弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 麻布税務署長が原告に対し平成6年3月28日付けでした、原告の
平成4年1月1日から同年12月31日までの事業年度以降の青色申告承認取消処
分、同事業年度の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分並びに同事業年度の
法人特別税の更正処分及び重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が平成4年12月21日に、海外の子会社に対し25億600
0万円を送金し、それを特別損失として確定申告を行ったことについて、麻布税務
署長が、同送金は、計画的に外形的体裁を構築して事実を仮装し、海外投資特別損
勘定により処理したにすぎないものであるとして、原告の平成4年1月1日から同
年12月31日の事業年度(以下「平成4年12月期」という。)以降の法人税の
青色申告承認取消処分(以下「本件取消処分」という。)を行うとともに同事業年
度における法人税及び法人特別税についてそれぞれ更正処分(以下あわせて「本件
各更正処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下あわせて「本件各賦課決定」
といい、本件各更正処分とあわせて「本件各更正処分等」という。)をしたので、
これを違法として上記各処分の取消しを求めるものである。
 被告の主張する上記仮装の内容は、原告の属するグループ内の海外法人の中
に多額の損失を有する赤字会社があったところ、当該グループにおいてはその損失
を原告に負担させようと考え、まず、その前年に原告がグループ内の休眠会社に多
額の出資をしてこれを子会社とした上、同社が赤字会社の子会社を不当に高額で買
い取った後、原告が自己の上記子会社に対して損失負担金を支出し、あたかも原告
が親会社としての責任に基づいて損失負担金を支出したごとく仮装したというもの
である。
2 法規等の定め
(1) 国外関連者に対する寄付金の損金不算入
ア 租税特別措置法66条の5第3項
 法人が各事業年度において支出した寄付金の額(法人税法第37条第6
項に規定する寄付金の額をいい、同条第1項の規定の適用を受けたものを除く。以
下この条において同じ。)のうち当該法人に係る国外関連者に対するもの(同法1
41条第1号から第3号までに掲げる外国法人に該当する国外関連者に対する寄付
金の額で当該外国関連者の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される
ものを除く。)は、当該法人の各事業年度の所得の金額(同法第102条第1項第
1号に規定する所得の金額を含む。)の計算上、損金の額に算入しない。この場合
において、当該法人に対する同法第37条の規定の適用については、同条第2項中
「前項」とあるのは、「前項及び租税特別措置法66条の5第3項(国外関連者と
の取引にかかる課税の特例)」とする。
イ 青色申告及びその承認取消し
(ア) 法人税法121条1項は、内国法人は、納税地の所轄税務署長の承
認を受けた場合には、中間申告書、確定申告書及び清算事業年度予納申告書並びに
これらの申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができるとす
る。
(イ) 同法127条は、同法121条1項(青色申告)の承認を受けた内
国法人につき次の各号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長
は、当該各号に掲げる事業年度までさかのぼって、その承認を取り消すことができ
る。この場合において、その取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後そ
の内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立
した法人税に係るものは除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなすと定め、各
号の三として、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は
仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相
当の理由があることとし、同号の事業年度として当該事業年度を掲げる。
(ウ) 同法130条2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書
に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税
通則法28条2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理
由を附記しなければならないとする。
ウ 法人特別税
(ア) 法人特別税は、我が国の財政の現状にかんがみ、臨時の措置として
課税された(法人特別税法1条)ものであり、指定期間内(平成4年4月1日から
平成6年3月31日まで、同法2条4号)に終了する事業年度(課税事業年度、同
法7条1項)における基準法人税額(法人の法人税の課税標準である各事業年度の
所得の金額につき、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定によ
り計算した法人税の額、同法6条)から400万円を控除した残額を課税標準法人
税額として(同法9条2項)、同額に100分の2.5を乗じた金額を法人特別税
額として賦課する旨を定めている(同法10条)。
(イ) 法人が青色申告の承認を受けている場合には、法人特別税申告書に
ついても青色の申告書により提出することができるものとされ(同法15条1
項)、同規定による青色の申告書に係る法人特別税については、前記イ(ウ)の法人
税法130条2項の規定を準用するものとする(法人特別税法15条2項)。
3 本件各訴えに至る経緯
 平成4年12月期の法人税の更正処分等に至る経緯は別表1、平成4年12
月期の法人特別税の更正処分等に至る経緯は別表2、本件取消処分に至る経緯は別
表3記載のとおりであり、これらの計算関係自体については当事者間に争いがな
い。
4 前提事実(認定根拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告は、平成4年12月期当時、東京都港区α2番39号に本店を置き貿
易及び機械製造業を営む法人であった。原告の商号は、平成4年3月31日までは
ガデリウス株式会社であったが、同年4月1日以降はエービービー・ガデリウス株
式会社に、平成7年4月13日以降はエービービー株式会社に、平成11年8月1
日以降はエービービーアルストムパワー株式会社に、平成12年7月1日以降はア
ルストムパワー株式会社に、平成13年10月1日以降はアルストム株式会社にそ
れぞれ変更している。
 原告は、平成11年6月25日、本店を神戸市β3番4号に移転し、それ
により、原告の納税地を所轄する税務署長は麻布税務署長から神戸税務署長となっ
た。
(2) 原告の関連会社
 原告の親会社は、GadeliusuAB(以下「GAB」という。)であり、原告
の祖父会社は、SvenskaFlaltfabrikenAB(以下「フレクト」という。)であり、
原告の曾祖父会社は、ABBAseaBrownBoveriLtd(以下「ABB」という。)であ
る。そして、原告の兄弟会社(GABの子会社)として、GadeliusElektoronik
AB(以下「GES」という。)がある。
(3) 損失負担金支出に至までの経緯
ア 原告は、平成3年9月26日、フレクトの子会社で休眠会社であった
FlactKontorsserviceiStockholmAktiebolag(資本金5万クローネ)を資本金と
同額で買い取って自己の子会社とし、翌27日に同社の商号をGadeliusNordic
AB(以下「GNAB」という。)とした。同買収と商号変更は、同年10月22日
の原告の取締役会で承認可決された。
イ 原告は、平成3年11月1日、太陽神戸三井銀行(当時)霞ヶ関支店か
ら、株式取得代金5万クローネ及び増資払込金4995万クローネの合計5000
万クローネ(10億6000万円)を、SKANDI-NAVISKAENSKILDABANKENのGNA
Bの口座(以下「本件GNAB口座」という。)に送金した。
ウ 原告は、同年12月3日、GNABと貸付金額5億円とする金銭消費貸
借契約を締結し、同日同契約に基づき2225万1891.42クローネ(5億
円)を三菱銀行(当時)新橋支店から本件GNAB口座に送金した。
エ GNABは、同月10日に、GESの子会社であるGadeliusTelecom
AB(以下「GTS」という。)、TH:SElektronikAB(Sweden)(以下「GTHS」
という。)、GadeliusOY(Finland)(以下「GFI」という。)、Gadelius
ElektronikA/S(Norway)(以下「GNO」という。)、GadeliusTelecom
A/S(Denmark)(以下「GDK」という。)、GadeliusTahonikOy(Finland)(以下
「GTHF」という。)の6社(以下「本件子会社6社」という。)をGESから
簿価の3479万9000クローネで買収した。
オ GESは、同日、1450万クローネをGTSへ送金するなど本件子会
社に合計2600万クローネを送金し、本件各子会社のへのコントリビューション
として処理し、各社の損失補填に充てた。
カ GNABは、同月13日、THSの子会社(GESの孫会社)である
TahonikA/S(Norway)(以下「GTHN」)、GadeliusDataSystem
AB(Sweden)(以下「GDS」という。)の2社(以下、本件子会社6社と併せて
「本件子会社8社」という。)をTHSから簿価の142万5000クローネで買
収した。
キ GNABは、同月20日、GESがGTHSの株式を旧株式から取得し
た際に、旧株主に支払を約束した利益の分配金(GNABがGTHS株式を購入す
る前にGESとGTHSの旧株主との間でGTHSの利益の3分の2を旧株主に支
払うことが約束されていたところ、平成元年ないし平成3年分の未払金があっ
た。)794万4000クローネ(約1億7000万円)を負担した。
ク GNABは、平成4年5月から6月にかけて、本件子会社8社のうち5
社に、キャピタルインジェクションとして、以下のとおり合計1199万6000
クローネ(約2億5000万円)を支払った。
(ア) GFI           225万5000クローネ
(イ) GDK           269万6000クローネ
(ウ) GTHS          238万2000クローネ
(エ) GTHF           66万3000クローネ
(オ) GDS           400万0000クローネ
ケ GNABは、クのキャピタルインジェクションの後、本件子会社8社の
うちのGTSを除く7社の株式を、同7社の代表者等にほぼ無償で売却した。
コ GNAB及びGTSが平成4年10月末日時点での仮決算を行ったとこ
ろ、GNABが6205万5000クローネ、GTSが3113万6000クロー
ネ、両者合わせて1億1977万5000クローネの損失を計上した。
サ 原告は、同年12月15日、GABとの間で株式売買契約を締結し、G
NABの全株式50万株を5000万クローネ(約10億円)で売却した。
