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平成19年1月29日判決言渡
平成18年(行ケ)第10312号審決取消請求事件
平成18年12月21日口頭弁論終結
判決
原告株式会社島津製作所
訴訟代理人弁理士喜多俊文
同江口裕之
被告Y
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80335号事件について平成18年5月30日に
した審決中,「特許第2770764号の請求項1に係る発明についての特許
を無効とする」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「画像データ表示装置」とする特許第2770764
号の特許(平成7年2月24日出願,平成10年4月17日設定登録。以下
「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
被告は,平成17年11月21日,本件特許を無効とすることについて審判
を請求し,特許庁は,この請求を無効2005−80335号事件として審理
した。その過程において,原告は,平成18年2月20日,本件特許に係る明
細書の特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をした(以
下,本件訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。特許庁は,審
理の結果,平成18年5月30日,「訂正を認める。特許第2770764号
の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年6
月9日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,
この発明を「訂正発明」という。)。
「【請求項1】画像データと該画像データの属性を保持するデータ保持手
段と,前記画像データを複数個表示可能な表示手段と,前記画像データを前
記表示手段に表示するためのデータ処理を行うデータ表示処理手段とを備え,
前記データ表示処理手段は,表示手段に表示中の表示画像データのうち,前
記表示画像データの中から指定した一の表示画像データと共通の属性を持つ
画像データの属性中の表示レンジ値を,前記一の表示画像データについて設
定した表示レンジ指定値に設定して前記データ保持手段に保持させ,前記表
示手段は,前記表示画像データの中から前記一の表示画像データと共通の属
性を持つ画像データについてのみ該属性中に設定された表示レンジ値に従っ
た画像データの表示を行うことにより,複数個の画像データを同一の表示レ
ンジで表示することを特徴とする画像データ表示装置。」
なお,審決では,訂正発明の構成を次のとおり分説した(以下,この分説に
従って,訂正発明の構成要件を「構成要件A」などという。)。
A画像データと該画像データの属性を保持するデータ保持手段と,
B前記画像データを複数個表示可能な表示手段と,
C前記画像データを前記表示手段に表示するためのデータ処理を行うデー
タ表示処理手段とを備え,
D前記データ表示処理手段は,表示手段に表示中の表示画像データのうち,
前記表示画像データの中から指定した一の表示画像データと共通の属性を
持つ画像データの属性中の表示レンジ値を,前記一の表示画像データにつ
いて設定した表示レンジ指定値に設定して前記データ保持手段に保持させ,
E前記表示手段は,前記表示画像データの中から前記一の表示画像データ
と共通の属性を持つ画像データについてのみ該属性中に設定された表示レ
ンジ値に従った画像データの表示を行うことにより,複数個の画像データ
を同一の表示レンジで表示することを特徴とする
F画像データ表示装置。
3審決の内容
別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,訂正発明は特開平4−
198812号公報(以下「引用例」という。甲3〔審決における「甲1」〕)
に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものであり,本件特許の請求項1に係る特許は特許法2
9条2項に違反してされたものであると認定判断した。
審決が上記結論を導くに当たり認定した訂正発明と引用発明との一致点・相
違点は,次のとおりである。
(一致点)
「画像データと該画像データの属性を保持するデータ保持手段と,前記画像
データを複数個表示可能な表示手段と,前記画像データを前記表示手段に表
示するためのデータ処理を行うデータ表示処理手段とを備え,前記データ表
示処理手段は,表示画像データの中から指定した一の表示画像データと共通
の属性を持つ画像データの属性中の表示レンジ値を,前記一の表示画像デー
タについて設定した表示レンジ指定値に設定して前記データ保持手段に保持
させ,前記表示手段は,前記表示画像データの中から前記一の表示画像デー
タと共通の属性を持つ画像データについて該属性中に設定された表示レンジ
値に従った画像データの表示を行うことにより,複数個の画像データを同一
