弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2小田原税務署長が平成19年4月25日付けで控訴人に対
してした,平成17年分の所得税の更正の請求に係る更正を
すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
3訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
主文と同旨
2被控訴人
()本件控訴を棄却する。1
()控訴費用は控訴人の負担とする。2
第2事案の概要等
1本件は,宅地を譲渡したとしてその譲渡所得に対する所得税の確定申告を
した控訴人が,当該譲渡は租税特別措置法(以下「措置法」という)35。
条1項(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ)に定め。
る居住用財産の譲渡所得の特別控除の要件を満たすとして,国税通則法(以
下「通則法」という)23条1項に基づいて更正をすべき旨の請求をした。
ところ,税務署長から更正すべき理由がない旨の通知処分を受け,その後の
異議申立て及び審査請求がいずれも棄却されたことから,上記通知処分の取
消しを求めた事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却するとの判決をした。
そこで,これを不服とする控訴人は,上記裁判を求めて控訴した。
2本件の「関係法令の定め「争いのない事実等「被控訴人が主張する」,」,
控訴人の課税長期譲渡所得金額及び同税額」及び「本件の争点及び争点に関
する当事者の主張」は,次項以下において当審における当事者双方の主な主
張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要等」の
「2関係法令の定め「3争いのない事実等「4被告が主張する」,」,
原告の課税長期譲渡所得金額及び同税額」及び「5本件の争点及び争点に
関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
3当審における控訴人の主な主張
()措置法35条1項の解釈について1
ア特例の趣旨−自己の所有する住居を失った個人の保護
措置法35条1項は,原判決も正しく説示しているとおり,個人が自
ら居住の用に供している家屋又はその敷地等を譲渡するような場合は,
これに代わる居住用財産を取得するのが通常であるなど,一般の資産の
譲渡に比して特殊な事情があり,担税力も高くない例が多いことなどを
考慮して設けられた特例である(原判決16頁。要するに,措置法3)
5条1項は,自己の所有する住居(居住用の土地・建物)を譲渡して自
己の所有する住居を失った個人は「住居の再取得の必要性」が生じる,
など「担税力が高くない」ことを考慮して,その個人を保護する政策目
的で設けられた規定である。したがって,措置法35条1項の解釈は,
このような趣旨に従い解釈されなければならない。実際,これまで,実
務や裁判例において,形式的な解釈を行うのではなく,制度趣旨に照ら
した解釈がなされてきている。
イ居住用土地のみの譲渡
措置法35条1項は,個人が,その居住の用に供している家屋をその
敷地の用に供されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊した
上,当該土地のみの譲渡をした場合にも適用がある(原判決17頁。)
これは,措置法35条1項の立法趣旨から,①個人が,自己の所有する
住居(土地・建物)を売却するため,建物を取壊し更地となった土地を
,,売却するという一連の行為を行った場合にも個人は一連の行為の結果
自己の所有する住居を失い「住居の再取得の必要性」が生じその個人の
「担税力が高くない」ため,その個人を保護する必要性があるからであ
り,②自己の所有する住居(土地・建物)を売却する方法として「建物
」,を取り壊して更地として売却した場合にも税制上の保護を与えないと
実質上,自己の所有する住居の処分に制限が加わることになり相当では
ないからである。つまり,条文を形式的に読めば建物を取壊して更地と
なった土地を売却することは「家屋をその敷地の用に供されている土,
地とともに譲渡をした」には該当しないのではないかとの疑問が生じる
が,住居の売却方法として建物を取壊して更地となった土地を売却する
という一連の行為による譲渡方法を認めないと,自己の所有する住居の
売却によって自己の所有する住居を失い新たな住居を取得する必要性が
生じた個人を保護することができないから,立法趣旨から,この場合に
も要件を満たすと解されているのである。したがって,自己の所有する
住居の売却のための一連の行為の結果,自己の所有する住居を失い,新
たな住居の取得の必要性が生じる場合には,措置法35条1項の適用が
あるのであって,措置法35条1項の適用の有無の判断基準は「一連,
の行為の結果,自己の所有する住居を失い,新たな住居の取得の必要性
が生じたかどうか」である。
ウ単独所有の家屋の一部取壊しの議論
単独所有の居住用の家屋の一部を取壊し,更地となった敷地を売却す
る場合については,全部取壊しの場合とは異なり,個人は,自己の所有
する居住用家屋の権利全てを失うのではなく,その一部を保持している
から,措置法35条1項の適用はできないのではないかとの論点が生じ
てくる。しかし,この点についても,自己の所有する住居を失い,住居
の再取得の必要性が生じる個人の保護という立法趣旨から,残存家屋が
物理的にみて居住可能でない場合には,たとえ所有権を有する残存家屋
,。,が存続しても措置法35条1項の適用は認められているこのように
物理的に居住可能かという論点が生じるのは,自己の所有する建物が存
続する場合だけであって,自己の所有する建物が存在しない場合には当
然措置法35条1項の適用はあるから,物理的な居住可能性の要件の論
点は生じてこない。
エ共有物である住居の売却
共有物である住居(土地建物)の持分を全部譲渡する場合,他の共有
,,者もその処分に同意する場合には他の共有者と共に土地建物を売却し
あるいは,建物全部を取壊して更地となった土地を売却することができ
る。また,他の共有者が同意すれば,個人の有する住居の持分全部を他
の共有者に売却することもできる。これらの場合について,措置法35
条1項の適用があることについて争いはない。
しかし,他の共有者が上記の同意をしない場合には,建物の一部を取
壊して,残存家屋とその敷地の単独所有権を他の共有者に取得させ,自
らは更地となった土地の所有権を取得するという方法で共有物の分割を
行い,その更地となった土地を売却する以外には共有物である住居の譲
渡方法はない。この場合も,①個人は一連の行為の結果,自己が持分を
有する住居を失い「住居の再取得の必要性」が生じその個人の「担税力
は高くない」ため,その個人を保護する必要性があるし,また,②自己
が持分を有する住居(土地・建物)を売却する方法としてかかる一連の
行為により更地となった土地を売却した場合にも税制上の保護を与えな
いと,実質上,共有物である住居の処分に制限が加わり,共有者の保護
を単独所有者に比べ不当に低くすることになって相当ではない。したが
って,措置法35条1項は,その立法趣旨から,上記の一連の行為によ
り更地となった土地を売却した場合にも,当然に適用があるといえる。
上記の一連の行為により共有物である住居の持分の全部を譲渡する場合
は,単独所有の建物を一部取壊した場合と,建物を一部取壊していると
いう表面上の共通性はあるが,前者の場合には,個人は住居の権利全部
を譲渡しているのに対し,後者の場合には住居の一部譲渡であるという
大きな相違がある。後者の場合には,一部譲渡であるがゆえに,権利を
有する残存家屋が居住可能かという物理的形状の論点が生じることにな
るが,前者の場合には,そもそも全部譲渡しているがゆえに物理的形状
の論点は生じない。
オ小括
以上のとおり,共有物である住居の持分全部の譲渡は,持分の全部譲
渡であるのに,単独所有である住居の一部譲渡について定立されている
規範をあてはめた点において,原審は法令の解釈適用を誤っている。
()形式的な判断である点について2
共有物である住居(土地建物)について,その建物の一部を取壊して,
「残存家屋+敷地」と「更地」の2つに分け,共有者間で共有物を分割す
る場合,形式的には,この分割中の一時点で,残存家屋の持分を共有者全
員が有している時点が生じる。原審は,その時点を形式的にとらえ,残存
家屋に対する持分を控訴人が有したとする。
しかし,控訴人と訴外Aは,共有物である住居(土地建物)を「残存家
屋+敷地」と「更地」の2つに分け「残存家屋+敷地」をAが取得し,,
「」,更地を控訴人が取得するという方法で共有物の分割を行ったのであり
