弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は、原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 平成一〇年七月一二日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙
区における選挙を無効とする。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
 主文と同旨
第二 事案の概要
一 本件は、平成一〇年七月一二日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙(以
下「本件選挙」という。)の議員定数配分規定が憲法に違反するものであるとし
て、東京都選挙区の選挙人である原告らが右選挙区における選挙の無効を求めた訴
訟である。
二 本件選挙は、公職選挙法の一部を改正する法律(平成六年法律第四七号。以下
「平成六年改正法」という。)により改正された公職選挙法の参議院議員定数配分
規定(同法一四条、別表第三及び平成六年改正法附則。以下「本件議員定数配分規
定」という。)に基づいて施行されたものである。
三 争点
 本件議員定数配分規定は、投票価値の平等を要求している憲法一四条一項等に違
反するか。
 この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
1 原告ら
 憲法は、形式的に選挙人一人に一票を保障し、かつ、その選挙権の内容が等価値
であることを要求している。したがって、複数の選挙区を有する選挙制度を採用す
る場合には、各選挙区から選出される議員の数は、人口分布に比例して配分しなけ
ればならない。しかるに、本件議員定数配分規定は、次のとおり、人口分布に比例
した配分ではなく、合理的な根拠なく、選挙区のいかんにより選挙権の価値に不平
等を生じさせている(別表参照)から、憲法前文一三条、一四条一項、一五条一
項、四四条ただし書及び四七条に違反する。
(一) 全人口を議員定数で除した八二万六一二〇人(以下「基準人数」とい
う。)は、議員一人が代表すべき人口を示す。東京都選挙区の場合、右基準人数に
議員数八名を乗じた六六〇万八九六〇人が本来の適正な人口である。しかし、実際
には、人口が一一七七万三六〇五人であるため、五一六万四六四五人については、
これらの者を代表する議員がいない状態である。これらの者を代表すべき議員を配
分するとすれば、更に六名以上の議員を配分しなければならない。このように、東
京都選挙区においては、代表の欠缺が顕著である。他方、鹿児島県選挙区の場合、
基準人数に議員数四名を乗ずると、三三〇万四四八〇人であるが、実際の人口は一
七九万四二二四人しかいないため、一五一万〇二五六人もの架空の人口が過剰に代
表された結果になっている。
(二) 三重県選挙区の人口は、鹿児島県選挙区より多い一八四万一三五八人であ
る。しかし、議員数は、三重県選挙区が二名であるのに、これより人口の少ない鹿
児島県選挙区が四名も配分されている。このように、本件議員定数配分規定には、
いわゆる逆転現象が生じている。
(三) 各選挙区の議員一人当たりの人口を比較すると、東京都選挙区と鳥取県選
挙区との間で四・七八六六倍もの較差が生じている。議員数が四名以上の選挙区に
限っても、東京都選挙区と鹿児島県選挙区との間で三・二八一〇倍の較差がある。
このように、本件議員定数配分規定には、投票価値の著しい不平等が存在してい
る。
2 原告A
 基準人数に議員一名を配分すべきである。そして、本件議員定数配分規定は、別
表から明らかなとおり、二〇の選挙区で過不足議員数が一名分を超えている。これ
が民主主義及び憲法に違反していることは、明らかである。なお、各選挙区の議員
一人当たりの人口の較差は、特定の選挙区の不利益、不平等を測定する基準である
が、全部の選挙区に平等に議員を配分することが重要であるから、基準人数に議員
一名を配分するとの原則に照らして、判断すべきである。
3 原告B
 本件議員定数配分規定は、別表から明らかなとおり、人口比例原則による配分結
果から著しく乖離している。そして、投票価値の平等は、最も重要かつ基本的な権
利であり、他の政策目的と並列的に論じられるべきものではない。参議院の独自性
や都道府県の機能を過度に強調することは誤りであり、また、各選挙区に偶数の議
員を配分することは憲法の要請ではない。したがって、人口比例原則による配分を
修正する正当な理由はない。さらに、本件選挙は、平成六年改正法による前回の選
挙(平成七年七月二三日施行)から三年後に行われたものである。しかし、その
間、国会において、投票価値の平等の実現に向けての真摯な努力はされていない。
したがって、本件議員定数配分規定は、違憲と断ぜざるを得ない。
4 被告
 最高裁判所昭和五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁(以下
「昭和五八年大法廷判決」という。)から最高裁判所平成一〇年九月二日大法廷判
決(以下「平成一〇年大法廷判決」という。)に至る一連の最高裁判決に従い、次
のとおり、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法一四条一項等に違反する
