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平成25年9月26日判決言渡
平成25年(ネ)第280号不公正取引差止請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人(控訴の趣旨)
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,原判決別紙地権者目録記載の各地権者(以下「本件各地権者」
という。)に対し,次の各事項を通知せよ。
ア本件各地権者が控訴人との間で原判決別紙物件目録記載の各土地(以下
「本件各土地」という。)につき賃貸借予約契約又は賃貸借契約を締結す
ることが被控訴人の権利を侵害することを理由として,損害の賠償その他
の請求の如何を問わず,本件各地権者を相手方として訴えを提起する意思
がないこと。
イ原判決別紙図面赤線部分につき可児市より受けた水路占用許可は既に失
効し,被控訴人に「占有権」は存しないこと。したがって,被控訴人に「占
有権」があることを根拠に原判決別紙事業用定期借地権設定予約契約目録
記載の各予約契約(以下「本件各予約契約」という。)が無効であるとい
う説明は誤っていること。
ウ本件各地権者が控訴人との間で締結した本件各土地についての賃貸借予
約契約の解約に関して負担する予約金返還義務,違約金支払義務,損害金
支払義務その他一切の負担につき,被控訴人は,第三者弁済,資金の贈与
その他本件各地権者の負担の全部又は一部を実質的に免れしめる一切の
行為をしないこと。
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(3)被控訴人は,本件各地権者に対し,本件各土地に関して本件各地権者との
間で締結した借地権設定予約契約,借地権設定契約その他これに類する一切
の契約を解約する旨通知せよ。
(4)被控訴人は,本件各地権者に対し,本件各地権者が控訴人との間で本件各
土地につき賃貸借予約契約又は賃貸借契約(以下「本件各契約」という。)
を締結することが被控訴人の権利を侵害することを理由に訴訟を提起する
意向である旨を告げ,平成20年4月1日及び平成21年3月31日付けで
可児市より受けた水路占用許可を根拠に占有権を有する旨主張し,当該占有
権を有することを根拠に本件各地権者と控訴人との間で締結された本件各
契約が無効である旨説明し,本件各契約を解約した場合に本件各地権者が控
訴人に対して負担することとなる予約金返還義務,違約金支払義務,損害金
支払義務その他一切の負担につき被控訴人が代わって負担することを約す
る方法等により,控訴人と本件各地権者との本件各契約に基づく土地賃貸借
契約の締結を妨害してはならない。
(5)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,本件各土地にスーパーマーケットの出店を企図して本件各地権者と
本件各予約契約を締結した控訴人が,控訴人同様にスーパーマーケットを経営
する被控訴人に対し,被控訴人が控訴人の出店を妨害する目的で本件各地権者
に対し,①控訴人との間で本件各予約契約を締結したことにつき訴訟を提起す
る意思があることを告げ,②被控訴人が可児市から水路占用許可を受けている
ため水路等の占有権を有することを根拠として本件各予約契約が無効である
旨虚偽の説明をし,③本件各地権者が本件各土地について被控訴人と賃貸借契
約を締結した場合には,本件各地権者が控訴人に支払うべき違約金・損害金の
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負担や,控訴人との間に紛争が発生したときの弁護士の紹介や弁護士報酬の負
担を被控訴人が行うことを提案・約束するなどの働き掛けを行い,本件各地権
者をして本件各予約契約に基づく本契約の締結を拒絶させたのは,債務不履行
等を誘引する行為であって,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
(以下「独禁法」という。)2条9項6号ヘ,昭和57年公正取引委員会告示
第15号「不公正な取引方法」(以下「一般指定」という。)14項に該当し,
独禁法19条に違反する旨主張して,控訴の趣旨(2)及び(3)の通知並びに(4)の
妨害禁止を求めた事案である。
2原審は,本件においては控訴人の主張する「不公正な取引方法に該当する行
為」が現にされ,又はされるおそれがあるということはできず,理由がないと
して,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,これを不服とする控訴人(1
審原告)が本件控訴に及んだ。
なお,控訴人は,平成25年3月14日,「A株式会社」(同年2月21日
変更前の商号は「B株式会社」)を被控訴人と控訴状に記載して原判決に対し
控訴を提起したが,被控訴人(平成25年2月21日変更前の商号は「A株式
会社」,現商号は「B株式会社」)は,原審の口頭弁論終結日(平成24年1
2月6日)の後で,原判決言渡日(平成25年2月28日)の前に上記のとお
り商号変更しながら,原審裁判所に届け出ることもせず,原審裁判所も被控訴
人について上記旧商号を表記して原判決を言い渡していることからすれば,控
訴状の上記被控訴人の記載が誤記であることは明らかで,控訴人が申し立てた
本件控訴は,被控訴人を相手方とする原判決に対して申し立てられたものであ
って,当審において控訴人が被控訴人の表示を訂正した以上,控訴人にした本
件控訴の提起に係る瑕疵は既に補正されたものと認めることができる。
3本件の前提事実(争いのない事実等)は原判決「第2事案の概要」の2に,