残存家屋についての控訴人の持分全部のAへの贈与は対抗要件としての登
記を備えるための法技術ないし便法にすぎない。
かかる形式的な理由により,住居の持分全部を譲渡し,その結果自己の
,,所有する住居を失い新たに住居を取得する必要の生じた控訴人に対して
措置法35条1項の適用を拒否することは,立法趣旨に反し,著しく不当
である。
()事実誤認について3
原判決は「本件家屋部分が取り壊された時点でAが当然に本件残存家,
屋部分につき単独で所有権を有することとなるとする合意等がされたこと
を認めるに足りる証拠はない」との事実認定を行った。。
しかし,本件建物の一部を取壊し,残存家屋の単独所有権をAが取得す
ることについて,事前の合意があったことは,多数の証拠(甲3号証,4
号証の5,6,13号証)が存在するうえ,その事実の存在を否定する証
拠は存在しない。しかも,被控訴人もこの事実につき「不知」と述べるの
みで積極的には争っていない。
以上のとおり,共有物である建物を取壊して残存家屋の単独所有権を訴
外Aに取得させその登記を行うことについて,当事者間に同意があったこ
とは証拠上明らかであり,原判決には事実誤認がある。
4当審における被控訴人の主な主張
⑴措置法35条1項及びその運用通達の解釈について
措置法35条1項は,本件特別控除の特例の対象として「個人が,そ,
の居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡若しくは当該家屋
とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存
する権利の譲渡」を規定し,土地等のみの譲渡については「災害により滅
失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存
する権利の譲渡」に限って対象とすると規定しており,居住用家屋の譲渡
を伴わない土地のみの譲渡については,当該居住用家屋が災害によって滅
失した場合を除いて本件特別控除の適用を受けることを想定していないも
のである。
もっとも,家屋の存する土地の取引において,当該家屋を必要としない
買主が,当該家屋を売主の負担において取り壊すことを求めることがしば
しば見られるとの不動産取引の実態に照らし,その土地を更地として譲渡
する目的で居住用家屋を取り壊した上,当該土地のみを譲渡した場合につ
いては,居住用家屋をその敷地の用に供されている土地とともに譲渡した
場合に準ずるものとして,措置法通達により,一定の条件のもと,本件特
別控除の適用対象として取り扱われている。
さらに,当該家屋の一部のみの譲渡であっても,その一部譲渡の後に残
った部分が機能的にみて独立した居住用家屋と認められない場合には,譲
渡人は,その譲渡によって居住用家屋を失うこととなるから,その譲渡は
当該家屋の全部の譲渡とみるのがその実態に合致する。そこで,通達上で
は,その居住の用に供している家屋又は当該家屋でその居住の用に供され
なくなったものを区分して所有権の目的としその一部のみを譲渡した場合
又は2棟以上の建物から成る一構えのその居住の用に供している家屋のう
ち一部のみを譲渡したような場合には,当該譲渡した部分以外の部分が機
能的にみて独立した居住用家屋と認められない場合に限り,当該譲渡は,
居住用家屋の全部の譲渡と同視できるとして,措置法35条1項が規定す
る譲渡に該当するものとして取り扱うことにしたものである。
このように,措置法35条1項は,例外的に認められる優遇措置である
ことからすれば,租税負担公平の原則から不公平の拡大を防止するため,
解釈の狭義性,厳格性が要請されるというべきであり,当該規定を受けた
措置法通達35−2及び同35−5で準用する同31の3−10は厳格に
適用されるべきであり,疑義を差しはさむことのないような形式的基準を
もって運用されるべきものである。
⑵控訴人の事実誤認の主張について
控訴人は,本件家屋部分が取り壊された時点でAが当然に本件残存家屋
部分について単独で所有権を有することにする旨の事前の合意(以下「本
件合意」という)があったと主張するが,上記事前の合意があったこと。
の証拠として提出された控訴人の弟であるBの日記には,具体的に控訴人
とAが合意したことを示すような記載は認められず,そのほか,控訴人と
Aとが事前に上記合意に至ったことを示す客観的な証拠は認められないか
ら,原判決の認定が事実誤認であるとする控訴人の主張は失当といわざる
を得ない。
仮に,本件合意があった場合,本件家屋部分の取壊し時点において,A
は,当然に残存家屋部分につき単独で所有権を有することになるため,本
件家屋部分の取壊しをもって控訴人の居住用家屋の全部を取り壊したとみ
ることができるようにも思われる。しかしながら,措置法35条1項は,
例外的に認められる優遇措置であることからすれば,租税負担公平の原則
から不公平の拡大を防止するため,解釈の狭義性,厳格性が要請されると
いうべきであり,実質に踏み込まないとその有無を判断できない本件合意
を,その解釈に持ち込むべきではないというべきである。
また,本件合意があったとしても,本件建物は,本件家屋部分と本件残
存家屋部分とに区分して所有できる構造にはなかったのであるから,本件
合意の内容は,本件家屋部分の取壊しと同時に本件残存家屋部分に係る控
訴人の共有持分4分の1を,Aへ移転することを内容とするものと解さざ
るを得ない。そうすると,取り壊された本件家屋部分は,控訴人とAが共
有する家屋の一部分であると解さざるを得ず,また,本件残存家屋部分に
係る控訴人の共有持分は,取壊しではなく,Aへの共有持分の移転により
失われたものと解さざるを得ない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
第2の2で引用した原判決の「3争いのない事実等」の事実に加え,後
記認定事実中に掲記した各証拠と弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら
れる。
⑴本件建物は,昭和39年12月ころ,旧×番1の土地上に建築された。
当時の本件建物の所有者はCであり,控訴人は,Cらとともに,同年か
ら本件建物に居住していた(甲3,甲13,乙4,乙5)。
⑵昭和49年7月ころ,本件建物の2階部分が増築されるとともに,同月
15日,本件建物の持分4分の3がDに贈与された。Dは,遅くとも同
年までに,妻であるAや両名の子とともに,本件建物に居住するように
なった。その頃,CとDの間の話し合いで,控訴人を含むCの家族が本
件建物のうちおおむね本件土地上に位置する原判決添付別紙図面の赤色
部分を使用し,Aを含むDの家族が原判決添付別紙図面の青色部分を使
用することとなり,以後は,本件建物の使用につき,そのような居住形
態がとられてきた(甲3,甲13,乙4,乙6,弁論の全趣旨)。
⑶増築後の本件建物の構造は原判決添付別紙図面のとおりであり,その1
階に本件共用部分と4部屋の居室が設けられるとともに,その2階には
2部屋の居室が設けられていた。なお,増築後における本件建物の登記
簿上の床面積は,1階が88.41平方メートル,2階が33.05平
方メートルであった(甲3,甲5,甲13,乙4)。
⑷Cの死亡後,相続人間で,同人の相続財産に関する遺産分割協議がされ
たが,平成▲年▲月▲日にDが死亡したため,いったん遺産分割協議が
中断した。その後,平成15年6月ころから,Cの相続財産に関する遺
産分割協議が再開されたところ,同月当時,控訴人及びAが本件建物に
居住していたが,本件建物については,控訴人が本件建物のうちおおむ
ね本件土地上に位置する原判決添付別紙図面の赤色部分を使用し,Aが
。,,原判決添付別紙図面の青色部分を使用していたまた本件建物の玄関
台所,風呂及びトイレは控訴人とAが共用していた。なお,控訴人及び
Aが本件建物に居住していた間,本件建物への水道及び電気の供給に係
る契約はA名義でされていたが,控訴人は自己の負担すべき分として,
Dの死亡後はその半額をAに対して支払っていた(甲3,甲13,乙。
5,乙6,乙9ないし乙13,弁論の全趣旨)
⑸遅くとも平成15年8月ころまでには,Cの相続財産であった本件建物
の持分及び旧×番1の土地に関する遺産分割の方法として,①旧×番1
の土地を2筆の土地に分筆し,その一方を控訴人が,他方をAが取得す
ること,②本件建物の持分4分の1を控訴人が取得すること,③本件建
物のうちおおむね控訴人が取得する土地上にあるその使用に係る部分を
取り壊すことが検討されるようになった(甲3,甲6,甲13,弁論。
の全趣旨)
⑹平成15年11月1日ころ,Cの相続財産について,控訴人,B,A,
(「」。),E及びFの間で遺産分割協議が成立し以下本件遺産分割という
控訴人が分筆される予定の本件土地の所有権及び本件建物の持分4分の
