弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決中別紙図面記載の土地(現況山林、実測地積七畝二八歩)
についての被控訴人の所有権確認請求を認容した部分を左のとおり変更する。
     別紙図面記載の土地(現況山林実測地積七畝二八歩)に生えている杉立
木は、被控訴人の所有であることを確認する。
     被控訴人その余の請求を棄却する。
     二、 控訴人その余の控訴を棄却する。
     三、 訴訟費用は第一、二審を通してこれを二分し、当事者双方各その
一を負担するものとする。 ○事実
     控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟
費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人
は、控訴棄却の判決を求めた。
     当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出、援用、認否は、控訴人
が、「仮に被控訴人が、その主張するように、時効によつて本件係争地の所有権を
取得したとしても、被控訴人は、その旨の登記を経由していないのであるから、右
時効取得をもつて第三者である控訴人に対抗できないものである。」と述べ証拠と
して、原審での控訴本人第三回尋問の結果、当審証人A、B、Cの各証言および当
審での控訴本人尋問の結果を援用し、被控訴べ理人が原審での被控訴本人第三回尋
問結果および当審での被控訴本人尋問の結果を援用したほかは、すべて原判決事実
摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
         理    由
 一、 被控訴人は、「別紙図面記載の土地は、福島県安積郡a村大字b字cd、
e番のf山林一五歩であつて、被控訴人の父Dが昭和二年八月一三日国から払い下
げを受けてその所有権を取得し、昭和三一年七月一二日同人の死亡により被控訴人
が相続人としてその所有権を承継取得したものであると主張し、控訴人は、被控訴
人の右主張を争い、別紙図面記載の土地(以下これを本件係争地という)は、控訴
人所有の前同所d、e番のg山林二反八畝二四歩の一部であると主張する。よつて
案ずるに、
 (1) 成立に争いのない乙第三、第四号証、甲第二、第四、第五号証、原審証
人E(第一回)、F、G、H、I、J、原審および当審証人B、当審証人Cの各証
言、原審での被控訴本人(原書では第一ないし第三回)尋問の結果、原番検証の結
果ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 (イ) 福島県安積郡a村大字b字cd、e番のg山林二反八畝二四歩(公簿上
地積)は、もと山桑の生えていた国有地であつて、その地番、地目、反別は、右同
所同番h号g柴山三反歩であつたものを明治二九年七月二一日訴外Kが国から払い
下げを受け、ついで明治三七年一二月六日訴外Lが家督相続によつてその所有者と
なつたものであり、右Lは、右土地から遠隔の地に居住していた関係で右土地の管
理を訴外Mに委せていたものであること。
 (ロ) 被控訴人の父Dは、本件係争地が自分の所有地でないことを知りながら
その先代(被控訴人の祖父)に引き続きかねてから本件係争地に立ち入つてここの
山桑を摘み取つていたものであるが、大正一〇年ころ右山桑を掘り除いてここに自
分の杉苗を植え付けたこと。
 (ハ) 前記Mは、Dとこく親しくしていた者であるが、同人は本件係争地を前
記d、e番h号g柴山の一部てあるとしていたにかかわらずDが本件係争地に前叙
のようにして杉苗を植えたのを知りながらこれをとがめなかつたこと。
 (ニ) その後大正一五年一二月二四日Dが農林省(国)から前同所d、e番f
原野一五歩(公簿上地目、地積)を買い受け、昭和二年八月一三日その発記を了し
たこと。
 (ホ) 昭和一〇年ころMは、前記d、e番h号gの柴山に生えていた松の木を
伐採した際本件係争地に生えているものも数本伐つたがDはそれをとがめなかつた
こと。
 (ハ) 昭和一三年一二月一〇日Mは前記Lから前記d、e番h号gの柴山の贈
与を受け、同年同月一三日売買名義で所有権取得登記を了したが、それと同時に右
土地の地番、地目、反別の変更手続をとり、これをd、e番のg山林二反八畝二四
歩(公簿上地積)としたこと。
 (ト) 昭和一六年四月一二日Mは死亡し、訴外Cが家督相続によつて右d、e
番のgの山林の所有権を取得したこと。
 (チ) 昭和二五年ころDは、人に問われて、前記d、e番のfの土地は墓場の
方かも知れないと話した事実があること。
 (リ) 前記Dは、前叙認定のとおり大正一〇年ころ本件係争地に杉苗を植え付
けていらい、これによる杉立木を自分のものとして時々本件係争地に赴いては下刈
りなどをしてその手入れをし、これにつき、前記Mから異議をいわれたことは一度
もなく、同人死亡後になつて前記政雄から本件係争地は杉立木を含めて同人の所有
