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判決 平成15年1月29日 神戸地方裁判所 平成14年(レ)第75号建物明渡
等控訴事件
主文
 1 原判決を次のとおり変更する。
(本訴)
 2 被控訴人は控訴人に対し,金3万円を支払え。
 3 控訴人のその余の請求を棄却する。
 4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
(反訴イ事件)
 5 控訴人は被控訴人に対し,31万5450円及びこれに対する平成13年6
月1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
 6 被控訴人のその余の請求を棄却する。
 7 この判決は,第5項に限り,仮に執行することができる。
(反訴ロ事件)
 8 控訴人は被控訴人に対し,15万7084円及びこれに対する平成13年1
2月16日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
 9 被控訴人のその余の請求を棄却する。
 10 この判決は,第8項に限り,仮に執行することができる。
 11 訴訟費用は1審本訴,反訴イ,ロ事件,2審を通じこれを4分しその3を
控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
  原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人に対し平成13年5月1日から同年7月末日まで1ヶ月5
万7250円の割合による金員及び同年8月1日から平成14年2月末日まで1ヶ
月8万7250円の割合による金員を支払え
2 被控訴人の反訴請求(平成13年(ハ)第2612号事件)を棄却する。
3 被控訴人の反訴請求(平成13年(ハ)第10035号事件)を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
5 この判決は仮に執行することができる。
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
本件は,競落人である控訴人が,競落物件の1階部分と2階部分の賃借人で
ある被控訴人を相手に提起した2階部分の建物明渡請求及び賃料並びに賃料相当損
害金請求(平成13年5月分から7月分については月額8万7250円の賃料ある
いは賃料相当損害金から各月3万円の既払金を控除した額及び平成13年8月1日
以降明渡まで1か月金8万7250円の割合による賃料あるいは賃料相当損害金の
合計)の事案と,被控訴人が,各階部分の敷金の返還を求める反訴を提起した事案
であり,本件控訴の趣旨は,控訴人が,本訴請求の一部を認めなかった原審に対す
る不服(本訴事件)と,各階部分の敷金の一部の返還を命じた判決(反訴イ,ロ事
件)に対する不服とをそれぞれ主張したものである。
 2 前提となる事実
   以下の事実は、当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠によって容易
に認められる。
  (1) 訴外A(以下「A」という。)は,昭和61年8月28日,被控訴人に対
し,Aが所有する神戸市灘区a町b丁目c番dの鉄骨3階建建物(以下,「本件建物」
という)の1階部分を,賃料月額4万5000円,保証金60万円(解約明渡時4
0万円返還),賃貸借期間を同年9月1日から昭和63年9月30日までの約束で
貸し渡した。
 Aと被控訴人は,上記賃貸借契約を締結するに際し,賃借人が上記賃貸借
契約を解約するには,1か月前に通告することを要すること(10条)を約した。
(甲6,乙1)
(2) Aは,平成元年3月30日,被控訴人に対し,本件建物の2階部分を,賃
料月額3万円,敷金30万円(解約明渡時18万円返還),賃貸借期間を,同日か
ら平成2年3月29日までの約束で貸し渡した。
 Aと被控訴人には,上記賃貸借契約を締結するに際し,賃借人が上記賃貸
