弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求5
被告らは,株式会社ベネッセホールディングスに対し,連帯して260億円
及びこれに対する被告Aにつき平成28年2月5日から,被告B及び被告Cに
つき同月4日から,被告D,被告E及び被告Fにつき同月3日から,各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要10
1前提となる事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により
認定することができる事実)
当事者等
ア原告は,株式会社ベネッセホールディングス(以下「ホールディングス」
という。)の株主である。15
イホールディングスは,株式会社ベネッセコーポレーション(以下「コー
ポレーション」という。)及び株式会社シンフォーム(以下「シンフォー
ム」という。)の完全親会社である純粋持株会社であり,自らは具体的な
事業を遂行していない。
コーポレーションは,通信教育や出版等を業とする会社である。20
シンフォームは,後記の本件期間頃,コーポレーションから顧客等の個
人情報の管理等の委託を受けていた。
ウ被告らは,後記の本件事故の頃,ホールディングスの取締役であった者
であり,被告Bは,平成25年3月までコーポレーションの代表取締役を,
被告Eは,同年4月まではシンフォームの代表取締役を,同月からはコー25
ポレーションの代表取締役を,それぞれ兼任していた。
漏えい事故の発生(甲9)
シンフォームの業務委託先の従業員は,平成25年夏頃から平成26年6
月頃までの間(以下「本件期間」という。),シンフォームにおいて保管さ
れていたコーポレーションの顧客等の個人情報を不正に領得し,これらを売
却した(以下「本件事故」という。)。5
2原告の請求
上記事実関係を前提に,原告は,被告らに対し,本件事故に関し,会社法(平
成17年法律第86号。平成26年法律第90号による改正前のもの。以下同
じ。)847条3項,423条1項に基づき,ホールディングスに対する26
0億円の損害賠償金及び各訴状送達の日の翌日からの民法所定の年5分の割合10
による遅延損害金の連帯支払を求め,本件訴え(株主代表訴訟)を提起した。
3当事者の主張
【原告の主張】
コーポレーション及びシンフォームは,個人情報の保護に関する法律(以
下「個人情報保護法」という。)にいう個人情報取扱事業者として,同法に15
ついての経済産業分野を対象とするガイドラインを遵守するために,個人情
報の安全管理のために必要かつ適切な措置や監督を講じなければならないと
ころ,ホールディングスは,その完全子会社であるコーポレーション及びシ
ンフォームに対し,個人情報保護に関する適正な内部統制システムを構築・
管理し,それを適正に運用すべき義務を負い,また,被告らは,ホールディ20
ングスの取締役として,コーポレーション及びシンフォームに対し,個人情
報保護に関する適正な内部統制システムを構築・管理し,それを適正に運用
すべき善管注意義務及び監視義務を,ホールディングスに対し,負っていた。
また,被告B及び被告Eは,本件期間内においてコーポレーションないし
シンフォームの取締役を兼任していたところ,コーポレーションないしシン25
フォームに損害が生じれば,それは同時に完全親会社であるホールディング
スにも損害が生じることになるのであるから,コーポレーションないしシン
フォームの取締役としての個人情報保護に関する適正な内部統制システムを
構築・管理し,それを適正に運用すべき善管注意義務と同様の注意義務を,
ホールディングスの取締役としても負っていたものである。
しかるに,被告らが,前記の善管注意義務あるいは監視義務に違反した5
ため,本件事故が発生し,ホールディングスは260億円の損害を被った。
したがって,被告らは,ホールディングスに対し,会社法423条1項に
基づく損害賠償責任がある。
【被告らの主張】
いずれも否認ないし争う。10
個人情報保護法及び同法についての経済産業分野を対象とするガイドライ
ンは,個人情報取扱事業者であるコーポレーション及びシンフォームを名宛
人とするものであり,これらの完全親会社であるホールディングスを名宛人
とするものではないから,ホールディングスの取締役としてホールディング
スに対して負う内部統制システム構築運用義務の内容や水準を規律するもの15
ではない。
また,原告の,被告B及び被告Eが,コーポレーションないしシンフォー
ムの取締役としての善管注意義務と同様の注意義務を,ホールディングスの
取締役としても負っていたとの主張は,法律上の論拠が何ら明らかでない。
結局,原告の主張する,被告らのホールディングスの取締役としてのコー20
ポレーション及びシンフォームに対する個人情報保護に関する適正な内部統
制システム構築・管理及びその適正な運用をすべき善管注意義務並びに監視
義務については,その具体的な発生根拠が何ら明らかにされておらず,主張
自体失当である。
したがって,被告らは,ホールディングスに対し,会社法423条1項に25
基づく損害賠償責任を負わない。
第3当裁判所の判断
1取締役会は,取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保する
ための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る
企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体
制の整備について決定するものとされており(会社法362条4項6号),こ5
れを受けて,親会社の取締役会においては,親会社の損失の危険の管理に関す
る規程その他の体制の整備にとどまらず(会社法施行規則100条1項2号),
子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制の整備についても決定す
るものとされている(同条1項5号ロ)。
2取締役は,その善管注意義務として,前記1の内部統制システム構築義務を10
負うと解されているところ,本件で問題となるのは,コーポレーションやシン
フォームが個人情報保護法20条の個人データの安全管理のために必要かつ適
切な措置を講じることを怠り,同法22条の委託を受けた者に対する必要かつ
適切な監督を怠ったことについて(甲10),コーポレーションやシンフォー
ムの完全親会社であるホールディングスの取締役であった被告らに具体的にど15
のような内容の善管注意義務違反があるといえるかである(原告は被告らに対
してホールディングスの取締役としての義務違反によるホールディングスに対
する損害賠償を求めているものであるから,被告らのうち,本件事故当時にコ
ーポレーションやシンフォームの取締役を兼務していた者についても同様に,
ホールディングスの取締役として具体的にどのような内容の善管注意義務違反20
があるといえるかが問題とされなければならないものというべきである。)。
そして,コーポレーションやシンフォームにおいて,個人データの安全管理
のために必要かつ適切な措置を講じること等は,第1次的には,コーポレーシ
ョンやシンフォームの取締役会において決定実行されるべき事柄であり,原告
においては,コーポレーションやシンフォームの完全親会社であるホールディ25
ングスの取締役であった被告らにどのような義務があり,これに違反したと具
体的に主張すべき責任がある。
しかしながら,原告の提出する各準備書面等を精査しても,この主張責任が
果たされているとは認められない(なお,原告は具体的に主張するために必要
であるとして,文書提出命令の申立てを行ったが,当裁判所は現時点では原告
が主張責任を果たしていないとしてこれを却下したところ,原告は現時点での5
主張立証は終了したとした。)。
したがって,原告の,被告らのホールディングスの取締役としてのコーポレ
ーション及びシンフォームに対する個人情報保護に関する適正な内部統制シス
テム構築・管理及びその適正な運用をすべき善管注意義務並びに監視義務違反
の主張は,その主張自体からして失当といわざるを得ず,被告らのホールディ10
ングスに対する会社法423条1項に基づく損害賠償責任は認められない。
3よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官横溝邦彦
裁判官國屋昭子20
裁判官宮田裕平

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