弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決中左記(1)ないし(4)記載の各部分につき、原
判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     (1) 上告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5、同A6に対する
請求に関しては、各自二、三一二、三六四円八〇銭およびこれに対する昭和二六年
二月七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を超える部分。
     (2) 上告人A7、同A8、同A9、同A10、同A11、同A12、
同A13、同A14、同A15に対する請求に関しては、各自一七一、二八六円二
八銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分の割合によ
る金員を超える部分。
     (3) 上告人A16、同A17に対する請求に関しては、各自七七〇、
七八八円二六銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至るまで年六分
の割合による金員を超える部分。
     (4) 上告人A18、同A19、同A20に対する請求に関しては、各
自五一三、八五八円八四銭およびこれに対する昭和二六年二月七日以降完済に至る
まで年六分の割合による金員を超える部分。
     右各部分についての被上告人の請求を棄却する。
     上告人らのその余の部分に対する上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを一〇分し、その一を被上告人の負担とし、その余
を上告人らの連帯負担とする。
         理    由
 上告人A1の上告理由について。
 訴外D株式会社(以下単に訴外会社という。)設立の際におけるその株式の払込
および当該払込金の返還に関し原審が確定した諸般の事情のもとにおいては、右会
社の株式については実質的に払込があつたものとはいえず、右払込は右会社の株式
の払込としての効力を有しない旨の原審の判断は正当である。したがつて、原判決
に所論の違法はなく、所論は、独自の見解に立つて原判決を攻撃するか、あるいは
原判決とかかわりのない事項に関する主張であつて、採用できない。
 上告人A2外一八名(上告人A1を除く。)上告代理人鈴木匡、同大場民男、同
情水幸雄の上告理由第一点その一について。
 訴外会社が訴外E株式会社缶詰部の権利義務一切を承継したことが商法二四五条
一項三号にいう「他の会社の営業全部の譲受」にあたらないことはいうまでもない。
所論は、ひつきよう、原判示にそわない事実を前提として原判決を攻撃するもので
あつて、採用できない。
 同その二について。
 所論は、要するに、代位行使の対象となつた本訴請求債権は、遅延損害金の利率
が高いため、代位の基礎となつた国の訴外会社に対する債権より過大となり、代位
権行使の範囲を逸脱する、したがつて、これを許容する原判決は違法であるという
にある。
 そこで考えるのに、債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた
制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られる
べきものであつて、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務
者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲
においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである。ところで、本件に
おいて原審の確定するところによれれば、債権者たる被上告人の訴外会社に対する
債権は、元本は二、三一二、三六四円八〇銭ではあるが、遅延損害金の利率が年六
分であるため、原審の口頭弁論終結時における元利合計額は四四〇万円に満たない
のに反し、債務者たる訴外会社の一審被告ら八名に対する各債権は、元本こそ二〇
〇万円であるが、その遅延損害金の利率が日歩四銭であるため、前同日までの元利
合計額は六六〇万円を超えることが計数上明らかである。そうであれば、被上告人
としては、前記自己の債権額を超えて訴外会社の一審被告らに対する前記請求債権
の全額についてこれを代位行使することはできないものといわなければならない。
 ところで、原審の確定するところによれば、一審被告中Fが昭和三三年一月二一
日死亡し、その子である上告人A7、同A8、同A9、同A10、同A11、同A
12、同A13、同A14、同A15が各自その相続分である二七分の二の割合に
応じた限度において、その妻である上告人A16がその相続分である三分の一の割
合に応じた限度において、それぞれ同人の義務を承継し、一審被告Gが同年一一月
二四日死亡し、その子である上告人A18、同A19、同A20が各自その相続分
である九分の二の割合に応じた限度において、その妻である上告人A17がその相
続分である三分の一の割合に応じた限度において、それぞれ同人の義務を承継した
というのであるから、被上告人の本訴請求は、上告人A1、同A2、同A3、同A
4、同A5、同A6については、被上告人の訴外会社に対する債権額である二、三
一二、三六四円八〇銭、Fの子である上告人A7ら九名については、その二七分の
二にあたる一七一、二八六円二八銭、その妻である上告人A16およびGの妻であ
る上告人A17については、その三分の一にあたる七七〇、七八八円二六銭、右G
の子である上告人A18ら三名については、その九分の二にあたる五一三、八五八
円八四銭、および各これに対する最終内入弁済のあつた日の翌日であること当事者
間に争いのない昭和二六年二月七日以降右完済に至るまで商事法定利率である年六
分の割合による金員の支払を求める限度でこれを認容し、これを超える部分は失当
としてこれを棄却すべきものである。したがつて、原審の判断は、右範囲内におい
て被上告人の本訴請求を認容した限度においては正当というべきであるが、この限
度を超えて右請求を認容した部分は、民法四二三条の解釈適用を誤つた違法がある
というべきであつて、右部分については、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、
被上告人の本訴請求を棄却すべきものである。
 同その三について。
 訴外会社の設立に関し、原審の確定した諸般の事情に照らせば、訴外会社が昭和
二四年一一月五日その設立登記とともに成立した旨の原審の判断は相当である。し
たがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原判示にそわない事
実を前提とするか、あるいは独自の見解に立つて原判決を攻撃するに帰し、採用で
きない。
 同第二点その一について。
 原判決が訴外会社の設立に際しては、払込の外形が整えられたにすぎず、実質的
には払込がなされていない旨判示していることは、その判文上明らかであり、その
判断が正当であることは前記説示のとおりである。したがつて、原判決に所論の違
法はなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰
し、採用できない。
 同その二について。
 所論1引用の原判示は、経済上、実質上の買主が訴外会社であることが判明した
という趣旨のもので、売買契約上の当事者または法律上の買主が訴外会社であるこ
とが判明したという趣旨のものではないと解される。したがつて、原判決に所論の
違法はなく、所論は、ひつきよう、原判決を正解しないでこれを攻撃するに帰し、
採用できない。
 同第三点について。
 被上告人は訴外会社に対し売掛残代金二、三一二、三六四円八〇銭の債権を有す
る旨の原審の判断は、証拠関係に照らして相当である。したがつて、原判決に所論
の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実
の認定を非難するに帰し、採用できない。
 同第四点その一について。
 訴外会社が控訴人A1、食糧品配給公団間の本件売買契約から生じた権利義務お
よび訴外E株式会社、同公団間の本件売買契約から生じた一切の権利義務を承継し、
訴外会社の監査役が右承継について承認した旨の原審の判断は、原判決挙示の証拠
に照らし、肯認しえないではない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論
は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の判断および事実の認定を非難するに帰し、
採用しえない。
 同その二について。
 所論の点についての原審の認定判断の相当であることは、前記のとおりである。
したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 よつて、さきに上告理由第一点その二について判示した破棄部分以外の点に関す
る上告は棄却すべきものとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、
九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷

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