,プログラムの表現に関わる技術的説明や指
示をしたと認めるに足りる証拠はない。また,デバッグや検収の作業を
橘高工学の従業員とAが協力して行ったとしても,デバッグはプログラ
ムの修正の作業にすぎないから,同修正により新たに創作性のある表現
がされたといった特段の事情のない限り,そのプログラムが橘高工学の
従業員とAの共同著作となるものではない。
b次に,被告は,Aは,橘高工学にソースプログラムを提出し,プログ
ラムに橘高工学の表示をし,橘高工学の指示に基づきかなり高額の作成
料でプログラムを作成し,ライセンス料の請求をしたことがない等の事
情からすれば,著作権譲渡の明示的な書面はなくても,橘高工学に対し
著作権(共同著作と認められる場合は持分)を譲渡し,同一性保持権を
放棄する旨の黙示の合意をしたと主張する。
しかし,プログラムにある橘高工学の表示は,前記のとおり,著作権
表示ではなく,むしろ,納入先の名称を記載したものにすぎないと認め
られることは前示のとおりである。
プログラムの作成料ないし開発費についても,前記のとおり,著作権
譲渡の対価といえる程度に高額な報酬が支払われたものではないことは
前記のとおりである。
また,橘高工学にソースプログラムを提出したとしても,そのことに
よって直ちに著作権を譲渡したとすることはできない。かえって,橘高
工学が,プログラムの修正はAに発注することを約束していたことは,
B自身認めるところであり,A自身もソースプログラムを管理しており,
自ら複製,翻案することも可能な状態であった。
cさらに,被告は,G1XMS-DOS版がいずれもグラブ浚渫施工管理システ
ムNAV-LAHのGPS受信演算装置にインストールして用いるものであり,
他の用途はなく,橘高工学が製造するハード専用で橘高工学以外の者が
利用することはできないから,橘高工学がAにプログラムのバージョン
アップを依頼する際,それらのプログラムの著作権は橘高工学に帰属す
ることを当然の前提としていたと主張する。
しかし,前記2で認定したとおり,GDX等は,改造,修正を加えれば,
他のグラブ浚渫船に用いることができ,当時,グラブ浚渫施工管理シス
テムを導入できる可能性のあるグラブ浚渫船は国内で100隻くらいあ
ったのであり,汎用性がまったくなかったものではない。
dなお,G1Wは,Aが自ら橘高工学の著作権表示を付している。
しかし,G1XMS-DOS版はC言語で記述されているのに対し,G1Wは,
系列の異なるVisualBasicで記述されている。このように,G1Wは,
G1XMS-DOS版とは別言語による別バージョンとして橘高工学に納入され
たものであるから,仮に,G1Wに係る権利を橘高工学に移転する旨の合
意があったとしても,G1Wに係る権利の移転に伴ってG1XMS-DOS版の権
利が移転する契約があったとまで認めることもできない。したがって,
G1Wの著作権の有無やその帰趨は,G1XMS-DOS版の著作権の所在に影響
するものではない。
また,Aは,G1Wのソースプログラムを橘高工学に渡していないから,
橘高工学がG1Wを翻案することはもとより,デッドコピー以外の複製を
することも困難である。他方,Aは,G1Wのソースプログラムを管理し
ているから,複製・翻案は自由にすることができる。このことからすれ
ば,AがG1Wの著作権を橘高工学に譲渡したと認めることはできない。
eよって,被告の主張は採用することができない。
(イ)職務著作に該当するとの主張について
被告は,橘高工学とAとの関係は,実質的には,橘高工学の指揮監督下
においてAが労務を提供するという実態にあり,橘高工学がAに対して支
払う金銭は労務提供の対価と評価できるので,G1XMS-DOS版は,いずれも
橘高工学の発意に基づき作成されたプログラムであって,職務著作として,
橘高工学が著作者であると主張する。
著作権法15条2項は,「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従
事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は,その作成の時
における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とす
る。」と規定する。そして,「法人等の業務に従事する者」とは,法人等
との雇用関係の存否が争われた場合であっても,法人等と著作物を作成し
た者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を
提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提
供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対
価の額及び支払方法などに関する具体的事情を総合的に考慮して,判断す
べきものである(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・集民20
9号469頁参照)。
本件においては,AがG1XMS-DOS版を開発したのは橘高工学の依頼に
よるものであるが,Aと橘高工学との間に雇用関係はなく,前述のとおり,
橘高工学がG1XMS-DOS版をそれぞれ発注した時に,具体的にどのような
技術的指示をしたか被告は明らかにしていない。むしろ,前記認定のとお
り,橘高工学が,GDX等の開発をAに依頼した際,プログラムの画面デザ
インの1つ(主要画面)を示され,それ以外の画面(15枚)の設計及び
それに見合う機能を持つプログラムはAが自己の裁量で開発し,橘高工学
の従業員から,プログラムのデザイン,機能,操作等に関するアドバイス
は受けなかったことが認められる。
また,Aは,GDX等については,注文書(甲30)により発注を受け,
GPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムに対応するプログラムの初期版
(GNX)についても,それに対応すると思われる納品書(甲40の24枚
目)が発行され,報酬が支払われている。このように,Aと橘高工学の関
係は,Aが労務を提供して,橘高工学がその対価を支払うというよりは,
橘高工学がAに仕事の完成を依頼し,その仕事の結果に対して報酬を支払
うというものであった。
したがって,Aは,G1XMS-DOS版の開発に際して,橘高工学の指揮監督
の下で労務を提供し,その対価を受けたと認めることはできないから,
G1XMS-DOS版が職務著作としてその著作権が橘高工学に帰属することはな
い。
(ウ)橘高工学から被告への譲渡
被告は,橘高工学破産管財人が平成13年3月に被告に対して,橘高工
学が有していたサーバを動産一式に含まれるものとして譲渡した際,同サ
ーバにはプログラム(G1XMS-DOS版を含む。)が保存されていたので,プ
ログラム著作権も売買の目的物として被告に移転していると主張する。
しかし,前記のとおり,動産であるサーバが譲渡されたからといって,
その中に保存されていたプログラムについて,著作権も譲渡されたことに
なるものではないから,被告の主張は失当である。
(2)船体位置決めプログラムの著作権の帰属
船体位置決めプログラムNB版はAが作成したものであり,船体位置決めプ
ログラムは,A(のちに原告に譲渡)ないし橘高工学に帰属すると考えられる
ところ,橘高工学から著作権が譲渡されたことはないので,船体位置決めプロ
グラムの著作権は,少なくとも被告には帰属しない。
5本件プログラムの創作性の有無(前記第4の1(1)の争点)について
(1)OS及び言語の変更
ア原告は,本件プログラムは,G1XMS-DOS版とは,OSがMS-DOSとWindows
とで異なり,プログラム言語もC言語とVisualC++とで異なるので,創作性
が認められると主張する。
イ確かに,言語の著作物の場合,著作物を言語体系の異なる他の国語で表現
して「翻訳」したのものは「二次的著作物」であるとされている(著作権法
2条1項11号)。
しかしながら,前述のとおり,プログラムの表現は,所定のプログラム言
語,規約及び解法による制約がある上に,その個性を表現できる範囲は,コ
ンピュータに対する指令の表現方法,その指令の表現の組合せ及び表現順序
というように,制約の多いものである。したがって,あるプログラムの著作
物について,OSやプログラム言語を異なるものに変換したからといって,
直ちに創作性があるということはできず,OSや言語を変換することにより,
