弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人河村泰三上告趣意第一点について。
 所論第一審判決判示第一の事実認定はその挙示する証拠に照らしこれを肯認する
に難くないのである。またこの第一審の事実認定を肯定した原判決にも何等違法の
点あるを認め得ない。所論は事実審がその裁量権の範囲内で適法になした証拠の取
捨判断乃至事実の認定を非難するに帰し、刑訴四〇五条所定の上告適法の理由とな
らない。
 同第二点について。
 所論第一審判決判示第二、第三の事実認定もその挙示する証拠に照らしこれを肯
認するに難くないのである。論旨は第一審が右事実認定の資料とした被告人の自白
は、不当に長い拘禁後になされたものであり、これを証拠とすることはできないと
主張する。記録を精査すると、被告人は昭和二四年八月九日判示第一の事実につき
起訴され、罪証隠滅を疑うに足る相当な理由あるものとして勾留されたのである。
そして同月二四日第一回公判が開かれて以来、回を重ねて同年一二月二五日第六回
公判に至つて、判示第一の事実につき訴因の変更がなされ、更に同年一一月一〇日
付追起訴状が朗読され、被告人は判示第一の事実については依然これを否認し続け
たのであるがこの迫起訴に係る判示第二及び第三の事実については所論の自白をな
したのである。さればこの自白は第一の事実につき起訴され勾留されてから一二九
日目、第二及び第三の事実につき追起訴されてから三六日目になされたものである
ことがわかる。しかし、当裁判所大法廷の判例によれば、憲法三八条二項にいわゆ
る「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」であるか否かは、単に抑留又は
拘禁の期間の長短のみならず、被拘禁者の家庭事情その他一身上の事由は勿論事案
の軽重、審判の難易、逃亡のおそれの有無、証憑隠滅の危険の強弱等その他客観的
諸般の事情を斟酌してその必要の限度を超してなされたと認められる拘禁の後に、
その自白がなされたか否かによつて決せらるべきであると解せられている(昭和二
二年(れ)三〇号、同二三年二月六日大法廷判決、同二二年(れ)二七一号同二三
年六月二三日同判決、同二二年(れ)一七〇号同二三年七月一九日同判決参照)。
本件における前示被告人の勾留期間は、唯被告人側の立場だけからこれを見れば或
は長きに失したと思えるかも知れないけれど、記録上窺い得る前掲諸般の事情を斟
酌して考案すれば、いまだ必ずしも不当に長いといい得ないことは右大法廷の判例
の趣旨に徴して明らかである。されば所論被告人の自白を不当に長い拘禁後の自白
であるからこれを証拠となし得ないとする論旨には賛同し得ない。従つて、第一審
判決の判示第二及び第三の事実認定には何等の違法もなく、これを肯定した原判決
もまた、然りといわざるを得ない。所論は畢竟事実審の裁量に属する事実認定を非
難するに帰し、上告適法の理由とならない。
 よつて刑訴四〇八条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
  昭和二五年一一月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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