当事者双方の主張は,次項に控訴人の当審における補充主張を付加するほかは,
同3に記載のとおりであるから,これらを引用する。ただし,原判決3頁14
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行目,19行目,21行目,23行目,25行目,4頁2行目,18行目,5
頁1行目,6行目,16行目,6頁13行目,7頁4行目,5行目から6行目
にかけて,16行目,8頁12行目,13行目,14行目,15行目,24行
目,末行目に「地権者ら」とあるのを,「本件各地権者」と改める。
4控訴人の当審における補充主張
(1)「不公正な取引方法」は,少なくとも①虚偽説明及び②違約金等の負担の
申出に関する限りにおいては,口頭弁論終結時点において,現に行われてい
るか将来行われる可能性があるといわざるを得ない。
すなわち,原審において被控訴人補助参加人らの代理人であった浦田昭弁
護士は,被控訴人代理人として控訴人代理人と内容証明(平成23年8月3
0日付け通知書(甲25))などのやりとりをし,控訴人が被控訴人を相手
方として一宮簡易裁判所に申し立てた調停において被控訴人代理人として
出頭するなどしており,平成23年6月30日の地権者に対する説明会にお
いて,控訴人と本件各地権者との本件予約契約が無効であると説明(甲12)
した「専門家」である蓋然性が極めて高い人物である。
同人が,被控訴人の費用負担でもって被控訴人補助参加人らの代理人とな
り,補助参加人から本件予約契約の帰趨について尋ねられれば,当然,被控
訴人が主張するとおり「被控訴人が有する占用許可により無効」との虚偽の
説明を繰り返すであろうことは想像に難くない。まさに,このこと自体,被
控訴人による(少なくとも虚偽説明の点においては)「不公正な取引方法」
が現になされているというべきである。
なお,被控訴人が本件で主張している水路の占有権に関する点は,全くの
虚偽である。すなわち,本件水路は公共水路であって可児市の所有に属し,
地区の土地改良区が管理する水路であり,公共物である。被控訴人が占用許
可を得たのは,本件各地権者の本件各土地につき借地して店舗を建築し同所
で営業を行うこと(又は,行っていること)を前提とし,その限りで占用許
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可が出ているにすぎない。
しかし,被控訴人は本件各地権者と契約を解除し,建物も撤去して本件各
地権者の本件各土地を本件各地権者に返還したのであるから,この時点で,
占用許可の目的は終了しており,被控訴人は廃止の届出をしなければならな
いのであり,これは,水路占用許可の条件にもなっている(甲18,19)。
被控訴人と地権者間の従前の賃貸借契約や建物所有(営業)の関係が終了
すれば,特別の事情がない限り占用許可の前提もなくなるわけであり,被控
訴人に別個に独自の水路占用権が残ることにはならない。
また,他方,行政庁は,占用許可を受けた者から廃止届が出ない場合にお
いても,本件各地権者や本件各地権者と新たに賃貸借契約を締結した者から
新たに占用許可の申請があれば,被控訴人への占用許可を取り消すこともで
きるのである。このような解釈は,水路が公共物であり,占用許可が行政行
為の一種である点に鑑みても,条理上も当然の帰結である。
もし被控訴人の主張を前提とすれば,被控訴人は地権者との賃貸借契約を
解除し,建物を撤去して土地を返還しても,廃止届をしない限り本件水路に
独自の(排他的に占有する)占用権を有することになる。そうすると,本件
各地権者は,将来においても本件各土地を第三者に賃貸する場合には被控訴
人の承諾がなければ有効利用できないし,被控訴人の意向に沿った借主でな
ければ賃貸できないことになる。
行政府の付与した占用許可は,占用許可を受けた者に特別の利権を付与す
るものでもなければ,何らかの私権を設定するものでは決してない。換言す
れば,普通抵当権が債務の完済を受ければ抵当権としての効力は喪失し,抹
消しなければならないのと同じなのである。被控訴人のこの点に関する主張
は,水路占用権を根抵当権と同様のものと解しているか,あるいは「一種の
権益」を不当に主張するものであるし,普通抵当権の流用をしているのと同
様である。
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また,違約金等の負担の申出については,その負担の約束を行い(甲10,
13),現実に,同約束に従って,実質的には被控訴人が依頼した弁護士が,
原審では被控訴人補助参加人らの代理人として活動し,また,控訴人が本件
各地権者を相手方として御嵩簡易裁判所に申し立てた調停事件について本
件各地権者の代理人として活動している。これらの行為自体,「違約金等の
負担の申出」を繰り返し,これを補強するものにほかならないが,さらに,
代理人として活動をするにあたって,本件各地権者から今後の費用(賠償)
負担について説明を求められないこと等は考えられず,その際には,違約金
等の申出による約束を確認・説明するであろうから,少なくとも「違約金等
の負担の申出」にあたる不公正な取引方法は,将来実行される可能性がある
というべきである。
控訴人は,被控訴人の「不公正な取引方法」による妨害行為があったため,
本件各地権者との事業用定期借地権設定契約を締結することを求めて,平成
24年6月19日に調停の申立てをした(御嵩簡易裁判所平成○年(ノ)第
○号)が,同調停は同年8月30日に不調となった。同調停に,地権者の一
部の代理人として出頭したのも,原審における被控訴人補助参加人らの代理
人である。
控訴人は,やむなく同年11月7日に本件各地権者に対し賃借権の設定登
