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裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一、原告
(主位的請求)
「1、被告が原告に対し昭和四六年二月一七日付でなした原告の昭和四三年分所得
税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定(ただし被告が昭和四六年六月二八
日付異議決定で取消した部分を除く)は無効であることを確認する。
2、訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求める。
(予備的請求)
「1、被告が原告に対し昭和四六年二月一七日付でなした原告の昭和四三年分所得
税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定(ただし被告が昭和四六年六月二八
日異議決定で取消した部分を除く)を取消す。
2、訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求める。
二、被告
主文同旨の判決を求める。
第二 当事者の主張
一、原告主張の請求原因
1、原告は被告に対し昭和四三年分所得税につき、給与所得三〇一万〇六〇〇円の
ほか別表(別紙(二))記載のとおり資産の譲渡による所得七四一万八九三一円が
あるとして、総所得金額を一〇四二万九五三一円とし、申告納税額を三五四万七九
〇〇円とする確定申告書を提出した。
2、被告は右確定申告に対し、
「(一)原告が昭和四三年一二月二七日日産デイーゼル工業株式会社(以下訴外会
社という)に譲渡した別紙目録記載の一の(1)、(2)の土地(以下甲土地とい
う)の譲渡価額六六〇〇万円について申告がないので加算する(以下本件処分理由
(一)という)、
(二) 原告が同年一月一九日県南開発株式会社に譲渡した別紙目録記載の四の土
地(別表順号1の土地)は申告譲渡価額が三五万九三一〇円過大であるので減算す
る(以下本件処分理由(一)という)。
(三) 原告が同年七月一〇日Aに譲渡した別紙目録記載の五の土地(別表順号3
の土地の一部)は申告にかかる取得費が五万〇六二八円過大であるので減算する
(以下本件処分理由(三)という)。
(四) 原告が同年八月二七日有限会社尾張屋不動産(以下尾張屋という)に譲渡
した別紙目録記載の六の土地(以下丁土地という)の譲渡価額五三〇万円について
申告がないので加算する(以下本件処分理由(四)という)。
(五) 原告が同年七月三日B外一名こ譲渡した別紙目録記載の七の(1)ないし
(3)の土地(以下戊土地という)の譲渡価額一〇六〇万円については申告がない
ので加算する(以下本件処分理由(五)という)。」
との理由により、総所得金額を四八五三万五五九五円とし納付すべき税額を二六八
四万〇五〇〇円とする更正処分および過少申告加算税一一六万四六〇〇万円の賦課
決定をし(以下本件処分という)、昭和四六年二月一七日付で原告にその旨通知し
た。
3、原告に昭和四六年四月一〇日被告に対し本件処分につき異議申立をしたとこ
ろ、被告は浦和一書一第八二一号をもつて本件処分理由四につき、丁土地の譲渡事
実はなく、本件処分において申告がないとされた丁土地の譲渡所得は原告の尾張屋
外一名との間の戊土地の譲渡所得を指すものであつて、本件処分理由四と同(五)
は重複して計算されているとして、重複にかかる譲渡師額五三〇万円についての所
得額二六四万〇九〇〇円を減算し、総所得金額を四五八九万四六九五円、納付すべ
き税額を二五一〇万二六〇〇円、過少申告加算税を一〇七万七七〇〇円として本件
処分の一部を取消すとともに異議申立を却下する決定をし(以下本件異議決定とい
う)、同年六月二八日付でその旨原告に通知した。
4、原告は更に昭和四六年七月一五日関東信越国税審判所長に対し審査請求をした
が、三箇月を経過するも裁決がなされない。
5、本件処分の瑕疵
本件処分には以下のとおり瑕疵がある。
(一) 本件処分理由日について
(1) 原告は昭和三六年七月二二日訴外会社との間で次のような内容を骨子とす
る別紙(三)の交換契約書記載のとおりの交換契約を締結した。
(一) 原告は原告所有の甲土地の・所有権を訴外会社に移転し、訴外会社はいず
れも第三者所有にかかる別紙目録記載の二の土地四七筆(以下乙土地という)を取
得したうえ、同土地の所有権を原告に移転するほか、契約成立の日の翌日から一週
間以内に補足金として一〇〇〇万円を支払う。
(二) 訴外会社より原告に所有権を移転する土地(乙土地)の所有権移転登記の
日は昭和三六年一一月三〇日と予定する。
(三) 訴外会社が原告に対し右期日までに乙土地の一部分といえども完全に所有
権を移転すること、ができないときは、交換契約は当然に解除となるものとする。
(四) 右解除となつた場合には、訴外会社は乙土地に代え、訴外会社が既に所有
権を取得した工場用地内から訴外会社の選択した三二四一坪(一団の工場適地)を
原告に引渡し、直ちに同土地の所有権移転登記手続をすることを確約する。この場
合には、別に交換による補足金を附さないこととし、前記補足金を損害賠償金に充
当し、訴外会社は原告にその返還を求めないものとする。
(2) しかるに、訴外会社は昭和三六年七月二七日原告に対し前記補足金一〇〇
〇万円を支払つたけれども、同年一一月三〇日までに乙土地の所有権移転登記手続
をすべき義務を履行しなかつたので、原告は訴外会社に対し同日付内容証明郵便
(同年一二月一日到達)をもつて右交換契約を解除するとともに右交換契約の前記
約旨に従い訴外会社所有の工場用地内から三二四一坪の分筆登記手続をして原告に
引渡すべき旨を申入れ、更に原告は同年一二月九日付内容証明郵便をもつて一週間
以内に原告に引渡す土地を選択して所有権移転の手続をするよう催告したが、訴外
会社は右期間内に原告に引渡す土地を選択しなかつたので、選択権は原告に移転し
た。
(3) そこで原告は昭和三七年二月三日付内容証明郵便をもつて訴外会社に対
し、訴外会社が既に所有権を取得した工場用地内から別紙目録記載の三の土地(以
下丙土地という)を選択してその引渡を求める旨通知したうえ、同土地の所有権移
転登記手続を求める訴訟を浦和地方裁判所に提起した(同裁判所昭和三七年(ワ)
第一三三号事件)ところ、訴外会社は原告の請求に応じないばかりか原告に対し交
換契約に基づぎ甲土地の所有権移転登記手続を求める反訴を提起して(同裁判所同
年(ワ)第二一二号事件)争い、また前記交換契約に基づいて同裁判所に甲土地に
つき所有権移転の仮登記仮処分命令の申請をし、同裁判所はこれを認容し浦和地方
法務局上尾出張所昭和三七年三月三〇日受付第二二〇八号をもつて訴外会社のため
所有権移転仮登記がなされた。
(4) 原告と訴外会社は昭和四三年一二月二四日右訴訟において次のような内容
を骨子とする別紙(四)の和解調書記載のとおりの和解を成立させて訴訟を終了さ
せた(なお右和解成立に先たち丙土地の当時の時価につき鑑定がなされ、原告は右
鑑定による評価額からはるかに譲歩した金額によつて和解を成立させたのであ
る)。
イ 訴外会社は原告に対し前記交換契約の履行不能に基づく損害賠償金として五六
〇〇万円の支払義務があることを認める。
ロ 訴外会社は原告に対し右損害賠償金を昭和四三年一二月二八日限り、原告から
甲土地につき訴外会社のためになされた前記所有権移転仮登記に基づく本登記手続
を受けるのと引換えに所轄登記所において支払う。