の表示レンジで表示することを特徴とする画像データ表示装置」である点。
(相違点1)
訂正発明では,「表示レンジ値を,一の表示画像データについて設定した
表示レンジ指定値に設定」されるのが,「表示手段に表示中の表示画像デー
タ」であるのに対し,引用例では,その第9図において,画面80上に表示
された表示対象物Aに対して,「カラーバー登録」のボタン84をマウスで
クリックする時点で,表示対象物Bを表示する画面85が表示中か否か明記
されていない点。
(相違点2)
訂正発明では「共通の属性を持つ画像データについてのみ」設定された表
示レンジ値に従った画像データの表示を行うのに対し,引用発明には,その
ようなことが記載されていない点。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,訂正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違
点1の判断を誤り(取消事由2),相違点2の認定及び判断を誤った(取消事
由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
引用例(甲3)には,訂正発明の構成要件Dにおける「表示画像データの中
から指定した一の表示画像データと共通の属性を持つ画像データの属性中の表
示レンジ値を,前記一の表示画像データについて設定した表示レンジ指定値に
設定して前記データ保持手段に保持させ」るとの構成は記載されていないから,
審決における一致点の認定は誤りである。
(1)引用例(甲3)の「この例においては,画面80上に表示された,表示対
象物Aに対して,上述の方法でカラーバー81の各目盛りのスカラ量を指定
してカラーマップ82の表示を行う。そしてその後,画面80内の『カラー
バー登録』のボタン84をマウスでクリックする。これにより,その時の,
カラーバー81の各目盛りのスカラ量がファイルに登録される。そして,表
示対象物Aとカラーマップの比較を行いたい表示対象物Bを画面85に表示
する際に画面85内の『カラーバー読出』のボタン86をクリックすること
で,先のファイルを読み込み,カラーマップ88を表示する。」(7頁左下
欄1行∼13行)との記載によれば,引用発明では,画面80内の「カラー
バー登録」のボタン84がマウスでクリックされる際,表示対象物Aしか表
示されていないことが明らかである。
一方,訂正発明においては,表示手段に複数個の画像データが表示される
(構成要件B)ところ,「……の中から」とは複数のものからあるものを選
択する際に使用する用語である(広辞苑第5版1969頁〔甲5〕)から,
構成要件Dにおける「前記表示画像データの中から指定した一の表示画像デ
ータ」とは,表示画像データを複数個表示している中から指定した一の表示
画像データを意味するものというべきである。
そうすると,引用発明の表示対象物Aは,訂正発明の構成要件Dの「表示
画像データの中から指定した一の表示画像データ」に相当するということは
できない。
(2)被告は,訂正発明の構成要件Dには,「前記データ表示処理手段は,(指
定時ではなくデータ表示処理時に)表示手段に表示中の表示データのうち,
前記表示画像データの中から(指定時に)指定した一の表示画像データと共
通の属性を持つ画像データの属性中の表示レンジ値を,前記一の表示画像デ
ータについて設定した表示レンジ指定値に設定して前記データ保持手段に保
持させ」る場合が含まれる旨主張する。
しかし,構成要件Dに係る特許請求の範囲の記載は,「……表示レンジ値
を,……データ保持手段に保持させ」というものであって,表示のための表
示レンジ値の保持について規定しているのであるから,指定時以外の解釈は
ありえない。
構成要件Dに係る本件訂正の根拠である本件明細書の段落【0033】の
記載,並びに,本件明細書の図5,6に関する段落【0029】∼【003
0】の記載に照らしても,「一の表示画像データ」を指定する際,「表示手
段」には「複数の」表示画像データが表示されていると解釈するのが自然で
ある。
このように,構成要件Dは,「前記データ表示処理手段は,(指定時に)
表示手段に表示中の表示データのうち,前記表示画像データの中から指定し
た一の表示画像データと共通の属性を持つ画像データの属性中の表示レンジ
値を,前記一の表示画像データについて設定した表示レンジ指定値に設定し
て前記データ保持手段に保持させ」るものと,一義的に解されるものという
べきである。
2取消事由2(相違点1の判断の誤り)
審決は,引用例(甲3)では,「その第9図において,画面80上に表示さ
れた表示対象物Aに対して,『カラーバー登録』のボタン84をマウスでクリ
ックする時点で,表示対象物Bを表示する画面85が表示中か否か明記されて
いない」(審決書11頁10行∼13行)と認定したが,前記1(1)のとおり,
「カラーバー登録」のボタン84がマウスでクリックされる際,表示対象物A
しか表示されておらず,表示対象物Bの画面85はその後に表示されるのであ
るから,審決の上記認定は誤りである。
また,審決は,引用発明では,「画面80及び85を同時に表示させた状態