新たな創作性が付加されたか否かをを判断すべきである。
ウ本件では,原告は,OS及び言語を変更したことによって,どのような創
作性が付加されたかについて具体的に主張立証していない。本件プログラム
のソースプログラムの文字数は,G1XMS-DOS版の5倍以上に増加しているが,
その多くは,言語を変更したことによるというよりは,主として新たな機能
を追加したことによるものである可能性もある(平成17年8月19日付け
原告の第5回準備書面17ページ参照)。このことに加えて,VisualC++は
C言語に対して基本的には上位互換性を有する(C言語のモジュールをコピ
ーして使用することもできる)と認められること(弁論の全趣旨),
G1Xver5.50のソースプログラムの一部(モジュール)である「G1xLan.cpp」
(乙18),「g1x.h」(乙19)に平成9年5月のGによるコメントの追
加があるように,平成9年以前すなわちG1XMS-DOS版の記述がそのまま用
いられている部分があることに照らせば,本件プログラムが,MS-DOS・C言
語からWindows・VisualC++へとOS及びプログラム言語を変更させたことの
みによって,創作性があるものとまで認めることはできない。
(2)追加機能3)のRTMに相当する部分の関数について
ア証拠等(各事実の末尾に記載)によると次の事実が認められる。
(ア)RTMの機能は,DOSエラー処理,初期処理,終了処理,タイマー割込
処理,再起動処理,ファンクションキー処理,タスク生成処理,タスク実
行処理,タスク切替処理,タスク停止処理,メッセージ送受信処理,スタ
ック初期処理,タスク初期処理,タイマー開始・停止処理,キー入力処理,
画面出力処理,画面スクロール処理,漢字入力制御処理,ハードコピー処
理,セマフォー制御処理,システムタスク処理,デバッグタスク処理,タ
イマータスク処理,スプールタスク処理,ハードコピータスク処理,メニ
ュー処理,印刷処理,EMSメモリー処理である。(甲14)
(イ)MS-DOSは,シングルタスクOS(複数のタスクを同時に実行できず,
複数のタスクをタイムスライスに応じてディスパッチすることができず,
一度に1つの処理のみ実行できる。)で,その機能は,データのやりとり
管理,周辺機器の制御,ファイル管理である。グラブ浚渫施工管理システ
ムでは,複数の入力装置(位置計測装置,重機制御装置,潮位計,船体傾
斜計等)からのデータが非同期に発生するが,シングルタスクOSでは,
ポーリング手法(通信機器やソフトウェアが複数で関連して動作する場合
に,送信や処理の要求がないか,逐一巡回して確認する方式)を用いるた
め,1つのデータ処理を行っている間は,他のデータ処理が実行できず,
他のタスクがサービスを待機している間にデータの取りこぼしなどが生じ
ないようにプログラミングをする必要がある。
他方,マルチタスク(1台のコンピュータで同時に複数の処理を行う
OSの機能)及びタイムシェアリング(1台のコンピュータのCPUの処理
時間をユーザ単位に分割することにより,複数のユーザが同時にコンピュ
ータを利用できるようにすること。)があれば,複数のデータの処理タス
クは,それぞれ毎秒最低でも10回程度のサービス時間が与えられ,シス
テムの応答は格段に向上する。
RTMはマルチタスク及びタイムシェアリングの機能をさせるために開発
された。(以上につき甲44)
(ウ)G1XMS-DOS版にはRTMが用いられていたが,RTMはWindowsには対応
しておらず,本件プログラムにRTMは用いられていない。(争いがな
い。)
(エ)G1XMS-DOS版ではRTMが機能していたマンマシン・インターフェース
部分について,RTMを用いない場合にどのようなプログラムとするかにつ
いては,Ⅰ)関数を使用するか,Ⅱ)関数を使用する場合,どのような関数
を使用するか,Ⅲ)それによってどの程度のプログラムが必要となるか,
といった事柄について選択肢があるため,プログラマーの個性が表れる余
地がある。(甲46)
(オ)G1Xver3.00のG1x.cpp(甲36の3番号5)には,別紙6のとおり,
①******************)」以下の部分(甲36の3番
号5の9ページ40行目から10ページ3行目まで),②「******
************」以下の部分(同10ページ4行目から32行
目まで),③「******************」以下の部分(同
10ページ33行目以下)のような記述がある(G1Xver5.50についても
乙47の1の6の10,11ページにも同様の記載がある)。G1XMS-DOS
版ではRTMが機能していたマンマシン・インターフェース部分については,
上記記述部分の関数が担っている(甲45)。
(カ)上記部分のうち②,③にそれぞれある「*****」に対応して「*
****」が13列並んでいる部分は,記憶させるデータのタイプを13
分類して,そのタイプを指定することにより,画面からの入出力が共通の
ルーチンとして使用できるもので,これにより,画面でいろいろな項目に
対して,標準化してタイプごとに処理することが可能となり,迅速かつ正
確なプログラムを組むことが可能となる。(甲46)
(キ)上記の13列の部分は,Aが独自に創作した部分であり,他のプログ
ラマーが同様の機能をもつプログラムを開発するとすれば,それよりは冗
長なものになる可能性が高い。(甲46)
イ以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおいて,G1XMS-DOS版
ではRTMがその機能を担っていたマンマシン・インターフェースを担う部分
については,同部分がなければ本件プログラム自体がまったく機能しないと
いうものではないが,同部分があることによりプログラムの処理が円滑に行
われるというものであって,同部分を設けるか,設けるとした場合に同部分
をどのようなプログラムとするのか,その場合の関数の使用の有無・内容,
プログラムの量等について,様々な選択肢があり,プログラマーの個性を発
揮することが可能であるところ,本件プログラムにおいては,Aは,記憶さ
せるデータのタイプを13分類して,そのタイプを指定することにより,画
面からの入出力が共通のルーチンとして使用するという,「******」
から始まる列を13列並べるという独特の表現をしており,同部分について
は,Aの工夫が凝らされていてその個性が認められるから,著作物性を有す
る。
ウ被告は,原告の主張する関数は,RTMを用いる前から用いられていたもの
で,Windowsに対応するように記述したからといって創作性が生じるもので
はないと主張する。
具体的には,平成4年に作成されたグラブ浚渫施工管理システムのプログ
ラムGDT(RTMが用いられる前のもの)に「********」という関数
が用いられているが,G1Xver3.00の「G1xship.h」(甲36の2番号21)
には「**********************」という関数が用い
られ,両者は同じ思想によるものである,G1Xver3.00の「G1x.cpp」(甲3
6の3番号5)には「*****************」「*****
***************」の関数が用いられているが,これはRTM
を用いる前から用いられていたと主張する。
しかしながら,例えば,G1Xver2.00の「G1X」というモジュール(乙46
の1の1)には,上記の「******」が13列並んでいる部分と同様の
表現はなく,その他にも同表現が,本件前プログラムに存在したと認めるに
足りる証拠はない。したがって,「******」が13列並んでいる部分
の表現は,本件前プログラムにはなかった新しい部分であるし,単に
Windowsに対応するように機械的に記述したにすぎないと認めるに足りる証
拠はないから,被告の主張は理由がない。
(3)新可能処理②の鳥瞰図表示について
ア証拠等(各事実の末尾に記載)によると次の事実が認められる。
(ア)本件プログラムにおける鳥瞰図表示は,メイン画面において,浚渫作
業の程度・状況及び水底の凹凸起伏の程度・状況について,ソナー装置に
より水面から水底までの深度を計測し,同データに基づいて,水底の各地
点の計測座標ごとに,計測した深度別に異なる色に塗り分け,かつ計測し
た深度に基づいて水底の凹凸起伏の高低が立体的に見えるように表示する
ものである。同画面においては,領域の移動,視点の移動,拡大・縮小が
可能であり,マウスカーソルを鳥瞰図の描画箇所に移動させれば,その箇
