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平成25年3月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10238号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年2月21日
判決
原告ニプロ株式会社
同訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
重入正希
前田将貴
被告日機装株式会社
同訴訟代理人弁護士井窪保彦
本多広和
松田世理奈
同弁理士黒川恵
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800185号事件について平成24年6月1日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,
後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,平成5年1月11日,発明の名称を「血液浄化装置およびこれを使
用する中央監視システム」とする特許出願(特願平5-2627号)をし,平成1
0年10月30日,設定の登録(特許第2846204号。請求項の数4)を受け
た(甲12)。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲
12)を,図面を含め,「本件明細書」という。
(2)原告は,平成23年9月28日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明に
ついて,特許無効審判を請求し,無効2011-800185号事件として係属し
た。
(3)特許庁は,平成24年6月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨
の本件審決をし,同月11日,その謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載の発明は,次のとおりであ
る(以下,それぞれの発明を「本件発明1」などといい,また,これらを総称して,
「本件発明」という。)。
【請求項1】血液透析,血液濾過,血液透析濾過または血漿分離等を行う血液浄化
治療に使用する血液透析装置,血液濾過装置,血液透析濾過装置および血漿分離装
置等の血液浄化装置において,
血液浄化装置には,操作により中央監視装置との間において,血液浄化装置が監
視していない患者の治療に必要な情報を入力してこれを送信し得る操作者用インタ
フェース部を設け,この操作者用インタフェース部と外部信号入出力部とをマイク
ロコンピュータを介して相互に制御可能に構成すると共に,中央監視装置が保持す
る患者の過去の治療データに関する情報および/または中央監視装置から送られる
患者の治療を行うための除水設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報を
表示可能に構成することを特徴とする血液浄化装置
【請求項2】血液浄化装置に,操作者用インタフェース接続部を設け,この操作者
用インタフェース接続部に,操作により中央監視装置との間において,血液浄化装
置が監視していない体温,血圧,投薬,患者の状態等の患者の治療に必要な情報群
から選択された1種以上の情報に関するデータを入力してこれを送信し得る外付け
操作者用インタフェース部を接続可能に構成し,この外付け操作者用インタフェー
ス部と外部信号入出力部とをマイクロコンピュータを介して相互に制御可能に構成
してなる請求項1記載の血液浄化装置
【請求項3】血液浄化装置に,操作により中央監視装置との間において,血液浄化
装置が監視していない体温,血圧,投薬,患者の状態等の患者の治療に必要な情報
群から選択された1種以上の情報に関するデータを入力してこれを送信し得る操作
者用インタフェース部および外付け操作者用インタフェース部を設け,前記操作者
用インタフェース部は直接に,前記外付け操作者用インタフェース部は操作者用イ
ンタフェース接続部を介し,外部信号入出力部との間においてそれぞれマイクロコ
ンピュータを介して相互に制御可能に構成してなる請求項1記載の血液浄化装置
【請求項4】請求項1ないし3のいずれかに記載の血液浄化装置を,この血液浄化
装置に設けた外部信号入出力部を介し通信網を使用して中央監視装置と接続し,血
液浄化装置が監視している情報および中央監視装置から血液浄化装置へ送られる患
者の治療を行うための除水設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報は,
血液浄化装置と中央監視装置との間における通信経路で構成される通信網によって
送受信され,血液浄化装置より中央監視装置へ送られる患者の治療に必要な情報や
血液浄化装置のメンテナンス情報等の血液浄化装置が監視していない情報は,血液
浄化装置に設けられる操作者用インタフェース部を使用して,前記通信網によって
送受信され,血液浄化装置において,中央監視装置への前記情報の入力と,中央監
視装置からの前記情報の出力と,中央監視装置内の情報の表示とを,それぞれ可能
なように構成したことを特徴とする血液浄化装置の中央監視システム
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,①後記引用例1に記載された発
明(以下「先願発明」という。)と同一の発明ではないから,特許法29条の2の
規定により特許を受けることができないものとすることはできない,②後記引用例
2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)と同一ではないから,特許法
29条1項3号の規定により特許を受けることができないものとすることはできな
い,③引用発明2及び後記引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」とい
う。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはでき
ないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとする
ことはできない,④引用発明3及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものということもできない,というものである。
ア引用例1:特願平4-57426号(特開平5-220220号。平成4年
2月10日出願。平成5年8月31日出願公開)の願書に最初に添付された明細書
及び図面(甲1。以下,図面を含め,「先願明細書」という。)
イ引用例2:実願昭62-103253号(実開昭64-9651号)のマイ
クロフィルム(甲2)
ウ引用例3:特開平2-77264号公報(甲3)
(2)本件審決が認定した先願発明,引用発明2及び3並びに本件発明1との一致
点及び相違点は,次のとおりである。
ア本件発明1と先願発明との対比
(ア)先願発明:透析装置において,透析装置は,操作により患者医療用データ
を記憶保持するハードディスクを装備したパソコンとの間において,患者ID番号
を入力してこれを伝送し得る入力装置を有し,マイクロプロセッサは,入力装置か
ら入力された患者ID番号とともにデータ読み出し命令を通信制御機構を介してパ
ソコンに伝送するとともに,パソコンに装備されたハードディスクが記憶保持する
患者医療用データをテレビジョン受信機に表示可能に構成する透析装置
(イ)本件発明1と先願発明との一致点:血液透析,血液濾過,血液透析濾過又
は血漿分離等を行う血液浄化治療に使用する血液透析装置,血液濾過装置,血液透
析濾過装置及び血漿分離装置等の血液浄化装置において,血液浄化装置には,操作
により外部装置との間において,情報を入力してこれを送信し得る操作者用インタ
フェース部を設け,操作者用インタフェース部と外部信号入出力部とをマイクロコ
ンピュータを介して相互に制御可能に構成するとともに,外部装置が保持する患者
の過去の治療データに関する情報を表示可能に構成する血液浄化装置
(ウ)本件発明1と先願発明との相違点1-1:血液浄化装置から情報を送信さ
れ得るとともに患者の過去の治療データに関する情報を保持する外部装置が,本件
発明1では「中央監視装置」であるのに対して,先願発明では「患者医療用データ
を記憶保持するハードディスクを装備したパソコン」である点
(エ)本件発明1と先願発明との相違点1-2:操作者用インタフェース部から
送信され得る情報が,本件発明1では「血液浄化装置が監視していない患者の治療
に必要な情報」であるのに対して,先願発明では「患者ID番号」である点
イ本件発明1と引用発明2との対比
(ア)引用発明2:透析装置において,透析装置は,操作により患者の状態変化
及び患者ごとに設置された透析装置の動作状況を監視するホストコンピュータとの
間において,準備モード,透析モード,あるいは洗浄モードを入力してこれを送信
し得る準備スイッチ,透析スイッチ及び洗浄スイッチを有し,この準備スイッチ,
透析スイッチ及び洗浄スイッチとシリアル入出力回路及び光伝送モジュールとをC
PUを介して相互に制御可能に構成するとともに,ホストコンピュータから送信さ
れる温度の警報設定値を,透析装置のプログラムメモリ・データメモリのデータメ
モリ領域に記憶し,準備モード及び透析モードにおいて,測定される透析液温度が
該データメモリ領域に記憶された制御温度範囲以外になった場合は,温度警報を発
し,表示回路に温度警報表示を行い,各透析装置をホストコンピュータからの指令
で一括若しくは個別に制御する透析装置
(イ)本件発明1と引用発明2との一致点:血液透析,血液濾過,血液透析濾過
又は血漿分離等を行う血液浄化治療に使用する血液透析装置,血液濾過装置,血液
透析濾過装置及び血漿分離装置等の血液浄化装置において,血液浄化装置には,操
作により中央監視装置との間において,情報を入力してこれを送信し得る操作者用
インタフェース部を設け,この操作者用インタフェース部と外部信号入出力部とを
マイクロコンピュータを介して相互に制御可能に構成するとともに,情報を表示可
能に構成する血液浄化装置
(ウ)本件発明1と引用発明2との相違点2-1:操作者用インタフェース部よ
り入力されて中央監視装置に送信され得る情報が,本件発明1では「血液浄化装置
が監視していない患者の治療に必要な情報」であるのに対して,引用発明2では
「準備モード,透析モード,あるいは洗浄モード」にとどまる点
(エ)本件発明1と引用発明2との相違点2-2:情報を表示可能に構成する点
について,本件発明1では,「中央監視装置が保持する患者の過去の治療データに
関する情報および/または中央監視装置から送られる患者の治療を行うための除水
設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報を表示可能に構成」しているの
に対して,引用発明2では,「ホストコンピュータから送信される温度の警報設定
値を,透析装置のプログラムメモリ・データメモリのデータメモリ領域に記憶し,
準備モード及び透析モードにおいて,測定される透析液温度が該データメモリ領域
に記憶された制御温度範囲以外になった場合は,温度警報を発し,表示回路に温度
警報表示を行う」にとどまる点
ウ本件発明1と引用発明3との対比
(ア)引用発明3:人工腎臓において,人工腎臓には,入力操作によりICカー
ドとの間において,患者の氏名,年齢,血液型,理想体重,血圧,血中濃度,輸血
を行ったかの有無等の個人の身体情報を入力してこれを書き込み得るキーボードを
設け,キーボードの指示に応じてICカード読み書き装置内のCPUは,ICカー
ドの設定データ領域から制御回路に出力すべき初期値データを読み出すとともに,
ICカードに書き込まれた透析時間,前回使用したダイアライザや人工腎臓の機械,
体重の変化,輸血の有無等の過去の情報及びICカードから読み出された上記初期
値データを表示可能に構成し,ICカード読み書き装置と大型のホストコンピュー
タをオンライン接続し,ICカードのバックアップ情報としてホストコンピュータ
に上記情報をファイル化する人工腎臓
(イ)本件発明1と引用発明3との一致点:血液透析,血液濾過,血液透析濾過
又は血漿分離等を行う血液浄化治療に使用する血液透析装置,血液濾過装置,血液
透析濾過装置及び血漿分離装置等の血液浄化装置において,血液浄化装置には,操
作により外部装置との間において,血液浄化装置が監視していない患者の治療に必
要な情報を入力してこれを送信し得る操作者用インタフェース部を設け,この操作
者用インタフェース部と外部信号入出力部とをマイクロコンピュータを介して相互
に制御可能に構成するとともに,外部装置が保持する患者の過去の治療データに関
する情報,及び/又は外部装置から送られる患者の治療を行うための除水設定値や
警報点設定値等の初期設定値に関する情報を表示可能に構成する血液浄化装置
