弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人島武男、同畑良武、同堀井昌弘の上告理由第一、第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論
難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三について
 一 原審の確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経緯
等は、次のとおりである。
 1 第一審判決添付物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)は、
亡Dの所有であったところ、同人が昭和五九年三月二七日に死亡したことに伴い、
同人とその亡夫Eの子である上告人ら、被上告人B1及び亡Fの六名の相続人の間
で、昭和六一年七月二日、本件不動産につき法定相続分の割合に応じた持分各六分
の一の割合による共有とする旨の遺産分割協議が成立した。
 2 本件不動産は、大阪市a区所在のb駅の南西約三五〇メートルに位置する登
記簿上の面積三九三・九五平方メートルの土地とその地上の二階建木造住宅であり、
現物分割には適さない。第一審で実施された鑑定の結果によれば、本件不動産の価
格は、平成四年一月一五日現在で二〇億三四〇〇万円であるが、原審では、本件不
動産の価格についての鑑定は行われていない。
 3 本件不動産には、創立者である亡Eの死後亡Fが代表取締役となっていた株
式会社Gを債務者とする元本極度額三〇〇〇万円の根抵当権のほか、被上告人B1
が代表取締役を務める株式会社Hを債務者とする七つの根抵当権(極度額合計四億
四四〇〇万円)等が設定されている。また、本件不動産には、現在上告人A一家が
居住している。
 4 亡F及び被上告人B1は、上告人らとの分割協議が調わなかったため、本件
不動産の共有物分割を求める本件訴えを提起し、本件不動産の分割方法として、競
売による分割を求めていたが、被上告人B1は、本件訴訟の第一審係属中に本件訴
えを取り下げる旨の意向を表明するに至った。これに対し、上告人らは、遺産分割
協議の際に本件不動産につき不分割の合意がされている、被上告人らの分割請求は
権利濫用に当たるなどと主張して、本件不動産の分割に反対していた。もっとも、
第一審での口頭弁論終結後の和解期日において、上告人らからの提案を受けて、上
告人Aが単独であるいは他の上告人らと共に亡Fの持分を買い取る方向での話合い
が進められたが、合意には至らなかった。
 5 亡Fは、本件訴訟の第一審係属中に死亡し、その相続人間の遺産分割協議の
結果、亡Fの有していた本件不動産の共有持分六分の一につき、被上告人B2が持
分三〇分の三、被上告人B3が持分三〇分の二の割合でこれを取得し、右両名が本
件訴訟を承継した。
 二 原審は、本件不動産がいかなる割合によっても現物分割に適さないとして、
本件について、全面的価格賠償による共有物分割を認める余地があるか否かにつき
審理判断することなく、競売による分割をすべきものと判断した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、
持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足を
調整することができるが(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日
大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)、これにとどまらず、当該共有物の性
質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況
及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理
性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得
させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物
を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の対価を取得させるこ
ととしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、
共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の
共有者に対して持分の価格を賠償させる全面的価格賠償の方法による分割をするこ
とも許されるものというべきである(最高裁平成三年(オ)第一三八〇号同八年一
〇月三一日第一小法廷判決・民集五〇巻九号二五六三頁、最高裁平成七年(オ)第
二四六一号同九年四月二五日第二小法廷判決・裁判集民事一八三号三六五頁参照)。
 2 これを本件についてみるのに、前記一の事実関係等によれば、本件不動産は、
亡Dの相続人間の協議により法定相続分の割合に応じた共有とする遺産分割がされ
たものであって、その形状等から現物分割は不可能である上、上告人Aが今後も本
件不動産に居住することを希望しており、上告人らにおいて、本件不動産を競売に
付することなく、上告人Aが単独であるいは他の上告人らとともに亡Fの持分につ
き対価を支払ってこれを取得する方法による分割を提案していることなどにかんが
みると、本件不動産についての被上告人らの持分を上告人A単独ないし上告人らの
取得とすることが相当でないとはいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっ
ては、被上告人らにその持分の対価を取得させることとしても、共有者間の実質的
公平を害することにはならないものと考えられる。
 四 そうすると、本件について、全面的価格賠償の方法により共有物を分割する
ことの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、直ちに競売によ
る分割をすべきものとした原審の判断には、民法二五八条の解釈適用の誤り、ひい
ては審理不尽の違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及
ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があるから、原判決は破棄を免
れず、前記説示に従い更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととす
る。
 よって、裁判官河合伸一の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
 裁判官河合伸一の補足意見は、次のとおりである。
 法廷意見は、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるための要件とし
て、当該共有物を取得する者(以下「現物取得者」という。)にその対価の支払能
