弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1被告は,原告に対し,118万3292円及びこれに対する平成12
年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを10分し,その3を被告の負担とし,その余を原告
の負担とする。
4この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,394万9630円及びこれに対する平成12年8月
9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,遊技場の開店時の混乱に際して客が転倒受傷した事故につき,客で
ある原告が,遊技場の経営者兼所有者である被告に対し,民法415条前段,
709条又は717条に基づき,損害賠償を請求した事案である。
1争いのない事実等
(1)当事者(争いがない)。
被告は,肩書住所地において,Dの名称で遊技場を経営している。
(2)事故の発生(日時及び場所につき争いがない。態様につき原告本人)
下記の事故(以下「本件事故」という)が発生した。。

日時平成12年8月8日午前8時50分ころ
場所岡山県倉敷市de目f番g号所在のDという名称の遊技場以下本(「
件事故現場」という)。
態様原告は,大勢の客とともに開店待ちの客の列に並んでいたが,入口
ドアが開放されたので,店内に入ろうとしたところ,他の客に押し倒
されて転倒し,上部から圧迫された。
(3)原告の治療経過等(原告の受傷及び入院治療につき争いがない。その余
につき甲1)
原告は,本件事故により,右大腿骨頚部骨折の傷害を負い,平成12年
8月8日から同年10月31日までの間,E病院で入院治療を受け,同年
11月1日から同月27日までの間,同病院で通院治療を受けた。
2争点
(1)被告の責任原因
(原告の主張)
ア債務不履行責任又は一般不法行為責任
被告経営の遊技場では,これまでにも入場客が転倒して負傷したことが
再三あり,しかも,本件事故の直前も,開店前から客が並び,入口ドア付
,,,近が混乱する状況が続いていたため原告の知人らは被告の店員に対し
数度,入場客の整理誘導をするよう申し入れていた。
しかるに,被告は,遊技場を経営する者として,遊技契約に付随して客
の安全に配慮する義務があり,また,上記のような経過に照らし,客の入
場の安全性を確保するよう適切に管理する注意義務があったにもかかわら
ず,これを怠り,入場客の整理誘導をせず,幅約90センチメートル程度
の狭い入口ドアを1か所だけ開放し,大勢の客が混乱しながら入場するの
にまかせていた。
したがって,被告は,民法415条前段又は同法709条に基づき,原
告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
イ工作物責任
本件事故現場の入口ドアは,幅約90センチメートル程度と狭い上,一
度に多人数の出入りを予想していない構造になっているなど,遊技場の建
物設備に本来備えるべき安全性を欠く瑕疵があった。
したがって,被告は,民法717条に基づき,原告に生じた損害を賠償
すべき義務がある。
(被告の主張)
ア債務不履行責任又は一般不法行為責任について
被告経営の遊技場では,これまでに客同士が押し合って本件類似の事故
が発生したことはなく,被告は,入場客の誘導整理の必要性を感じたこと
はなかった。
また,他のパチンコ店等の遊技場においても,本件類似の事故の発生は
聞いたことがなく,開店前から並んでいる入場客に対して誘導等の特別な
措置は講じられていない。
そして,本件事故の発生前に,被告経営の遊技場では「2列に並んで,
ください」との張り紙をし,多くの客は,それほど押し合いをすること。
なく店内に入っていた。
さらに,一般的にみても,後ろの客が前の客を押し倒すという状況はよ
くあることとはいえず,本件事故の発生にはかなり特殊な要因があったこ
とも否定できない。
以上の諸事情に照らすと,本件事故の発生について,被告に過失がある
とは直ちにいい難い。被告としては,客同士が押し合うことは予測できて
も,客が転倒することまでは予測せず,ましてや客が骨折することまでも
予測していなかった。
したがって,被告には,民法415条前段又は同法709条に基づき,
原告に生じた損害を賠償すべき義務はない。
イ工作物責任について
,,,被告経営の遊技場は建築基準法上の建築確認を経た建物でありかつ
その営業は,風俗営業法上の許可を得てなされているものであって,遊技
場の建物設備に本来備えるべき安全性を欠く瑕疵があるとはいえない。
したがって,被告には,民法717条に基づき,原告に生じた損害を賠
償すべき義務はない。
(2)原告の損害額
(原告の主張)
ア治療費20万8230円
イ休業損害138万1400円
ただし,平成11年度給与収入414万4250円の約4か月分
ウ慰謝料200万0000円
エ弁護士費用36万0000円
よって,原告は,被告に対し,損害額合計394万9630円及びこれに
対する不法行為の日の後である平成12年8月9日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
ア治療費について
認める。
イ休業損害について
