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平成13年(行ケ)第281号 審決取消請求事件(平成13年11月29日口頭
弁論終結)
判    決
  原      告      三   橋   良   夫
  訴訟代理人弁護士      吉   武   賢   次
同             神   谷       巌
   被     告     株式会社サンヨーケミカル
  訴訟代理人弁理士      清   原   義   博
   主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
 特許庁が無効2000-35237号事件について平成13年5月8日にした審
決を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 原告は、意匠に係る物品を「事務用パンチのパンチ刃」とする登録第10006
68号意匠(昭和62年7月27日出願された特願昭62-185443号から出
願変更、平成9年10月3日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者で
ある。
 被告は、平成12年4月27日、本件意匠の登録無効の審判を請求し、特許庁
は、この請求を無効2000-35237号事件として審理した結果、平成13年
5月8日、「登録第1000668号の登録を無効とする。」との審決をし、その
謄本は同月22日に原告に送達された。
 2 審決の理由 
 別紙審決書の写しのとおり、本件意匠は、その形態が願書添付図面に示されると
おりのものであるところ(審決書別紙第一「本件登録意匠」参照)、本件意匠の登
録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内に
において広く知られた公開特許公報所載の公開昭和56年5月28日の特開昭56
-62799号(甲第3号証)の第2図及び第3図(審決書別紙第二「甲号意匠」
参照、以下「引用意匠」という。)に示される形状に基いて容易に意匠の創作をす
ることができたものといわざるを得ないから、意匠法(平成10年法律第51号に
よる改正前のもの、以下「法」という。)3条2項の規定に該当し、その登録は無
効とすべきである旨認定、判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り)
 審決は、引用意匠について、本件意匠の意匠登録出願前に日本国内において広く
知られた形状であると誤って認定した結果、当業者がこれに基いて容易に創作をす
ることができたものと判断した点において違法があり、取り消されるべきである。
  (1) 「広く知られた」の意義 
 法3条2項規定の日本国内において「広く知られた」状態とは、単に「公然知ら
れた」状態では足りず、日本国内において現実に広く知られた状態を意味するもの
と解すべきである。この点は、現行意匠法の規定と対比すれば明らかである。すな
わち、平成10年法律第51号により改正された現行法にあっては、3条2項は
「日本国内・・・において公然知られた」と規定されており、このように改正され
た趣旨は創作容易性の水準を引き上げるためであるとされている。
 そこで、「公然知られた」状態と「広く知られた」状態との違いについてみる
と、意匠審査の運用基準(平成10年12月特許行発行、甲第2号証)によれば、
「公然知られた(公知)」とは、不特定多数の者にとって、単に知られ得る状態に
あるだけでは足りず、現実に知られている状態にあることを要すると説明され、
「広く知られた」とは、公知のうち、その名称をいえば、証拠を出すまでもなく思
い浮かべることができる状態であると説明されている。
 判例(東京高判昭和63年7月26日、無体集20巻2号333頁)によれば、
「本条第2項の規定は、意匠登録出願前に、その出願にかかる意匠がすでに日本国
内において広く知られている、いわゆる周知の形態にもとづいて容易に創作をする
ことができるものであるときは、意匠としての創作性が低く、意匠権という独占
的、排他的な権利を付与することが相当でないことを理由として、右出願にかかる
意匠について意匠登録を受けることができないとしたものと解されるから、右にい
う周知の形態であるというには、その意匠が単に不特定多数の人に知られ得る状態
におかれただけでは足りず、当該意匠の属する分野において、通常の知識を有する
者、すなわち当業者がその形態を現実に認識していたことが必要であって、その意
匠の形態について、当業者である創作者が知らないということができないほど知れ