ハ 原告と訴外会社は本件に関し本和解成立をもつて一切円満解決とし、本和解条
項以外には何らの債権債務のないことを相互に確認する。
そして原告は同月二七日訴外会社から右和解に基づく損害賠償金五六〇〇万円の支
払を受けた。
(5) 以上の事実から明らかなように、原告が訴外会社から補足金一〇〇〇万円
および損害賠償金五六〇〇万円の合計六六〇〇万円を受領したのは、原告が訴外会
社の担保責任に基づく契約解除権、代金減額請求権および損害賠償請求権の三権の
うち、契約解除権および損害賠償請求権の二者を行使した結果に基づくものであつ
て、右六六〇〇万円は譲渡代金または譲渡代金と同視さるべき性質のものではな
い。また、裁判所は訴訟上の和解成立の際には、和解条項を文言どおりに理解して
これを妥当と判断したうえで調書を作成するのであるから、訴訟上の和解成立後他
の裁判所または公の機関は和解条項が曖昧であつたり相互に矛盾しているような特
別の事情がないかぎり、その文言と異なる意味に解することは和解を処理した裁判
所を無視することになり許されないのである。(同旨最高判昭和四四年七月一〇日
最高民集二三巻八号一四五〇頁)。
したがつて、本件処分には損害金を譲渡代金と誤認してこれに課税した違法があ
る。
(6) 仮に原告が訴外会社から受領した六六〇〇万円が甲土地の譲渡代金として
の性格を有するとしても、甲土地の譲渡による原告の譲渡所得発生の時期は前記和
解が成立した昭和四三年ではなく、前記交換契約が成立し甲土地の引渡がなされた
昭和三六年と解すべきである。すなわち、譲渡所得の発生時期については「所有権
が移転したとき」あるいは「資産の引渡をした日」と解すべきものであるところ、
甲土地の所有権は訴外会社が原告に補足金一〇〇〇万円を支払つた昭和三六年七月
二七日訴外会社に移転したのであり、また同日引渡もなされているのであるから、
甲土地の譲渡所得発生の時期は昭和三六年と認定すべきである。
よつて本件処分には所得の発生時期を誤認して課税した違法がある。
(二) 本付処分理由(五)について
原告は昭和四三年七月中原告所有の戊土地三筆をBおよびCに対し代金一一二四万
円で売渡す旨の契約を締結した。しかしながら、戊土地のうち別紙目録記載の七の
(1)の土地はその後同人らが他に転売し、原告から直接転買人に対する所有権移
転登記を完了したけれども、他の二筆については所有権移転登記も代金の授受も済
んでいないので、結局右売買取引は完了していない。よつて本件処分には未発生の
所得に課税した違法がある。
6、むすび
右に述べた本件処分の瑕疵はいずれも重大かつ明白な瑕疵であるから本件処分は無
効と解すべきであり、そして原告は本件処分に基づく滞納処分による差押を受け、
右差押が継続するときは回復困難な損害を蒙るから、原告は本件処分の無効確認を
求める利益を有するので、その無効確認を求め、右無効確認の請求が認められない
ときは予備的請求として、本件処分の取消を求める。
二、請求原因に対する被告の認否および主張
1、認否
(一) 請求原因1ないし4、5(一)(1)の各事実は認める。
(二) 同5(一)(2)の事実は不知。
(三) 同5(一)(3)(4)の事実は認める。
四 同5(一)(5)(6)の主張は争う。
(五) 同5(二)の事実は認める。
(六) 同5(三)事実中、原告が昭和四三年七月中原告所有の戊土地を代金一一
二四万円で他に売渡す旨の契約をしたこと(買主は尾張屋およびCである)、およ
びそのうち別紙目録記載の七の(1)の土地についてはその後原告から転買入に対
する所有権移転登記がなされ他の二筆については所有権移転登記がなされていない
ことは認めるが、その余の事実は争う。
(七) 同6の主張は争う。
2、主張
別紙(五)被告の主張記載のとおり。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一、原告主張の請求原因1ないし4の各事実、すなわち、昭和四三年の所得税に関
する原告より被告に対する確定申告、被告による更正および過少申告加算税の賦課
決定(本件処分)、原告の異議申立および被告の異議決定(本件異議決定)、原告
の審査請求および三箇月を経過するも裁決がなされないことに関する原告の主張事
実は当事者間に争いがなく、右の争いのない事実によれば、本件処分の処分理由日
は原告が昭和四三年一二月二七日訴外会社(日産デイーゼル工業株式会社)に譲渡
した甲土地の譲渡価額六六〇〇万円の加算、処分理由(五)は原告が同年七月三日
B外一名に譲渡した戊土地の譲渡価額一〇六〇万円の加算である(処分理由(二)
および(三)はいずれも減算であり処分理由(四)については、本件異議決定によ
り譲渡の事実はなく処分理由(五)と重複するものとして加算が取消された)。
よつて右の処分理由(一)および(五)の当否について判断する。
二、本件処分理由(一)について
1、請求原因5(一)(1)の事実、すなわち、原告が昭和三六年七月二二日訴外
会社(日産デイーゼル工業株式会社)との間で「(一)、原告は原告所有の甲土地
の所有権を訴外会社に移転し、訴外会社はいずれも第三者所有にかかる乙土地を取
得したうえ、同土地の所有権を原告に移転するほか、契約成立の日の翌日から一週
間以内に補足金として一〇〇〇万円を支払う。(二)、訴外会社より原告に所有権
を移転する土地(乙土地)の所有権移転登記の日は昭和三六年一一月三〇日と予定
する。(三)、訴外会社が原告に対し右期日までに乙土地の一部分といえども完全
に所有権を移転することができないときは、交換契約は当然に解除となるものとす
る。(四)、右解除となつた場合には、訴外会社は乙土地に代え、訴外会社が既に
所有権を取得した工場用地内から訴外会社の選択した三二四一坪(一団の工場適
地)を原告に引渡し直ちに同土地の所有権移転登記手続をすることを確約する。こ
の場合には、別に交換による補足金を附さないこととし前記補足金を損害賠償金に
充当し、訴外会社は原告にその返還を求めないものとする」との内容を骨子とする
別紙(三)の交換契約書記載のとおりの交換契約を締結したことは当事者間に争い
がなく、いずれも成立に争いのない甲第四〇号証の三、乙第六号証、第二〇号証の
一、二、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、甲土地(右甲第四〇
号証の三の鑑定評価書においては丙地)は訴外会社が工場移転のために取得した一
団の工場用地のうちに二箇所にわかれて存在し、訴外会社は既に右工場用地の整地
に着手し甲地の取得を急いでいたため、同年七月二七日原告に対し補足金一〇〇〇
万円の支払をし、これと引換に原告から甲土地の引渡を受けたこと、しかるに訴外
会社は同年一一月三〇日までに乙土地の所有権を取得して原告に対し所有権移転登
記手続をすることをしなかつたところから、原告は訴外会社に対し同日付内容証明
郵便(同年一二月一日到達)をもつて右交換契約条項(三)の約旨に従つて契約が
解除されたことを通知するとともに同(四)の約旨に従い訴外会社所有の工場用地
内から三二四一坪を分筆確定のうえ原告に所有権移転登記手続をしかつその引渡を
すべき旨を申入れたが、訴外会社が原告に引渡すべき土地を選択しなかつたので、
原告は更に同年一二月九日付内容証明郵便(そのころ到達)をもつて一週間の期間
を定めて引渡土地を特定し所有権移転登記手続をすべき旨を催告したが、被告は右
の催告期間内に土地の選択をしなかつたことが認められ、そして原告が選択権は原
