弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

          主      文
    
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,補助参加によって生じた費用を含め,控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
 (1) 原判決を取り消す。
 (2) 控訴人と亡A(外国人登録原票上の通称・A。本籍台湾省屏東縣(以下省略)。191
8年1月1日生,1993年12月12日死亡)との間に養親子関係が存在することを確認す
る。
 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する被控訴人補助参加人の答弁
 (1) 主文1と同旨。
 (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,死亡した中国人によって認知された日本人の子が,認知無効の判決が確定し
た後,検察官を被告として当該中国人との間に養親子関係があることの確認を求めた事
案である。
2 前提となる事実
 (1) 亡Aは,大正7年(西暦1918年)1月1日,台湾省屏東縣(以下省略)で生まれた男
性であり,戦前,我が国に来日し,戦後も我が国に居住していたが,平成5年(西暦1993
年)12月12日,我が国において死亡した。亡Aは,生前,外国人登録原票に「国籍に属す
る国における住所又は居所」として,台湾省屏東縣(以下省略)と記載していた。(甲1,丙
1ないし3,17,弁論の全趣旨)
 (2) 控訴人は,昭和25年5月18日にBの子として生まれた日本人である。(甲2)
 (3) 亡Aは,昭和32年9月26日,控訴人を認知する旨の届出をしたが,平成5年,控訴
人と共に認知無効の訴えを提起され,平成9年9月26日,血縁上の父子関係がないこと
から認知は無効である旨の第1審判決が言い渡され,控訴人が控訴,上告をしたが,いず
れも容れられず,平成12年6月8日,上記第1審判決は確定した。(甲2,丙18ないし20)
3 争点
 (1) 亡Aと控訴人との間の養子縁組の成立を認めることができるか(争点1)。
  ア 控訴人の主張
   (ア) 亡AとBは,昭和25年当時内縁関係にあったが,亡Aは,控訴人が生まれたとき
から控訴人を養育し,昭和32年9月26日,控訴人につき認知届を出し,以後控訴人を自
分の子として育ててきた。
   (イ) 亡Aの本国法である当時の中華民国民法(1985年6月3日改正前のもの。以下
「旧中華民国民法」という。)の1079条によれば,「養子をするには書面をもってこれを行
うことを要する。ただし,幼時から子として撫養(養育)している場合は,この限りでない。」と
されており,亡Aが控訴人を幼時から子として養育してきたことは明らかであるから,遅くと
も認知届が出された昭和32年9月26日ころには,亡Aと控訴人との養子縁組が成立し
た。なお,日本民法においては,未成年者の養子縁組には家庭裁判所の許可が必要であ
るが(民法798条),これを欠いても取り消し得るにすぎず,控訴人は,養子縁組を追認し
たから,もはや取り消すこともできない(同807条ただし書)。
  イ 被控訴人補助参加人らの主張
   (ア) 亡AとBが一時内縁関係にあったこと,亡Aが昭和32年9月26日に認知届を出
したことは認めるが,その余は否認する。
   (イ) 旧中華民国民法に控訴人主張の規定があることは認めるが,その余は争う。台
湾における「撫養」とは,自分の子として親族に紹介したり,先祖の墓に墓参りさせたりする
ことを要するものであるところ,亡Aは,一度も控訴人を親族に紹介したことはなく,台湾の
先祖の墓に連れて来たこともなかった。また,控訴人は,日本国籍を有するから,日本民
法においても養子縁組の成立要件を充足しなければならないところ,日本民法は,未成年
者の養子縁組には家庭裁判所の許可を必要とし,また,養子縁組には届出を必要として
いる。
したがって,亡Aと控訴人との養子縁組は成立していない。
 (2) 亡Aのした認知の届出をもって養子縁組の届出と認めることができるか(争点2)。
  ア 控訴人の主張
亡Aは,控訴人を幼時から我が子として養育し,控訴人が7歳の時に認知届を出した。そ
の後も,亡Aは,控訴人の養育を続け,終生親としての自覚を持ち続けていた。したがっ
て,亡Aと控訴人との間だけでなく,広く社会的にも控訴人が亡Aの子であると公認されて
きたのである。
このように,虚偽の認知届によって認知者である亡Aと被認知者である控訴人間に親子と
しての生活実体が形成され,長年にわたって親子としての生活が継続した場合には,無効
行為の転換の法理により,認知届に養子縁組届としての効力を認め,養子縁組の成立を
認めるべきである。
  イ 被控訴人補助参加人らの主張
控訴人の主張は,争う。
第3 当裁判所の判断
1 適用すべき法律について
 (1) 平成元年法律第27号によって改正された現行の法例20条によれば,養子縁組は
縁組の当時の養親の本国法によるとされているが,その経過措置を定めた附則によれ
ば,施行前に生じた事項については,なお従前の例によるとされているところ,本件では,
日本人である控訴人と中国人である亡Aとの養子縁組の成否が問題となっており,控訴人
の主張するところによれば,この養子縁組は,昭和32年9月26日に亡Aが認知届を出し
たころに成立したというものである。
したがって,本件については,平成元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」
という。)の規定が適用されるべきところ,旧法例19条1項は,「養子縁組ノ要件ハ各当事
者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム」と規定し,いわゆる配分的適用主義を採用してい
た。そして,この規定によれば,養子縁組の実質的成立要件については,日本人である控
訴人については我が民法の規定が,中国人である亡Aについては台湾において現に行わ
れている法律の規定が,それぞれ適用されることになる。
 (2) また,養子縁組の方式については,これを直接規定した旧法例の規定はないが,旧