で,画面80内の『カラーバー登録』のボタン84及び画面85内の『カラー
バー読出』のボタン86を順にマウスでクリックすることで,同一のカラーバ
ー81によって,表示対象物A及びBの絶対的な比較を可能とするものである,
と解するのが自然である」(審決書11頁30行∼33行)と認定したが,画
面85を表示するのは,画面80を表示させた後であると理解するのが自然で
あるから,審決の上記認定は誤りである。
したがって,これらの誤った認定に基づく,「相違点1は,実質的に相違点
とはならない」(審決書11頁36行)との審決の判断も,誤りである。
3取消事由3(相違点2の認定及び判断の誤り)
(1)審決は,引用発明において,「『表示条件情報(カラーバー情報)』と無
関係な画像データについて,カラーバー情報を読み出して表示しようとした
としても何ら処理できないことは明らかであり,同一の表示レンジで表示す
ることは不可能である」(審決書12頁2行∼5行)と認定したが,結果に
意味があるかどうかは別として,処理自体は可能であるから,審決の上記認
定は誤りである。
したがって,上記誤った認定に基づく,「共通の属性である『表示条件情
報(カラーバー情報)』を持つ画像データについてのみ,『属性中に設定さ
れた表示レンジ値に従った画像データの表示を行うこと』は,当業者であれ
ば容易に想到できたものである」(審決書12頁6行∼9行)との審決の判
断も,誤りである。
(2)訂正発明は,確認実験結果(甲8)に示されるように,「画面上における
複数の画像データに対して,表示中の画像データの表示レンジは指定した同
じ表示レンジ値によって表示されることになり,表示画像データ間の測定値
の比較が容易となる」という顕著な作用効果を奏する。審決は,このような
訂正発明の顕著な作用効果を看過したものである。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
審決における一致点の認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。
なお,原告は,訂正発明の構成要件Dについて,「前記データ表示処理手段
は,(指定時に)表示手段に表示中の表示データのうち,前記表示画像データ
の中から指定した一の表示画像データと共通の属性を持つ画像データの属性中
の表示レンジ値を,前記一の表示データについて設定した表示レンジ指定値に
設定して前記データ保持手段に保持させ」るものと解するようであるが,訂正
発明の構成要件Dは,指定時の状態であるとの限定がない以上,「前記データ
表示処理手段は,(指定時ではなくデータ表示処理時に)表示手段に表示中の
表示データのうち,前記表示画像データの中から(指定時に)指定した一の表
示画像データと共通の属性を持つ画像データの属性中の表示レンジ値を,前記
一の表示データについて設定した表示レンジ指定値に設定して前記データ保持
手段に保持させ」る場合をも含むというべきであり,そのような場合には,原
告主張の相違がないことは明らかである。
2取消事由2(相違点1の認定の誤り)について
審決における相違点1の認定及び判断に誤りはなく,原告の主張は失当であ
る。
なお,引用例(甲3)の第9図には,画面85の中に「カラーバー読出」の
ボタン86が表示されているから,カラーバー読出ボタンを含んだ画面85が
表示されていることになる。そうすると,引用例(甲3)の第9図において,
同一の表示装置10に,(指定時ではなくデータ表示処理時に)カラーバーの
各目盛りのスカラ量が異なる状態で,画面80及び85に既に表示されており,
そのままでは表示対象物AとBを比較しづらいユーザが,画面80及び85を
同時に表示させた状態で,(先に指定した)画面80内の「カラーバー登録」
のボタン及び(データ表示処理時に)画面85内の「カラーバー読出」のボタ
ン86を順にマウスでクリックすることで,同一のカラーバー81によって,
表示対象物A及びBの絶対的な比較を可能にするものであると解するのが自然
である。
3取消事由3(相違点2の認定及び判断の誤り)について
(1)審決における相違点2の認定及び判断に誤りはなく,原告の主張は失当で
ある。
なお,原告は,結果に意味があるかどうかは別として,「表示条件情報
(カラーバー情報)」と無関係な画像データについてカラーバー情報を読み
出して表示する処理自体は,可能である旨主張するが,無関係な画像データ
に対してまで,カラーバー情報を読み出すことができて変換されてしまうと,
比較対照となる画像データとして,でたらめな画像データができてしまうこ
とになり,混乱することになるから,審決が認定したように,「何ら処理で
きない」と解するのが妥当である。
(2)審決における訂正発明の作用効果の認定及び判断に誤りはなく,原告の主
張は失当である。
前記1で指摘したとおり,訂正発明は,構成要件Dにおける「表示中」の
時点について限定がなく,「指定時」の場合と「データ処理時」の場合とを
含むところ,甲8は,前者の場合に関するものにすぎない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1及び2(一致点の認定の誤り及び相違点1の判断の誤り)につい