記手続(予備的には債務不履行による損害賠償)を求める訴えを岐阜地方裁
判所御嵩支部に提起せざるを得なかった(同支部平成○年(ワ)第○号)が,
同裁判所に地権者の一部の代理人となっているのは,被控訴人代理人である。
この経過は,現在でも被控訴人が上記違約金等の負担の申出を続けているこ
とにほかならないし,将来において地権者が控訴人に債務不履行による損害
賠償が認められたと仮定した場合には,これを被控訴人が負担することを約
束していることにほかならない。そうであれば,やはり「不公正な取引」は
現に行われていることになる。
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(2)仮に,原審の心証のとおり,差止めを認める実益がなくなったのだとすれ
ば,それは要するに「訴えの利益」が欠けるということであるから,訴えの
却下をすべきであり,あえて訴えを棄却することは無用(しかも有害的無用)
であるとともに違法である。
原審は,棄却の判決をした以上は訴訟要件たる「訴えの利益」があると判
断したものと推認できるが,仮にそうだとすれば原審の述べる「実益」の有
無について一部「地権者」の前記「意思の表明」だけでは不足であるし,仮
に「不公正な取引方法」との判断がされれば物理的にも法律的にも地権者が
被控訴人との合意や契約を解除すれば「実益」は十分にある。この理は,仮
に,土地の引渡しが行われ,かつ,被控訴人が建物を建築して登記したとし
ても同様である。
原審の判断によれば「不公正な取引方法」の中止を求める訴えは,「不公
正な取引方法」が行われている間のみしか適法ではないばかりか,その結果
「不公正な取引方法」が完了してしまえば損害賠償しかできないとの前提に
立脚している。
そうであれば,本件のような場合は一回の契約で契約行為としては完了(後
はその履行)してしまうので,早く完了したものが勝ちという結果になって
しまう。また,「不公正な取引方法」の結果(被控訴人と地権者との契約)
が継続している本件では,立法の趣旨は貫徹しないであろう。
このような解釈が法の限界であればやむを得ないが,被控訴人は「不公正
な取引方法」の結果という利益を享受し,今後もこれを享受し続けうるとい
うのは理解に苦しむ。そうすれば,少なくとも被控訴人が本件各地権者と契
約し,本件各地権者の本件各土地を賃借している限りは,「不公正な取引方
法」が継続していると解釈できる余地は十分にある。
何よりも,控訴人が本件各地権者と契約しうる可能性は,事実上の困難性
は伴うものの,法律的にも物理的にも十分可能だからである。
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第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原判決と同様に,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却
すべきものと判断するが,その理由は,原判決11頁17行目,同頁末行に「地
権者ら」とあるのを「本件各地権者」と改め,次項に控訴人の当審における補
充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「第3当裁判所の判断」の1
ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人の当審における補充主張に対する判断
(1)控訴人は,「不公正な取引方法」は少なくとも①虚偽説明及び②違約金等
の負担の申出に関する限りにおいては,口頭弁論終結時点において現に行わ
れているか将来行われる可能性があるといわざるを得ないなどと,上記認定
判断(原判決引用)を縷々批判する。
しかし,控訴人が現に行われているか将来行われる可能性があると主張す
る「不公正な取引方法」については,裏付けのない控訴人の推測に過ぎない。
既に本件各土地上に被控訴人の建物が完成し,被控訴人の経営するスーパー
マーケットが開店したことが窺われる(乙12,13,弁論の全趣旨)現時
点において,控訴人の主張に係る「不公正な取引方法に該当する行為」が現
に行われているということはできないし,将来,これが引き続き行われるお
それがあるということもできないことは,上記認定判断(原判決引用)のと
おりであり,これを左右するに足りる証拠はない。したがって,控訴人の当
審における補充主張(1)は,理由がない。
(2)控訴人は,差止めを認める実益がなくなったのだとすれば,それは要する
に「訴えの利益」が欠けるということであるから,訴えの却下をすべきであ
り,あえて訴えを棄却することは無用(しかも有害的無用)であるとともに
違法である旨主張する。
しかし,独禁法24条の定める,違反行為により「利益を侵害され,又は
侵害されるおそれ」については,訴訟要件ではなく,実体的法律要件である
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と解されるから,違反行為によって「利益を侵害され,又は侵害されるおそ
れ」があると主張する者であれば原告適格に欠けるところはなく,違反行為
により「利益を侵害され,又は侵害されるおそれ」が認められない場合には,
その請求を棄却すべきである。したがって,控訴人の当審における補充主張
(2)は,その前提を誤っており,採用できない。
3よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官渡辺修明
裁判官榊原信次
裁判官金谷和彦

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