1を取得する一方,Aが上記の分筆後の原判決別紙物件目録2記載の土
地の所有権を取得するものとされた。なお,Dが生前有していた本件建
物の持分4分の3は,同人の死亡に伴いAが相続により取得していた。
(甲3,甲8ないし甲13,乙4)
⑺その後,旧×番1の土地について原判決第2の3()に述べた各登記が4
され,控訴人は,遅くとも平成16年6月20日ころまでの間に,本件
建物から転居した。その頃,控訴人とAは,本件建物を二つに分割し,
控訴人が取得する本件建物の分割部分を取り壊すとともに,それぞれの
居住部分に対応して旧×番1の土地を二筆に分筆し,控訴人が取得する
土地についてはこれを更地にしたうえで第三者に売却し,控訴人がその
売却代金を取得して転居することとし,一方でAは,旧×番1の残りの
土地と同地上の残存家屋を取得する旨の合意(以下「本件建物取毀し,
に関する合意」という)をした(甲3,甲4の5,6,甲13,甲1。。
7の1ないし7,甲18の1ないし16,乙4,乙5,乙9,弁論の全
趣旨)
⑻平成16年6月29日ころから同年7月4日ころまでの間に,本件家屋
部分の取壊しがされた。取壊し後の本件残存家屋部分の1階には本件共
用部分及び2部屋の居室が残存するとともに,その2階には取壊し前の
居室が従前どおり残存した。そして,Aは,上記取壊し後の本件残存家
屋部分に居住し続けた。なお,本件家屋部分を取り壊した旨の表示の登
記の変更登記は,同年8月17日付けで,同年7月20日の変更等を原
因としてされたところ,取壊し後の本件建物の登記簿上の床面積は,1
.,.。階が6958平方メートル2階が3305平方メートルであった
(甲3,甲4,甲13,乙4,乙6,乙7,乙10,乙12)
⑼控訴人は,平成16年7月7日,本件建物の持分4分の1につき,Aに
対し同月3日贈与を原因とする所有権移転登記手続をしその後に(),,,8
に述べたように本件建物につき表示の登記の変更登記がされた(甲3,。
甲13,乙4)
なお,被控訴人は,本件建物取毀しに関する合意の成立を争っているが,
上記認定の控訴人とAの本件建物一部取り毀しに至るまでの本件建物での居
住の実情とその経緯,本件遺産分割の内容,さらに,実際に本件建物がAの
居住部分を除いて取り壊され,控訴人が本件建物から転居するに至った経緯
に照らすと,前記⑺で認定したとおり,本件合意がなされたとみるのが当事
者の合理的意思解釈として素直な見方というべきでありこれに沿う証拠甲,(
3,甲4の5,6,甲13,甲17の1ないし7,甲18の1ないし16)
も存在するものである。もっとも,その後本件建物の控訴人の共有持分4分
の1について,Aに対し,平成16年7月7日付けで,同月3日贈与を原因
とする所有権移転登記が経由されていることは,本件合意の存在と矛盾する
との見方もあり得ると思われる。しかしながら,当事者間の合意としては,
一棟の建物の一部についてその所有権を移転することは可能というべきであ
り,実際に移転部分についてこれを建物として取得し,登記上も反映させる
ためには区分建物としての実態を整えるための作業が必要となるところ,最
終的には取り毀しが予定されていたためにそのような措置を採らず,本件建
物取毀しに関する合意を踏まえて本件のような便宜の登記が経由されたとみ
るのが相当である(本件合意の趣旨からすると,当事者の合理的意思解釈と
しては,本件建物の一部取り毀しに際しては,その部分に対するAの共有持
分の放棄がなされることとの見合いで,残存家屋部分に対する控訴人の共有
持分の放棄がされることが合意されていたとみるべきであり,贈与ではなく
放棄としたほうが権利の実体に沿うものである。そして,他に本件合意。)
の成立についての上記認定を覆すに足る証拠はない。
2本件譲渡に本件特別控除の適用があるといえるか。
⑴措置法35条1項に定める本件特別控除は,個人が自ら居住の用に供し
ている家屋又はその敷地等を譲渡するような場合は,これに代わる居住用
財産を取得するのが通常であるなど,一般の資産の譲渡に比して特殊な事
情があり,担税力も高くない例が多いことなどを考慮して設けられた特例
であると解される。そして,措置法35条1項は,土地又はその土地上に
存する権利の譲渡に関しては,災害により当該土地の上に存する家屋が滅
失した場合を除いては,個人の居住の用に供し,又は供されていた家屋が
現存し,かつ,その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲
渡がされる場合を本件特別控除の対象としており,家屋を任意に取り壊す
などした上でその敷地の用に供されていた土地のみの譲渡をする場合につ
いては,直接の定めが置かれていない。
ところで,その上に家屋の存する土地の取引において,当該家屋を必要
としない買主が,当該家屋を売主の負担において取り壊すことを求めるこ
とがしばしば見られるのは公知の事情であり,上記に述べた措置法35条
1項の趣旨からすれば,個人が,その居住の用に供している家屋をその敷
地の用に供されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊した上,当
該土地のみの譲渡をした場合は,上記の家屋をその敷地の用に供されてい
る土地とともに譲渡をした場合に準ずるものとして,措置法35条1項の
要件に該当すると解することができる(措置法通達35−2参照。)
問題となるのは,本件のように,土地建物について共有持分を有する個
人が,その居住の用に供している家屋部分の敷地に相当する部分を分割取
得し,これに代わる居住資産を取得するために,当該居住の用に供してい
る家屋部分を取り壊し,そのうえで分割取得した土地を更地で譲渡した場
合である。このような場合についても,個人が自ら居住の用に供している
家屋又はその敷地等を,これに代わる居住用財産を取得するために譲渡す
,,るという点では同じであり一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり
担税力も高くないということができるものである。
確かに,措置法35条1項の文理のほか,建物の所有権の権利の対象と
しての特性に照らし,同項にいう家屋の譲渡が当該家屋の全体の譲渡を予
定しているとはいえるが,一方で,建物については,一棟の建物であって
も,所有者がこれを区分したときは,その区分した建物の所有権の譲渡は
許されるというべきであり,また,共有建物にあっては,共有建物を分割
し区分所有建物として譲渡する場合や,共有持分自体を消滅させるような
場合を想定すると,一棟の建物のうちの一部の譲渡であっても,これがそ
の敷地部分の譲渡との関係で単独所有建物の譲渡ないしは取り毀しと同視
できる場合があるというべきであって,そのような場合には,措置法35
条1項の要件に該当すると解すべきである。
そうであるとすれば,土地上に一棟の建物が存する場合において,土地
建物それぞれについて共有持分を有し,同建物に居住する者同士が,お互
いの共有持分に相当する土地部分の分割に加え,建物についてもお互いの
取得する土地上の建物部分についてこれを建物として区分することに合意
し,そのうえで一方が自らが分割取得した共有土地部分上に存する建物部
分を取り壊したうえで,その敷地に相当する共有土地部分を譲渡し,他の
共有者が同じく分割取得した土地上の残存家屋について単独で所有権を取
得し,その結果,分割取得した共有土地部分を譲渡した共有者が建物の共
有持分を喪失したと認められる場合においては,これを全体としてみる限
りは,共有者の一人が自らの土地上に存する自らが所有し居住する建物を
取り壊したうえで,その敷地部分を譲渡した場合と同視することができる
というべきである。
,,,もっとも建物所有権の取得という点についてこれを厳格にみた場合
取り毀しの対象となる建物部分についても区分建物としての要件が備わっ
ていることが必要となるが,物理的な意味では,建物の分割は可能である
というべきであって,上記のような一連の手続をとり,共有当事者間の合
意を経て最終的には建物部分の取り毀しに至ることからすると,あえて,
そこまでの要件を求めるのは相当とはいえないから(本件特別控除を受け
るためだけに,いったん区分建物としての形状を整えるための工事をし,
そのうえで建物を取り壊せとは言い難い,建物部分取り壊しの結果,。)
分割取得した共有土地部分を譲渡した共有者が建物の共有持分を喪失した
という要件を満たせば足りると考えるものである。結局,上記のような一
連の手続の結果,残存家屋につき,他の共有者がこれを単独取得していれ
ば(言い換えると,残存家屋につき,土地を譲渡した共有者の権利が存在
しなければ)措置法35条1項の要件を満たすと解すべきである。
なお,被控訴人は,措置法35条1項は,例外的に認められる優遇措置