シ 原告は、同月21日、GNABへ25億6000万円(1億1928万
3000クローネ)を送金し、全額を仮払金勘定に計上した(以下この金員を「本
件損失負担金」という。)。
ス GNABは、翌22日、原告に対し、原告が平成3年12月3日に貸し
付けた5億円を返済した。そして、GNABは、従来からの借入金の返済として利
息を含めて約10億6000万円を使い、また、新たにGABに対する貸付金とし
て、10億円を送金した。
 また、同日、GABは、原告にGNABの売却代金として10億円、借
入金の返済として10億円及びその利息として5273万9721円を送金した。
セ 原告は、平成4年12月31日、仮払金勘定に計上した25億6000
万円について、特別損失勘定に振り替えた。
ソ 平成4年度12月期の決算において、GNABは、株式の売却損等74
69万9000クローネ(約15億円)、GTSは、5293万7000クロー
ネ、両者合わせて1億2790万6000クローネの損失を計上したが、原告から
上記シのキャピタルインジェクション及びABBからの7309万8000クロー
ネのコントリビューションを得た結果、前年繰越損失を控除後のGNABの損益は
1億2003万6000クローネとなり、GNABは、1億1003万6000ク
ローネをGABへ配当した。
第3 当事者の主張
1 被 告
(1) 被告主張の骨子
 本件損失負担金は、GES及び本件子会社8社の経営が危機的状態にあ
り、多額の損失及び借入金などの債務が生じていたところ、事業の整理・撤退が必
要となり、かかる資金の負担をGESの親会社であるGAB及び祖父会社であるフ
レクトに依頼したがこれに応じないこととなり、グループ内において当時最も資金
力を有していた原告が負担することとなった。ところが、原告がこの資金を負担す
ると、原告は、GESの単なる兄弟会社であり、経済的・社会的にこれを負担し責
任を負う立場にないことから、この負担は、国外関連会社に対する寄付金となり、
原告の損金とならないことを承知していた。
 そこで、本件損失負担金を原告の損金とするために、休眠会社であるGN
ABを買い取り、これに多額の資金投資・貸付けを行い、GNABを介してこの資
金により本件子会社8社を高額で買い取るなどの取引をし、適正な取引であるかの
ように糊塗するための事業計画・収益予想などの工作を行った上、前記第2、4(3)
サないしセのとおりの処理を行ったものである。
 したがって、第1に、本件各取引は、原告が本件子会社8社に買収価格に
見合う価値がないばかりか最終的には総額1億1203万クローネの損失を受ける
ことを予想した上、その損失を本来負担すべきGESに代わって負担する意図の下
に行ったものであり、単なる外国関連会社の寄付金の支出にすぎないにもかかわら
ず、これを出資、貸付け及び損失負担金として支出したかのように仮装し、その旨
の帳簿処理をしたのであるから、課税標準の基礎となる事実を仮装し、かつ、帳簿
書類に取引を仮装して記載したものである。また、第2に、本件損失負担金25億
6000万円は、先に貸付金及び出資金として送金済の同額の金員をいったん送金
した上、全て自己に還流させたものであるところ、先に送金済みの25億6000
万円は、平成4年12月21日の時点で損金に算入することはできないものであっ
たにもかかわらず、これを損金化しようとの動機に基づき再度送金して還流させ、
損金経理であるかのように仮装させたものであって、課税標準の基礎となる事実を
仮装し、かつ、帳簿書類に取引を仮装して記載したものである。
(2) 書簡と一連の行為
ア 休眠会社を買収するまでの状況
(ア) GESの社長であるP1は、平成3年9月13日、当時の原告の代
表取締役であるP2に乙第2号証の書簡(以下「書簡1」という。)を宛てた。書
簡1によれば、原告がGESの子会社を買い取るに当たり、その数ヶ月後にこれら
の子会社を売却する際、税務上損失として認められる額が最高となるような額で買
い取ることを検討していたことが判明する。
(イ) 原告のグループコントローラーの職にあったP3は、同月17日、
P1及びP2に乙第3号証(以下「書簡2」という。)の書簡を宛てた。書簡2に
よれば、GESには、損益計算書上の膨大な損失とフレクトからの多額の借入金の
問題があること、GESの損失補填の方策としてGESの子会社の株式を原告が高
額で取得することが考えられるが、この方法によると両者が資本系列上のグループ
内にあることから、株式の高額取得の理由を我が国の税務当局に説明するために適
当な理由、すなわち将来的な収益力・事業計画を備えなければならないこと、子会
社の収益力と事業計画は税務当局に高額での株式譲渡の背景を説明することのみを
目的として作成することなどを検討していたことが判明する。
(ウ) P3は、同月21日、フレクトの副社長P4及びP2に乙第4号証
の書簡(以下「書簡3」という。)を宛てた。書簡3によれば、原告がGESの子
会社を買い取り、その後1ないし2ヶ月後にさらに資本投入による損失補填の方法
を採ると、関係当局に対する増資の理由説明が不可能であり、さらに翌年に原告が
子会社を売却すると、我が国の税務当局が、海外の損失を日本に移転し、原告の利
益を圧縮したと判断し、税務上の罰則を科すおそれがあることから、原告がフレク
トの休眠会社を取得するか又は新会社を設立して、これに多額の資本投入及び貸し
付けをし、この資金を基にGESが負担しているGTHSの旧株主への未払金を払
うとともに、新会社がGESの子会社を買い取り、子会社の損失を補填する方法を
検討していたことが判明する。
(エ) GESのP5は、同月25日、P3に乙第5号証の書簡(以下「書
簡4」という。)を宛てた。書簡4によれば、GESの子会社には多額の損失があ
り、この損失は、子会社を売却する前にGESがこれを補填する必要があるが、フ
レクトにはこの資金を提供する意思がなく、原告がこの資金を提供した後、GES
が子会社を清算した場合、原告においてこの資金提供が損金として認められるかが
問題となること、スウェーデンにおけるGESの子会社の株式の評価について、資
本金と非課税引当金から繰延税を差し引いて計算したところで約1500万クロー
ネであることなどを検討していたことが判明する。
(オ) 前記(ア)ないし(エ)の事実及び各書簡並びに前記第2、4(3)アの事
実を総合して検討すると、以下の事実が認められる。
 GES、フレクト及び原告は、GNABを買い取るまでの段階におい
て、GESの膨大な損失及び多額の借入金の処理を基本的問題として、この解決策
をさまざまな観点から模索・検討していたが、その検討内容は、資本系列上GES
の親会社であるGAB及び祖父会社であるフレクトがその資金手当てをできないこ
とから、原告がGESの子会社を高額で買い取ることによりGESに資金手当てを
し、原告はその数ヶ月後に損失が最大となるような額をもって子会社株式を売却
し、原告の損金とする税務処理を行うというものであった。
 ところが、原告がGESの子会社を高額で取得すると、両者は資本系
列上のグループ内にあることから、我が国の税務上意識的に損失を原告に移転した
として、原告に税務上の罰則を課されることをおそれ、これを我が国の税務当局に
説明することを目的とした子会社の将来的な収益力の予想・事業計画の作成をする
必要があると考え、原告がフレクトの休眠会社を買い取ってこれを介してGES等
に資金援助をするという方法を採ることとした。なお、この際には、GESの子会
社の多額の損失を補う資金の調達方法、子会社の株式の評価についても検討してい
る。
 すなわち、通常の事業投資であれば事前に事業計画を検討し、将来の
収益予想を図り、その結果に基づいて投資の可否を決定するのが当然であるとこ
ろ、原告はGESの子会社を買い取るに当たり、このような事前の検討を全くする
ことなく、かえって我が国の税務当局向けの事業計画等の文書を作成しようとして
いたことが明らかである。
イ GNABの買取り以降本件損失負担金を支出するまでの状況
(ア) KPMGピートマーウィック事務所(以下「ピートマーウィック事
務所」という。)のP6は、原告の事業管理部長P7に乙第6号証の書簡(以下
「書簡5」という。)を宛てた。書簡5によれば、原告は、GNABを買い取りそ
の後の一連の取引により総額1億1200万クローネの損失を被ることを予測し、
この損失をそのまま原告の投資損失として計上すると、我が国の税務当局から、当
該損失はグループ内取引で生じた損失であり、取得前から予想していたものである
から損金とならないと指摘されると考え、この投資損失について寄付の意図ではな
かったことを立証するための証拠書類を準備する必要があると考えたこと、またピ
ートマーウィック事務所は、この損失を損金とすることは困難と承知しながらも、
損金とするための工作資料の提供を求めたことが判明する。
(イ) P7は、同年9月14日、ABBのP8に乙第7号証の書簡(以下
「書簡6」という。)を宛てた。書簡6によれば、子会社売却による損失を原告の
損失とし原告の利益を圧縮する税金効果を最大限にする意向があるが、日本の税務
当局がこの損失を原告の損失を認めるとは到底思われないことから、GESの子会
社を買い取った時点では正当な価額であったことを立証する必要があり、そのため
の関連事実をまとめる作業過程に着手したこと、その過程においてピートマーウィ
ック事務所と連絡をとり、資料を同事務所に提出して同事務所から「決定的な」意
見を求め、その後は誰かが最終的な戦略を承認・決定する必要があることを検討し
ていることがうかがわれる。
(ウ) AGC-CFC/MHo/NaT/HiL(原告の財務部)は、同年10月12日、P7
に乙第8号証の書簡(以下「書簡7」という。)を宛てた。書簡7によれば、原告
がGNABへの長期貸付金及び資本投資の計1億2000万クローネについて特別
損失として計上する予定であるとし、特別損失1億2000万クローネは、損金と
ならないと考えていたことが明らかとなる。
(エ) P7は、同年11月23日、P5に乙第9号証の書簡(以下「書簡
8」という。)を宛てた。書簡8によれば、原告としては、GNABの損失を手当
てするための資金が多額にのぼることを問題としながら、さらにこの時点でGES
等の損失補填については、すでに多すぎるほどの問題点が山積していることを指摘
していることが明らかとなる。
(オ) P6は、同年12月1日、P7に乙第10号証の書簡(以下「書簡
9」という。)を宛てた。書簡9によれば、原告が負担することとしている当該投
資損失を正当化するために、我が国の税務当局からの予想される質問に対処するた
めの追加情報を早期に入手し、そして、この損失が原告の損失であることを現実化
するために、GNAB株式を無価値で他者に売却せず、同月31日までにGNAB
を清算する案が提案されたことがうかがわれる。
(カ) P7は、同月4日、ABBのP9に乙第11号証の書簡(以下「書
簡10」という。)を宛てた。書簡10によれば、ピートマーウィック事務所から
提言があり、これに従うと従前の戦略を完全に変更することとなる旨がうかがわれ
る。
(キ) P6は、同月8日、P7に乙第12号証の書簡(以下「書簡11」
という。)を宛てた。書簡11によれば、GNABが存続すると、我が国の税務当
局は財務状態が好転する可能性があるとして貸倒損失を認めないと思われるので、
GNABを清算すべきであること、原告のGNABへの追加投資(GABから貸付
金を移転することによる)は、それがGNABの清算に関連して、原告のGNAB
への投資による追加損失に歯止めをかけるためのものであるならば損金として認め
られる可能性があるが、追加投資が別の関係会社に補償するためのものであれば、
