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平成28年6月13日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成27年(ワ)第6271号商標権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年4月11日
判決
原告株式会社成田
同訴訟代理人弁護士藤原武士
同訴訟代理人弁理士木島隆一
被告株式会社不動産ビジネス研究所
同訴訟代理人弁護士中村信雄
同友田順
同訴訟代理人弁理士益頭正一
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,消臭剤に別紙被告標章目録記載の標章を付し,又は同標章を付した
消臭剤を販売し,若しくは販売のために展示をしてはならない。
2被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付した消臭剤を破棄せよ。
3被告は,原告に対し,7009万5500円及びこれに対する平成27年7
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1請求の要旨
本件は,別紙商標権目録記載の商標権を有する原告が,被告が別紙被告標章目録
記載の標章を使用して消臭剤を販売等する行為が原告の商標権を侵害すると主張し
て,被告に対し,①商標権に基づき,消臭剤に同目録記載の標章を付し,又は同標
章を付した消臭剤を販売し,若しくは販売のために展示をすることの差止め及び同
標章を付した消臭剤の破棄,②商標権侵害の不法行為に基づき,7009万550
0円の損害賠償及びこれに対する平成27年7月10日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案で
ある。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠により容易に認められる。)
(1)原告の商標権
原告は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「原告商標権」といい,この商標権
に係る登録商標を「原告商標」という。)を有している。
(2)被告による消臭・抗菌剤の販売
被告は,消臭・抗菌剤(以下「被告商品」という。)に別紙被告標章目録記載2の
標章(以下,同目録記載の各標章を「被告標章1」,「被告標章2」といい,両者を
併せて「被告標章」という。)を使用して,少なくとも平成27年7月まで販売した。
被告商品は,原告商標権の指定商品である「抗菌剤(工業用のもの及び洗濯用の
ものを除く。)」に含まれる。
3争点
(1)被告による被告標章1の使用の有無
(2)原告商標と被告標章の類否
(3)損害額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告による被告標章1の使用の有無)について
【原告の主張】
被告は,被告標章1を,被告商品の広告(甲5)等に使用している。
【被告の主張】
否認する。被告は,甲5の文章自体は寄稿の上で掲載を依頼したが,甲5で掲載
されている商品写真には被告標章2が記載されている。
2争点(2)(原告商標と被告標章の類否)について
【原告の主張】
(1)原告商標の外観は,ゴシック文字で「抗菌ジェット」の文字を一段に配し
て成り,「コウキンジェット」との称呼が生じ,抗菌剤であるとの観念を生じる。
被告は,「抗菌」の部分は要部とならないと主張するが,「抗菌ジェット」は短い
音節で一息に発音されるものであるから,「抗菌」の部分も識別力を有する要部であ
る。
(2)被告標章1の外観は,「抗菌ジェッタ」の文字を一段に配してなり,「コウ
キンジェッタ」との称呼が生じ,抗菌剤であるとの観念を生じる。
原告商標と被告標章1は,観念が同一であり,その末尾音のみが同じタ行のうち
でわずかに異なるだけであるから称呼が類似し,外観も類似するから,全体として
類似する。
被告は,「ジェッタ」は造語として認識されると主張するが,日本人は耳慣れた「ジ
ェット」と紛らわしい他の語を知らないことから,「ジェッタ」は「ジェット」と同
様の意義かその派生語であるとの観念が生じる。
(3)被告標章2の外観は,「FBK」の文字を「抗菌ジェッタ」の文字の略半分
の大きさにおいて丸囲みで分離して記載したもので,「FBK」の与える印象は小さ
いから,「抗菌ジェッタ」が要部となる。そして,称呼は,「エフビーケーコウキン
ジェッタ」との称呼を生じるが,「エフビーケー」の部分は単なるアルファベットの
羅列であるから識別力が弱く,要部として「コウキンジェッタ」との称呼を生じる。
また,観念は,要部である「抗菌ジェッタ」のうち,「抗菌」は「細菌の発生を抑制
する」という観念が生じ,「ジェッタ」は「ジェット」と同様の意義かその派生語と
認識されるから,「抗菌作用のある物質を口孔から連続的に噴出する形態,又はその
噴出物,又は噴出器具」との観念を生じる。
そして,原告商標と被告標章2の要部である「抗菌ジェッタ」は,前記(2)のとお
り類似するから,原告商標と被告標章2は類似する。
