弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被申請人は、申請人を被申請人茨木支社に勤務する従業員として仮りに取扱い、且
つ申請人に対して昭和四二年七月九日以降毎月二〇日限り一ケ月金一〇、〇〇〇円
の割合による金員を仮りに支払え。
申請人のその余の申請を却下する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める判決
一 申請人
 被申請人は、申請人を被申請人茨木支社に勤務する従業員として取扱い、且つ申
請人に対して昭和四二年七月九日以降毎月二〇日限り一ケ月金六二、〇七〇円の割
合による金員を仮りに支払え。
二 被申請人
本件申請は、これを却下する。
訴訟費用は申請人の負担とする。
第二 事実上の主張
一 申請の理由
(一) 被保全権利
 被申請人(以下会社ともいう)は保険事業を営む相互会社であり、申請人は、昭
和三〇年三月に高等学校卒業後会社により内務職員として雇傭されて、福岡月掛営
業部(後の福岡月掛支社)に勤務して奉仕係と外務係の業務に従事し、昭和三五年
七月からは本店に転勤して振替収納課の記帳係と文書係の業務に、昭和三八年四月
より料金課集金管理係の業務にそれぞれ従事し、昭和四〇年四月からは茨木支社に
転勤して奉仕係長にそして昭和四一年四月には第一奉仕係長にそれぞれ任命されて
その業務に従事して来た者であり、後記解雇当時に会社から毎月二〇日限り一ケ月
平均金六二、〇七〇円の割合による賃金の支払いを受けていた。また申請人は、会
社従業員をもつて組織されている日本生命労働組合(以下組合という)の組合員で
ある。
 しかるところ、会社は申請人に対して、昭和四二年三月一八日に同年四月一日付
をもつて宮崎支社第一奉仕係長への転勤を命じ(以下本件転勤命令という)、申請
人がこれに応じなかつたところ、さらに同年六月五日付をもつて事故欠勤を理由に
一ケ月間の休職を命じたうえ、同年七月八日付をもつて、休職期間満了を理由とし
て解雇する旨の意思表示を為し(以下本件解雇という)、それ以降被申請人茨木支
社に勤務する従業員として取扱わないうえ、その翌日以降前記金額宛の賃金を支払
わない。しかしながら本件転勤命令は後述するように無効であり、したがつてこれ
に応じなかつたことを理由とする右休職命令およびその期間満了を理由とする本件
解雇もまた無効といわねばならない。
(二) 保全の必要性
 そして申請人は会社から支給される賃金を唯一の収入とする労働者であつて、会
社から茨木支社の勤務に応じて貸与されている代用社宅に妻P1と子供二人とともに
居住して生活しているところ、本件解雇により会社からは賃金の支給をたたれたう
え右代用社宅から退去するようにともせまられている。そして、現在では、妻P1が
会社に勤務して支給される賃金月額三五、〇〇〇円と「P2夫妻をはげます会」から
のカンパ月額一万円足らずをもつてもつぱらの収入とし、保険や住宅積立等を解約
し生活内容を極度に切りつめるなどして、申請人一家の生計を維持している状態に
ある。そのうえ、申請人夫妻は、婚姻の当初より子供を保育所に入所させて共働き
することを生活設計の基本理念としているところ、本件解雇のためにこれも覆えさ
れている。したがつて、申請人においては、被申請人茨木支社勤務の従業員たる地
位の確認と前記賃金の支払いを求めるべく本訴を提起せんとするところ、本案判決
による救済をまつてはその生活上計り知れない損害を蒙るおそれがある。
二 申請の一部不適法の主張(被申請人の主張)
 申請人は、会社との労働契約において、会社に対して労働の内容とその提供場所
を指定しまたそれを変更する権利を付与した。そして、本件転勤命令は、会社が右
権利を行使して労務の提供場所を変更したものにすぎないから、これをもつて申請
人の会社に対する労働契約上の債務の内容に何らの変更を生ぜしめたものではな
く、またこれをもつて意思表示と解することもできないから、それらに対して無効
確認を求める訴は不適法である。そうすると、申請の趣旨前段のうち申請人の勤務
すべき場所を被申請人茨木支社とする部分は、本案を欠く不適法な申請であるか
ら、その余の点につき判断するまでもなく却下すべきである。
三 申請の理由に対する答弁(被申請人の答弁)
 被保全権利に関する事実のうち、本件転勤命令・休職処分・本件解雇の各効力に
ついての主張は争うがその余は認める。保全の必要性は争う。
四 解雇事由の主張(被申請人の主張)
 被申請人が申請人を解雇した理由は、次のとおりである。
(一) 会社における人事異動
 会社は、大阪に本店を東京に総局を持ち、大阪・東京・名古屋・福岡と四つの営
業局を置くほか、全国各都道府県に一〇〇の支社と三つの分室、およびその傘下に
一、五四三の支部、九九の支所、二五一の分駐所を有する大企業であり、その従業
員は、内務職員一三、一六三名、医務職員一六三名、労務職員三九〇名、奉仕職員
三三四名、外務職員四四、六〇五名合計五八、六五五名におよんでいるところ、こ
の中でも事務部門を担当する内務職員特に男子職員については、次に述べる方針に
したがつて転勤を命じている。
 すなわち、人事管理は企業経営の要諦をなすものであるところ、ことにメーカー
ではない会社においては人材こそが最大の財産であつて、この従業員を適材適所に
配置してその能力を一層開発し且つそれを十分に発揮せしめ、さらには組織構成員
相互の関係を業務遂行上最も円滑な姿に維持せしめることが、会社にとつて最大の
経営課題となつている。しかるところ人事異動とは、本来企業内労働力をその職務
遂行能力に合わせた職位を与えて企業に必要な職階上の空席を補充するために行わ
れるものであるが、そこに要請されている機能にはこの本来の趣旨だけにとどまら
ず、そのほかの課題として、我国の労働事情では各企業が終身雇傭を前提とする雇
傭形態をとつているので、必要に応じて適材を社外から求めることは不可能に近く
企業内で人材を育成する必要があり、そのために将来の経営幹部や管理職要員を育
成すべく、計画的に各部門や同一部門内で異なる職務を順次経験させて「仕事を通
じての教育訓練」を実施すること、および、異動によつて一層職員の企業意識や勤
労意欲の昂揚をはかり、あわせてより高度の能力発揮を期待する「昇進のための人
事異動」、もまた要請される。
 かくして、会社においては、人事異動に対する右の課題や要請を果すべく、男子
内務職員を雇傭するにあたつてはすべて本店決裁とし、その労働契約においても社
命にしたがつてどこへでも転勤する旨の義務を負担せしめることとし、そして、前
述のごとく全国的規模の膨大な組織をもつ会社では、人事異動もそれだけ大規模に
わたつて実施されるのであり、またそのためにもこれを円滑にならしむべく従業員
の独身寮や社宅施設等は完備されている。
 そして、会社では、毎年四月に役付者につきまた毎年四月と六月に非役付者につ
きそれぞれ定期異動を実施しており、その編成の方法としては、当年度の業務計
画、各部門あるいは各支社における業績の実態、新規昇進対象者の選考、ライン・
スタツフ間のコンビネイシヨン等を勘案しながら、経営の中枢部にある部長支社長
級から順次下位役職者へと異動を編成してゆくわけである。そして、この業務上の
都合によることを基調にしたうえで、労働協約第一六条に規定されているようにさ
らに異動候補者の生活条件・能力等を公正に考慮し、且つ希望を参考にして、人事
異動を実施している。
 かくして、会社は、昭和四二年四月に右方針にもとづいて定期異動を実施し、そ
れにより役付者一、六七七名のうち課長級以上三七〇名、課次長級一〇八名、係長
級三三二名合計八一〇名にのぼる者が異動した。
(二) 申請人を異動させるべき業務上の必要性
 まず、宮崎支社側の事情として、昭和四二年四月の定期異動において、前年度外
務係長が大分支社外務主幹に栄転したのでその後任を補充することになつたとこ
ろ、当時同支社では外務員実働数が著しく増加して新契約の実績も顕著に向上する
状況にあり、そのため外務員の個別管理や市場管理がひときわ重要視されて、右外
務係長の選考条件としては同支社の実情に詳しいことが要請され、さらに同支社長
からの強い要望もあつて、同支社奉仕係長を外務係長に転任させた。また、同支社
奉仕係については、次回後保険料取扱件数と実働外務員数の増加にともなつて内務
職員も増員したところ、それが分割基準定数に達したのでこれを第一奉仕係と第二
奉仕係(奉仕係は次回後保険料の収納管理、契約内容の変更、契約者貸付、保険金
や解約金の支払等の事務を扱う。第一奉仕係は個別契約の次回後保険料の収納管理
事務を、第二奉仕係はその他の奉仕係の分掌事務を行う。)に分割したのである
が、そのうち第二奉仕係には係員も少いため慣例に従つて係長を内務課長に兼務さ
せることとし、第一奉仕係長を任用することにした。そして、この第一奉仕係長を
選任するについては、内務課長が総務係長の出身である関係から第一・第二奉仕係
長の経験者であること、および、一般に支社奉仕係長にはその土地の風俗・方言・
慣習等に明るいことが望ましく、そのため従来からも、出来るだけ同一地方出身者
をあてることにしていることを考慮することにした。
 つぎに申請人側の事情としては、申請人と同年度に入社した高校卒男子内務職員
は四九名おり、これらの者は前記人事異動方針にのつとつて各部門を順次経験しな
がら異動して来ており、しかもそのうちで転居をともなう転勤回数の二回以上にお
よぶ者が二九名に達しているところ、申請人においては、昭和三五年以降に本店五
年茨木支社二年の合計七年間を在阪勤務し、しかも入社以来一回しか転居をともな
う転勤をしていなかつたので、昭和四二年当時には転居をともなう転勤がなされる
時期にあつた。そして、申請人は、九州出身者であつて九州地方の支社に勤務した
経験も五年間あるうえ、本店では長年にわたり料金部門の業務に従事し、茨木支社
では奉仕係長として第二奉仕係長の分掌事務の処理にも従事したことがあるなど、
奉仕係長業務には豊かな経験を有していた。
 かくして、会社は、申請人を宮崎支社第一奉仕係長の最適任者と認めた次第であ
るところ、右業務上の必要性に加えて、さらに申請人の生活条件として夫婦共働き
をしている事情も勘案したのであるが、その点では後に詳述するごとく転勤を差控
えるべきほどの事情もないと判断されたので、申請人を右職務に任命することにし
た。
(三) 本件転勤命令と説得、業務命令および苦情調整
 そこで、会社は申請人に対して、昭和四二年二月二五日に茨木支社長を通じて四
月一日付をもつて宮崎支社第一奉仕係長に任命する旨を内示したところ、申請人が
これに応じようとしないためさらに茨木支社長同次長同内務課長において、二月二
七日に一回同月二八日から三月一四日までの間に三回と都合四回にわたつて転勤命
令には従うべきである旨を説得したのをはじめ、その後も何回となく説得した。
 こうして会社は、同年三月一八日に本件転勤命令を発したところ、それに対して
申請人は、同月二三日組合に対し苦情調整を申立て、同月二五日組合の職場調整委
員会がこれを却下すると、さらに組合の中央調整委員会に対し異議を申立て、同委
員会が異議を認めて職場調整委員会に差戻したので、四月七日に職場調整が行われ
て「本件転勤命令は正当」との決定がなされ、同決定は異議申立期間の徒過により
同月一八日に確定した。そこで、会社は申請人に対して、書面をもつて宮崎支社へ
赴任するように催告したほか、再三にわたつて赴任するよう命令した。しかるに、
申請人はこれらを無視して赴任せず同月二六日になつて前記決定につき中央調整委
員会に異議を申立てた。したがつて、本来ならばこれは申立期間徒過を理由に却下
されるべきところ、同委員会では特にこれを取りあげることとして同月二七日に付
議したが、同月二九日には本件転勤命令は正当との決定が出され、右決定は五月三
日に申請人に告知されたのであるが、申請人はなおも宮崎支社に赴任しなかつた。
(四) 休職発令と本件解雇
 しかるところ、会社の内務職員就業規則(以下単に就業規則という)には、第二
八条第二号「転勤を命ぜられた者はすみやかに新任地へ赴任しなければならない」
第二三条「業務外の傷病による欠勤は傷害欠勤として、私事による欠勤は事故欠勤
として取扱う」旨が規定されており、申請人が宮崎支社へ赴任しないでいるのは右
条項に該当するので、会社は申請人に対して、同月五日以降は事故欠勤として取扱
うこととし、その後同月八日にもかさねて赴任方を催告したが、申請人がそれまで
に会社から受けたたび重なる誠意ある説得や催告を無視してなおも宮崎支社に赴任
しなかつたため、右事故欠勤期間が一ケ月を経過した同年六月五日付をもつて、就
業規則付属規定第四休職規定第一条第二号(「事故欠勤引続き一ケ月以上にわたつ
た場合」には一ケ月間の休職を命ずることがある旨規定する)に基いて事故欠勤引
続き一ケ月以上のときを理由に休職を命じ、その際もかさねて休職期間中に宮崎支
社に赴任するように催告した。
 そして、その後申請人が宮崎支社に赴任しないままに右休職期間を満了したの
で、会社は申請人に対して、右休職期間満了を理由として解雇することとし、労働
協約第一五条第二項に従つて組合からの同意も得たうえで、同年七月八日付で本件
解雇を為したものである。
 以上述べて来たように、申請人においては、正当に発せられた本件転勤命令にし
たがつてすみやかに宮崎支社に赴任すべき義務があり、しかも、会社からは猶予期
間を与えられまた繰返し説得されたのにも拘らず、かたくなに右命令にしたがうこ
とを拒否し続けたものであるから、これを理由として出された休職命令および本件
解雇は正当である。
五 申請の一部不適法の主張に対する答弁(申請人の答弁)
 使用者が労働者に対して転勤を命じうる根拠は労働契約にあるところ、労働者の
勤務場所とは労働力の提供場所であつて労働者が負担する債務の履行地にあたるわ
けであるから、それは労働条件の重要な内容であるとともに労働契約の要素をなす
ものである。したがつて、労働者の勤務場所の変更を命ずる転勤命令は労働契約の
内容に重大な変更をもたらすものというべくそれは単なる事実行為ではなくて意思
表示である。
 そうすると、申請人には、本件転勤命令の効力を争点としてそれによつてもたら
されるべき、労働契約上の債務内容につき確認を求める利益がある。
六 解雇事由に対する答弁(申請人の答弁)
(一) 四・(一)(会社に於ける人事異動)記載の事実のうち、会社の規模と職
員数は認める。
 我国の企業においては、「仕事を通じての教育効果」を特に意図して、人事異動
は行われていない。生命保険業界においても、人事異動は必ずしも業務上の必要性
に基いて行われておらず、転勤が論理性や人事管理論からはずれて惰性的に年中行
事として行われ、その効果たるやはや企業コストや当事者の生活に対して大きな苦
痛を招来するだけのものになつている。
 そして、会社の内務職員の場合においても、その従事している業務は、建築課所
属の建築技師と保険経理員を除けばその職務を遂行するにあたつて特段の科学技術
や技術資格などを必要とせず、高等学校卒業程度の能力と一定の職務経験さえあれ
ば、誰にでも出来る普通事務の遂行にすぎないから、その要員には各部門にわたつ
て代替性に富んでいるということが出来るのであつて、それはまた人事異動の実態
が毎年定期的に各部門にわたつて広範囲な異動を行つていることや男子の場合には