貸付金の移転は税務上認められないこと等を検討していたことがうかがわれる。
(ク) 前記(ア)ないし(キ)の各書簡によれば、原告は、GNABを買い取
り、その後の一連の取引により総額1億1200万クローネの損失を被ることを予
測し、原告の関連会社及び会計事務所は、当該損失を原告の損金とすることは困難
であると承知しつつ、これを損金とするための工作資料を収集することとし、右に
係る全情報を会計事務所に提出して、同事務所から「決定的な」意見を求め、その
後は、誰かが最終的な戦略を承認・決定する必要があるとした。ところが、その過
程において原告は、「税務当局に対して大きな問題を抱えていることを忘れつつあ
り、税務当局が認識する上で、大きな問題となるような構造を構築しつつあるよう
な気がしてならない。GES等の損失補填については、すでに多すぎるほどの問題
点が山積しており、これらをさらに複雑化することにより、原告の状況が容易にな
ったのではないことは明らかです」とかえりみていたのである。なお、会計事務所
からこの損失が原告の損金であることを現実化するために、GNAB株式を無価値
で他者に売却せず、平成4年12月31日までにGNABを清算する提案がされ、
この提案に従うと従前の戦略を完全に変更することになると考えた。
(ケ) 前記の各書簡に前記第2、4(3)イないしケの事実を総合すれば、G
NABを買い取りその後一連の取引による総額1億1200万クローネの損失を原
告が負担することとしたが、この損失をそのまま原告の投資損失として計上する
と、我が国の税務当局から、当該損失はグループ内取引で生じた損失であり、この
損失は取得前から予想できていたものであるから損金とならないと指摘されること
を十分予測した上でさまざまな工作を図っていたことが明らかである。
ウ 本件損失負担金を支出した後の状況
(ア) GNABの損失の内容
a GNABは、前記第2、4(3)ソのとおり、平成4年12月期の株式
売却損等7469万7000クローネ(約15億円)の特別損失を計上している
が、その内訳は、①本件子会社8社のうちGTSを除く7社の株式の売却損として
5204万3000クローネ(約11億1000万円)、②BSAB株式売却損と
して900万クローネ(約1億9000万円)、③GTS株式評価損として358
万クローネ(約8000万円)、④営業休止費用として1007万4000クロー
ネ(約2億2000万円)である。
(a) ①の関連7社株式売却損について
 本件子会社のうちのGTSを除く7社への投資総額が5204万
3000クローネとなっているところ、この株式を無価値として売却したことによ
る損失である。
(b) ②のBSAB株式売却損について
ⅰ 売却損計上の経緯
 GESは、平成3年前半までSCABとの取引商品について不
良在庫を抱え、さらに同社との契約による一定量の発注義務を負っていた。そこ
で、この解決策として、GESはSCABとの取引の契約条件の任意の取消し・変
更のための交渉を行い、両者の法律上の関係を変更することに合意していた。
 そこで、両者は、平成3年10月1日、前記合意について次の
内容を含む契約書をかわした(乙14号証の訳文4ないし7頁)
① GESは、平成3年10月1日に2400万クローネをSC
ABに支払う。
② 両社各50%の出資による合弁会社を設立する。設立に際
し、GESは600万クローネを現金で、400万クローネを商品で提供する。S
CABは、両者で新たに締結する契約に従って独占販売権を付与することにより、
1000万クローネを提供する。
③ GESが平成3年12月1日までに②の資本を提供しなかっ
た場合には、SCABは、特約店契約の対象となっている商品を新しい販売会社で
意図したテリトリーである北欧諸国で自らマーケティングと販売を開始する権利を
有し、GESがその時点で有する商品の在庫を販売する権利は直ちに終結する。
 右契約に基づき、GESは、SCABに①の2400万クロ
ーネを支払ったが、②による合弁会社は設立されなかった。しかし、これに代え
て、同年12月16日、GNABは、SCABの100%出資の子会社であるBE
ABと共同出資をして、BSABを設立した。
 BSABは、平成3年12月16日、GNABが600万クロ
ーネを現金で、400万クローネをGESから取得した商品で提供し、BEAB
は、100万クローネを金銭等の経済的出資ではなく技術で提供することとして設
立されたものである。
 その後、GNABは、平成4年9月1日、BSABの出資持分
のすべてをBEABに100万クローネで売却し、900万クローネの株式売却損
を平成4年12月期に計上した。
ⅱ 売却損にかかる評価
 そもそもBSABの設立は、将来に向けた通常の事業投資では
なく、GES及びSCABの契約解除のための義務であり条件とみなされるべきも
のであった。このことは、BSABの設立の約2ヶ月後である平成4年2月6日に
GESの社長P1ほか2名によりBSAB設立の趣旨が上記のものであることが確
認されている(乙第15号証の訳文1頁の10及び11行目)ことから明らかであ
る。
 すなわち、GNABは、GESがSCABに負っている契約解
除のための解決金をGESに代わってBSAB設立・投資という仮装の行為を作り
上げることにより支出したものであり、このことは何らの経済的合理性がないにも
かかわらずされたものであることが認められる。
(c) ③のGTS株式評価損について
 GTSへの投資が412万1000クローネと計上されていると
ころ、54万1000クローネと評価して差額の358万クローネを評価損として
計上したものである。
b そして、本件損失負担金25億6000万円は、GNABに対し、
名目上は増資資金及び事務所経費として送金されているが、それらはいずれも単に
名目的なものにすぎず、実際には、原告、ABBスイス及びABBスウェーデンの
責任者によって平成4年8月ころに開かれたミーティングにおいてGNABの累積
欠損を原告が負担する旨の合意に基づいて支払われたものであり、GNABの損失
と本件損失負担金とは密接に関連している。
(イ) P7は、平成5年1月12日、ABBのP10他に、乙第13号証
の書簡(以下「書簡12」という。)を宛てた。書簡12によれば、原告はGNA
Bを買い取った後の一連の取引により、平成4年末において総額2090万米ドル
の損失が生じるという複雑な税務問題を抱えており、これを特別損失として計上し
ていること、我が国の国税当局はこれを否認すると思われ、この金額の申告につい
て悩んでおり、損金計上しないと少なくとも、名目上何も得られないとして苦慮し
ていることがうかがわれる。
(ウ) 前記(イ)の書簡及び前記第2、4(3)クないしスによれば、原告は、
本件損失負担金25億6000万円を損金計上したが、これについては我が国の税
務上複雑な問題を抱えており、税務当局はこの損失を否認すると考えつつ、GAB
にGNAB株式を簿価の10億円で売却した。一方、GNABは、原告から受領し
た本件損失負担金25億6000万円について、受領直後にGABに20億527
3万9721円を、原告に5億0783万8114円をそれぞれ送金し、GES及
びその子会社の事業の整理撤退が終了したことから、原告は、GNABへの送金額
を特別損失として計上した。また、GABは、GNABから受領した右20億52
73万9721円を受領と同時に原告への借入金の返済及びGNAB株式購入代金
として送金したと認められる。
エ 小 括
 各書簡の内容を総合すれば、原告の行った一連の行為は、休眠会社を買
い取った上で、当該休眠会社に業績不振の兄弟会社の子会社を高額で買収させ(買
収前にGESが損失を補填したかどうかはともかくとして)、損失補填を行った
後、当該休眠会社を低価格で売却するというものである。そして、原告及び関連会
社の幹部並びに監査法人の間でやりとりされた書簡1ないし12は、大筋において
事実とよく符合することが認められ、かつ、それらの行為が、買い取った休眠会社
の売却という行為を含めて僅か1年ほどの間に行われていることが認められる以
上、その意図が一連の書簡の意図する本来GESが負担する損失を原告が補填する
ことであると判断するのは至極当然なことである。
 いやしくも、これらの現行の企業グループの幹部及び監査法人が、実現
もしない単なるアイデアにすぎないような事柄について、このような長期にわたっ
て検討を重ねていったものとは到底考えられない。
 そして、一連の行為の中心的存在ともいうべきGNABは、①同社の平
成3年及び平成4年の「請求済売上高」が0であり、事業活動はしていないこと並
びに②同社の経営担当取締役が書簡4の発信人及び書簡8の受信人であるGESの
P5であり、また、同社の税務申告書の署名欄に同人と並んで書簡1の発信者であ
るGESのP1の名前もみられるとおり、当該一連の行為の関係者により運営され
ていること、さらに、③本件子会社8社のうちGTSを除いた7社を取得後半年余
りのわずかな期間で無償に近い金額で売却していることを合わせ考えると、原告が
GNABを通した本件子会社8社の健全な事業経営を目指していたとは考えられ
ず、むしろGNABが本件子会社8社の株式を取得した当初から引き継いだ本件子
会社8社の事業を整理することを目的としていたにすぎないものと考えるのが自然
であるのであって、我が国からの資金援助の窓口及び本件損失負担金の支出先とし
て利用する以外の必然性は見い出し難く、原告は当初GESに対する資金援助を意
図していたところ、スウェーデンのコントリビューション制度(親子会社間の損益
通算制度)を利用しようとする場合、スウェーデン法人ではない原告が直接資金援
助したのでは制度の対象とならないが、スウェーデン法人であるならば事業会社で
なくともその対象となるから、GNABにGES等の損失を終結させれば個々の子
会社等に発生した損失事由との関係が薄くなるとともに損失額も多額になり、税務
当局に対する説明が容易になることや、GNABを介して資金を注入すれば、個々
の子会社に資金を直接注入するよりも資金の流れを曖昧にできるというメリットが
あることも十分考慮していたものであって、GNABを実体のある通常の法人とみ
ることはできず、原告のダミー法人であると認められ、同社の行う行為は、原告の
意のままにされた行為であると認められる。
 そうすると、原告は、関係当事者の合意の下に、実体のないGNABを
子会社として当該一連の行為を実行させ、スウェーデン税法上のコントリビューシ
ョン制度(親子会社間の損益通算制度)を利用するためのダミー法人として利用
し、最終的には子会社とした同社の行為を原告自身の行為として、同社の負担した
とする損失25億6000万円を自らの損失としようとしたものというほかない。
(3) 資金還流による仮装について
ア 原告のGNABに対する出資金及び貸付金並びにGABに対する貸付金
が、平成4年末の時点において、それ自体損失処理できないものであったこと
(ア) まず、株式の評価損を損金に算入し得るか否かについては、法人税
法33条1項は、これを原則として禁じつつ、同条2項で例外的に損金算入を許す
場合を定めている。これを受けて、同法施行令68条、法人税基本通達(以下「法
基通」という。)9-1-9、9-1-10等に具体的基準が定められている。こ
れらによると、GNAB株式の消却損を損金に算入し得るか否かは、平成4年末の
時点において、その価額が帳簿価額の概ね50パーセント相当額を下回ることとな
り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない状況であったか否かによること
となる。
 GNABの純資産額は、当初を大幅に下回っているものの、GNAB