わたっていることを要する」旨判示されている。
  (2) 引用意匠の周知性について
 引用意匠は、特開昭56-62799号公報(甲第3号証)の第2図及び第3図
に記載されており、同公報によって、「公然知られた」状態となっていることは明
らかであるが、これによっては、いまだ「広く知られた」状態となっているとはい
えない。
 ところが、審決は、引用意匠について、日本国内において現実に広く知られたこ
とを認めるに足りる証拠が他にないにもかかわらず、上記公報に記載されたとの一
事をもって広く知られたものと即断したものであって、かかる認定判断は、経験則
に反し、また、証拠に基づかないものというべきである。
(3) 被告の主張に対する反論
 被告は、判決例を挙げて、刊行物記載のものが公知であるか、あるいは、周知で
あるかの判断は、「引用意匠の公知の期間」と「本件意匠と引用意匠の物品分野の
異同」等を判断の根拠にして判断されなければならない旨主張している。
 「周知」の語について、「広辞苑」(甲第4号証)には、「あまねく知ること、
知れわたっていること」の意味として紹介されており、また、「周知」の語に相当
する概念は、意匠法の他にも、商標法4条1項10号又は32条1項に「需要者の
間に広く認識されている商標」、不正競争防止法2条1項1号に「需要者の間に広
く認識されているもの」とそれぞれ規定されており、これらの「周知」についての
各法律の法意は、「広く知られている事実状態」を指すものと理解、認識し得ると
ころであるから、単に「知られ得る状態」にあっただけでは足りず、不特定多数の
者に現実に広く知られていなければ、周知であるとはいえないものである。
 特許公報や公開公報は専門的な資料であるから、一般人なかんずく研究者や開発
者を除き取引業界における人であっても頻繁に見るものとはいい難いばかりでな
く、公開公報は審査されていないものも含まれているものであるから、その発行量
が多いことも併せ考えると、引用意匠が掲載されている特開昭56-62799号
公報がたとえ約6年間公然知り得る状態に置かれていたとしても、この一事をもっ
て不特定多数の者に現実に広く知られていた、すなわち「周知」の状態にあったと
は到底いえないものであり、被告の主張は、理由がない。
 2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り)
 審決は、本件意匠について、引用意匠から容易に創作をすることができたものと
判断した点において、創作容易性の判断を誤った違法があり、取り消されるべきで
ある。
  (1) 引用意匠は、穿孔器におけるパンチ刃であって、上方に突出する取付
け筒を設けたものである。この上方に突出する取付け筒は、これを本体の取付孔に
嵌合させるものであるから、その外周面を作用面とするものである。
 これに対し、本件意匠は、穿孔器におけるパンチ刃であって、下方に突出する取
付け筒を設けたものである。この下方に突出する取付け筒は、この内側の孔を突出
した取付軸に嵌合させるものであるから、その内周面を作用面とするものである。
 このように、本件意匠と引用意匠とは、その取付構造を異にするものであること
は明らかである。
 ところで、意匠法上、「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれら
の結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから、専ら物品の形態
に関する創作を保護するものであって、特許法又は実用新案法で保護される技術思
想を含んでいないことは論ずるまでもない。
 したがって、意匠の創作容易性を判断する場合、技術思想を同一にする、すなわ
ち、技術思想の変更を伴わない範囲内での創作容易性が問題とされるのでなければ
ならない。
 本件についてこれをみるに、上記のとおり、引用意匠における上方に突出した取
付け筒は、これを取付孔に嵌合させるものであり、その外周面を作用面とする構造
であるから、この構造を前提として意匠の創作がなされる。そして、かかる意匠の
創作が容易であるか否かは、その創作の範囲における形態の変化性について判断さ
れるべきである。
 これに対し、本件意匠における下方に突出した取付け筒は、その内側に設けた孔
を突出した取付軸に嵌合させる構造のものであるから、かかる構造を前提として意
匠の創作がなされるものである。
 そうすると、引用意匠から本件意匠を創作するためには、取付構造の変更までも
含めた創作を行うこととなるが、このように意匠の創作にとどまらず、技術思想の