高校卒ならば一〇年目、大学卒ならば五年目に殆んどの者が係長に昇進しているこ
とに照らしても明らかである。従つて、人事異動を行うについても各職員の個人的
事情以外には特に誰をどのような職務につけなければ業務にさしつかえるという事
情は考えられない。
(二) 四・(二)(申請人を異動させるべき業務上の必要性)記載の事実につい
ては、宮崎支社第一奉仕係長には特に申請人を選任しなければならない業務上の必
要はない。すなわち、同職には第一・第二奉仕係長の経験者をあてなければならな
いことを首肯するに足る理由は考えられないし(因みに、同支社前奉仕係長P3は本
店統計課より転出している)、しかも係長の業務が、直接に係業務を遂行するもの
ではなく、管理職として係員に対して、会社の方針にしたがつてその業務を管理し
さらにまた教育や人間関係の円滑化などの人事管理をすることが主な職務である点
にかんがみれば、かえつてその業務内容には各部門を通じての代替性が一般従業員
の場合よりも高いとさえ言える。また、支社奉仕係の業務としては、外務員が保険
契約者から集金して来た保険料を内部的に事務処理するものであつて、契約者と直
接接触する場合としては、窓口で保険金や解約払戻金の支払いおよび契約者貸付金
の支払い等を行うことであつて、長期間にわたつて一定の契約者と継続的に接触す
る場面はないから、奉仕係長に同一地方出身者をあてる業務上の必要性は考えられ
ないし、もし仮りにその必要性があるとしても、申請人は福岡県久留米市出身者で
あつて宮崎地方の事情には全くうといので、その点では適格性がない。
 このように本件転勤命令については、職務を遂行する上での業務上の必要性は低
いと言わざるを得ないのであるが、さらに被申請人の主張する人事異動論に見られ
る他の諸点についても検討してみると、同命令は従前と全く同種の職務を命ずるも
のであるから、「仕事を通じての教育訓練」との必要性は妥当していないし、また
昇進のための人事異動でないことも明らかであつて、あとは要するに、申請人は在
阪勤務が七年間となり、また入社以来転居をともなう転勤を一回しか経ておらない
こと、換言すれば「彼も七年になるから」との事由しか妥当しないことになり、本
件転勤命令がいかに安易な考え方に基いているかは明らかである。
 なお、会社が、いかに申請人個人の生活条件を考慮しておらないかについては、
後ほど詳述する。
(三) 四・(三)(本件転勤命令と説得、業務命令および苦情調整)記載の事実
のうち、被申請人の主張するように転勤の内示があつたこと、苦情調整の経過があ
つたこと、会社から申請人に対して再三にわたつて宮崎支社に赴任するよう催告さ
れたこと申請人が同支社に赴任しようとしなかつたことは認める。なお、被申請人
は四の(三)・(四)を通じて、会社が申請人に対して誠意ある説得を重ねた旨主
張するけれども、その説得たるや後述する如く単に会社側の見解を主張しただけの
ものにすぎなかつた。
(四) 四・(四)(休職発令と本件解雇)記載の事実のうち、被申請人主張の理
由によつて休職命令および本件解雇がなされた事実は認めるが、右休職命令につい
ては就業規則上の根拠を欠いているので、その点だけからもすでに無効であり、し
たがつてこれを前提とする本件解雇もまた無効である。
七 不当労働行為の主張(申請人の主張)
 本件転勤命令と本件解雇は、会社が、申請人夫妻において正当な組合活動を行つ
たことを嫌悪しこれを理由として申請人に対して不利益取扱を意図して為されたも
のであり、また申請人の組合活動を排除すべく為されたものであるから、労働組合
法第七条第一号第三号に所定の不当労働行為に該当するので、したがつて本件解雇
は、その前提となる法律関係あるいはそれ自体について無効と解すべきであつて、
いずれにしても解雇の効力は生じない。
(一) 申請人夫妻の活発な組合活動
1 (組合員歴)
 申請人は、(イ)福岡月掛支部において、昭和三二年五月から昭和三五年七月ま
で支部書記長、その間に一期を除いて代議員をつとめ、(ロ)本店地区会におい
て、昭和三六年五月から昭和三七年四月まで地区常任委員、厚生対策部長、教宣部
員、振替収納課職場機関紙「ふりしゆう」編集委員をつとめ、昭和三七年五月から
昭和三八年四月まで地区教宣部副部長、振替収納課支部委員、編集委員をつとめ、
昭和三八年五月から昭和四〇年四月まで地区委員長、中央委員、代議員をつとめ、
また昭和三九年五月からは全生保大阪支部委員長もつとめ、(ハ)茨木支部におい
ては、昭和四一年五月から茨木支部常任委員、調査部長をつとめた。
 申請人の妻P1は、昭和三四年三月に会社に雇傭されて本店振替収納課に勤務し、
昭和三八年一月に申請人と結婚して以後は大阪営業局に勤務する者であつて、活動
的組合員であり、昭和三五年四月には機関紙「ふりしゆう」編集委員を、昭和三六
年には本店地区婦人部常任幹事、同副部長をそれぞれつとめ、昭和三七年四月には
本店地区常任委員、労働強化対策委員、代議員に選出され、大阪営業局の職場では
職場委員をつとめている。
2 (組合本店地区会における活動)
 会社には従業員が約五万人おり、そのうちの四万数千人が組合員である。そし
て、その構成は内勤労働者一万数千人外務職員三万数千人となつているが、外務職
員については業務の性質上職場に定着する者が少ないうえ組合活動を積極的にすす
めようとする者はさらに少なくなるために、組合運動は内勤労働者である組合員が
中心となつて行われることになる。しかるところ、この内勤の組合員は、本店地区
会に約二、五〇〇名が集中しているほかは全国約一〇〇の支社と約一、五〇〇の営
業所に分散しているので、本店地区会はまず組合員数において組合内で重要な位置
を占める。つぎに、本店は会社の中枢部であるから、その経営政策もまずそこから
実施されてゆくのであつて、そこでは常に労使が最も緊張する対決点でもあり、し
たがつて本店地区会が斗つて得た成果は、たちまちにして組合全体の斗いに大きく
影響する関係にある。このように、本店地区会は組合全体の中で極めて重要な位置
を占めている。
 申請人は次に述べる如く、組合本店地区会(以下本店地区ともいう)における活
動に参加してこれを推進して来た。
(1) まず、その背後事情であるが、申請人の勤務していた本店振替収納課の職
場組織は、昭和三五年から昭和四〇年まで本店地区で最も組合活動が活発に行わ
れ、またそこでは戦斗的機関紙「ふりしゆう」が刊行されており、その中から多く
の組合活動家が育成輩出されていつたこと、および昭和三六年頃から金融労働者の
共斗会議が組織されて著しい発展を示し、特に、同年二月二三日の大阪金融共斗の
大統一行動が成功したが、それには組合本店地区委員会の積極的な働きがあずかつ
ていることが指摘される。
(2) 昭和三六年八月、会社は振替収納課に「のり付封かん機」を導入して、担
当係員の作業を単純化したうえ同課の人員削減をはかつたので、地区常任委員であ
つた申請人は、右合理化に反対する活動に参加してこれを指導し、とくに「ふりし
ゆう」によるキヤンペーンを強力に展開した。
(3) 昭和三七年三月、本店地区婦人部では「お茶くみ、雑用撤廃」斗争を展開
したが、地区常任委員であつた申請人は、これを助力し激励した。そして、振替収
納課の職制が「お茶くみ撤廃斗争をやめ、職制にはお茶をくむよう」業務命令を出
した際には、申請人は、職場集会を開催して同命令の不当性を糾弾し、さらには署
名運動を行つてこれを実質的に撤回させた。
(4) 昭和三八年二月、会社は、七〇七〇型電子計算機のオペレーター、プログ
ラマーについて、時差勤務制を提案した。申請人は、地区委員長に就任後この問題
に本格的に取組み、機械計算課における職場討議、本店地区全体での職場集会の開
催、ビラや討議資料の配布、地区委員会での討議、他企業労働者との連携等をつみ
重ね、粘り強く反対斗争を展開した結果、同年一二月に至つて会社は右提案を撤回
した。そしてこの斗争で要求を貫徹した結果、会社の合理化政策の一環は大きく破
られ、本店地区組合員達は「職場で討議して、そこで確認された内容を原則的に貫
けば組合要求は必らずかち取れる」との確信を得た。
(5) 昭和三八年四月、申請人は地区委員長に選出されると、組合運動方針を樹
立するため、全組合員の要求を結集すべくアンケートを実施した。
(6) 昭和三八年五月、組合員P4から会社に対して「育児休憩を始業直後三〇
分、終業直前三〇分使用したい」旨の要求があつたので、これを本店地区会の問題
としてとりあげた。申請人は地区教宣部長P5とともにこの要求を獲得する斗いを推
進し、各職場で十分に討議し、ビラを配布し、そして他企業労働者との交流も行つ
た結果、会社としてもこの問題を運営協議会で検討せざるを得なくなり、ついに同
年七月には右要求を認めるに至つた。そして、その結果として「育児休憩」を取得
することが著しく増加したのであるが、それでも各職場では職制がこれを制限して
ゆく動きがあつたので、申請人はそれには逐一抗議してその完全取得確保のために
斗つた。そして、この斗いは婦人組合員らを強く力づけ、その次の生理休暇取得斗
争へ発展する契機になつた。
(7) つぎに政治課題としては、昭和三八年六月二三日神戸における「米原潜寄
港反対六・二三統一行動」に組合員七〇名が参加し、同年七月「第九回原水禁世界
大会」には代表九名を派遣し、同年九月一日佐世保における「米原潜寄港反対十万
人集会」にも代表二十名を派遣し、さらに昭和三九年三月一日には組合員がビキ
ニ・デーのバツチをつけて業務に従事した。
(8) 昭和三八年九月に残業協定を締結するにあたつては、運営協議会に付議し
て協議を尽し残業時間の限度をさらに短縮したうえで更改した。かくして、それま
では形式的に更改されていた残業協定は、それ以降運営協議会に付議される慣行が
確立した。
(9) 昭和三九年三月八日から同年四月一六日まで、本店地区婦人部では第三次
生休月間を設定して一せいに生理休暇を取得する斗いを行つたところ、本店地区会
ではこれを強力に支援して教宣活動を展開した。
(10) 昭和三九年の春斗では、会社が職能手当新設を内容とする回答をしたの
に対して、本店地区会ではこれに反対して斗つた。
(11) 昭和三九年一〇月、会社が高島屋デパート地階内に「日生サービスコー
ナー」を新設してそこで勤務する従業員の労働時間をデパートの営業時間に合わせ
たことに対して、本店地区会では勤務時間の短縮、福利厚生施設の充実等を要求し
て斗つた。
3 (申請人の茨木支部における活動と樋口P1の組合活動)
 申請人は、茨木支部においても、支社という営業所が分散し且つ外務職員が多く
て組合活動を行うのに困難な職場であるにも拘らず、職場内での要求をとりあげて
地道に組合活動を続けたので、ようやく相当数の組合員の信頼を得るに至つてい
た。
 申請人の妻P1も組合の中心的活動家であつて、「ふりしゆう」編集委員として教
宣活動に従事し、「お茶くみ雑用撤廃」斗争では中心的推進役として、振替収納課
を中心として各職場の斗争を指導し、また労働強化対策委員としてはパンチヤーの
職業病問題と積極的に取組み、パンチヤー連絡協議会の運営と問題解決のために活
動し、大阪営業局に転勤後も組合活動には積極的に参加して来た。
4 (申請人の組合活動の特色)
 申請人は、このように堅実で活発な組合活動を行つており、その過程で秀でた指
導力、組織力、統率力を発揮したので、組合員からは厚い信頼を寄せられていた。
そして、申請人においては、個々の組合員が職場でいだいているさまざまの不満や
要求につき、それが身近であるゆえにまた基本的なものと考え、それを本店地区会
で積極的に汲み上げて組合がその解決に積極的にとりくむこととし、本店地区全体
の労働者をして団結によつて右要求実現をはかるべく斗いに立上るように方向づけ
て来たものであり、そしてかかる活動こそが労働者の階級的自覚を高めその団結を
一層強固にすると確信していた。また、申請人は、職場における諸要求や権利侵害
の原因が単に会社内部だけにとどまらず日本の政治のあり方とも深く結びついてい
ることを認識しており、その見地から政治課題とも積極的に取組み、組合員から圧
倒的支持を受けていた。けれども、このような組合活動のあり方は、従来の組合執
行部がおし進めていた活動や組合本部の活動方針とは違つたものであつた。
(二) 組合活動に対する会社の態度
1 (組合活動に対する会社の注目と嫌悪)
 前述のごとき組合活動を行つて来た本店地区会およびその活動を推進して来た申
請人ら夫妻に対して会社はつとにその動きに注目し、これを嫌悪していた。それ
は、会社側が組合および組合活動家に対してとつた一連の動きに照らしても明らか
であるが、昭和三九年一月四日付で会社勤労課が作成して各支社長、部課長に対し
て配布した「労働情勢報告書」の中には一層明瞭に記述されている。すなわち、同
報告書では「本店内の民青グループの動きについて」と題する項目を設け、
(イ)、申請人らの活動につき、「本店地区では最近特に従来の労使慣行にさから
つた、言葉をかえれば、本部とは違つたゆき方をとる事例が多い」旨特徴づけたあ
と、「中でも注目すべきは常任委員会に占める民青グループのウエイトであり、地
区委員会のそれに対する批判力の欠除ないしは無関心であろう」と、これに対する
憎悪感を吐露し、(ロ)、育児休憩生理休暇をはじめ職場から汲みあげられた諸要
求を実現すべく斗つたさまざまな権利斗争についても、最近特に権利拡大斗争が目
立つこと、組合内部での活動としては最も賢明な方策であること、育児休憩の獲
得、生理日の全員休暇や完全有給化等々の問題が他組合と相前後して「組合側から
提起され、それが住友生命であり、全損保であるところから、やはり民青グループ
の連携活動とみるのが至当のようである」旨指摘し、(ハ)、申請人らが本店地区
で行つた平和を守る斗いについても解説したあと、多岐にわたる活動のほとんど全
てが「常任委員会の名において行われており、ここにかれらの乗ずる隙がある。常
任委員会の名における民青同活動が、本店地区の質といえよう」と評価しており、
そこからは申請人らの活動に対する敵意が十分に認められる。
2 (組合活動家に対して会社からなされた排除、抑圧、不利益取扱等)
 かくして、会社は組合活動家に対して、まず頻繁に職場を異動させて、地域や職
場に定着した活動をすることを妨げあわせて組合員から信頼を得べき基礎を奪い、
さらに昇給昇格等において著しい不利益取扱いを行つている。つぎに、その事例を
あげてみよう。まず、申請人以外の者に関する事例には、
(1) (昭和三四年入社の高校卒男子内務職員の場合)
 会社では高校卒男子内務職員は、入社後八年で主任補に登用されるのが当然とさ
れ、右勤続年数において主任補にならないことは異例であるところ、標記該当者は
二一六名いるが、そのうちで標準者一九〇名は昭和四二年四月主任補に昇格し、そ
の際昇格しなかつた者は、病欠者五、六名を除いて労働組合活動の経歴を有する者
である。
(2) (P6の場合)
 同人は昭和三六年度本店地区教宣部長として活発に組合活動をしていたところ、
会社は、昭和三七年四月春斗で重要な役割を果していたさなかに大阪出身者である
同人を鹿児島支社に転勤させ、さらにその後久留米支社へ転勤させた。また、昭和
三一年入社の高校卒男子内務職員の標準者は、昭和三九年四月主任補に昭和四一年
四月係長に登用されたが、P6は同年度に入社し普通程度の健康で病欠や長欠が全く
ないのにも拘らず、いまだ主任補にも登用されていないという著しい差別を受けて
いる。