が依然として1億0944万クローネの資産を有していることからすると、同社の
資産状態が著しく悪化したといえるかには疑問があり、たとえ資産状態が帳簿価額
の50パーセントを下回っていても、新設法人において営業の1年目に赤字になっ
たからといって、その状態が継続するものとはいえず、近い将来にその回復が見込
まれないとの要件に該当しない。
 したがって、原告は、GNABへの出資金自体を平成4年末の時点で
消却して損金処理することはできない状態であった。
(イ) 貸付金につき貸倒損失として損金算入しうるか否かは、法基通9-
6-1及び9-6-2が定めているところであるが、いずれにしても全額回収不能
の状態が生じていることが必要とされているところである。しかし、GABについ
ては、そのような状況が生じないことはもちろん、GNABについて債務超過状態
ではあるものの貸金全額の回収が不能であったとは認め難いから、両社の貸付金を
平成4年末の時点で貸倒損失として損金処理することはできなかったといわざるを
得ない。
 また、GNABに対する貸付金については、子会社等を整理する場合
の損失負担金に関する法基通9-4-1の適用が問題となるが、前記(2)で主張した
諸事情に照らすと、原告がこの貸付金を放棄することは、同通達にいう「やむを得
ず、その負担又は放棄するに至った」ものとはいえず、損金の額には算入されな
い。
イ 本件損失負担金の寄付金該当性
 原告は本件損失負担金は法基通9-4-1の適用により損金と認められ
るべき旨主張する。しかし、同通達にいう「やむを得ず」、「相当の理由」との要
件は、事業関連性、直接性、明白性及び非裁量性の要件を示すものであるところ、
本件損失負担金については、次に述べる諸事情からしてこれらの要件を満たすもの
ではない。
(ア) 「子会社等の解散、経営権の譲渡等」(子会社からの撤退)につい
て、原告は、GNABの株式を売却したものの、売却先は原告の親会社であるGA
Bであり、GNABは現在も原告と同じグループの法人として存在しているのであ
るから、実質的にみれば、本件損失負担金の支出が子会社からの撤退に伴って行わ
れたものであるとはいえない。
 当該譲渡は、原告とGABが同一グループに属する別法人であること
を利用して、法基通9-4-1の適用を受けるために、子会社の経営権を譲渡した
という形式を整えたものにすぎず、そもそも法基通9-4-1の適用外である。
 この点、原告は、GNABは、GABの完全子会社となったことによ
ってスウェーデン法人となり、ABBよりコントリビューションを受けられるよう
になったのであるから、原告からGABへの譲渡には意味がある旨主張する。
 しかしながら、GNABがそもそも実体のない休眠会社であり、譲渡
時も休業中であったことからすれば、GABにとって、GNABを取得しなければ
ならない理由はない。原告は、欧州には休眠会社が多数存在し、休眠会社の売買は
日常茶飯事であると主張するものであるから、GNABも休眠会社としておけば足
りたはずである。
 このように、原告及びGABが、GNABを休眠会社とする最も簡便
な方法を採らなかったことは非裁量性の要件を欠くことになるし、わざわざ原告に
GNABの損失補填をさせ、これを取得するという迂遠な方法を選択したのは、原
告に税務上の損失を発生させること及び資金循環によりGABの原告に対する借入
金を消滅させる目的であったと推認され、事業関連性の要件も満たさないというべ
きである。
(イ) 「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ること」に
ついては、本件損失負担金の支出時において、既に本件子会社7社は売却され、G
TSは休業状態であったのであり、このような状況において、原告に将来いかなる
損失が発生する見通しであったか不明である。
 むしろ、P6からP7に宛てた書簡11に、「原告のGNABへの追
加投資は、もしそれがGNABの清算に関連して、GNABへの投資による追加投
資に歯止めをかけるためのものであるならば、正当化されるかもしれません。しか
し、追加投資が別の関係会社に補償するためのものであれば、貸付金の移転は税務
上認められない」と記載されていること等からすれば、本件損失負担金の支出は、
我が国の税務対策のために安易格好の手段として行われたものであって、将来のよ
り大きな損失を避けるため、やむを得ずとった処置とは考えられない。
(ウ) さらに、原告は、グループ会社の金融機関であるトレジャリーセン
ターがGNABに対し約10億6000万円の債権を有していたと主張するとこ
ろ、GNABの損失負担に際して、原告とトレジャリーセンターとの間で、合理的
な再建計画が策定されていたことはないし、原告のみがGNABの債務全てを負担
し、しかも、その中にはGNABのトレジャリーセンターに対する約10億600
0万円の債務も含まれていたのであって、このような損失負担が「やむを得ず」行
われたものとは到底いえないし、これについて「相当な理由」があるともいえな
い。
 なお、トレジャリーセンターとの協議の有無について、原告の税務担
当者であるP11は、各種協議を行っていたと述べるが、これによっても原告が単
独でGNABの損失を負担しなければならない理由はないし、その後に交わされた
書簡に、特別損失が1億2000万クローネとなり税金の控除の対象とはならない
こと(書簡7)、GNABの全損失は、いかなる状況においても原告が支払うもの
であること(書簡8)、GNABへの投資の償却にかかる損失を現実化するために
はGNABを売却するよりも清算することを推奨すること(書簡9)などが記載さ
れていることからすれば、原告を含むグループ内で行われた各種協議は、損失負担
割合等を決定するためのものではなく、原告の損失負担にかかる租税回避行為が我
が国の課税庁に否認されないことを目的としたものであったことは明らかである。
(エ) 原告は、GNABをそのまま放置すれば、スウェーデン商法に定め
る強制解散に至ることは必至であり、解散命令を受けた会社の親会社はもとより、
その企業グループに属する全ての会社が世間的評価を失墜することになるにつなが
ると主張する。
 しかし、原告がその根拠として提出したABBグループの顧問弁護士
の意見書によれば、子会社が強制解散させられた場合、「グループ会社が拘束され
ているという事実により強制的な法的規制が課せられることはありません。」と述
べられており、子会社の強制解散により何らかの法的規制や制裁が発生しないこと
は明らかである。
 また、社会的信頼失墜についても「弁護士がそれに付き意見を表明す
べきことではありません。」と前置きしつつ、スウェーデンに限られない一般論が
述べられているにすぎず、子会社が強制解散させられた場合には、我が国において
子会社が倒産した場合より大きな社会的失墜を招くということをいうものではな
い。
 さらに、そもそも、上記意見書は、ABBグループの顧問弁護士の手
によるものであり、この程度の証拠によって、法規通9-4-1及び寄付金非該当
の要件である非裁量性を基礎付けることは到底できない。
ウ 小 括
 以上のとおり、本件損失負担金の支出が法基通9-4-1及び寄付金非
該当の要件を満たす旨の立証は全く不十分といわざるを得ず、本件損失負担金は寄
付金に該当するし、原告は、当初送金分25億6000万円が平成4年12月2日
の時点で損金の額に算入できなかったことから、本件損失負担金を再度送金、還流
させ、これが損金経理できるかのごとく仮装したものにほかならない。
(4) 法人税法127条1項3号の事由の存在
ア 法人税法127条1項3号にいう隠ぺい・仮装の意義は、重加算税の場
合のそれと同義であると解されるところ、最高裁判所平成7年4月28日判決の判
示によれば、過少申告の意図を実現するための特段の行動があり、その行動によっ
てその意図が外部からもうかがい得るような場合には、隠ぺい仮装と評価すべき行
為が存在するものとして重加算税の賦課要件が満たされるものであって、法人税法
127条1項3号の適用に当たっても、過少申告の意図を実現するための特段行動
があり、その行動によってその意図が外部からもうかがい得るような場合には、当
該行動をもって隠ぺい・仮装と評価することができ、これが帳簿上に記載されてい
れば、同号の要件を満たすのであり、帳簿書類に記載された行為の私法上の効力の
有無は問題とならないというべきである。また、法人税法127条1項3号後段で
ある「記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある」とい
うのは、仮に隠ぺい・仮装が認められなくても、帳簿の随所に脱漏や過誤があるな
ど、帳簿全体が信頼性に欠ける場合を意味するものと解される。
 したがって、法人が私法上の効力までは否定することができない取引行
為をした場合、当該法人がその帳簿書類に当該行為に即した記載をしたとしても、
それが真実の経済的実質を反映していない限りにおいては、仮装たるを免れず、法
人税法127条1項3号に該当する行為といえる。
イ そして、租税回避の目的のために形を変え課税要件事実を充足させない
ような行為については、租税回避のスキームであることを踏まえ、その外形より
は、経済的実質に着目すべきであり、本件一連の取引を全体として把握した場合に
おける取引の動機・目的、取引に至る経緯や取引の前後の経済的効果等が重要な要
素として勘案されるべきであり、本件において、原告は、兄弟会社GESが本来負
担すべき費用を肩代わりした場合、本件一連の行為が行われていなければ原告に租
税特別措置法66条の4により課税関係が生じるところ、原告の税負担を回避ない
し軽減するために、グループ内企業内における資金の移転や企業の譲渡が融通無碍
になし得ることを利用し考案した一連の取引を実行し、帳簿書類にその事実を記帳
して法基通9-4-1に合致させ、課税要件の充足を免れたものであり、「法人税
の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(以下「事務運営指針」とい
う。)第1賦課基準の1(2)②の「帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同
じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀により虚偽の証ひょう書類の作
成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の処理を行っているこ
と」に該当する。
2 原 告
(1) 本件損失負担金の寄付金該当性
ア 原告の行為計算が正当であること
(ア) 原告がGNABを立ち上げた経緯
 原告の兄弟会社GESグループは、三菱電機株式会社の移動電話機な
ど電子機器を輸入し販売する等の北欧における事業展開を行っていた。GESグル
ープの北欧事業は昭和63年までは順調かつ好調であったが、平成元年に新規に取
扱いを始めた商品が不成功に終わり、また、三菱電機製の移動電話機の販売実績も
形式の陳腐化などにより利益が上がらなくなり、さらに、北欧地域の経済事情悪化
のため業況は急速に悪化に転じた。このような状況からガデリウスグループは、平
成3年6月の時点において、事業の再編を迫られることになった。
 グループでは各社の事業内容を洗い直し、選別再編し、不採算部門は
切り捨て、採算に合う部門を残すことを求められ、原告は、移動電話機について、
三菱電機と苦境打開のための協議を重ねていたため、グループ再編構想の中で原告
による北欧事業投資が行われることとなった。同時に不採算部門は切り捨てられ、