であることからすれば,租税負担公平の原則から不公平の拡大を防止する
ため,解釈の狭義性,厳格性が要請されるというべきであり,当該規定を
受けた措置法通達35−2及び同35−5で準用する同31の3−10は
厳格に適用されるべきであり,疑義を差しはさむことのないような形式的
基準をもって運用されるべきものであると主張する。しかしながら,土地
とその土地上にある一棟の建物をそれぞれ共有したうえで,生計を異にし
て建物内で生活している本件の控訴人とAのような例を想定すると,土地
を分割し,併せて建物も実質的に分割すべく,自らの居住部分のみを取り
壊してその敷地を譲渡した者について,残存家屋部分が建物として残ると
の理由だけで措置法35条1項の適用の余地を一切否定するのは,措置法
35条1項とこれを受けた措置法通達35−2の趣旨に照らしても相当と
はいえないと考えるものである。そして,上記のような限定的な要件のも
とで,措置法35条1項の適用の余地を認めることは,措置法35条1項
とこれを受けた措置法通達35−2の趣旨に沿うだけでなく,法35条1
項の解釈の狭義性,厳格性に反するとはいえないというべきである。
⑵そこで,本件について検討すると,前記1で認定した事実によれば,控
訴人とAは,本件遺産分割により,旧×番1の土地と本件建物について,
それぞれの共有持分を有していたところ,前記認定の本件建物取毀しに関
する合意(本件建物を二つに分割し,控訴人が取得する本件建物の分割部
分(控訴人居住部分)を取り壊すとともに,それぞれの居住部分に対応し
て旧×番1の土地を二筆に分筆し,控訴人が取得する本件土地については
その上に存する本件建物の分割部分を取り壊して,これを更地にしたうえ
で第三者に売却し,控訴人がその売却代金を取得して転居することとし,
一方でAは,旧×番1の残りの土地と同地上の残存家屋を取得する旨の合
意)をしたうえで,控訴人が自らが取得した本件土地上に存する本件建物
,,部分を取り壊してその敷地に相当する本件土地を第三者に譲渡し一方で
Aが単独で残存家屋について所有権を取得したというのであり,前記認定
,,,のとおり本件合意の趣旨としては本件建物の一部取り毀しに際しては
その部分に対するAの共有持分の放棄がなされることの見合いで,残存家
屋部分に対する控訴人の共有持分の放棄がなされることが合意されていた
ものとみるべきであるから,控訴人は,上記一連の手続の結果,本件建物
の共有持分を喪失したことが明らかである(なお,Aに対し,平成16年
7月7日付けで,同月3日贈与を原因とする控訴人の本件建物の共有持分
4分の1の所有権移転登記が経由されているが,これは便宜上なされた措
置で,実体とは符合しないことは前記認定のとおりである。前記認定のと
おり,実体的には,控訴人は,本件建物取毀しに関する合意により,本件
建物の一部取り毀しの際に残存家屋に対する共有持分を放棄したものとみ
るべきである。そうすると,以上のような経緯に照らす限り,控訴人。)
による本件土地の第三者への譲渡は,自らの所有する土地上に存する自ら
が所有し居住する建物を取り壊したうえで,その敷地部分を第三者に譲渡
した場合と同視することができるというべきであり,措置法35条1項の
要件に該当すると解するのが相当である。
3控訴人が,本件特別控除の適用を受けようとする旨を記載した確定申告書
を提出しなかったことにつき,措置法35条3項が規定する「やむを得ない
事情」があったといえるか。
前記認定の事実(原判決第2の3を引用)によれば,控訴人は,平成18
年3月10日,小田原税務署長あてに平成17年分所得税の確定申告書(以
下「本件確定申告書」という)を提出したが,その際,控訴人は,本件譲。
渡に係る長期譲渡所得の金額を1613万3655円,納付すべき税額を2
10万0600円と記載する一方で,本件譲渡について,本件特別控除の適
用を受けようとする旨の記載をしなかったことが認められる。
そこで,控訴人について,措置法35条3項が規定する「やむを得ない事
情」があったといえるかについて検討する。
措置法35条3項が規定する「やむを得ない事情」とは,天災その他本人
の責めに帰すことができない客観的事情があって,居住用財産の譲渡所得の
特別控除の制度趣旨に照らし,納税者に対して,その適用を拒否することが
不当又は酷となる場合をいうものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,証拠(甲3,甲13)及び弁論の全趣旨によ
,,,れば控訴人は実弟であるBとともに本件確定申告書を提出するに際して
再三にわたり小田原税務署を訪れ,担当官に対して,措置法35条1項の適
用を望む旨伝え,これが認められるかどうかについて相談したが,小田原税
務署からは,いずれの相談に際しても,本件は建物の一部譲渡であるから認
められないとの回答がなされたこと,控訴人は,Bを通じて,本件の補佐人
であるG税理士とも相談したが,本件については,判例も前例もない難解な
問題であるとのことであり,後に処分を受けて加算税を課せられた場合のリ
スクは大きいと考え,本件の特別控除を適用しての申請を断念したこと,し
かし,その後にG税理士から,法律の解釈が不明であるために加算税が課せ
られることを避けるために税務署の見解に従った申告をせざるを得なかった
,,場合にも1年以内であれば更正の請求を行うことができるとの助言を得て
平成18年12月27日に小田原税務署長に対して更正の請求をしたことが
認められる。
本件譲渡に本件特別控除の適用があるといえるかについての判断は2で述
べたとおりであって,原審と当審は判断を異にするものである。このような
本件における法律解釈の難しさに加え,上記のような控訴人が本件譲渡につ
いて更正の請求をするに至った経緯に照らすと,控訴人が,本件特別控除の
適用を受けようとする旨を記載した確定申告書を提出しなかったことについ
ては,措置法35条3項が規定する「やむを得ない事情」があったと認める
のが相当である。
4以上によれば,本件通知処分は,措置法35条1項の解釈を誤った違法が
あるというべきであるから,これを取り消すのが相当である。よって,本件
通知処分を適法とした原判決を取り消したうえで,控訴人の請求を認容する
こととし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官西岡清一郎
裁判官滝澤雄次
裁判官中野信也は転補につき署名押印できない。
裁判長裁判官西岡清一郎
(原裁判等の表示)
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
小田原税務署長が平成19年4月25日付けで原告に対してした,平成1
7年分の所得税の更正の請求に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分を
取り消す。
第2事案の概要等
1本件は,宅地を譲渡したとしてその譲渡所得に対する所得税の確定申告を
した原告が,当該譲渡は租税特別措置法(以下「措置法」という)35条。
1項(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ)に定める。
居住用財産の譲渡所得の特別控除の要件を満たすとして,国税通則法(以下
「通則法」という)23条1項に基づいて更正をすべき旨の請求をしたと。
ころ,税務署長から更正すべき理由がない旨の通知処分を受け,その後の異
議申立て及び審査請求がいずれも棄却されたことから,上記通知処分の取消
しを求めた事案である。
2関係法令の定め
()措置法35条1項は,個人が,その居住の用に供している家屋で政令で1
定めるものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されて
いる土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡をした場合又は災害に
より滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の
上に存する権利の譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されな
くなったものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなく
なったものとともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土
地の上に存する権利の譲渡を,これらの家屋が当該個人の居住の用に供さ
れなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日
までの間にした場合には,これらの全部の資産の譲渡に対する措置法31