告に移転したとして、昭和三七年二月三日付内容証明郵便(そのころ到達)をもつ
て訴外会社に対し、訴外会社が既に所有権を取得した工場用地内から丙土地を選択
してその引渡を求める旨通知したうえ、訴外会社を被告として丙土地の所有権移転
登記手続を求める訴(浦和地方裁判所昭和三七年(ワ)第一三三号)を提起し、こ
れに対し訴外会社は原告に対し甲土地の所有権移転登記手続を求める反訴(同裁判
所同年(ワ)第二一二号)を提起して争い、原告と訴外会社との間に昭和四三年一
二月二四日の右事件の和解期日において「イ、訴外会社は原告に対し訴外会社、原
告間の昭和三六年七月二二日付交換契約の履行不能に基づく損害賠償金として五六
〇〇万円の支払義務があることを認める。ロ、訴外会社は原告に対し右損害賠償金
を昭和四三年一二月二八日限り、原告より訴外会社のためになされた甲土地につい
ての浦和地方法務局上尾出張所昭和三七年三月三〇日受付第二二〇八号の所有権移
転仮登記に基づく本登記手続を受けるのと引換に所轄登記所において支払う。ハ、
原告と訴外会社は本件に関し本和解成立をもつて一切円満解決とし、本和解条項以
外には何らの債権債務のないことを相互に確認する。」との内容を骨子とする別紙
四の和解調書記載のとおりの裁判上の和解が成立し訴外会社は原告に対し同年一二
月二七日右和解に基づいて損害賠償金五六〇〇万円を支払つたことはいずれも当事
者間に争いがない。
2、そうしてみると、原告が訴外会社から昭和三六年七月二七日受領した一〇〇〇
万円および昭和四三年一二月二七日受領した五六〇〇万円合計六六〇〇万円のう
ち、少くとも右の五六〇〇万円は、原告と訴外会社との間の交換契約に基いて訴外
会社が原告に対し乙土地又は丙土地の所有権を移転すべき義務の不履行により原告
が蒙つた損害の賠償として支払われたものであつて、甲土地の譲渡代金として支払
われたものではないと認めるに十分である(昭和三六年七月二七日授受の一〇〇〇
万円の性質については後に認定する)。
なお、右交換契約の前記(三)の条項は「訴外会社が昭和三六年一一月三〇日まで
に乙土地の一部分といえども完全に所有権を移転することができないときは交換契
約は当然解除となるものとする」というのであり、原告は前記のとおり昭和三六年
一一月三〇日付内容証明郵便により訴外会社に対し右交換契約が解除された旨通知
しており、また、成立に争いのない乙第二〇号証の五によれば、原告は訴外会社の
前記反訴に対する答弁書中において右交換契約は解除されたから原告は訴外会社に
対し甲土地の所有権移転登記義務はないと主張している事実が認められるのである
が、右の交換契約の前記(四)の条項によれば、右解除となつた場合には訴外会社
は乙土地に代えて訴外会社が既に所有権を取得した工場用地内から訴外会社の選択
した三二四一坪(一団の工場適地)を原告に引渡し云々と定められ、右三二四一坪
は甲土地の坪数に等しく、当初の交換の目的である乙土地(合計三四一七坪)にも
近似し、また、別紙(三)の交換契約書には右の「解除」後訴外会社が原告に対す
る甲土地の所有権移転請求権を喪失する旨の条項も存しない点からすれば、右の
「解除」とは用語の如何にかかわらず甲土地と交換する土地を乙土地から訴外会社
の工場用地のうちの三二四一坪の土地に変更する趣旨にすぎず、右「解除一によつ
て交換契約自体が解消し原告の訴外会社に対する甲土地の所有権移転義務が消滅す
るとは解せられない。
そして、成立に争いのない甲第四号証(鑑定人Dの昭和四三年一一月一八日付鑑定
評価書)ならびに弁論の全趣旨によると、原告が訴外会社に対し所有権移転請求権
がありかつ選択権が原告に移転したとして訴外会社の工場用地のうちから選択した
丙土地(右甲第四号証においては甲地)は、鑑定人Dにより昭和四三年一〇月三一
日の時点において六八〇五万円と評価され、原告および訴外会社は右評価額を基準
として折衝した未前記の裁判上の和解をしたものであることが明らかであるから、
右和解において訴外会社が原告に支払うことを約しその支払をした前記損害賠償金
五六〇〇万円は、その金額が甲土地と交換すべき土地の所有権移転に代る損害賠償
すなわちいわゆる填補賠償として訴外会社から原告に対し支払を約しその支払をし
たものであると認めるに十分である。
3、しかし、所得税法上の譲渡所得が存するかどうかはもつぱら所得税法の規定そ
の他所得税の目的から考えてこれを判定すべきものであつて、民法上の譲渡の対価
のみが譲渡所得となるものと解すべきではなく、民法上損害賠償金と解すべきもの
も場合によつて譲渡所得となるものと解すべきである。すなわち、所得とは暦年に
発生した経済的利益をいうものと解すべきであるから、資産の値上がりがあつた場
合にはほんらい所得が生じたものと考えられるのであるが、所得税法が資産の値上
がりがあつた場合に直ちに課税せずに資産の譲渡があつた場合にこれによる収入に
課税するのは、資産の値上がりがあつてもそれが現金化されない以上は直ちに担税
力を生じないから、資産の値上がりに対し課税することは担税力のない者に課税す
る結果となると同時に、値上りの都度これを評価して課税することは煩瑣に堪えな
いため、資産の譲渡によつて担税力を生じかつ値上がりが具体化した機会に、過去
の値上がりに対し一括して課税するものであると解せられる(資産の交換の場合に
は一定範囲内で譲渡がなかつたものとみなすのもほぼ同様の理由によるものと解せ
られる)から、資産の譲渡に対して法律的にその対価と認められる利益の授受がな
くても経済的に対価関係に立つ金銭の授受がなされる以上は、これによつて担税力
を生じかつ過去における資産の価上がりは具体化されるのであつて、譲渡所得があ
つたものと認むべきであり、これを本件についてみれば、原告が訴外会社に譲渡し
た甲土地と交換すべき土地の所有権移転に代る填補賠償として訴外会社から原告に
支払を約した五六〇〇万円は、法律的には甲土地の譲渡の対価とは認められないけ
れども、経済的にはその対価にあたると認めるに十分であるから、原告にはこれに
相当する譲渡所得があつたものと認めるのが相当である。
4、そこで次に右所得の生じた時期の点について考えるに、所得税法第三六条第一
項はその年分の収入金額は原則としてその年において収入すべき金銭その他の経済
的利益の価額とする旨を定めていわゆる権利確定主義を採用しているところ、前記
交換契約には、原告が訴外会社に対し甲土地の所有権を移転する時期については明
確な規定がなく、別紙(三)の交換契約書の第六条によればその所有権移転登記の
時期は両者が協議して定める旨規定されており、もつとも、前記のとおり右交換契
約の(三)の条項による交換契約の「解除」は単に甲土地と交換する土地を変更す
る趣旨にすぎないのであるから、原告の訴外会社に対する甲土地の所有権移転義務
の存在は右交換契約の成立によつて一応確定している(ただしこれと交換すべき土
地につき訴外会社の債務不履行があつた場合に原告において催告の上契約を解除し
うることはいうまでもない)と認められるのであるが、甲土地と交換すべき土地と
して訴外会社から原告に対し所有権を移転すべき土地については、右交換契約の前
記(三)および(四)の条項が存するため土地自体が確定しておらず((四)の条
項によつて訴外会社が乙土地に代えて既に所有権を取得した工場用地の一部の所有
権を原告に移転すべき義務を生じた場合においても、訴外会社がその工場用地内か
ら原告に所有権を移転する土地を選択する権利を原告の催告にもかかわらず行使し
ないときは、右選択権は民法第四〇八条の規定により原告に移転することもいうま