創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲を超えたものとなり、推考容
易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきである。
 したがって、審決はかかる枠を越えて創作された本件意匠を引用意匠から容易に
創作をすることができたものと判断した点において違法であり、取り消されるべき
である。
  (2) 被告の主張に対する反論
 被告は、意匠法における意匠の保護範囲に特許法及び実用新案法にいう技術思想
の創作が含まれないことはいうまでもなく、意匠法に技術的思想の概念を持ち込め
ない以上、創作物の技術的構成の相違、すなわち技術的思想の相違によって意匠の
創作容易性が左右されることはあり得ない旨主張している。
 本件意匠における意匠の創作容易性についてみると、本件意匠と引用意匠は、意
匠に係る物品の基本的構造が異なるものである。
 したがって、意匠の創作はその範囲においてなされるものであるから、これを同
一の創作範囲にあるものとして意匠の創作の容易性を判断するのは違法である。
第4 被告の反論の要点
 1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り)に対して
  (1) 法3条2項が規定する周知の意義についてみると、「意匠」(高田忠
著、有斐閣発行、乙第1号証)によれば、「日本国内において広く知られたという
のは、日本国内の一般大衆の間で広く知られている場合だけでなく、当業者の間で
広く知られていれば十分である。またここで「広く」とは一人や二人では広くとは
いえないが、テレビで何度も放送されたり、業界雑誌等に発表されて何千部も印刷
されて配布されたり、実用新案公報、意匠公報などに掲載されれば広く知られたと
見てよい。」とされている。
 また、東京高判平成12年6月14日(平成11年(行ケ)第222号審決取消
請求事件、乙第2号証)は、「ある意匠が周知であるというためには、当該意匠が
一般に知られ得る状態に置かれただけでは足りず、当業者の多くが当該意匠を現実
に認識していることを要すると解すべきであるが、他方、公開実用新案公報がその
出願に係る技術内容を一般公衆に知らせることを目的として広く頒布されているこ
とは明らかであり、また、上記各公開実用新案公報の公開日は、前記認定のとお
り、本件出願の約6年ないし11年前であるうえ、その考案は、いずれも本件意匠
の分野に属する溝蓋に関するものであって、溝蓋に関する当業者の目に触れること
の多い文書というべきである。したがって、上記各考案の意匠が側溝用溝蓋として
ありふれたものであることも考え併せると、これら意匠が本件出願当時、当業者に
周知の形態であったとする審決の認定に誤りはない。」旨判示し、東京高判平成1
1年7月13日(平成10年(行ケ)第42号審決取消請求事件、乙第3号証)
は、「公開実用新案公報は、実用新案登録出願に係る技術内容を一般公衆に知らせ
ることを目的として特許庁長官が刊行頒布するものであって、全国数十か所以上の
公衆閲覧所のほか、多くの団体、企業にも頒布されていることが認められる。そし
て、甲第7ないし第9号証の2刊行物が刊行されてから、本件登録意匠の登録出願
まで5年以上を経過しているから、この間に上記各刊行物ないしその複写物を閲覧
した者は非常に多数にのぼるものと推認される。したがって、甲第7ないし第9号
証の2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願前に日本国内において広く知
られていたことが認められる。原告は、公開実用新案公報の発行件数が膨大である
から、当業者にとって、そのすべてを閲覧して内容を精査することが不可能である
から、甲第7ないし第9号証の各2刊行物記載の意匠は、本件登録意匠の登録出願
前に日本国内において広く知られていなかった旨主張する。しかし、当業者は、そ
の取り扱う物品等に関する工業所有権関係の情報に大きな関心を持ち、これを収集
しているものと容易に推認されるところであるから、原告の主張は、採用すること
ができない。」と判示している。
 以上の文献及び判例によれば、実用新案公報、意匠公報、公開特許公報等の官報
に掲載され意匠登録出願前に何年にもわたって公開された意匠は、法3条2項に規
定される「広く知られた」意匠、すなわち周知の意匠であると見てよいことは明ら
かである。
 なお、原告が引用している東京高判昭和63年7月26日と本件とでは事案の背
景が全く相違している。
 すなわち、原告が引用する上記判例における引用意匠は、その意匠に係る物品を