条1項の規定の適用については,同項が規定する当該資産に関する長期譲
渡所得の金額から3000万円(長期譲渡所得の金額のうち措置法35条
第1項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が3000万円に満
たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額)の控除(以下「本件特
別控除」という)をする旨を定める。。
()措置法35条2項は,同条1項の規定は,その適用を受けようとする者2
の同項に規定する資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に,同項
の規定の適用を受けようとする旨及び同項の規定に該当する事情の記載が
あり,かつ,当該譲渡による譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他
財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用する旨を定める。
()措置法35条3項は,税務署長は,確定申告書の提出がなかった場合又3
は同条2項の記載若しくは添付がない確定申告書の提出があった場合にお
いても,その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得
ない事情があると認めるときは,当該記載をした書類並びに同項の明細書
及び財務省令で定める書類の提出があった場合に限り,同条1項の規定を
適用することができる旨を定める。
3争いのない事実等(当事者間に争いがないか,又は各項の末尾に掲記した
証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
()原告は,CとHの長女であり,兄であるD及び弟であるBの二人の兄弟1
がいた(甲3,甲13)。
()Cは,平成▲年▲月▲日に死亡したところ,当時,分筆前の神奈川県小2
田原市α×番1の土地(以下「旧×番1の土地」という)の所有権及び。
旧×番1の土地上にある別紙物件目録3記載の建物(以下「本件建物」と
いう)の持分4分の1を有していた。。
()Dは,昭和40年ころ,Aと婚姻し,両名には二人の子(E及びF)が3
いた。そして,Dは,平成▲年▲月▲日に死亡したところ,当時,本件建
物の持分4分の3を有しており,同持分については,同年6月25日,A
に対して相続を原因とする所有権移転登記がされた(甲3,甲8,甲1。
3,乙4)
()平成15年11月1日ころ,Cの相続財産について,原告,B,A,E4
及びFの間で遺産分割協議が成立し,原告は,旧×番1の土地のうち後に
分筆されて別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という)とな。
った部分の所有権及びCが有していた本件建物の持分4分の1を取得する
ものとされた。なお,平成15年12月18日,旧×番1の土地から本件
土地が分筆され,平成16年1月9日,本件土地につき原告に対して,残
余の土地につきAに対して,また,本件建物につきCの所有名義のままと
されていた持分4分の1に関して原告に対して,それぞれ既に述べた各相
続に係る所有権等の移転登記がされた(甲3,甲8,甲11ないし甲1。
3,乙4)
()原告は,平成16年12月7日,Iとの間で,本件土地を1925万円5
で売却する旨の売買契約を締結し,平成17年1月25日,同人に本件土
(,「」地を引き渡した以下上記の契約に基づく本件土地の譲渡を本件譲渡
という。。)
()原告は,平成18年3月10日,小田原税務署長あてに平成17年分所6
得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という)を提出した。この。
,,,際原告は本件譲渡に係る長期譲渡所得の金額を1613万3655円
納付すべき税額を210万0600円と記載する一方で,本件譲渡につい
て,本件特別控除の適用を受けようとする旨の記載をしなかった。
()原告は,平成18年12月27日,小田原税務署長に対し,平成17年7
分の所得税につき,長期譲渡所得の金額を0円,納付すべき税額を0円と
する更正の請求(以下「本件更正の請求」という)をした。。
()小田原税務署長は,平成19年4月25日,本件更正の請求に対し,更8
正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という)を。
した。
()原告は,平成19年6月20日,小田原税務署長に対し,異議申立てを9
したが,同署長は,同年9月19日,原告の異議申立てを棄却した。
()原告は,平成19年10月15日,国税不服審判所長に対し,審査請10
求をしたが,同審判所長は,平成20年4月18日付けで,原告の審査請
求を棄却する旨の裁決をした(甲2)。
()原告は,平成20年10月2日,本件訴えを提起した。11
4被告が主張する原告の課税長期譲渡所得金額及び同税額
()被告が本訴において主張する,原告の平成17年分の所得税の課税長期1
譲渡所得金額は,1567万1000円である(別表1の「確定申告」欄
の⑧の金額。この金額は,次のアの金額から,イ及びウの金額を控除し)
た金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数
を切り捨てた後の金額)である。
ア譲渡価額(別表2の①の金額)1925万円
上記金額は,本件譲渡の際の売買価額である。
イ必要経費(別表2の④の金額)311万6345円
上記金額は,本件譲渡に係る譲渡資産の取得費及び譲渡に要した費用
の合計額である。
ウ所得控除額の合計額46万1770円
上記金額は,社会保険料控除8万1770円及び基礎控除38万円の
合計額である。
()被告が本訴において主張する,原告の平成17年分所得税の納付すべき2
,(「」)。税額は210万0600円である別表1の確定申告欄の⑬の金額
,(,この金額は次のアの金額の合計額からイの金額を控除した残額ただし
通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金
額)である。
ア課税長期譲渡所得金額に対する税額(別表1の「確定申告」欄の⑩の
金額)235万0650円
上記金額は,原告の課税長期譲渡所得金額(())に対する税額であ1
り,措置法31条1項の規定により,100分の15の税率を乗じて算
出した金額である。
イ定率減税額(別表1の「確定申告」欄の⑪の金額)25万円
上記金額は,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び
法人税の負担軽減措置に関する法律(平成17年法律第21号による改
正前のもの)6条による税額控除の額である。
5本件の争点及び争点に関する当事者の主張
()本件譲渡に本件特別控除の適用があるか否か(争点1)1
(原告の主張)
ア本件特別控除は,個人が自ら居住の用に供している家屋及びその敷地
を譲渡するような場合には,これに代わる居住用財産を取得するのが通
常であるなど,一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり,担税力も
高くない例が多いことなどを考慮して設けられた特例である。
ところで,居住用の家屋とその敷地の用に供されている土地を譲渡す
る方法としては,家屋と土地を一体として売却する方法だけではなく,
家屋を取り壊して土地を更地にした上で売却する方法も一般的な不動産
取引として行われているが,本件特別控除の趣旨からは,このような場
合も,措置法35条1項に定める家屋とともにその敷地を譲渡した場合
に該当すると解するべきである。したがって,個人がその居住の用に供
している家屋の全部を,その敷地の用に供されている土地を更地として
譲渡する目的で取り壊して当該土地を譲渡した場合は,本件特別控除の
適用がある。
また,居住用家屋の一部を譲渡した場合であっても,当該譲渡した部
分以外の部分が機能的に見て独立した居住用の家屋と認められない場合
には,譲渡によって自己の所有する居住用家屋を失ったといえ,当該譲
渡についても本件特別控除の適用はあると解されていることからすれ
ば,個人がその居住の用に供している家屋の一部を,その敷地の用に供
されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊して当該土地を譲渡
した場合,取り壊されなかった残部が機能的にみて独立した居住用の家
屋と認められないときは,本件特別控除の適用はある。
なお,一棟の建物の中にその建物を譲渡した者と異なる者が居住する
場合に,当該譲渡をした者の配偶者や子など,社会通念に照らしてその