(ウ)本件発明1と引用発明3との相違点3:操作者用インタフェース部より血
液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報を入力して送信され得るとと
もに,患者の過去の治療データに関する情報,及び/又は患者の治療を行うための
除水設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報を保持し血液浄化装置に送
る外部装置が,本件発明1では「中央監視装置」であるのに対して,引用発明3で
は「ICカード」であり,また,ICカード読み書き装置にオンライン接続された
ホストコンピュータは「ICカード」のバックアップ情報をファイル化するにとど
まる点
4取消事由
(1)本件発明と先願発明との同一性に係る判断の誤り(取消事由1)
(2)引用発明2に基づく本件発明の新規性に係る判断の誤り(取消事由2)
(3)引用発明2に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3)
(4)引用発明3に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由4)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明と先願発明との同一性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点1-1に係る判断の誤りについて
ア本件発明1の中央監視装置は,血液浄化装置から送信される情報の受信が可
能であるとともに,患者の過去の治療データを保持できる,及び/又は中央監視装
置から初期設定値に関する情報を送信できる装置であればよく,初期設定値に関す
る情報を送信することができないコンピュータも含まれるほか,医師がコンピュー
タ側で治療開始時の患者の状態を把握できない装置も中央監視装置に該当する。
他方,中央監視装置は,血液浄化装置から送信される情報に基づいて患者の容態
を把握するなどして一定の場合に警告を発したり,血液浄化装置の挙動を制御した
りするものではない。
したがって,中央監視装置は「血液浄化装置から送信される各種情報に基づき,
中央監視装置が血液浄化装置を監視する」ものであり,「血液浄化装置から送信さ
れる各種情報に基づき,…中央監視装置側で医師が治療開始時の状態を把握する機
能を奏する」ものであるとする本件審決の認定は誤りである。
イ先願明細書には,血液浄化装置が監視している情報が中央監視装置に送信さ
れること及び除水設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報が中央監視装
置から血液浄化装置に送信されることに関する明示的な記載はないが,先願発明に
おいても,透析装置が監視している情報を「患者医療用データを記憶保持するハー
ドディスクを装備したパソコン」に送信することは当然に行われていたと解される
し,仮にそうでないとしても,透析装置が監視している情報を「患者医療用データ
を記憶保持するハードディスクを装備したパソコン」に送信すること,すなわち,
「コンピュータによる患者監視装置の透析データの収集」は周知技術の適用にすぎ
ない。除水設定値や警報点設定値等の初期設定値の送信についても同様である。
先願明細書には,その具体的方法が記載されていないが,透析中に発生するデー
タを集中的に管理して集積することの必要性,有効性は周知であるから,先願明細
書(【図1】)のシステム概念図を見た当業者が透析中に発生するデータを透析装
置からパソコンに送信するように構成することは周知技術の適用にすぎず,先願明
細書において当然に想定されていた範囲のものである。
ウコンピュータにより患者登録を行って患者の透析ファイルを作成すること,
除水速度,総除水量,透析液温度の設定値を患者監視装置に命令できることは技術
常識であるから,先願発明において体重測定データを透析装置に入力することは,
第2実施例として先願明細書(【図5】)に図示されたICカードリーダー/ライ
ターの使用に特有なことではなく,先願明細書(【図1】【図2】)のように構成
された透析装置においても適用可能であることは当然の前提である。オンライン伝
送を用いる第1実施例において体重測定データの記載がないのは,単に自明な記載
を省略しているにすぎず,先願明細書は,実質的に,除水設定値に関する情報であ
る患者の体重測定データをパソコンからデータ伝送路を介して透析装置に送受信す
ることを開示しているというべきである。
そうすると,先願発明におけるパソコンは,血液浄化装置が監視している情報を
収集するとともに,血液浄化装置に対して初期設定値に関する情報を送信するもの
であるということができるから,本件発明1の中央監視装置に相当する。
エ本件発明1の奏する効果(①血液浄化装置が監視していない情報を送信する,
②初期設定値の変更結果を送信する,③上記①及び②により医師の判断に必要とさ
れる十分な情報を提供できる。)は,中央監視装置ではなく,血液浄化装置に設け
られた「操作者用インタフェース部」により実現されるものであるから,中央監視
装置は情報の送受信が可能で一定の情報を記憶できるコンピュータであれば足り,
先願発明のパソコンも中央監視装置に相当するということができる。
オ先願発明には,操作者が患者ID番号を入力して送信する操作者用インタフ
ェース部が存在するところ,患者ID番号が送信される以上,外部信号入出力部が
存在することも明らかであり,「患者医療用データを記憶保持するハードディスク
を装備したパソコン」が保持している情報を表示する構成を有することも明らかで
ある。
本件発明1と先願発明との対比では,先願発明に透析装置の通信の相手方として
の中央監視装置が存在するか否かこそが重要であって,その意味では,「患者医療
用データを記憶保持するハードディスクを装備したパソコン」は,本件発明1にお
ける血液浄化装置の通信の相手方である中央監視装置にほかならない。
したがって,本件審決が相違点1-1を認定したこと自体,誤りであるが,仮に,
先願発明の「患者医療用データを記憶保持するハードディスクを装備したパソコ
ン」と本件発明1の中央監視装置とについて相違点を認定するとしても,本件発明
1の操作者用インタフェース部,外部信号入出力部及び情報表示手段と先願発明の
各構成とを対比すれば,相違点1-1は実質的な相違点ということはできない。
(2)相違点1-2について
ア透析中に発生するデータのうち,除水量・TMP・静脈圧は,通常,透析装
置が監視している情報であり,本件明細書が「血液浄化装置が監視している情報」
について定義せず,単に「静脈圧」のみを例示しているのも,このような技術常識
を前提としているからである。血圧については,透析装置そのものが監視している
情報ではなく,透析システムに自動血圧計が接続されている場合にのみ自動的に取
得されるデータとなるため,本件明細書では,血圧を血液浄化装置が監視していな
い情報に分類している。しかし,透析中に発生するデータという意味では,透析装
置が監視している情報と自動血圧計によって取得される情報とを区別する理由はな
い。先願明細書(【図2】)には,自動血圧計が図示されているから,自動的に測
定された血圧をパソコンに送信するように構成することも単なる当業者の技術常識
の適用にすぎない。血液浄化装置の一種である透析装置において,装置自体に備わ
ったセンサー等によって装置に入力される情報が存在することは周知であり,本件
明細書では,このような周知の情報について「血液浄化装置が監視している情報」
と記載し,それ以外の情報を広く捉えて「血液浄化装置が監視していない患者の治
療に必要な情報」と記載したものである。透析装置のセンサー等によって自動的に
入力されることのない「患者ID番号」が「血液浄化装置が監視していない患者の
治療に必要な情報」に該当することは明らかであり,このような情報を操作者が入
力して送信する機能を先願発明が備えていることも明らかである。
したがって,本件発明1における「血液浄化装置が監視していない患者の治療に
必要な情報」とは,本件明細書に例示されている「体温,血圧,投薬,患者の状態
等」に限定されるものではなく,操作者が入力装置を操作して入力する全ての情報
を意味するものと解される。
イ先願発明において,透析装置の入力装置から入力された患者ID番号がパソ
コン側に送信され,この患者ID番号により特定される患者の患者医療用データを
ハードディスクから読み出して透析装置に送信し,このデータに基づいて透析治療
が行われる。そして,患者ID番号は,患者を特定するために必要な番号であり,
それにより特定される患者医療用データを読み出す役割を有し,同データは,回診
の際に医師が患者に対して連絡したいと思う医療情報であるから,患者ID番号は,
「患者の治療に必要な情報」に当たるというべきである。
ウ本件審決は,相違点1-2について判断していないが,先願発明の「患者I
D番号」が「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」に相当する
ことは明らかであって,相違点1-2は,実質的な相違点ということはできない。
(3)小括
以上によると,本件発明は,先願発明と実質的に同一の発明であるというべきで
ある。
〔被告の主張〕
(1)相違点1-1に係る判断の誤りについて
ア本件発明1は,①血液浄化装置の操作者用インタフェース部により,血液浄
化装置が監視していない患者の治療に必要な情報を入力して中央監視装置へ送信す
る,②中央監視装置から血液浄化装置へ初期設定値が送信され,ベッドサイドの看
護師等が,その初期設定値で治療可能か否かを中央監視装置側の医師の指示に従っ
て判断し,必要であれば初期設定値を血液浄化装置側で変更し,治療を開始しても
よいと指示された結果を中央監視装置に送信する,③上記①及び②により,治療開
始時の状態を含め,中央監視装置側の医師の判断に必要とされる十分な情報を提供
することが可能となる,④中央監視装置から血液浄化装置へ患者の過去の治療デー
タ等の情報が送信され,ベッドサイドの看護師等が患者を直接観察している時に,
治療中の血液浄化装置側で上記情報を知り得ることで,適切かつ迅速な処置が可能
となるものである。
他方,先願発明は,患者の健康に関する医療用データを外部記憶装置から透析装
置に入力し,さらに映像信号に変換してテレビジョン受信機(以下「テレビ」とい
う。)に出力することにより,患者のカルテを持ち運ぶ手間を省き,透析中の患者
に視覚的に医療情報を伝えるという発明であり,先願明細書には,透析装置から外
部記憶装置に「治療開始時を含む中央監視装置側の医師の判断に必要とされる十分
な情報」を送信することに関する開示や,外部記憶装置が透析装置から各種情報を
受信し外部記憶装置側で医師が透析治療に関する判断を行うことに関する開示はな
い。
したがって,先願発明は,本件発明1のような中央監視装置の存在を前提とする
ものではなく,先願発明の外部記憶装置(パソコン)が本件発明1の中央監視装置
に相当しないことは明らかである。
イ本件発明1の中央監視装置は,単に情報を送受信してデータを保持できる装
置,すなわち血液浄化装置と通信可能な何らかの記憶装置であれば足りるものでは
なく,先願明細書に中央監視装置が開示されているということはできない。
(2)相違点1-2について
先願発明における「患者ID番号」は,各患者を識別する患者固有の番号すなわ
ち符号にすぎず,情報ではないから,それ自体は医師の判断や指示に何の影響も与
えない。患者ID番号は,パソコンのハードディスク内に保存されている患者の血
液分析データを検索するための検索キーとして用いられるものにすぎず,体温,血
圧,投薬,患者の状態等として例示されるような「血液浄化装置が監視していない
患者の治療に必要な情報」に相当しないことは明らかである。
先願発明における患者ID番号は,その性質上,操作者が透析装置に入力しなく
てもパソコンのハードディスクにあらかじめ保存されている情報である。
(3)小括
以上によると,本件発明は,先願発明と実質的に同一の発明であるということは
できない。
2取消事由2(引用発明2に基づく本件発明の新規性に係る判断の誤り)につ
いて
〔原告の主張〕
(1)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア本件発明1の「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」は,
本件明細書(【0015】【0031】)の「血液浄化装置が監視していない情
報」と同じ符号で特定されている以上,同義であることは明らかであって,本件発
明1の「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」には,血液浄化
装置のメンテナンス情報が含まれる。
他方,引用発明2における準備,透析及び洗浄等の動作モード(以下,総称して