(3) (P7の場合)
 同人は、昭和三二年に入社し昭和三九年から昭和四二年まで東京総局、東京北支
社、世田谷支社に勤務し、組合では教宣部長、代議員、中央委員を歴任し、教宣部
長としてはビラを毎日配布する活動を行つて組合員の団結に大きな影響力をもたら
したが、会社は昭和四二年四月同人を新潟支社に転勤させた。しかも、会社では主
任補二年目の者につき研修所に入所させて講習会および終了社内試験を実施して係
長に登用することになつており、P7においても研修に参加し昭和四一年に社内試験
を受けているが、昭和四二年四月に一一四名中一一一名が係長に登用されたのにも
拘らず、病欠者以外には同人だけが係長に登用されなかつた。
(4) (P8の場合)
 同人は昭和三五年穿孔票作成課職場から組合の本店地区委員に選出され、パンチ
ヤー病に対する予防とパンチヤー病罹患者に対する保障措置を会社に要求していた
ところ、昭和三六年五月計算機械課に配転させられ、昭和三六年度には前述の「お
茶くみ雑用撤廃」斗争に参加して、所属職場でこれを積極的に指導したところ、昭
和三七年三月三一日付定期昇給において右活動を理由として五〇円の差等を設けら
れ、昭和三七年四月には本店地区会婦人部副部長に選出されまた七〇七〇型電子計
算機導入にともなう合理化反対斗争は各職場で盛り上つていつたところ、同年一〇
月関連事業課(職制が大半で非役付者は僅か二名)に配転させられ、昭和三八年に
は同婦人部長に選出されて、その頃激しく斗われていた育児休憩取得、生理休暇取
得、七〇七〇型電子計算機従事者の時差勤務制反対等の合理化反対・権利斗争に取
組んでいたところ、昭和三九年四月一日付で阪神支社へ転勤させられたうえ定期昇
給においても三五〇円の差等を設けられ、さらに同年五月には同支社管内では最も
遠隔で労働密度の高い宝塚支部に産後まもない時期に転勤するように命ぜられ、そ
してP8は産後を苛酷な通勤条件、保育事情、および、労働条件の中ですごすように
なり、ついに腰背痛により三ケ月間入院するに至つた。
(5) (本店地区会婦人部活動家に対する転勤)
 昭和三六年に婦人部では「お茶くみ雑用撤廃」斗争をねばり強く行つたところ、
会社は昭和三七年四月同部三役四名中部長を含む三名および常任幹事二名を在阪支
社へ転勤させ、昭和三八年に婦人部では生理休暇の有給化を要求して斗つたとこ
ろ、会社は昭和三九年四月同部常任幹事二〇名のうち部長、副部長、書記長を含む
一五名を転勤させ、これによつて婦人部執行機関は壊滅的打撃を蒙つた。
(6) (本店地区会活動家に対する配置転換)
 会社は、昭和三九年四月本店地区会のP9副委員長をはじめとする常任委員六名、
婦人部役員大多数、専門部員のほとんど全員を配置転換し、その結果本店地区会は
大きな損失を蒙つた。
つぎに申請人に関する事例には
(7) 会社は、昭和四〇年四月春斗のさなかに本店地区委員長たる申請人を茨木
支社へ転勤させたが、これが本店地区会より同人の組合活動を排除しようとしたも
のであることは明らかである。
(8) 大阪北支社(茨木支社の前身)では、支部長会の終了直後に某支部長より
「P2を組合三役に選ばないがいい」旨の発言があり、同年五月上旬頃の昼休み時に
は茨木支社長が申請人を昼食に誘つたため申請人不在の間に同支社内勤職員職場集
会が開催されて組合支部委員選挙が行われ、かくして申請人が委員に選出される機
会が奪われた。
(9) 昭和四二年四月の定期昇給においては、昇給額が前年よりも二〇〇円減額
されたのであるが、会社では前年度に比して勤務評定に著しい変化がない限り昇給
額も増額するのが常態となつており、また申請人については同支社における勤務評
定は前年度と変りなく、同支社長も「係長としての言動に不適当なものがある。仕
事については問題がない」旨言明しているのであるから、前記減額は申請人の組合
活動を理由とするものと断ぜざるを得ない。
(10) 申請人は、本件転勤命令が発せられたことに対して、生活権労働権を擁
護すべく斗争を開始し、労働者にビラを配布して右命令の不当性を強く訴えるとと
もに、さらに苦情調整を申立てた。そして、昭和四二年四月三日には中央調整委員
会より申立事案を職場に差戻す旨の決定が告知され、かかる場合には労働協約第五
一条に基く職場調整規則によれば、まず組合側の担当調整委員が会議して、職場代
表者との協議事項に取上げるか否かおよび協議を準備すべく審議することになつて
おり、同会議はもとより右担当調整委員が招集するわけであるが、会社は不法にも
翌四日にP10茨木支社次長をして右会議を招集せしめ、しかもこれには調整委員で
ある申請人を除外した。かくして、申請人が右会議の違法をきびしく糾弾したとこ
ろ、組合側担当調整委員はあらためて同月六日に会議を行つたのである。そして、
会社が違法をおかしてまで右苦情調整手続を早期に終結させようとした理由は、事
態の推移に委ねるならばかならずや申請人からの訴えかけに応じて職場に申請人を
支援する運動が高まるであろうことを恐れて、これを抑圧すべく行つたものであ
る。
(三) 本件転勤命令における支配介入性
 かくして、会社は、茨木支社より申請人の組合活動を排除して組合本店地区およ
び茨木支部における同人の影響力を断絶し、さらには組合活動家たる申請人につい
て後述の如き不利益取扱いを為し、よつて一般組合員に対してこれを見せしめとし
て組合活動家から離れしむべく、本件転勤命令を発したものであり、従つて、それ
は組合活動に対する支配介入行為である。
(四) 本件転勤命令における不利益取扱性
 そして、会社は申請人の組合活動を嫌悪してその報復として本件転勤命令を発し
たものであり、同命令は次に述べるごとく申請人に対して不利益をもたらすもので
ある。
1 (組合活動上の不利益)
 本件転勤命令が出されるまでに、申請人が茨木支社で勤務した期間は二年間であ
つた。そして、支社という職場は営業所が散在し、しかも外務員が多いという事情
にあるため、もともとが組合活動することの極めて困難なところである。そしてか
かる事情にある職場を二、三年毎にたらい廻しさせられたのでは、いかに活発な組
合活動家であつても職場の組合員と結びつくことは困難であり、しかもこうした基
礎作りがなされなければ堅実な組合活動を行うことは望むべくもなく、そのうえ職
務には慣れるいとまもないため能率の低下を招き、さらに再三にわたる生活環境の
変化は精神的肉体的苦痛をもたらすなど、組合活動は一層困難となろう。そして、
申請人は今後共活発に組合活動を行つてゆきたいと考えているものであるが、昭和
四一年度組合茨木支部常任委員をつとめて活動した結果組合員からは相当な信頼を
寄せられ、昭和四二年五月にはさらに上位役員の選挙に立候補するべく決意し、そ
の当選の可能性もあつた。したがつてここでふたたび同支社から他に転勤させられ
ることは、組合活動上著しい不利益を蒙る。
2(家庭生活上の不利益)
(1) 次に、本件転勤命令は、申請人の家庭生活を根本的に破壊するものであ
る。
 すなわち、申請人には、妻P1、長女P11(当時四年一〇月)次女P12(当時三
年)の家族があり、同居して平穏な家庭生活を営んでいたものであり、同夫婦は家
庭の生活設計の基本を「夫婦は共働きし、子供を保育所に入所させて生育するこ
と」において来た。そして、この既婚婦人が労働するということは今日の高物価低
賃金の社会情勢下では経済的必要を充たすため避けられないことであるが、それば
かりではなくてさらに既婚婦人も社会で労働してこそ、婦人に保障されている労働
権を全うし、婦人を解放してその社会的地位を向上させると共に、家庭でも夫婦が
家事育児を合理的に分担することによつて、民主的な家庭が築かれ、さらに子供に
は保育所生活を体験させることによつて規則正しい育児が行われまた社会性も豊か
になる、と考えているのである。そしてこの考え方は単なる申請人の嗜好ではな
く、婦人も男性と平等に基本的人権として労働権を保障されていること、および労
働需要としても国家経済や企業が婦人の労働を必要としており、そして夫婦共働き
が社会的にも一般化している現状を直視すれば(会社では内務職員の約一〇%が共
働きしていると推定され、また我国の婦人労働者中六九・九%が既婚もしくはその
体験のある家庭婦人である)、既婚婦人の労働には社会的価値が認められて然るべ
きであり、また他方で家庭が社会の自然かつ基本的な集団単位として国家や社会か
ら保護せられるべきことを考えあわせると、国家や企業には、妻や母が労働する為
に必要な条件なかでも家庭と職場を両立維持せしむべく条件を整える責任、換言す
れば、共働き家庭を保護する責務があるというべきである。そして、会社において
も労働協約第一四条に人事権の行使について「本人の生活条件を公正に考慮する」
旨定めているが、共働きであることはこの生活条件に含まれるから会社が従業員を
人事異動するについては右事情を考慮しなければならず、したがつて異動該当者に
おいて共働きするのに支障を生ずるような人事異動を行うことは(それが協約の右
条項に違反するかはさておいても)当然に不利益処遇となる。そして、この生活条
件は、業務の必要性とは別個独立に考慮されるべき対象であるから、たとえ業務の
必要性が大きかつたとしても右結論にはかわりがない。
 そして、加えて現実には、社会や企業側が共働き家庭を保護するだけの条件を整
えておらないから、申請人の理念とする家庭を築き上げることは極めて至難であ
り、非常な努力を要しているのである。そのことは、会社では既婚婦人労働者の四
分の三が婚姻後二年未満で退職している事実からも窺われるが、申請人の家庭にお
いても、妻P1が婚姻後会社大阪営業局に勤務して共働きを続けているが、保育所事
情がきわめて悪いためこれまでは子供の預り先を捜しまわる苦労の連続であり、こ
れを克服して二人の子供を自宅附近にある高槻市立の保育所に入所させられたのは
昭和四一年一二月であつてその時にやつと懸案となつていた家庭像を築き上げるた
めの客観的事情がととのつたわけであり、しかも共働き家庭が成立つためには夫婦
は緊密に分担協力することが必要であるが、申請人らはこれを十分に実行して来た
だけでなく、さらに在阪の友人達やP1の実家からも多くの支援を受けて、苦心の末
に今日ある家庭を築き上げたのである。しかるところ、本件転勤命令は申請人夫婦
に対して「夫と妻子との別居」か「P1の退職」かのいずれか一方を選択するように
迫るものであり、そしてこれによつて、申請人夫婦が努力を重ねて困難な社会条件
に打ち勝つて築き上げて来た家庭をやつと客観条件も整つたところで一挙につき崩
すものであるから、その実質的な不利益性は著しく重大である。以下右二点につき
述べる。
(2) まずP1が会社大阪営業局に勤務し、子供を高槻市立の保育所に入所させる
態勢を続ける限り、申請人は宮崎支社に単身赴任せざるを得ず、その結果妻子とは
別居しなければならなくなる。しかるところ、夫婦親子が同居して家庭生活を営む
ことは最も自然の権利であつてそれが保護せらるべきは当然であり、これを侵害さ
れることは何人においても精神的肉体的に著しい苦痛になる。そして、これに加え
て申請人における事情で考慮されるべきものをあげると第一には、前述のように共
働き家庭は夫婦の緊密な協力によつてはじめて維持されるものであり、申請人夫婦
においてもこれを実行して来たところ、今後夫婦が別居することになれば子供二人
の育児はもつぱらP1がこれにあたらなければならなくなり、そして会社勤務に加え
て家事労働を妻一人で負担するのはあまりにも労働過重となること、第二には、申
請人の転勤にともなつて現在の代用社宅を明渡して妻子が居住するための住居を求
めなければならなくなり、それに加えて世帯を二重に持つことは経済的負担を著し
く増加させること(出費は従前の倍額以上になろう)、第三には、かかる苦痛に対
してはたとえば別居手当の支給等のこれをやわらげる処置さえもとられないばかり
か、大阪と宮崎はきわめて遠隔地であるのでその時間的経済的損失を考えると、申
請人と妻子とは面会することさえもほとんどできないことである。
(3) しかして、申請人夫婦においてかかる苦痛を免れようとすれば、P1が会社
を退職して宮崎に同行しなければならないことになるが、これは夫婦別居という重
大な生活利益の侵害を手段としてP1に退職を強いるものであり、その意味ではP
1の「労働権」さらにこれを限定すれば「共働き権」を侵害するものである。そし
て、この共働き権ないしは共働き家庭の保護が保障せらるべき意義は前述したとお
りであつて、要するにこれは、婦人にも基本的人権として労働権が保障されており
社会経済上も婦人の労働を必要としていることおよび家庭の保護に根拠をおくもの
であるから、たとえ当該家庭では夫のみの収入によつて生計が維持できる事情があ
つたとしても、それからただちに妻の労働権を否定することはできない。
 しかも、申請人夫婦がこれまでに築き上げた家庭環境を解体して、宮崎に転居後
これを再建することは実に至難なことであつて、まずP1が再就職するについても、
幼い子供をかかえた既婚婦人の就職することがいかに困難であるかは容易に想像さ
れるし、また仮りに就職先があつたとしても年功序列賃金体系が支配的である我国
の企業事情に照らせばそこで受ける経済的不利益はきわめて大きいし、そのうえ新
らしい職場で新らたな労働に従事することによつて蒙むるべき精神的苦痛は言語に
絶するものがあり、さらにまた保育所事情の悪さを考慮すれば二人の子供を宮崎で
保育所に入所させることが極めて困難であろうことも、容易に推測される。そし
て、子供をかかえた婦人が、職業安定所で求職する場合にはその前提として子供を
他に預つてもらえることの証明を必要とするのであるが、他方保育所に子供を入所
させるためにはその前提としてすでに就職していることの証明を必要とする、とい
うジレンマがあつてこれが前述の不利な状況に一層拍車をかけるばかりではなく、
このような苦労を重ねて家庭を再建したところで、申請人には会社から再び転勤を
命ぜられるかも知れず、そうなればその努力も一朝にして水泡に帰してしまう。
八 思想信条に基く不利益取扱の主張(申請人の主張)
 本件転勤命令は以下で述べる如く思想信条に基く不利益取扱にあたるので無効で
あるところ、これに応じなかつたゆえをもつてなされた休職命令は無効であり、し
たがつてそれらの有効を前提とする本件解雇もまた無効である。
(一) 会社は共産主義を嫌悪し、その思想を抱いていると考える「共産党員、民
主青年同盟員、もしくはその同調者」(以下民青同盟員等という)に対し、さらに
は組合活動家のうちでも階級的自覚のもとに民主的階級的労働組合の実現をめざし
て職場に基礎をおき地道に組合員一人一人の要求をとりあげて活動する者には民青
同盟員等とのレツテルを貼つてこれらの者に対し、いずれもその活動を敵視して日
常的に組織的な情報収集活動を行い、これを監視し抑圧してゆくとともに、特にそ
の影響力が組合運動にまでおよぶのを警戒してこれを防止すべくあらゆる手段を講
じて来た。そして、この会社の態度は、基本的に前述した労働情勢報告書の中に集
約されている。
(二) 労働情勢報告書について
 この文書は昭和三九年一月四日会社勤労課によつて作成され各支社長、部課長に
配布された報告文書であつて、表題部左肩には「厳秘」の二字が記されているもの
であるが、その内容に徴すれば会社が日常的に組織的な情報収集活動を厳密に且つ
精力的に行つていたことが明らかである。たとえば、会社が、全生保定期大会の詳