「卓上電気計算機」とする意匠であって、昭和55年5月8日発行の意匠公報に掲
載されたものであり、他方、上記判例における出願意匠は、その意匠に係る物品を
「チョコレート」とする意匠であって、引用意匠が上記意匠公報に掲載された約4
ヶ月後の同年9月29日に出願されたものである。そこで、上記判例は、①引用意
匠の意匠公報発行後わずか4ヶ月後という短期間で出願意匠が出願されているこ
と、② 引用意匠と出願意匠とでは、その意匠に係る物品が、それぞれ「卓上電気
計算機」(引用意匠)と「チョコレート」(出願意匠)であると全く異にするた
め、チョコレートの当業者が引用意匠を見る蓋然性は極めて低いことを理由に、引
用意匠が周知であるとは認定することはできないと結論付けている。
 上記判例によれば、法3条2項規定の「広く知られた」を認定するに当たって、
「引用意匠の公知の期間」と「本件意匠と引用意匠の物品分野の異同」を判断の根
拠にしていることが分かる。
 これに対し、本件では、①引用意匠(特開昭56-62799号(昭和56年5
月28日発行)における第2及び3図)の公報発行後、6年余に及ぶ長期間を経て
本件意匠(昭和62年7月27日出願(特許出願日援用))が出願されており、②
引用意匠(パンチ刃)と本件意匠(パンチ刃)は物品が同一であるため、本件意匠
に係るパンチ刃の当業者が引用意匠を見る蓋然性は極めて高い(ちなみに、本件の
場合は、引用意匠の出願人と本件意匠の出願人が同一であるから、本件意匠の創作
者が引用意匠を見る蓋然性はほぼ100%であると推認することができる。)ので
あるから、本件意匠の出願時において、引用意匠は、公知性の平均レベルをはるか
に超えて周知性を具備するものになっていたと見るべきである。
  (2) 原告は、「広辞苑」に掲載された「周知」の意義を挙げるとともに、
「広辞苑」に示された一般的な「周知」の程度が、意匠法、商標法、不正競争防止
法の各法律において画一的に当てはまる旨を主張している。
 しかしながら、法3条2項における「日本国内において広く知られた」の程度、
商標法4条1項10号における「需要者の間に広く認識されている」の程度、不正
競争防止法2条1項1号における「需要者の間に広く認識されている」の程度は、
それぞれ法の趣旨に応じて個別に解釈されるべきものであって、画一的かつ固定的
に解釈されるべきものではなく、原告の上記主張は失当である。
 2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り)に対して
 原告は、意匠の創作に加えて、技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には意匠
の創作の範囲を越えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなる
から、本件審決はかかる枠を越えて創作された本件意匠を引用意匠から容易に創作
をすることができたと判断した点において違法であり、取り消されるべきである旨
主張しているる。
 しかしながら、原告の上記主張の論旨には矛盾があり、決して認められるべきも
のではない。
 すなわち、原告は、一方では、「意匠法上「意匠」とは物品の形状、模様若しく
は色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものであるか
ら、専ら物品の形態に関する創作を保護するものであって、特許法又は実用新案法
で保護される技術思想を含んでいないことは論ずるまでもない。」と主張し、意匠
法における意匠の保護範囲が技術思想とは無関係である旨を主張している。
 それにもかかわらず、原告は、他方では、「引用意匠から本件意匠を創作するた
めには取付構造の変更までも含めた創作を行うこととなるが、このように意匠の創
作にとどまらず、技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲
を越えたものとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきで
ある。」と主張し、ここでいきなり技術思想の概念を持ち出し、これを意匠の創作
容易性否定のための根拠としている。
 意匠法における意匠の保護範囲に特許法及び実用新案法にいう技術思想の創作が
含まれないことはいうまでもないが、意匠法に技術的思想の概念を持ち込めない以
上、創作物の技術的構成の相違、すなわち技術的思想の相違によって意匠の創作容
易性が左右されることはあり得ない。