原告の本件事故前3か月間の給与収入は49万5000円であり,原告
の入通院期間85日分の合計46万7500円の限度で認める。
ウ慰謝料について
100万円の限度で認める。
エ弁護士費用について
不知。
(3)過失相殺の当否及び程度
(被告の主張)
原告は「2列に並んでください」との張り紙を無視して,他の客に先,。
立ち入場しようとしたものである。
本件事故は,原告が被告による整列入場の呼び掛けを無視したことによっ
て発生したものであり,原告の過失は大きく,少なくとも7割の過失相殺が
なされるべきである。
(原告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1前記争いのない事実等に,証拠(甲4,乙1,2〈書証については枝番を含
む。以下同じ,証人F,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の。〉
事実が認められる。
ア原告は,本件事故当時,Gに勤務し,とび職として稼働していた。
被告は,遊技場の経営等を目的とする会社であり,肩書住所地において,
Dの名称で遊技場を経営している。
イ本件事故現場は,岡山県倉敷市de丁目f番g号所在のDという名称の遊
技場(以下「本件遊技場」という)であり,その概況は別紙図面のとおり。
である。
本件遊技場は,鉄骨コンクリートブロック造陸屋根3階建の建物であり,
1階の全部が営業所で,そこに多数のスロットマシンが設置されている。
本件遊技場の1階には,東西に出入口がもうけられており,客は,東側の
出入口を利用する場合には,戸外に面した2つの自動ドアのいずれかを通過
し,風除室を経て,更に2つの両開き戸のいずれかを使用して,営業所に入
場することになる。他方,西側の出入口を利用する場合には,北側又は南側
の幅約90センチメートルの自動ドアを通過し,風除室を経て,更に1つの
片開き戸を使用して,営業所に入場することになる。
ウ原告は,平成12年8月8日午前7時40分ころ,本件遊技場の1階でス
ロットマシンをするため,本件遊技場を訪れたが,既に十数人の先客が西側
の出入口の北側付近で開店待ちの列を作っていたことから,これに従ってい
たところ,次第に客が増えていき,七,八十人の客が順番待ちで押し合うよ
うな状況になった。同日午前8時50分ころ,西側の出入口の北側ドアが開
放されたので,原告は,大勢の客とともに店内に入ろうとしたところ,他の
客に押し倒されて転倒し,上部から圧迫された。
なお,本件全証拠によっても,被告の従業員は,開店待ちの入場客の整理
誘導等をしたことを認めるに足りず,かえって,上記北側ドアを手動で開放
した後は,その場から直ちに離れ,大勢の客が混乱しながら入場するのにま
かせていたことが認められる。
,,エ本件遊技場ではこれまでにも開店前に入場客が密集状態となって待機し
開店時に入場客が転倒して負傷したことが数回あった。
,,,,,また本件事故の直前にも原告の知人らは被告の従業員に対し数度
入場客の整理誘導等をするよう申し入れていたが,聞き入れられなかった。
オ本件事故後,被告は,西側の出入口の北側ドア付近の通路沿いにトラロー
プを張り,あるいは,従業員をして客を少しずつ店内に入れるようにするな
どして,入場客の整理誘導等をするようになり,以後,本件類似の事故は発
生していない。
2上記認定の事実によれば,被告は,本件遊技場の経営者兼所有者として,本
件遊技場をスロットハウスとして営業しているが,本件遊技場では,これまで
にも開店前に入場客が密集状態となって待機し,開店時に入場客が転倒して負
傷したことが数回あったこと,本件事故の直前も,開店前から客が並び,入口
,,,ドア付近が混乱する状況にあったため原告の知人らは被告の従業員に対し
数度,入場客の整理誘導をするよう申し入れていたことがあったことが認めら
れ,これらの事実にかんがみると,このままでは多数の入場客が無秩序に店内
へ押し寄せることが予想されるのであるから,被告は,入場客に対し,安全性
の確保された施設を用意し,又は,施設の安全性を確保するように管理すべき
注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,入場客に対する整理誘導等の
措置を講ずることなく,幅の狭い入口ドアを1か所だけ開放し,大勢の客が混
乱しながら入場するのにまかせていた過失により,本件事故を発生させたもの
,,。であって民法709条に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある
3この点につき,被告は,本件遊技場では,これまでに客同士が押し合って本
件類似の事故が発生したことはなく,入場客の誘導整理の必要性を感じたこと
はなかったと主張するが,証人F及び原告本人は,その尋問結果において,こ
れと相反する旨の供述をしているところ,これらの供述を虚偽であるとして排
斥するに足りる事実や証拠は認められないから,前提事実を異にするというべ
きである。
また,被告は,他のパチンコ店等の遊技場においても,本件類似の事故の発
生は聞いたことがなく,開店前から並んでいる入場客に対して誘導等の特別な
措置は講じられていないとも主張するが,本件類似の事故に遭遇した入場客が