でもない)、現に原告は右(三)およびの条項に従いかつ原告において選択権を行
使して訴外会社を被告として丙土地の所有権移転登記手続を求める訴を提起し、訴
外会社はこれを争つていたのであり、訴外会社の主張の要旨は、成立に争いのない
乙第二〇号証の二、六によれば、前記交換契約書の第六条には交換による所有権移
転登記手続の時期は両者協議のうえ定める旨が規定されており、その第一〇条(前
記(二)の条項)には訴外会社より原告に所有権を移転する土地(乙土地)の所有
権移転登記の日は昭和三六年一一月三〇日と「予定する」と定めてあるにすぎない
ことを根拠として、未だ訴外会社には乙土地の所有権を原告に移転すべき義務の不
履行がないとの主張ならびに権利濫用の主張であることが認められ、右の主張は、
右の交換契約書の文言や丙土地が訴外会社が工場建設のため取得した工場用地の一
部である点を考えると、いちがいに明らかに不当な主張であるともいいきれないの
である。そして、所得税法第五八条第一、二項は、居住者が各年において、一年以
上有していた土地等の固定資産を他の者が一年以上有していた土地等の固定資産と
交換し、その交換により取得した固定資産(取得資産)を交換により譲渡した固定
資産(譲渡資産)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には資産の譲渡が
なかつたものとみなす(取得資産とともに金銭等を取得した場合には当該金銭等の
額に相当する部分を除く)旨を規定し、更に同条第二項は、右の規定は交換時にお
ける取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のいずれか多い価額
の一〇〇分の二〇に相当する金額をこえる場合には適用しない旨を規定しているの
であるから、たとえ譲渡資産が確定しても、取得資産が確定しない以上譲渡所得は
確定しないと解するのが相当であり、したがつて、本件においては昭和三六年中の
前記交換契約の成立によつて原告の訴外会社に対する甲土地の所有権移転義務が確
定したとはいつても、原告の取得資産が確定しなかつた以上、昭和三六年中には原
告の甲土地の譲渡による譲渡所得はなく、昭和四三年一二月二四日成立の前記和解
によつて原告が甲土地の譲渡による実質的対価である填補賠償金五六〇〇万円の支
払を受ける権利が確定し、これによつて原告に甲土地の譲渡による譲渡所得が発生
したものと判定せざるを得ない。
5、次に原告が昭和三六年七月二七日訴外会社から支払を受けた補足金一〇〇〇万
円について判断するに、前記交換契約の(四)の条項によれば、訴外会社が昭和三
六年一一月三〇日までに原告に対して乙土地の所有権の移転をすることかできない
ときは、訴外会社から原告に支払われた補足金一〇〇〇万円は損害賠償金に充当
し、訴外会社は原告に対しその返還を求めない旨定められていたのであり、そし
て、前記和解においても原告と訴外会社は本和解条項以外には何らの債権債務のな
いことを相互に確認すると定められたのであるから、右補足金一〇〇〇万円は一見
填補賠償とは異つた一種の違約金として原告が取得するものとなつたものと見られ
るようであるけれども、右補足金はもともと原告より訴外会社に対する甲土地の所
有権移転の対価の一部として授受されたものであり、そして訴外会社は前記のとお
り乙土地の所有権移転について未だ債務不履行はないと主張していたばかりでな
く、前記甲第四号証によると、乙土地、丙土地は鑑定人Dにより昭和四三年一一月
一五日当時の価額としてそれぞれ三七九〇万円、六八〇五万円と評価されていたこ
とが認められ(なお、成立に争いのない甲第四〇号証の一、三によれば甲土地も二
箇所に分れているため丙土地より高額であることはないと認められる)、昭和三六
年当時からの地価の高騰を考えると、本件交換契約における補足金一〇〇〇万円は
これを違約金に充当するときは当時としては極めて高額な違約金を定めたことにな
ると考えられること、右のとおり丙土地は鑑定人Dにより昭和四三年一一月一五日
当時の価額として六八〇五万円と評価されたのであるが、前記和解により訴外会社
から原告に対し支払われることとなつた五六〇〇万円と昭和三六年当時支払ずみの
補足金一〇〇〇万円との合計額六六〇〇万円が右の評価額に近似することを考え併
せると、本件和解成立に際し原告と訴外会社が右補足金一〇〇〇万円を原告に支払
われたままとしたのは、本件交換契約における前記(四)の条項の存在にかかわら
ず、右補足金をも訴外会社より原告に対する甲土地と交換すべき土地の所有権移転
に代る填補賠償に充てる意思の合致があつたことによるものと認めるのが相当であ
り、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できない。
したがつて、右補足金一〇〇〇万円もまた経済的には甲土地の所有権移転に対する
対価の関係にあり、そしてその支払は昭和三六年七月二二日成立の本件交換契約に
基づき同月二七日なされたものではあるけれども、その支払請求権が確定したのは
昭和四三年一二月二四日成立の本件和解によるものであると解すべきであるから、
右一〇〇〇万円もまた原告の昭和四三年に発生した甲土地の譲渡所得の一部である
と認めるのが相当である。
6、よつて被告の本件処分理由(一)は相当であつて、これに対する原告の主張は
採用できない。
三、本件処分理由(五)について
1、請求原因5(三)の事実中、原告が昭和四三年七月中原告所有の戊土地三筆を
代金一一二四万円で他に売渡す旨の契約をしたことおよびそのうち別紙目録記載の
七の(1)の土地についてはその後原告から転買人に対する所有権移転登記がなさ
れ他の二筆については所有権移転登記がなされていないことは当事者間に争いがな
く、成立に争いのない甲第四一号証、乙第八号証、第一〇ないし第一五号証、第一
九号証および弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる乙第一七号証、第
一八号証の一、二ならびに原告本人尋問の結果の一部によれば、原告は右の戊土地
を尾張屋(有限会社尾張屋不動産)およびCに対し売渡したものであるが、尾張屋
およびCはそれぞれ昭和四三年七月中に各五三〇万円合計一〇六〇万円を原告に支
払つたこと、その余の代金が支払われていないのは、右売買契約締結直後に、従来
戊土地に隣接して設置されていた市道が戊土地の一部に付け替えられる予定となつ
ていたことが判明し、そのため当事者の合意により地積の減少に応じて代金額を六
四万円減額して一〇六〇万円と変更したためであり、したがつて右代金金額の授受
が完了しており、代金額が未確定のの状態にあるわけではないこと(原告本人は右
認定に反し、右市道の付け替えの事情から代金額が確定できない状態にあり、後日
清算することになつていると供述しているが、前記乙第一九号証に照してたやすく
措信できない)、の各事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
2、右各事実によれば、戊土地の譲渡については原告の所有権移転義務および代金
支払請求権のいずれも昭和四三年中に確定したばかりでなく、遅くとも代金の完済
された昭和四三年七月中には、戊土地の全部の所有権が尾張屋およびCに移転し、
原告は変更された代金一〇六〇万円全額の支払を受けたことが明らかであるから、
たとえ戊土地の一部について所有権移転登記が未了であつても、原告に右の変更さ
れた代金額を収入金額とする譲渡所得が昭和四三年中に発生したことはなんらの疑