ものではなかったというべきである。
(一) 公選法による参議院議員選挙制度の仕組みが憲法に違反するものでないこ
とは、一連の最高裁判決が正当に判示するところである。
(二) そして、かかる選挙制度の下においては、投票価値の平等の要求は、人口
比例主義を基準とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないもの
である。右選挙制度の下における選挙人間の投票価値の不平等が憲法の要求する投
票価値の平等の要請を満たしているか否かは、投票価値の平等の有すべき重要性に
照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等
状態を生じさせていたかどうかの判断基準によるのが相当である。右の点を判断す
るに当たっては、それが複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使され
るべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮すべきである。また、参議院
(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みを維持する以上、投票価値の不平等を是正
するには技術的限界があり、比例代表選出議員については、投票価値が平等である
ことも考慮すべきである。
(三) 昭和五八年大法廷判決は、右の諸事情を考慮の上、議員一人当たりの人口
の最大較差が五・二六倍であり、一部の選挙区でいわゆる逆転現象もみられた昭和
五二年七月施行の参議院議員選挙について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が
生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないと判示している。
その後も、一連の最高裁判決は、最大較差五・三七倍であった昭和五五年六月施行
の参議院議員選挙、最大較差五・五六倍であった昭和五八年六月施行の参議院議員
選挙、最大較差五・八五倍であった昭和六一年七月施行の参議院議員選挙につい
て、いずれも違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとは認める
に足りないと判示している。さらに、平成一〇年大法廷判決は、最大較差四・九七
倍であった平成七年七月施行の参議院議員選挙について、投票価値の平等の有すべ
き重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達していると
はいえないと判示している。
(四) 本件選挙の場合、平成七年国勢調査結果による議員一人当たりの人口の最
大較差は四・七九倍であり、平成一〇年六月二日現在の議員一人当たりの選挙人数
の最大較差は四・九九倍であった。したがって、一連の最高裁判決に照らせば、一
部の選挙区でいわゆる逆転現象がみられたことを考慮しても、本件議員定数配分規
定が、本件選挙当時、いまだ投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過
することができないと認められる程度の著しい投票価値の不平等状態を生じさせて
いたということができないことは明らかである。
第三 当裁判所の判断
一 参議院議員選挙制度の現状
1 憲法が二院制を採用している趣旨を受けて、参議院議員選挙法(昭和二二年法
律第一一号)は、参議院議員二五〇名を全国選出議員一〇〇名と地方選出議員(現
在の選挙区選出議員)一五〇名とに区分し、後者については、都道府県を単位とす
る選挙区において選出されるものとし、各選挙区ごとの議員定数については、憲法
が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしている(四六条)ことに
応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されるように配慮し、定数は偶
数としてその最小限を二人とする方針の下に、昭和二一年当時の各都道府県の人口
に比例する形で二人ないし八人の偶数の議員数を配分した。昭和二五年に制定され
た公職選挙法の議員定数配分規定は、これをそのまま引き継ぎ、その後、沖縄返還
に伴い、沖縄県選挙区の議員定数二名が追加された。そして、平成六年改正法は、
選挙区選出議員の定数一五二名を増減しないまま、七選挙区で改選議員定数を四増
四減したが、選挙区選挙の制度の仕組み自体に変更はない。
2 証拠(乙二から四まで)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)の制定後、人口の異動により選挙
区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は徐々に増大し、平成四年七月二六日
施行の参議院議員選挙当時には、最大較差が六・五九倍にまで拡大し、選挙人数の
多い選挙区の議員数が選挙人数の少ない選挙区の議員数より少ないという、いわゆ
る逆転現象も増加していった。そこで、国会は、平成六年、選挙区間における議員
定数の不均衡を是正するとともに、いわゆる逆転現象を解消するため、選挙制度の
仕組みに変更を加えることなく、七選挙区で改選議員定数を四増四減する旨の平成