パチンコ店の従業員に必ずしも届出をしないことも十分考えられるところであ
り,被告主張の事実は上記認定を左右するものではない。
そして,被告は,本件事故の発生前に,本件遊技場では「2列に並んでく,
ださい」との貼り紙をしていたなどと主張するが,証人F及び原告本人の反。
対趣旨の各供述に照らし,直ちに採用することができず,他にこれを認めるに
足りる証拠はない。
さらに,被告は,一般的にみても,後ろの客が前の客を押し倒すという状況
はよくあることとはいえず,本件事故の発生にはかなり特殊な要因があったこ
とも否定できないと主張する。確かに,後述のとおり,原告は,本件遊技場に
入場するに際して混乱は避けられないことを予想しながら,大勢の客とともに
店内に入ろうとしており,順番待ちの列に入らなければ本件事故の発生を回避
できた可能性があり,原告にも相当程度の過失があったことが認められる。し
かしながら,開店前のスロットハウスで列を作って順番待ちをするといったこ
とは,通常よく見かける光景であり,また,本件全証拠によっても,原告の行
動が一般社会通念を著しく逸脱し,また常軌に反したものであったとは認める
ことができないのであるから,本件事故の発生が原告の不注意のみに起因する
ものと断定することはできず,したがって,これをもって被告に責任原因がな
かったということはできない。
したがって,被告の上記主張はいずれも採用できない。
4損害額(過失相殺前)
そこで,更に進んで,原告の損害額について検討する。
(1)治療費20万8230円
証拠(甲2)によれば,本件事故により,原告に治療費として20万82
30円の損害が発生したことが認められる。
(2)休業損害100万0000円
原告は,休業損害として,平成11年度給与収入414万4250円(月
額・34万5354円)の約4か月分138万1400円を請求する。
しかし,証拠(甲5,6)によれば,原告の平成12年1月分ないし同年
8月分の賃金合計は198万4500円(月額・24万8062円)である
ことが認められ,この事実に照らすと,休業損害の算定に当たり,本件事故
前の実収入を原告主張のとおりの所得額とすることは相当でない。
もっとも,この点につき,被告は,原告の本件事故前3か月間の給与収入
49万5000円(月額・16万5000円)を基礎とすべきである旨主張
,(,,,),,,するが証拠甲356原告本人によれば原告は長年にわたり
とび職として勤務し,相当程度の収入を得ていたことが認められ,たまたま
賃金が低減した本件事故前3か月間の給与収入をもって,本件事故前の実収
入とすることは,公平にかなわないというべきである。
そして,上記争いのない事実等により認められる原告の入通院期間に照ら
し,原告の休業期間は約4か月とみるのが相当である。
したがって,原告の平成12年1月分ないし同年8月分の賃金合計198
万4500円の約4か月分である100万円の限度で認めることとした。
(3)慰謝料150万0000円
原告は,本件事故により,勤務会社を退職し,事実上,とび職として稼働
できなくなったこと,そのため,現在,無職で,生活保護を受給している状
況にあること,原告の受傷の部位,内容,程度,通院期間,その他一切の事
情を考慮し,慰謝料として150万円を認めるのが相当である。
5過失相殺
証拠(証人F,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,これま
でにも開店前に入場客が密集状態になって待機し,入場客が転倒して負傷した
,,,のを見ていながら自らその中に入って開店を待っていたこと開店と同時に
前後の客とともに店内に入ろうとしたこと,順番待ちの列に入っていなければ
本件事故の発生を回避できた可能性があることなどの事実が認められ,これら
の事実にかんがみると,原告に生じた損害のすべてを被告の負担とするのは公
平に失するといわざるを得ない。
もっとも,被告においても,本件事故後に実施しているとおり,本件遊技場
の西側の出入口の北側ドア付近の通路沿いにトラロープを張り,あるいは,従
業員をして客を少しずつ店内に入れるようにするなどして,入場客の整理誘導
等をすることは,費用や労力等の点で比較的容易であり,かつ,事故の発生を
回避する上でも有効であるから,原告の過失を余りに大きなものとしてみるの
も妥当ではない。
よって,本件においては,本件事故の態様・原因,その他一切の事情を斟酌
し,6割の過失相殺を行うのが相当である。
6損害額(過失相殺後)
以上掲げた原告の損害額の合計は,270万8230円であるところ,前示
の次第でその6割を控除すると,108万3292円となる。
7弁護士費用
本件事故の態様,本件の審理経過,認容額等に照らし,被告に負担させるべ
き弁護士費用は10万円が相当である。
8まとめ
よって,原告の損害賠償請求権の元本金額は,118万3292円となる。
9結論
以上によれば,原告の本件請求は,118万3292円及びこれに対する不
法行為の日の後である平成12年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,主文のとおり
判決する。
岡山地方裁判所倉敷支部
裁判官中川博文
(別紙添付省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