弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求めた裁判
(原告ら)
一 被告は原告らに対し、それぞれ別紙(二)債権目録の手当金額欄記載の金員お
よびこれに対する昭和三七年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員
を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文と同旨。
第二 当事者双方の陳述
(原告らの請求原因)
一 原告ら四六名は、いずれも被告会社に雇傭され、少くとも昭和三七年四月から
同年六月末日までの期間被告会社の唯一の事業所である工場に常時使用されていた
労働者であつて、総評全国金属労働組合東京地方本部桂川精螺支部(以下「支部労
組」ともいう)を組織していた。
二 同年四月三〇日当時被告会社工場に使用されていた同種労働者の数は三一三名
であつたが、右労働者の一部により原告ら所属の支部労組とは別に桂川精螺従業員
組合(以下「従組」ともいう)が組織されており、その組合員数は二五〇名であつ
た。
三 被告会社は、同年四月三〇日従組と別紙(三)のような生産協力に関する協約
と題する労働協約を締結すると同時に、昭和三七年度昇給等に関する協定書と題す
る労働協約(以下「昇給等に関する協約」ともいう)を締結し、生産協力手当金と
して昭和三七年五月の昇給差額の二ケ月分を支給することとし、従組の組合員およ
び支部労組にも従組にも属さない非組合員たる労働者に対し、右昇給等に関する協
約による生産協力手当金として、昇給差額の二ケ月分を、昭和三七年五月一〇日
二、〇〇〇円、同年六月九日残額の二回に分けて支払つた。
四 したがつて、従組の組合員は労働組合法一七条の「一の工場に常時使用される
同種労働者の四分の三以上の数の労働者」に該当し、かりに右二に主張した人数に
多少の相違があつたとしても、非組合員を加えれば四分の三に達していたことは明
らかであり、被告会社はこれに対して昇給等に関する協約を適用して生産協力手当
金を支給したのであるから、原告らに対しても右協約を適用して生産協力手当金と
して昇給差額の二ケ月分の金員を支払う義務がある。
五 そして、原告らの昭和三七年五月における昇給差額は別紙(二)債権目録の昇
給差額欄記載のとおりであるから、被告会社に対してその倍額たる同目録手当金額
欄記載の金員およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三七年一一月三日
から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
六 なお、被告代理人の「非組合員に対しても全員に昇給額の二ケ月分を支払つ
た。」との陳述が主要事実に関する自白と解せられるとすれば、右自白の取消しに
は異議がある。
(被告の答弁および主張)
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二の事実は、昭和三七年四月三〇日当時の従組の組合員数が二五〇名であつ
たとの点を除いて認める。当時の従組の組合員数は一七四名であつた。
三 同三の事実は、被告会社が非組合員に対して生産協力手当金を支払つた事実を
否認するほか、その余の事実は認める。
 被告会社の非組合員は当時九四名(昭和三七年四月三〇日当時は九三名)であつ
て、被告会社はそのうち二八名に対しては昇給差額の二ケ月分を、昭和三七年五月
一〇日二、〇〇〇円、同年六月九日残額に分けて支払つたが、二名(臨時工)に対
しては同年五月一〇日および同年六月九日に各二、〇〇〇円、五六名(高卒、中卒
の新入社員計四九名、臨時工七名)に対しては同年五月一〇日および六月九日各
一、〇〇〇円、七名(中途入社員)に対しては同年五月一〇日および同年六月九日
各五〇〇円、一名(中途入社員)に対しては同年六月一〇日五〇〇円をそれぞれ支
払つたに過ぎず、右は原告ら主張の昇給等に関する協約にもとづき生産協力手当金
として支払つたものではない。
 もつとも、被告代理人は、昭和三八年六月一八日の準備手続期日において、「非
組合員に対しても全員に昇給額の二ケ月分を支払つた。」旨陳述したが、右の自白
は真実に反しかつ錯誤にもとづくものであるからこれを取り消す。
四(1) 同四の事実は否認する。すなわち、従組の組合員は被告会社の工場の同
種労働者の四分の三の数に達していなかつたし、被告会社が非組合員に支給した金
員は従組との間の昇給等に関する協約にもとづいて支給した生産協力手当金ではな
いから、従組員と非組合員とを合して右四分の三の数に達したからといつて、原告