細な内容を知つていたり、組合中央執行部において発行し限定的に配布された文書
を入手し分析しているなどの事実である。
 そして、そこで記載されている内容としては、まず「全生保定期大会概況」につ
き、反執行部勢力の動きや現況、組合においても若年内勤層に相当強く反執行部的
態度が見られるうえ、好ましくない動きとして東京月掛の二地区の大部分では支部
委員長に代理して若年内勤が出席していること、「組合内における政治活動につい
て」として、アカハタに本店地区の活動と思われる記事が報道されたように組合内
にも共産党細胞や民主青年同盟(以下民青同ともいう)の活動があること、を指摘
したあと、「本店内におけ民青グループの動きについて」と題する項目において
(一部既述)「民主青年同盟員あるいはその同調者と目される者は地区委員長をは
じめ常任委員半数以上を占めておりその方向は推して知るべしである。そしてこれ
を批判すべき立場にある地区委員会は上記の如き構成であるため、さしたる反対意
見もなく地区会の決定として本店組合員全員の意思であるということになつてい
く。(中略)婦人部においても全く同様のことが言える。」「常任委員会の名にお
ける民青同活動が本店地区の質と言えよう」と記述されている。そして、そこでは
会社の憶測にもとづいて、民青同盟員等の活動が克明に分析されて問題点が指摘さ
れ、警告が発せられている。
(三) 会社の情報収集活動の事例
1 昭和四二年八月二六日東区の母親大会があつた際勤労課のP13外一名が会場附
近の電話ボツクスの陰から大会参加者を写真撮影していた。
2 大阪府警などの官憲とも緊密に連絡をとつて、組合員の動向をスパイしてい
る。たとえば、大阪府警では会社の人事要職者を呼びつけて、デモ行進に組合員が
参加している状況を撮したフイルムを映写して、参加者を指摘した。
3 昭和四二年六月五日水戸支社で係長以上の役付者の定例打合会議が行われたと
ころ、同支社次長P14は「係長以上の役職者は係員の動静を充分にさぐること、特
に組合活動家などから電話がかかつて来た場合には、本来なら盗聴機がほしいとこ
ろだがそうもゆくまいから、聴き耳をたてて注意し情報を得るように努めなければ
ならない」旨発言しているが、これは会社の人事要職者において、かかる方法によ
るスパイ活動を行うように積極的な指導をしていることを窺わせる。
4 会社では、専門の調査員をおいて、入社希望者に対して事前調査カードに「労
働運動の有無と政治運動の有無」とのゴム印を押捺して(他の調査事項は印刷済)
思想等を調査させている。そして、かかる専門の調査員が、社員の思想等を入社時
だけ調査するとは限らないことも、想像に難くない。
(四) 会社職制における組合活動への干渉やアカ攻撃等の言動
1 京阪支社において
(1) 昭和四一年一〇月頃、組合員が組合本部発行のステツカー「労働協約を守
つて明るい職場」「労働強化絶対排除」を組合掲示板に貼つたところ、P15次長ら
が後者をはがせと要求し、それが応ぜられないと見るやこれを二つ折にして裏返し
た。
(2) 組合では、営業支部に従来は二人配属されていた内勤職員が一人減らされ
そうになつた問題をとりあげたところ、P15次長は「誰が組合にこのような問題を
とりあげるよう要求したのか」と探索するいやがらせをした。
(3) 昭和四二年二月初頃、内勤職員の朝礼で組合員が、日本の賃金状況や物価
値上げの現状を述べて春斗には賃上げしてほしい旨言つたところ、P15次長がただ
ちに出て来て「日本生命にあてはまらないことを言つてみんなを引つぱろうとする
のは共産主義分子のいうことだ」と公言して思想攻撃した。
(4) 同年三月には、支社における入社式でP15次長は新入職員に対して、「民
青というのを知つているか。この支社には民青がいる。仕事はよくするが、機会を
みつけて話しかけたり誘つて来たりするので、民青に入らないように注意しろ」と
述べた。
(5) 同年四月一日には、支社長送別会(内勤、幹部全員出席)で支社長は「私
も、むかし組合活動をしていた。組合活動をするのはよいけれども、外部団体とか
かわるのはよくない。具体的には民青同というものだ。ここの支社にもいるようだ
が注意せよ」と述べて、組合の自主性や思想信条等に対して干渉した。
2 難波支社において
(1) 内勤職員の朝礼で某係長は、民青同や共産党に関する悪意にみちたデマ宣
伝の載つている週刊紙を読み上げ、「この支社にもそういう団体がいるから近づか
ないように」などと訓示した。
(2) 組合員が年次休暇を利用してスキーに行こうとしたところ、前記係長は
「外部の団体と一緒に行つてはいけない。三人で一緒に行くのはいけない。」など
と言つて休暇を承認せず、また組合員がハイキングその他の催物に参加すると、翌
日次長から呼出しを受けてその内容や参加者氏名を問いただされた。
(3) 昭和四一年四月には、組合員二名が定期昇給に差等を設けられたので事情
をきいたところ、次長は、その合理的理由を明示しないで「胸に手をあてて考えれ
ばわかつているだろう。皆んなと同じような行動をとつていればよいのだ。会社に
対して不利益になるような言動をした。」などと言つたほか、右二名によつて民主
青年同盟への入会を勧められた者が、悩みぬくのあまり会社の業務さえ手につかな
いでいるなどと嫌味を言つた。
(4) 次長は、女子組合活動家に結婚祝金を支給するに際して、「結婚後は権利
のみ主張せず、女として尽さなければやつてゆけないことが身にしみるだろう。」
などと言つて、同人の生活信条の変更を迫つた。
さらに会社は、本件転勤命令を発した後には、労働者が申請人の主張に共鳴してこ
れを支援する運動の高まることを特に恐れて、これを抑圧すべく言動している。
3 茨木支社において
(1) 同支社従業員においては申請人を支援する団体で「千羽鶴」というビラを
発行しているところ、昭和四二年四月二〇日同支社補佐会議(支社幹部、支部長、
支部長補佐で構成)で支社長は「千羽鶴というのがばらまかれている。書いている
奴もけしからんし、読む奴もけしからん」と言い、翌日の各支部の朝礼では右談話
が従業員に周知されている。
(2) 同月二四日昼休みには「千羽鶴」(第三号)が奉仕第一・第二係員の机上
に配布されたところ、これを発見した次長は回収してまわつた。
(3) 同年五月一一日に「ほづみ会」(同支社内勤職員による親睦団体)の主催
したパーテイで職制のP16は千羽鶴の発行関係者を探知すべくそれと憶測したP
17、P18に対して「お前らはそんなに共産党が好きか」とか、P19、P20に対して
「言いたいことがあつたら言うたらどうや」など、と話かけた。
4 京阪支社において
(1) 昭和四二年四月下旬頃、女子職員同年会では近隣会社の青年達と六甲山へ
ハイキングに行つたが、翌日P21課長は参加者の一人を呼出して「何故私に相談し
てくれないのか。その団体が安心できるか判断してあげるのに。交流などをすると
民主青年同盟員がいるので危険だ。」などと言つたうえ、「P2という人を知つてい
るか。あの人は自分では九州へ行つてもいいんだが、組織が行かさないかわいそう
な男だ。民青とはそんなところだ。」などと虚偽を述べて申請人の孤立をはかろう
とした。
(2) P22は、同年六月二日に行われる本件仮処分申請事件の審理を傍聴するた
めに、同年五月二九日P23主任に対して右期日の休暇届を理由を明示したうえで提
出したところ、同主任は同日にはこれを許可しながら同月三〇日になつて右期日は
残業予定と通知され、そして翌三一日には課長から「二日は忙しく休める状態では
ない。君が必らず行かねばならない理由はない」と前に与えた許可を取消してまで
裁判の傍聴を妨げた。またさらに、同年六月六日には次長が同人を呼出して「君の
考えはP2君の考えと同じだ。考え方は自由だが、共産主義のような考え方の人は会
社にとつて困る行動をするから、勤務評定等で問題にされることはある」などと、
約二時間にわたつて詰問した。
(五) 民青同盟員等と目される者に対する会社の不利益取扱
 かくして、会社はこれらの者に対して、その活動を抑圧しまたその影響力を排除
すべく、昇給昇格においては差別を与え、職場ではアカ攻撃を加えて一般組合員か
らの孤立をはかり、さらには配置転換と転勤をくり返して、経済上および組合活動
上で不利益取扱をするとともに、あわせてこれをもつて他への見せしめとしてい
た。
(六) 申請人に対する不利益取扱としての本件転勤命令
 会社は、申請人夫妻を民青同盟員等であると憶断して、その対策に苦慮してい
た。すなわち、前述したように申請人は昭和三八年五月から昭和四〇年四月まで組
合本店地区委員長に就任して画期的な活動を行つたのであるが、労働情勢報告書に
よれば、この申請人の組合活動にこそまさしく民青同としての活動があると考え、
なんとかしてその影響を断つて申請人らを中心とする組合執行部を解体させるべ
く、腐心していたことは明らかである。そして、会社は、その目的を達するべく組
合役員に対する大量配転攻勢をかけ、まず婦人部活動家よりこれを始めて昭和四〇
年四月に申請人を茨木支社に転勤させることをもつて、所期の目的を遂げ一応しめ
くくつた。したがつて、まずは右転勤が思想信条にもとづく不利益取扱であること
は明らかである。
 しかるに、会社は申請人を茨木支社に転勤させたあとでも、なおも安心できずに
その周囲を監視し続け、つぎは大阪附近から放逐しようとその機会をうかがつてい
た。そして、この点は前記報告書では、本店地区から支社に行つた活動家に対して
は、白紙の組合員にすぐ影響を与えやすいからくれぐれも注意せねばならない旨述
べられており、また、昭和四一年八月には某支社係長会(次長、外務主幹、係長で
構成)で、「茨木のP2というのが民青の指導をしている。もし茨木から電話がかか
つて来たら注意せよ。」との申合わせがなされていること、からも明らかである。
そして、申請人においては、昭和四一年には組合茨木支部常任委員をつとめて活発
に組合活動した結果相当な信頼が集まり、昭和四二年五月にはさらに上位役員の選
挙に立候補すべく決意し、またその当選する可能性もあつた。
 しかして会社は、かかる状況を察知して申請人が茨木支社に転勤させられていま
だ二年間にしかならないのにも拘らず、その思想信条を嫌悪しまたそれが本店地
区、在阪支社所属組合員に与える影響力をおそれ、同人に対して報復的に不利益な
取扱いをなすとともに、もつて他への見せしめとしまたその思想的影響力を排除す
べく、前記七・(四)の1・2で述べたような不利益を課しさらに大阪附近からの
放逐をも意味する、本件転勤命令を発したものである。そして、右命令は、これに
よつて同じく民青同盟員等と目されていた申請人の妻に対しても、前述のごとく退
職を強いることによりその思想的影響力をたち切ろうとしたものである。
 したがつて、本件転勤命令は、申請人に対してその思想信条にもとづき不利益取
扱いをするために発せられたものであるから、憲法第一四条労働基準法第三条に違
反して無効である。
九 労働協約第一六条違反の主張(申請人の主張)
 本件転勤命令は、労働協約第一六条に違反して無効であるので、その有効を前提
とする本件解雇も無効である。
(一) 労働協約第一六条の趣旨
会社と組合との間に締結されている労働協約には、つぎのような人事条項が定めら
れている。
第一四条(人事権行使の原則)
1 会社は人事権の行使については適正且つ公平に行う。
第一六条(組合員の異動)
 会社は、組合員の人事異動を行う場合には主として業務上の都合による外、本人
の生活条件、能力等を公正に考慮し、且つ本人の希望を参考にする。
 そして、右規定の趣旨は、人事異動が本人のみならずその家族全員の生活に重大
な影響をおよぼすことにかんがみて、会社の恣意によつてみだりに異動させられな
いように、組合員に対して保障したものである。したがつて、これは労働者におい
て労働条件を変更されないことを要求する権利を認めたものであり、また会社が業
務上の都合によつて行使する人事権を労働者の個人的条件によつて拘束しようとす
るものであるから、労働者の生活権保護の枢要をなすものとして、労働者側に有利
に解釈されるべきである。しかして、この本人の生活条件等の考慮は、業務上の必
要性と別個独立に考慮すべき対象として考えるべきであつて、業務上の必要性の多
少により影響されてはならない。そしてまた、この「考慮」「参考」というのも、
現実に考慮ないし参考にしなければならないのであり、しかもその対象事項である
本人の生活条件、能力、希望等については、事前に調査しておくだけでは足らない
のであつて、異動の都度その該当者から直接に確認されなければならない。したが
つて、労働契約に「全国どこへでも転勤する」旨を定めたところで、それは労働協
約の右条項に違反して無効である。
(二) 本件転勤命令の協約違反
 まず、会社には、申請人について本件転勤命令を発すべき、業務上の都合がない
ことは、前記六の(一)・(二)で述べたとおりである。
 つぎに、申請人の生活条件や希望に対して、会社がどのようにこれを考慮ないし
参考としているか、について述べる。会社では、これらの従業員に関する諸事情を
聴取する方法としては、従業員から身上調査票を提出させるにとどめているのであ
るが、同票では所定事項に〇印をつける方法で「(A)転勤不可能(B)転勤不可
能の事情はない」のいずれかを選択して回答する形式となつているので、従業員と
してはいろいろな事情があつて転勤を希望しない場合であつても心理的圧迫を受け
るのあまり、意に反して(B)を選択せざるを得なくなるのが人情であるから、こ
のやり方でもつてはたして従業員の生活条件や希望が、実質的に聴取されているの
か疑問であり、この点でもすでに会社は労働協約の前記条項につきこれを空文化す
る運用を行つている。そして、申請人は、昭和四一年五月に提出の身上調査票では
「転勤不可能な事情はない」を選択しながらも「転勤したいとは思わず」と回答
し、同年一一月に提出した身上調査票では「転勤不可能」を選択したうえ、その理
由として共働きや保育所関係等の事情を具体的に記載しており、さらにまた申請人
は夫婦ともに会社に勤務しているのであるから前記身上調査票の記載と右勤務事情
のもとでは、会社においては申請人を転勤させるにつき考慮し参考とすべき同人の
生活条件や希望等が、明らかになつていたはずである。そして、この申請人におけ
る生活条件の事実関係や法的性質(ことに保護せらるべき理由やその度合)および
本件転勤命令がこれに対しておよぼす影響等については、前記七・(四)・2の
(1)ないし(3)で述べたとおりである。
 しかるに会社は、本件転勤命令を発するにあたつて申請人夫婦が共働きしている
事実を知つておりながら、協約所定の「生活条件」には本人および家族の病気ぐら
いしか該当しないとか、共働きの場合に限つて夫の転勤を制約すればそれ以外の従
業員との間に不公平不均衡を生ずるからかえつて共働きを考慮すべきでないとか、
また夫の転勤と夫婦共働きとの矛盾の問題などはせいぜいのところ生計に支障がな
ければ妻が退職して解決すればよい、などと称して申請人夫婦が共働きしているこ
とをあえて考慮しようとはしなかつたのである。そして、会社は、申請人夫妻に対
して何ら事前に相談することもなく、突然天下り的に転勤命令を内示し、さらにそ
の後行われた説得においても、「共働きのゆえをもつて転勤を拒否するなどという
ことは社内常識として通用しないから、宮崎へ赴任すべきである」という会社の主