であるといわれるようになつたが、それを意に介せず、昭和三一年七月一二日死亡
するに至るまで人にはばかるところなく右杉造林の育成ならびに管理を継続して本
件係争山林を占有してきたこと。
 (2) 原審証人I、G、Nの各証言および原審検証の結果によれば、本件係争
地の南方徒歩で一〇分位のところにある通称c墓地に接し、その北西部にある約一
五坪の山林をDがその生前に他から取得したことが認められる。なおDが本件係争
地の附近に本件係争地と右墓地近傍の約一五坪の山林以外に土地を所有していたこ
とをうかがわせるような証拠はない。
 (3) 本件係争地の実測面積が七畝二八歩あることは被控訴人が自ら主張する
ところであるが、仮に本件係争地をDが農林省(国)から貰い受けた前記d、e番
のf原野一五歩(公薄上地目、地積)であるとすると、その実測地積が公簿上地積
に比較して余りに広すぎるの感を免れない。他方原審証人O(第一回)および当審
証人Bの各証言によると、前記d、e番のg山林二反八畝二四歩(公簿上地積)の
実測地積、これに本件係争地を含ませなければほぼ二反歩であり、これに本件係争
地を含ませればほぼ二反七畝となり、右公簿上地積に僅かに充たないことが認めら
れる。
 (4) 原審証人桑名垣雄(第二回)の証言により、福島地方法務局福良出張所
備え付けの本件係争地附近の耕地図を正写したものと認められる乙第二号証によれ
ば、右公図上d、e番のfの山林は墳墓地の北側に接していて、その北方に位置す
るd、e番h号gの柴山とは別筆の山林をはさんで相隔つていることが認められ、
また同証人の証言により同法務局同出張所備え付けの本件係争地附近の山林地形図
を正写したものと認められる乙第一号証と乙第二号証と対照しつつ検討すると右山
林地形図上のd、e番のgは、本件係争地と推測される地域を含んでいることがう
かがわれる。
 以上(1)ないし(4)に認定した事実を総合すれば、本件係争地は、これを被
控訴人の父Dが国から買い受けた前記d、e番のfの土地と認めることはできず、
かえつて六件係争地は前記d、e番のgの山林の一部であること、Dが国から買い
受けたd、e番のfの土地は前記c墓地近傍の山林であることが認められる。原審
証人G、原審および当審での被控訴本人(原審では第一ないし第三回)の各供述中
右認定とてい触する部分は、(1)ないし(4)で認定した事実に徴しこれを採用
することはできず、そのほか右認定を覆すに足りる証拠はない。
 つぎに本件係争地をDが時効によつて取得し、それを被控訴人が相続によつて取
得したものであるとの控訴人の主張について判断するに、すでに認定したように、
Dが前記de番のfの土地を国から買い受けたのは同人が本件係争地に杉苗を植え
付けた後であるから同人が右植え付けの際に本件係争地をは自己所有の前記d、e
番のfの土地と思いこんでいたということはあり得ず、前叙認定したところによれ
ば、Dは本件係争地に杉苗を植え付けるについては前記d、e番のgの山林を管理
していた前記Mから本件係争地を無償使用することを黙認されていた(このことか
ら直ちに右Mが本件係争地を他人に無償使用させる権限を有していたことにならな
いことはいうまでもない)のではないかと推認され、したがつて少くとも本件係争
地の地盤についていえば同人は所有の意思をもつてその占有を始めたものではない
といわなければならず、その後、Dがこれにつき自分に占有をなさしめた者に対し
所有の意思あることを表示したこと、もしくは新権原によつて更に所有の意思をも
つて占有を始めたことについては被控訴人のなんら立証しないところである。した
がつて本件係争地の地盤に関する限り、その余の判断をするまでもなくDがこれを
時効取得したものと認め得ないことは明らかであり、被控訴人の前記主張は採り得
ない。しかしながら被控訴人の弁論の全趣旨によれば被控訴人の本件係争地の時効
取得の主張の中には本件係争地上の杉立木のみについての時効取得の主張も含まれ
ているものと認められるので、これについて考察するに、まずDが他人の土地であ
る本件係争地に杉苗を植え付けたのが権原によるものであることを被控訴人はなん
ら主張立証しないから、右杉苗の所有権は植え付けられると同時に本件係争地を含
む前記d、e番のg(植え付けの当時は同番h号g)の土地の所有権に附合したも
のといわなければならないのであるが、前叙認定したところによれば、Dは大正一
〇年ころ本件係争地に杉苗を植え付けていらいその生長する杉立木を所有の意思を
もつて平穏かつ<要旨>公然と二〇年間以上占有したものといわなければならない。
しかして他人の所有する土地に権原によらず自己所有の樹木を植え付けた者
が植え付けの時から所有の意思をもつて平穏かつ公然と植え付けにかかる立木を二
〇年間占有したときは植え付けの時にさかのぼつてその立木の所有権を時効により
取得するものと解するのが相当である。けだし、他人所有の土地への樹木の植え付
けが権原によつてなされたものであるときは、それによる立木の所有権は、植え付
けた者に留保されるのであるから、右立木は、土地から独立した所有権の客体にな