移動電話、電子機器部品、データ周辺機器等は将来利益を上げる可能性のある事業
として残され、現に生じている損失については親会社であるGESにおいて損失を
補填し、新たに原告がGNABを立ち上げ、これに集約させることとしたのであ
る。
 そこで、当時の多くのエコノミストの経済予測では、当時はすでに景
気の底であり、景気の先行きは必ず持ち直すとの見通しであり、また、三菱電機の
画期的な小型移動電話機器が、平成3年末遅くとも平成4年に入って間もなく市場
に投入されると聞いていたことから、原告は、以下の条件でその要請に沿うべく企
画を立てた。
① 原告は、GESグループの親会社となる。親会社として利益を享受
することもあるし、逆にリスクを負うこともある。
② GESグループ8社について、それぞれ展開している事業部門を分
析し、収益の上がる見込みのない事業部門は切り捨ててGESの下に残すことと
し、有望と思われる事業部門のみを抽出し、原告がこれを買収する。
③ 8社の買収価格はGESの簿価とする。ただし、その簿価が正当な
取引価格を下回っている場合は、GESはその差額をグループコントリビューショ
ンにより各社に提供する。
 以上の条件がすべて満たされたため、原告は、GESの子会社6社及
び孫会社2社の合計8社のうち有望事業部門のみを買収したものである。その際
は、次に述べる手法によった。
① 原告は、スウェーデンにおける休眠会社の買収をし、これを社名変
更し、さらに増資資金として10億6000万円を出資提供し、これをGNABと
して子会社とする。そして、同社に5億円を貸し付け、合計15億6000万円の
資金を提供し、これをもってGNABは8社の株式を取得し、GNABを通じ原告
の支配下においた。
② 原告が、スウェーデンに所在する管理統括持株会社GNABによる
GESの子会社に対する間接支配の手段を取ることにより、スウェーデン税制、す
なわち同国のグループ内の損益通算を認める規定によってグループ間の損益通算が
利用可能となった。
 このようにして、スウェーデンにおける事業を再編し、平成3年11
月1日に発足した原告の子会社GNABは、8社の子会社を実働部隊として事業を
開始し、平成3年11月1日から平成3年12月31日までの財務諸表(甲第12
号証)が作成されており、それは、この2ヶ月間の事業展開の結果であるといえ
る。また、平成4年から6年までの事業計画書(甲第13号証)が三菱電機の主導
で作成され、実行予算を組み(甲第14号証)、それを基にして北欧地域における
統括会社として、事業展開を行うこととなっていた(被告は、GNABが事業活動
をしていない点をとらえてダミー会社と呼んでいるが、これは、持株会社制度が十
分に導入されていなかった我が国の当時の感覚を示すものである。欧州各国におい
ては、持株会社は事業運営上必須の方便として広く用いられており、原告は、GN
ABを欧州におけるガデリウスグループのスウェーデンでの拠点と位置づけ、それ
なりの責務を負わせて会社の運営を行っていたものであって、GNABを指して実
体のないものと断定するのは被告の甚だしい誤解・誤認といわざるを得ない。)。
 つまり、ガデリウスグループにおける事業の再編は、平成4年前半
は、ほぼ収支見合いで、後半は大いに利益を上げるという図式で成り立っていた。
(イ) GESの子会社8社に対する損失補填及びその買入価格
a GESが本件子会社8社に対して行った損失補填
 GESは、子会社を売却するに当たり2600万クローネの損失補
填を行っているが、これはGNABとGESの間で合意されたものである。GES
がこの金額を了承したのは、GESの子会社は平成2年末までは業績が順調であ
り、各社にかなりの内部留保があったものの、スウェーデン経済が暴落し、急激な
不況が進行したため、平成3年(1991年1月から12月まで)の予想損失につ
いて、同年11月20日ころその額を推定し、これが2600万クローネであった
ため、その額の填補を行ったものである。
 GESは、2600万クローネを子会社に填補してからGNABに
簿価で売却したわけであるから、結局のところ、簿価から2600万クローネ値引
きして売却したのと同じことである。
b 本件子会社8社のGNABの取得が高額買取りでないこと
 株式の価格は、企業の純資産価額と連動して動くものではなく、そ
の決定要因は企業の将来性の予想に基づいてされるものである。また、株価の評価
は特定の価格というよりも合理的な範囲の幅に含まれる価額というべきであり、常
に相対的な評価額というべきものである。この観点からすれば、本件子会社8社の
株式の評価額は合理的な範囲に含まれ、適正な評価額といえるものである。
 平成3年11月22日に、本件子会社6社の売却条件が合意された
が、この合意によれば、売買の金額は一応GESの簿価とし、ただし、その簿価は
平成3年度の子会社に発生した損失をGESが補填して適正とみなされる価額まで
復元したものをGNABに買い取らせるというものである。すなわち、ガデリウス
グループ相互間では、株式移転は売買時の簿価で行うという制約があるため、GE
Sの子会社の株式の簿価を減額して買い取ることをせずに、GESが損失を補填す
ることで問題を解決したのである。加えて子会社8社の株式評価についての会計処
理は、会計士検査(甲第12号証)によって、正当性を承認されている。
c 原告が負担すべき損失であったこと
 本件損失負担金は、GNABが強制解散の規定に抵触することを避
けるために法人税基本通達9-4-1による損失負担として支出したものである。
(a) GNABが損失を被るに至った経緯
 GNABグループは再編時のもくろみに反して、平成4年夏ごろ
までの短期間に多額の損失が見込まれることとなった。すなわち、他社の移動電話
が北欧市場を席巻し、性能面で到底及びも付かず、加えて、北欧特にスウェーデン
経済が大混乱に陥り、原告が本腰を入れて取り組んだ北欧事業は壊滅的な打撃を受
けることとなった。そして、三菱との合弁計画も失敗に帰した。同年5月から6月
にかけて、スウェーデンの電話通信部門の在庫品及び設備を三菱に売却したもの
の、平成4年10月31日の仮決算時においては、25億6000万円(1億19
77万クローネ)の欠損金を計上せざるを得ない状況に陥った。
 その結果、平成4年10月の時点で、GNABは、そのまま推移
すれば損失がますます拡大するおそれが生じ、結局GNABを整理することがそれ
らを回避する最善の措置であると判断され、GNAB及びその子会社GTSの整理
を行うこととしたものである。
 すなわち、スウェーデン商法は、会社の純資産が払込資本金の半
分以下になって猶予期間内に回復しない場合には、強制解散の規定が適用されるこ
ととなり、これを避ける方法としてキャピタルインジェクションを行うのが通常で
あるから、原告もまたこれによってGNABの強制解散を回避した上、最終的には
GNABをGABに譲渡することで整理を終結した。
 そこで、原告は、GNABが平成4年10月31日当時において
行った仮決算に基づき、その際に計上された損失予想額である25億6000万円
を子会社等の整理について負担する損失として支出し、平成4年12月期の損金と
したものである。
(b) ABBトレジャリーセンターに対する債務弁済
 本件損失負担金の使途は、第2、4(3)ス記載のとおりであるが、
GNABが返済した10億6000万円は、GTSがABBグループの金融部門で
あるABBトレジャリーセンターから借り入れたものであり、GTSがGNABの
子会社となったことから、GNABグループの負担となったものである。
 GNABのトレジャリーセンターに対する10億6000万円の
借入金の返済について、原告が損失を負担したことについては、ABBグループ内
の法人であるとはいえ、別法人であり、GNAB設立時にGTSを買収した当時か
らGTSがすでに負担していた債務であるから、損失負担として親会社である原告
が弁済しなければならないことは当然である。なぜならGNABを立ち上げ、それ
によって獲得される利益は100%原告が取得するが、その反対にリスクは負わな
いということは許されるべくもないからである。GTSは、借入金もあったが、買
収時には借入金に見合う資産をもっていたのであるから、高価買入れとの批判も当
たらない。
(c)SCABについて
 GESは、SCABとの間で、代理店取引契約の解除のための合
意書の条件として2400万クローネを支払うこととなっており、GESはこれを
自ら支払った。また、その合意書の中で合弁会社設立に関する権利を留保していた
が、GESにおいてその権利を行使するか否かは全く自由であった。GESは子会
社設立による事業継続は行わず、その権利をGNABに委ねた。
 GNABは、SCABの電信事業部門が有望であると考え、合弁
会社BSABの設立に参加した。GNABの出資は1000万クローネ(現金60
0万クローネ、商品400万クローネ)で、GNABは、こうしてBSABの共同
経営に乗り出したのであるが、結局、スウェーデンの経済大恐慌に見舞われ、GN
ABとしては、そのまま経営に引き込まれていては損害が重なるだけであると判断
し、その出資権1000万クローネを100万クローネで共同出資者であるBEA
Bに譲渡せざるを得ないこととなり、900万クローネの損切りをした。
 GESの契約解除料2400万クローネは、GESの支払義務の
履行であり、BEABとの合弁会社による損切りはGNABの負担すべき損失であ
った。したがって、GNABは、GESの損失を負担したものではない。
イ 書簡について
 書簡1ないし11は、被告が原告の神戸支店を調査した際に収集したも
のであるが、これらの文書は社内秘扱いの極秘文書でもなく、また、拘束性のある
会議文書でもない、単なる電話代わりに取り交わした文書の集積にすぎないファッ
クス文書の一部である。そのような私文書には単なるアイデアや意見もあるであろ
うし、社としてこれを取り上げる資料とはし得ないものである。
(ア) 書簡1ないし書簡4
 これらの書面は、いずれも被告主張を裏付ける証拠たり得ないもので
ある。書簡1は平成3年9月13日、書簡2は同年9月17日、書簡3は同年9月
25日、書簡4が同年9月25日付けであり、P1、P3、P5らの間で取り交わ
されたものであるが、北欧事業において生じつつあったABBグループの営業損を
如何に処理し、再度北欧事業を活性化させるかの意見交換に関する書面にすぎず、
特に書簡1及び2は受取人の賛成が得られず、その内容は全く採用されなかったの
であり、その後書簡3、4により徐々に意見が集約されたものの、それらも採用に
至らず、これらの意見交換の結果、甲第7号証に示されている結論をみたというべ
きである。
(イ) 書簡5、書簡9及び書簡11
 これらは、平成4年8月当時原告に財務担当職員として赴任してきた
P7とP6との間で取り交わされた書簡であるが、P7は、その直前までABBグ
ループ内でサウジアラビアにある会社の責任者であった。前記各書簡が作成された
当時、P7は赴任直後で、原告会社の経理状況・財務内容に対する理解が十分では
なかったし、加えてGNABに関する資料はスウェーデンにあり、その資料のうち
どの部分を送付するかについても意見の齟齬をきたすことが多く、P6も多いに苦
労していた。P7としても、前後の事情がよくわからない間に取り交わされた文書
である。
 また、被告は、書簡5にもとづき、P6が既に損金として処理すべき
でないものであるとの認識を持ちながら、損金を装うための工作をしようとしてい
たかのように主張するが、同書簡の文面からは少なくともそのように理解すること
はできず、むしろ、P6は、適切な資料がなければ損金とはみなされないとの専門