「動作モード」という。)のうち,少なくとも洗浄モードが透析装置のメンテナン
ス情報に含まれることは明らかであるから,動作モードは,本件発明1の「血液浄
化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」に相当する。
イ本件発明1は,血液浄化装置から送信される情報のうち,操作者による関与
がなくても血液浄化装置が有する検出器,センサーなどによって取得される情報
(静脈圧等。本件明細書(【0007】))を「血液浄化装置が監視している情
報」とし,それ以外の情報を「血液浄化装置が監視していない情報」とするから,
血液浄化装置から入力される情報で,操作者による操作があって初めて入力が可能
となる情報は全て「血液浄化装置が監視していない情報」に相当する。引用発明2
における動作モードは,準備スイッチ,透析スイッチ及び洗浄スイッチの操作によ
り透析装置に入力される情報であるところ,透析装置から入力される情報で操作者
による操作があって初めて入力が可能となる情報であること,動作モードが不明で
あれば治療することができない以上,動作モード情報は「患者の治療に必要な情
報」であることからすると,「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な
情報」に相当する。本件明細書は,「体温,血圧,投薬,患者の状態等の患者の治
療に必要な情報」と「メンテナンス情報」とを明確に区別せず,むしろ,メンテナ
ンス情報が「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」に含まれる
ものとしているから,本件発明1において,「体温,血圧,投薬,患者の状態等の
患者の治療に必要な情報」と「メンテナンス情報」とを区別する実益はない。本件
発明1において,血液浄化装置側から送信される情報については,血液浄化装置が
監視している情報か否かについて区別する必要があるが,患者の治療に必要な情報
か否かという点についての区別は重要ではない。
ウ当業者は,静脈圧,透析液圧力,透析液温度,漏血の有無,透析液流量など
が「血液浄化装置が監視している情報」に相当すると理解するから,引用発明2の
動作モードが「血液浄化装置が監視している情報」に相当するとした本件審決は誤
りである。
(2)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア本件発明1は,「初期設定値に関する情報」と規定するにすぎないから,中
央監視装置から送信される初期設定値との比較に基づいて血液浄化装置に表示され
る警報表示は,「初期設定値に関する情報」に含まれるというべきである。
また,本件発明1は,「初期設定値に関する情報」が血液浄化装置において「表
示可能に構成」されると規定するにすぎず,表示可能な情報であれば足りるという
べきであるから,本件明細書(【0020】)に初期設定値そのものを表示する使
用方法が記載されていることをもって,初期設定値に限定解釈する理由はない。ま
た,同段落は,中央監視装置から送られた初期設定値を血液浄化装置側で医師の指
示に従って変更した情報について,中央監視装置から送られた初期設定値に関する
情報であるとしているから,本件発明1において,中央監視装置から最初に送られ
た初期設定値のみならず,これに関連する情報を「関する情報」と特定したことは
明らかである。中央監視装置側の医師の指示に基づいて変更された初期設定値が本
件発明1の「初期設定値に関する情報」に含まれる以上,引用発明2の警報表示が
「初期設定値に関する情報」に相当することは明らかである。
イ引用発明2の透析装置は,警報表示のみならず透析液温度,血液の圧力等の
情報も表示する表示回路を有する。また,引用発明2の透析装置では,プログラム
メモリ・データメモリに記憶された情報であれば,警報表示に限らず,表示回路に
おいて少なくとも「表示可能に構成」されているところ,プログラムメモリ・デー
タメモリに記憶されている「静脈圧あるいは温度の警報設定値等」及び「患者ごと
の静脈圧制御目標値,UFR(限外濾過流量)制御目標値等」も表示回路に表示さ
れるか,少なくとも「表示可能に構成」されていることは明らかであって,引用発
明2は,ホストコンピュータから送信される初期設定値そのものを透析装置に表示
することができるものである。また,コンピュータから送信された初期設定値が透
析装置の表示装置に表示されることは技術常識であるから,引用例2は,最重要な
警報表示について明示的に記載し,設定値そのものの表示については記載を省略し
たにすぎない。
(3)小括
以上によると,本件発明は引用発明2と同一であるというべきである。
〔被告の主張〕
(1)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア引用発明2は,本件発明1とは異なり,「血液浄化装置が監視していない患
者の治療に必要な情報」の送受信及び「患者の過去の治療データに関する情報」や
「初期設定値に関する情報」を血液浄化装置において表示可能とするという構成を
欠くものであり,本件発明1と同一であるということはできない。
イ引用発明2の動作モードは,中央監視装置側にいる医師が患者の状態を把握
して判断する際に必要な情報ではなく,透析装置の操作者がスイッチを操作するこ
とによって透析装置を動作させるための情報にすぎず,「血液浄化装置が監視して
いない患者の治療に必要な情報」に相当するものではない。
ウ本件発明4の特許請求の範囲の記載や本件明細書によれば,「血液浄化装置
が監視していない情報」の中には,①「体温,血圧,投薬,患者の状態等の患者の
治療に必要な情報」と②「血液浄化装置のメンテナンス情報」という2つの概念が
明確に区別されており,本件発明1にいう「血液浄化装置が監視していない患者の
治療に必要な情報」は,上記①に相当するものである。
(2)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア引用発明2の警報表示は,患者の容態の異常発生後に単にその事実を知らせ
るのみであるから,初期設定値の表示が果たす役割からすると,引用発明2では,
本件発明1のように「初期設定値に関する情報」が「表示可能に構成」されている
ということはできない。仮に,初期設定値に基づいてこれを加工したり変更したり
して得られた情報が「初期設定値に関する情報」であるとしても,引用発明2の警
報表示は,初期設定値を加工したり変更したりして得られた情報とはいえない。
イ引用例2には,データメモリに中央監視装置から送られるデータが記憶され
ることが開示されているのみであり,それらのデータが表示回路に全て表示される
ことについては開示されていない。引用発明2は,患者の容態の異常発生後に単に
その事実を知らせるのみであるから,初期設定値が「表示可能に構成」されている
ということはできない。
(3)小括
以上によると,本件発明は引用発明2と同一であるということはできない。
3取消事由3(引用発明2に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)
について
〔原告の主張〕
(1)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア引用発明2では,透析治療に必要な全情報が何であるかは当業者の技術常識
に委ねているところ,透析治療に必要な情報であれば,その情報のための入力手段
を追加的に設けてプログラムメモリ・データメモリのデータメモリ領域に記憶させ
ることは,当然に予定している範囲のことである。
他方,引用発明3の「モニタ装置」は,引用発明2の透析装置と同様,個別の患
者の透析に用いられる監視装置であり,引用発明3の透析液の液温計等は,引用発
明2の静脈圧計,温度計及び圧力計に相当するところ,これらはいずれも本件発明
1における「血液浄化装置が監視している情報」のセンサーとして機能する。
また,記憶されたデータを透析装置の外部に移動する方法について,引用発明2
では光伝送が用いられているのに対して,引用発明3ではICカードを着脱して移
動する方法が用いられている点で相違するにすぎない。
イ引用例3は,本件発明1における透析装置が監視していない患者の治療に必
要な情報を具体的に列挙した上で,これらをキーボードによって入力することを開
示しているところ,引用発明2においても,透析治療に必要なデータをプログラム
メモリ・データメモリのデータメモリ領域に記憶させることが記載されているから,
引用例3に記載されている具体的な情報を入力するために,キーボードを入力装置
として追加することは当業者が容易に行い得たことにすぎない。血液浄化装置にキ
ーボードを接続する以上,血液浄化装置が監視していない情報が入力されることは
当然の帰結である。
(2)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア引用例3の記載によれば,引用発明3において表示器に表示される入出力情
報に初期設定値が含まれることは明らかであるし,引用例2の第2図に図示された
表示回路に初期設定値を表示することは当業者が容易に行い得たことにすぎない。
イ当業者は,引用例2の「…等の必要なすべての情報」とは,血液透析治療の
判断に必要な全情報を意味するものであると当然に認識するし,また,情報を迅速
に誤りなく伝達したいということは自明の課題であるから,全情報について透析装
置からホストコンピュータに送信することを開示している引用例2の記載に接した
当業者は,血液透析治療の判断に必要な全情報を,ベッドサイド側から中央監視装
置側に,迅速に,誤りなく提供することを可能とするとの課題を容易に着想すると
いうことができる。キーボードは情報の入力手段として周知技術であり,引用発明
2自体がホストコンピュータへの情報入力手段としてキーボードを用いているほか,
引用発明3でもキーボードで情報が入力されている。引用発明2は,プログラムメ
モリ・データメモリに記憶された全情報をホストコンピュータに送信するものであ
るから,キーボードから入力された情報もホストコンピュータに送信され,表示回
路において表示可能であることも当然である。
また,引用発明2において,透析装置のI/O(入出力回路)にキーボードを接
続し,情報を入力した場合,当該情報も,当然に,I/O(入出力回路)及びCP
Uを介してプログラムメモリ・データメモリに記憶され,一定のタイミングでホス
トコンピュータ側へ送信されることとなるから,課題解決手段は,単に「キーボー
ドをI/O(入出力回路)に接続する」ことにすぎない。
(3)小括
以上によると,本件発明は,引用発明2及び3に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものというべきである。
〔被告の主張〕
(1)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア引用発明3は,透析患者に固有な設定値に基づいて人工臓器による透析が行
われ,医師や看護師がモニタ装置上の表示器を監視しながら透析状況を把握するも
のであって,他の装置と接続されなくても,それ自体が単独で使用されるものであ
るから,ホストコンピュータによる監視を前提とした引用発明2と根本的に相違す
る。しかも,引用発明3では,ホストコンピュータへの情報送信は単にICカード
の情報をバックアップするために行われており,引用発明3において,ホストコン
ピュータから人工臓器にオンラインで情報を送信できる構成にすると,人工臓器に
情報を入力するためにICカード読み書き装置等を設けた意味が失われるから,引
用発明2に引用発明3を組み合わせることには,阻害事由があるというべきである。
イ引用例2には,「…動作モード,温度,静脈圧等の透析データ,温度警報・
静脈圧警報等の警報状態等の必要なすべての情報」と記載されているから,そのよ
うな情報に,体温,血圧,投薬,患者の状態等の「血液浄化装置が監視していない
患者の治療に必要な情報」は含まれない。
また,本件出願日当時,体温,血圧,投薬,患者の状態等の「血液浄化装置が監
視していない患者の治療に必要な情報」を血液浄化装置側から中央監視装置に対し
て送信するという発想自体がなかったのであるから,引用例2の「透析治療に必要
なすべての情報」に,「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」
が含まれていると解することはできない。
(2)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア引用発明3のICカードは,他の人工臓器や他の医療施設等において別のI
Cカード読み書き装置に挿入することでデータを外部に移動するものであり,透析
治療時に医師が治療に必要な情報を把握する等の目的で行う中央監視装置への情報
の伝達とは全く異なる。
また,引用発明2の中央監視装置は複数台の透析装置の動作状況を監視するもの
であるのに対して,引用発明3のホストコンピュータはICカードのバックアップ