者と同居することが通常であると認められる者については当該譲渡をし
た者と同視することができるとしても,その者が社会通念に照らして当
該譲渡をした者と同居することが相当であると認められる者でないとき
には,その者が居住する部分は,当該譲渡をした者との関係では「居住
の用に供されている家屋」に該当しないというべきである。
イ(ア)本件建物については,昭和49年8月26日ころ,CとDとの間
で,原告を含むCの家族が本件建物のうちおおむね本件土地上に位
置する別紙図面の赤色部分(以下「本件家屋部分」といい,本件建
「」。)物のうち本件家屋部分を除く部分を本件残存家屋部分という
を使用し,Aを含むDの家族が別紙図面の青色部分を使用するとの
合意をし,以後,この合意に従った使用がされてきた。そして,原
告は,平成16年当時,本件土地の所有権及び本件建物の持分4分
の1を有し,本件家屋部分に居住する一方,Aは,別紙物件目録2
記載の土地の所有権及び本件建物の持分4分の3を有し,上記別紙
図面の青色部分に居住していた。
原告及びAは,Cの相続財産に係る遺産分割の協議に当たり,本
件建物の共有関係及び本件建物における生活関係を解消する方法に
ついて協議をし,その結果として,本件建物を2つに分割し,原告
が取得する本件建物の分割部分を取り壊し,また,旧×番1の土地
,,を2筆に分筆し原告が取得する土地を更地にして第三者に売却し
原告がその売却代金を取得して他に転居するとの合意をした。そし
て,遅くとも平成16年5月ころまでに,本件家屋部分を取り壊し
て本件土地を更地として譲渡することを可能とするため,Aが本件
家屋部分を取り壊すことに同意するとともに,原告がAに本件建物
の持分4分の1を譲渡する旨の合意をした。そして,この合意に基
づいて,同年6月29日から同年7月4日までの間に,本件家屋部
分が取り壊され,そのころ,本件建物の持分4分の1がAに譲渡さ
れたところ,遅くとも本件家屋部分が取り壊された時点でAが上記
合意に基づいて本件残存家屋部分の単独所有権を取得したものと解
される。
以上のとおり,原告及びAは,その共有物であった本件建物をそ
の持分及び居住実態に応じて分割し,原告が取得した分割部分であ
る本件家屋部分を取り壊して,更地となった本件土地を売却したも
のである。そして,本件家屋部分は,原告が起居等の日常生活を行
い,その生活の拠点として使用していた場所であり,原告の居住の
用に供していた家屋に該当する。他方,原告とAは義理の姉及び妹
の関係にすぎず,電気代,ガス代,水道代等の公共料金も使用人数
に応じ半額を原告自身がAに支払うなど生計も別であったことか
,,,ら社会通念上原告と同居することが通常であるとは認められず
Aの居住の用に供されていた家屋部分(本件建物の2階部分と1階
西側の洋間と6畳の間:別紙図面の青色部分)は,原告の居住の用
に供している家屋には該当しない。
したがって,原告が,その居住の用に供している家屋の全部であ
る本件家屋部分を,その敷地の用に供されている土地である本件土
地を更地として譲渡する目的で取り壊し,本件譲渡をしたといえる
から,本件譲渡には本件特別控除の適用がある。
(イ)仮に,本件家屋部分の取壊しの時点で原告がなお本件残存家屋部
分について持分を有しており,上記の取壊しの直後に原告がAに対
して本件残存家屋部分についての当該持分を譲渡したものであり,
それゆえに上記の取壊しをもって,原告の居住の用に供する家屋の
一部の取壊しであると解したとしても,上記の取壊しの前において
本件建物の全部が原告の居住の用に供されていたのではなく,原告
は本件家屋部分で日常の起居を行うとともに,本件残存家屋部分中
の1階に存する玄関廊下台所浴室及びトイレ等の共用部分以,,,(
下「本件共用部分」という)を使用していたのであり,Aが専ら。
使用する本件建物の2階と1階西側の2部屋を原告が使用すること
はなかったのであるから,Aが専ら使用する部分は,原告にとって
は居住の用以外に供している部分である。そして,原告は,その居
住の用に供している部分のうち,日常の起居を行うために不可欠な
本件家屋部分を取り壊したのであり,取り壊されなかった残部は本
件共用部分のみであり,本件共用部分のみでは,機能的にみて独立
した居住用の家屋とは認められない。したがって,本件譲渡には本
件特別控除の適用がある。
(被告の主張)
ア納税者が居住用家屋の一部を取り壊し,その敷地のみを譲渡した場合
に,残存する家屋が居住の用に供し得ない場合には本件特別控除を適用
することができると解するとしても,本件残存家屋部分には本件共用部
分があり,現実にもAが居住していることから,機能的にみて独立した
一個の居住用の家屋として存在しているものと認められる。
イ原告は,本件建物を原告の居住部分とAの居住部分とに区分し,その
上で本件譲渡に本件特別控除の適用があると主張する。しかし,原告及
びAは,物理的に区切りのない本件建物を共有してこれに居住し,日常
生活を営む上で重要な意味を有する本件共用部分を共用し,本件建物へ
の水道及び電気の供給に係る契約についてはいずれもAが契約し,電気
。,,水道代全額を支払っていたこのような状況からすれば原告及びAが
本件建物のうち原告の居住部分とAの居住部分とを区分し,それぞれ完
全に独立した生活をしていたとはいえないから,原告の上記主張はその
前提を欠く。
また,原告は,本件建物を原告が専有し起居していた部分とそれ以外
の部分に分割し,原告が当該専有する部分を,Aがそれ以外の部分をそ
れぞれ取得したと主張する。しかし,上記原告が取得したとされる部分
は区分所有の対象ではなく,1個の独立した物でもないから,独立の所
有権の対象とはならず,原告の上記主張はその前提を欠く。本件建物に
係る原告の共有持分4分の1は本件建物の全体に及んでいるのであり,
原告は,本件家屋部分の取壊し後も本件残存家屋部分の持分4分の1を
有していた。したがって,本件家屋部分の取壊しにより原告の居住の用
に供している家屋の全部を取り壊したことにはならない。
ウ以上のとおりであるから,本件譲渡は,措置法35条1項の要件を具
備しない。
()(本件譲渡に本件特別控除の適用がある場合)原告が,本件特別控除の2
適用を受けようとする旨を記載した確定申告書を提出しなかったことにつ
き,措置法35条3項が規定する「やむを得ない事情」があったといえる
か否か(争点2)
(原告の主張)
ア措置法35条1項の趣旨は,()(原告の主張)アに述べたとおりで1
あるが,その趣旨を達成するためには,本来,同項の要件に該当する場
合にはすべて本件特別控除を適用すべきであるといえる。しかし,課税
庁としては納税者による情報提供がなければ本件特別控除の適用がある
か否かを判断することができないし,また,本件特別控除が適用される
ことを望まない納税者の意思に反してまでその適用を強制することは妥
当でない。そこで,措置法35条2項は,確定申告書に本件特別控除の
適用を受けようとする旨及び同条1項の要件に該当する旨の事情を記載
することを求めるとともに,財務省令で定める書類の添付を求め,同項
に該当する事実等の情報を納税者側から提供することを求めている。
他方で,措置法35条2項の規定を機械的に適用すると,本件特別控
除の適用を望まない者への適用が排除されるのみではなく,本件特別控
除の適用を望む者についても確定申告書への記載等がないという理由の
みで本件特別控除の適用が排除される結果が生じるおそれがある。そこ
で,措置法35条3項は,確定申告書への記載等がなかったことについ
て「やむを得ない事情があるとき」には本件特別控除の適用がある旨を
明らかにしたものであり,同項は,その真意から本件特別控除の適用を
望まない選択を行った者が更正の請求を行うことを排除するための規定
である。したがって「やむを得ない事情があるとき」に該当する場合,
は幅広く認められるべきであり,納税者に対して本件特別控除の適用を
拒否することが不当又は酷になる場合を広くいうと解するべきである。
イ本件において,原告は,小田原税務署を4回訪問し,担当官に本件特
別控除の適用を望む旨を伝えた上で,それが認められるか否かを相談す
るという慎重な対応をしたが,いずれの際も,本件特別控除の適用がな
い旨の回答を受けた。また,原告は,税理士にも本件特別控除の適用に
ついて相談したが,本件特別控除の適用を受ける前提で確定申告を行っ
た場合に更正処分を受けることがないとの確信まではないとの回答を受
けた。さらに,本件のような事例に係る判例等の先例もない。かかる状
況の下で,本件特別控除の適用を受ける前提で確定申告を行えば,後に
更正処分を受けることは明らかであり,訴訟において敗訴する危険性も
あった。このような場合,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