原告の取消事由1及び2は,同一の違法事由に基づく主張であるので,併せ
て判断する。
(1)一致点の認定の誤りについて
原告は,審決には一致点の認定に誤りがあるとし,これが審決の違法を来
すとの主張をする。
しかし,以下のとおり,原告が,審決に一致点の誤りがあると指摘する点
は,審決を誤解したことに起因するものであって,主張自体失当である。
すなわち,原告は,引用発明では,表示対象物A以外の画像データが「表
示手段に表示中の」ものでない点において,訂正発明の構成要件Dと相違点
があるにもかかわらず,審決はこれを一致点に挙げている点に誤りがあると
する。この点に関し,審決書では,訂正発明と引用例との一致点を,前記第
2の3(審決の理由の一致点)のとおり認定しているが,他方,構成要件D
のうちの「『表示レンジ値を,一の表示画像データについて設定した表示レ
ンジ指定値に設定』される『画像データ』が,『表示手段に表示中の表示画
像データ』である」との点については,一致点から除外して,相違点1とし
て認定している。
したがって,引用発明では表示対象物A以外の画像データが「表示手段に
表示中の」ものではないという原告の指摘する点については,審決は,正に
相違点1として審理の対象としているのであるから,審決は,一致点を誤っ
た違法はない。
原告の上記主張は,その主張自体が誤解に基づくものであり,採用するこ
とができない。
(のみならず,(2)で検討するとおり,相違点1についても,実質的には相違
点と解すべきでないのであるから,いずれにせよ,一致点の誤認に関する原
告の主張は失当である。)
(2)相違点1の判断の誤りについて
原告は,①審決は,引用例(甲3)では,「画面80上に表示された表示
対象物Aに対して,『カラーバー登録』のボタン84をマウスでクリックす
る時点で,表示対象物Bを表示する画面85が表示中か否か明記されていな
い」と認定するが,『カラーバー登録』のボタン84がマウスでクリックさ
れる際,表示対象物Aしか表示されておらず,表示対象物Bの画面85はそ
の後に表示されるものであるから,審決の上記認定には誤りがある,また,
②審決は,引用例では,「画面80及び85を同時に表示させた状態で,画
面80内の『カラーバー登録』のボタン84及び画面85内の『カラーバー
読出』のボタン86を順にマウスでクリックすることで,同一のカラーバー
81によって,表示対象物A及びBの絶対的な比較を可能とするものである,
と解するのが自然である」と認定するが,画面80を表示させた後に,画面
85を表示すると解すべきであるから,審決の上記認定には誤りがあると主
張する。この点について,検討する。
ア引用例(甲3)には,次の記載がある。
「この例においては,画面80上に表示された,表示対象物Aに対して,
上述の方法でカラーバー81の各目盛りのスカラ量を指定してカラーマッ
プ82の表示を行う。そしてその後,画面80内の『カラーバー登録』の
ボタン84をマウスでクリックする。これにより,その時の,カラーバー
81の各目盛りのスカラ量がファイルに登録される。そして,表示対象物
Aとカラーマップの比較を行いたい表示対象物Bを画面85に表示する際
に,画面85内の『カラーバー読出』のボタン86をクリックすることで
先のファイルを読み込み,カラーマップ88を表示する。これにより,2
つの表示対象物A,Bに対して,同一のカラーバー81による絶対的な比
較が可能となる。」(7頁左下欄1行∼15行)
イ引用例の上記アの記載によれば,引用発明について,次のとおり理解す
ることができる。
①最初の状態では,表示対象物Aの表示がなされており,この状態の時
に,ボタン84の操作により,スカラ量がファイルに登録される。
②続いて,表示対象物Aとカラーマップの比較を行いたい表示対象物B
を画面85に表示する際に,画面85に含まれる「カラーバー読出」ボ
タン86をクリックする。
③このクリック操作の後に,先のファイルが読み込まれ,カラーマップ
88が表示される。
ウ引用例の第9図には,表示対象物Aを表示する画面80(表示装置10
の左上から中央)と,表示対象物Bを表示する画面85(表示装置10の
右下から中央)とが,画面80の右下と画面85の左上が後者を手前にし
て重なった状態で,同時に表示され,画面80にはボタン83,84とと
もに,カラーマップ82が表示され,画面85にはボタン86,87とと
もに,カラーマップ88が表示されていることが示されている。
これは,上記イ②の状態で表示される画面を示すものであり,この時点
でボタン86がクリックされることにより,画面85における表示対象物
Bのカラーマップの目盛りのスカラ量が表示対象物Aのものと同じになる
ように変換され,絶対的な比較が可能となる。
エそうすると,引用発明は,複数の表示対象物のうち,表示対象物Aを選
択してカラーバーの目盛りのスカラ量を指定し,次に比較の対象となる表
示対象物Bのスカラ量を表示対象物Aのスカラ量と同じものに設定し,複
数の表示対象物を同じスカラ量で比較可能としている点において,訂正発
明と異ならないということができる。すなわち,引用発明では,表示手段