張をくりかえしていたにすぎず申請人と話合つてその生活条件を考慮し希望も参考
にして、本件転勤命令についても再考しようとする態度はみられなかつた。またさ
らに、会社は、全国的規模にわたつた広汎な営業所組織を有しているのであるか
ら、申請人夫妻の生活条件を考慮する方法として、たとえば宮崎で夫婦が同居して
共働きすることができるように、申請人のみならず妻P1も宮崎支社ないしその近在
支社に転勤させることも容易にできたはずであり、現に会社でも昭和三四年と昭和
三七年頃に父子で勤務していた場合に、父親の転勤にともなつて娘も近在の支社に
転勤させた例があつたのにも拘らず、会社は申請人の家族生活を根本から覆えす影
響さえもつ本件転勤命令を発するにあたり、かかる処置をとろうとの考慮をはたら
かせないで、当事者の意向を全く無視して経営目的ばかり強行するのは、労働関係
を規制する信義則にも反する。
 しかして、本件転勤命令については、業務上の都合もないこと、申請人の生活条
件や希望を全く考慮したり参考にしておらないこと、申請人の生活条件や転勤によ
る影響等は前記七・(四)・2の(1)ないし(3)記載のとおりであつて、これ
を正当に考慮すればとても申請人を宮崎に転勤させるべきでないこと、会社の人事
権行使は信義則にのつとつていないこと、等の事情が存在するから、労働協約第一
六条に違反して無効である。
一〇 人事権の濫用の主張(申請人の主張)
 たとえ、本件転勤命令が労働協約に違反しないとしても、これまで述べて来た事
情を総合すれば、右命令は会社の人事権の濫用にあたることが明らかであるから無
効であり、したがつてそれが有効に為されたことを前提とする本件解雇もまた無効
である。
一一 不当労働行為の主張に対する答弁(被申請人の答弁)
 本件転勤命令は、前述のごとく業務の必要性にもとづいて為されたものであつて
不当労働行為を意図したものではない。
 ちなみに、会社は前記巨大機構の内部で毎年多数の職員を異動しているものであ
るから、その中で何人かは組合役員が含まれても当然であろう。そして、昭和四二
年度の異動においても、申請人と同程度以上の組合役員である支部常任委員四六名
が対象となつたが、これらは全員なんら問題を起すことなく転勤しているし、また
右該当者は昭和四一年度四四名、昭和四〇年度六〇名とその例も多いが、いずれも
転勤に応じている次第である。
 要するに、本件転勤命令は定期異動の一環としてなされたものであつて、他の係
長級異動と比較してもなんら差別的取扱いではなく、中央調整委員会では組合自身
が同命令と申請人の組合活動は関係ないと認めているのである。以下、分説して答
弁する。
(一) 七・(一)(申請人夫妻の活発な組合活動)記載の事実について
1 同1(申請人らの組合員歴)のうち、申請人が、福岡月掛支部において昭和三
二年五月から昭和三三年四月までと昭和三四年五月から昭和三五年四月までの各一
年間支部書記長、昭和三三年五月から昭和三五年四月まで代議員をつとめたこと、
本店地区において、昭和三六年五月から昭和三七年四月まで地区常任委員、厚生対
策部長、昭和三八年五月から昭和四〇年三月まで地区委員長、中央委員、代議員、
その間昭和三九年五月以降全生保大阪支部委員長をつとめたこと、茨木支部におい
て、昭和四一年五月に支部常任委員に選出されたこと、樋口P1の職歴、結婚、およ
び同人が昭和三七年四月に本店地区常任委員、労働強化対策委員、代議員に選出さ
れたことは認めるが、その余の事実は争う。
2 同・2(組合本店地区会における活動)について
 前文および(1)は争う。
 (2)のうち、会社が同課総務係総務班に作業の便宜をはかつてのり付封かん機
(自動封入機)を導入したことを認め、その余は争う。
 (3)のうち、本店地区婦人部の中に「お茶くみ雑用撤廃」を主張する動きのあ
つたことは認めるが、その余は争う。この問題に対しては、男子社員からの反対が
強く、むしろ組合内部の問題として討議されたのであつて、会社としては、社外者
と課長以上の職制にはお茶をくむよう業務命令を出して、処理したにすぎない。
 (4)のうち、申請人主張の頃会社が七〇七〇型電子計算機業務の従事者につき
時差勤務を提案し、その後これを撤回したことは認めるが、その余は争う。会社が
時差勤務制の採用を考えたのは、右計算機の導入にともなつて課員の残業時間が増
加したのでその解消をはかつたからであり、その後は計算機に付属装置がついて能
率が急上昇したため課員の残業もなくなり、したがつて時差勤務制を採用する必要
もないので右提案を撤回したにすぎないのであつて、組合からの激しい反対にあつ
てやむなく実施を見合わせたのではない。
 (5)のうち、申請人がその主張の頃本店地区委員長に選出されたことを認め、
その余は争う。
 (6)のうち、P4から要望のあつた育児休憩に関して会社が組合と協議したこ
と、その当時P5が本店地区教宣部長であつたことを認め、その余は争う。当初P
4が、育児休憩を午前午後の分をまとめて終業前に一時間取りたい旨申出たので、所
属長が右休憩に関する規定の趣旨に照らして昼休みを挟んで前後三十分宛取つたら
どうかと提案した結果その後に始業直後三〇分終業直前三〇分取ることで結着した
ものであつて、申請人らが組合活動の一環としてかち取つたものではない。
 (7)は知らない。
 (8)のうち、昭和三八年一一月以降の残業協定が概ね運営協議会に付議されて
いることは認めるが、その余は争う。
 (9)のうち、本店地区婦人部の中に生理休暇取得を推進する動きのあつたこと
は認めるが、その余は争う。
 (10)のうち、昭和三九年二月会社が給与改正の交渉にあたり、組合に対して
職能手当新設を提案したことは認めるが、その余は争う。
 (11)は認める。
3 同・3(申請人の茨木支部における活動と樋口P1の組合活動)は争う。
4 同・4(申請人の組合活動の特色)は争う。これまでに申請人が活発な組合活
動を行つて来たと主張する事実はすべて些細な事柄であり、独り申請人が過大評価
しているにすぎない。
(二) 七・(二)(組合活動に対する会社の態度)記載の事実について
1 同・1(組合活動に対する会社の注目と嫌悪)のうち、申請人の主張するよう
な文書が作成されたことは認め、その余は争う。会社は、申請人が本店や在阪各支
社勤務の職員に対して、どのような思想的影響力をもつか、さらにはこれを右地区
から排除することによつてどのような効果を期待できるか、につき関知せざるとこ
ろである。
2 同・2(組合活動家に対して会社からなされた排除、抑圧、不利益取扱等)に
ついて
 前文は否認する。
 (1)は否認する。昭和三四年入社の高校卒男子内務職員は、昭和四二年四月一
日現在で二一四名在員するけれども、このうち同日までに主任補に登用された者は
一八八名で登用されていない者は二六名である。そして、そのうちで組合支部三役
以上を歴任した組合活動家は、八四名が主任補に登用され約一割の一〇名が登用さ
れなかつたにすぎない。
 (2)のうち、P6が、申請人の主張のような組合役職をつとめ転勤もしたこと、
同時期に入社した標準者の役職登用状況同人の健康と出欠勤状況、および、いまだ
主任補になつていないことは認め、その余は争う。
 (3)のうち、P7が、昭和三二年に入社して申請人の主張するように勤務および
転勤したこと、東京在勤中に組合の代議員、中央委員をつとめたこと、昭和四二年
四月には係長に登用されなかつたことは認めるが、その余は争う。もつとも、昭和
四一年度には、昭和四二年度より発足予定の社内研修試験に備えて模疑試験を行つ
た(その結果は係長登用につき参考としていない)ことがある。
 (4)のうち、P8に対して昭和三六年五月計算機械課へ配転し昭和三七年四月の
定期昇給に五〇円の差等を設け同年一〇月関連事業課へ配転したこと、同人が昭和
三八年本店地区婦人部長に選出されたこと、同人を昭和三九年四月阪神支社へ昭和
四〇年四月宝塚支部へ転勤させたこと、同人が昭和四一年四月頃から約三ケ月間入
院したことは認めるが、その余は争う。
 (5)のうち、本店地区婦人部の中に「お茶くみ雑用撤廃」を主張する動きや生
理休暇取得を推進する動きのあつたこと、昭和三九年四月に婦人部常任幹事のうち
何人かが転勤したであろうことは認め、その余は争う。同月には、内勤職員を新ら
たに月掛支部にも配属することになつたので、これにともなつて本店勤務の女子内
勤職員のうち三〇〇名が異動した。したがって、婦人部常任幹事が二〇名もおれ
ば、そのうちの幾人かがそれに含まれることもあろう。
 (6)は争う。
 (7)のうち、昭和四〇年四月申請人を茨木支社へ転勤させたことは認めるが、
その余は争う。右転勤の理由は、当時申請人は、過去の異動状況から見て支社に転
出させるべき時期にあり、しかも換算年数と人事考課による評定によれば係長に昇
格させるに足る基準に達していたので、かかる業務上の必要と本人の栄進のためか
ら、昭和四〇年四月の定期異動の一環として申請人を茨木支社奉仕係長に任命した
ものであり、右については労働協約第一七条第一八条にのつとり組合からの同意も
得ている。
 (8)のうち、昭和四〇年四月上旬頃の昼休み時に茨木支社長と申請人が一緒に
昼食したことはあるが、その余は争う。
 (9)のうち、申請人の昇給額が二〇〇円減額されたことは認めるが、その余は
争う。
 (10)のうち、申請人が本件転勤命令につき苦情調整を申立てたこと、昭和四
二年四月三日中央調整委員会より申立事案を職場に差戻す旨の決定が告知されたこ
と、同人が職場調整委員であつたことは認めるが、その余は争う。P10次長は、同
日右差戻しの情報を得たところ、同月五日六日には支社の行事予定があつて職場調
整を行うことができないので、これを四日中に行う必要があると考え、直ちにその
旨担当調整委員に連絡したところ同委員が不在であつたため、とりあえず支部勤務
の職場調整委員の所属する支部長に対し、翌日職場調整が行われることになつた場
合には委員がこれに出席しうるように業務上の手配をしておくよう連絡したに過ぎ
ず、したがつて支社直属職員である申請人については、かかる手配をする必要がな
かつたわけである。
(三) 七・(三)(本件転勤命令における支配介入性)記載の事実は争う。
(四) 七・(四)(本件転勤命令における不利益取扱性)記載の主張は争う。
1 まず同1(組合活動上の不利益)については、従前も組合活動家が転勤になつ
た場合、その年から支部や地区の三役に就任した事例が多々存する。
2 同2(家庭生活上の不利益)については、申請人がその主張にかかる家族構成
で同居生活を営んでいる事実は認めるが、その余は争う。
 まず、申請人の主張は、会社には、申請人の妻が現在の勤務を続け且つ申請人夫
婦が同居しうるように保護すべき、法律上の義務がある旨の見解を前提としている
が、この見解が全く独自でとるに足らないことは多言を要しない。また、申請人
は、本件転勤命令が申請人夫婦に対して、「夫と妻子との別居」か「P1の退職」か
の選択を強いる、とも主張するのであるが、本件転勤命令に応じて夫婦が別居する
か妻が退職するかは、申請人夫婦がその生活意識や生活条件に応じて自由に選択す
べき問題であつて、会社の関知すべきところではないし、またそもそも本件転勤命
令に申請人が応ずることと、申請人夫婦が同居して共働きすることとは本質的に矛
盾するものではない。けだし、宮崎においても、申請人の妻が申請人と同居して共
働きすることは十分可能であるから、会社が本件転勤命令を発して、申請人夫婦の
同居や共働きについて容喙するつもりはなくまたそれを為し得るはずもない。
 そして、本件転勤命令において申請人の生活条件に関する問題としては、申請人
の新任地である宮崎で申請人の妻が新らたにどこかの企業に再就職した場合に、従
前会社で共働きしていた状態と比較してどれ程の不利益がもたらされ、それが申請
人の家庭生活に如何なる影響を与えるかであり、そしてその点を判断するために
は、右転勤が申請人の生活条件に与える影響を転勤させる業務の必要性との比較衡
量において考えるべきである。
 しかるところ、申請人は在職期間一二年を経て、給与は年収一二〇万円余であつ
て我国大手各社の給与と比較しても最高水準にあつた(ちなみに、我国では昭和四
一年度に年収一〇〇万円を超えた世帯は全体の二三・六%にすぎない)うえ、新任
地宮崎には低廉なる使用料で入居できる代用社宅が用意されていた。したがつて、
申請人には妻子を扶養するのに十分な客観的情況が保障されていたから、たとえ妻
が会社を退職し宮崎で申請人と同居して家庭の主婦に専念したとしても生計に支障
をきたすわけでなく、申請人夫婦が同居生活を送れるよう途を選ぶことは十分に可
能なのであつて、転勤によつて夫婦別居が強いられると言うのはあたらない。しか
も宮崎では保育所事情が大阪よりも良好であつて、保育所には入所申込後おそくと
も四ないし五ケ月で入所出来る情況にあるから申請人夫婦においては同地でも子供
を保育所に入所させて妻が再就職することが可能であつた。また仮りに、申請人夫
婦において、妻が退職しないで別居する途を選んだとしても、その収入をもつてす
れば毎月何回かは夫婦が会合出来るはずである。他方、会社の人的構成は一般的に
ピラミツド型をなしており、上位のポストにゆくに従つて、その配転は余人をもつ
て替え難くなるものであり、本件の転勤においても申請人以外には適任者が見当ら
なかつたという業務の必要性があつた。
 しかして、右両者を比較衡量するならば、本件転勤命令は申請人に対して、こと
さら不利益に取扱うものではない。
一二 思想信条に基く不利益取扱いの主張に対する答弁(被申請人の答弁)
(一) 八・(一)記載の事実は争う。
(二) 八・(二)(労働情勢報告書について)記載の事実のうち、その主張にか
かるような文書が作成されたこと、その内容には申請人の主張する如き記載があつ
たこと、および、その表題左肩には「厳秘」と記されていたことは認めるが、その
余は争う。
(三) 八・(三)(会社の情報収集活動の事例)記載の事実については争う。
(四) 八・(四)(会社職制における組合活動への干渉やアカ攻撃等の言動)記
載の事実について
1 同1(京阪支社において)について
 (1)のうち、申請人主張の頃にその主張の如きステツカーが組合掲示板に貼ら
れたことは認めるが、その余は争う。
 (2)のうち、支部内勤事務職員を一人に減らそうとしたこと、組合がその問題
をとりあげたことは認めるが、その余は争う。
 (3)のうち、組合員が朝礼でその主張の如き要望をしたことは認めるが、その
余は争う。
 (4)のうち、支社次長の発言が支社の民青同について及んだことは認めるが、
民青同に入るなと言つた事実はない。
 (5)のうち、支社長の発言に民青同に関するものがあつたことは認めるが、そ
の余は否認する。
2 同2(難波支社において)(1)ないし(4)については、すべて争う。
3 同3(茨木支社において)について
 (1)は否認する。
 (2)のうち、次長が事務室の机上に放置されていた「千羽鶴」を一部回収した
ことは認めるが、その余は否認する。
 (3)のうち、その主張の日時・趣旨のパーテイーがあり、申請人主張の職制が
参加したことは、認めるが、その余は争う。
4 同4(京阪支社において)について
 (1)のうち、その主張の頃同趣旨のハイキングがあつたことは認めるが、その
余は争う。
 (2)のうち、P22よりその主張の如き理由による休暇届が出されたこと、その