所の座標と深度が表示される。(甲45,乙50)
ソナー装置は,水面から水底までの深度を計測する装置であり,水面下
1メートル程度の位置に沈め,高周波のパルスが与えられた圧電素子が発
する超音波が海底に反射しエコーとして帰ってくる時間を計り,距離を算
出する装置で,グラブ浚渫船では設置されているのは10パーセント以下
である。浚渫作業のバケットが掘った水底の深度も,バケットが水面上に
ある時間帯を利用してソナー装置により計測することができる。(甲4
9)
ソナー装置がない場合又は水中の濁りが多い等によりソナー装置を使用
することができない場合は,甲板員が,竿の先に目盛と着底が分かる錘を
付けたロープを作業船上から水底に向けて垂らして,手動で深度を測定す
る。ソナー装置を使用しない場合は,バケットの深度と位置の情報,バケ
ットが開いたときの1堀で浚渫できる最大の平面的な範囲等をソナー計測
によるデータに例えて,擬似的に1メートルピッチの密度による深度デー
タを計算して,鳥瞰図を作成する。(甲49)
(イ)鳥瞰図の作成の機能は,本件前プログラムにはなく,本件プログラム
すなわちG1Xver3.00以降のものについて新しく付加された部分である。
(争いがない。)
(ウ)本件プログラムにおける鳥瞰図を作図させる機能の部分は,
「G1xChokan.cpp」(G1Xver3.00では甲36の3番号7,G1Xver5.50では
乙47の1の10)及び「G1xChokan.h」(ヘッダーファイル)である。
そのプログラムのサイズは,G1Xver3.00で「G1xChokan.cpp」が13キロ
バイト,「G1xChokan.h」が3キロバイト,G1Xver5.60で
「G1xChokan.cpp」が1万3113バイト,「G1cChokan.h」が2177バ
イトである。
なお,G1Xver5.60のソースプログラムは,ヘッダーも含めて全体で1
16万3074バイトであり,うち「resource」が77万9242バイト
であり,それ以外の部分の合計は38万3832バイトで,
「G1xChokan」は,30あるモジュールのうち5番目に大きいサイズのも
のである。(甲11,13,24,38,45)
(エ)「G1xChokan.cpp」は,ソナー装置のデータから鳥瞰図を表示し,ソ
ナー装置のデータを取得できない場合に,施工実績データから鳥瞰図を擬
似的に表示するための処理を行うものである。
(オ)「G1xChokan.cpp」では,3次元から2次元平面に投射するロジック
について行列式でコメントが記述されているが,プログラムの表現として
は,行列式の1個の要素に数字を代入し,行列式の計算を四則演算に分解
する記述がされている(甲36の3番号3の5ページ40行目以下,乙4
7の1の10の5ページ13行目以下)。
イ以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおける鳥瞰図の表示は,
Ⅰ)ソナー装置がある場合はソナー装置により計測した水底の起伏状況につ
いての位置(座標),深度の3次元データ,グラブバケットの位置・深度デ
ータを収集し,Ⅱ)ソナー装置を用いない場合は,位置決めシステムによる
位置情報,手動で計測した深度情報,バケットの1堀の範囲等から計算した
データ等を集積して,ソナー装置の計測によるデータに例えて1メートルピ
ッチの密度による深度データを計算し,位置・深度の3次元データを収集し,
Ⅲ)収集した3次元データを2次元平面に投射する処理をし,Ⅳ)これを特定
のデザイン,大きさ,縮尺,色彩を持った画像に置き換える処理をするとい
う手順を踏むものであることが認められる。
そして,上記のいくつかの段階を踏む処理について,「G1xChokan.cpp」
は1万3113バイトの容量(「resource」を除いたモジュールの合計容量
の約4パーセントで,30あるモジュールのうち5番目に大きい容量)を用
いて記述されていることからすれば,その処理に至る手順,方法に関する表
現について選択の余地があり,また,デザイン,大きさ,縮尺,色彩に様々
な選択肢がある以上,これを表示するための演算処理等の記述についても,
様々な表現が選択可能であり,「G1xChokan.h」及び「G1xChokan.cpp」は,
それら中から特定の表現を選択したものと認められる。
したがって,本件プログラムにおいては,その記述ないし表現についてA
の個性が現われていると認められるから,本件プログラムの鳥瞰図表示の部
分は著作物性を有するものというべきである。
ウ被告は,鳥瞰図の画面表示は極めてありふれており,視点を移動できる点
も,平行移動,回転に行列計算が用いられているが,数学上当然のものであ
り,プログラムとしては目新しいものではない,陰線処理はZバッファ法と
いうありふれた方法が用いられているとして,創作性を否定する。
しかし,被告がありふれていると指摘するのは,プログラムの表現それ自
体ではなく,画面表示や,陰線処理の方法についてのものにすぎない上に,
当時,本件プログラムで表される画面表示や陰線処理の方法がありふれてい
たものであるとの立証はない。また,同部分の処理及びその他の部分の処理
をするプログラムの表現について,G1xChokan.cpp(甲36の3番号7,乙
47の1の10)を前提としても,具体的にどの表現がどうありふれている
かについての具体的な指摘や主張立証はない。
被告は,視点を移動できる点についても,行列計算が用いられているのは
数学上当然であると主張するが,G1xChokan.cppを前提として本件プログラ
ムで用いられている行列計算等の表現それ自体がありふれていることについ
ての指摘,主張立証はない。
(4)まとめ
本件プログラムにおいては,OSとプログラム言語の変更による創作性の立
証があるとはいえないものの,少なくとも,RTMに相当する部分の関数と鳥瞰
図表示の部分のプログラムについては,その表現に作成者Aの個性が現れてお
り,著作物性があるものと認められる。よって,本件プログラムは,少なくと
もG1XMS-DOS版の二次的著作物として,少なくとも上記の著作物性が認めら
れる範囲で,著作物として保護される。
6本件プログラムの著作権の帰属(前記第4の1(2)の争点)について
(1)G1Xver3.00の開発経緯
前記2で認定した事実及び前記第3の前提となる事実により認められる
G1Xver3.00の開発経緯及び事情についてまとめると,次のとおりである。
すなわち橘高工学は,平成12年1月,G1Xver3.00の開発をAに発注した
が,同開発契約においては,同プログラムの著作権の帰属に関する明示の文書
はなかった。また,開発内容としては,第16堀松号に設置するソナー計測装
置に対応し,Windows対応のものという限定があったのみで,プログラム言語
の指定はなく,Aの独断でVisualC++により開発した。
そして,G1Xver3.00は,同年4月ころ,ソースプログラムが作成され,コ
ンパイルされて,オブジェクトプログラムがいったんNAV-LAHⅢのGPS受信装
置にインストールされて第16堀松号に設置されたが,ソナー計測装置の不具
合の関係で調整が必要となったため,いったん作業は中止となり,その間,橘
高工学が破産宣告を受けた。その後,第16堀松号のソナー計測装置の調整が
終わり,Aは,SKKからの依頼で,G1Xver3.00のオブジェクトプログラム
をインストールし,デバッグ等の調整を終えて,同年7月に作業を終了した。
その結果,橘高工学は,G1Xver3.00のソースプログラムをAから受領する
こともなく破産手続に入り,破産宣告後に橘高工学から第三者に対して何らか
の著作権が譲渡されたことはない。
Aは,G1Xver3.00に関する費用や対価として,橘高工学に対して500万
円を請求する予定であったが,結局橘高工学からは何も受領することができず,
SKKから開発費及び現地調整費として335万円の支払を受けた。
なお,Aは,G1xver3.00の「G1xのバージョン情報」の画面には
「(c)CopyrightNihonSystemPlannnig2000AllRightsReserved」の表示が現
れるようにソースプログラムに記述をし,堀松建設以外に,平成12年8月こ
ろ,日本測器経由で,大潮建設にG1Xver3.00の複製物を販売している。新洋
海工の36龍王丸にも,橘高工学ないし被告を通すことなく,G1XのWindows
版(本件プログラムと思われる。)を納品し,後に被告設立後にBから苦情を