借契約を解除するには,1か月前に通告することを要すること(5条1項),解約
時の賃料は日割で計算すること(2条)を約した。
(甲6,乙6)
(3) 1階部分と2階部分の賃料は,本件紛争当時合計8万7250円であった
(後述のとおり,1階部分と2階部分の賃貸借契約が一体か別個かについては争い
がある。)。
(4) 控訴人は,平成13年2月末頃,被控訴人に対し,「急告」と題する書面
を送付し,本件建物の1階部分,2階部分の賃料の支払をしないように伝えた(乙
3の1)。
 被控訴人は,同年3月15日頃,控訴人に対し,本件建物の1階部分賃貸
借契約を解約する旨の意思表示を行った(争いがない)(以下「本件解約の意思表
示」という。)。
(5) 控訴人は,平成13年5月1日,Aから,本件建物を競落した(当庁平成
12年(ケ)第621号)(乙8)。
(6) 被控訴人は,その時点で被控訴人は2階部分を占有していた(争いがな
い)。
(7) 被控訴人は,控訴人に対し,平成13年3月22日,1階部分の同年4月
分の賃料として同年3月22日,4万5000円を支払い,同月29日,4月25
日,5月30日,6月28日,7月31日,8月31日,9月28日,同年4月分
から10月分までの2階分の賃料として,各3万円を支払った(乙9の1ないし
8)。
 3 争点及び当事者の主張
(1) 1階部分と2階部分の賃貸借契約が別個か,一体か及び別個である場合の
各賃貸借契約における賃料
ア 控訴人の主張
(ア) Aと被控訴人は,1階部分の賃貸借契約及び2階部分の賃貸借契約
を何度か更新した上,合意解除し,新たに,Aが,被控訴人に対し,1階部分と2
階部分を一体として,賃料8万7250円として,貸し渡した。
(イ) したがって,控訴人が,1階部分ないし2階部分の1部でも占有し
ている以上,被控訴人は,月額8万7250円の賃料相当損害金の支払い義務を負
う。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人の主張(ア)は否認する。
 Aと被控訴人は,1階部分賃貸借契約及び2階部分賃貸借契約を何度
か更新したが,平成7年の兵庫県南部地震後,1階部分の賃貸借契約について,賃
料を月額5万7250円とする旨合意した。
(イ) 控訴人の主張(イ)は争う。
 1階部分賃貸借契約及び2階部分賃貸借契約は,賃料増額合意後も別
個の契約であるから,賃料相当損害金も別個に発生する。
(2) 1階部分賃貸借契約及び2階部分賃貸借契約の終了時期
ア 被控訴人の主張
(ア) 1階部分について
 本件解約の意思表示の際には,控訴人は本件建物を競落をしていない
が,実質上は本件建物の所有権を取得していた,或いは,当時の所有者であるAよ
り,1階部分賃貸借契約に関する代理権を与えられており,被控訴人は,Aのため
にすることを示したものである。
 したがって,本件解約の意思表示は有効であって,1階部分賃貸借契
約は,本件解約の意思表示により,平成13年4月30日の経過をもって終了し
た。
(イ) 2階部分について
 被控訴人は,平成13年10月末頃,控訴人に対し,2階部分の賃貸
借契約を解約する旨の意思表示をしているから,同契約は,同年11月30日に終
了した。
 なお,被控訴人は,平成13年12月7日到達した準備書面でも,控
訴人に対し,同契約を解約する旨の意思表示をした。
(ウ) 控訴人の主張(ウ)は争う。
 (1)イ記載のとおり,1階部分賃貸借契約と2階部分賃貸借契約は別個
の契約である。
(エ) 控訴人の主張(エ)は争う。
イ 控訴人の主張
(ア) 被控訴人の主張(ア)については,本件解約の意思表示の際,控訴人
が所有者であったこと及び本件解約の意思表示の受領権があったことは否認し,本
件解約の意思表示が有効であるとの主張は争う。
(イ) 被控訴人の主張(イ)については,被控訴人が平成13年10月末頃
した解約の意思表示が,控訴人に到達したことは否認し,同年11月30日に賃貸
借契約が終了したとの主張は争う。