がされることを承知の上で課税庁の見解に反する申告を納税者に強制す
ることは納税者に酷であるし,いったん課税庁の見解に従った申告をし
た後に更正の請求を認める方が納税者の事前の納税義務の履行を確保す
ることになり,被告の利益につながる。現実に,過少申告加算税を支払
,,う危険を避けるためいったん課税庁の見解に従った申告を行った後に
更正の請求を行うことは一般に行われている。
また,課税庁の見解に従った申告を行った後に更正の請求がされた場
合,自らの見解が正しいのであれば,課税庁としては措置法35条1項
の適用がないことを理由に更正すべき理由がない旨の通知処分を行えば
足りるはずである。課税庁の見解が誤りであったと課税庁が認識しなが
ら,課税庁の誤った見解に従った納税者に対し,確定申告書上の選択が
ないことを理由に更正の請求を認めないことは,いわゆる合法性の原則
からみても不当であるし,課税庁が納税者に誤った助言をしておきなが
ら,その助言に従ったことを理由に,過大な租税の支払を行った納税者
の救済をしないことは,合法性の原則から是認されない。
したがって,原告が本件特別控除の適用を受けようとする旨の記載を
本件確定申告書にしなかったことを理由に,本件特別控除の適用を拒否
することは,原告に不当又は酷であるから,措置法35条3項の「やむ
を得ない事情」に該当する。
ウなお,措置法35条1項の適用を受けようとする旨の真意がありなが
ら,確定申告書にその旨の記載を欠いたため,措置法35条1項の適用
を受けない旨の外観上の表示を行った場合,意思表示の錯誤があるとい
えるが,このような場合,措置法35条3項に基づいて当該錯誤に基づ
く意思表示を撤回することができ,このような撤回がされると,確定申
告書の課税標準等又は税額等が「法律の規定に従っていなかった」とい
えるから,通則法23条1項1号による更正の請求が認められる。
(被告の主張)
ア措置法35条3項は,同条1項の適用を受けるための手続に厳格な様
式行為を備えることを要求する結果として生じ得るであろう不都合を防
止する趣旨であるところ,確定申告書に特例を適用する旨を記載し,か
つ,必要書類を添付する行為は,納税者の課税上の選択権の行使として
の意味を持つものであるから,いったん選択権を行使した納税者につい
て,当該選択の変更を容易に認めた場合には,租税債権の早期安定を阻
。,「」害することになるしたがって同条3項に定めるやむを得ない事情
とは,天災その他納税者の責めに帰すことのない事由により,確定申告
書を提出すること又は確定申告書に特例の適用を受けようとする旨を記
載すること若しくはそのための資料を添付することが不可能であったと
認められるような客観的事情を指すものであり,納税者個人の主観的事
情はこれに当たらないと解される。
イ原告は,本件特別控除の適用を受けようとする旨を記載した確定申告
書を提出しなかったのは,原告がその適用を受けたい旨を告げて小田原
税務署で相談をした際,相談に応対した税務職員が,本件特別控除の適
。,用は受けられない旨指導したことによるものであると主張するしかし
仮にこのような事実があったとしても,一般に納税相談は,税務署側で
具体的な調査を行うこともなく,相談者の一方的な申立てに基づき,そ
の申立ての範囲内で,行政サービスとして納税申告をする際の参考とす
るために,税務署の一応の判断を示すものであって,仮に,その相談が
課税にかかわる個別具体的なものであったとしても,その助言内容どお
りの納税申告をした場合には,その申告内容を是認することまでを意味
するものではなく,最終的にいかなる税務申告をすべきかは納税義務者
の判断と責任に任されている。したがって,原告が主張するような相談
の事実があったということをもって,措置法35条3項に規定する「や
むを得ない事情」があったということはできない。
また,原告が本件特別控除の適用を受けようとする旨を記載した確定
申告書を提出しなかった理由は,本件土地の譲渡について措置法35条
1項の適用があるか否かについて税理士等の専門家や税務職員の見解な
どを聴取した上で十分に検討した結果,過少申告加算税の対象になるの
ではないかとの懸念を持ったことなどから自ら同項の適用を受けないこ
とを選択したというものであるから,原告の個人的な事情によるもので
あるし,原告は,所得税について相当な知識があるか,あるいは税につ
いて専門的知識を有する税理士等の専門家に相談した上で,本件特別控
除の適用を受けようとする旨の確定申告書を提出するか否かの判断をし
たものであるから,確定申告書の記載と原告の意思との間に錯誤があっ
たともいえない。
以上によれば,本件において,原告が本件特別控除の適用を受けよう
とする旨の確定申告書を提出しなかったことにつき,原告本人の責めに
帰することができない事情はなく原告に措置法35条3項に定めるや,「
むを得ない事情」があったとはいえない。
ウなお,仮に,本件において措置法35条1項の要件が具備されていた
としても,措置法35条1項は同項の適用を受けようとする旨の記載を
した確定申告書に所定の書類を添付して申告した場合に限り適用される
ものであり,原告は,この規定に従った申告をしていなかったのである
から,本件特別控除が適用される要件を具備していない。したがって,
原告につき本件特別控除の適用を認めないことが合法性の原則に反する
とはいえない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
第2の3に記載した事実に加え,後記認定事実中に掲記した各証拠と弁論
の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
()本件建物は,昭和39年12月ころ,旧×番1の土地上に建築された。1
当時の本件建物の所有者はCであり,原告は,Cらとともに,同年から本
件建物に居住していた(甲3,甲13,乙4,乙5)。
()昭和49年7月ころ,本件建物の2階部分が増築されるとともに,同月2
15日,本件建物の持分4分の3がDに贈与された。Dは,遅くとも同年
までに,妻であるAや両名の子とともに,本件建物に居住するようになっ
た(甲3,甲13,乙4,乙6)。
()増築後の本件建物の構造は別紙図面のとおりであり,その1階に本件共3
用部分と4部屋の居室が設けられるとともに,その2階には2部屋の居室
。,,が設けられていたなお増築後における本件建物の登記簿上の床面積は
.,.。1階が8841平方メートル2階が3305平方メートルであった
(甲3,甲5,甲13,乙4)
()Cの死亡後,相続人間で,同人の相続財産に関する遺産分割協議がされ4
たが,平成▲年▲月▲日にDが死亡したため,いったん遺産分割協議が中
断した。その後,平成15年6月ころから,Cの相続財産に関する遺産分
割協議が再開されたところ,同月当時,原告及びAが本件建物に居住して
いた。なお,原告及びAが本件建物に居住していた間,本件建物への水道
及び電気の供給に係る契約はA名義でされていたが,原告は自己の負担す
,。(,べき分としてDの死亡後はその半額をAに対して支払っていた甲3
甲13,乙5,乙6,乙10ないし乙13)
()遅くとも平成15年8月ころまでには,Cの相続財産であった本件建物5
の持分及び旧×番1の土地に関する遺産分割の方法として,①旧×番1の
,,,土地を2筆の土地に分筆しその一方を原告が他方をAが取得すること
②本件建物の持分4分の1を原告が取得すること,③本件建物のうちおお
むね原告が取得する土地上にあるその使用に係る部分を取り壊すことが検
討されるようになった(甲3,甲6,甲13)。
()平成15年11月1日ころ,Cの相続財産について,原告,B,A,E6
及びFの間で遺産分割協議が成立し,原告が分筆される予定の本件土地の
所有権及び本件建物の持分4分の1を取得する一方,Aが上記の分筆後の
別紙物件目録2記載の土地の所有権を取得するものとされた。なお,Dが
生前有していた本件建物の持分4分の3は,同人の死亡に伴いAが相続に
より取得していた(甲3,甲8ないし甲13,乙4)。
()その後,旧×番1の土地について第2の3()に述べた各登記がされ,74
原告は,遅くとも平成16年6月20日ころまでの間に,本件建物から転
居した(甲3,甲13,乙4,乙5,乙9)。
()平成16年6月29日ころから同年7月4日ころまでの間に,本件家屋8
部分の取壊しがされた。取壊し後の本件残存家屋部分の1階には本件共用
部分及び2部屋の居室が残存するとともに,その2階には取壊し前の居室
が従前どおり残存した。そして,Aは,上記取壊し後の本件残存家屋部分
に居住し続けた。なお,本件家屋部分を取り壊した旨の表示の登記の変更
登記は,同年8月17日付けで,同年7月20日の変更等を原因としてさ
れたところ,取壊し後の本件建物の登記簿上の床面積は,1階が69.5