主張の日時に次長がP22に対してその勤務態度につき忠告したことは認めるが、そ
の余は争う。
(五) 八・(五)(民青同盟員等と目される者に対する会社の不利益取扱)記載
の事実は争う。
(六) 八・(六)(申請人に対する不利益取扱としての本件転勤命令)記載の事
実は争う。
一三 労働協約第一六条違反の主張に対する答弁(被申請人の答弁)
(一) 九・(一)(労働協約第一六条の趣旨)記載のうち、その主張の如き労働
協約条項が存在することは認めるが、その趣旨は争う。
 労働協約第一六条の趣旨は、人事権は会社に存し、それが行使されるについて
は、主として業務上の都合によつて異動を行うこと、その場合に本人の生活条件、
能力等を公正に考慮し、さらに本人の希望を参考にすることを定めたものであつ
て、そのうちでも本人の希望はこれに基づいて異動の判断がなされるものではな
い。そして、会社では毎年定期異動を編成するに際し、あらかじめ従業員から提出
される身上調査票によつてリストされた職員の希望事項を参考にしている。しかし
ながら、この場合申請人の主張するように、従業員の個人的希望をすべて採り入れ
なければならないとすれば、人事権は重大な制肘を受けることとなりその不当であ
ることは明らかである。
(二) 九・(二)(本件転勤命令の協約違反)記載の主張は、争う。
 会社は、昭和四一年の五月と一〇月に従業員の生活条件と希望につき調査したと
ころ、申請人は右二回の調査を通じて転勤を希望しない旨表明しているが、そのう
ち五月の調査では「転勤不可能の事情はない」と回答しており、しかもその後に、
生活条件に何らの変更もない。また、申請人夫婦が共働きしている事情は知つてい
るが、これをどのように考慮したかは前記一一・(四)・2で述べたとおりであ
る。要するに、会社は本件転勤命令を発するに際し、申請人の生活条件を考慮すべ
く業務の必要性と勘案したが、申請人の転勤を留保しなければならないほど不可避
的必然的事情は見出し得なかつたのである。申請人の主張するように、夫婦共働き
の場合には、妻の勤務に支障を来たすとの理由で夫の転勤が許されないことになれ
ば、会社の人事権は従業員の個人的条件によつて不当な拘束を受けるだけではな
く、共働きをしていない従業員との間においても明らかな不公平不均衡を招来す
る。
 また、人事異動における信義則の遵守は、雇傭者のみならず被傭者にも求められ
るべきである。しかるところ、申請人が宮崎に赴任した場合に、同地では妻が共働
きをやめようとまた共働きをはじめようと、いずれにしても収入面では何程かの減
少をきたすにすぎず、家族生活が根底から破壊され維持できなくなるという問題で
はない。しかも、申請人の主張するように、夫婦共働きする理由が経済的必要にあ
るのではないとすれば、従前より多少給与が減少してもさほど問題になるはずはな
い。そのうえ、前記四の(三)・(四)で述べたように、会社は所定の手続を適正
に履行しまた猶予期間を与えて誠意をもつて説得を尽しているのである。したがつ
て、この実体面手続面にわたる諸事情を考慮すれば、申請人こそ信義則に従つて本
件転勤命令に応ずるべきである。
一四 人事権の濫用の主張に対する答弁(被申請人の答弁)一〇記載の主張は争
う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 労務の提供場所の確認を求める訴の適法性(事実摘示第二の二記載の主張に対
する判断)(以下の記述で当事者の主張を摘示する場合には、事実摘示第二事実上
の主張欄における記号のみで表示する)
 労働契約では、労働者はその労働力の使用を包括的に使用者に委ねるものである
から、労務の種類、態様、場所などは特にこれを特定する旨の合意がなされない限
り、それらを個別的に決定する権限は使用者が有する。しかしながら、労働の場所
は、労働者の生活についてその本拠とも不可分の関係にありそれに対して与える影
響ははなはだ重大なものであるから、賃金や労働時間などとともに重要な労働条件
にあたり、労働契約の要素をなすことは明らかである。したがつて、使用者が前記
権限を行使して、労働者に対してその労働場所を変更させる旨の転勤を命ずる場
合、これは労働条件を一方的に変更させもつて労働契約の内容をも変更する、形成
的効果を生ずる意思表示であると解される。
 そうすると、労働者が転勤命令の効力を争つてその法律効果により定められる労
働場所の確認を求めることは、現在の労働契約内容である労働条件を確定させる意
味があるので、かかる法律関係の確認を求める訴は適法である。そして、本件仮処
分申請のうち「申請人を被申請人茨木支社に勤務する従業員として取扱う」ことを
求める部分は、右訴を本案とするものであつてもちろん適法である。そこで、以下
本件申請の実体関係につき、判断しよう。
二 当事者間に争いない事実
 会社が保険事業を営む相互会社であり、申請人が、昭和三〇年三月に高等学校卒
業後会社により内務職員として雇傭されて、福岡月掛支部(後の福岡月掛支社)に
勤務して奉仕係と外務係の業務に従事し、昭和三五年七月からは本店に勤務して振
替収納課の記帳係と文書係の業務に昭和三八年四月より料金課集金管理係の業務に
それぞれ従事し、昭和四〇年四月からは茨木支社に転勤して奉仕係長に、昭和四一
年四月第一奉仕係長にそれぞれ任命されてその業務に従事して来た者であり、後記
解雇当時に会社から毎月二〇日限り一ケ月平均金六二、〇七〇円の割合による賃金
の支払いを受けていたこと、申請人が会社従業員をもつて組織されている日本生命
労働組合の組合員であること、会社が申請人に対して、昭和四二年三月一八日に同
年四月一日付をもつて宮崎支社第一奉仕係長への転勤を命じ、申請人がこれに応じ
なかつたところ、さらに同年六月五日付をもつて事故欠勤を理由に一ケ月間の休職
を命じたうえ、同年七月八日付をもつて休職期間満了を理由として解雇し、翌九日
以降申請人を茨木支社従業員として扱わず且つ賃金の支払いをしないことは、当事
者間に争いがない。
三 解雇事由の所在
 成立に争いのない乙第一七号証によれば、会社就業規則第二八条第二号には「転
勤を命ぜられた者はすみやかに新任地へ赴任しなければならない」との定めが、第
二三条には「業務外の傷病による欠勤は傷病欠勤として、私事による欠勤は事故欠
勤として取扱う」との定めがあり、就業規則付属規定第四休職規定第一条第二号に
は「事故欠勤引続き一ケ月以上にわたつた場合」には一ケ月間の休職を命ずること
がある旨定められ、就業規則第四二条第三号には解雇理由として「休職期間が満了
した場合」が定められていることが、一応認められる。
 右事実と前記争いのない事実によれば、申請人については本件転勤命令が無効で
ない限り、就業規則所定の解雇事由が存在したということができる。そこで、以下
右転勤命令の効力につき判断するが、会社において右転勤を命じた意図に争いがあ
るので、まずその点から考察しよう。
四 本件転勤命令の業務上の必要性(四の(一)・(二)の主張について)
 会社が組合員たる従業員に対して転勤を命ずる根拠としては、労働協約第一六条
に「会社は、組合員の人事異動を行う場合には主として業務上の都合による外、本
人の生活条件、能力を公正に考慮し、且つ本人の希望を参考にする。」旨定められ
ていることは当事者間に争いがなく、また前顕乙第一七号証によれば、就業規則第
二八条第一号には「会社は、業務のつごうによつて、職員に転勤を命じ、または職
種の変更を命ずることがある。」旨定められていることが一応認められる。そこで
これらの定めにいう業務のつごうおよび本人側の事情並びにそれらについての会社
の判断を検討しよう。
(一) 会社が、大阪に本店、東京に総局、大阪・東京・名古屋・福岡に営業局、
全国各地に一〇〇支社と三分室およびその傘下に一、五四三支部、九九支所、二五
一分駐所を有する大企業であり、その従業員が内務職員一三、一六三名、医務職員
一六三名、労務職員三九〇名、奉仕職員三三四名、外務職員四四、六〇五名におよ
んでいることは、当事者間に争いがない。
(二) そして、証人P13の第一回証言により成立を認める乙第二七号証、同第二
八号証の一・二、同第二九号証、同第三三号証、および、証人P13の第一回証言、
同P24の証言、ならびに弁論の全趣旨によれば、右従業員のうち内務職員とは、医
事、現業および契約勧誘保険料集金関係の外交等の業務を除いた部門の業務、すな
わち内局的な普通事務処理を中核とした業務に従事する者であり、そのうちでも女
子職員については、大阪東京地区の勤務者は本店や総局でその外の地区勤務者は各
支社で採用されており、管理職にもつけられず(こまやかな注意は要しても)定型
的で単純な業務に従事し、また転居をともなう転勤を命ぜられることもないのであ
るが、男子職員においては、最終学歴高等学校卒および大学卒の両者とも本店で採
用され、程度の差こそあれ一応全員が将来の管理職要員として取扱われ、その昇格
状況は高校卒標準者の場合入社後八年目で主任補同一〇年目で係長に登用されてお
り、係長を平均九ないし十年在職すれば概してその後上級の役職に昇格しているこ
と、会社では定期人事異動制をとつており、その時期は役付者には四月、非役付者
には四月と六月に実施しているが、男子内務職員については一、二の特殊技術者を
除いてその対象となり、その際に昇格やその後任者の充員および各職種相互間での
配置換および転勤(以下両者を含めて「異動」という)が、頻繁且つ広範囲にしか
も全国営業所間にまでわたつて行われており、会社としてはこれによつて職階に対
する従業員の充当のほか右職員に対して各種の業務を体験させる意図を持ち、その
状況は、係長級においてはそれまでに平均二年八月で異動し、平均四年二月で転居
を伴つた転勤をしており、また昭和四二年度の異動規模は役付者一、六七七名のう
ち課長級以上三七〇名、課次長級一〇八名、係長級三三二名合計八一〇名、非役付
者一六〇名が異動し、そのうちで三四四名が転居をともなう転勤であつたこと、会
社では全国各地に社宅や代用社宅を置き従業員中約四五〇〇名(但し、医務・外務
各職員を含む)を入居資格者と定め、そのうち三、〇八九戸(昭和四二年八月三一
日現在)が貸与されていること、会社の支社営業部門には奉仕係、外務係、支部が
あるが、奉仕係の職務としては、次回後保険料の収納管理を主たる業務とし、その
ほかさらに契約内容の変更、契約者貸付、保険金や解約払戻金の支払等の業務を担
当しこれが第一奉仕係、第二奉仕係に分かれるところでは、前者が個別扱いの次回
後保険料収納管理業務を遂行し、後者が総括事務をも含めてその余の業務を一さい
遂行することになつているので、結局第一奉仕係の分掌事務は営業部門のうちでは
質的には最も一般的定型的なものであること(昭和四二年五月八日現在、宮崎支社
では第一奉仕係の係員を女子内勤者一〇名で構成して業務を遂行していた)が一応
認められる。
(三) つぎに、前顕乙第三三号証、証人P13の第一回証言により成立を認める乙
第二三ないし第二六号証、証人P13の第一・第二回証言、同P24の証言によれば、
宮崎支社では、昭和四二年四月の定期異動で前年度外務係長が大分支社外務主幹に
栄転したので、その後任を補充することになつたところ、同係長は新契約関係事務
と外務員の人事管理を所管しており、しかも、同支社では近年外務員や新契約実績
の増加率が全国で一、二を争うほどに顕著に増加していたので、この近年の動きに
通暁し、また同支社長からも強く推せんされている同支社奉仕係長を後任外務係長
に配置換し、そして同支社奉仕係については新契約増加にともなつて次回後の維持
管理すべき事項が多くなり、係員も増加しているのでこれを第一、第二奉仕係に分
割したが、第二奉仕係は係員数も少いため慣例どおり係長を内務課長に兼務させ
て、第一奉仕係長を任用することにしたところ、内務課長が総務係長の出身であつ
て奉仕係業務に通じていないため、これをも補佐させるべく右任用基準としては奉
仕係長または第一第二両奉仕係長を経験したものであつて、しかも九州地区の地域
性より九州出身者をこれに当てるのが適当であると、会社は考えていたこと、申請
人と同年度に入社した高校卒男子内務職員は四九名おりそのうち二九名は転居をと
もなう転勤を二回経験しているのに対し、申請人は昭和三五年七月本店勤務の際に
転居をともなう転勤をしているがその後約七年にわたり在阪勤務をしており、前記
係長級の転勤状況に照せば、申請人には転居をともなう転勤を命ぜられる時期にあ
り、また同人は、本店では料金業務に従事し茨木支社でも奉仕係長と第一奉仕係長
に各一年づつ就任しているので、奉仕係および同係長の業務には相当通暁している
こと、申請人は久留米市の出身であつて、宮崎とも地縁のない方ではないこと、等
の事情があり、会社はこれらの事情を総合して申請人を宮崎支社第一奉仕係長の適
任者と考えたこと、が一応認められる。
(四) 成立に争いのない乙第一四号証、証人P13の第一回証言、同P24の証言、
同樋口P1の証言および弁論の全趣旨によれば、申請人は昭和三八年一月にP1と婚
姻し、その家庭生活の基本方針を「夫婦は共働きして、子供は保育所に入所させる
こと」におき、以来P1は会社大阪営業局外務課に勤務し、同年一二月には長女P
11が昭和四〇年一〇月には次女P12がそれぞれ誕生したのであるが、保育所事情が
極めて悪いために子供の預け先を捜すのに相当苦労を重ね、その末やつと昭和四一
年七月にP11を同年一二月にP12をそれぞれ高槻市立の保育所に入所させられたこ
と、本件転勤命令当時申請人は家族四人で高槻市内にある会社の代用社宅に居住し
ていたこと、会社が従業員から生活条件や希望を聴取する手段として、毎年五月一
日付と一〇月一日付で身上調査票を提出させているところ、申請人においては、昭
和四一年五月一日付の分には「転勤不可能な事情はない」「転勤したいとは思わ
ず」と回答したが、同年一〇月一日付の分では「転勤不可能」と回答してその理由
には夫婦共働きと保育所関係をあげ、またP1においても身上調査票に保育所の関係
で転勤できない旨回答していること、それに対して会社では、男子内務職員は転勤
を前提として採用している、係長の場合業務上の必要性は非役付者よりも高い、共
働きであることを理由に転勤させないとなれば、共働きしていない者との間で不公
平になる、会社従業員の賃金は高水準であり、ことに申請人は月収一〇万円以上を
得ているうえ宮崎では代用社宅(使用料一、五〇〇円)も貸与されるのであるか
ら、P1が退職しても充分に生計を維持できること、会社従業員同士の場合の夫婦の
共働きの場合その八割までが妻は二年未満で退職しているところ、申請人夫婦の共
働きはすでに四年を経過していること、等の事情にもとづいて、申請人から表明さ
れた夫婦共働きを続けたいとの生活条件や希望については、前記業務上の都合にも
とづく転勤を差控えさせるほどの理由とはなり得ないと判断していること、が一応
認められる。
 以上の事実によれば、会社の男子内務職員ことに係長級の者においては、定期人
事異動によつて広範囲にわたる職種および営業所間でしかも頻繁な異動が行われて
おり、そして(三)記載の事実のもとでは申請人も宮崎支社第一奉仕係長の適任者
であることは間違いなく、また(四)記載の会社の考え方も従来からとられて来た
人事政策から当然に導き出されるものであるから、本件転勤命令は、それによつて
申請人が著しく苦痛を強いられ、またそれが発せられるにつき不当な意図がひそん