(ウ) 被控訴人は,平成13年12月30日1階部分を控訴人に明け渡し
たが,控訴人に2階部分の鍵を返還したのは,平成14年2月4日であるから,少
なくとも,同月28日まで,本件建物1階部分,2階部分の賃貸借契約は終了して
いない。
(エ) 1階部分賃貸借契約と2階部分賃貸借契約が可分で,かつ,本件解
約の意思表示が有効であったとしても,被控訴人は,電気供給契約を解約した平成
13年5月27日まで1階部分を使用していたから,少なくとも同月31日まで
は,1階部分の賃貸借契約は存続した。
(オ) 1階部分賃貸借契約と2階部分賃貸借契約が可分で,かつ,本件解
約の意思表示が有効で,更に,1階部分賃貸借契約が,平成13年4月30日に有
効に解約されたのであれば,その際の賃貸人はAであるから,Aに具体的な敷金返
還請求義務が発生し,控訴人は,敷金返還義務を承継しない。
(3) 1階部分及び2階部分の明渡時期ないし明渡と同視できる時期
ア 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,遅くとも,平成13年4月31日には,1階部分か
ら退去し,平成13年11月30日には,2階部分を退去した。
(イ) 各階部分の鍵については,平成13年4月末日当初から,控訴人
が度重なる返還の申し出を無視し,その受領を拒否してきたものであって,少なく
とも,1階部分の明け渡しについては同年4月末日をもって,また,2階部分につ
いては同年11月末日をもって,それぞれ受領遅滞が成立している。
(ウ) 控訴人の主張(ア)については,控訴人が残存していると主張する
ものが残存することは知らず,その余の主張は争う。
 それらが残存するとしても,被控訴人が賃貸借契約を締結する前か
ら存在したものであって,被控訴人が撤去する義務がない。
 また,テントと看板は残存するが,これらはいずれも低廉な費用
で,かつ容易に撤去可能であるから,これをもって明渡が完了していないとする主
張は,(イ)記載の事情からすると,権利濫用である。
イ 控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,1階部分の前賃借人から,営業権を引き継いだもの
であるから,1階部分の前賃借人の所有ないし設置した什器備品を撤去す義務があ
る。
 現在でも,1階部分及び2階部分に看板があり,1階に換気扇,天
井にぶら下がっている不要な電気コード及び湯沸器が撤去されていないから,控訴
人は,本件建物を明け渡していない。
(イ) 控訴人は,平成14年2月4日,2階部分の鍵の返還を受けた。
 建物賃貸借の目的物の返還は,鍵を賃貸人に返還して完了するが,
控訴人が,2階部分の鍵の返還を受けたのは平成14年2月4日であって,1階部
分と2階部分の賃貸借契約は一体であるから,それまでは明渡を受けたとはいえな
い。
 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,平成14年2月分までの
賃料を支払う義務がある。
(4) 原状回復義務違反並びに用法遵守義務違反
ア 控訴人の主張
(ア) 1階部分には賃貸借期間中に什器備品類が備え付けられており,
それらは契約終了時にも残置されていたものであって(甲10号証の1及び2),
その撤去費用は被控訴人の原状回復義務違反として,敷金から控除されるべきであ
る。
 なお,仮に,被控訴人の賃借中に備え付けられた物でなかったとし
ても,被控訴人は,前賃借人から営業権を引き継いだから,上記残置物につき原状
回復義務を負うことに変わりはない。
(イ) 2階部分においては,被控訴人により,襖,畳,壁,戸等に損傷
が加えられており,その補修費相当額は被控訴人の用法遵守義務違反として2階部
分の敷金から控除される。
(ウ) 1階部分,2階部分の,控除されるべき細目は,別紙請求書(甲
15)中被控訴人に対する請求額記載のとおりであって,その総額は,13万30
35円である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 1階部分についてはテントの撤去義務は認めるが,その相当費用
