弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、控訴人に対し、平成七年一一月一六日付でした情報非開示決定を
取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文と同旨
第二 事案の概要
 本件事案の概要は、原判決の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、こ
れを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 戸籍事務について
1 戸籍事務は、日本国民の国籍及び出生・婚姻・縁組等の公法上又は私法上の身
分関係を戸籍簿等に記載し、公証する事務であり、その性質上全国的に統一的な取
扱いが要請されるから、国の事務とされ、法務省がこれを所掌している(法務省設
置法二条五号、三条七号参照)。そのために、法務省には、戸籍等に関する国の行
政事務を分掌する法務局及び地方法務局が置かれている(同法八条一項)。
2 しかし、戸籍に関する事務は、広く国民生活全般にかかわりをもち、その利用
者の便宜等を考慮する必要があるために、市町村長又は区長が、国の機関として、
これを管掌することとされている(戸籍法一条、四条)。
 したがって、戸籍事務は、市町村長等が管掌するものではあるが、国のいわゆる
機関委任事務に属し(地方自治法一四八条一項、三項、別表第四、二、(四)。な
お、地方自治法二条三項一六号は戸籍事務を同法二条二項の事務として掲げている
が、右規定をもって戸籍事務が機関委任事務ではないということはできない。)、
市役所又は町村役場等の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長の監督を受け
る(戸籍法三条、四条。なお、国家行政組織法一五条一項、地方自治法一五〇条参
照。)。
二 戸籍事務にかかる情報の開示について
1 右にみたように、戸籍事務は、もともと国の事務であり、法律により市町村長
等の権限に属することとされた機関委任事務であるから、市町村等の議会は、戸籍
事務の管理執行についてはもちろん、後記2、(三)、(1) に説示するところ
から明らかなように、戸籍簿等の管理ないし開示についても条例を制定することは
できない(地方自治法一四条一項)。
2(一) それでは、市町村長等が戸籍事務(機関委任事務)を管掌する際に保有
することとなった内部事務処理文書(以下単に「内部事務処理文書」という。本件
文書もこの内部事務処理文書に含まれる。)の管理ないし開示は、戸籍事務の管理
執行や戸籍簿等の管理ないし開示とは別であって、専ら地方自治法二条二項の公共
事務(いわゆる固有事務)に属するとして、市町村等の議会がこれについて条例を
制定することができるであろうか。
(二) 地方自治法一四九条八号は、市町村長等の担任事務として「公文書類を保
管すること」を掲げているが、右の「保管」は、「保存」とも「管理」とも異な
り、公文書類を自己の支配下に保持し、その滅失、毀損を防ぐという消極的な趣旨
を有するにすぎないから、右の規定を根拠として、市町村等が内部事務処理文書の
管理ないし開示について条例を制定することができると解することは困難である。
(三) また、そもそも戸籍事務の管理執行や戸籍簿等の管理ないし開示と内部事
務処理文書の管理ないし開示とは密接不可分な関係にあるから、両者を右のように
判然と区別することができるかについては相当疑問がある上、仮に両者の性質が異
なるという前提に立つとしても、内部事務処理文書の管理ないし開示は、機関委任
事務としての性質と固有事務としての性質とを併有するといわざるを得ないとこ
ろ、むしろ前者の性質が後者の性質より強いことを否定することができない。
 このことは、(1) ① 戸籍法は、一〇条、一二条の二において戸籍謄本、除
籍謄本等の交付請求について、四八条二項において市町村長等の受理した書類の閲
覧等の請求について、一一八条において戸籍事務の処分にかかる不服申立てについ
てそれぞれ規定しているほか、一二五条において届書その他戸籍事務の処理に関し
必要な事項を命令に委任し、② 当該命令(戸籍法施行規則)は、戸籍簿、除籍簿
のほか戸籍に関する帳簿、届書その他の書類の管理、保存について詳細に規定し、
さらに、四八条二項において一定の届書、申請書等について監督法務局等への送付
を、八○条二項において市町村の区域の変更に伴う書類の引継ぎについて監督法務
局等への報告をそれぞれ義務づけていること等を併せ考えると、③ 結局、戸籍法
及び戸籍法施行規則は、戸籍事務にかかる文書のうち基本的なものを含む相当広範
囲なものの管理ないし開示についてこれを機関委任事務としているから、その余の
付随的な文書、即ち内部事務処理文書の管理ないし開示についてもこれを機関委任
事務としているのではないかと窺われること、(2) 内部事務処理文書の管理な
いし開示が専ら固有事務に属すると解すると、市町村等の議会が、戸籍事務につい
て最終的な責任を負う国の意思とは別に、しかも市町村ごとに、かつ、独自に、内
部事務処理文書を開示の対象とするか、その非開示事由をどうするか等について決
定することになるが、そのことは、国民の間に無用の混乱と不平等感とを招き、極
めて好ましくない結果をもたらすこと、(3) ちなみに、内部事務処理文書のな
かには本件文書が含まれるところ、本件文書は被控訴人の疑義に対する指示の請求
に応えて交付されたものであって、従前の通達、取扱いとの関係でなお議論の余地
のある問題に関するものである(甲一〇、一一、一三及び弁論の全趣旨。なお、後
記三で引用する原判決の「第三 当裁判所の判断」二、3後段参照。)こと等にか
んがみれば明らかである。
3 以上のようにみてくると、機関委任事務一般にかかる情報の管理ないし開示に
ついてはともかく、戸籍簿等の管理ないし開示は機関委任事務そのものに属する
し、戸籍事務にかかる内部事務処理文書の管理ないし開示は機関委任事務としての
性格を強く帯び、その反面として固有事務としての性格が薄弱であり、かつ、これ
らの文書について開示を相当と解すべき根拠もない。
 そして、本件条例には戸籍事務にかかる文書を対象とするかどうかについての特
段の規定は置かれていないから、ひるがえって考えてみると、本件条例は、そもそ
も戸籍事務にかかる文書はすべてこれを閲覧等の開示の対象にすることはできない
し、またこれを閲覧等の開示の対象にしていないと解すべきである。
 そうすると、控訴人は、本件条例に基づいて、本件文書の開示を請求することが
できないこととなるから、控訴人の請求は、失当として排斥を免れない。
三 本件文書の非開示事由該当性について
 当裁判所の本件訴訟に対する判断は、右二で説示したとおりであるが、本件非開
示決定ないし本件訴訟の経緯にかんがみて、念のために、本件文書の非開示事由該
当性についても判断する。
 この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほか、原判決四四頁六行
目から五三頁七行目までと同じであるから、これを引用する。
1 原判決四七頁三行目の「明らかにしている」から同頁四行目末尾までを「明ら
かにしている(乙六、七)。」と改める。
2 原判決四七頁七行目の「服するものであるが(戸籍法三条、四条)」から四八
頁二行目の「あてはまるものであるから、」までを「服するものである(戸籍法三
条、四条)から、」と改める。
3 原判決四九頁八行目の「本件非開示の指示」から同頁末行までを「そして、」
と改める。
四 結論
 以上説示したところによれば、本件開示請求に応じないとした本件非開示決定は
結局適法というべきである。
 そして、原判決はその理由において一部不当なところがあるが、結論において正
当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決
する。
(平成一一年一月二一日 口頭弁論終結)
東京高等裁判所第一〇民事部
裁判長裁判官 増井和男
裁判官 岩井俊
裁判官 小圷眞史

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