家として当然の意見を述べているにすぎない。
(ウ) 書簡6ないし書簡8、書簡10、書簡12
a 書簡6
 P7は、当時(平成4年8月)、原告の財務・経理状況がよくわか
らず、GNABの北欧事業での損失に関し、いかに経理処理するかについて、P6
や経理担当者からの度重なる状況の説明の要請や資料の提出に苦労を重ねており、
そのような状況を報告し、今後の方針について承認を受けようとしたのが本書面で
ある。
 「日本の税務当局が、我々のコストを税務上許される費用と認める
とは到底思われません」というのは、説明資料が不足している状況を前提として、
ABB本部や原告会社の上層部に問題の提起と注意の喚起を行ったにすぎない。
b 書簡7
 原告がGNABを立ち上げ、引き受けた後、同社について生じた北
欧事業の損失についてどのように報告するかとの点で、P7から質問を受けたこと
に対して、レポートシステムの担当者であるP12が返答しているファックス文書
の一部である。
 P7に対しては、損失の具体的内容とその基になる資料を入手する
よう要請しており、それらの資料が揃わない限り税務上損金として計上できない旨
を常に注意してきており、そのような状況での文書である。
 その内容は、資料が揃わない限りは特別損失120百万クローネが
損金とならないということを意味するにすぎず、損金にならないと考えていたと断
定するのは誤りというほかない。
c 書簡8
 本書簡の中でP7は「ノルディックの経営については、すでに多す
ぎるほどの問題が山積しています」と記載しているが、これは、GESの損失補填
について言及したものではなく、原告によるGNABの経営のことを述べたもので
あり、原告はGESの損失補填は行っていない。
d 書簡10
 書簡9の提案を受け、P7がABBスウェーデンのP9に宛てた文
書であるが、清算など考えていなかったP7が「この提案に従うと、従前の戦略を
完全に変更することになる」と述べているのであり、結果としてGNABにキャピ
タルインジェクションを行い、簿価でGABを売却し代金を得るという方法を採
り、清算をせず売却処分をして、問題に決着をつけたものである。
e 書簡12
 本書簡の宛先は、ABBの中核に位置しているが原告の税務問題等
には知識も関心もない者であり、P7がいわば責任逃れ・保身のために作成した色
彩の強い書簡というべきである。
(エ) 前記の各書簡に対する反論により、書簡1ないし書簡12では被告
の主張の証拠になり得ないことは鮮明である。また、上記の書簡は、被告が原告の
神戸支店を調査した際に収集したものであるが、社内秘扱いの極秘文書でもなく、
拘束性のある会議文書でもなく、単なる電話の代わりとして取り交わした文書の集
積にすぎないファックス文書の中から一部を取り上げ、これに基づいて独断的なス
トーリーを構築し、原告に不正行為の意図ありと主張しているものであり、全くの
的はずれというほかない。そのような私文書には、単なるアイデアもあるだろう
し、意見もあるのであり、社として取り上げる資料とはなし得ないものである。
ウ 金銭の還流との主張について
(ア) 本件損失負担金の流れについての誤認
a 被告は、GNABの株式の売買代金が10億円ではなく10億60
00万円であるというが、株式譲渡代金は10億円で、原告は、そのGNABの簿
価10億6000万円との差額6000万円を株式売却損に計上している。要する
に、被告の主張は単にキャッシュフローのみに着目して立論したものであり(92
年12月21日に25億6000万円送金したものが、92年12月22日に25
億6057万7835円戻ってきたという点のみに幻惑されたもの)、それの個々
が示す原告の行為計算の会計的内容について考慮を払おうとしない。原告の行為計
算は、GNABの資本金10億円に対応する資産が皆無なので、原告がGNABに
対し、キャピタルインジェクションにより資金を注入し、資本金に見合う資産を回
復したGNABを、原告はGABに実質価額10億円を対価10億円として売却し
たものである。もちろん原告は代金10億円をGABより領収した。
b 被告の主張に係る原告のGABに対する貸付債権は、原告が平成元
年12月1日にGABに対して10億円を貸し付けた金員を指すものであり、本件
とは全く関係がない。これを本件に関連のあるものとして本件の入金の仕訳に持ち
込むこと自体が間違いであり、それを前提にすると被告の還流の主張は誤りといわ
ざるを得ない。
(イ) 被告による仕訳整理の誤り
 被告の還流論の主張は、被告が、すべての仕訳を総括して出した下記
の仕訳に基づくものによると思われる。
(借)特別損失2,560,000,000(貸)貸付金1,500,000,000
                 投資有価証券1,060,000,000
 すなわち、貸付金15億円は、10億円がGABに対するもの、5億
円がGNABに対するものと主張している。同じく投資有価証券は、原告が放棄あ
るいは贈与したGNABの株式を指すというようである。
 しかし、上記の仕訳は、同額のもののみならずほぼ同額のものを相殺
するというずさんな処理を行っている上、株式売却損と受取利息を金額が近似して
いるからといって貸借相殺したものであり、さらには、本件インジェクションと関
連のない入金を関係あるかのごとく挿入しているなど、誤った処理を行っているも
のである。正しい仕訳は以下のとおりとなる。
(借)特別損失2,560,000,000(貸)当座預金1,060,000,000
                貸付金 500,000,000
  株式売却損60,000,000 投資有価証券1,060,000,000
(2) 法人税法127条3号該当事実の不存在
ア 原告の行為計算は適正であり、原告の行為計算には仮装はない。したが
って、本件取消処分は違法であり、それを前提にした本件各更正処分等も違法とい
うことになる。
イ 仮に、原告の行為計算が適正を欠くものであったとしても、原告の行為
は私法上の効力が認められないものとまではいえず、法人税法127条3号の「隠
蔽又は仮装」に該当する行為が存したとはいえない。すなわち、国税庁は、平成1
2年7月3日付けで、法人税の重加算税についての事務運営指針とともに、青色申
告の承認取消しについての事務運営指針を公表し、前者によりこれまで具体的な例
示がなかった「隠蔽・仮装」についての取扱基準の整備を行ったところ、当該法人
がその帳簿書類に当該行為に即した記載を行っていた場合については、前記の法人
税の重加算税の事務運営指針に列挙された例示にも該当しないものというべきとこ
ろ、青色申告承認の取消しに当たっては、その取消しにより不利益の重大性にかん
がみれば、より悪質なものを対象とすべきことは言うまでもなく、仮装に該当する
行為は存しない。
(3) 理由附記の違法
 法人税法130条により、青色申告書にかかる法人税に係る課税標準又は
欠損金額の更正をする場合には、その更正の理由を附記することが義務付けられて
いるところ、本件においては、前記(2)のとおり、本件取消処分が違法であるから、
本来であれば更正に当たり理由附記を行わなければならない場合であり、にもかか
わらず理由附記が行われていないのは違法である。
第4 争点及びこれに関する裁判所の判断
 本件の争点は、①本件損失負担金が寄付金に該当するか(争点1)、②原告に
法人税法127条3号(青色申告承認取消し)の要件に該当する仮装を行ったとい
えるか(争点2)、③本件各更正処分等に理由附記の違法があるといえるか(争点
3)である。
 当裁判所は、後記2及び3のとおり、原告が法人税法127条3号に該当する
仮装行為を行ったとは認められないから本件取消処分は違法であり、その結果、理
由附記をしないままでされた本件各更正処分は違法なものとなり、本件各更正処分
を前提とする本件各賦課決定処分もまた違法なものとして取消しを免れないと判断
するものであるから、本来、争点1に関する判断は必要がないこととなるが、本件
の審理経過にかんがみ、念のため1において争点1に関する判断を示すこととす
る。
1 争点1(本件損失負担金の寄付金該当性)
(1) 本件各取引における原告の意図について
ア 書簡等により認められる本件取引の意図
(ア) これらの書簡の内容を検討するに当たっては、まず、これらが決裁
文書等の意思決定の内容を記載したものではなく、あくまで書簡であって意思決定
に至る以前の検討過程を示すものにすぎないことに留意すべきである。すなわち、
このような文書の性格からすると、その内容のすべてを原告の意図したところと一
致するとみるのは早計であり、それらの中には検討はしたものの、結局採用に至ら
なかった事項も含まれている可能性も相当程度存することを念頭に置き、原告の外
形的な行動と比較しながら、その意図を示す部分があるか否かを慎重に検討しなけ
ればならないのである。
(イ)a 平成3年中に発信された書簡1ないし4(乙第2号証ないし第5
号証)中、①平成3年9月13日にGESの社長であるP1から原告の代表取締役
であるP2に宛てられた書簡1(乙2)には、GESの全子会社を公正な市場価格
で評価した上、原告がこれら損失を税務上控除できるよう最高額(この額について
は原告が平成4年初頭に子会社を売却した場合に日本の税務当局が認める最高額を
原告が計上できる損失額と対比させて調べるよう指示がされている。)で譲り受
け、さらに子会社が取扱う新しい電話機の販売状況次第で定まる額の資本投入する
旨の計画がされており、この計画が原告のグループコントローラーであるP3がす
でに提案した案に沿ったものである旨の記載がされ、
 ②同月17日にP3からP1及びP2に宛てられた書簡2(乙3)
には、GESにおける損益計算書上の膨大な損失額とフレクト、GABからの借入
金が問題となっており、その解決策として数通りの方法を提示した上、その中では
GES子会社の株式を原告に譲渡する方法が最善であるとして(資本の追加投入も
可能である旨を指摘している。)、その方法を採るに当たっては、グループ内での
子会社譲渡を説明するための理由、例えば事業計画に沿って原告の下に事業活動を
集中するといったもの(この事業計画と予想収益は高額での株式譲渡の背景を説明
するものである。)、また、原告がGES子会社の株式を2、3年保有することを
準備しなければならないとして、準備担当責任者を具体的に決定する旨の記載がさ
れ、
 ③同月21日にP3からフレクトの副社長であるP4及びP2に宛
てられた書簡3(乙4)には、P4から提案された、原告が子会社を高額で買い取
り、増資により損失を填補し、翌年にそれを売却する方法では、損失の持ち込みと
認定され税務上の問題が生じるため、フレクトの休眠会社を購入しこれに4500
万クローネの資本投入を行うか、4500万クローネで新会社を設立し、その会社
がGESの子会社を3500万クローネで購入し、THS株式に関する1000万
クローネを支払った上、原告が上記休眠会社若しくは新会社に貸付を行い、株主と
してその損失を補填する方法を提案し、すでにP1らから積極的な反応を得てお
り、P4やP2から承認が得られ次第具体的な行動を起こすとして、詳細な日程を
定めた予定表が記載され、
 ④同月25日にP3からP5に宛てられた書簡4(乙5)には、G
ESが売却する以前に子会社に補填すべき損失の額について具体的に記載がされて
いるところである。
b 上記各書簡の内容によれば、GES及び本件子会社8社の経営が危
機的状態にあり、多額の損失及び借入金等の債務が生じていたところ、原告が、そ
の事業の整理及び撤退のために本件子会社8社を高額で買い取ることでその損失を
補填することを計画し(もっとも、その一部はGESが自ら事前に補填することが