言われている(弁論の全趣旨・原告の平成17年12月8日付け第10回準備
書面9ページ)。
(2)本件プログラムの著作権の帰属
上記のとおり,G1Xver3.00は,Aが,G1XMS-DOS版に新たな創作性を付加
して創作した著作物であり,少なくともG1XMS-DOS版の二次的著作物という
ことができる。そして,Aから,橘高工学ないし被告に著作権が譲渡されたと
認めるに足りる証拠はない。かえって,橘高工学は,Aに対し,著作権の譲渡
代金と評価できる対価はもとより,開発費の支払もせず,ソースプログラムも
渡されず,Aのみがソースプログラムを保有し,Aは,橘高工学破産宣告後に
別の業者を通じてプログラムの複製物を販売して,橘高工学以外の業者から報
酬を得ており,プログラムにAの屋号である「NihonSystemPlannnig」の著作
権表示が現れるようにして,自己の著作権を主張しているから,G1Xver3.00
の著作権は,その著作者であるAに帰属していたと認められる。
次に,G1Xver5.24ないしG1Xver5.70は,被告から依頼を受けて,Aが
G1Xver3.00をバージョンアップしたものであるが,そのソースプログラムは
Aのみが保有・管理し,被告は保有しておらず,Aは,G1Xver5.24ないし
G1Xver5.70の各バージョン表示メニュー画面に「NihonSystemPlannnig」の
著作権表示が現れるようにして著作権の主張をしていることからすれば,本件
プログラムは,G1Xver5.24ないしG1Xver5.70にバージョンアップされた後も,
引き続きAに著作権が帰属しており,被告に譲渡されることはなかったものと
認められる。
そして,Aは,平成15年8月までに,本件プログラムの著作権を原告に譲
渡しているので,本件プログラムの著作権は原告に帰属する。
(3)被告の主張について
アソースプログラムの保有・管理
被告は,原告ないしAに対し,専属的にバージョンアップ等を依頼してい
たので,ソースプログラムは必要なかったから保有していないと主張する。
しかし,橘高工学は,従前,Aにソースプログラムの提出させていた。こ
のこととの比較で考えると,バージョンアップを依頼しているからといって,
ソースプログラムが必要ないということはできない。むしろ,被告がソース
プログラムを原告ないしAに提出させていないのは,被告が,ソースプログ
ラムの提出を要求できる立場になかった(橘高工学のように「橘高工学が依
頼してAが作成したプログラムはもともと橘高工学に帰属するから,ソース
プログラムを提出するのは当り前である」と主張することもできなかった)
ものであり,著作権に関して,橘高工学よりも更に弱い立場にあったこと
(もっとも,デッドコピーについては許諾ないし黙認されていた可能性があ
る。)を示すように思われるところである。
イ対価の支払
被告は,橘高工学がG1Xver3.00を発注した平成12年1月に,Aに対し,
本件手形①②を振り出して仮払をし,Aは少なくとも本件手形①の手形金1
70万円から「バック」分を除いた121万円は受領しているし,本件手形
③ないし⑥についても,「バック」分を除いた合計245万円は,不渡りに
なっていなければAに支払われるものであり,橘高工学の破産により履行さ
れなかったにすぎないと主張する。
しかしながら,当時,Aは,橘高工学から複数のプログラムの開発・改良
の仕事を依頼されてその対価が未払であり(例えば「本間組向け捨石均しシ
ステム」の現地調整費,「フジタ向け水中打設システム」の開発費,KSC
オシロソフト」の修正費は,平成12年5月時点で未払であった。甲40の
79,80,85枚目,甲44,乙55の8。その項目と金額が確認できる
甲40の79,80,85枚目は,他の甲40の納品書等とは異なり,Bの
指示で項目を記載したのではなく,A自身の判断で当時未払であったものに
ついて記載したものである。原告代表者18ページ),G1Xver3.00の発注
を受けた日にも「本間組深浅測量+ソナー」についての打合せもしており
(乙55の11),「仮払」として支払われた121万円がいずれの発注に
ついての対価であるか不明である上に,前記2で認定したとおり,AがBの
指示により記載していた請求書等(甲40)の項目も,全般的に実際の明細
(乙55,58添付別表)とは異なっていて,「仮払」の121万円がいず
れの項目に対する支払であるかをAが特定して認識していたとは認められな
い。
また,前認定のとおり,G1Xver3.00のプログラムの複製物を納品した相
手方であるSKKからは,その対価として300万円(この金額はAとして
は値引きされたものである。甲44)がAに支払われている。このことから
すれば,仮に121万円がG1Xver3.00の開発費として支払われたものであ
ったとしても,ブログラムの複製物1本分の対価にも満たないものであって,
この支払によりG1Xver3.00の著作権が移転するとは認められない。なお,
仮に,上記245万円が,G1Xver3.00の開発費に含まれるものであったと
しても,現実に支払われていない以上,これをG1Xver3.00の著作権の移転
に影響を与えるものとすることはできない。
ウ各人の行動・認識,システム全体におけるプログラムの位置づけ
被告は,本件プログラムは,橘高工学が開発したグラブ浚渫施工管理シス
テム専用のプログラムで,複製して同システムにインストールして,これら
を多数販売することを目的としたもので,その後のバージョンアップも予定
しているものであるから,複製の都度,Aに許諾料を支払うつもりで依頼し
たとは考えられない,また,本件プログラムは,グラブ浚渫施工管理システ
ム全体において占める割合は小さく,システム自体は橘高工学が開発したも
のであると主張する。
しかし,前認定のとおり,G1Xver3.00あるいは本件前プログラムはまっ
たく汎用性がないものではない。また,橘高工学が,G1Xver3.00の複製物
の販売を予定していたとしても,Aが橘高工学に包括的にプログラムの複製
を許諾し,開発費に複製許諾料も含めて対価を支払うことも可能であるし,
バージョンアップについては,著作権法20条2項3号の範囲を超える改変
が見込まれる場合は,同一性保持権の放棄あるいは包括的に翻案を許諾する
ことも可能であるから,橘高工学がG1Xver3.00の複製販売を多数予定しバ
ージョンアップを予定していたことのみをもって,Aから橘高工学へ同プロ
グラムの著作権の譲渡の合意があったと認めることはできない。
なお,被告は,Aないし原告が,平成16年4月まで本件プログラムの著
作権者である旨の主張はしなかったと主張する。しかし,前認定のとおり,
Aないし原告は,本件プログラムの画面のバージョン情報等に日本システム
プランニングの著作権表示をしており,ソースプログラムを独占管理しつつ,
「ソフト代」「バージョンアップ費」等の名目で被告から金員を受領してい
るから,敢えて著作権に基づく何らかの請求をする必要がなかったと考えれ
ば,その行動が特に不合理であるとはいえない。被告の指摘する上記事実は,
A及びその後の原告の著作権の帰属を否定するものとはならない。
エ著作権表示
(ア)取扱説明書に記載の画面の著作権表示
被告は,G1Xver3.00の取扱説明書(乙50)の起動時画面及びバージ
ョン情報画面に「(c)CopyrightbyKittakaEngineeringLaboratory
Co.,ltd2000AllRightreserved」があり,これはA自身が記載したもの
であると主張する。
確かに,Aは,平成12年4月の段階では,上記のとおり,橘高工学の
著作権表示をしたことが認められるが,その後,著作権表示を日本システ
ムプランニング名義のものに変更している(乙42)。しかも,Aは,橘
高工学にソースプログラムを交付していないから,橘高工学は
G1Xver3.00を修正することができないのに対し,Aは自由に修正(複製
の範囲内の修正や翻案)ができる。上記事実に照らせば,Aによる上記の
橘高工学の著作権表示は,G1Xver3.00の著作権がAから橘高工学に譲渡
されてはいないとの上記認定を覆すに足りるものではない。
なお,Aは,G1Xver3.00の取扱説明書(乙50)の起動時画面及びバ
ージョン情報画面に「(c)CopyrightbyKittakaEngineeringLaboratory
Co.,ltd2000AllRightreserved」を記載した時点では,それが完成して
十分な対価が支払われたあかつきには,橘高工学がG1Xver3.00という特