六年改正法を成立させた。その結果、いわゆる逆転現象は解消し、平成七年一〇月
実施の国勢調査結果によれば、人口を基準とする最大較差は四・七九倍に縮小し、
また、平成七年七月二三日施行の参議院議員選挙当時における選挙人数を基準とす
る最大較差も四・九七倍に縮小した。そして、本件選挙の場合、平成一〇年六月二
日現在の選挙人数を基準とする最大較差は四・九九倍(東京都と鳥取県)である。
また、三重県と鹿児島県との間で、いわゆる逆転現象が生じている(三重県は、選
挙人数一四五万〇六三三人、議員数二名であるのに対し、鹿児島県は、選挙人数一
三八万五三一七人、議員数四名となっている。)。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
1 衆議院議員の選出方法における人口比例主義の意義
 議員定数の配分において投票価値の平等が確保されていることは、代議制民主主
義の下における国家意思形成の正当性を基礎づける中心的な要素をなすものであ
る。これに対して、議員定数の配分において考慮される他の要素は、その性質上こ
のような国家意思の正当性とは直接かかわりのない社会経済情勢や政治情勢による
のである。したがって、憲法上国家意思形成の中心機関とされる衆議院について、
これを構成する衆議院議員の選挙の定数を配分するに当たっては、投票価値の平等
は、他の考慮要素とは異なる本質的な重要性を有するのであって、衆議員議員の定
数について、他の要素に重点をおいた配分を行い、投票価値の平等につき他の要素
と同列または第二次的な考慮をしたにとどまるときは、その配分は、憲法一四条の
定める法の下の平等の原則に反するばかりでなく、憲法前文及び四三条一項等の定
める国家統治の基本にもとるものとして、違憲の評価を免れないものである。
 当裁判所は、このような観点から、衆議院議員の定数を、人口以外の他の要素を
も考慮して配分するとしても、選挙権として一人に二人分以上のものが与えられる
ことがないという基本的な平等原則をできる限り遵守すべきものと考える(東京高
等裁判所平成六年六月三日第二民事部判決・判例時報一四九六号三四頁参照)。そ
して、平成六年に行われた衆議院議員選挙制度の抜本改正においては、定数配分に
ついてこの人口比例の原則が明文をもって採用された。すなわち、衆議院議員選挙
区画定審議会設置法三条一項は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案の作成
は、「各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを
最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにすることを基本とし、
(中略)合理的に行わなければならない。」と定めている。
2 参議院議員の選出方法に関する憲法の要請
 国家意思形成の中心機関である衆議院について、人口比例主義を厳格に貫くこと
によって、国家統治の正当性が満足されていることを前提とすると、衆議院とは異
なる独自の役割を担う参議院について、憲法は、それを構成する議員の選出方法に
ついて、人口比例主義とは異なる独自の方法を採用することを求めているものと解
するのが相当である。すなわち、憲法改正案の可決に際しての附帯決議において、
制憲議会は、「参議院は衆議院と均しく国民を代表する選挙せられたる議員をもっ
て組織すとの原則はこれを認むるも、これがために衆議院と重複する如き機関とな
り終わることは、その存在の意義を没却するものである。政府は須くこの点に留意
し、参議院の構成については、努めて社会各部門各職域の知識経験ある者がその議
員となるに容易なるよう考慮すべきである。」と述べ、この趣旨を表している。
3 参議院議員選挙法及び公職選挙法の採用した方法
 このような憲法上の要請に応えるため、参議院議員については、総定数が衆議院
議員の約二分の一(参議院の半数改選制のため一回の選挙における改選議席数では
約四分の一)に押さえられ、更に衆議院に比べて地域的に広い大選挙区制(全都道
府県の区域(元の全国区)及び都道府県単位の選挙区(元の地方区))が採用され
ている。これらは、選挙における競争の条件を、衆議院の場合と比較して厳しくし
て、優れた人物が議員に選ばれるよう配慮し、これによって参議院の存在意義を確
保し、憲法の要請に応えようとしたものと考えられる。
 そして、諸外国の選挙制度をみても、二院制を採用している国においては、両院
の議員の選挙制度が、我が国におけるよりも大きく異なっている。アメリカ合衆国
等の連邦国家は当然であるが、我が国と同様の単一国家で二院制を採用している国
についても、下院議員は、国民による直接選挙により選出されるが、上院議員は、
地方議会等による間接選挙により選出されるとの仕組みを採用している国(オース
トリア、フランス、オランダ等。なお、ベルギー及びスペインの上院議員は、一部
が間接選挙)、あるいは上院議員の少なくとも一部は任命制を採用している国(イ
タリア、アイルランド等)などがみられる(読売新聞社編・憲法二一世紀に向けて
二五六頁参照)。選挙制度は、それぞれの国の歴史や政治、社会経済情勢によると
ころが大きいことはいうまでもないが、右にあげた諸国が我が国よりも民主主義の
進展の度合が低いということはできない。それらの民主主義を基調とする有力諸国