は争い,その余の撤去義務は否認する。
 控訴人が残置物として主張しているものは,本件建物の1階部分に
賃借開始当時から備え付けられていた棚等であり,賃貸借期間中に備え付けられた
ものではなく,被控訴人が原状回復義務を負わない。
(イ) 控訴人の主張(イ)は否認する。
第3 争点に対する判断
 1 1階部分と2階部分の賃貸借契約が別個か,一体か及び別個である場合の各
賃貸借契約における賃料
(1) 認定事実
 前記認定の事実に証拠(甲1,6,乙1,9の1ないし8,同15,当審
被控訴人本人)及び弁論の全趣旨を併せ考えると次の事実が認められる。
ア Aは,昭和61年8月28日,被控訴人に,本件建物の1階部分を賃料
月額4万5000円,保証金60万円(目的物返還時40万円返還),賃貸借期間
同年9月1日から昭和63年8月31日までで貸し渡した。
イ Aは,平成元年3月30日,被控訴人に対し,本件建物の2階部分を,
賃料月額3万円,敷金30万円(解約明渡時18万円返還),賃貸借期間を,同日
から平成2年3月29日までの約束で貸し渡した。
ウ 本件建物に対する賃貸借契約は,それぞれ更新により存続してきた。A
は,平成7年の震災前後,被控訴人に対し,自己の経済的窮状などを訴えたので,
Aと被控訴人は,その頃,1階部分について賃料を月額5万7250円に値上げす
ることで合意した。
エ 被控訴人は,上記合意の前後を通じ,1階部分の賃料と2階部分の賃料
とを合わせて,当時の賃貸人であるAに支払っていた。
オ 被控訴人は,平成13年2月,控訴人から急告を受け取り,控訴人代表
者であるB(以下,「B」という。)から明け渡しの話し合いを拒絶されて以降,
被控訴人は,敷金の返還及び家賃を支払うべき相手等に不安を持ち,被控訴人は,
契約書にあるだけの賃料として,とりあえず1階部分につき月額4万5000円,
2階部分につき月額3万円の供託を行ってきた。
(2) 上記認定に反し,控訴人は,不動産競売事件(当庁平成12年(ケ)第62
1号)の物件明細書である甲1,現況調査報告書である甲2の記載によると,1階
部分と2階部分の賃貸借契約は一体であり,賃料は8万7250円であって,これ
に反する被控訴人本人は採用できない旨主張する。
 しかし,甲1,2よると,物件明細書や現況調査報告書には,賃料以外に
ついては,1階部分と2階部分の賃貸借契約の開始時期,敷金について別個に記載
されていることからすると,甲1,2は,必ずしも,1階部分と2階部分の賃貸借
契約が一体であることを認めるべき証拠とはいえない。また,賃料についても,甲
2の現況調査報告書の記載によると「1階,2階合わせて消費税込みで8万725
0円を月々払っている。」と記載されているのみである。そうすると,甲1,2に
よっても,Aと被控訴人が,1階部分と2階部分のそれぞれの賃貸借契約を合意解
約し,後に,一体とする契約を締結したとの事実までを推認することはできない。
(3) (1)ウ認定の事実からすると,1階部分と2階部分で別々に賃料は発生
し,平成7年の兵庫県南部地震前後の1階部分の賃料の値上げ以降,本件建物1階
部分の賃料は月額5万7250円,2階部分の賃料は月額3万円となったものとい
うべきである。
 2 1階部分の契約終了時期(争点(2))
(1) 認定事実
 前記認定事実に証拠(甲7の1及び3,乙2の1,3の1,8,11の
1,17,18,当審控訴人本人,原審及び当審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実が認められる。
ア 平成13年2月19日,本件建物につき開始されていた競売手続き(入
札期間2月14日から2月21日。開札期日平成13年2月27日午前10時)に
ついて,控訴人及び被控訴人が入札した。
イ 控訴人が,開札期日に自己の競落を知ると,控訴人は直ちに,平成13
年2月27日付の書面で被控訴人に対し,Aの名義の建物でなくなった件,賃料が