でいない限りは、一応業務上の必要性に基いて為されていると推定される。
五 不当労働行為の成否
 そこで、不当労働行為の主張について、考えてみよう。
(一) まず、申請人夫婦の組合活動につき考察しよう。
1 成立につき争いのない甲第四号証、証人P13の第一回証言により成立を認める
乙第三五号証により疎明される組合組織の概略は、つぎのとおりである。すなわ
ち、組合には、中央機構として、議決機関である大会と中央委員会および執行機関
である執行委員会が置かれ、下部機構としては、分会組織に相当すべき基礎組織た
る支部が支社単位に置かれ、数支部が合わされて中間組織たる地区会を構成するこ
ととし、ただし、本店と東京総局については地区会を基礎組織としている。そし
て、支部において大会代議員を選出し、さらにその中から中央委員が地区毎に選出
されるほか、支部と地区会には、議決機関として支部総会、同委員会、地区総会、
同委員会が置かれ、右各委員会において常任委員若干名およびその中から三役を選
出し、これが執行機関たる支部と地区の各常任委員会を構成することとし、また必
要に応じて専門部が置かれる。
2 つぎに、申請人が、組合福岡月掛支部において昭和三二年五月から昭和三三年
四月までと昭和三四年五月から昭和三五年四月までの各一年間支部書記長、昭和三
三年五月から昭和三五年四月まで大会代議員をつとめていたことは、当事者間に争
いないが、この間に同人が特に活発な活動をしていたことを認むるに足る疎明はな
い。
3 そして、申請人が、昭和三五年七月に本店に転勤して振替収納課に所属し本店
地区会の組合員となつたこと昭和三六年五月から昭和三七年四月まで地区常任委
員、厚生対策部長をつとめていたことは、当事者間に争いがなく、証人樋口P1の証
言により成立を認める甲第一七号証、成立に争いのない同第三八号証および右証
人、申請人本人の各供述によれば、申請人は、昭和三七年五月から昭和三八年四月
まで地区教宣部副部長をつとめるほか、振替収納課の職場組織では機関紙「ふりし
ゆう」編集委員をつとめて教宣活動にはげんでいたこと、同課に自動封入機が導入
された際これに反対する職場活動を行つたこと、本店地区会婦人部において「お茶
くみ雑用撤廃」の運動をおこしていた際に職場内でこれを支援する活動をしたこ
と、は一応認められるのであるが、右活動の詳細な内容および右期間中そのほかの
活動についてはこれを認むるに足る疎明がなく、結局、昭和三八年四月までは申請
人が会社から注目されるほどの活動を行つていたとは認められない。
4 つぎに、申請人が昭和三八年五月から昭和四〇年三月まで本店地区委員長、中
央委員、代議員をつとめていたことは当事者間に争いがなく、前顕甲第三八号証に
よれば、申請人が昭和三八年一二月から昭和四〇年三月まで全生保大阪支部委員長
に選任されていたことが、一応認められる。そこで、右期間内に本店地区会におい
て申請人の行つた活動につき考察しよう。
 成立につき当事者間に争いのない甲第一六号証、証人P9の証言により成立を認め
る甲第一三ないし第一五号証、同第三二号証、証人P8の証言により成立を認める甲
第三〇号証、証人樋口P1の証言により成立を認める甲第三三号証、証人P13の第一
回証言と弁論の全趣旨により成立を認める甲第三七号証、および、証人P8、同P
9、同樋口P1の各証言、同P13の第二回証言、申請人本人尋問の結果、ならびに弁
論の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。
(1) まず、本店地区会について述べるに、組合には約五万七、八千人の組合員
がいるところ、そのうち内勤者である組合員は約一万人でその余は外勤者である。
そして、組合運動は勤務の性質上内勤者が中心となつて推進されているところ、こ
の内勤者については約二、五〇〇名が本店に勤務してその余が全国一〇〇支社およ
びその管内支部に分散して勤務している。そして、組合支部は、営業所が分散して
いるうえ職員構成でも外勤者の占める割合が大きくその所属組合員数も四、五百名
にとどまるのに対して、本店地区会においては、所属組合員数が約二千五百名と分
会組織の中では最も大規模であるうえ、そのすべてが内勤者であつてしかも同一建
物内に就労しているので、組合員の日常的職場活動や有機的な団結をするには最も
条件のととのつたところであり、したがつて、組合の中では最も高い斗争力を秘め
た組織である。そしてまた、本店内には、会社および組合の中央機構が所在するう
え、会社からの事務合理化をはじめとする労務政策が早期に典型的な姿で実施され
るところでもあるから、そこにおける労使間の力関係ないし組合の団結活動は、象
徴的意味をもつて社内に流布されて行く可能性があり、また、本店地区からは組合
本部に対して執行委員二五名のうち五名を選出しているので、この点でも影響力を
もつ可能性がある。このように、本店地区会が組合全体の運動に対して影響を与え
る可能性については、実に大きなものがある(但し、組合本部や組合員全体に対し
て、現にどの程度の影響を与えていたかについては、これを認むるに足る疎明がな
い)。
 なお、本店地区会にも支部が設けられているが、これは主に課を単位とした職場
組織であり、また、同地区会には各部門の専門部が設けられているが、そのうちの
婦人部は、本店地区会に約一、三〇〇名の女子組合員がいることおよび全組合員中
約七割が女子であることから、本店地区会内部での重要な位置を占めていた。
 そして、本店地区会は、標記期間内につぎのような活動を行つた。
(2) 会社では、事務合理化のためIBM社より七〇七〇型電子計算機を導入
(賃借)して昭和三七年一〇月より本使用を開始したところ、オペレーシヨンの稼
動時間が延長しオペレーターの残業が長時間にわたるようになつたので、それをき
つかけとして昭和三八年二月頃会社はオペレーターの勤務時間について、午前九時
から午後四時までと午後一時から同八時までの時差勤務制をとることを、本店地区
会に対して提案し、あわせて将来は他企業並みに右計算機を一日一三時間稼動でき
るように労務体制を確立すべく移行をはかつたが、地区会では右業務従事者の生活
を破壊することおよび右勤務体制の他職種にも及ぼされるおそれあることを理由に
右提案に反対し、そしてオペレーターの所属する計算機械課をはじめ他職場におい
ても職場集会でこの問題を討議しまた地区会では反対の教宣活動を行つたりしたの
で、会社としても、その後電子計算機をより高性能の七〇七四型に変えて当座の業
務量でならば、オペレーターに残業させなくとも処理できるようにもなつたので、
同年一二月に前記提案を撤回した。
(3) つぎに、昭和三八年五月に組合員P4が所属長に対して、育児休憩を午前午
後分あわせて一時間としこれを終業直前にとらせて欲しい旨を申し出たところ、所
属長より昼休みをはさんで三〇分ずつ取るようにとの指示があつた。そこで、地区
会ではこの問題をP4に有利に解決すべく支援することとし、職場集会で討議したり
地区会で支援の教宣活動を行い、また他方では会社側と交渉した結果、同年七月頃
会社が始業直後三〇分終業直前三〇分に育児休憩の使用を認めたので解決した。
 そして、その後、会社の女子従業員には右解決の内容にしたがつて育児休暇をと
る者が殖えて行つた。
(4) 昭和三八年九月に労働基準法第三六条による協定の改定にあたつても、地
区会ではこれを職場集会で討議し、そして従前よりも残業時間を一時間半短縮して
更改した。
(5) また、本店地区婦人部では、昭和三七年以来生理休暇の完全取得とその有
給化を要求していたが、昭和三八年一〇月と昭和三九年三月には生休取得月間を設
けて、生理期間中に生理休暇ないしは普通休暇を取るようにすすめて行つたとこ
ろ、月間中は半数近くの者が休暇を取つていた。
(6) さらに、本店地区では政治活動もこれまでになく活発に行われるようにな
り、昭和三八年六月二三日には原潜寄港反対六・二三全関西神戸集会に組合員七〇
名が参加し、同年八月六日の原水禁世界大会には組合代表二名を含む組合員七名が
参加し、同年九月一日には原潜寄港反対F一〇五撤去九・一佐世保一〇万人集会に
組合員二〇名が参加し、また右原水禁世界大会や昭和三九年三月一日のビキニ・デ
ーの頃にはそれをキヤンペーンをするバツヂが頒布され組合員が着用したり、また
右集会に関連してカンパや報告会等も行われ、そのほかにも政治や社会問題に関連
した活動が相当に行われた。これらの活動の多くは、自主サークルや専門部が主体
となつて行われ、常任委員においても、相当にこれを支援しまた推進し、その動き
につき組合本部から批判されるに至つた。
 すなわち、組合本部では、組合における政治活動については本店地区会乃至常任
委員会とはちがつた見地から関心を示しており、まず昭和三八年五月には当時所属
の金融共斗が政治的偏向を犯しているとしてそこからの脱退をきめ、ついで各支部
(地区会)三役宛に文書で「組合組織の中における政治活動について」との同年一
〇月一日付通達を発し、前記本店地区における政治活動と思われるものを批判し
て、最近機関を通じて特定政治路線を宣伝せんとする傾向があること、本店地区に
は共産党細胞や民青同の活動があり、「本店情報一四三号」などは共産党の指示す
る原水禁活動路線にそつており内容も「アカハタ」の焼直しであること、組合活動
は経済問題を労使対等の立場で解決することを本務とするものであるから、その政
治活動も右本務をふみはずしてはならないこと等を指摘した。そして、この金融共
斗脱退と一〇月一日付通達に対して、本店地区常任委員会ではその都度組合執行部
に懇談を申入れて反対の態度を表明している。
(7) 以上の本店地区会の活動(但し、(5)を除く)は、常任委員会の指導の
もとに展開されたのであるが、申請人はその中心にあつて重要な役割を果してい
た。
 そして、右時期における本店地区会の活動の特色としては、第一には、職場問題
をとりあげてこれを職場討議などの所謂職場活動を進めることによつて解決をはか
つたこと、そして生理休暇の取得や有給化、育児休憩の取得等を要求する所謂権利
斗争の形で多くあらわれていること、第二には、合理化政策反対を強く打出して来
たこと、第三には、政治活動に対して積極的姿勢を示したことであつた。
 以上の事実が一応、認められるのであつて、その余の申請人主張についてはこれ
を認むるに足る疎明はなく、また右認定を覆えすに足る疎明もない。
5 そして、申請人が昭和四〇年四月以降組合茨木支部に所属して昭和四一年五月
から支部常任委員をつとめたことは当事者間に争いがなく、申請人本人尋問の結果
によれば、申請人は右役員にあわせて支部調査部長と職場調整委員をつとめていた
こと、昭和四一年度外務員売上斗争では同人も支社長への抗議行動に参加したこ
と、また組合活動を通じてつちかわれた発想が第一奉仕係長としての職務遂行にも
あらわれ、職員資格選考委員会で外務職員に有利な意見を述べたり、昭和四一年一
〇月頃には当時の業務量を処理するには係員が少なすぎるので増員して欲しい旨を
支社内務課長や同次長に要求し、それが断られるや自ら係業務の処理にもあたつて
その事務渋滞を理由として支社役職者の会議には一部欠席したこと、昭和四一年五
月の支部役員選挙では申請人も支部委員に立候補する予定であり、そして支部三役
に選出される可能性もあつたこと、が一応認められる。
6 申請人の妻P1が、昭和三四年三月会社に入社して昭和三八年一月まで本店振替
収納課に勤務しまたそれ以降は大阪営業局に勤務して、昭和三七年四月に本店地区
常任委員、労働強化対策委員、代議員に選出されたことは当事者間に争いがなく、
前顕甲第一七号証、同第三三号証、証人P8、同樋口P1の証言によれば、樋口P
1は、昭和三五年から一年間職場組織の機関紙「ふりしゆう」の編集部員となつてそ
の教宣活動に従事し、昭和三六年七月から一年間にわたつて本店地区婦人部常任幹
事、同副部長をつとめ、当時婦人部において行われていた「お茶汲み雑用撤廃」と
生理休暇取得等の運動やパンチヤー連絡協議会の結成などに参加したこと、昭和三
七年四月に前記役員に選出されて同年五月から昭和三八年四月までこれをつとめた
こと、右期間を通じて振替収納課職場や婦人部における組合活動には積極的に活動
していたこと、しかし、昭和三八年五月からは一年間本店地区委員をつとめたがさ
したる活動もしていなかつたこと、が一応認められる。
(二) そこで、かかる申請人らの活動に対して、会社がいかにこれを受けとめて
いたかを考察しよう。
1 前顕甲第三七号と証人P13の第一回証言によれば会社では勤労課(労働組合関
係を担当する)において昭和三九年一月四日付で労働情勢報告書を作成して、これ
を各支社長、部課長に配布して、当面の労働情勢に対する会社側見解を表明しその
対応を指示していることが一応認められる。
 その内容は、第一に、昭和三八年一〇月二二、二三日に開催された全生保定期大
会の概況を記述し、第二に「組合内における政治活動について」と題して、組合本
部の発した同月一日付通達とそれに対する本店地区会、東京総局地区会、各支部の
動き(五、(一)、4、(6)の後段の認定事実参照)を記述したあと、第三に、
「本店内における民青グループの動きについて」と題する項目を設け、「本店地区
では最近特に従来の労使慣行にさからつた、言葉をかえれば、本部とは違つた行き
方をとる事例が多い。」と問題点をあげ、その原因として若年層の特質とともに民
青グループの影響を指摘し、これにつき「中でも注目すべきは常任委員会に占める
民青グループのウエイトであり、地区委員会のそれに対する批判力の欠除ないし無
関心であろう。民青同盟員あるいはその同調者と目される者は地区委員長をはじめ
常任委員の半数以上を占めており、その方向は推して知るべしである。そしてこれ
を批判すべき立場にある地区委員会は右記の如き構成((注)年令、会社歴とも若
い層によつている旨分析されている)であるためにさしたる反対意見もなく、地区
会の決定と」なるとし、東京海上や住友生命労組との最近緊密となつている連携も
民青活動を通じて為されており、また婦人部にも常任委員会と同様の動きがあると
記述し、つぎに民青同活動として行われる態様について、「政治的活動」として、
これには同盟員以外の者も含むサークルを構成しさらに他組織とも連携することや
日生平和を守る会や諸種実行委員会などにつき説明し、「文化・体育活動」とし
て、この活動が従業員を民青同に導入するにつき効果的だとされていることや、映
画会講演会杉の子コーラスにつき説明し、「権利斗争」として、「最近、特に目立
つのが権利斗争であるが、」「組合内部での活動としては最も賢明な方策」であり
「育児休暇の獲得、生理日の全員休暇ないしは完全有給化、パンチヤーの休憩室設
置等」が、住友生命や全損保の各労組と相前後して組合側から提起されていること
から、「民青グループの連携活動とみるのが至当」と記述し、「職場内活動」とし
て、民青的活動家の所属する全書、外職、牽引、保険証券等の課では、機関紙の発
行、労働学校の開催、ハイキング等の行事が相当行われていること等が記述され、
同項目の末尾に結論的に「常任委員会の名における民青同活動が本店地区の質と言
えよう。」との見解を示し、第四に、「支社における左翼活動の状況について」と
題する項目を設けて、「本店から配転した活動家のうち」で、「依然(あるいはよ
り以上に)活溌な活動を続け相当の影響力をもつ者もある。活動は、コーラス、ハ
イキングにはじまる民青同方式であるが、支社には思想的に白紙の職員が多いだけ