情報をファイル化するためのものであり,両者の機能は全く異なる。
イ引用発明3におけるICカードの入出力情報を表示する表示器は,ICカー
ド内の「初期設定値として入力すべきデータ」を表示するにすぎず,本件発明1の
ような,中央監視装置側の情報を表示する計器ではない。また,引用発明3の人工
臓器本体は,他の装置と接続することなく,それ自体が単独で使用されることを前
提とするものであって,このような引用発明3を,各透析装置がホストコンピュー
タと接続されることを前提とした引用発明2に組み合わせる動機付けはない。
(3)小括
以上によると,本件発明は,引用発明2及び3に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものということはできない。
4取消事由4(引用発明3に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)
について
〔原告の主張〕
(1)相違点3に係る判断の誤りについて
ア前記のとおり,引用発明3のホストコンピュータは,人工臓器から人工臓器
が監視している情報及び人工臓器が監視していない情報を受信するとともに,人工
臓器に初期設定値に関する情報を送信するものであるから,本件発明1の中央監視
装置に相当するものである。引用発明3において,ICカード読み書き装置及びホ
ストコンピュータをオンライン接続する場合,ICカードに関する説明をホストコ
ンピュータに関する説明として読み替えることになるから,引用例3は,人工臓器
からホストコンピュータに対して人工臓器が監視している情報及び人工臓器が監視
していない情報を送信することを開示しているということができる。
イ引用発明3は,例えば人工臓器のオペレータが治療開始時にICカードから
読み出した初期設定値を確認し,当該初期設定値で治療可能かどうか判断し,必要
であればキーボードからICカード読み書き装置を通して初期設定値を変更し,変
更内容を含むメッセージをICカードに送信することが可能であり,さらに,表示
器において,変更内容を含むメッセージを医師が確認することができるものである。
引用発明3において,ICカード読み書き装置及びホストコンピュータをオンラ
イン接続する場合,ホストコンピュータから人工臓器に初期設定値を送信し,オペ
レータが人工臓器において初期設定値を確認して必要であれば変更し,変更結果を
含むメッセージをホストコンピュータに送信し,ホストコンピュータにおいて医師
が同メッセージを確認するものである。複数の透析装置をコンピュータに接続して
集中管理を行うことは,本件出願日当時の周知技術である。そして,透析中に発生
する除水量・TMP・静脈圧・血圧などの数多くのデータや検査データを集積する
だけでなく,次回以降の透析に十分活用するソフトウェアなどが必要であることも
周知の課題であったということができる。
したがって,引用発明3におけるICカード読み書き装置と大型のホストコンピ
ュータをオンライン接続した構成は,複数の透析装置から得られる情報を集中的に
蓄積して管理する構成となることは明らかである。
ウ本件発明1において,中央監視装置の定義は存在しないところ,当業者は引
用発明3における「ICカードのバックアップ情報をファイル化するホストコンピ
ュータ」は,本件発明1の中央監視装置に相当すると理解するものである。
本件発明1における中央監視装置は,「①血液浄化装置が監視していない情報を
受ける,②血液浄化装置が監視している情報を受ける,③血液浄化装置に対して,
保持する患者の過去の治療データに関する情報,及び/又は患者の治療を行うため
の除水設定値や警報点設定値等の初期設定値に関する情報を送信する。」という機
能を奏するところ,引用発明3のホストコンピュータは上記①ないし③の全機能を
有するから,本件発明1の中央監視装置にほかならない。
エ仮に,引用発明3のホストコンピュータが中央監視装置に相当しないとして
も,引用発明3のホストコンピュータと引用発明2のホストコンピュータとは,透
析治療に用いるコンピュータであって,透析装置との間で情報の送受信が可能であ
り,多量のデータを保存できる機能を有するという点で同じ機能を奏するものであ
ることなどからすると,引用発明3のホストコンピュータを引用発明2のホストコ
ンピュータに置換することは当業者が容易に想到し得たものということができる。
(2)小括
以上によると,本件発明は,引用発明3及び2に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものというべきである。
〔被告の主張〕
(1)相違点3に係る判断の誤りについて
引用例3には,単にICカードの情報をバックアップするためにICカード読み
書き装置からホストコンピュータに情報を送信する構成が開示されているにすぎず,
ホストコンピュータは,本件発明1の中央監視装置には相当しない。
引用発明3は人工臓器(透析装置)単体に関する発明であり,複数の透析装置を
管理するシステムに関するものではない。引用例3の実施例には,人工臓器本体の
ICカード読み書き装置等はICカードへの書き込みのための記憶手段を有してい
ることが開示されているが,これらの記憶手段は一時的なものであることが一般的
であるから,ICカードの情報をバックアップしようとするならば,人工臓器本体
とは別に記憶手段が必要である。すなわち,引用発明3のホストコンピュータは,
バックアップ情報のファイル化に使用されるだけのものであり,人工臓器本体の外
部記憶装置としての機能を有するにすぎない。
したがって,引用発明3のICカードのバックアップ情報をファイル化するため
のホストコンピュータは,本件発明1の中央監視装置には相当しない。
(2)小括
以上によると,本件発明は,引用発明3及び2に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものということはできない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件
明細書(甲12)には,おおむね次の記載がある。
(1)産業上の利用分野
本件発明は,中央監視システムに接続可能な血液浄化装置において,装置の操作
者による中央監視装置との間の情報の入出力及び情報の確認を血液浄化装置側で可
能とする血液浄化装置及びこれを使用する中央監視システムに関する発明である
(【0001】)。
(2)従来の技術
近年,血液透析等に代表される血液浄化治療において,治療器機である血液透析
装置等の血液浄化装置を複数台まとめて中央監視装置で監視する中央監視システム
が導入されつつある(【0002】)。この種の中央監視システムに接続可能な従
来の血液浄化装置は,外部信号入出力部を有し,中央監視システムの通信網と接続
することにより,中央監視装置との間で情報の送受信を行う(【0003】)。
また,血液浄化装置若しくはその周辺機器が監視していない情報,例えば体温,
血圧,投薬,患者の状態等の情報は,操作者が治療記録ノート等に記載しておき,
操作者が後に中央監視装置に対し,端末キーボード等により入力を行っている
(【0004】)。
(3)発明が解決しようとする課題
ア通常,治療現場では,看護師等の血液浄化装置の操作者が,医師の指示によ
り定期的にベッドサイドで患者の状態を直接観察し,治療開始から治療の進行状況
等をチェックし,記録して医師に報告すること,又は医師の指示により血液浄化装
置の操作をすることが重要な仕事となっている。しかし,従来の中央監視システム
では,次のとおり4つの問題点が存在した(【0005】【0006】)。
(ア)従来の中央監視システムでは,血液浄化装置が監視している情報を,一定
時間ごとにあらかじめ設定された監視項目について,自動的に中央監視装置へ送信
して表示,記憶又はプリント出力させる機械的操作によるものであったため,医師
が定期的に中央監視装置へ送られてくる,血液浄化装置が監視している情報でしか
治療の進行状況を把握できず,治療の進行状況を把握するには不十分であった。
また,ベッドサイドで看護師が患者を直接観察し,その時の記録を中央監視装置
に直接送信できないために,医師が中央監視装置側で,治療中の患者の状態又は看
護師が医師の指示によって処置した後の患者の状態を,処置後直ぐに適正かつ十分
に把握できない難点があった。例えば,治療中に血液浄化装置が監視している静脈
圧が上昇又は下降した場合,直接患者を観察し処置をする必要があるが,処置が遅
れると患者の生命に危険が生じる場合がある。医師にとっては,指示通り適切に処
置されたか,処置後の患者の状態の把握が必要である。定期的に中央監視装置側に
送信されてくる情報だけでは,処置又は処置後の患者の状態の確認が遅れ,非常に
危険である。医師がベッドサイドで全患者の処置又は処置後の状態の確認を行うと
すると,他の患者の監視ができなくなり,一度に多くの患者の監視が可能であると
いう中央監視システムの利点を十分に生かすことができない(【0007】)。
(イ)体温,血圧,投薬,患者の状態等の血液浄化装置が監視していない情報を,
看護師が患者を直接観察し,ベッドサイドでの操作により中央監視装置へ送信して
表示,記憶又はプリント出力させることが不可能なため,これらの情報の医師への
伝達が遅れることがあった。また,一度手作業により記録後,中央監視装置のキー
ボード等により入力することは,手間が掛かるばかりでなく,誤入力を生じやすか
った。中央監視装置が保持している過去の治療データにより,患者の治療方針を決
めることがあるため,中央監視装置への誤入力は,治療条件の誤設定の原因となり,
患者の生命に危険を及ぼす可能性があった(【0008】)。
(ウ)看護師が直接患者の状態を観察し,中央監視装置から血液浄化装置に送信
された初期設定(除水設定,警報点設定等)値で治療可能か否か,医師の指示に従
って判断し,必要であれば初期設定値を血液浄化装置側で変更し,治療を開始して
もよいと指示された結果(変更内容も含む)を看護師がベッドサイドの操作で中央
監視装置へ送信することが不可能なため,中央監視装置で医師が治療開始時の状態
を十分に把握できない難点があった(【0009】)。
(エ)血液浄化装置に中央監視装置内の情報を呼び出す検索手段がないため,ベ
ッドサイドで医師又は看護師が患者を直接観察している時に,治療中の血液浄化装
置側で中央監視装置が保持している患者の過去の治療データ等の情報を知り得るこ
とができず,一度中央監視装置を設置した部屋に移動して確認する必要があり,手
間が掛かっていた。また,中央監視装置側より医師がベッドサイドの看護師に処置
方法を伝える場合,メモ等による伝達の必要があるため,処置方法の伝達が遅れ,
患者の生命に危険を及ぼす可能性があった(【0010】)。
イ本件発明の目的は,血液浄化装置の操作者が,血液浄化装置の監視情報ある
いはそれ以外の情報又は初期設定に関する情報,さらには中央監視装置等の外部装
置が保持している情報を,ベッドサイドでの操作により中央監視装置に対して簡便
に送受信しかつ確認することができる血液浄化装置及びこれを使用する中央監視シ
ステムを提供することにある(【0011】)。
(4)課題を解決するための手段
ア前記の目的を達成するために,本件発明に係る血液浄化装置は,操作により
中央監視装置との間において,血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な
情報を入力して送信し得る操作者用インタフェース部を設け,このインタフェース
部と外部信号入出力部とをマイクロコンピュータを介して相互に制御可能に構成す
るとともに,中央監視装置が保持する患者の過去の治療データに関する情報,及び
/又は中央監視装置から送られる患者の治療を行うための除水設定値や警報点設定
値等の初期設定値に関する情報を表示可能に構成する(【0012】)。
イ本件発明の血液浄化装置は,操作により中央監視装置との間において,血液
浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報群から選択された1種以上の情
報に関するデータを入力して送信し得る外付け操作者用インタフェース部と外部信
号入出力部とをマイクロコンピュータを介して相互に制御可能に構成することもで
きる(【0013】)。
ウ本件発明の血液浄化装置は,操作により中央監視装置との間において,血液
浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報群から選択された1種以上の情
報に関するデータを入力して送信し得る操作者用インタフェース部及び外付け操作
者用インタフェース部を設け,操作者用インタフェース部は直接,外付け操作者用
インタフェース部は操作者用インタフェース接続部を介し,外部信号入出力部との
間においてそれぞれマイクロコンピュータを介して相互に制御可能に構成すること
もできる(【0014】)。
エ本件発明の血液浄化装置は,外部信号入出力部を介し,通信網を使用して中