に表示された「表示画像データの中から指定した一の表示データ」(表示
対象物A)と「共通の属性を持つ画像データ」(表示対象物B)の「属性
中の表示レンジ値を,前記一の表示データについて設定した表示レンジ指
定値」(表示対象物Aのレンジ値)に設定して「前記データ保持手段に保
持させ」ているということができる。
オ確かに,引用例(甲3)の前記アの記載等からは,表示対象物Aの画面
80と表示対象物Bの画面85とが,前記イ①,②,③の手順に沿ってど
のような順序ないし配置で,具体的に表示されるのかは示されていないた
め,イ①の手順の実行時に,表示対象物Aの画面80と表示対象物Bの画
面85とを同時に表示させた状態となっているか否かは,必ずしも明確で
はない。
しかし,①引用例の前記アの記載及び第9図によれば,表示装置10に
は,カラーバーの各目盛りのスカラ量が異なる状態で,表示対象物Aの画
面80と表示対象物Bの画面85とが同時に表示されていること,②具体
的に,どのような順序ないし配置で複数の画面を表示装置に表示するかは,
当業者が,画面の大きさや表示対象物の形状等に応じ見易さや対比のし易
さを考慮して,選択できる自由度の高い事項であって,単なる表示手順上
の問題にすぎないと認められること,③引用発明は,表示対象物Aと表示
対象物Bの表示目盛りのスカラ量を共通にして,両者の絶対的な比較を可
能とさせて,データの解析を容易にさせることを発明の目的としているこ
と等の事実に照らすならば,引用例には,画面80及び85を同時に表示
させた状態で,一の表示対象物を指定するようにすることは,当業者がご
く自然に発想できる事項として,開示されていると解するのが相当である。
以上によれば,「相違点1は,実質的に相違点とはならない」とした,審
決の認定判断は結論において是認することができる。よって,原告主張の取
消事由2は理由がない。
2取消事由3(相違点2の認定及び判断の誤り)について
原告は,引用発明について,「表示条件情報(カラーバー情報)」と無関係
な画像データについてカラーバー情報を読み出して表示することは可能である
から,審決が,引用発明について「同一の表示レンジで表示することは不可能
である」ことを前提にして,訂正発明の容易想到性を肯定した点に誤りがある
旨主張する。
この点について,それぞれ検討する。
(1)確かに,引用発明は,何らの記載がない以上,物理量の属性が異なる場合
(例えば,一方の物理量が長さで,他方の物理量が温度の場合)において,
あえて数値のみを取り出して,処理をすることが不可能であるとはいえない。
しかし,引用例の発明の目的に照らすならば,数値のみを取り出して,表示
スケールを共通にしたとしても,解析を容易にするとの利点が生じないこと
は明らかであり,絶対的な対比をするためには,共通の物理量の属性を有す
ることが前提であるといえるから,所定の表示レンジ値に従った画像データ
の表示を行う対象を,対比の対象となる「一の表示画像データと共通の属性
を持つ画像データ」とすることは,引用発明の通常の理解の仕方というべき
である。
そうすると,相違点2(訂正発明では「共通の属性を持つ画像データにつ
いてのみ」設定された表示レンジ値に従った画像データの表示を行うのに対
し,引用発明にはそのようなことが記載されていない点)については,訂正
発明と引用発明との間に,実質的な相違があるということはできない。
以上のとおりであるから,審決が,引用発明について,「『表示条件情報
(カラーバー情報)』と無関係な画像データについて,カラーバー情報を読
み出して表示しようとしたとしても,何ら処理できないことは明らかであり,
同一の表示レンジで表示することは不可能である」(審決書12頁2行∼5
行)と説示したことは,措辞の適否はさておき,誤りとはいえない。そして,
審決が,「共通の属性である『表示条件情報(カラーバー情報)』を持つ画
像データについてのみ,『属性中に設定された表示レンジ値に従った画像デ
ータの表示を行うこと』は,当業者であれば容易に想到できたものである」
(審決書12頁6行∼9行)とした点に違法はない。
(2)原告は,訂正発明が「画面上における複数の画像データに対して,表示中
の画像データの表示レンジは指定した同じ表示レンジ値によって表示される
ことになり,表示画像データ間の測定値の比較が容易となる」という顕著な
作用効果を奏する旨主張する。
しかし,引用発明が,画面上の複数の画像データの表示レンジが共通とさ
れることによって,表示画像データ間の測定値の比較が容易となるという作
用効果を奏するものであることは明らかである。そうすると,原告が主張す
る訂正発明の作用効果は,引用発明においても奏されるものであって,格別
顕著なものとはいえない。
(3)よって,原告主張の取消事由3はいずれも理由がない。
3結論
その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決
に,これを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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