前提となっている。)、親会社であるフレクトの休眠子会社を取得して、同社を介
して上記の計画を行おうとしてきたものであると認められ、この限度においては、
本件取引についての原告の意図に関する被告の主張に沿うものである。
c 被告は、これらの書簡から原告が上記一連の取引の数ヶ月後には損
失が最大となるような額で子会社株式を売却して損金処理を行う意図であったこと
が読み取れるとしている。
 しかし、書簡1においては、原告がGESから直接取得した子会社
株式を翌年度には売却する前提で検討が進められていたことが認められるが、既に
書簡2においては、原告がこれらを2、3年は保有しなければならないとの指摘が
され、書簡1においてもGESの子会社が今後新しい電話機についての営業活動を
行うことが前提とされていることからすると、上記の記載を総合すると、原告は、
結局、少なくとも2、3年は原告の株主としての監督の下に各子会社が営業活動を
継続せざるを得ないと考えるに至ったのであって、それによって発生する損益は、
もはやGESとは何らの関わり合いもなく、すべて原告が新たに自己の責任におい
て負担すべきものと考えていたとうかがわれる。そして、書簡3及び4には原告に
よる子会社の処理には何ら触れられていない上、GESから懸案として引き継いだ
SCABとの取引関係については、被告が前記第3、1(2)ウa(b)ⅰで主張すると
おりの経過で推移したのであるが、原告又はGNABは、この点についてSCAB
やGESから出資を義務付けられる立場にあったとは認められないにもかかわら
ず、自らの判断で1000万クローネを出資して合弁会社を設立し、SCABの商
品の販売に参加しているものであって、これによる損益もまたGESとはかかわり
合いのないものであって原告が新たに自己の責任において負担すべきものといわざ
るを得ない。
 これらによると、原告は、GESへの損失負担の意思を有しつつ
も、これとともに新たに子会社となったGNABを通じて自らの監督の下に営業を
継続する意思をも有していたことがうかがわれるのであり、このことは、次の(ウ)
aで検討する平成4年以降の書簡の内容にも符合するところである。
(ウ)a 平成4年以降に発信された書簡5ないし12の内容をみると、G
NABの損失が想定外に拡大し、その処理に関し税務上不利な事態が起こりうると
いう予想外の事態に狼狽している様子が見て取れるところであり、税務上不利な事
態を避けるためにあわてて対策を考えているものと認められる。特に書簡12(乙
13)においてはP7がABBの本社に対して、原告がGNABに投資を行ったも
のの、買収後、事業は惨憺たるものであり、GNABの損失が平成4年末に約20
90万米ドルに達し、原告がこれを支払わなければならず、その支払いに伴い発生
する税金の問題について大きな問題を抱えている旨の記載があるところ、同書簡
は、その作成が本件損失負担金の支出も終わっている平成5年1月にされ、実際に
行われた本件損失負担金の支出を踏まえ、これが大きな税務問題となることを本社
に報告し、助言を求める内容になっている。これらの書簡にみられる狼狽した様子
からは、本件損失負担金の支出が当初から企図されていたものとは到底認められな
いところである。
b また、甲第31号証、乙第49号証ないし第52号証の三菱電機と
の交渉の経緯によれば、原告らグループにおける三菱関連の部門につき、三菱との
合弁で事業が継続されることも念頭に置いた交渉が行われていたものであり、原告
らが三菱関連の事業を行うことを前提としてGNABを取得したことはもちろん、
前記の交渉の経過いかんによっては相当長期間にわたってGNABが存続すること
も考えられていたというべきである。そして、前記各証拠によれば、平成4年1月
までは、三菱関連事業の将来の問題と三菱製品の技術的問題が事業からの撤退と並
行して検討されていたものと認められ、後者の問題については三菱側において解決
が図られたとして、原告グループにおいてもこれに満足していた様子が認められ、
この段階に至っても、その後発生したような大幅な損失が発生するとの確定的な認
識は存しなかったものと認められる。
c これによれば、原告は、平成3年にGNABを取得し、同社をして
GESを取得することを計画した時点において、GESの子会社において、多額の
損失が発生するリスクは認識していたものの、自ら同社の事業を継続することによ
ってこの問題に対処しようと考えていたものと認められ、平成4年に至って実際に
発生したような多額の損害が発生することまでを念頭においていたとは認め難い。
(エ) 小 括
 以上を総合すると、原告が、GNABに対する出資を行った時点にお
いて、フレクトの子会社を買い取った上、その会社に貸付や出資を行った上、その
会社にGESの子会社を買い取らせることによりGESの損失を補填しようとの意
図を持っていたことは認められるものの、原告としては、その時点においては、G
ES子会社による三菱関連の事業を継続した上、原告及びGNABにおいてできる
だけ損失の回復を図るとともに、三菱電機との間において交渉を行い、事業を立て
直しその継続を図るか、それが困難になった場合においても、早くとも2、3年後
を念頭においた適切な時期に有利な形で本件各子会社8社及びGNABの処理を図
る意図であったと認められる。すなわち、その時点で、さらに、損害が発生すれば
それを負担せざるを得ない可能性があるとは認識していたものの、後にGNABに
生じた1億1200万クローネの損失のような多額の損失が発生することを想定
し、それをも原告において負担するものと考えて計画的に行動していたと認めるの
は困難である。
(2) 本件取引の評価
ア 各項掲記の証拠によれば以下の事実が認められる。
(ア) GNABの本件子会社買い取り価格の評価
a 買取価格についての評価
 GNABは、平成3年12月10日に、本件子会社6社をGESから
3479万9000クローネで、同月13日に本件子会社2社をGTHSから14
2万5000クローネでそれぞれ買収して、本件子会社8社を自らの子会社とし、
GESがGTHSの株式を旧株主から取得した際に旧株主に支払いを約束した利益
分配金を794万4000クローネを負担し、同月20日に支払を行っていること
は当事者間に争いがない(前記第2、4、(3)エ、カ、キ)。
 以上によれば、GNABが本件子会社8社を子会社とするために実質
的に要した費用(すなわち、本件子会社の譲渡によりGESが得た金額)は347
9万9000クローネと794万4000クローネの合計4274万3000クロ
ーネであるというべきである。この点につき、被告は、THSからの142万50
00クローネをも合計した4416万8000クローネであると主張するが、前記
約142万5000クローネは、GESから約3479万クローネで買収した子会
社の1社であるTHSに対して支払われたものであり、GESからの本件子会社6
社の取得によりすでに孫会社となっていた本件子会社2社を子会社とするために自
らの子会社であるTHSに支払われたものであるから、GNABが用した費用では
あるものの、GESとの関係における(被告のいうGESの損失を補填するために
支払われたものとしての)本件子会社の買取代金として算入するのは適切とはいえ
ない。
b GESによる損失補填額
 甲第20号証によれば、GESは、平成3年12月10日にGDKに
200万クローネ、GNOに250万クローネ、GFIに280万クローネ、GT
HFに420万クローネ、GTSに1450万クローネの合計2600万クローネ
の損失補填を行っている事実が認められる(GESが損失補填をいつ行ったと評価
すべきかについては争いがある。)。
c(a) 弁論の全趣旨によれば、平成3年12月31日における本件子会
社8社の資本の合計は、GTSが55万8000クローネ、GTNが237万50
00クローネ、GTDが24万クローネ、GDFが68万2000クローネ、TH
Sが279万クローネ、GTHNが257万7000クローネ、GTHFが25万
2000クローネ、GDSが5万クローネであり、合計952万4000クローネ
である(原告第10準備書面添付別紙1及び2参照)と認められる。
(b) 乙第5号証(書簡4)においてはP5がP3との間で、本件子会
社8社の適正な金額を検討しており、同書簡が作成された平成3年9月においても
約1500万クローネであると算出している。同金額はGESによる損失補填分を
除いた金額であり、同書簡の時点において損失補填額は2100万クローネとされ
ていた。
(c) 甲第15号証の1によれば、平成4年1月末の本件子会社8社の
純資産額が、GTSが△636万9000クローネ、GTNが245万3000ク
ローネ、GTDが38万7000クローネ、GDFが△3000クローネで、TH
Sが144万0000クローネ、GTHNが280万8000クローネ、GTHF
が38万8000クローネ、GDSが△13万3000クローネであり合計97万
1000クローネであると認められる。
d GNABは、平成3年12月13日にGTHSに対して子会社買収代
金として142万5000クローネを支払っており、同日以降の本件子会社の価値
を換算するに当たっては、この代金は差し引かれるべきものといえる。
e 以上により、GESからの2600万クローネの損失補填を前提とし
た場合に、本件子会社8社の買入れが会社の価値に見合った価格でされたものと評
価し得るものかについて検討する。確かに、純資産額が企業の実価値や売買価格を
直接示すものでないことは原告の指摘のとおりであるが、損失補填がされた平成3
年12月10日からわずか20日後である12月末日の本件子会社8社の資本総額
952万4000クローネとGNABの本件子会社8社の実質的な買取価格427
4万3000クローネとの間にはいかにも乖離があるといわなければならず、さら
に、GTHSの資産の中にはTHSに対して支払われた142万5000クローネ
も含まれているのであるから、それを差し引いた場合にはさらに大きな乖離がある
ものといわなければならない。また、平成3年9月の時点において、GESの損失
負担分を除いた売買価格は約1500万クローネであるとP5が述べており、それ
に、本件で実際にされた損失補填分を加えた場合、約4100万クローネとなり、
この金額を前提とすると、前記買取価格は相当なものであったといえないこともな
いが、当時の損失額の予測が2100万クローネとされていたところ、補填が行わ
れた際の実際の純損失が2863万1000クローネとなっていることを考慮すれ
ば、9月から本件子会社6社の売買が行われた12月までの間に本件子会社の価値
も大幅に下がっていたものと考えられ、それを考慮すれば、平成3年12月の時点
では、仮に損失補填分2600万クローネを加えたとしても4100万クローネの
価値があったとは考え難く、この金額をもとに、GNABの買取価格が適正であっ
たみることは困難である。そして、他に会社の客観的価値を表す指標を認めるに足
りる証拠はない。
 以上によれば、GNABが本件子会社8社の買取に当たってGESが
行った2600万クローネの損失補填が客観的に損失の補填に十分であったかはと
もかく、GESが行った前記損失補填を前提にして評価した場合、GNABによる
買取価格は高額と評価せざるを得ない。
(イ) 平成3年(1991年)6月におけるFederationofSwedish
Industries作成のNORDICECONOMICOUTLOOK(北欧経済展望、甲16の1)によれ
ば、同時期において、1991年の北欧地域全体における国内需要合計△1.0パ
ーセント、国内総生産△0.2パーセント、スウェーデンにおける国内需要△0.