力があることを掲げているところ、原判決は「共有物分割に反対する共有者が他の
共有持分を買い受ける資力がないことが認められる」と判示しているので、これに
関連して若干補足しておきたい。
 一 全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる判決が確定すると、それに
よって直ちに現物取得者は当該共有物の共有持分を取得するのに対し、その共有持
分を喪失する者(以下「対価取得者」という。)は、現物取得者に対する金銭支払
請求権を取得するにすぎない。もっとも、現物取得者の共有持分取得も対抗要件を
備えなければ完全なものとはならないが、それについては、民事保全手続をしたう
え訴訟を提起すること等によって、ほぼ確実にこれを完全なものとすることができ
る。これに対し、対価取得者が取得する金銭支払請求権は、現物取得者の支払能力
ないし資産状態の如何によっては、民事保全手続等によってもその権利内容を十全
な形で実現できない場合があり得る。かくては、共有者間の実質的公平は害される
ことになってしまう。
 そのため、全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずるについては、法廷意
見が説示するような諸事情の総合考慮から右方法によることの相当性が認められる
だけでは足りず、現物取得者に裁判所の定める対価の支払能力のあることが要件と
されているのである。
 二 右に述べたところから明らかなように、ここでいう支払能力は、現物取得者
による任意履行の蓋然性だけではなく、同人の資産に対する強制執行の奏効可能性
をも視野に入れて考えられている。しかるに、原判決中の頭記引用の部分は、上告
人らの権利濫用の抗弁を排斥する理由の一部であって、右のような意味での支払能
力の有無について判断されたものでないことは明らかである。また、記録によって
も、この点について右のような観点からの証拠調べをした形跡は認められない。
 原判決は全面的価格賠償の方法による共有物分割を明示的に肯定した最高裁判例
が現れる前にされたものであるから、原審の右措置を非難することはできないとし
ても、結果において審理不尽の違法があったものであり、破棄はやむを得ないので
ある。
 三 ところで、支払能力の有無の認定・判断は、実際には必ずしも容易でない。
 例えば、現物取得者が相当額の銀行預金を有していることが証明されても、他に
債務を負っているか否か、その額等が明らかでなければ、必ずしもその預金によっ
て対価が支払われるとは断定できない。逆に、格別の資産を有していることが明ら
かでなくても、何らかの人的関係によって必要額を調達できる場合もある。
 支払能力の認定・判断とは、結局、将来支払がされるであろう蓋然性の予測であ
るから、右の例だけでも明らかなように、それを確実に証明し、認定することには
本来的な困難が伴うものである。そのため、裁判所が、この予測が将来当たらない
ことを案じて、その認定を厳しく行うことになれば、前示の相当性が認められるに
もかかわらずこの方法が許容されない場合が多くなり、せっかく認められた新しい
方法が画餅に帰するおそれなしとしない。
 四 私は、このようなディレンマを解決する方策が、事案に応じて工夫されてよ
いと考える。
 例えば、原告が競売による分割を求めて共有物分割訴訟を提起したのに対し被告
が全面的価格賠償の方法による分割を求めているという事案において、全面的価格
賠償の方法によることの相当性は十分に認められるし、被告には一応の資産がある
ことも窺われるものの、前述の意味で支払能力が確実にあるとまでは断定できない
としよう。このような場合に、裁判所としては、直ちに競売による分割を命ずるの
ではなく、一例として、次のような趣旨の判決をすることが許されると考えるので
ある。
 すなわち、被告が判決確定後一定の期間内に裁判所の定める一定の額の金員を支
払うことを条件として当該共有物を被告の単独所有とすることとし、当事者からの
申立てに応じて、原告に対し右支払と引き換えに持分移転登記手続を命ずるなどす
るとともに、被告が右所定どおりの支払をしない場合には当該共有物を競売に付し
てこれを分割する旨を命ずるのである。
 右の例において、被告の支払うべき金員の額は、当該共有物の口頭弁論終結時に
おける市場価格を基礎として、これを競売した場合に原告が取得し得るであろう配
当金等の額を下回ることのないように定められるべきである。そうすれば、原告に
とっては、もし被告が任意に右金員を支払えば、競売手続による場合よりも不利に
はならないということができるし、もし被告が右期間内に支払をしなければ、本来
求めている競売による分割が行われることになる。他方、被告にとっては、自ら右
の支払をしさえすれば、求めているとおりの結果を得ることになるのである。
 また、共有物分割訴訟は形成訴訟であるとされているから、右の例の場合を含め、
全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合において、対価取得者に対し
て持分移転登記手続を命ずるためには、当事者からの別訴の提起を待ってこれを併
合することが穏当であろう。対価の額を判断するための資料等も、当事者から提出
されるべきものであって、裁判所の釈明権の行使が期待されるが、それによっても
適正な対価の額を定め得ない場合は、結局、法廷意見のいう「特別の事情」が認め
られないものとして、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されないことに
なるのである。
 五 法廷意見及びその引用する最高裁判例が、全面的価格賠償の方法による共有
物分割が許されるための要件として、現物取得者に対価の支払能力があることを求
めているのは、共有者間の実質的公平を確保するためである。すなわち、現物取得
者に対価取得者の有する共有持分を取得させることとしても、裁判所が適正に定め
る対価が確実に対価取得者に支払われるならば、あたかも分割の方法として競売手
続が選択され、現物取得者が当該共有物を競落した場合と同様の結果となるにすぎ
ず、実質的に、競売による分割の方法について期待されるのと同様の公平性が確保
されるからである。そうだとすると、前記四に例示するような措置をとることによ
っても、結局、右と同様の実質的公平が確保されることは明らかであるから、現物
取得者の対価支払能力を要件とした法廷意見及び判例の趣旨は、何ら損なわれるこ
とはないと考えられる。
 そのほかにも、右の私案には、民事訴訟についての伝統的観念等からする異論が
あるかもしれない。しかし、私は、本来非訟事件である共有物分割訴訟においては、
何らかの実質的な不都合がない限り、弾力的、合目的的な方法が工夫されてよく、
それが全面的価格賠償の方法による共有物分割を承認した最高裁判例の基本的な理
念にかなうものと考えるのである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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