いもなく、被告の本件処分理由(五)は相当であつて、原告の主張は採用できな
い。
四、以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、他に被告の主張する譲渡所
得金額、総所得金額、所得税額、過少申告加算税の計算につき誤りの存する根拠を
発見することはできないから、本件処分には何らの瑕疵もなく、原告の請求はいず
れも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、
民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今村三郎 鹿山春男 吉村俊一)
(別紙)
請求の表示
(本訴)
請求の趣旨
被告は、原告に対し、別紙目録記載の土地を引渡し、該土地につき原告のため、所
有権移転登記手続(分筆手続を含む)をせよ。
請求原因
原告は、上尾市<以下略>、山林二反九歩および同市<以下略>、山林八反七畝二
二歩を所有していたところ、昭和三六年七月二二日原、被告間に右土地と、同坪数
の土地=被告は、右土地の代替地を取得して、原告に引渡し所有権移転する=とを
交換する契約が成立した。右交換契約ツー一おいて被告1か原告に所有権移転すべ
き土地の所有権移転は、昭和三六年一一月三〇日までに履行する約であつたとこ
ろ、被告は、右期限までに契約の本旨に従つた履行ができなかつたので、右交換契
約は当然解除となつた。そこで、原告は、被告に対し、同年一一月三〇日内容証明
郵便をもつて、契約解除の事実および約旨に従い、被告の工場用地内から、三二四
一坪を分筆画定の上引渡を求めることを予め申入れ、同年一二月九日内容証明郵便
をもつて一週間内に引渡土地を特定し、所有権移転の手続をするよう催告したが、
被告が、その期間内に選択しなかつたので、選択権は原告に帰属することになつ
た。よつて、原告は昭和三七年二月三日内容証明郵便をもつて、請求の趣旨記載の
土地三二四一坪の引渡を求めたが、被告は、これに応じないので本訴に及ぶ。
以上
物件目録
上尾市<以下略>
一、山林    五反三畝九歩
同所<以下略>
一、同     一反五畝一八歩
同所<以下略>
一、同     一反二畝一二歩
同所<以下略>
一、同     一反六畝六歩
同市<以下略>
一、同    五反二畝一七歩
同所<以下略>
一、同     一反三畝一二歩
同所<以下略>
一、同     一反四畝二八歩
同所<以下略>
一、同      八畝二歩
同所<以下略>
一、同       七畝二六歩
以上の内<以下略>、七畝二六歩はその全部、その他は一部合計三二四一坪(間口
六〇間、奥行約五四間)
以上
(反訴)
請求の趣旨
反訴被告は、反訴原告に対し、別紙目録記載の土地(和解条項、第二項表示の土地
と同一であるから、別紙目録は省略する)につき、昭和三六年七月二二日交換契約
に基づく所有権移転登記手続をせよ。
請1求原因
反訴原告と反訴被告間で、昭和三六年七月二二日に、反訴被告は、その所有に係る
請求の趣旨記載の土地を提供し、反訴原告は、他から所有権を取得すべき上尾市<
以下略>山林二畝一歩他四六筆(合計約三、二四一坪)の土地および現金一、〇〇
〇万円を提供し、これを互に交換すべき旨の補足金什交換契約を諦結した。
而して、反訴被告の提供すべき土地の所有権移転時期は、補足金支払時と定められ
ていたところ、反訴原告は補足金一、〇〇〇万円を昭和三六年七月二七日反訴被告
に支払つたので、右土地の所有権は、反訴原告に移転した。
ところが、反訴被告は、右土地について、所有権移転登記手続をしな」いから、本
訴に及ぶ。
以上
別紙(一)~(四)(省略)
別紙(五)
被告の主張
一 本件課税の経過について
(一) 原告は、昭和四三年分所得税について、昭和四四年三月一五日付をもつ
て、給与所得金額三、〇一〇、六〇〇円、譲渡所得金額七、四一八、九三一円、総
所得金額一〇、四二九、五三一円とし、これより社会保険料控除六三、四八〇円、
配偶者控除一五七、五〇〇円、扶養控除一五五、〇〇〇円および基礎控除一五七、
五〇〇円の合計額(以下本件所得控除の合計額という。)五三三、四八〇円を控除
し課税される総所得金額を九、八九六、〇〇〇円とし算出所得税額四、〇一七、三
〇〇円から源泉徴収所得税額四六九、三〇九円を差引き、一〇〇円末満の端数九一
円を切捨て申告納税額を三、五四七、九〇〇円とする確定申告書を被告に提出し
た。
(二) しかしながら、被告の所部職員大蔵事務官Eが原告の昭和四三年分の所得
金額を調査したところ、原告の申告にかかる譲渡所得金額に申告洩れがあつたの
で、原告にその旨を脱明し修正申告書の提出方をしようようとしたのであるが、原
告は根本的な見解の相違があるとして修正申告書の提出を拒否したので、被告は昭
和四六年二月一七日付をもつて、調査にかかる給与所得金額三、〇一〇、六〇〇
円、譲渡所得金額四五、五二四、九九五円、総所得金額四八、五三五、五九五円、
本件所得控除の合計額五三三、四八〇円、課税される総所得金額四八、〇〇二、〇
〇〇円、算出所得税額二七、三〇九-九〇〇円、源泉徴収所得税額四六九、三〇九
円、納付すべき税額二六、八四〇、五〇〇円として申告額を更正し、原告が過少申
告であつたことについて、なんら正当な理由がないと判断されたので、国税通則法
六五条により過少申告にかかる部分の所得税額二三、二九二、〇〇〇円(一、〇〇
〇円未満の端数切捨)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した一、一六四、六〇〇
円の過少申告加算税を賦課決定したのである。
(二) 原告は、被告の行なつた右更正処分および加算税賦課決定処分を不服とし
て、昭和四六年四月一〇日被告に対して異議申立書を提出した。(乙第二号証)。
四 被告は、原告の異議申立てにかかる不服の理由につき審理したところ、
(1) 「昭和三六年七月二二日付日産デーゼル工業株式会社との間に締結した交
換契約の不履行に基づき受けた損害賠償金は譲渡所得の対象とならずまた所有権移
転登記が昭和三七年三月に遡及しているので、昭和四三年分の譲渡には該当しな
い」とする原告の不服理由にはその理由が無いと認め
(2) 「昭和四三年八月二七日B外一名に対する浦和市<以下略>外二筆の土地
の譲渡に対する譲渡所得が重復計算によるものである」との不服理由は理由がある
と認めたので、次のとおり、昭和四七年二月一七日付更正にかかる処分の一部を取
消すとの異議申立てに対する決定をした。
すなわち、原告が売買契約した土地は、浦和市<以下略>外二筆九二八、九二平方
メートルであつたが、契約後の契約条項の変更および買受人の契約書に対する無関
心などから、当初の調査においては、売買物件が一つは浦和市<以下略>外二筆と
また一つは浦和市<以下略>とそれぞれ異る物件であり、買売人もそれぞれB外一
名、および有限会社尾張屋不動産と異る人物である如く判断されたのであるが、異
議の審理によつて右物件については、同一の物件であることは判明したものである
(乙第一九号証)。
したがつて、異議申立て決定後の原告の所得金額は、給与所得金額三、〇一〇、六
〇〇円、譲渡所得金額四二、八八四、〇九五円、総所得金額四五、八九四、六九五
円、本件所得控除の合計額五三三、四八〇円、課税される総所得金額四五、三六
一、〇〇〇円、算出税額二五、五七二、〇〇〇円、源泉徴収所得税額四六九、三〇
九円、納付すべき税額二五、一〇二、六〇〇円となり、これに伴い過少申告加算税
額も一、〇七七、七〇〇円となつた。