8パーセント、国内総生産△1.1パーセントと予測されていたところ、同年12
月における同誌(甲16の2)によれば、同時期において、1991年の北欧地域
全体における国内総需要合計△2.0パーセント、国内総生産△0.9パーセント
と、スウェーデン国内における国内需要△2.3パーセント、国内総生産△1.4
パーセントと予想されており、平成3年当時のスウェーデンにおいて、全体として
経済が停滞している上、半年間の比較においても経済数値の予測が大幅に落ち込
み、さらなる下降の傾向にあったことが認められる。
イ 前記アの事実及び前記(1)により認められる原告の本件取引の意図にかんが
みれば、原告は、本件取引において、子会社株式の購入額から純資産額を控除した
金額についてGESに対して損失補填をする意図をもって、本件子会社8社の株式
を取得したものと認められる。すなわち、前記アで認定のとおり、GNABにより
GESに対して支払われた本件各子会社8社の買収価格のうち同8社の純資産額を
超えて支払われた部分(もっとも、その金額は、本件各子会社8社の譲渡時点での
純資産額が明らかではないため、厳密には特定できない。)については、原告にお
いて本来GESが負担すべき損失を負担したというべきである。
 他方、平成14年6月に至り、GNABにおいて本件子会社のうちGTS
を除く7社を売却した上、同年12月にGNAB株式をGABに対して売却し、原
告がGNABに対して25億6000万円を送付したのは、子会社であるGNAB
が事業を行おうとしたものの、予想外の業績不振が生じ、1年に満たない間に債務
超過に陥るという事態に至ったため、これ以上の損害の拡大を防ぐ必要性から行っ
たものと評価するべきであり、原告において、これを、平成3年12月において予
想し、そうすることを意図していたとは認められない。
ウ この点について、被告は、GNABの請求済売上高が0であること、一連
の行為の関係者により会社が運営されていること、GTS以外の7社の子会社が取
得後半年余りで売却されていることから、原告が本件子会社8社を健全に事業経営
しようとしていたとは認められない旨主張する。
 しかし、GNABは、本件子会社8社の統括会社であり、具体的な売上が
ないとしても、それが本件各子会社の事業を行っていないことを基礎付ける事実と
はならないし、甲第13号証及び甲第14号証によれば平成4年から6年までの事
業計画書が三菱電機の主導によって作成され、その事業を行うための予算が組まれ
ており、また、前記のとおり、原告グループと三菱電機との間では、合弁企業の設
立による事業の継続を前提とした交渉が行われていたものである。また、GNAB
が本件子会社を保有した期間が短いということは確かに被告の指摘するとおりであ
るが、前記のスウェーデン経済の状況や三菱電機との交渉の経過にかんがみれば、
そのような短期間に会社を手放さざるを得なくなったこともそれほど不自然なこと
とはいえず、本件子会社8社が当初から全く事業を行う予定がなかったということ
はできない。
(3) 本件損失負担金の寄付金該当性
ア 証拠(甲第6号証の1ないし3、43)によれば、以下の事実が認められ
る。
(ア) スウェーデンの会社法においては、会社の純資産が払込資本金の半額
を下回ると想定される根拠がある場合には、取締役会は遅滞なく特別の貸借対照表
を作成し、これを監査役に調査させなければならない。その結果、貸借対照表が、
その会社の純資産が払込資本金の半額に満たないことを示している場合には、取締
役会はできるだけ速やかに株主総会に会社の解散決議を付託しなければならず、付
託から8ヶ月以内に開催される株主総会が監査役により調査された株主総会当日現
在の会社純資産が払込資本金に達していることを示す貸借対照表を承認しない限
り、株主総会が会社の解散を決議しない場合には、取締役会は地方裁判所に会社の
解散命令を申請しなければならず、その申請がされた場合、裁判所は、当該会社の
純資産が払込資本金に達していることを示す貸借対照表が、監査役により調査さ
れ、かつ株主総会により承認されたことが裁判所の手続中に証明されない限り、会
社に解散を命じる(以下、本制度を「強制解散制度」という。)こととなる。
(イ) 子会社が強制解散制度による強制解散を受けた際、親会社や親会社グ
ループに強制的な法的規制が課せられることはないものの、強制解散制度は、十分
な資金に支えられない事業を継続させないことを目的としてものであるから、長期
間名声を確立しているいかなるグループにおいても、子会社の一つが損失を被った
事実によりその子会社の強制解散手続きを受け入れた場合、そのグループの価値あ
る有利な地位を危険にさらされることは避けられない。
イ 被告は、本件損失負担金は、本来損失処理し得ないGNABに対する出資
金や貸付金について、再度GNABに対して送金を行い、これを還流させることに
より損金に算入したものである旨主張する。そこで、本件損失負担金の使途ごと
に、それらが本来損失処理をし得ないものか否かを検討する。
(ア) 原告のGNABに対する出資金について
 原告が、GNABを取得した時点において、これを本来GESが負担を
すべき損失を原告において負担するが近い将来に確実に破綻することを予測し、そ
れによる損失を損金として処理する意図を持っていたとした場合においては、この
出資そのものが経済的合理性を欠くものであり、損金に算入することができないこ
ととなると考えられるが、前記のとおり、原告がそのような意図を持っていたとは
認められず、原告としては、GNABをして本件子会社8社による事業を継続しよ
うとしていたところ、意に反して事業が継続できなかったものであるから、平成3
年11月1日にした出資そのものは経済的合理性が否定されるほどのものではない
と認められる。
 そして、本件損失負担金を支出した平成4年末の時点において、これら
の出資金について損金処理をすることが可能であるかについて検討するに、株式の
評価損を損金に算入することについては、同法施行令68条第2号ロに規定する
「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」との定めを受けて出
された法基通9-1-9及び9-1-10に定めがあり、「当該事業年度終了の日
における当該有価証券の発行法人の1株または1口当たりの純資産価額が当該証券
を取得したときの当該発行法人の1株または1口当たりの純資産価額に比して概ね
50パーセント以上下回ることとなったこと」とされている。そして、GNABの
純資産額は、平成4年12月末において、当初を大幅に下回り債務超過の状態にな
っていることは被告も認めるところであり、その時点においては、既に、三菱事業
を断念し、子会社8社のうちGTSを除く7社を売却していたものであって、その
状態が近い将来に回復が見込まれるとはいえないところであるから(GNABは、
その後、原告やABBによる損失負担により、1億0944万クローネの資産を有
していることとなるが、これは、強制解散制度による解散を避けるため、原告がG
NABをGABに処分する前提として資本額に満つるまで損失を負担したものであ
るから、これをもってGNABの資産が充実しており、出資の償却が認められない
とするのは本末転倒である。)、原告としては、平成4年末の時点で出資金自体を
償却して、損金処理を行うこともできたものと認められる。
(イ) 原告のGNABに対する貸付金について
 本件損失負担金を支出した平成4年末の時点において、原告はGNAB
に対して5億円の貸付金を有していたが、その時点において、その貸付金について
損金処理をすることが可能であるかが問題となる。法人の有する金銭債権につき貸
倒損失として損金に算入し得るかについては、法基通9-6-1及び9-6-2に
定めがあり、9-6-2には「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が
回収できないことが明らかとなった場合には、その明らかになった事業年度におい
て貸倒れとして損金経理することができる」とされている。また、子会社を整理す
る場合の損失負担については、法基通9-4-1において「法人がその子会社等の
解散・経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引き受けその他損失の負
担または債権放棄等をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大
きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを
得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認めら
れるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄付金の額に該当
しない」ものとされる。そして、前記のとおり、GNABは、平成4年12月末に
おいて当初の資産額を大幅に下回り、回復の見込みがないことは前記のとおりであ
るから、この時点において、原告の債権は回収不能なものであったと認められる
し、前記の強制解散制度の存在を前提とすると、原告がその債権を放棄することに
ついては、それを行わなければ今後より大きな損失を被ることになることが明らか
でありやむを得ずしたものと認められ、原告のGNABに対する貸付金は、平成4
年12月末の時点において貸付金自体を貸倒損失として、損金処理を行うこともで
きたものと認められる。
(ウ) そうすると、原告の本件損失負担金の支出のうち15億円について
は、本来株式の償却や貸倒損失として損金処理が可能であった支出を強制解散制度
による強制解散を避けるために、資本を充実させるために支出を行う方法が採られ
たものとみるべきであり、これは、本来、損金処理できないものについて資金の還
流をしたものというよりは、むしろ、本来損金処理が可能なものについて、スウェ
ーデン法の制限上、いったん送金をした上で貸金の返済を受けるという方法を取っ
たものとみるべきである。
ウ 他方、送金額の残りである10億6000万円については、トレジャリー
センターに対する債務の弁済に用いられたものと認められるが、トレジャリーセン
ターが原告グループ内の企業であることにかんがみれば、原告が無条件で全額これ
を負担することに無理があるのはもちろん、トレジャリーセンターとの関係等に基
づいて原告が負担する特段の合理的根拠がない以上は、原告において負担すべきも
のではないというべきであるところ、本件において、そのような特段の根拠が存す
ることを認めるに足りる証拠はなく、これについては、本来原告が負担する必要が
ないものについて、原告が損失負担金を送金したものといえる。
エ 以上によれば、本件損失負担金25億6000万円のうち、15億円分に
ついては、寄付金には該当しないものというべきであるが、残りの10億6000
万円については、寄付金に該当するものといわざるを得ない。
(4) 結 論
 そうすると、本件更正は、本件損失負担金の支出について、その全額を寄付
金としている点について誤りがあるといわざるを得ない。
2 争点2(隠ぺい・仮装が存在したか否か)
(1) 法人税法127条1項3号の「隠ぺい又は仮装」の意義
 法人税法127条1項3号は、青色申告承認の取消事由として「その年に
おける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その
記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」を挙げ
ている。そして、「隠ぺい」とは課税要件に該当する真実の一部を隠すことをい
い、「仮装」とは、存在しない課税事実が存在するように見せかけることをいうも
のと解され、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要すると考えら
れる。
 そして、帳簿書類は、本来、その記主の私法上の取引内容とその効果を忠
実に表すように記載すべきものであるから、実際に行われた行為が私法上無効なも
のならば格別、私法上有効である以上は、たとえそれが税法上の観点から別個の評
価を受けるものであるとしても、私法上の効果に忠実な記載をすべきものである。
このような意味で正確な帳簿が作成されているならば、課税庁としても、納税者の
行った私法上の取引行為の全体像を正確に把握することができるのであるから、納
税者に対してはこのような帳簿の作成を求めることで満足すべきであり、それ以上
に税法上の評価をも考慮に入れた帳簿の作成を求めることは、納税者に対し自己の
行う私的な取引行為のすべてに税法的な観点からの考慮を求めるものであって、不
当かつ過大な要求といわざるを得ない。青色申告制度が前提とする帳簿書類の正確
性も、以上の観点から理解すべきものであって、当該納税者の行った私法上の取引
行為につき、その内容及び効果が正確に記載されていれば足りるものと解すべきで
ある。
 したがって、納税者がある行為を行い、それについて、納税者が選択した
法形式に従って帳簿への記帳を行った場合においては、その行為そのものが法形式
に応じた私法上の効果を失わない限り、その記載は、仮装には当たらないというべ
きである。当該行為が経済的合理性を欠くものであったとしても、納税者がそれを
そのままの法形式に従って記載した場合には、課税庁としては、その記載から経済
的合理性の有無や課税に当たって私法上のそれとは別個の評価をすべきか否かを判
断することができるのであるから、青色申告による特典が与えられる前提としての
帳簿の整備と正確な記録を行うことについて何ら欠ける点はないからである。
(2) 本件で仮装が存在したといえるか
 被告は、本件において、①原告がGESに生じた損失を原告のものとして
仮装したこと、②送金とその還流によって損金処理ができるように仮装したことの
2点をもって、法人税法127条1項3号の「仮装」が存した旨の主張をする。
 しかし、いずれの点についても、被告は、原告の行った一連の行為の私法
上の行為の効力が否定されるべきものとは主張していないし、原告の帳簿の記載が
私法上の行為の内容及びその効力と異なったものであるとも主張していない。そう
であるとすると、被告の主張は、法人税法127条1項3号に該当する具体的事実
を主張していないといわざるを得ず、それ自体失当である(なお、①の点について
は、前記1で判示のとおり、被告主張の損失のうちその一部についてはその主張の
とおり、GESに生じた損失を原告のものとする行為を行っているものであるが当
該行為自体は平成4年12月期に行われたものではないから、本件取消処分の根拠
となり得るものではない。被告は、本件各取引が一連のものであり、本件損失負担
金の支出をもって、その一連の取引が終了したものと評価し得ることを前提として
いるようであるが、本件においては、前記1で説示したとおり、当初の子会社の買
取と本件損失負担金の支出は別の段階の取引であるとみるべきであり、子会社の買
取は平成3年12月期に帰属するものといわざるを得ない。)。
3 結論
 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件取消処分は違法
であるものといわざるを得ず、それによれば、前記1の点について考慮するまでも
なく、本件各更正処分は、青色申告の承認を受けた者に対して理由附記をしないで
したものである点において違法であり、本件各賦課決定処分は違法な本件各更正処
分を前提にしている点で違法なものといわざるを得ない。
第5 結論
 以上によれば、本件取消処分及び本件各更正処分等はいずれも違法であり、原
告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につ
き、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官   藤山雅行
裁判官   廣澤 諭
裁判官   加藤晴子

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