弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人水崎幸蔵の上告理由第一点について。
 農地法七二条一項但書所定の期間は、未墾地が売り渡された日から、これに対す
る買収令書の交付ないしは交付に代る公示の日までの期間によつて定められるべき
であつて、買収令書に記載された買収の時期までの期間によつて定められるべきで
はないとする原審の判断は正当である。けだし、右は同条および農地法全体の文理
上肯認しうるのみならず、同条一項但書が、国の売渡した未墾地の買戻しについて
期限を付した趣旨は、その売渡しを受けた者の地位が長期にわたつて不安定となる
ことを案じ、その不安定な期間を画一的に三年(本件においては八年)をもつて限
ろうとする点にあると考えられるところ、一たんその期間内に買収令書の交付があ
れば、その買収の効果がその後に生じても、右売渡しを受けた者は、その交付の時
既に買収を受けることを知りうるのであつて、もはや右土地に対する不安定な地位
は除去されるからである。所論は、これと異る独自の見解であつて採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、DよりEに対する贈与契約は、その契約当時契約としては成
立したが、農林大臣の許可がないためその効力が発生していなかつたにすぎない、
しかして、その許可は昭和三二年八月一日(買収の効果発生前)に不要になつたか
ら、右契約は同日直ちに効力を生じ、有効に所有権移転がなされたと解すべきであ
る、というにある。
 しかしながら、所論の贈与契約は、本来農地法七三条に基づき農林大臣の許可を
受くべきものであつたがために、前記法定期間内はその許可のあるまで効力を発生
しえないものであつたのである。しかして、原審の確定したところによれば国はそ
の期間の経過する以前である昭和三二年七月一六日右Dに対して農地法七二条に基
づき本件土地を買収する旨の買収処分をしたのであるから、以後農林大臣は原則と
して右贈与契約を許可することはありえず、このとき右契約は法定の条件を具備し
えざることが確定的となり、ためにその効力を生じないことが確定したものといわ
なければならない。したがつて、右贈与契約を無効とした原審の判断は相当であつ
て、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でなく、論旨はすべ
て採用できない。
 同第三点について。
 原判決は、本件抵当権が設定された当時、右Dは買収により本件未墾地の所有権
を失つていた旨判断し、間接に所論の主張を排斥しているのであつて、このことは、
所論引用の判示から明らかである。したがつて、原判決に所論判断遺脱の違法はな
い。また、原判決は、本件贈与契約は農地法七三条の許可がなく、また追認も認め
られないから無効であり、国の買収のみが有効である旨を判示したものであるから、
民法一七七条を適用する余地はなく、原判決に所論法令の解釈適用に関する違法は
ない。論旨は採用できない。
 同第四点について。
 原判決は、訴外Dは本件抵当権設定当時本件未墾地の処分権を有しなかつたこと
を前提として、右抵当権を無効とし、かつその抵当権の実行によつてその所有権を
取得したと称する上告人の権利を否定しているのであるから、原判決が上告人を被
上告人に対する関係で登記の欠缺を主張し得る正当な第三者とはいえないとしたの
は正当であつて、その判断に何ら所論の違法はない。所論は採用に値しない。
 同第五点について。
 本件の場合、農地法七二条一項但書の期間の算定にあたり、その起算点を自作農
創設特別措置法による売渡通知書に記載された売渡の時期とすべきことは、同条お
よび同法施行法一二条の明文上明らかであり、その終期を買収処分の時期と解すべ
きことは論旨第一点について既に説示したとおりであるから、これと同旨の原審の
判断は正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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