 したがって、原告の上記主張は、明らかに失当である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用意匠の周知性認定の誤り)について
 引用意匠は、昭和56年5月28日公開の特開昭56-62799号の公開特許
公報の第2図及び第3図に示された形状のものであり、他方、本件意匠は、昭和6
2年7月27日に出願された特願昭62-185443号から出願変更されたもの
であることは争いがなく、これによると、本件意匠は、引用意匠が公開された後、
6年以上経過して出願されたものと認められる。
 また、本件意匠は、意匠に係る物品を「事務用パンチのパンチ刃」とするもので
あるところ、甲第3号証によれば、引用意匠の形状が示された特開昭56-627
99号の発明に係る物品は、「穿孔器におけるパンチ刃」であり、「用紙等に孔あ
けを行う穿孔器のパンチ刃に関するもの」(甲第3号証1頁(2)欄20行ないし
2頁(3)欄1行)であると認められるから、両意匠に係る物品は、相互に同一の
ものであることは明らかである。
 以上の各事実によれば、他に特段の事情がない限り、本件意匠の登録出願前にお
いて、引用意匠に係る形状は、これと同一の物品に係る本件意匠の属する分野にお
ける当業者の間に、既に広く知られ、現実に認識されていたものと推認することが
できるというべきであり、この認定を妨げるに足りる特段の事情ないし証拠は認め
ることができない。
 したがって、これと同旨の審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由1の主張
は、採用することができない。
 2 取消事由2(創作容易性の判断の誤り)について
 意匠法上の「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であ
って、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから(意匠法2条1項)、同法
は、専ら物品の形態に係る創作を保護するものであって(同法1条参照)、特許法
又は実用新案法で保護される技術的思想の創作(特許法、実用新案法各1条、2条
1項参照)を保護するものでないことは明らかである。
 したがって、引用意匠と本件意匠に係る物品が同一である場合に、物品ないしそ
の構造が有する技術的思想がそれぞれ相違しているか否かということは、両意匠間
の創作容易性の判断に直接かかわるものではないというべきであり、原告の「両意
匠間で技術思想の創作ないし変更をも伴う場合には、意匠の創作の範囲を越えたも
のとなり、推考容易性を判断すべき枠を越えたものとなるというべきである」旨の
主張は、到底採用することができない。
 また、原告は、本件意匠と引用意匠は、意匠に係る物品の基本的構造が異なるも
のであり、意匠の創作はその範囲においてなされるものであるから、これを同一の
創作範囲にあるものとして意匠の創作の容易性を判断するのは違法であるとも主張
している。
 しかしながら、本件意匠と引用意匠との間において、その基本的構成態様(構
造)において相違する点があることから、直ちに両意匠間の創作容易性が否定され
たり、同一の創作範囲にないものと解すべき根拠はなく、原告の上記主張は、理由
がない。
 そして、甲第1号証(審決書)によれば、審決は、原告が本件意匠と引用意匠と
の相違点として指摘する「パンチ刃の取付け筒」に関して、本件意匠の基本的構成
態様として、「中央の取付孔を、その取付孔の外周から垂下する略短円筒状に形成
している点」を認定した上で(5頁3行ないし8行)、「この種の物品において、
取付け筒、すなわち、嵌合部を筒状に形成することは極く一般的であり、その嵌合
部を上に突出させるか、下方に垂下させるかは、設計上適宜選択されるものである
ことを勘案すると、その点に特筆すべき創作は見いだせないといわざるを得な
い。」から、本件意匠の取付け筒は、引用意匠に係る上方に突出させる態様の周知
の形状の取付孔部を、当業者であれば極めて容易に着想し得る「取付孔の外周から
垂下する略短円筒状」に形成した程度のものであって、当業者が容易に意匠の創作
をすることができたものである旨の判断をしており(5頁28行ないし6頁32
行)、その判断過程において誤りはないものと認められる。
 したがって、原告の取消事由2の主張も、採用することができない。
 3 結論
 以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 古  城  春  実
    裁判官 橋  本  英  史

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