央監視装置と接続し,血液浄化装置が監視している情報及び中央監視装置から血液
浄化装置へ送られる患者の治療を行うための初期設定値に関する情報が血液浄化装
置と中央監視装置との間における通信経路で構成される通信網によって送受信され,
血液浄化装置より中央監視装置へ送られる患者の治療に必要な情報や血液浄化装置
のメンテナンス情報等の血液浄化装置が監視していない情報が,血液浄化装置に設
けられる操作者用インタフェース部を使用して通信網によって送受信され,血液浄
化装置において,中央監視装置への情報の入力と,中央監視装置からの前記情報の
出力と,中央監視装置内の情報の表示とを,それぞれ可能なように構成することも
できる(【0015】)。
(5)作用
本件発明によれば,血液浄化装置が監視している情報を,血液浄化装置の操作者
がベッドサイドの操作により任意の時間に任意の監視項目について中央監視装置へ
送信することができる。また,体温,血圧,投薬,患者の状態等の血液浄化装置が
監視していない情報についても,血液浄化装置の操作者がベッドサイドの操作によ
り中央監視装置へ送信することが可能である(【0019】)。
本件発明によれば,中央監視装置から血液浄化装置に送信された初期設定(除水
設定,警報点設定等)値で治療可能か否か,中央監視装置側の医師の指示に従って
判断し,必要であれば初期設定値を血液浄化装置側で変更し,治療を開始してもよ
いと指示された結果(変更内容も含む)を,看護師等がベッドサイドの操作で中央
監視装置へ送信することが可能となり,中央監視装置側で医師が治療開始時の状態
を十分に把握することができ,治療の安全性を高めることができる(【002
0】)。また,本件発明によれば,ベッドサイドで看護師等が患者を直接観察して
いる時に,治療中の血液浄化装置側で中央監視装置が保持している患者の過去の治
療データ等の情報を知り得るため,ベッドサイドでの患者に対する適切な治療ない
し応急処置を簡便かつ迅速に達成することができる。この場合,中央監視装置側の
医師よりベッドサイドの看護師等に対して患者の適切な処置方法を直ちに伝達する
こともでき,患者の生命の安全性をより一層高めることができる(【0021】)。
(6)実施例
ア本件発明の実施例において,装置外部への信号の出力部及び外部からの信号
の入力部を構成する外部信号入出力部に対し,操作者用インタフェース部を設け,
この操作者用インタフェース部と外部信号入出力部とをマイクロコンピュータによ
り相互間の制御を行うように構成する。すなわち,この構成によれば,操作者が,
操作者用インタフェース部から入力した情報を,外部信号入出力部より装置外部
(中央監視装置等)へ出力すること及び外部信号入出力部より入力された装置外部
の情報を,操作者用インタフェース部により操作者が確認することができる(【0
023】【図1】)。
イ血液浄化装置側における操作者の実際的な操作としては,例えば,操作者が
「送信」と表示された操作者用インタフェース部のスイッチを押すことにより,患
者監視装置が監視している情報を,中央監視装置に送信し,記憶することができる。
次いで,患者監視装置が監視している情報の中の送信したい情報の項目について,
操作者用インタフェース部のスイッチを押すことにより,随時該当する情報を中央
監視装置に送信し,記憶することができる。そして,血液浄化装置のベッドサイド
において,確認したい情報の項目について操作者用インタフェース部のスイッチを
押すことによって,中央監視装置が記憶している患者の過去のトレンドデータに基
づいて該当する情報が中央監視装置から送信され,患者監視装置の液晶ディスプレ
イに表示されることにより,確認することができる(【0025】)。
なお,操作者用インタフェース部は,液晶ディスプレイとタッチ式スイッチのほ
か,その他公知のディスプレイ手段及びキーボードスイッチ手段の組合せを使用す
ることもできる(【0026】)。
ウ本件発明においては,【図1】ないし【図3】により図示された血液浄化装
置を使用して,【図4】のとおり中央監視システムを構築することにより,各血液
浄化装置の操作者が,血液浄化装置の監視情報あるいはそれ以外の情報又は初期設
定に関する情報を,ベッドサイドでの操作により中央監視装置に対して簡便に送受
信しかつ確認するように構成することができる。
この血液浄化装置の中央監視システムの構成によれば,血液浄化装置が監視して
いる情報及び中央監視装置から血液浄化装置へ送られる情報は,血液浄化装置,中
継器,中央監視装置の通信経路で構成される中央監視システムの通信網により送受
信される。また,患者の治療に必要な情報や血液浄化装置のメンテナンス情報等の
血液浄化装置が監視していない情報は,血液浄化装置に設けられる操作者用インタ
フェース部を使用して,血液浄化装置の操作者により中央監視システムの通信網で
送受信される。血液浄化装置は,中央監視装置の端末として機能し,血液浄化装置
の操作者が中央監視装置への情報の入力,中央監視装置からの情報の出力,中央監
視装置内の情報の確認を行うことが可能となる(【0030】【0031】,【図
1】~【図4】)。
2取消事由1(本件発明と先願発明との同一性に係る判断の誤り)について
(1)先願明細書の記載について
先願明細書(甲1)には,おおむね次の記載がある。
ア産業上の利用分野
先願発明は,透析治療を受けている患者に対して,医療スタッフがテレビを使っ
て治療成績を説明するための透析表示用装置に関する(【0001】)。
イ従来の技術
透析治療において,患者は,透析装置により血液浄化を受ける約4時間もの間,
ベッドの上に拘束されながら,ベッドに備え付けられたテレビにより一般のテレビ
放送を見ているのが常である。医師は,その時間を利用して患者を回診し,最近の
治療成績についての説明を行っている。この回診は,患者に治療状況を把握させて
自己管理の意欲を向上させることを目的としており,これにより,患者の延命や治
療費の削減等につながる(【0002】)。
ウ発明が解決しようとする課題
回診の際,医師は該当する患者のカルテを探し出したり,複数の受け持ち患者の
カルテを持ち運ばなければならず,煩雑な業務を強いられるという問題がある。ま
た,口述だけの説明では患者の理解が十分に得られないことがあり,効果的な手法
が望まれている。先願発明は,回診時の煩雑な業務を簡略化し,患者への説明を効
果的に行うことができる透析用表示装置を提供することを目的とする(【000
3】【0004】)。
エ作用
先願発明において,外部記憶装置に記憶保持されている患者医療用データは,透
析装置に入力され,映像信号に変換されてテレビに出力されるから,患者のカルテ
を探し出して持ち運ぶという手間が省かれ,患者に対して視覚的に医療情報が伝達
される。また,外部記憶装置内の患者医療用データが書き込まれる携帯用記憶媒体
からデータを読み出して入力する構成にすると,外部記憶装置から透析装置に患者
医療用データを入力するためのデータ伝送路等の設備が不要となり,個人の秘密も
守られやすい(【0005】)。
オ実施例
(ア)ハードディスク及び通信制御機構を装備したパソコンと,患者ごとに備え
られる透析装置とがデータ伝送路を介して接続される。各患者が仰臥するベッドの
近くにはテレビ放送を受信するテレビが据え付けられており,テレビと各透析装置
とがそれぞれに接続される。生化学検査会社から送られてきたフロッピーディスク
から,血液分析データがパソコンに内蔵されたディスク駆動装置で読み取られ,ハ
ードディスクに患者ごとに記憶される(【0006】【図1】)。
(イ)入力装置は,マイクロプロセッサに対して外部から命令を与えるための各
種の操作ボタンや簡単なキーを備えている。例えば,血液分析データの表示におけ
る処理命令を与える「臨床データ読み出しボタン」や,各患者を識別する患者ID
番号を入力するためのキー等である。マイクロプロセッサは,入力装置からの命令
に応じてROM内のプログラムを読み出し,そのプログラムに従ってRAM内のデ
ータ処理等を行うように構成されている(【0007】【図2】)。
通信制御機構は,マイクロプロセッサからの命令をパソコンに出力したり,パソ
コンから送られてくるデータをマイクロプロセッサに入力するもので,パソコンに
接続されている通信制御機構も同様の機能を有している。映像信号変換回路は,マ
イクロプロセッサから出力される処理後のデータをテレビで受信可能な映像信号に
変換するもので,テレビの種類に応じた各種の信号への変換が可能なように構成さ
れる(【0008】)。
(ウ)自動血圧計は,透析治療中に行われる患者の上腕部に取り付けられて,自
動的に患者の血圧測定を行い,その血圧データをマイクロプロセッサに伝送するよ
うに構成されている(【0010】)。
(エ)透析治療の開始直後あるいはこれに先立って,治療を受ける患者ID番号
を入力装置のキーを操作してマイクロプロセッサに入力しておく。マイクロプロセ
ッサは,患者ID番号とともにデータ読み出し命令を通信制御機構を介してパソコ
ンに伝送する。パソコンはハードディスク内にストアされている多数の患者の血液
分析データの中から,患者ID番号で検索した血液分析データを返送する。返送さ
れてきた血液分析データはマイクロプロセッサによってRAMに一時的に記憶され
る(【0011】)。回診で患者のベッドの側に到来した医師が血液分析データを
読み出したい時は,テレビの表示をテレビ放送から臨床データ表示に切り換え,入
力装置の「臨床データ読み出しボタン」を押す(【0012】)。マイクロプロセ
ッサは,押しボタンの操作に応じて,ROM内のプログラムを読み込み,プログラ
ムに従って,RAM内に一時的に記憶されている血液分析データを読み出し,血液
分析データのグラフを作成し,作成したグラフデータを映像信号変換回路に出力す
る(【0013】)。映像信号変換回路はグラフデータをテレビ用の映像信号(R
GB信号等)に変換してテレビに出力することにより,患者及び医師が同時にテレ
ビ上で最近の血液分析データの推移を見ながら,これからの生活態度や薬の処方な
どの相談を行うことができる(【0014】【図3】)。
(オ)看護師が,例えばテレビを透析中の患者の血圧推移の表示に利用する時は,
自動血圧計で測定された血圧データをマイクロプロセッサに伝送し,RAMに一時
的に記憶させておく。必要時に看護師が入力装置の「血圧データ読み出しボタン」
を押すと,血液分析データと同様にグラフ化処理されて透析開始後の血圧推移デー
タがテレビに表示される(【0015】【図4】)。
また,透析装置から表示するデータとして除水量経緯を示せば,所定の除水量に
何時ごろ達するかが患者に容易に理解でき,苦しくなってくる後半の透析治療に耐
える励みとなる(【0016】)。
(カ)毎回の透析治療の前に,患者は各自のICカードをICカードリーダー/
ライターに挿入して体重計に乗り,体重を測定する。体重測定データはICカード
に書き込まれている患者ID番号とともにパソコンに送られてハードディスクに保
存される一方,ICカードリーダー/ライターによってICカードにも書き込まれ
る。パソコンは患者ID番号でハードディスク内を検索して血液分析データを読み
出し,ICカードリーダー/ライターに出力する。ICカードには先の体重測定デ
ータとともに血液分析データが書き込まれる(【0019】)。
(2)相違点1-1に係る判断の誤りについて
ア前記1によれば,本件発明1は,血液浄化装置において,従来の中央監視シ
ステムの有する課題,すなわち,定期的に中央監視装置へ送られてくる血液浄化装
置が監視している情報でしか医師が治療の進行状況を把握できず,治療の進行状況
を把握するには不十分であったこと,体温,血圧,投薬,患者の状態等の血液浄化
装置が監視していない情報を看護師が患者を直接観察し,ベッドサイドでの操作に
より中央監視装置へ送信して表示,記憶させること等が不可能なため,医師への伝
達が遅れるおそれがあること,これらの情報を手作業により記録後,中央監視装置
のキーボード等により入力することは,手間が掛かるのみならず誤入力を生じやす
かったことなどを解決するために,血液浄化装置の操作者が,血液浄化装置の監視
情報あるいはそれ以外の情報又は初期設定に関する情報,さらには中央監視装置等
の外部装置が保持している情報を,ベッドサイドでの操作により中央監視装置に対
して簡便に送受信し,かつ確認することができることを目的とする発明である。
そうすると,本件発明1における「血液浄化装置が監視していない患者の治療に
必要な情報」とは,血液浄化装置の操作者が患者を観察する等して得られた体温,
血圧,投薬,患者の状態等の情報を意味するものというべきである。
イ前記(1)の先願明細書の記載によれば,先願発明は,透析治療において,約4
時間の治療時間が掛かることから,医師がその時間を利用して患者を回診し,最近
の治療成績についての説明を行う際,患者のカルテを探し出したり,複数の患者の
カルテを持ち運ぶことは煩雑であること,口述説明だけでは患者の理解が十分に得
られないことから,回診時の煩雑な業務を簡略化し,患者への説明を効果的に行う