り得るものであり、このような観点からすると前記のような立木のみについて取得
時効の要件を充足した場合を、一筆の土地の平面的一部分について時効取得の要件
を充足した場合-かかる場合当該一部分が時効取得されることは判例上確定した法
理となつていること周知のとおりである-と別異に取り扱わなければならないほど
の合理的理由は発見できないからである。その結果として他人所有の土地にこれを
使用する権原のない者か立木を所有するという事態が生ずることになるが、かかる
事態は他人所有の土地に権原によつて樹木を植え付けた者が後日になつてその権原
を失つてしまつた場合にも生ずるところであつて、必ずしも民法の予測しないとこ
ろではなく、それは立木所有者が土地所有者に立木収去義務を負うことによつて充
分解決できることであるから右のような事態の生ずることは前記のように解するの
を妨げる理由にはならない。はたしてそうとすれば、Dが、大正一〇年ころ本件係
争地に杉苗を植え付けてから少くとも二〇年を経過した昭和二〇年末日には本件係
争地の杉立木についての取得時効完成し、右植え付けの時にさかのぼつてその所有
権を取得したものといわなければならない。しかして原審および当審証人A、B、
当審証人Cの各証言およびこれら証言によつて真正に成立したものと認められる乙
第五、第六号証(これら書証中官署の作成にかかる部分の成立については争いがな
い)、乙第一三号証乙第一四号証の一、二を総合すれば、前記Cは昭和二五年七月
一八日前記d、e番のgの山林を、本件係争地を除外して訴外Aに売却し、同年一
一月二二日石久太郎は右山林のうち政雄から買い受けた部分を控訴人に売却し、こ
れと同時に政雄から控訴人に対し本件係争地を、ここに生えている杉立木を除外し
て、売却したことが認められ、控訴人が前記d、e番のgの山林を、本件係争地上
の杉立木を除外することなしに買い受けたものと認めるに足りる証拠はない。原審
および当審での控訴本人(原審では第一ないし第三回)の供述中右認定に反する部
分は措信し難いし、乙第六号証も前記証人らの証言に徴すると、控訴人が前記d、
e番のgの山林全部を何らの除外なしに買い受けたことの認定資料とするには不充
分である。そうとすれば、控訴人は、本件係争地の杉立木に関する限り、いまだ取
引関係に入つたことのない者であり、前記D対し同人が時効により右杉立木の所有
権を取得したことにつき有効な公示方法を欠いていることを主張する正当な利益を
有する第三者に当らないものといわなければならない。したがつてDは、控訴人に
対し本件係争地の杉立木の所有権を時効取得したことを対抗できたものであり、昭
和三一年七月一二日助の死亡により相続によつて右杉立木の所有権を取得したこと
弁論の全趣旨により明らかな被控訴人もまた右所有権取得を控訴人に対抗し得るも
のといわなければならない。しかして被控訴人は、木件係争山林の所有権確認請求
において本係争地上の杉立木の所有権確認だけでもこれを求める意思を有するもの
と推認されるところ、控訴人は右杉立木が被控訴人の所有であることを争つている
から、被控訴人の本店係争山林所有権確認請求は、右杉立木の所有権確認を求める
限度で理由あるものとして認容すべきであり、その余はもとより理由なく棄却を免
れない。
 二、 つぎに、控訴人が昭和三二年七月一二日本件係争地上の杉立木六五本約五
〇石を伐採したこと、それで被控訴人が翌一三日福島地方裁判所郡山支部の仮処分
決定(昭和三二年(ヨ)第四五号)を得て右伐木に対する控訴人の占有を解き被控
訴人の委任する同裁判所執行吏の保管に付したこと、その後同裁判所の換価命令に
より執行吏は右伐木を競売に付し、その売得金六八、〇八四円を福島地方法務局郡
山支局に供託したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。控訴人の伐採にかか
る右杉立木が被控訴人の所有であることはすでに認定したところから明らかであ
る。そうとすれば被控訴人は、控訴人に対し所有権に基き控訴人の伐採、占有にか
かる杉伐木の引渡を求める権利を有することは明らかであり、前叙の経過で右杉伐
木が換価されて供託金に代つている以上、控訴人は被控訴人に対し右供託金を引渡
す義務があるものといわなければならない。それ故被控訴人の控訴人に対する供託
金引渡請求はこれを正当として認容すべきである。
 三、 以上のとおりであつて、原判決中被控訴人の本件係争地所有権確認請求を
認容した部分は、当裁判所の判断と一部符合しないからこれを前叙判示のとおりに
変更し、原判決中被控訴人の供託金引渡請求を認容した部分は相当であるから本件
控訴中これに対する部分を棄却し、控訴費用の負担につき同法第九六条第九二条を
適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 斎藤規矩三 裁判官 桑原宗朝 裁判官 宮崎富哉)

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