らに対して右協約が適用される余地はない。
(2) 原告らは、従組とは別個独立の支部労組を組織し、その団結権ないし団体
交渉権にもとづき、自主的判断によつて独自の労働協約を締結すべきものであつ
て、組合員数の優劣によつて労組法一七条を適用することは許されない。しかも、
本件生産協力手当金は、被告会社と組合間において生産協力に関する協約の締結を
みた場合に限り、当該組合の組合員に対して支払われるものであつて、被告会社は
支部労組、従組の双方に同じ内容の右協約案を提示して団体交渉をもつたが、支部
労組はこれを受け入れず、昇給に関してのみ協定を締結したのであるから、被告会
社は支部労組の組合員である原告らに対しては生産協力手当金を支払う義務はな
い。
五 同五の事実中、原告らの昭和三七年五月における昇給差額が原告ら主張の額で
あることは認める。
(被告の主張に対する原告らの反論)
 支部労組が被告会社との団体交渉の過程で生産協力に関する協約案を正式に提示
されたことはなく(かりに提示されたとしても、かかる労働組合の権利を著しく制
限する協約を締結することはできなかつたであろう)、この点は正式な議題になら
ないで終つたものである。したがつて、原告らは従組とは別個に支部労組を結成し
ているが、本件生産協力手当金については支部労組と被告会社間の協約は不存在な
のであるから、労組法一七条による協約の拡張に支障はない。もし協約の競合がお
こり得るとしても、手当金の支払は労働者に有利な条件であるから拡張適用されて
しかるべきである。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告ら四六名が被告会社に雇傭され、少くとも昭和三七年四月から同年六月末
日までの期間被告会社の唯一の事業所である工場に常時使用されていた労働者であ
ること、同年四月三〇日当時被告会社工場に使用されていた同種労働者の総数は三
一三名であつたが、右労働者の一部により桂川精螺従業員組合が組織されていたこ
と、被告会社が同年四月三〇日右従組と別紙(三)のような内容の生産協力に関す
る協約と題する労働協約を締結すると同時に、昭和三七年度昇給等に関する協定書
と題する労働協約を締結し、生産協力手当金として昭和三七年五月の昇給差額の二
ケ月分を支給することとしたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。
一 被告は、原告らは従組と別個の労働組合を結成し、右組合は生産協力に関する
協約を受け入れず昇給に関してのみ協定を締結したものであるから、従組との間の
昇給等に関する協約が原告らに拡張適用されるいわれはない、と主張するので判断
する。
 原告ら四六名が昭和三七年四月当時総評全国金属労働組合東京地方本部桂川精螺
支部を組織していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五、第六
号証、同第九ないし第一一号証、同第一八号証の一、二、証人Aの証言により成立
を認める甲第五、第六号証の各一、二、同第七号証、同第九号証、証人B、同Cの
各証言および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、次の諸事実が認められる。
(一) 支部労組は、昭和三七年三月初頃被告会社に対し、賃金引上げ、労働時間
短縮などについて団体交渉を申し入れたが、交渉が進展しなかつたところから同月
三一日東京都地方労働委員会に対し斡旋を申請し、爾後もつぱら都労委のD斡旋員
を介して交渉が続けられることになつた。他方被告会社と従組との間においても、
被告会社の申入れにより同月三一日団体交渉が開始されたが、同年四月七日の団交
において、被告会社は従組に対し、労使一体となつた生産協力の約束が文書をもつ
て取り交わされた場合は生産協力手当金を支給する考えを明らかにし、同月一七日
には右文書の内容として別紙(三)のような生産協力に関する協約案を発表した。
この団交の経過は、その都度従組発行の機関紙である従組タイムスに掲載されたの
で、原告らもこれを了知していた。
(二) 被告会社は、同年四月二七日の都労委における交渉の際にD斡旋員に対
し、別紙(三)のとおり生産協力に関する協約案(ただし「桂川精螺従業員組合」
とある部分は「総評全国金属労働組合東京地方本部桂川精螺支部」と記載されたも
の)とともに、「一、昭和三七年五月二一日より同三八年五月二〇日までの間に支
給すべき組合員の基本給を現在の基本給の一五・六パーセント(平均)増とし、そ
の配分(基準給比例、一律給および成績給)は別途労使間において協議する。二、