ことができる透析用表示装置を提供することを目的とするものである。
先願発明のパソコンは,フロッピーディスクから血液分析データを読み取ってハ
ードディスクに患者ごとに記憶し,透析用表示装置に接続された入力装置より入力
された治療を受ける患者の患者ID番号とともにデータ読み出し命令が通信制御機
構を介して伝送されると,記憶された多数の患者の血液分析データの中から,患者
ID番号で検索した血液分析データを透析装置へ返送するものである。
先願発明のパソコンは,患者ID番号が透析用表示装置から入力されるものでは
あるが,患者ID番号は,パソコンのハードディスク内に記憶されている当該患者
の血液分析データを返送するために入力されるものであり,血液分析データをグラ
フデータとしてテレビに出力することにより,患者及び医師が同時にテレビ上で最
近の血液分析データの推移を見ながら今後の生活態度や薬の処方などの相談を行う
ことができるようにするものである。
ウ本件発明1において,中央監視装置は,操作者が入力し,血液浄化装置から
送信される,血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報を受信し,表
示する機能を有するところ,先願発明では,透析装置からパソコンに対して送信さ
れるのは患者ID番号であって,患者ID番号は,パソコンに保存され,回診に用
いられるカルテ(血液分析データ)を読み出すために用いられるものにすぎないか
ら,本件発明1における「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情
報」に相当するということはできない。また,先願明細書には,ほかに透析装置か
ら患者ID番号以外の何らかの情報が送信されることは記載されていないから,先
願発明のパソコンは,患者の治療に必要な情報が透析装置から送信されるものでは
なく,本件発明1の「中央監視装置」に相当するということはできない。
エこの点について,原告は,本件発明1の中央監視装置は,血液浄化装置から
送信される情報の受信が可能であるとともに,患者の過去の治療データを保持でき
る,及び/又は中央監視装置から初期設定値に関する情報を送信できる装置であれ
ばよく,初期設定値に関する情報を送信することができないコンピュータも含まれ
るほか,医師がコンピュータ側で治療開始時の患者の状態を把握できない装置も中
央監視装置に該当すると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件発明1は,体温,血圧,投薬,患者の状態等
の血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報を看護師が患者を直接観
察し,ベッドサイドでの操作により中央監視装置へ送信して表示,記憶させること
を課題解決手段とする発明であるから,血液浄化装置から送信される何らかの情報
の受信が可能であることをもって,本件発明1の中央監視装置に相当するというこ
とはできない。
また,原告は,先願明細書(【図1】)のシステム概念図を見た当業者が透析中
に発生するデータを透析装置からパソコンに送信するように構成することは周知技
術の適用にすぎず,先願明細書において当然に想定されていた範囲のものであるし,
先願明細書は,実質的に,除水設定値に関する情報である患者の体重測定データを
パソコンからデータ伝送路を介して透析装置に送受信することを開示しているとい
うべきであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,先願発明は,透析治療を行っている間,透析装置
に設けられたテレビにカルテ(血液分析データ)を表示することを課題解決手段と
する発明であり,パソコンは血液分析データを記憶するためのものであって,透析
中に発生するデータを集中的に管理して集積することを目的とするものではないか
ら,先願発明において,仮に体重測定データが所期設定値に関する情報に相当する
としても,先願発明のパソコンが本件発明1の中央監視装置に相当するということ
はできない。
さらに,原告は,本件発明1と先願発明との対比では,先願発明に透析装置の通
信の相手方としての中央監視装置が存在するか否かこそが重要であるし,本件発明
1の奏する効果は,中央監視装置ではなく,血液浄化装置に設けられた「操作者用
インタフェース部」により実現されるものであるから,中央監視装置は情報の送受
信が可能で一定の情報を記憶できるコンピュータであれば足りると主張する。
しかしながら,本件発明1の中央監視装置は,血液浄化装置から送信される,血
液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報を受信するものであるから,
先願発明において,透析装置が監視していない患者の治療に必要な情報が透析装置
から送信されない以上,先願発明の患者医療用データを記憶保持するハードディス
クを装備したパソコンをもって,本件発明1における中央監視装置に相当するとい
うことはできない。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(3)相違点1-2について
ア前記のとおり,患者ID番号は,パソコンに保存され,回診に用いられるカ
ルテ(血液分析データ)を読み出すために用いられるものにすぎないから,本件発
明1の「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」に相当するとい
うことはできない。
イこの点について,原告は,先願明細書(【図2】)には自動血圧計が図示さ
れているから,自動的に測定された血圧をパソコンに送信するように構成すること
も単なる当業者の技術常識の適用にすぎない,透析装置において,装置自体に備わ
ったセンサー等によって装置に入力される情報が存在することは周知であり,本件
明細書では,このような周知の情報について「血液浄化装置が監視している情報」
と記載し,それ以外の情報を広く捉えて「血液浄化装置が監視していない患者の治
療に必要な情報」と記載したものであるから,透析装置のセンサー等によって自動
的に入力されることのない「患者ID番号」が「血液浄化装置が監視していない患
者の治療に必要な情報」に該当することは明らかであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件明細書では,「血液浄化装置が監視していな
い患者の治療に必要な情報」について,装置自体に備わったセンサー等によって装
置に入力される情報以外の情報であると広く解しているわけではないから,原告の
主張はその前提を欠くものである。先願明細書には,自動血圧計で測定された血圧
データをRAMに一時的に記憶させておくことが記載されているが,このRAMが
透析装置に備えられているものであり,血圧データをパソコンを含む他の装置にも
記憶させること及び他の装置に対して送信することは記載されていないから,仮に
血圧データが患者の治療に必要な情報であるとしても,これをパソコンに送信する
ことは記載も示唆もされていないというほかない。
また,原告は,先願発明において,患者ID番号は患者を特定するために必要な
番号であり,それにより特定される患者医療用データを読み出す役割を有し,同デ
ータは,回診の際に医師が患者に対して連絡したいと思う医療情報であるから,
「患者の治療に必要な情報」に当たると主張する。
しかしながら,仮に,医師及び患者が,回診の際,血液分析データを見ながらこ
れからの生活態度や薬の処方などの相談を行うことをもって,血液分析データが患
者の治療のために必要な情報であると解するとしても,血液分析データは原告が中
央監視装置に相当すると主張するパソコンではなく,透析装置のテレビに表示され
るものにすぎない。しかも,前記のとおり,患者ID番号はパソコンが記憶してい
る血液分析データの中から読み出して透析装置のテレビに表示すべきデータを特定
するためのID番号にすぎず,患者の治療に必要な情報そのものということはでき
ない。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
よって,本件発明1は,先願発明と実質的に同一の発明であるということはでき
ない。
そして,本件発明2ないしは4は,本件発明1の構成をその構成の一部とするも
のであるから,本件発明1が先願発明と実質的に同一の発明であるということがで
きない以上,当然に,先願発明と実質的に同一の発明であるということはできない。
3取消事由2(引用発明2に基づく本件発明の新規性に係る判断の誤り)につ
いて
(1)引用例2の記載について
引用例2(甲2)には,おおむね次の記載がある。
ア産業上の利用分野
引用発明2は,血液透析を必要とする複数の患者の透析加療をする際に,患者の
状態変化及び患者ごとに設置された透析装置の動作状況をホストコンピュータで監
視するとともに透析中の各種データを自動的に収集・記憶し,又は各透析装置をホ
ストコンピュータからの指令で一括若しくは個別に制御する血液透析集中監視,制
御装置に関するものである。
イ従来技術の問題点
従来の方法では,ホストコンピュータと各透析装置及び多人数用透析液供給装置
との間のインタフェースに問題があった。また,単にデータを収集・記憶するのみ
で,透析装置及び多人数用透析液供給装置を制御することは行っていなかった。
引用発明2の目的は,ホストコンピュータの負担を軽減することができ,各透析
装置とのデータ通信にGPIBインタフェース回路を用いる場合のようにコスト高
となるおそれがなく,20床以上の病院でも使用できる血液透析集中監視,制御装
置を提供することにある。
ウ問題点を解決するための手段
引用発明2は,複数の個人用透析装置又は多人数用透析液供給装置及び複数の透
析装置で構成される大規模透析装置において,各装置のそれぞれにデータサーバと
データの送受信を行うためのデータ信号入出力回路を備え,データサーバは,デー
タ信号入出力回路とデータを一時記憶しておくための記憶回路と,ホストコンピュ
ータとデータ通信を行うインタフェースバスと,大規模透析装置及びホストコンピ
ュータとの通信を制御するためのCPU回路とを備え,ホストコンピュータはデー
タサーバとのインタフェースバス,キーボード,表示装置及びCPU回路を備え,
大規模透析装置の動作状況を自動的に収集・記憶するとともにその動作を制御でき
るように血液透析集中管理装置を構成する。この構成により,データサーバの負荷
が分散され,ホストコンピュータの負担が軽減される。
エ実施例
(ア)透析装置は,入出力回路に接続された準備スイッチ,透析スイッチ及び洗
浄スイッチにより操作され,それぞれ,準備モード,透析モード,あるいは洗浄モ
ードの動作を行う。準備モード及び透析モードでは,温度制御回路により透析液温
度が制御され,温度計回路により透析液温度が検出され,A/D変換器によりデジ
タル値に変換されて一定時間ごとにCPUに入力される。CPUは,プログラムメ
モリ・データメモリのデータメモリ領域に温度測定値を記憶し,表示回路に温度表
示する。CPUは,透析液温度があらかじめプログラムメモリ・データメモリのデ
ータメモリ領域に記憶された制御温度範囲以外になった場合に温度警報を発し,表
示回路に温度警報表示を行い,ドライバーに接続されたブザーを鳴らし,バイパス
弁を制御して透析液をバイパスさせる。静脈圧についても,同様に測定・記憶・表
示を行う。透析モードの場合に静脈圧警報が発生した時は,血液回路に接続された
血液ポンプを停止させる。準備モード及び透析モードでは,CPUはこのような動
作を繰り返す。
(イ)キャラクタがデータ送信命令であった場合,CPUは,プログラムメモリ
・データメモリのデータメモリ領域に記憶したデータを一定のフォーマットに整列
し,ひとまとまりのデータとしてシリアル入出力回路に出力する。フォーマットは,
準備・透析・洗浄等の動作モード,温度,静脈圧等の透析データ,温度警報・静脈
圧警報等の警報状態等の必要な全情報を含むようにあらかじめ定めておく。
(ウ)ホストコンピュータは入力した透析データをプログラムメモリ・データメ
モリのデータメモリ領域に記憶し,必要に応じて補助記憶装置に記憶し,表示出力
装置に出力する。ホストコンピュータの動作は,キーボードにより操作され,表示
画面の選択,補助記憶装置からのデータの読み出し,透析データ収集の中断等を行
う。ホストコンピュータからの制御により各透析装置の制御を行うことができる。
(エ)ホストコンピュータのキーボードに静脈圧あるいは温度の警報設定値等を
入力し,データサーバを通して各透析装置に送信すること,又は,キーボードに患
者名を入力し,補助記憶装置に記憶されたその患者の設定データを各透析装置に送
信することも考えられる。これらの場合,データサーバはバッファとしての役目を
持ち,各透析装置からのデータの入力と,各透析装置への設定データの出力のスケ
ジュールの管理を行う。
(オ)透析中に透析装置に温度警報,静脈圧警報等の警報が発生した時に透析装