被告は,不動産業界においては「FBK」が被告を示す略称として強い識別力を
獲得しており,また,需要者が出所を混同するおそれはないと述べるが,被告は,
全国の不動産業者のうち2%弱の業者に対して「FBK」シリーズ商品を販売して
きたにすぎない上,全国賃貸管理ビジネス協会の会員の中ですら,被告商品が原告
商標を使用した原告の商品と紛らわしい等の声が多数あり,実際に間違えて注文し
たという苦情があるから,「FBK」の強い識別力は認められず,混同のおそれもあ
る。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
(1)原告商標は,抗菌剤を指定商品とするものであるから,「抗菌」の部分は要
部となり得ず,「ジェット」の部分が支配的となる。
(2)被告標章2のうち,「FBK」の部分に接した需要者は,特定の企業の名称
であると考えるところ,特に被告は,平成21年7月から被告商品等の「FBK」
シリーズを累計100万個近く販売しており,「FBK」は少なくとも不動産業界に
おいては被告を示す名称として強い識別力を獲得しているから,「FBK」が支配的
となる要部である。そして,被告標章2の外観は,このような「FBK」の有無や,
チラシにおいてはAOTFフォークプロというフォントが,商品自体においてはモ
リサワフォント・丸フォークというフォントが使用されていることから,原告商標
の外観と類似しない。
被告標章2の称呼は,「エフビーケイコウキンジェッタ」であり,「エフビーケイ」
が入る上に,末尾の「ト」と「タ」も,「ト」が口をつぼめる形で発音する口ごもっ
た音であるのに対し,「タ」は口を開いて勢いよく発する明瞭な音であって,原告商
標の称呼と類似しない。
被告標章2の観念は,「FBK」からは特定の企業の観念が,「抗菌」からは「細
菌の発生を抑制する」という観念が生じ,「ジェッタ」は,一般の辞書には掲載され
ておらず,商品名称たる造語として認識されるから,全体では「FBKという会社
の販売する,細菌の発生を抑制する商品」との観念を生じ,原告商品の観念と類似
しない。また,原告商標の要部である「ジェット」と被告標章2の要部である「F
BK」の観念は大きく異なる。
以上に加え,被告商品の需要者は,不動産賃貸業者であり,主に代理店への問合
せを通じて販売していることから,需要者が出所の混同を生じるおそれはない。
したがって,原告商標と被告標章2は類似しない。
(3)被告標章1は,前記のとおり使用していない。
3争点(3)(損害額)について
【原告の主張】
被告は,被告商品を平成22年8月20日以降販売しており,同月21日から平
成27年6月20日までの間に少なくとも30万7980個を販売した。そして,
被告商品の1個当たりの利益額は225円であるから,被告が得た利益は6929
万5500円である。
また,本件での弁護士費用は80万円である。
したがって,損害額は合計7009万5500円である。
【被告の主張】
争う。なお,被告標章2を使用した被告商品の販売時期は,平成26年12月か
ら平成27年7月までである。
第4当裁判所の判断
1事案に鑑み,争点(2)(原告商標と被告標章の類否)について判断する。
(1)原告商標と被告標章1の類否について
ア原告商標は,別紙商標権目録記載のとおり,ゴシック体で「抗菌ジェッ
ト」と横書きして成るものであるが,「抗菌」が漢字で表記され,「ジェット」が片
仮名で表記されていることから,原告商標に接した取引者,需要者は,それが「抗
菌」の語と「ジェット」の語から構成されるものであると認識すると認められる。
そして,「抗菌」の語は,「細菌の繁殖を抑制すること」(広辞苑第六版)の意味であ
るから,原告商標が指定商品である「抗菌剤(工業用のもの及び洗濯用のものを除
く。)」に使用されたときには,「抗菌」の部分は商品の効能を意味するものと認識さ
れ,出所識別力が乏しいのに対し,「ジェット」には,「孔口から液体が連続的に噴
出する形態。また,その噴出物。噴流。」(広辞苑第六版)の意味があり,我が国に
おいて広く知られている語であって,スプレータイプの薬剤を暗示するものの,上
記指定商品との間で直接の関連性があるとはいえないから,出所識別力を有すると
認められる。
そうすると,原告商標に接する取引者,需要者は,全体を一体的に認識するだけ
でなく,そのうち出所識別力を有する「ジェット」の部分をもって,商品の出所識
別標識として捉える場合もあり,後者が原告商標の要部であると認められる。
この点について,原告は,「抗菌ジェット」は短い音節で一息に発音されるもので
あるから,「抗菌」の部分も識別力を有する要部であると主張するが,前記のとおり
原告商標は漢字の「抗菌」と片仮名の「ジェット」から成るものであるから,外観
上,両者を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に
結合しているとは認められない。そして,「抗菌」が指定商品との関係で効能を表す
ものにすぎない以上,出所識別力を有するとはいえず,この部分が要部を構成する
とは認められない。
したがって,原告商標は,その全体から,「抗菌ジェット」との外観,「コーキン
ジェット」との称呼,「細菌の繁殖を抑制する液体が孔口から連続的に噴出する形態,