定のバージョンについて,対外的に著作権があるように振る舞うことを許
容する意思があった可能性もなくはない。しかし,結局,橘高工学からは
対価が支払われず,Aは,橘高工学にソースプログラムも交付せず,著作
権表示を日本システムプランニング名義のものに変更し,自らSKKにプ
ログラムの複製物を納品するなど,橘高工学を無視して著作権者として振
る舞っている。このことからすれば,仮に,完成して十分な対価が支払わ
れたあかつきには,橘高工学がG1Xver3.00という特定のバージョンにつ
いて,対外的に著作権があるように振る舞うことを許容するという意思が
Aにあったとしても,それは対価の支払を受けた後の予定に止まり,橘高
工学からの対価支払がないために実現しなかったもののように思われる。
したがって,上記可能性も,上記認定を左右するものではない。
(イ)モジュール「CalhaVa.cpp」の著作権表示
被告は,G1Xver5.50のソースプログラムのモジュール「CalhaVa.cpp」
のトップには平成12年2月1日付けで橘高工学の著作権表示が現れるの
で,G1Xver3.00の4月版及び7月版にも橘高工学の著作権表示のある
「CalhaVa.cpp」が入っているはずであると主張する。
確かに,G1Xver5.50のソースプログラムのモジュール「CalhaVa.cpp」
のトップには橘高工学の著作権表示が現れる(乙47の2の1)。これに
対し,原告は,同モジュールは,実際の船体傾斜の位置補正ルーチンを内
容とし,G1Xver3.00のモジュール「G1x.cpp」の「RotZpr」「RotPr」をも
とに作成した社外説明のためのソナー制御装置のプログラミング用のもの
で,G1Xver3.00の一部ではなく,本来G1Xver3.00に不必要なものである
と主張する。
証拠(乙47の2の1)によれば,「CalhaVa.cpp」には「*****
***********」のプログラムであることや,Input,Output,
Retuernや「****************」等の説明が日本語で冒
頭に記載され,G1Xver3.00のモジュールとは体裁が異なることが認めら
れる。また,原告が「CalhaVa.cpp」のモジュールの問題を指摘した平成
18年3月ころ(被告第9準備書面)より前である平成17年10月31
日の第2回弁論準備手続期日で提出された本件プログラムのモジュール一
覧表(甲11)にも「CalhaVa.cpp」の記載はない。さらに,たった1つ
のモジュール「CalhaVa.cpp」にだけ,全体とは異なる著作権表示がされ
るというのも不自然である。
以上の点からみれば,これがG1Xver3.00の一部ではなく,社外用の説
明のために作成したモジュールであるとの原告の主張も,肯認することが
できる。そして,社外用の説明のために作成したモジュールであれば,橘
高工学が販売するシステムにインストールされるプログラムであることか
ら,対外的に橘高工学の著作権表示を入れていたとしても不自然ではない。
よって,「CalhaVa.cpp」において橘高工学の著作権表示があることは,
前記のAにG1Xver3.00の著作権が帰属するとの認定を覆すものとはなら
ない。
7著作権の権利主張についての対抗要件の要否(前記第4の1(5)の争点)につ
いて
被告は,原告が著作権移転のための対抗要件である登録をしていないので,被
告に対し,著作権を有していることを対抗できないと主張する。
しかし,著作権の移転を登録しなければ対抗できない「第三者」(著作権法7
7条)とは,登録の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者であると解され
ており(大審院昭和7年5月27日判決・民集11巻11号1069頁参照),
単なる著作権の侵害者はこれにはあたらない。よって被告の主張は失当である。
8差止請求の可否(前記第4の1(6)の争点)について
被告は,現在,G1Xver5.24ないしG1Xver5.70をグラブ浚渫施工管理システム
に使用していないと主張するが,過去に別紙1のとおり,本件プログラムの複製
物を販売しているので,著作権を侵害するおそれは認められる。
9損害論(前記第4の1(7)及び(8)の争点)について
(1)被告の著作権侵害についての故意・過失の有無
被告は,G1Xver3.00の著作権がAに帰属していたとしても,Aが自ら,
G1Xver3.00のトップページに橘高工学の著作権表示をしている以上,被告が
橘高工学に帰属していたと認識していたことについて過失はないと主張する。
しかし,前記のとおり,平成12年4月時点では,G1Xver3.00のトップペ
ージに橘高工学の著作権表示があったが,その後,Aは,G1Xver3.00につい
て,著作権表示を日本システムプランニングに書き直しているし,G1Xver5.24
以降については,当初から日本システムプランニングの著作権表示を記載して
いる。
そして,被告が複製物を販売したプログラムに,日本システムプランニング
(原告ないしA)の著作権表示がある以上,過去にこれと異なる著作権表示の
ある時期が一時的にあったとしても,現に著作権表示をしている者に対する問
い合わせ等,著作権の帰属について十分な注意を払うべきであり,被告にはこ
れを怠った過失がある。
したがって,被告には,本件プログラム及びG1XMS-DOS版の各著作権を侵
害することについて過失があったということができる。
(2)損害発生の有無及びその数額
ア被告が別紙1のとおり,本件プログラムを複製販売したことは争いがない。
被告による上記の本件プログラムの同複製販売は,原告ないしAの本件プロ
グラムの著作権(複製権)を侵害するので,被告は,原告ないしAに対し,
その損害を賠償する責任を負う。なお,Aの損害賠償債権は原告に譲渡され
ている。
イ前記のとおり,被告が,Aないし原告に対し,G1X関係のプログラムの修
正・改造の依頼に際して支払ってきた報酬の金額は,別紙5のとおりであり,
50万円ないし80万円であるが,これには,①プログラムの修正・改造
(主として,MS-DOS版を使用していた作業船についてWindows版のプログ
ラムに変更するバージョンアップの作業。原告代表者61,62ページ)の
費用(作業をした場合),②橘高工学時代の損害の填補(作業がなかった場
合もしくは作業料を差し引いた剰余がある場合)が含まれている。したがっ
て,50万円全額がプログラムの複製の許諾料であると認めることはできな
い。原告自身も,50万円の支払について,実際に仕事をしなかった場合も
あるが,仕事をした場合もあることを認めている。
ウ別紙5において,平成13年1月から平成15年10月までで「調整」
「修正」「改造」の費用として支払ってきたもの(一部未払のものも含
む。)は,次のとおりである(消費税抜き)。
福丸建設調整費30万円(平成13年8月1日)
てんゆう修正10万円(平成14年4月1日)
豊号修正40万円(平成14年4月1日)
森長組改造費20万円(平成15年3月25日)
福丸改造30万円(平成15年10月10日)
エ前記のとおり,橘高工学が,Aに対し,G1X関係のプログラムの修正・改
造の依頼に際して支払ってきた報酬の金額は,別紙4のとおりであり,「調
査」「実験」「立会」「ソフト変更」の費用として支払ってきたことが明ら
かなものは,次のとおりである(消費税抜き)。
4つの客先への現地調査費10日分70万円(平成10年5月)
本間組(9/23実施分)15万円(平成10年10月)
本間組実験(11月分前倒し)15万円(平成10年10月)
18昭和(実験3日)15万円(平成11年4月)
葵建設(ソナー立会3日)20万円(平成11年4月)
青木組向けソフト変更20万円(平成11年12月)
オ原告が提出した納品書等(甲40)に記載されている金額のうち,その項
目が「改修」「修正」「立会」等となっているものは次のとおりである(消
費税抜き。ただし,前述のとおり,実際の支払金額及び項目とは一致してい
ない。)。
KSCNEWソフト修正20万円(平成8年9月20日)
グラブ浚渫GSX改修50万円(平成8年11月20日)
山本建設工業ソナー立会費20万円(平成9年2月20日)
太平工業仁川向けソフト改造215万円(平成9年2月20日)
国総向けKSCソフト改造100万円(平成9年3月20日)
大新土木向客先仕様追加100万円(平成9年4月20日)
G1Xver1.1吃水計追加40万円(平成9年4月20日)