敷金返還請求権と相殺になる件などを通知し,被控訴人は,同日頃,当該書面を受
領した。
ウ 被控訴人は,1階部分の賃貸借契約を解除する旨の通知を控訴人の連絡
先である姫路市広畑区e町fーgと神戸市長田区h町i丁目j番地kに各々発送した他,電
話をかけるなど連絡を試み,最終的に,平成13年3月中旬頃,連絡がつき,被控
訴人は,Bに対し,1階部分の賃貸借契約を解約する旨の意思表示をした(本件解
約の意思表示)。しかし,Bは,解約を認めようとせず,被控訴人が退去の日を決
めて連絡をしても,「会う必要はない」と主張する等の対応を繰り返した他,「敷
金は返さない」との対応を貫いた。
エ 被控訴人は,平成13年4月31日までに,本件建物1階から退去し,
1階部分を明け渡すため,Bに対し本件建物1階部分の鍵の受領を求めたが,Bは
これにも応じず,同日は経過した。
オ 控訴人は,平成13年5月1日,本件建物を競落した。
(2) 上記認定の事実からすると,被控訴人が控訴人に対し,本件解約の意思表
示をした平成13年3月中頃は,控訴人はいまだ本件建物の競落人ではなく,その
所有権を取得しておらず,本件建物1階部分の賃借人たる地位を未だ承継していな
かったものであるから,控訴人が競落によって,本件建物所有権を取得した平成1
3年5月1日までにされた本件解約の意思表示は,その時点では効力がないと言わ
ざるを得ない。
(3) また,被控訴人は,控訴人が,所有者であるAから,賃貸借契約を解除す
る意思表示の受領について代理権を授与されていた旨主張するが,乙3の1による
と,控訴人が「家賃は払はなくて良ろしい」と,あたかも賃貸人であるかのような
内容を記載した「急告」と題する書面を被控訴人に送付した事実は認められるもの
の,その事実のみでは,代理権の授与を推認することはできず,他に,被控訴人の
上記主張を認めるに足る証拠はない。
 したがって,解除の意思表示の効果が当時の賃貸人であるAに帰属しな
い。
(4) なお,被控訴人は,控訴人に対して,真意に基づき反復継続して,解約の
意思表示を行っており,それら意思表示を,権限がない控訴人が受領していたこと
は上記認定のとおりであって,控訴人としては,被控訴人はそれ以降も,継続し
て,1階部分の賃貸借契約の解約を望み続けることを知っていたものであるから,
控訴人が,本件建物を競落し,本件建物の所有者となって,それらの意思表示を受
領する権限が生じた平成13年5月1日の時点で,同年3月から4月頃までになさ
れた解除の意思表示の効力が生じると解するのが相当である。
 そして,前提事実で認定したとおり,賃貸人が,1階部分の賃貸借契約を
解約するには,1か月前の解約の意思表示が必要であることからすると,解約によ
り賃貸借契約が終了したのは,同年5月31日の経過によるものと解される。
 3 1階部分の明渡ないし明渡と同視できる時期
(1) 前提事実に(甲4,8,9の2及び3,乙10の1,同14の1,当審控
訴人本人,原審及び当審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,以下の
事実が認められる。
ア 被控訴人は,本件建物の1階部分を喫茶店として使用するために,本件
建物1階部分の正面玄関にあたる部分の外壁に,店舗名を記したテントを付属させ
た。
 被控訴人が,本件建物1階部分を借り受けた際に,湯沸器,棚は既に,
存在したが,それを設置したのが前借り主かAかは不明である。
イ 被控訴人は,平成13年3月頃,本件解約の意思表示をした頃から,同
年4月30日に1階部分を退去するので,1階部分の鍵を受領するように電話で,
Bに申し出た。Bは,この申し出に対し,話合いに応じようとする態度を見せず,
被控訴人と会うことも拒絶して,被控訴人からの電話を切るなどしていた。
ウ 被控訴人は,鍵を返還することができず,その処理を代理人に依頼し,
平成13年4月30日までに,賃借開始期から付属していた什器と1階正面部分の
テントを除き,家財道具を引き払った。テントやその什器については,交渉により