において、二院のうちの一院については、人口比例主義が採用されていないのは勿
論、議員の直接選挙制さえも採用されていないのである。その理由は、人口比例主
義や直接選挙制などの民主的な傾向のみを追求するだけでは、国民の利益に合致し
た経験豊富で有能な人材を国会に送り出す仕組みとして十分でないことによるもの
と考えられる。
4 都道府県の人口較差の拡大とその影響
 ところで、都道府県の人口の較差は、憲法制定時においても存在し、最大ほぼ
七・五倍程度であった。そして、参議院議員選挙法は、都道府県を単位とする地方
区定数の配分に人口の要素も考慮に入れる方法を採用している。その結果、参議院
議員選挙法の制定当時、議員一人当たりの人口較差は二・六倍程度存在した。とこ
ろが、その後都道府県人口が大きく変化し、都道府県人口の較差は、憲法制定当時
のほぼ三倍である二〇倍に及んでいる。その結果、都道府県を単位とする選挙区
(元の地方区)定数の配分に人口の要素を取り入れようとしても、議員の総定数を
大幅に増加させたり、選挙区の規模を根本的に変更するなどの大幅な改正をするの
でない限り、議員一人当たりの人口較差は、四ないし五倍程度、あるいはそれ以上
にならざるをえない状況にある。したがって、現在の参議院議員の選挙制度の仕組
みを維持する限り、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差を
是正することには、技術的な限界がある(藤田博昭・日本の選挙区制二〇四頁参
照)。
5 人口比例主義か参議院の存在価値の維持か
 このようにみてくると、本件で問われているのは、結局、参議院(選挙区選出)
議員選挙の方法について、人口比例主義を他の要素に優先して尊重すべきものとし
て、参議院を衆議院化させるのか、それとも、参議院の存在意義を確保するため、
議員の総定数を限定したり、選挙区の規模を大きくするなど、人口比例主義とは別
の政策を採るのかの選択の問題であるといえる。このような選択を含めて参議院議
員の定数の決定は、憲法上、立法機関である国会がこれを行うものとされているの
である(憲法四三条二項)。立法機関である国会が、参議院の存在意義を確保する
ことを優先する場合には、選挙人の投票価値には「右4のような大きな較差が存在
する場合も生じうる。そして、議員一人当たりの人口較差が四ないし五倍に及ぶと
いう状況を、人口に比例していると称することは困難である。しかし、これは、憲
法の精神に従い参議院の制度趣旨を優先した結果によるのであり、これをもって違
憲とするべき根拠はないものといわねばならない。
6 今後の問題
 参議院議員の選挙の方法については、憲法制定以来様々な検討が加えられ、その
一部は、比例区選挙などの立法として結実している。それはひとえに、参議院の存
在価値を実現する方法を探求してきた結果によるものである(森田重郎・参議院ー
その存在意義と問題点ーなど参照)。今後もその探求が続けられ、国民に分かりや
すい選挙制度により議員が選挙されることにより、参議院の存在価値が国民に理解
されるようになれば、選挙制度に関する人口比例主義かその他の方法かの選択につ
いても、より多くの国民の理解が得られるであろう。関係機関の努力を期待するも
のである。
三 最高裁判所判決の考え方
 なお、議員定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効訴訟に関する一連の最高裁
判所判決の考え方は、要旨、次のとおりである。
1 憲法一四条一項の定める法の下の平等の原則は、国会の両議院の議員を選挙す
る国民固有の権利につき、単に選挙人の資格における差別を禁止するにとどまら
ず、選挙権の内容の平等、換言すれぱ、議員の選出における各選挙人の投票の有す
る影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものである。
2 しかし、憲法は、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は
法律で定めるものとし(四三条、四四条、四七条)、どのような選挙制度が国民の
利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広
い裁量にゆだねている。したがって、投票価値の平等は、憲法上、唯一、絶対の基
準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関
連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
3 現行の参議院議員の選挙制度の仕組み(前記一1参照)は、衆議院議員のそれ
とは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独自の要素を持た
せようとの意図の下に、選挙区選出議員については、都道府県が歴史的にも政治
的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し、政治的に一つのまとまりを有す
る単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映
させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができる。した