国総向けKSC修正7万5000円(平成9年5月20日)
国総向けKSGオシロソフト修正費50万円(平成12年5月20日)
カまた,原告は,平成18年1月26日付け第11回準備書面8ページにお
いて,「当時から,橘高工学と原告代表者との間に正式な書面契約は,締結
されておらず,その間に「グラブ浚渫施工管理システムソフトG1X」が,年
間20セット以上,出荷の有った時期が有った。橘高工学としては,その頃,
かなりの利益が上がった筈で,その当該ソフト作成者で有る,原告代表者に
対する支払いも,この利益配分としてのライセンス料と原告代表者は,勿論
被告自身も十分,認識していたはずで有る。しかし,原告代表者は,ライセ
ンス料と言う名目にこだわらず,被告に頼まれたソフトバージョンアップ費
用や修正料の名目で,作業ごとに1件当たり,20万円程度から30万円程
度の請求を行って来た。又,橘高工学は,外注費として支払った費用の数倍
のソフト販売利益を当然ながら得ていた筈である」と述べており,①作業船
ごとの調整作業の費用に②ライセンス料を加えた金額は,1件あたり20万
円ないし30万円が相当である旨述べている。
キ上記の事実からすれば,改造,修正,調査,立会等の費用としては,個別
の案件によって異なるのは当然であるが,100万円を超えるような特に大
きな金額のものを除くと,おおよそ20万円ないし30万円の範囲にあると
うことができる(なお,Aの認識では,G1XMS-DOS版の時代では複製許諾料
を含めても20万円ないし30万円となる。)。
クまた,平成13年1月から平成15年10月までに支払われた各50万円
ないし80万円については,上記の実費報酬金額を差し引いた金額について,
被告はA(原告)に,仕事の対価としてではなく支払を続けていた。
これを客観的にみれば,被告は,G1X関係のプログラムを販売できた時に,
その利益の一部を,損失補填のためにA(原告)に支払っていたということ
ができる。そして,その損失補填額の上限が決められていたわけでもなく,
被告は,支払を終わらせると言えば,Aないし原告は他の理由等で金銭の要
求をすることが予想され,Aないし原告にソースプログラムを独占管理され
ていることからやむなく支払を継続したというのであるから,そのままでは
ずっと支払の継続を強いられることになりかねない。
そして,この状態は,Aないし原告(著作権者)がソースプログラムを独
占管理しているために,被告はプログラムの複製物を販売した利益の一部を
著作権者に支払うことを強いられている状態ということができるから,外形
的にはプログラムのライセンス料とみる余地もないではない。すなわち,A
(原告)がプログラムの複製許諾料を要求した場合,ソースプログラムを独
占管理されている関係上,被告は要求に応じざるを得ないところ,当面は,
被告がプログラムの複製物を販売した利益の一部を任意に支払ってくる(損
失補償してくる)ので,A(原告)は「ライセンス料」名目での金銭支払要
求をせずにライセンスをしているものの,被告が「損失補償」の支払を終了
させると主張した場合には,A(原告)は他の理由(ライセンス料名目)で
金銭を要求するであろうから,上記「損失補償」はライセンス料の変形にす
ぎないとみる余地もあるのである。
しかし,この支払は,支払額を被告がその都度決定していたものであるか
ら,定額の許諾料が決められていたとすることはできず,損失填補の趣旨で
上記のように外形的にはライセンス料とみる余地のある支払がされたことが
あるという意味で考慮するに止めるべきである。
ケ本件プログラムは,G1XMS-DOS版の二次的著作物であるところ,仮に,
G1XMS-DOS版が船体位置決めプログラムを原著作物とする二次的著作物であ
り,船体位置決めプログラムの原著作権が原告にあったとしても,G1X
MS-DOS版は,船体位置決めプログラムと較べて大きな追加や変更がなされ,
その後G1XMS-DOS版の時代にもモジュールが多数追加され,更に,本件プ
ログラムでも創作性のある部分の追加がされているため,本件プログラムは
船体位置決めプログラムよりも,サイズもはるかに大きく,内容も異なるも
のとなっているものであるから,本件プログラムの経済的価値について,船
体位置決めプログラムの創作性のある部分の与える影響は,ごく小さなもの
となっているというべきである。
コ本件プログラムのうち,少なくとも創作性があると認定したRTMに相当す
る部分の関数と鳥瞰図表示の部分のプログラム以外の部分については,創作
性が認められる余地がないとはいえないが,その表現により処理される機能
が比較的ありふれたものであることからすれば,本件プログラムの経済的価
値の評価に当たって特段の考慮をしなければならないものとまでは認められ
ない。
サ以上の事実を斟酌すれば,本件プログラムの著作権侵害により請求できる
損害金は,1つの複製につき35万円と認めるのが相当である。したがって,
別紙1のとおりの合計20の複製行為により請求できる損害金は,合計70
0万円である(原告は消費税相当額は請求していない。)。
(3)原告の主張について
ア原告は,Aと被告との間で,1つの複製につき許諾料50万円を支払う旨
の複製許諾契約が成立していたので,1つの複製についての許諾料相当損害
金は50万円であると主張する。
しかし,1つの複製につき許諾料を50万円という定額での複製許諾契約
が成立していたと認められないことは前認定のとおりである。
イ原告は,Aが著作権侵害の事実調査のため,13万2005円を出捐した
ので,同額分の損害が発生したと主張するが,同損害については立証がなく,
認めることができない。
10複製許諾契約に基づく請求(前記第4の2の争点)について
(1)本件複製販売許諾契約の成否
前記のとおり,被告が,Aに対し,50万円ないし80万円を支払ってきた
事実はあるものの,それが定額の複製許諾料の約束に基づくものと認めること
はできないのであって,本件プログラムの1セットの複製につき50万円を支
払う旨の本件複製販売許諾契約が成立していたと認めることはできない。
なお,別紙1以外の被告による本件プログラムの複製販売で,Aが修正・改
造費等の支払を受け,その複製販売を承知していたものについては,個別に複
製許諾の合意が成立していた(そして,損害補填の趣旨で,外形的にはライセ
ンス料ともみうる金員が支払われていた)ものと認められるところである。
よって,本件複製販売許諾契約の成立を前提とする同契約に基づく請求は,
その余の事項について判断するまでもなく,認めることができない。
(2)原告の主張について
ア原告は,50万円ないし80万円の支払は,本件複製許諾販売契約に基づ
く許諾料の支払であって,損害の填補ではないと主張する。
しかし,前記に認定したとおり,Aは,被告が当初取引の開始を依頼した
ときに,橘高工学時代の損害の填補を要求し,被告が損害の填補を約束した
ので取引に応じることにしたのであり,複製許諾の対価として50万円ない
し80万円という明確な金額の約束のもとに取引に応じたものと認めること
はできない。
イ原告は,金員の授受が許諾料の支払であったことの根拠として,BがAに
送信した平成16年5月17日付けメール(乙3)の記載を指摘する。
確かに,同メールには,①「13福丸の件は平成13年3月26日日付で
入っている納品書でG1X,LAH対応ソフト¥500,00_,G1Xソフト¥800,000_が
有りましたね,この中のG1Xソフトが,福丸で別のあまりGPSを使用しない
船に13福丸のシステムを移設し,新たなシステムを13福丸に入れたので
すその費用を3月26日日付の分で支払っていますので,勘違いをしないで
下さい。私の方は裏切ってはいません。」,②「此方は別対応で新たなソフ
トを構築いたします。」との記載がある。
しかし,①については,原告が被告に宛てた平成16年4月27日付け内
容証明郵便(甲7)に対する応答であると考えられるところ,同内容証明郵
便では,「無断でのソフト複製権までは許可しておりません。平成13年1
月から現在までの申告による請求書送付依頼に基づき弊社が送付した請求内
容を下記に示します。…そこで,国土地理院の指導で日本測地系から世界測
地系への変更と共に,これに対するソフトの修正を行うにあたり,GPS処理
ソフトにプロテクトをかけました。…これは現在まで2本しか受注しており
ません。しかも,このうち1本は貴社が弊社に申告していない福丸建設が含
まれております。この事実から,グラブ浚渫ソフトの出荷ごとの支払い契約