二 本件課税の根拠は次のとおりであつて、被告の処分は適法なものであり、本件
課税処分に重大明白な瑕疵があるとする原告の主張はなんら理由のないものであ
る。
(一) 原告の昭和四三年分所得税の課税の根拠
1 総所得金額   四五、八九四、六九五円
原告の総所得金額は、給与所得金額三、〇一〇、六〇〇円と譲渡所得の金額四二、
八八四、〇九五円の合計額により算出したものである。
次に、所得の種類ごとに所得金額算出の根拠を詳述する。
(1) 給与所得金額   三、〇一〇、六〇〇円
原告の申告額により計上した。
(2) 譲渡所得金額    四二、八八四、〇九五円
原告の昭和四三年分の資産の譲渡等にかかる収入金額など譲渡所得算出の根拠は次
表のとおりである。
<略>
右譲渡資産中順号1乃至4の資産については、原告によつて取得後三年以上の期間
所有されていたので、所得税法三三条三項および同法二二条二項により、右譲渡益
八六、〇六九、一九〇円から譲渡所得の特別控除額三〇〇、〇〇〇円を控除し、さ
らに右控除後の金額八五、七六八、一九〇円の二分の一に相当する四二、八八四、
〇九五円を控除しその残額四二、八八四、〇九五円をもつて、総所得金額の算出の
基礎となる譲渡所得金額としたものである。
なお、順号5の資産については、譲渡益がないので本件課税所得金額について影響
を及ぼさない。
イ 順号1の資産にかかる譲渡益の額一〇、八七九、九六〇円
(省略)
口 順号2の資産にかかる譲渡益の額  三、九九五、五〇〇円
(雀略)
ハ 順号3の資産にかかる譲渡益の額  六五、九〇二、七七〇円
(イ) 収入金額  六六、〇〇〇、〇〇〇円
本件収入金額については、原告は訴外日産デーゼル(株)から次のとおり損害賠償
金の名目で受領したのであるが、後述(三)する如き理由でその金額を譲渡所得の
対象となる収入金額としたものである。
<略>
(ロ) 必要経費  九七、二三〇円
本件土地にかかる必要経費については、原告から資料の提出がないので、譲渡に要
した費用はないものとし、取得費については、原告の本件土地の所有が昭和二七年
一二月三一日以前からであつたので、所得税法所定の方法により算出し計上した。
取得費算出の根拠は次のとおりである。(10.714.04m2に対する旧賃貸
価格)(相続税評価倍数)(取得費とされる28.1.1現在の相続税評価額)
32円41銭×3、000=97、230円
(ハ) 譲渡益の額  六五、九〇二、七七〇円
譲渡益の額は、(イ)の収入金額から(ロ)の必要経費の額を控除して算出した。
(((イ)の収入金額)((ロ)の必要経費の額)(譲渡額の額)
66、000、000円-97、230円=65、902、770円
ニ 順号4の譲渡益  五、二八九、九六〇円
(イ) 収入金額  一〇、六〇〇、〇〇〇円
後述するように、原告は、本件譲渡物件については、訴外有限会社尾張屋不動産
(契約書上Bと表示されている。)外一名に、訴外埼玉県南開発株式会社を仲介と
して、昭和四三年七月三日一一、二四〇、〇〇〇円にて売買契約し(乙第八号証及
乙第九号証)代金を次のとおり受領した。
<略>
(ロ) 必要経費  五、三一〇、〇四〇円
必要経費の内訳は、次表のとおりであつて、取得費については、取得の時期が昭和
二七年一二月三一日以前であるから所得税法所定の方法により算出した額により計
上し、その余の譲渡経費については、原告から費用の額の申出があり資料の提出
(乙第一六号証)があつたので、この原告申出額により計上した。
<略>
取得費算出の根拠は次のとおりである。
(928.92m2に対する旧賃貸価格)(相続税評価倍数)(取得費とされる2
8.1.1現在の相続税評価額))
39円34銭×1000=39、340円
ホ 順号5の資産の収入金額等について
本件土地建物は、昭和四三年四月六日に訴外石川洪に対し、八、五〇〇、〇〇〇円
で譲渡したのであるが、この土地建物の必要経費が八、五〇〇、〇〇〇円であるか
ら、譲渡益は発生しない。
(二) 過少申告加算税課税の根拠
すでに述べたように、原告は昭和四三年分所得税の確定申告書を過少なる所得に基
づいて提出していたのであるが、原告が過少申告であつたことについては、なんら
正当な理由がないと判断されたので、被告は、国税通則法六五条により過少申告に
かかる部分の所得税額二一、五五四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満の端数を切捨)
に一〇〇分の五の割合な剰じて計算した一、〇七七、七〇〇円の過少申告加算税を
賦課決定したのである。
三 更正処分をせざるを得なかつた理由および本件更正処分の適法性
(一) 原告は、東京都中央区銀座一-六に本社の所在する安藤工事株式会社の代
表取締役であつて給与所得者であるところ、昭和四三年分については、給与所得の
ほかに資産の譲渡による所得があるとして、前記確定申告書を被告に提出したので
あるが、原告の申告にかかる譲渡資産およびこの収入金額は次表(別表と同じ)の
とおりであつた。
<略>
(二) しかしながら、被告の所部職員大蔵事務官Eが調査したところ、原告は、
右申告にかかる譲渡資産以外に次のとおり土地を譲渡している。
なお、所得税法三三条において、いわゆる譲渡所得が課税の対象とされているの
は、その資産についてすでに発生しているキヤピタルゲインについて、その値上り
のたびに課税することをせずに、その資産が売買などされその所得が現金その他に
換価され顕現したときにその顕現したときの年分として課税するという課税理論に
立脚しているものであるから、所得税法三三条に規定する資産の譲渡には、資産の
売買のほかに、交換、競売、公売、収用、物納、法人に対する出資などが当然に含
まれるのである。そしてこれら譲渡により取得する対価の額(売買代金、補償金、
取得する物又は権利など)が、経済的利益の額として譲渡所得の課税の対象とされ
る収入額となるのである。
<略>
そこで、被告は、原告に対し原告の申告にかかる譲渡所得金額に洩れがあること及
び、右申告洩れにかかる資産の譲渡については、昭和四三年分の所得となるもので
あることを説明し、右申告洩れ資産にかかる必要経費等資料の呈示と所得税修正確
定申告書の提出を求めたのであるが、原告は、「本件損害賠償金は受取つたことは
認めるが、損害賠償金は非課税である」と主張するのみで必要経費等の資料の提出
を拒み、さらに浦和市<以下略>の土地の譲渡についても税理士を介して必要経費
のメモなど一部の資料を提出しただけで、根本的な見解の相違があるからとして、
被告所部職員の勧奨にもかかわらず修正申告書の提出を拒否した。
(三) 右のような事情のため、被告はやむを得ず、調査したところにしたがつ
て、前記一の(二)の如き更正処分をしたのである。
そして、その後原告から提出された異議申立書にかかる審理によつて、一部重複し
て課税していた所得が判明したので、異議申立ての決定によつて重複計上にかかる
部分(前記(二)の順号2の土地)の所得の課税を取消したのである。
四 被告が、損害賠償金を譲渡所得の収入金額とし、右損害賠償金を昭和四三年分
の収入金額と認定したこと、また、所有権移転登記の完了していない資産について
昭和四三年分の譲渡と認定して本件課税をしたのは、次の如き理由によるものであ
つて、なんら違法はないものである。
1 損害賠償金を譲渡所得の収入金額としたことについて
(1) 所得とはなにかについては、所得税法には明文の規定がなく、また学説に
おいても、「純資産増加説」、「消費資金説」、一周期的反覆性説一、「所得源泉