がって、参議院議員の選挙制度の仕組みは、合理性を欠くものとはいえず、国会の
有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものではない。
4 したがって、その結果として各選挙区の議員定数と選挙人数又は人口との比率
に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損
なわれることになったとしても、直ちに選挙権の平等を侵害したものとすることは
できない。
 議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口異動が生じた結果、各選挙区間にお
ける議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が拡大するなどして、当初の議員定
数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その
一事では直ちに違憲の問題が生ずるものではなく、人口異動が当該選挙制度の仕組
みの下において投票価値の有すべき重要性に照らして到底看過することができない
と認められる程度の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して
いるのもかかわらず、これを是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度
に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るもので
あることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議
員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解される。
5 以上のような基本的な考え方に立って、昭和五八年大法廷判決は、昭和五二年
七月一〇日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人
数の最大較差五・二六倍について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程
度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示していた。さらに、
最高裁判所昭和六一年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一四七号四三一頁
は、昭和五五年六月二二日施行の参議院議員選挙当時の最大較差五・三七倍につい
て、最高裁判所昭和六二年九月二四日第一小法廷判決・裁判集民事一五一号七一一
頁は、昭和五八年六月二六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差五・五六倍につ
いて、最高裁判所昭和六三年一〇月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五号六
五頁は、昭和六一年七月六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差五・八五倍につ
いて、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた
とするのは足りない旨判示していた(なお、以上の各選挙当時、いずれも、一部の
選挙区において、いわゆる逆転現象が複数生じていた。)。しかし、最高裁判所平
成八年九月一一日大法廷判決・民集五〇巻八号二二八三頁は、平成四年七月二六日
施行の参議院議員選挙当時の最大較差六・五九倍について、違憲の問題が生ずる程
度の著しい不平等状態が生じていた旨判示するに至った。その後、平成六年改正法
に基づいて平成七年七月二三日に施行された参議院議員選挙に関する平成一〇年大
法廷判決は、平成六年改正法が国会の立法裁量権の限界を超えるものとはいえず、
また、右選挙当時における最大較差四・九七倍について、憲法に違反するに至って
いたものとすることはできない旨判示している。
6 そうすると、右5の大法廷判決を含む一連の最高裁判所判決に示されたところ
に従っても、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時(最大較差が四・九九倍であ
り、いわゆる逆転現象が一例生じていた。)において、違憲の問題が生ずる程度の
著しい不平等状態が生じていたとするには足りないものといわざるを得ない。
四 結論
 以上のとおりであって、本件議員定数配分規定は憲法に違反するものということ
はできないから、本件議員定数配分規定に基づいて施行された本件選挙が違憲、無
効であるとすることはできない。
 よって、原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年四月二七日)
東京高等裁判所第一九民事部
裁判長裁判官 淺生重機
裁判官 菊池洋一
裁判官塚原朋一は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 淺生重機

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