弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は、控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し金二〇〇万円お
よびこれに対する昭和三七年一〇月九日以降完済まで年五分の割合による金員を支
払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被
控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実および法律上主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、次のと
おり訂正、付加するほか、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用
する。
 (被控訴人の主張)
 訴外Bより控訴人に対する本件退職金債権譲渡の通知が、昭和三七年一〇月八日
被控訴人に到達したことは認める。
 (証拠関係)
 被控訴代理人は、乙第四、五、六号証を提出し、当審証人Aの証言を援用し、控
訴代理人は、当審の控訴本人尋問の結果を援用し、右乙号各証の成立を認めた。
         理    由
 本訴請求原因たる事実の要旨は、訴外Aは同人が被控訴人公社を退職するに際し
同人に給付さるべき国家公務員等退職手当法にもとずく退職金の債権を昭和三七年
四月七日訴外Bに譲渡し、同人はこれを更に同年八月一五日控訴人に譲渡したとこ
ろ、訴外Aは同年五月一九日被控訴人公社を退職したから、控訴人は被控訴人に対
しその支払を求めるというのである。
 <要旨第一>しかし、同法に定める退職金は国家公務員等の退職に際し国家その他
の使用者から給付される過去の勤労に対する報酬たる性質を有し、一種
の後払い賃金たる性格を帯びるものであるから、その支払については労働基<要旨第
二>準法第二四条第一項本文の適用があり、したがつて、控訴人の主張のとおりとす
るも、その退職金は直接AAに支払わなければならないものであつて、
被控訴人は控訴人に対しこれを支払うことができず、控訴人もまた被控訴人に対し
てその支払を求めることができないものといわなければならない。もとより、退職
金(賃金)債権もその譲渡性を否定されていると認むべき根拠はないから、控訴人
が真実Bを経てAからその退職金債権を譲り受けたものであるときは、その権利者
は控訴人であつてAではない。しかし、それにもかかわらず、控訴人は被控訴人に
対してその支払を求めることができないのである。すなわち、この場合は実体上の
権利とその取立権能とが分離し、労働者は賃金債権の譲渡後もなお、その取立権能
を保有するものと解すべきである。実体上の権利と取立権能とが分離して帰属する
ことは、決して稀有の例ではない。たとえば、債権者と債権の質権者、債権者と取
立命令をえた差押債権者の関係などは皆この例に属する。賃金債権の譲渡当事者の
関係もこれと同様に解すべきである。これに反し、譲渡後の労働者に退職金の取立
権を否定するときは、譲受人にその取立権を認めることにより労働基準法第二四条
第一項本文に違反する結果を容認するか、退職金債権を行使しうる者の存在を否定
せざるをえないこととなるであろう。いずれにせよ、その不合理なるは明らかであ
ると信ずる。それ故に、退職金債権を譲り受けた場合でも、譲受人は労働者を介し
間接にその支払を受けるほかに方法はなく使用者に対し直接にその支払を請求する
術はないものと解すべきである。
 債権を譲り受けながらその権利を行使しえないということは、その権利を実行す
る機会を奪うもので、その譲渡性を容認した趣意に副わないと見えないことはな
い。このことは、譲渡人がその取立を肯じない場合を考えれば、明らかである。し
かし思うに、右のような一見矛盾にみえる結論を導き出さざるをえないのは、労働
基準法第二四条第一項本文がたんに賃金(退職金)をその支払の面から規制しただ
けであつて、その債権の譲渡性の面からの配慮を怠つた立法の不備に由来するもの
である。しかし、その不備はいかにもあれ、法が特に賃金の直接払制を規定してい
る以上、これを無視して賃金債権の譲受人にその支払を求めうる権能があると解す
ることはできない。もつとも、賃金債権も民訴法上の制限内において差押並びに取
立または転付命令に服することは明らかであつて、この趣旨からするときは、その
譲受が認められる以上、譲受人にその支払を求めうる権能を認めても直接払の趣旨
に反しないのではないかとも考えられないことはない。しかし、賃金債権につき差
押並びに取立または転付が認められるのは、執行債権につき債務名義があつて、即
時給付を求めうる債権の存在が特段の事情がないかぎり確実視されるからである。
そもそも、法が賃金の直接払を規定したゆえんのものは、労働者自身が労働力の給
付に対する対価を現実に取得することを確保し、これによつて労働力の搾取の行わ
れることを防止しようとするためであるから、労働者がみずから賃金を取得すると
同様の経済的利益をうることが、疑もなく明白であるような場合には、賃金債権な
いしその取立権がかりに第三者の手裡に帰しても、必ずしも賃金の直接払の精神に
反するものとはいい難い。債務名義にもとずき賃金債権ないしその取立権が執行債
権者の手裡に帰することの認められるのも、その趣旨においてこれを了解すべきで
ある(この意味において、民訴第六一八条第二項が労働基準法第二四条第一項本文
の特別規定であると解することは、妥当ではない)。しかるに、賃金債権の譲渡を
理由として譲受人がその支払を請求する場合は、その譲渡の有無および効力が決し
てしかく明白ではないから、これをもつてその差押並びに取立または転付命令を求
める場合と同日に談ずることはできない。譲受人が訴訟上その支払を請求する場合
は、その譲渡の有無が審理されるから明白となるかのよらであるけれども、その審
理は譲受人と支払人との関係においてであつて、譲渡当事者間においてなされるの
ではないから、かかる訴訟において譲渡の事実が認められても、いまだこれによつ
てその事実が疑もなく明白であると解することはできず、したがつて、その支払の
請求を是認しては、場合により労働者が実質上賃金を失い、その直接払の趣旨を蹂
躙する結果となるを保し難いのである。
 してみると、本件退職金債権を譲り受けたことを理由として被控訴人に対しその
支払を求める本訴請求は、それ自体失当としてこれを排斥するのほかはなく、原判
決がその理由を異にするが、これを排斥した結論は結局正当に帰するから、民訴第
三八四条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する次第である。
 (裁判長裁判官 谷部茂吉 裁判官 浅賀栄 判事 佐藤邦夫)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