,.。(,,8平方メートル2階が3305平方メートルであった甲3甲4
甲13,乙4,乙6,乙7,乙10,乙12)
()原告は,平成16年7月7日,本件建物の持分4分の1につき,Aに対9
し,同月3日贈与を原因とする所有権移転登記手続をし,その後に,()8
に述べたように本件建物につき表示の登記の変更登記がされた(甲3,。
甲13,乙4)
2争点1(本件譲渡に本件特別控除の適用があるか否か)について
()ア措置法35条1項に定める本件特別控除は,個人が自ら居住の用に供1
している家屋又はその敷地等を譲渡するような場合は,これに代わる居
住用財産を取得するのが通常であるなど,一般の資産の譲渡に比して特
殊な事情があり,担税力も高くない例が多いことなどを考慮して設けら
れた特例であると解される。
ところで,措置法35条1項は,土地又はその土地上に存する権利の
譲渡に関しては,災害により当該土地の上に存する家屋が滅失した場合
を除いては,個人の居住の用に供し,又は供されていた家屋が現存し,
かつ,その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡がさ
れる場合のみを本件特別控除の対象としており,家屋を任意に取り壊す
などした上でその敷地の用に供されていた土地のみの譲渡をする場合に
ついては,直接の定めを置いておらず,このような場合については基本
的にその適用をすることは想定されていないものと解される。しかし,
その上に家屋の存する土地の取引において,当該家屋を必要としない買
主が,当該家屋を売主の負担において取り壊すことを求めることがしば
しば見られるとの公知の事情や,上記に述べた措置法35条1項の趣旨
からすれば,個人が,その居住の用に供している家屋をその敷地の用に
供されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊した上,当該土地
のみの譲渡をした場合は,上記の家屋をその敷地の用に供されている土
地とともに譲渡をした場合に準ずるものとして,措置法35条1項の要
件に該当し得ると解することができる。一方,個人が,その居住の用に
供している家屋の敷地の用に供されている土地の一部を更地として譲渡
するために当該家屋の一部を取り壊し,その取壊し部分の敷地の用に供
されていた土地の部分の譲渡をした場合については,措置法35条1項
,,の文理のほか建物の所有権その他の権利の対象としての特性に照らし
同項にいう家屋の譲渡が当該家屋の全体の譲渡を意味するものと解され
ることを勘案すると,当該家屋の全体が取り壊された場合と当然には同
列に論じ難いが,この一部の取壊しが当該部分の敷地の用に供されてい
た土地の部分を更地として譲渡するために必要な限度のものであり,か
つ,上記の取壊しによって当該家屋の残存部分がその物理的形状等に照
らし居住の用に供し得なくなったということができるときは,当該家屋
の全体が取り壊された場合に準ずるものとして,当該譲渡につき措置法
35条1項を適用し得ると解される。
そして,上記に述べたところは,取り壊された家屋が共有物であった
との一事をもって,直ちに異なって解すべき根拠は見当たらない。
イそこで,本件について検討するに,1に記載した事実によれば,平成
16年6月から7月にかけて本件家屋部分が取り壊された後も,本件残
存家屋部分の1階には本件共用部分及び居室が残存するとともに,その
2階には取壊し前の居室が従前どおり残存し,かつ,Aが上記取壊し後
も本件残存家屋部分に居住し続けたのであるから,その取壊しにより,
本件残存家屋部分が居住の用に供し得なくなったということはできな
い。
よって,本件譲渡について,措置法35条1項の規定を適用すること
はできず,その適用がないことを前提とした本件通知処分に違法がある
とはいえない。そして,他に本件通知処分が違法であると認めるに足り
る証拠はない。
()ア他方,原告は,本件家屋部分を取り壊すことは,原告の居住の用に供2
していた家屋の全体を,その敷地の用に供されている土地である本件土
地を更地として譲渡する目的で取り壊したものといえるから,本件譲渡
につき本件特別控除の適用がある旨主張する。
しかし,1に記載した事実及び証拠(甲3,甲5,甲6,甲13,乙
7)によれば,本件建物にあっては,別紙図面に示されているように,
本件家屋部分に属しそこに存する2部屋の居室の唯一の出入口となって
いた縁側と本件残存家屋部分に属するその2階への階段のいわゆる踊り
場とは連続する構造となっており,これらの間を遮断する隔壁等の建物
,,,の構成部分は存在しなかったことが認められまた既に述べたように
本件建物にあっては,玄関,台所,浴室及びトイレが本件残存家屋部分
に属する1階の本件共用部分にそれぞれ各1箇所に設けられているのみ
であり,平成16年当時,原告は,上記の本件共用部分をAと共用して
いたものと推認され,本件残存家屋部分にもこれらの設備が残存してい
るところである。このような本件建物の構造及び利用状況に照らすと,
本件建物につき実質的には本件家屋部分と本件残存家屋部分の2棟の建
物であったと評価することはできず,また,本件家屋部分につき構造上
区分されることにより独立して住居としての用途に供することができる
ものに当たると評価することもできないことに加え,後記のとおり,本
件の事実経過の下においては,本件家屋部分の取壊し後も本件残存家屋
部分につき原告が持分4分の1を有し,これをAに贈与したと評価され
ることなども併せ考慮すれば,平成16年6月から7月に行われた本件
建物中の本件家屋部分の取壊しをもって,原告がその居住の用に供して
いる家屋全部を取り壊したと評価することはできない。
また,原告は,原告とAとの間の共有物分割の合意により,本件建物
が本件家屋部分と本件残存家屋部分とに現物分割され,原告が本件家屋
部分の所有権を取得してその全体を取り壊し,他方,Aが本件残存家屋
部分の単独所有権を取得した旨を主張する。しかし,上記に述べた本件
建物の構造等からすれば,原告とAとの合意をもって直ちに本件家屋部
分と本件残存家屋部分とがそれぞれ別個の所有権の客体になると解する
ことはできないまた本件建物につき1()及び()並びに第2の3()。,894
に述べたように各登記がされており,他方,本件家屋部分が取り壊され
た時点でAが当然に本件残存家屋部分につき単独で所有権を有すること
となるとする合意等がされたことを認めるに足りる証拠はない。したが
って,原告の上記主張を採用することはできない。
イ次に,原告は,本件建物のうち原告が「居住の用に供している部分」
といえるのは,本件家屋部分及び本件残存家屋部分に属する本件共用部
分のみであったところ,本件家屋部分の取壊しにより,上記のうち本件
共用部分のみが残存し,原告との関係では,本件共用部分のみでは,機
能的に見て独立して居住の用に供し得なくなったとして,本件譲渡につ
き本件特別控除の適用がある旨主張する。
しかし,原告の上記の主張は,建物の一部の取壊しの場合について広
く本件特別控除の適用があるとするもので,既に述べたように,その前
提において問題があるというべきである。また,原告は,平成16年当
時,Aとともに本件建物に居住していたところ,本件建物の構造は別紙
図面のとおりであったことに加え,Aが原告の義姉であり,原告及びA
がC及びDの生前から長期間にわたって本件建物に居住していて,証拠
(甲3,甲13)及び弁論の全趣旨によれば,これらの者が死亡するま
での間は本件建物に居住していた親族間の関係は平穏であり,その死亡
後も生活状況としては基本的に従前のものを継続するものであったと認
められること,現に,既に述べたように本件建物への水道及び電気の供
給に係る契約はA名義でされていたことなどを勘案すれば,本件家屋部
分及び本件共用部分について,親族間の情宜を基礎とした事実上の区分
を超えて,それらの部分のみを原告の居住の用に供することと定められ
ていたと認めることには疑問を差し挟む余地が残るというべきである。
そして,本件においては,既に述べたように,本件建物は,その一部
取壊し後もいまだその経済的効用を維持しているのであるから,原告が
本件残存家屋部分に居住し続けずに転居したとしても,措置法35条1
項は適用されないというべきであり,原告の上記主張を採用することは
できない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がな
いから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,
民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官衣斐瑞穂
裁判官中島朋宏

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