置から送信される警報情報をホストコンピュータの表示出力装置のディスプレイ上
に表示して,医師あるいは看護師が警報内容をナースステーション内で確認できる
ようにし,警報が軽微なものである場合,ホストコンピュータからの遠隔操作で警
報解除ができるようにし,あるいは,警報設定値の変更が必要な場合には同様に遠
隔操作により警報設定値が変更できるようにすることも可能である。
オ第2図
引用例2の第2図には,準備スイッチ,透析スイッチ及び洗浄スイッチとシリア
ル入出力回路及び光伝送モジュールとをCPUを介して相互に制御可能に構成する
ことが図示されている。
(2)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア前記(1)によれば,引用発明2の透析装置は,準備スイッチ,透析スイッチ及
び洗浄スイッチにより操作され,それぞれ,準備モード,透析モード,あるいは洗
浄モードの動作を行い,動作モードの情報を含むデータは,ホストコンピュータへ
送られるものであり,上記各スイッチにより操作され,それぞれ上記各モードにお
ける特定の動作を行うものである。すなわち,上記各スイッチは,透析装置の動作
モードを設定するためのスイッチであり,透析装置は設定されたモードに応じた動
作を行うのであるから,ホストコンピュータへ送信される動作モードの情報は透析
装置が行う動作モードに係る情報であるというべきである。
したがって,透析装置の動作モードは各スイッチにより操作設定されるものでは
あるが,透析装置の動作モードに係る情報は,透析装置が監視していない情報であ
るということはできず,また,血液浄化装置の操作者が患者を観察する等して得ら
れた体温,血圧,投薬,患者の状態等の情報であるということもできないから,本
件発明1の「血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報」に相当する
ということはできない。
イこの点について,原告は,本件発明1の血液浄化装置が監視していない患者
の治療に必要な情報には,血液浄化装置のメンテナンス情報が含まれるのみならず,
血液浄化装置から入力される情報で操作者による操作があって初めて入力が可能と
なる情報は全て含まれるから,引用発明2における動作モード情報が患者の治療に
必要な情報である以上,本件発明1の血液浄化装置が監視していない患者の治療に
必要な情報に相当すると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件発明1の血液浄化装置が監視していない患者
の治療に必要な情報とは,血液浄化装置の操作者が患者を観察する等して得られた
体温,血圧,投薬,患者の状態等の情報であるというべきであるから,血液浄化装
置に係るメンテナンス情報も含まれるという原告の主張は,その前提を欠くもので
ある。しかも,本件明細書(【0031】)の記載によれば,本件発明1における
メンテナンス情報は,体温,血圧,投薬,患者の状態等の患者の治療に必要な情報
と同様に,操作者が血液浄化装置に設けられる操作者用インタフェース部を使用し
て中央監視システムの通信網により送受信するものとされており,血液浄化装置や
透析装置に対して操作者等が行うメンテナンスに係る情報というべきであって,引
用発明2のように,あらかじめ一定の動作を行うように動作モードとして設定され
ているものではない。
また,原告は,当業者は静脈圧,透析液圧力,透析液温度,漏血の有無,透析液
流量などが本件発明1の「血液浄化装置が監視している情報」に相当すると理解す
るから,引用発明2の動作モードが当該情報に相当するとした本件審決は誤りであ
ると主張する。
しかしながら,透析装置の動作設定に係る動作モードに係る情報は,透析装置の
動作に係る情報であるから,透析装置が監視していることは明らかである。
以上によると,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(3)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア前記(1)によれば,引用例2には,透析装置において検出される透析液温度及
び静脈圧があらかじめ記憶された範囲以外になった場合に警報を発すること,この
範囲を定める警報設定値はホストコンピュータからの遠隔操作により変更できるこ
とが開示されているということができる。
しかしながら,引用発明2は,データサーバの負荷を分散し,ホストコンピュー
タの負担を軽減することを目的とするものであり,引用例2には,警報設定値その
ものや,ホストコンピュータにより変更された警報設定値を透析装置において表示
することに係る記載はなく,その示唆もない。
イこの点について,原告は,本件発明1は「初期設定値に関する情報」と規定
するにすぎないから,中央監視装置から送信される初期設定値との比較に基づいて
血液浄化装置に表示される警報表示は「初期設定値に関する情報」に含まれるとい
うべきであると主張する。
しかしながら,引用発明2が表示可能とするのは,温度や静脈圧(圧力)等の検
出値と初期値である制御温度範囲(あるいは警報設定値)とを比較した結果であり,
当該比較結果は比較対象の一方が検出値である以上,本件発明1の「初期設定値に
関する情報」ということができないことは明らかである。
また,原告は,本件発明1は「初期設定値に関する情報」が血液浄化装置におい
て「表示可能に構成」されると規定するにすぎず,表示可能な情報であれば足りる
というべきであるところ,引用発明2の透析装置では,プログラムメモリ・データ
メモリに記憶された情報であれば,警報表示に限らず,表示回路において少なくと
も「表示可能に構成」されており,コンピュータから送信された初期設定値が透析
装置の表示装置に表示されることは技術常識であるから,引用例2は,最重要な警
報表示について明示的に記載し,設定値そのものの表示については記載を省略して
いるものと解されると主張する。
しかしながら,一般に,メモリに記憶されている情報を表示装置に表示可能とす
るためには,表示すべき情報が記憶されているメモリ上の場所(アドレス)を特定
し,この場所にある情報を呼び出し,表示装置において表示可能な状態(フォーマ
ット)に変換した上で,表示装置に出力するための構成が必要となることは自明で
あるから,引用発明2が測定値をプログラムメモリ・データメモリに記憶し,表示
することができることをもって,引用発明2のプログラムメモリ・データメモリに
記憶された情報であれば,全情報が表示可能に構成されているとまでいうことはで
きない。引用発明2では,温度などの測定値に関しては表示可能に構成されている
ことから,測定値が記憶されている場所を特定し,測定値を呼び出し,表示可能な
状態とし,表示装置に表示可能な状態に変換して出力することが行われていると解
することはできるが,制御温度範囲(警報設定値)等の初期値に関し,これらを表
示あるいは表示可能とすることが引用例2には記載も示唆もされていない以上,引
用発明2において,初期設定値に関し,上記検出値と同様の動作を行うように構成
されているとまでいうことはできない。しかも,引用発明2は,前記のとおり,デ
ータサーバの負荷を分散し,ホストコンピュータの負担を軽減することを目的とす
るものであり,警報設定値等の初期設定値を表示可能とすることを必要としない発
明である点において,初期設定値に関する情報を表示可能とすることを課題解決手
段の1つとする本件発明1とは明らかに異なるものである。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
以上によると,本件発明1は引用発明2と同一であるということはできない。
そして,本件発明2ないしは4は,本件発明1の構成をその構成の一部とするも
のであるから,本件発明1が引用発明2と同一であるということができない以上,
当然に,引用発明2と同一であるということはできない。
4取消事由3(引用発明2に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)
について
原告は,本件発明1が,引用発明2に引用発明3を組み合わせることにより,当
業者が容易に発明をすることができたものというべきであると主張するので,以下
検討する。
(1)引用例3の記載について
引用例3(甲3)には,おおむね次の記載がある。
ア産業上の利用分野
引用発明3は,人間の臓器としての機能を果たす人工臓器の入力装置に関し,特
に,人工腎臓に好適な入力装置に関する。
イ従来の技術
人工臓器は,被計測対象からの計測データの値に基づいて,入力スイッチから入
力された患者の特性に応じて認定された初期値データや,設定データの値となるよ
うに制御系がフィードバック制御を行っている。しかし,オペレータが入力スイッ
チから設定データを入力することはその操作が煩わしく,特に緊急を要する人工臓
器の使用時の大きな問題となっていた。
ウ発明が解決しようとする課題
従来の人工臓器の入力装置は,人間が入力操作を行うので,操作に時間が掛かり,
誤入力なども生じてしまうという問題点があった。引用発明3は,入力操作を容易
かつ迅速に行うことが可能な入力装置を提供することを目的とするものである。
エ課題を解決するための手段
引用発明3の第1形態は,人工臓器本体の制御情報を本体に入力する入力装置に
おいて,患者に割り当てられた携帯用記憶媒体に,あらかじめ記憶された制御情報
を読み出すことを指示する指示手段と,携帯用記憶媒体と脱着可能であり,指示手
段の指示に応じて携帯用記憶媒体から制御情報を読み出して,人工臓器本体に入力
する読み出し手段とを備えるものである。
第2形態は,人工臓器本体の制御情報を本体に入力する入力装置において,患者
に割り当てられた記憶媒体に,あらかじめ記憶された制御情報を読み出すことを指
示する指示手段と,携帯用記憶媒体と脱着可能であり,指示手段の指示に応じて記
憶媒体から制御情報を読み出して人工臓器本体に入力する読み出し手段と,読み出
された制御情報を表示する表示手段とを備えるものである。
オ作用
引用発明3の第1形態においては,人工臓器の動作制御に用いる患者に個有の制
御情報を読み出し手段により携帯用記憶媒体から読み出して人工臓器本体に入力す
るようにしたので,人工臓器を使用する際の入力操作が容易となり,かつ迅速化さ
れる。第2形態においては,第1形態に加えて,読み出し情報を表示手段により知
ることができるので,誤入力をチェック可能である。
カ実施例
(ア)ICカード読み書き装置(カードリーダライタ)は,ICカードを受け付
け,情報の読み書きを行う装置である。同装置は指示手段としての機能を果たし,
ICカードの受付をフォントセンサにより検知した場合,検知信号に応じてICカ
ードからの情報の読み出しを開始する。キーボードにより,ICカード読み書き装
置に対して制御情報及び身体情報(制御関連情報)が入力され,ICカードに書き
込まれる。また,ICカードの入出力情報は表示器に表示される。
(イ)液温計,濃度計,圧力計,流量計及び血液リーク探知装置の計測値が制御
回路を介してICカード読み書き装置に転送される。
このようにして得られる日付,時刻情報,透析所要時間,計測装置から得られる
計測値及びキーボードから入力された各種情報をICカード読み書き装置がICカ
ードに対して書き込む。
(ウ)ICカードには,以下の情報を格納する領域が存在する。なお,この例は
人工腎臓に関するものであり,他の人工臓器についてはそれぞれ好適な情報を格納
すればよい。
a透析に用いられたダイアライザーの種類(メーカの型番等)
b透析を受けた日付
c透析所要時間
d人工腎臓に初期設定値として入力すべきデータ
e人工腎臓からの各種計測値
fオペレータが入力するメッセージ(患者の医療に関する注意事項等)
g患者個人の身体情報(氏名,年齢,血液型,理想体重,血圧,血中濃度,輸
血の有無等)
(エ)ICカード読み書き装置の動作制御手順は,装置内のCPU等の制御回路
により実行される。ICカードがICカード読み書き装置に挿入されたことをCP
Uが検出すると,CPUは病院の識別番号を自動的にICカードから読み出し,I
Cカード読み書き装置にあらかじめ登録されている登録識別番号と照合する。照合
の結果,ICカードの識別番号と登録識別番号とが一致すると,CPUは以後IC
カードからの情報の読み取り及び書き込みを許可する。オペレータからのキーボー
ドによる指示又はシステム作動スイッチのオンに応じて,CPUはICカードの設
定データ領域から初期値データを読み出して表示するとともに,制御回路に出力す
る。識別番号の照合の後,外部指示なしに初期値データを読み出してもよい。
そのほか,過去の情報として通常の制御設定値等や透析時間,前回使用したダイ
アライザや人工腎臓の機械,体重の変化,輸血の有無等についてもICカードから
読み出して表示する。
この表示を見て,医者が人工臓器の作動を指示すると,CPUは以後,従来例と
同様に人工腎臓から送られてくる計測情報を表示器にも表示する。また,これらの