会社は前項の中一パーセントを原資として中途採用者および最近の新入社員(学卒
直後のもの)などの給与額を調整する。この操作は会社が行う。三、前各項のほ
か、食事手当として一人につき毎月五〇〇円を増額支給する。四、会社および組合
は、別紙生産協力に関する協約を締結し、かつ本協定受諾の旨を文書をもつて昭和
三七年四月三〇日までに会社へ通告したときは会社は前記各項にもとづく増額二ケ
月分に相当する手当を組合員に支払う。」との内容の昭和三七年度昇給等に関する
会社最終回答書を提出し、D斡旋員が右各文書を支部組合に交付したかどうかは兎
も角として、右の被告会社の提案について支部労組側の意向を打診したところ、支
部労組は生産協力に関する協約案については到底受諾できないとの態度を示した。
(三) そこで、同年四月三〇日の都労委における最終交渉の席上、D斡旋員から
被告会社に支部労組の意向が伝えられ、その結果上記最終回答書のうち第四項を除
き、その余の部分について協定が成立し、その旨の協定書が作成されることになつ
た。他方従組は、同日被告会社との間に上記のとおり生産協力に関する協約を締結
するとともに上記被告会社の最終回答書と全く同一内容の昇給等に関する協約を締
結した。
 以上のとおり定められ、原告E本人の供述中右認定に反する部分は、前掲の各証
拠に照らしてにわかに採用し難く、他に右認定を左右し得る証拠はない。
 労組法一七条に定めるいわゆる労働協約の事業場単位の一般的拘束力制度は、従
業員の多数を占め、当該事業場で支配的な地位を有する労働組合がその団結の力に
よつて獲得した労働協約の存立と機能を確保し、協約当事者である労働組合の組織
を維持強化するため、組合外の少数の未組織労働者に対して当該協約を拡張適用す
るものであつて、少数労働者が多数者の組合とは別個に自主的な労働組合を結成
し、その団結権、団体交渉権にもとづき独自の判断によつて固有の労働協約を締結
している場合には多数組合の労働協約を右少数労働者に拡張適用することは許され
ないと解するを相当とする。
 前記認定の事実によると、原告ら四六名は支部労組を結成し、独自の立場で被告
会社と団体交渉を行つていたものであり、生産協力手当金に関する被告会社の提案
が生産協力に関する協約案といわば抱き合わせの関係にあつて、右協約案の受諾に
応じなかつたため、これと一体をなす生産協力手当金の問題を除外し、昇給および
食事手当のみについて協定が成立するにいたつたものといわざるを得ないから、従
組が被告会社と締結した生産協力手当金の支給を含む昇給等に関する協約を原告ら
に拡張適用することは許されないものといわなければならない。
三 以上の次第で、右昇給等に関する協約の適用を受けることを前提とする原告ら
の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であつて排斥を免れな
い。
 よつて、原告らの各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法
八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西山要 島田禮介 瀬戸正義)
(別紙(一)(二)省略)
(別紙(三)) 生産協力に関する協約
 株式会社桂川精螺製作所(以下会社という。)と桂川精螺従業員組合(以下組合
という。)は従業員の労働条件改善の根源である社業の隆昌を期待し、且つ労使の
平和を維持する目的を以つて、この協約を締結する。
第一条 会社または組合が団体交渉を必要とするときは、議題及び開催予定日時を
少くとも三日前に文書を以て相手方に通告しなければならない。但し、団体交渉に
おいて次回の交渉日時を労使が確認した場合を除く。
2 前項の日時について相手方に支障のあるときは改めて協議する。
第二条 組合は団体交渉委員として執行委員を限つて出席させる。
2 会社は役員、課長及び庶務課員(一名)を限つて出席させる。
第三条 組合は会社従業員以外の者を会社構内に立入らせてはならない。但し、会
社の許可を得た場合を除く。
第四条 組合は会社との間に妥結にいたらなかつた要求事項を一年以内に再び提出
しない。
第五条 組合はビラ等により虚偽の宣伝をしてはならない。もし、その事実のあつ
た時は、すみやかに同様の方法により訂正を行い、被害者に対し謝罪文を提出しな
ければならない。
第六条 この協約の有効期間は締結の日より三ケ年とする。
第七条 この協約の有効期間満了一ケ月前までに、会社または組合から特別の申入
れがない場合、この協約は更に三ケ年自動的に更新される。

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