法例8条1項が「法律行為ノ方式ハ其行為ノ効力ヲ定ムル法律ニ依ル」とし,同法19条2
項が「養子縁組ノ効力及ヒ離縁ハ養親ノ本国法ニ依ル」と規定していたことからすると,旧
法例下における養子縁組の方式は養親の本国法によることになると解される。また,同法
8条2項本文の「行為地法ニ依リタル方式ハ前項ノ規定ニ拘ハラス之ヲ有効トス」の規定に
よって,養子縁組は行為地法の方式によることもできると解される。したがって,養子縁組
の方式については,原則として亡Aの本国法である台湾において現に行われている法律
の規定が適用され,補則として我が国の民法の規定によってもよいことになる。
そして,甲第7号証の3及び弁論の全趣旨によれば,昭和32年9月当時,台湾において現
に行われていた旧中華民国民法1079条の規定では,「養子をするには書面をもってこれ
を行うことを要する。ただし,幼時から子として撫養(養育)している場合は,この限りでな
い。」とされていたことが認められるから,亡Aと控訴人の養子縁組は,同条の規定により,
原則的には書面ですることを必要とするが,我が民法とは異なり,届出を要件としていない
ものといえる(民法799条,739条参照)。また,旧中華民国民法1079条ただし書による
場合には,幼時から子として養育するという事実行為によって養子縁組が成立するものと
解されるが,甲第7号証の1によれば,この規定は,事実上の養子を認める台湾の慣習法
を成文化したものと解されていることが認められる。
2 争点1について
 (1) 控訴人は,亡Aは,内縁の妻Bの子である控訴人を生まれたときから養育し,昭和3
2年9月26日,控訴人を認知して,以後は自分の子として控訴人を育ててきたので,旧中
華民国民法1079条ただし書の規定により,遅くとも認知届が出された昭和32年9月26
日ころには亡Aと控訴人との養子縁組が成立したと主張する。
しかしながら,控訴人と亡Aとの養子縁組の成立については,前記1でみたように,日本人
である控訴人については我が民法が適用されるので,民法の規定する実質的成立要件を
充足することが必要であると解すべきところ,本件については,未成年者であった控訴人
の養子縁組につき家庭裁判所の許可(民法798条)がなかったことは明らかである。そし
て,未成年者の養子縁組についての家庭裁判所の許可は,養子縁組の実質的成立要件
と解されるから,仮に亡Aの控訴人養育の行為が旧中華民国民法1079条ただし書の場
合に当たるとしても,この養子縁組は実質的成立要件を欠いていたものといわなければな
らない。
 (2) 控訴人は,この点について,家庭裁判所の許可を欠いた養子縁組も取消事由があ
るにとどまり,控訴人は民法807条ただし書による追認をしたから,もはや取り消すことも
できない旨主張する。
しかしながら,我が民法上の養子縁組は,届出によって成立するものであり(民法799条,
739条1項),実質的成立要件を欠いても,誤って受理されてしまえば成立したものとして
扱われ,取り消されるまでは有効とされるのが原則である(例外的に無効とされるのは民
法802条に規定される場合のみである。)。他方,旧中華民国民法1079条ただし書の規
定による養子縁組は,幼時からの養育という事実行為のみによって養子縁組の成立を認
めようとするものであるから,そこには法律行為又はこれに類する行為があることを前提と
する取消しという観念は入れる余地がないものと解される。したがって,旧中華民国民法1
079条ただし書の規定による養子縁組は,実質的成立要件を充たして成立したと解する
か,これを欠いているがゆえに成立していないと解するかのいずれかであって,成立はし
たが取消し得るというものはないと解さざるを得ない。
本件においては,前述のとおり,控訴人について我が民法の規定する養子縁組の実質的
成立要件を欠いているのであるから,仮に控訴人が主張するような養育の事実があったと
しても,養子縁組は成立しなかったものと解さざるを得ないのである。控訴人の上記主張
は,採用することができない。
 (3) したがって,旧中華民国民法1079条の規定により亡Aと控訴人との間に養子縁組
が成立したとする控訴人の主張は,その余について判断するまでもなく,失当というべきで
ある。
3 争点2について
   控訴人は,虚偽の認知届によって認知者である亡Aと被認知者である控訴人間に親
子としての生活実体が形成され,長年にわたって親子としての生活が継続した場合には,
無効行為の転換の法理により,認知届に養子縁組届としての効力を認め,養子縁組の成
立を認めるべきであると主張する。そして,養子縁組の方式については,補則として我が国
の民法の規定が適用されることから,養子縁組の届出という我が国の方式による養子縁
組も有効と解すべきことは,前記1で判示したとおりである。
しかしながら,仮に養子縁組をする意思で他人の子について虚偽の認知届をし,その後長
年にわたって親子としての生活が継続した場合であっても,この認知届に養子縁組の届出
としての効力を認めることはできないものと解するのが相当である。けだし,養子縁組の届
出は,これを受理するに際しては民法の規定する実質的成立要件を具備しているか否か
が審査され,これが具備されていなければ受理されないものであるところ,養子縁組の実
質的成立要件を審査しない認知届に養子縁組の届出の効力を与えるとすると,実質的成
立要件を具備しているか否かを審査しないまま養子縁組の届出を受理せざるを得ないに
等しい結果となり,そうなっては実質的成立要件を定めた民法の趣旨にもとる結果となる
からである(最高裁昭和49年12月23日第二小法廷判決・民集28巻10号2098頁参
照)。
4 よって,当裁判所の上記判断と結論を同じくする原判決は結局相当であり,本件控訴
は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第20民事部
         裁判長裁判官    久 保 内    卓   亞
  
            裁判官    大   橋         弘
            裁判官    長 谷 川         誠

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