計測値情報をICカード読み書き装置がICカードに書き込む。
(オ)引用発明3の人工腎臓を複数の病院に設置する。病院側ではICカード読
み書き装置より患者が所持するICカードからその記憶内容を読み出すことにより,
過去の透析に関する情報を知ることができるため,同質の治療を行うことが可能と
なる。特に患者が意識不明になった場合には患者自身から透析に関する情報を聞き
出せないが,引用発明3では,患者の保有する携帯用記憶媒体から情報を知ること
ができるので,非常に有益である。従来では透析記録を保存する1か所の病院のみ
で患者が透析を受けることが多かったのに対し,同発明を用いれば複数の病院で透
析を受けることが可能となり,患者の行動範囲が広がる。さらに,ICカード読み
書き装置と大型のホストコンピュータをオンライン接続し,ICカードのバックア
ップ情報としてホストコンピュータに上記情報をファイル化することも可能である。
(2)相違点2-1に係る判断の誤りについて
ア前記(1)によると,引用発明3のICカードは,人工腎臓のICカード読み書
き装置により,各種計測値や人工腎臓のキーボードから入力された情報が書き込ま
れたり,読み出されたりするものであるが,これらの情報をICカードに書き込む
のは,医者が人工臓器の作動を指示する前,すなわち人工腎臓による治療を開始す
る前に,初期値データや過去の情報,体重の変化,輸血の有無等の患者の個人情報
を読み出して従前と同質の治療を行うためであり,各種情報を書き込むのは,治療
の履歴や経過情報を次回以降の治療に備えて保存するために行われるものと解され
る。
イ引用例2によれば,引用発明2のホストコンピュータは,操作により患者の
状態変化及び患者ごとに設置された透析装置の動作状況を監視するものである。
これに対して,引用発明3のICカード及びICカード読み書き装置は,単にI
Cカードの設定データ領域から初期値データを読み出して表示するとともに制御回
路に出力するものであり,人工腎臓の動作状況を監視し,制御を行うものではない。
また,引用発明3のホストコンピュータは,ICカードに保存された情報をバッ
クアップするためのものにすぎない。
したがって,引用発明2のホストコンピュータと引用発明3のICカード及びI
Cカード読み書き装置は,その機能において異なるから,ICカードにキーボード
から入力された情報を記憶することが引用例3に開示されているとしても,引用発
明2に引用発明3を適用し,操作者用インタフェース部より血液浄化装置が監視し
ていない患者の治療に必要な情報を入力し,中央監視装置に送信するように構成す
ることが,当業者にとって容易であるということはできない。
したがって,引用発明2に引用発明3を適用することにより,当業者が相違点2
-1に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。
ウこの点について,原告は,引用発明2では透析治療に必要な全情報が何であ
るかは当業者の技術常識に委ねているところ,透析治療に必要な情報であれば,そ
の情報のための入力手段を追加的に設けてプログラムメモリ・データメモリのデー
タメモリ領域に記憶させることは当然に予定している範囲のことであると主張する。
しかしながら,引用例2には,透析治療のために透析装置が必要とする情報につ
いて当該透析装置にキーボード等の入力装置を設けることに係る記載や示唆はなく,
むしろホストコンピュータに設けられたキーボードから患者名を入力し,その患者
の設定データを各透析装置に送信することが記載されているから,透析治療に必要
な情報のための入力手段を追加的に設けてデータメモリ領域に記憶させることが引
用例2において当然に予定されているということはできない。
また,原告は,引用例3は本件発明1における透析装置が監視していない患者の
治療に必要な情報を具体的に列挙した上で,これらをキーボードによって入力する
ことを開示しているところ,引用発明2においても,透析治療に必要なデータをプ
ログラムメモリ・データメモリのデータメモリ領域に記憶させることが記載されて
いるから,引用例3に記載されている具体的な情報を入力するために,キーボード
を入力装置として追加することは当業者が容易に行い得たことにすぎないと主張す
る。
しかしながら,前記のとおり,本件発明1における血液浄化装置が監視していな
い患者の治療に必要な情報とは,透析治療中における患者の容態などを医師が把握
し,治療の参考とするために,血液浄化装置の操作者が患者を観察する等して得ら
れた体温,血圧,投薬,患者の状態等の情報であるというべきところ,引用発明3
においてICカードに書き込まれる情報は,次回以降においても同質の治療を行う
ことを目的とする患者個人に関する情報であるから,上記各情報において,一部重
複する項目があったとしても,引用発明3におけるICカードに書き込まれる情報
が本件発明1における血液浄化装置が監視していない患者の治療に必要な情報に相
当するということはできない。また,引用発明3において,ICカードに記録され
た情報は,治療開始時において,ICカード読み書き装置において読み出されたり
書き込まれる際,表示器に表示されるにすぎず,本件発明1のように,血液浄化装
置において表示されるものではない。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(3)相違点2-2に係る判断の誤りについて
ア前記3(1)によると,引用発明2は,ホストコンピュータが各透析装置を一括
又は個別に制御するところ,引用発明2は,データサーバの負荷を分散し,ホスト
コンピュータの負担を軽減することを目的とするものであるから,本件発明1のよ
うに,各透析装置に初期設定値等を表示するように構成する動機付けは存在しない。
また,引用発明2において,透析装置の動作に必要な初期設定値等を保持してい
るのは,透析装置ではなくホストコンピュータであり,透析装置はホストコンピュ
ータからの指令により制御されるところ,引用発明2に引用発明3のICカード及
びICカード読み書き装置並びに表示器に係る構成を適用しても,ICカード及び
ICカード読み書き装置はホストコンピュータに初期設定値等の情報が入力される
ようにホストコンピュータに設けられることになる結果,引用発明3の初期値デー
タを表示可能にする構成(表示器)は,本件発明1の構成とは異なり,透析装置で
はなく,ホストコンピュータに設けられることになる。
したがって,引用発明2に引用発明3を適用することにより,当業者が相違点2
-2に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。
イこの点について,原告は,引用発明3において表示器に表示される入出力情
報に初期設定値が含まれることは明らかであるし,引用例2の第2図に図示された
表示回路に初期設定値を表示することは当業者が容易に行い得たことにすぎないと
主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用例2には初期設定値を透析装置に表示するこ
とについて記載や示唆はなく,引用発明3において,ICカードに記録された情報
は,本件発明1のように血液浄化装置に表示されるものではないことからすると,
当業者が表示回路に初期設定値を表示することを容易に行い得たということはでき
ない。
また,原告は,情報を迅速に誤りなく伝達したいということは自明の課題である
から,全情報について透析装置からホストコンピュータに送信することを開示して
いる引用例2の記載に接した当業者は,血液透析治療の判断に必要な全情報を,ベ
ッドサイド側から中央監視装置側に,迅速に,誤りなく提供することを可能とする
との課題を容易に着想するということができると主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明2は,データサーバの負荷を分散し,ホ
ストコンピュータの負担を軽減することを目的とするものであって,引用例2は,
情報を迅速に誤りなく伝達するという課題を念頭に置き,その解決手段を開示する
ものではない。仮に,当業者が当該課題を認識したとしても,このような課題を前
提としない引用発明3を組み合わせることにより,相違点2-2の構成を容易に想
到し得たものでないことは,先に述べたとおりである。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
以上によると,本件発明1は,引用発明2及び3に基づいて,当業者が容易に発
明をすることができたものということはできない。
そして,本件発明2ないしは4は,本件発明1の構成をその構成の一部とするも
のであるから,本件発明1と同様の理由により,当事者が容易に発明をすることが
できたものということはできない。
5取消事由4(引用発明3に基づく本件発明の容易想到性に係る判断の誤り)
について
原告は,本件発明1が,引用発明3に引用発明2を組み合わせることにより,当
業者が容易に発明をすることができたものというべきであると主張するので,以下
検討する。
(1)相違点3に係る判断の誤りについて
ア前記のとおり,引用発明3のICカード及びICカード読み書き装置は,人
工腎臓の動作状況を監視し,制御を行うという機能を備えるものではない。また,
引用発明3のホストコンピュータは,ICカードの情報をバックアップする機能を
有するにすぎない。他方,引用発明2のホストコンピュータは,何らかの動作をし
ている透析装置の動作状況を監視し,制御するものであって,引用発明2のホスト
コンピュータと引用発明3のICカード及びICカード読み書き装置並びにホスト
コンピュータとは,その機能が異なるものというべきである。
引用発明3は,人間が入力操作を行う従来の人工臓器の入力装置は操作に時間が
掛かり,誤入力なども生じてしまうという問題点があったことから,ICカードに
情報を入力することにより,入力操作を容易かつ迅速に行うことをその課題解決手
段とする発明であるから,引用発明3に,機能の異なる引用発明2のホストコンピ
ュータを組み合わせ,人工腎臓の動作状況を監視し,制御を行う動機付けを認める
ことはできない。
したがって,引用発明3に引用発明2を適用することにより,当業者が相違点3
に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。
イこの点について,原告は,引用発明3のホストコンピュータは,人工臓器か
ら人工臓器が監視している情報及び人工臓器が監視していない情報を受信するとと
もに,人工臓器に初期設定値に関する情報を送信するものであるし,ICカード読
み書き装置と大型のホストコンピュータをオンライン接続した構成は,複数の透析
装置から得られる情報を集中的に蓄積して管理する構成となるから,本件発明1の
中央監視装置に相当すると主張する。
しかしながら,引用発明3のホストコンピュータは,ICカードの情報をバック
アップする機能を有するにすぎないから,本件発明1の中央監視装置に相当するも
のではないことが明らかである。
また,原告は,本件発明1において,中央監視装置の定義は存在しないところ,
引用発明3のホストコンピュータは,本件発明1の中央監視装置と同様の機能を奏
するものであるし,引用発明3のホストコンピュータと引用発明2のホストコンピ
ュータとは,透析治療に用いるコンピュータであって,透析装置との間で情報の送
受信が可能であり,多量のデータを保存できる機能を有するという点で同じ機能を
奏するものであることなどからすると,引用発明3のホストコンピュータを引用発
明2のホストコンピュータに置換することは当業者が容易に想到し得たものという
ことができると主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明3は,人工臓器の入力装置に対する誤入
力を防止することを目的とする発明であって,中央監視装置において複数の人工臓
器を制御することを前提とせず,ホストコンピュータも情報のバックアップのため
に設けられたものにすぎないから,透析装置との間で情報の送受信が可能であるか
否かは不明であって,引用発明3のホストコンピュータを引用発明2のホストコン
ピュータに置換することは当業者が容易に想到し得たものということはできない。
したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
(2)小括
以上によると,本件発明1は,引用発明3及び2に基づいて,当業者が容易に発
明をすることができたものということはできない。
そして,本件発明2ないしは4は,本件発明1の構成をその構成の一部とするも
のであるから,本件発明1と同様の理由により,当事者が容易に発明をすることが
できたものということはできない。
6結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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