説」、「収益源泉説」など種々の説があつてまだ統一された所得概念は確立されて
いない。
しかして、所得税法は特定の学説にはよらず、所得課税の目的に即して所得の種類
を一〇種類に分類し具体的な取扱いを定めているに止まつているのであるが、これ
によれば、所得とは、名目あるいはその発生源泉の如何を問わず暦年に発生した経
済的利益であると解するのが妥当である。(長野地裁昭和二七年一〇月二一日判決
昭和二〇年(行)八号行裁例集三巻一〇号一九六七頁、名古屋高裁昭和四一年一月
二七日判決昭和三九年(行コ)八号、最高裁第三小法廷昭和三八年一〇月二九日判
決昭和三三年(オ)第三一一号)
(2) ところで、原告の取得した本件損害賠償金であるが、これを所得税法上
は、譲渡所得の課税の対象となる資産の譲渡対価の性格を有するものである。
すなわち、訴状請求原因の第二項の(一)にもあるとおり、原告は昭和三六年七月
二二日、訴外日産デーゼル(株)(以下「日産デーゼル]という。)との間に、原
告の所有していた上尾市<以下略>外一筆土地一〇、七一四、〇四平方メートル
(三二四一坪)(以下「甲土地」という。)と、日産デーゼルが第三者から購入す
る予定の上尾市<以下略>外四六筆の土地一一二九五、八六平方メートル(三、四
一七坪)(以下「乙土地」という。)とを交換し、この交換とともに日産デーゼル
から交換に伴う補足金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の現金を受ける旨の交換契約書を締
結し(甲第二号証)、昭和三六年七月二七日日産デーゼルから右一〇、〇〇〇、〇
〇〇円の補足金の交付を受けた(乙第六号証)。
しかるに、原告は、右交換契約において日産デーゼルから交付を受ける乙土地につ
いて交換契約書所定の手続きがとられなかつたことを理由に、右交換契約の解除と
本件交換契約の解除に伴う日産デーゼルの所有地(工場用地)からの一〇七一四、
〇四平方メートル(三二四一坪)の引渡しを求めて訴を提起し浦和地方裁判所に昭
和三七年(ワ)第一三三号および同年(ワ)二一二号(反訴)として係属中のとこ
ろ、昭和四三年一二月二四日日産デーゼルは原告に対し交換契約の履行不能に基づ
く損害賠償金五六、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、原告は前記交換契約にかかる甲土
地を日産デーゼルに所有権移転登記手続をとることとして和解が成立した(甲第三
号証)。
ところで本件損害賠償金は、前記交換契約書一一条後段により補足金から損害賠償
金に振替えられた一〇、〇〇〇、〇〇〇円と、前記和解により受領することとなつ
た五六、〇〇〇、〇〇〇円の合計六六、〇〇〇、〇〇〇円であつてその損害とは、
原告が訴外日産デーゼル工業(株)に甲土地の所有権を引渡し、土地が減少したこ
とにより生じたものであり、さらに損害賠償金の額は、本件和解に先だち鑑定人D
から浦和地方裁判所に提出された鑑定評価書(甲第四号証)によつて、甲土地を含
みこれと一団地をなす日産デーゼルの工場用地内で原告の指定した上尾市<以下略
>外一筆一〇、七一〇、九二平方メートルの昭和四三年一〇月三一日現在の時価六
八、〇五〇、〇〇〇円と鑑定評価された額が参考とされており、右六六、〇〇〇、
〇〇〇円は実質上の性格から甲土地の対価と認定するのが相当である。
原告は、「和解成立によつて受領した損害賠償金は、原告が相手方に対し法律上発
生した担保責任の内容たる契約解除権、代金減額請求権および損害賠償請求権三権
のうち、契約解除権、損害賠償請求権の二者の行使に基づくものであつて、譲渡代
金または譲渡代金と同旨さるべき性質のものではない。」旨主張される。
しかしながら、所得税は、所得を課税物件とするものであるところ、所得税法上、
所得の意義について別段の定義規定をもうはず、所得の種類を一〇種類に分類し、
その課税標準の計算方法を明らかにしているにすぎない。したがつて、所得の意義
については、所得税制度の目的に照らして確定しなければならないが、所得はもと
もと経済上の概念であるから、暦年に発生した個人に帰属する経済的利益のすべて
をいうのである。しかし、所得税法九条は、所得の性質、負担能力および社会政策
等の観点から非課税所得について規定しているところ、同条一項二一号は、「損害
保険契約に基づき支払いを受ける保険金及び損害賠償金(これこ類するものを含
む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に
基因して取得するものその他の政令で定めるもの」は非課税所得と規定し、これを
受けて同法施令三〇条は非課税とされる損害賠償金等を具体的に規定している。す
なわち、非課税とされるのは、(1)心身に加えられた損害につき支払いを受ける
慰謝料その他の損害賠償金、(2)不法行為その他突発的な事故により資産に加え
られた損害につき支払いを受ける損害賠償金(これらのうち九四条の規定に該当す
るものを除く。)、(3)心身又は資産に加えられた損害につき支払いを受ける相
当の見舞金(九四条の規定に該当するものその他役務の対価たる性質を有するもの
を除く。)とされている。これは、一般に不法行為の被害者が完全賠償をうけるこ
とはきわめて困難であり、これらの損害賠償金は担税力が薄弱であるから、損害賠
償をうけるこれら被害者の保護を厚くしようとする立法政策によつて非課税所得と
されたものと考えられる。
原告は、本件土地を譲渡したことにより、本件損害賠償金を取得したのであり、こ
れが実質上経済的な利益であり前述の非課税所得に該当しないこと明らかである
(大阪地裁昭和四一年八月八日判決昭和四〇年(行ウ)第六一号、福岡地裁昭和四
四年一二月二六日判決昭和四三年(行ウ2)第七八号参照)。本件損害賠償金の実
態は、原告において本件土地を日産デーゼルに交換譲渡し、一、〇〇〇万円の補足
金と交換土地(日産デーゼルより原告に引渡すべき土地。以下同じ。)とを取得す
る約定であつたところ、日産デーゼルが右交換土地を約定期日までに引渡すことが
できなかつたため、右交換契約に基づき引渡しを受けるべき土地の代りに損害賠償
金を受領したものである。してみれば、一、〇〇〇万円の補足金および交換土地を
取得することそれ自体が本件土地の譲渡による所得なのであるから、一、〇〇〇万
円の補足金はもとより、和解により取得した損害賠償金五、六〇〇万円も実質上、
本件土地の対価と認められ、本件土地の譲渡による所得であるといわざるを得ない
のである。
譲渡所得は資産の値上りにより利益を所得と観念し、所有者がその資産について売
買その他の譲渡行為をしたとき、これを契機として資産の値上りによる利益を課税
の対象とするものである。換言すれば、譲渡所得は、資産の値上りという形で既に
発生していた潜在的な所得が、譲渡行為によつて顕在化したときに課税所得とされ
るものである(浦和地裁昭和三九年一月二九日判決昭和三八年(行)第三号、東京
高裁昭和四〇年九月一〇日判決昭和三九年(行コ)第一三号)。
したがつて、もし本件損害賠償金を譲渡所得として課税しないとすれば、本件土地
の値上り益については、ついに原告に対して譲渡所得として課税する機会を失うこ
ととなり、税負担の公平の原則にてらし、到底容認できないこととなるのである。
2 課税年分を昭和四三年分と認定したことについて
(1) 損担害賠償金を昭和四三年分の所得金額としたことについて
所得額の認定に当たり所得税法三六条一項は、その年分の各種所得の金額の計算