噴出物,噴流」との観念が生じるとともに,要部である「ジェット」の部分からは,
「ジェット」との外観,「ジェット」との称呼,「液体が孔口から連続的に噴出する
形態,噴出物,噴流」との観念が生じると認められる。
イ被告標章1は,賃貸管理ビジネスNAVIのホームページ(甲5)にお
ける商品広告中で使用されているものであり(これが被告による使用であるか否か
はここでは措く。),別紙被告標章目録記載1のとおり,丸ゴシック類似の書体で「抗
菌ジェッタ」と横書きして成るものであり,原告商標と同様に,「抗菌」と「ジェッ
タ」の語から成ると認識されると認められる。そして,被告商品が抗菌・消臭剤で
あり,「抗菌」の意味が前記のとおり被告商品の効能を示すものにすぎないのに対し,
「ジェッタ」は,ドイツ製の特定の乗用車の名称(乙7)ではあるものの,日本国
内において広く知られているとは認められず,特段の意味を有しない耳慣れない造
語又は外国語と観念され,出所識別力が大きいことからすると,「ジェッタ」が被告
標章1の要部であると認められる。
したがって,被告標章1は,その全体から,「抗菌ジェッタ」との外観,「コーキ
ンジェッタ」との称呼,「細菌の繁殖を抑制するジェッタ」との観念が生じるととも
に,要部である「ジェッタ」の部分からは,「ジェッタ」との外観,「ジェッタ」と
の称呼が生じ,特段の観念は生じないと認められる。この点について,原告は,日
本人は耳慣れた「ジェット」と紛らわしい他の語を知らないことから,「ジェッタ」
は「ジェット」と同様の意義かその派生語であるとの観念が生じると主張するが,
耳慣れない片仮名語に接したときに,必ずしもそれと発音の似ている語と同義ない
し派生的意義を有する語であると認識するとは認められないから,原告の主張は前
提を欠き,採用することができない。
ウそこで,原告商標の要部である「ジェット」と被告標章1の要部である
「ジェッタ」を比較すると,外観は,末尾の1文字が相違するにすぎないが,4文
字中の1文字の相違であることから相違点の占める比重は小さくなく,この相違を
軽視することはできない。また,称呼についても,同じタ行に属する音の相違では
あるが,3音中の末尾の1音の相違であり,同様にこの相違を軽視することはでき
ない。そして,観念は,「ジェット」が前記の意味を有する聞き慣れた語であるのに
対し,「ジェッタ」は,特段の観念を有しない,耳慣れない語であり,強く印象に残
るといえるから,大きく相違する。したがって,原告商標の要部である「ジェット」
と被告標章1の要部である「ジェッタ」が類似するとはいえない。
エまた,原告商標の全体である「抗菌ジェット」と被告標章1の全体であ
る「抗菌ジェッタ」を比較すると,外観は6文字中の末尾の1文字が相違し,称呼
は6音中の末尾の1音が相違することとなり,先に要部同士を比較した場合に比べ
て,相違部分の比重は低下する。しかし,観念では,原告商標が「細菌の繁殖を抑
制する液体が孔口から連続的に噴出する形態,噴出物,噴流」といった,抗菌剤に
関する一定のイメージを想起させるのに対し,被告標章1の観念は「細菌の繁殖を
抑制するジェッタ」で,「ジェッタ」が特定の観念を想起しない聞き慣れない語であ
ることから,その特異性の印象が大きく,観念において大きく相違する。そして,
前記のとおり,「抗菌」の部分に出所識別力が乏しく,全体観察をする場合でも,取
引者,需要者の注意は「ジェット」,「ジェッタ」により大きく向けられることも考
慮すると,原告商標と被告標章とは,その全体同士を比較した場合でも類似すると
はいえない。
オさらに,原告商標の全体と被告標章1の前記要部,原告商標の前記要部
と被告標章1の全体を比較してみても,これまで述べてきたことから,両者が類似
するとはいえない。
カ以上より,原告商標と被告標章1が類似するとは認められない。
(2)原告商標と被告標章2の類否について
被告標章2は,別紙被告標章目録記載2のとおり,左端部分には,角丸長方形の
枠内に小さな丸ゴシック類似の書体で「FBK」の文字が白抜きに配され,その右
側に大きく「抗菌ジェッタ」の文字(被告の主張によれば,AOTFフォークプロ
又はモリサワフォント・丸フォークというフォント)を配して成るものである。そ
して,このように「FBK」の部分が付加されている以外は,被告標章2は被告標
章1とほぼ同じ標章であるから,仮に「FBK」を度外視したとしても,先に(1)
で原告商標と被告標章1について述べたところと同様に,原告商標と被告標章2と
が類似するとはいえず,また,「FBK」を考慮した場合にはなおさら類似するとは
いえない。
(3)したがって,原告商標は被告標章と類似するとはいえない。
2以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官
田原美奈子
裁判官
林啓治郎
(別紙)
商標権目録
登録番号第4957649号
出願日平成15年9月5日
登録日平成18年6月2日
商品及び役務の区分
第5類
指定商品抗菌剤(工業用のもの及び洗濯用のものを除く。)
登録商標
(別紙)
被告標章目録


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