が守られていないようで,弊社が認知していない出荷先が多々存在している
ように思われます」と記載されている。
とすれば,被告としては,福丸建設(13福丸)の件は,被告が原告に申
告していないのではなく,ソフト修正費として支払っているという弁解をし
ているものにすぎない。すなわち,上記記載は,被告においてグラブ浚渫ソ
フトを自由に複製する権利があるとは考えておらず,第13福丸の件につい
て弁解していることを窺わせる記載であるということはできるかもしれない
が,このことから,許諾料を1本50万円とする複製許諾契約が存在するこ
とまで認めることはできない。
また,②については,G1Xを複製販売しつづけるには,その修正,改造,
バージョンアップなど,Aの協力なくして行うことができないことを前提に,
新たな別のソフトを開発するから,原告と縁を切っても困らない旨を述べた
ものにすぎず,許諾料を1本50万円とする複製許諾契約の存在を認定する
ことには足りない。
よって,原告の主張は採用できない。
11本件GPADver4開発契約の代金支払拒絶の可否(前記第4の3(1)の争点)
(1)被告の主張するバグの内容
被告は,本件GPADver4開発契約の代金については,本件GPADver4ソフトに
バグがあり,同ソフトは未完成であるため,代金の支払義務はないと主張し,
そのバグの内容は,①本件GPADver4ソフトのうちGPADver4は,世界測地系を
選択した場合,基点座標は,別のソフトを用いて変換した日本測地系に基づく
座標値を入れないと,偽の座標値が出力されるという不具合がある,②本件
GPADver4ソフトのうちGPADver4.1sは,公共基点Ⅰに対応しないと主張する。
(2)GPADver4について
ア被告の主張するバグの内容は,世界測地系を選択すると偽の座標値が出
力されるというものであるが,被告の主張によっても,基点座標に別のソフ
トを用いて変換した日本測地系に基づく座標値を入れれば,正しく作動する
ものである。そして,GPADver4.0の基地局の座標入力は,同一工事現場で
設定は1度であり,同一工事現場は数か月間続くもので,一度,日本測地系
の座標を入力すればシステムは正常に機能するのであり,現に,GPADver4
は,既にユーザーに納品され,ユーザーはその状態でGPADver4.0を使用す
ることができている。このように,納品を受けたユーザーにおいて使用可能
である以上,これを未完成ということはできない。同ソフトは完成している
というべきである。したがって,被告の主張は理由がない。
イなお,請負契約の目的物に瑕疵がある場合には,注文者は,瑕疵の程度や
各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除
き,請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは,報酬全額の
支払を拒むことができ,これについて履行遅滞の責任も負わない(最高裁判
所平成9年2月14日第三小法廷判決・民集51巻2号337頁参照)。し
かし,上記ア認定に係る瑕疵の程度からすれば,被告が報酬の支払を拒むこ
とは信義則に反し,許されないものというべきである。
(3)GPADver4.1sについて
被告の主張するバグの内容は具体的ではなく,どのような不具合があって,
具体的にどのように仕事が未完成で,それが代金拒絶の理由たりえるのかにつ
いて,被告は主張立証しない。なお,公共基点Ⅰに対応しないとしても,被告
によれば,私有基点,公共基点Ⅱを選択すれば動作するとのことであるから,
そうだとすれば,ユーザーはGPADver4.1sを使用することはできるのであって,
これを未完成ということはできないこと,及びこれが瑕疵であるとしても報酬
の支払を拒むことは信義則に反し許されないことは,GPADverに係る上記認定
判断と同様である。
12相殺1の成否(前記第4の3(2)の争点)
(1)被告は,Aが本件中国向けソフトを競業他社に納品したことが,契約にお
ける信義則上生じる義務違反であると主張し,同債務不履行に基づく損害賠償
債権を自働債権として相殺の抗弁を主張しているところ,原告は,本件斜杭打
設管理ソフトの著作権がAに帰属すると主張して,Aの販売禁止義務を争って
いる。
仮に,Aに販売禁止義務があったとしても,相殺は,同一当事者間において
双方が互いに同種の目的を有する債権を負担する場合に,対当額についてその
各債務を免れることができるとするものであるから,Aの債務不履行による被
告のAに対する損害賠償債権を自働債権として,原告の被告に対する代金債権
と相殺することができると主張する根拠は不明である(被告は,原告はAが法
人なりしたものであると述べるにすぎない。)が,その点はさておいて,Aに
本件斜杭打設管理ソフトの著作権が帰属するかどうかについて判断する。
(2)証拠(各事実の末尾に記載)等によれば,次の事実が認められる(争いの
ない事実,既に認定済みの事実も含む)。
アAは,平成3年9月ころ又は平成4年2月ころ,橘高工学から依頼を受け
て,本件斜杭打設管理ソフト(甲26〔IPT.C,平成4年2月〕又は乙20
〔SCS_COM.C,平成3年9月〕はそのソースプログラム〔いずれが本件の斜
杭打打設システムのソフトであるかは不明〕,甲27は甲26の画面のハー
ドコピー。)を完成させた。
イ本件斜杭打設管理ソフトのソースプログラムには,橘高工学の名前が記載
されているが,「(c)Copyright」等の付された著作権表示は,Aのものも橘
高工学のものもいずれもない(甲26,27,乙20)。
ウ本件斜杭打設管理ソフトの開発にあたり,橘高工学は,センサーなどの機
器構成図を示したのみで,具体的な指示をすることなく開発をAに一任し,
3次元空間における杭打ち演算のロジックはAが考案した。
エAは,平成3年ころから平成4年ころは,月100万円の固定報酬で,橘
高工学の受注プログラムの開発に専従していた。
オ本件斜杭打設管理ソフトはプログラムの著作物である。
(3)以上の事実を前提とすれば,本件斜杭打設管理ソフトは,Aが独自に創作
したもので,その著作権を橘高工学に譲渡する旨の明示の合意はなく,Aは,
他のプログラム開発も併せた月100万円の固定報酬は,プログラム開発費と
して受領したものの,著作権の譲渡の対価に相当する額の金員の受領はなく,
特に橘高工学の著作権表示を付しているものでもないから,その著作権はAに
帰属する。
したがって,Aは,本件斜杭打設管理ソフトについて,その著作権に基づき,
自由に複製したり,その複製物を販売することができる。
(4)被告は,本件斜杭打設ソフト変更契約により,注文者である被告は,当然
その成果物及び提供した情報を注文者の利益のために用いることを予定して競
業他社に類似するソフトの販売を禁止していたし,Aも,契約書に明文がなく
ても,被告に無断で競業他社に類似するソフトを販売しないという信義則上の
不作為義務を負ったと主張する。
しかし,前記のとおり,Aは,本件斜杭打設管理ソフトの著作権者であるか
ら,被告は,Aから許諾を受けて,本件斜杭打設管理ソフトを複製,改変でき
るものにすぎず,Aは,被告から依頼を受けて,同ソフトのプログラム言語や
OSを変更する作業をしたからといって,その著作権の行使を制約されること
はない。また,被告は,本件斜杭打設ソフト変更契約に際し,被告が提供した
情報をAが無断使用したかのような主張をするが,そもそも本件斜杭打設管理
ソフトは,Aが著作権を有するプログラムであって,仮に被告から何らかの情
報の提供があったとしても,そのことで直ちに著作権の行使が制約されるもの
ではない。そして,被告は,その他に,被告が提供しAが無断使用したとする
情報内容について主張立証しない。
したがって,本件斜杭打設管理ソフト変更契約により,同ソフトの著作権者
であるAが,被告が主張するような不作為義務を負うことはないのであって,
被告の主張は失当である。
(5)以上より,Aないし原告に,本件斜杭打設管理ソフト変更契約の債務不履
行に基づく損害賠償債務は発生しないので,同損害賠償債権の存在を前提とす
る被告の相殺の抗弁は認められない。
13相殺2の成否(前記第4の3(3)の争点)
(1)被告は,原告の本件送付文書の送付が不正競争防止法2条1項14号に該
当する行為であることを前提として,同法4条に基づく損害賠償請求債権を自
働債権とする相殺の抗弁を主張するので,原告の本件送付文書の送付が,同法
2条1項14号の不正競争行為に該当するかどうかについて,まず判断する。