上、収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがある
ときを除き「その年において収入すべき金額」とする、いわゆる権利確定主義によ
るべきことを規定している。
ところで、この権利確定主義は、多くの場合、当該年度に収入することが確定した
債権はこれを現実に同年度に収入があつたものと同視しても不当でなく、かえつて
そうみることが徴税手続きを迅速かつ適正に進め得るものとして是認されるもので
あり、譲渡所得についての権利確定の時期については、原則として当該譲渡資産の
所有権が相手方に移転するときとされていること原告主張のとおりであるが、いか
なる事実をとらえて所有権の移転(権利の確定)があつたものと解するかは、個々
の具体的な権利を規制する契約内容その他法律上事実上の諸条件を総合考慮して決
定することが必要である。したがつて、本件のように、交換契約において、当該契
約の履行そのものに関して争いが生じているような事案について契約時である昭和
三六年に経済的利益が発生し収入すべぎ金額が確定したものとみることは適当では
ない。すなわち、本件交換契約書においては、日産デーゼルが原告に対して補足金
一、〇〇〇万円を支払つた昭和三六年七月二七日に本件土地の所有権が原告より日
産デーゼルに移転することになつており、同会社が整地等に着手しているとして
も、右交換契約は、所定の履行がなされなかつたことを理由に、交換契約そのもの
をめぐつて争いが生じているものであり、末だ本件物件の所有権が完全こ相手方に
移転したものとはいえないのであつて、このような段階において所得が発生したも
のとして当該年分の所得として課税することは実情を無視した取扱いとして批難を
免れないであろう。
結局、本件においては、昭和三六年中に経済的利益が発生し収入すべき金額が確定
したものとはいえないのである。
原告が日産デーゼルより受領した六、六〇〇万円が譲渡所得にかかる収入金額であ
ることは前述のとおりであるが、譲渡所得は、資産の値上りという形で既に発生し
ていた潜在的な所得が、譲渡行為(交換を含む。)によつて顕在化したときに課税
所得とされるものであることからして、一の譲渡行為(交換)における譲渡所得の
権利確定の時期したがつて課税年分は一であり、二年分にまたがつて権利確定の時
期が存在することがないことはいうまでもないことである。けだし、権利確定の時
期がいつかという問題そのものが所得の帰属年度を決定するものだからである。
本件交換契約において原告は、昭和三六年中に日産デーゼルより補足金として一、
〇〇〇万円を受領している。もし、交換契約書所定の履行が完全に行なわれていた
とすれば、この一、〇〇〇万円の補足金に交換土地とともに昭和三六年分の所得と
して譲渡所得の課税の対象となつたものであるが、たまたま交換契約書所定の履行
がされなかつたことを理由に交換当事者間で争いとなつたため、昭和三六年分の所
得として課税されなかつたものであつて、昭和三六年中に原告が受領した一、〇〇
〇万円は、原告と日産デーゼルとの間で係争中、譲渡遮代金の一部たる前受金的性
格のものとなつていたものと解すべきものである。
しかして、交換契約から和解に至る経過を総合考慮すると、昭和四三年の和解成立
のときに、本件物件の所有権が完全に移転したものとして昭和四三年分の所得とし
て課税すべきであり、和解成立によつて受領した五、六〇〇万円はもとより譲渡代
金の一部たる補足金一、〇〇〇万円もこのとき、課税の対象となることはいうまで
もないことである。以上、原告が、日産デーゼルより受領した六、六〇〇万円を、
昭和四三年分の譲渡所得にかかる収入金額とした本件処分は正当であり、なんら違
法の点はないのである。
(2) 所有権移転登記の完了していない資産についても昭和四三年分の所得金額
としたことについて
原告は、原告が昭和四三年七月に訴外有階会社尾張屋不動産(代表役員B)外一名
に譲渡した。浦和市<以下略>外二筆の宅地九二八・九二平方メ卜ール(以下「本
件土地」という。)について、売買取引が完了していないから、これに譲渡所得が
発生したものとして課税することは、課税事由の発生しない事実に対して課税する
ものであり違法である旨主張される。
しかしながら、原告の右主張は以下に述べるとおり理由がないものである。すなわ
ち、本件土地は、昭和四三年七月三日原告と訴外有限会社尾張屋不動産外一名との
間で売買契約が成立し、原告は同月二九日までに代金一〇、六〇〇、〇〇〇円を受
領したのであるが(乙第八号、第一〇号ないし一五号証)、右訴外人らは、昭和四
三年一二月二一日に右買受物を訴外日本宅建信販株式会社(代表取締役F)に転売
しており、浦和市<以下略>の宅地八六八・八七平方メートルについて同年一二月
二三日に所有権移転請求権仮登記、同四四年二月七日に所有権移転登記がそれぞれ
なされているのであつて(中間省略登記による。甲第七号証)、このことに、昭和
四三年中には原告から訴外尾張屋不動産外一名に本件土地の所有権が移転し、かつ
引渡されたことをものがたるものである。けだし、昭和四三年中に右物件の所有権
が右訴外人らに移転していたからこそ、右訴外人らは同年中に転売行為ができたの
であるからである。原告は、譲渡物件の一部について未登記のものがあることをも
つて、未だ売買取引は完了していないと主張するもののようであるが、資産の譲渡
による所得についての収入金の権利確定の時期は、原則として所有権移転のときで
あるところ、ここにいう所有権の移転とは必ずしも所有権の移転登記をいうもので
はないのであつて、たとえ譲渡物件の一部について未登記のものがあつたとして
も、このことをもつて未登記部分は売却されていないとはいえないのである。ま
た、売買契約書(乙第八号証)によつても、譲渡物件のうち所有権移転登記(中間
省略登記による。)のあつた部分のみの所有権が移転し、未登記の部分の所有権は
移転していないと解することはできず、契約書記載の譲渡物件が一体となつて移転
したものと解するのが相当である。なお、訴外有限会社尾張屋不動産外一名は、自
己の名義の所有権移転登記を経由することなく転売し、中間省略登記により第三取
得者名義に所有権移転登記をしているのであつて、原告から右訴外人らに本件物件
の所有権が移転した時期を所有権移転登記の日により判定することはできないので
あり、結局、譲渡代金の授受の状況および右訴外人らの転売行為などから判断し
て、昭和四三年中に所有権の移転があつたものと認定した原処分は正当である。
また、原告は、譲渡代金が完済されていないから売買取引は完了していない旨主張
されるが、たとえ譲渡代金の一部が未収であるとしても、この一事をもつて売買取
引が完了していないといえないことは、所得税法三六条のいわゆる権主確定主義か
ら明らかなところである。なお、被告が調査したところによると、契約金額一一、
二四〇、〇〇〇円と受領金一〇、六〇〇、〇〇〇円との差額金六四〇、〇〇〇円に
ついては、未登記部分にかかる値引きにより減額されでいると認められたため(乙
第一九号証)、被告は、契約金額一一、二四〇、〇〇〇円から減額された六四〇、
〇〇〇円を差引いた一〇、六〇〇、〇〇〇円をもつて譲渡収入金額としているとこ
ろであり、仮りに、原告主張のように未収入金があるものとすれば、譲渡収入金額
は一一、二四〇、〇〇〇円となるが、被告認定額はその範囲内である一〇、六〇
〇、〇〇〇円であるから適法である。

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