に留意する必要があるだろう。」、と注意を喚起しているのである。
 右記載によれば、会社においては、社内に共産党や民青同の活動がもちこまれる
ことを非常に不都合であると考えていたところ、本店地区常任委員会や同婦人部の
執行部については、その主要メンバーが申請人をはじめとする民青同盟員により構
成され、その活動も共産党路線に沿いないしは民青同活動そのものであると判断し
て、それ故にこれを注目し嫌悪してその動きを警戒していたこと、当時の本店地区
会の常任委員会や地区委員会の構成をもつてしては、右共産党路線に沿つた組合活
動が自律的に修正できないと考えていたこと、これらの民青的活動家については、
本店から支社に配転した後にも充分に監視して行く必要があると考えていたこと、
等を窺い知ることができる。そして、この会社側の見解は昭和三九年一月当時にい
だいていたものであるが、これがその後基本的に変更されたことをうかがうに足る
証拠はなく、かえつてこの見解が維持されていたことは右報告書が出されて以後、
会社側職制が民青同問題について示した以下の言動によつて示されている。
2 まず、申請人本人尋問の結果により成立を認める甲第二四ないし第二六号証に
よれば、船場支社においては、昭和三九年度の人事異動によりそれまで本店地区婦
人部で活動していた組合員P25が同支社に転勤して来たところ、同年秋頃P26次長
は組合員P27に対して、P25とはつきあわない方がよい旨警告し、同年一〇月頃に
もP26次長は組合員P28に対して、P25のグループとはハイキングに行かない方が
よい旨警告したこと、昭和四一年二月頃P29総務係長は組合員P30外二名に対し
て、他労組の主催するスキー会参加のための有給休暇取得の申出につき強く拒んだ
こと、同年三月にP30と組合員P31が同年四月一日付定期昇給に差等を設けられた
ことにつき釈明を求めた際、P26次長は両名に対して、その民青同活動によつて迷
惑を蒙つている者がある旨注意したこと、同年秋頃P29総務係長は、同支社内にも
民青同盟員がいるからそれに近付かないように述べたこと、が一応認められる。
 また、申請人本人尋問の結果により成立を認める甲第二二・第二三号証によれ
ば、本件転勤命令が発せられた前後にも京阪支社においては、昭和四二年二月一日
に組合員P22が朝礼で賃金について希望を述べたところ、P15次長はただちに共産
主義分子の言うことだと反論したこと、同年三月P15次長は入社式で民青同には注
意するように述べたこと、同年三月二二日P21課長は組合員P32に対して、前日の
ハイキングのメンバーをただしたり、民青同とは結びつきを作らないように注意し
たこと、同年四月一日には、前支社長が内勤幹部に対して転任あいさつをした際
に、組合活動をするにつき民青同と交流するのはよくない旨述べたこと、が一応認
められる。
 なお、申請人の主張する八・(四)記載の事実中、右認定を除くその余の部分に
ついては、そのなかに民青同に対する差別意思のあらわれやあるいはその事実自
体、を認むるに足る疎明はない。
(三) つぎに、組合活動家に対して、会社がとつている不利益取扱等の処置につ
き考察する。
1 まず、昭和三七年四月の定期人事異動においては、組合本店地区教宣部長、同
常任委員、中央委員、代議員をつとめていたP6が本店から鹿児島支社に転勤させら
れたことは当事者間に争いがなく(但し、後三者の役員歴は弁論の全趣旨により成
立を認める甲第一八号証により認定する)、証人P8、同樋口P1の各証言によれ
ば、組合本店地区婦人部では部長、副部長など執行部若干名と常任幹事若干名が転
勤させられたことが、一応認められる。
2 つぎに、昭和三九年四月の定期人事異動においては、弁論の全趣旨により成立
を認める甲第一九号証証人P9の証言により成立を認める同第三一号証、同証言、証
人P8の証言によれば、組合本店地区常任委員では、副委員長P9が大阪団体支社
へ、教宣部長P5が平塚支社へ、文化部長P33が前橋支社へ、青年部長P34が鹿児島
支社へ、婦人部長P8が阪神支社へ、厚対部長P35(女子)が堺支社へと総数一二名
中六名が転勤させられたこと、同婦人部役員では常任幹事一一名が転勤させられた
こと、同教宣・文化・厚対・組織各専門部でも相当数の部員が転勤させられたこ
と、前記労働情勢報告書で民青同の政治活動組織として指摘されている日生平和を
守る会の会長P36に対しても、同人の妻が本店に勤務しているにも拘らず名古屋市
への転勤が命ぜられ、結局同人は右赴任後経済的理由から在阪の他企業に転職して
いること、組合東京総局地区会でも委員長P37、副委員長兼教宣部長P7(但し、五
月一日付)が都内支社へ転勤させられたこと、が一応認められる。
3 そして、昭和四〇年四月の定期人事異動で申請人が係長に登用されたうえで茨
木支社へ転勤させられたことは、当事者間に争いがない。
4 また前記転勤させられた者のうち、P6については、前顕甲第一八号証によれ
ば、昭和三九年に福岡月掛支社へ昭和四〇年に久留米支社へ転勤させられているこ
と、その間昭和三八年に支部常任委員、同教宣部長、昭和四〇、四一年に支部書記
長、昭和四二年に支部副委員長をつとめていることが一応認められ、また同期社員
の標準者が昭和四一年に係長に登用されているのに同人は主任補にもなつておらな
いことは当事者間に争いがなく、P7については、前記転勤後東京北支社、世田谷支
社に勤務し昭和四二年四月には入社後一〇年目になるのに係長にも登用されず新潟
支社へ転勤させられたことは当事者間に争いがなく、前顕甲第一九号証と弁論の全
趣旨によれば、その間同人は組合東京北支部では支部常任委員、中央委員を昭和四
一年五月から昭和四二年三月までは組合世田谷支部副委員長、南東京地区会副委員
長、中央委員、代議員を各つとめたこと、同人と同期に入社した者で係長に登用さ
れなかつたのは極く僅少であること、右新潟転勤によつて会社池袋支社に勤務して
いた同人の妻は退職を余儀なくされたことが一応認められ、P8については、証人P
8の証言によれば、その後阪神支社宝塚支部、豊中支社曽根支部、同庄内支部に転勤
させられていることが一応認められる。
5 そして、申請人本人尋問の結果によれば、昭和四〇年四月頃茨木支社長が申請
人を昼食に誘つた間に組合茨木支部では支部委員選挙を行い、そのために申請人が
委員に選出される機会が奪われたことが一応認められ、また証人P24の証言によれ
ば、昭和四二年度定期昇給にあたつては申請人に対する人事考課を前年度よりも低
く評価していることが一応認められる。
 右認定事実を除く、その余の申請人主張部分については、これを認むるに足る疎
明がない。
 しかして、前記五の(一)、(二)記載の事実に照らして右事実を考えると、
2、3で述べた一連の本店地区からの転勤には、会社が組合本店地区会における民
青同系と推測される組合活動家に対して、その活動を嫌悪して、それに報復すべく
不利益に取扱う意図、ないしは右地区会からその活動を排除するための意図が含ま
れていたこと(それが決定的動機であつたかはともかくとして)は否定出来ないと
いうべきであり、また、4、5についてもその疑いが相当認められる。
(四) そこでつぎに、本件転勤命令が申請人におよぼす影響を考えてみよう。
 前述したように、申請人は、熱心な組合活動家であつて、その活動領域は思想傾
向ともあいまつて職場活動を基盤にした分会活動にあつた。そして、申請人本人尋
問の結果によれば、申請人は昭和四〇年四月組合茨木支部に移つた後においても右
方針によつて活動していたことが窺われ、それに基いて昭和四一年五月には支部常
任委員、同調査部長に選出されまた昭和四二年度も同様に役員に選出される見込み
があつた。したがつて、この様な職場活動を基盤とする組合活動家である申請人に
おいては、茨木支社に職場を定められて二年間で職場を変えられたのでは組合活動
上著しく不利益を受けるものと推認することができる。
 つぎに、申請人の生活関係につき検討するに、申請人は九州とはいつても久留米
市の出身であり妻P1の実家も寝屋川市にある(証人樋口P1の証言により認める)
から、一般的に考えてもそのような場合に在阪支社から南九州宮崎所在の支社に転
勤させられると生活上不利益をおぼえるものと推認される。しかも本件転勤命令当
時の申請人の生活事情は、前記四、(四)に認定したとおりであつて、P1は会社大
阪営業局に勤務し子供二人は高槻市立の保育所に入所しているものであるから、こ
の生活関係において申請人が本件転勤命令に応ずるとすれば、申請人は単身で宮崎
に赴任せざるを得ないことになり、そうなれば遠隔の地で妻子との別居生活を余儀
なくさせられて大きな苦痛を受けることは明かである。これに対し申請人一家がこ
の苦痛から免れようとすれば、会社がP1を申請人と同一勤務地乃至その近辺に転勤
させない限り、P1が退職して家族一同で宮崎に生活の拠を移すほかないこととな
る。
(五) ところで会社において、従業員が共働き家庭を営んでいることを理由とし
てこれを転勤させずにおくことは共働きでない者との間で公平を失するとの見解
で、共働きの事実を度外視して従業員の異動を行う方針をとつていたことは前記並
びに証人P13(第一回)、同中の各証言および弁論の全趣旨によつて明らかである
ところ、前記のとおりの多数従業員を全国的に擁する会社におけるものとしてこの
方針に首肯すべき一面のあることは否定できず、証人P13の右証言によつて成立を
認めうる乙第一六号証と右証言によれば現に共働きの会社従業員中には会社の右見
解と軌を一にする考えの者が少なからずあつたことが疎明されるけれども、この方
針の具体的実現に際して会社として、夫婦が遠隔の地に別居を強いられ或いはその
一方が退職に追こまれる様な、生活状態に重大な変動を及ぼす結果となる事態を可
能な限り避け、会社の業務の必要性の充足と従業員の受ける苦痛との均衡につき慎
重な配慮を加えるべきは前記当事者間に争いのない労働協約第一六条の定めによつ
ても当然というべく、かたわら申請人については妻P1も会社に勤務しているのであ
るから、妻が他の企業等に就職している場合と較べてこの様な配慮をするについて
の支障は少なかつたものと推認される。
 これに対し、申請人を宮崎に転勤させた場合申請人がP1との別居を余儀なくされ
て苦痛を受けることを会社が知つていたことは右各証言と弁論の全趣旨によつて明
かであるところ、会社がこの苦痛を除くかたわら右方針をも貫くため、P1を申請人
と同伴で同一勤務地乃至その近辺に転勤させるよう考慮検討した等の事情を疎明す
るに足る証拠はなく、かえつて前記認定事実と右証拠によれば会社においては、申
請人がP1と別居するに至りしかも高槻市内の前記代用社宅をP1のため貸与を受け
続けることができなくなることは前記方針よりして当然との前提で、別居を避ける
ためにP1が退職に追こまれてもこれは、申請人が前記のとおり高額の賃金を得てお
りまた宮崎で低額家賃の代用社宅の貸与を受ける以上別段顧慮するに足りないとの
考えの下に、前記一般的方針に従う以外に特段の配慮を加えることなく本件転勤命
令に及んだことが疎明される。
 ひるがえつて、宮崎支社において担当者を必要とした第一奉仕係長の職務内容が
営業部門のうちでは質的に最も一般的定型的なものであり、また従来職員中係長級
の者についても広く且つ頻繁に職務間の配置換および転勤が行われてきたもので、
本店統計課より支社奉仕係長に転出した例もあること前記認定事実と証人中の証言
によつて疎明されるところであるから、前記のとおり多数の職員を擁する会社にお
いて宮崎支社第一奉仕係長の職務自体についての適任者は決して少なくないものと
推認されるところ、これに対し会社においてこれら適任者の家庭の状況、生活条件
等につき検討の末、申請人の如く夫婦別居を強いられ或いは妻が退職を余儀なくさ
れる結果となる者を除いては他に適任者がないとの結論に至つたため申請人を選ん
だ等の事情を疎明するに足る証拠はない。
 なお宮崎支社第一奉仕係長をつとめるについて九州地区に地縁を有するものであ
ることが顧客との接触等の点から業務上好都合であることは証人P13の右証言によ
つて疎明されるけれども、申請人以外に右地縁を有する第一奉仕係長適格者がなか
つたことを疎明するに足る証拠はないのみか、証人中の証言によれば昭和四〇年四
月本店より宮崎支社奉仕係長に右地縁のない者が転出したことが疎明されるのに対
し、右地縁のなかつた結果として業務の正常な運営に支障を来した等の事情の疎明
はないので、申請人が九州に地縁を有することは申請人を選ぶについてさして重要
な因をなしてはいなかつたものと推認される。
(六) 以上の諸点を総合すれば、本件転勤命令は会社の業務上の必要に基いて発
せられたというには合理性に乏しく、申請人の分会活動を嫌悪してこれを制約し且
つ分会の組織運営に対し支配介入することを主たる動機として発せられたものと推
認するに難くない。
 よつて本件転勤命令は労働組合法第七条第一号、第三号所定の不当労働行為に該
当するので無効であり、申請人にはかかる無効な業務命令に従う義務はないから、
就業規則第二八条第二号、第二三条、就業規則付属規定第四休職規定第一条第二項
に基く休職命令を受けるいわれはなく、したがつて就業規則第四二条第三号所定の
「休職期間満了した場合」にあたらないので、本件解雇は無効である。
六 以上によれば、申請人は被申請人茨木支社に勤務する従業員の地位にあり、昭
和四二年七月九日以降会社から毎月二〇日限り一ケ月平均六二、〇七〇円の割合に
よる賃金の支払いを受ける権利がある。
七 そこで、仮処分の必要性につき判断するに、前述のように、申請人には、妻と
子供二人の家族とともに会社から貸与される代用住宅に居住しており、また、証人
樋口P1の証言によれば、申請人一家は解雇後生活規模を切りつめて月額六万円を支
出して生活しているところ、申請人には会社から支給される賃金以外には収入がな
いので、妻P1の会社から支給される賃金月額五万円(含賞与)とP2夫妻を守る会
から支給されるカンパ資金月額約一万円をもつて全収入としている事実が一応認め
られる。
 そして、本件解雇が無効であるにも拘らず、会社は申請人を従業員として取扱わ
ないものであるから、申請人には雇傭契約上の地位を仮りに確定しておく必要が認
められ、また、申請人一家の生計を維持するについてはまず配偶者に収入がある場
合には申請人は第一次的にはそれをもつて生計費に充てるべきであるから、それに
不足する分につき仮処分による仮払いの必要が認められるべきであるところ、現在
最低限度の生活を維持するのに必要な月額約六万円のうち一万円についてはいまだ
確定的な収入がないと認められる。
八 したがつて、本件仮処分申請については、申請人が被申請人に対して、申請人
を被申請人茨木支社に勤務する従業員として仮りに取扱うとともに、昭和四二年七
月九日以降毎月二〇日限り月額一万円の割合による金員を仮払いするように求める
限度では必要性が認められるので、これを認容し、その余は必要性を認められない
のでこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適
用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野千里 横畠典夫 木原幹郎)

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