(2)証拠等(各事実の末尾に記載)等によれば,次の事実が認められる(争い
のない事実,既に認定済みの事実も含む)。
ア乙5文書には,「日頃は,弊社製のグラブ浚渫ソフトをご利用頂きまして,
厚く御礼申し上げます。」「…御社様の採用されて居られます,弊社製のソ
フトの使用状況及び,問題点その他なんでもご遠慮なく御聞かせ頂ければと,
今回手紙を送付させて頂いた次第で御座います。」との記載があり,同文書
の本文の別紙の「お客様ご回答用紙」には,「浚渫ソフト名」欄に「(1)G1W
(2)G1X(3)他」の記載があり,「GPSソフト名」欄に「(1)RTPS(2)GPAD(3)
他」の記載がある(乙5)。
イ乙6文書には,次の記載がある(乙6)。
「先日は,ご多忙中突然のアンケートを御願い致しまして誠に申し訳なく
思って居ります。しかしながら,こちらのアンケート依頼に対して,ケルシ
ステム社より,何らかの干渉があった様ですが,再度,御社様へのアンケー
トを御願いさせて頂かなければならない事をどうぞ御許し下さい。」
「これまで,御承知の通り弊社は,開発したソフトをケルシステム社や他
社へ納入販売してきましたが,この度,販売報告のない出荷が,ケルシステ
ム社において発生して居ります。この書面上で,詳しい事は申せませんが,
著作権に関する,しかるべき手続きをとる上で,直接弊社と御取引のないケ
ルシステム社の顧客様で有られます御社様には,御迷惑を御掛けしない為に,
なにとぞご理解,御協力頂けます様,再度,御願い申し上げる次第で御座い
ます。」
ウG1XMS-DOS版及び本件プログラムの著作権はAが帰属していたが,譲渡に
より現在は原告に帰属していることは前示のとおりである。
エGPADは,G1XシリーズのGPS処理のためのプログラムをいうものと解され
るところ,同プログラムは,入力部分,演算部分,出力部分に分けられ,う
ち演算部分の著作権は,WayPoint社に帰属する。また,RTPSのプログラム
の一部も,著作権がWayPoint社に帰属する。RTPS,GPADは,WayPoint社の
プログラムにAが手を加えて作成したものである(甲10,弁論の全趣旨・
被告の平成19年4月19日付け第19準備書面18ページ)。もっとも,
Aが新たな創作性を付加したとの立証はないため,これが二次的著作物であ
るとか,その著作権が原告に帰属するということはできない。
(3)乙5文書について
被告は,乙5文書で「弊社製」という文言が用いられている部分が虚偽であ
ると主張する。
前記認定のとおり,確かに,乙5文書には「弊社製」という文言があり,乙
5文書の本文の別紙の「お客様ご回答用紙」には,アンケートに回答する顧客
が使用しているソフト名を記入するために,G1W,G1X,その他の浚渫ソフト,
RTPS,GPAD,その他のGPSソフトの名称を記入する欄が設けられている。
しかしながら,「弊社製」ソフトの意味は,必ずしも「原告が法的な意味で
の著作権を有するソフト」という意味にしか理解できないわけではなく,「原
告が労力をかけて製造して(それが複製なのか翻案なのか,全く新しい著作物
なのかという法的問題はさておき)販売している,あるいは販売先に卸してい
るソフト」の意味とも理解することができる。この意味では,G1W,G1X,RTPS,
GPADはAないし原告製造ということができる。
また,乙5文書は,「弊社製ソフトの使用状況及び,問題点」等を聞かせて
ほしいと述べるものであって,G1W,G1X,その他の浚渫ソフト,RTPS,GPAD,
その他のGPSソフトのすべてについて「弊社製」であると断言しているもので
はない。
したがって,乙5文書の「弊社製」の記載が「虚偽の事実」であるとまでい
えない。
(4)乙6文書について
被告は,本件送付文書をみれば,原告が著作権を有する「グラブ浚渫ソフ
ト」あるいはG1W,G1X,RTPS,GPADについて,被告が原告の許諾を得ること
なく,あるいは許諾の範囲を超えて複製しているかの印象を与えると主張する。
前記認定のとおり,乙6文書には,直接ソフトの名称は記載されていないが,
「先日は,ご多忙中突然のアンケートを御願い致しまして誠に申し訳なく思っ
て居ります。しかしながら,こちらのアンケート依頼に対して,ケルシステム
社より,何らかの干渉があった様ですが,再度,御社様へのアンケートを御願
いさせて頂かなければならない事をどうぞ御許し下さい。」と記載されている
ことから,本件送付文書を併せて読めば,乙6文書においては,乙5文書で列
挙されたソフトである「グラブ浚渫ソフト」あるいはG1W,G1X,RTPS,GPAD
について言及されていることが理解できる。
そして,前記認定のとおり,乙6文書には,「これまで,御承知の通り弊社
は,開発したソフトをケルシステム社や他社へ納入販売してきましたが,この
度,販売報告のない出荷が,ケルシステム社において発生して居ります。この
書面上で,詳しい事は申せませんが,著作権に関する,しかるべき手続きをと
る上で,直接弊社と御取引のないケルシステム社の顧客様で有られます御社様
には,御迷惑を御掛けしない為に,なにとぞご理解,御協力頂けます様,再度,
御願い申し上げる次第で御座います。」と記載があることから,原告が開発し
たソフトを被告に納品してきたこと,同ソフトについては原告に著作権があり,
被告は原告に対して,許諾を受けて販売しているソフト数について報告義務が
あるにもかかわらずこれを怠っていることを事実として指摘していると読むこ
とができる。
しかしながら,乙6文書は,「開発したソフト」として直接ソフトの名称を
列記していないことから,乙5文書の別紙に列挙されている「グラブ浚渫ソフ
ト」あるいはG1W,G1X,RTPS,GPADのすべてについて,原告が開発して著作
権を有し,被告が許諾を受けて販売しているソフト数について報告義務がある
にもかかわらずこれを怠っているとまで読むことはできない。そして,前記認
定のとおり,少なくとも,G1XMS-DOS版及び本件プログラムについては,原告
は,著作権を有しており,「G1X」については,被告は,原告の許諾を受けず,
これを販売して,原告の著作権を侵害した事実がある(なお,被告は原告の許
諾を受けて販売していたものもあることから,そのような方法をとることも可
能であったという意味において,報告を怠っていたということもできる。)。
したがって,乙6文書に記載された事実も「虚偽の事実」であるとまでいう
ことはできない。
(5)よって,本件送付文書は,いずれも「虚偽の事実」が記載されたものであ
るということはできないから,これを被告の取引先に送付することは,不正競
争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当しない。
したがって,同号の不正競争行為があったことを前提とする損害賠償債権を
自働債権とする被告の相殺の抗弁は理由がない。
14結論
以上の次第で,
(1)G1XMS-DOS版は,少なくとも位置決めプログラムを原著作物とする二次的
著作物であり(前記3),その著作権は著作者であるAから譲渡を受けた原告
に帰属している(同4)。本件プログラムは,G1XMS-DOS版の二次的著作物で
あり(同5),その著作権は著作者であるAから譲渡を受けた原告に帰属して
いる(同6)。したがって,原告は,本件プログラムについて,二次的著作物
の著作権者の立場と,その原著作物に当たるG1XMS-DOS版の著作権者の立場
の両面で,本件プログラムについて著作権を有している。
よって,主位的請求たる原告の本件プログラムの著作権に基づく差止請求は
理由がある。
(2)本件プログラムの複製販売を理由とする金銭請求は,
ア主位的請求であるプログラムの著作権侵害に基づく損害賠償請求は,70
0万円(1複製35万円で20回分)及びこれに対する遅延損害金の支払を
求める限度で理由があり,その余は(著作権侵害の事実調査費用相当損害も
含めて)理由がない(前記9)。
イ予備的請求である複製販売許諾契約に基づく請求は理由がない(同10)。
(3)ソフト開発ないし改造等の請負契約に基づく代金及びこれに対する遅延損
害金の請求は理由がある(前記11)。被告の相殺の抗弁はいずれも理由がな
い(同12,13)。
よって,原告の請求を主文第1ないし第3項の限度で認容し,その余は棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子

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