対応しようと考えていたため,撤去しなかった。
エ Bは,平成13年4月30日以降も鍵を受領せず,同年8月7日,控訴
人が被控訴人に,2階部分の明渡を求めて訴訟を提起した際(本訴請求)も,鍵の
受領を拒否した。
オ 被控訴人は,平成13年5月27日,関西電力との間で,本件建物1階
部分についての電力供給契約を解約した。
カ Bは,平成13年12月3日,本件建物1階部分の鍵を受領し,平成1
4年10月頃,被控訴人が付属させたテントを除去した。
(2)ところで,建物賃借人は賃貸借契約上の義務として,その終了後,建物を
現状に服し,かつ,賃貸人から預かった鍵などを返還するなどして,建物を賃貸人
に返還する義務を負うと解されるが,返還するに当たって賃貸人の協力がなければ
その義務を果たせないような場合には,賃借人側で,社会的に相当な手段を全て採
った場合には,賃貸人の受領遅滞が成立し,賃借人が明け渡し義務違反に基づく責
任を免れることは勿論,信義則上,敷金返還においても,明渡があったと同様に扱
うのが妥当である。
 そして,被控訴人は,遅くとも平成13年5月31日までには,本件建物
から退去し,Aが設置した可能性があるので,被控訴人に撤去義務があるとはいえ
ない什器の他には,自ら設置したテントの撤去については控訴人と相談して進める
ため,それを残し,控訴人代表者Bに対し,鍵の受領を含め,1階部分の明渡の受
領を求めたというのである。
 このうち,鍵の点については,Bが受領することは容易であるのにそれを
敢えて拒んでいることからすると,明らかに受領遅滞であるし,テントの点につい
ては,それを撤去するには,本件建物に一定の工事をしなければならないので,控
訴人と相談する必要があるとした被控訴人の判断は合理的であり是認され,控訴人
は,鍵の受領や1階部分自体の返還を拒み,交渉を拒否しながら,なおかつ,鍵を
受領した情況において,そのような主張をするのは,再三再四にわたって取り外し
を求めてきた経緯があるなど特段の事情のないかぎり,濫用的主張であると考えら
れるし,問題とされているテント自体,簡易な工事によって容易に除去できること
を合わせ考えると,原状回復義務違反として評価され得ることを考えれば,控訴人
自身本件で主張するように,原状回復義務違反として評価すべき問題であるから,
テントの除去がないことによって,被控訴人が自らすることのできる相当な措置を
しなかったと解することはできない。
 そうすると,被控訴人は,信義則上,自ら行うべき措置を講じたと解する
ことができ,被控訴人は,信義則上1階部分を明渡したと同視し得る。
 4 2階部分の賃貸借契約終了時期
(1) 認定事実
 前提事実に証拠(乙4の1ないし3,5の1ないし3,9の1ないし7,
19の1,2,20の1,2,当審控訴人代表者,当審及び原審被控訴人)及び弁
論の全趣旨を併せ考えると,以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は,2階部分の賃料について,控訴人を被供託者として,平成
13年4月25日から6月28日まで,同年5月分から7月分までの賃料として月
3万円を供託した。
イ 控訴人は,賃料は月8万7250円である旨を主張して,平成13年8
月7日,被控訴人に対し,訴状をもって賃料不払いに基づく契約の解除の意思表示
を行うと同時に本件建物2階部分の明け渡し請求及び明け渡しを求めて本件訴えを
提起した。
ウ 被控訴人は,平成13年7月31日から9月28日までの間に,本件建
物の2階部分の同年8月分から9月分までの賃料として,それぞれ3万円を供託
し,同年10月30日,本件建物2階部分の契約を解除する意思を記載した書面
を,姫路市広畑区e町f-gと神戸市長田区h町i丁目j番地kの控訴人の連絡先に内容証
明郵便で,控訴人に対し送付するなどした。
エ 上記2通の内容証明郵便は,同年11月10日頃,保管期間の経過によ
りそれぞれ被控訴人に返還され,それに対して,被控訴人は,直ちに普通郵便によ
って,同一の内容を記した書面を控訴人の上記2カ所の連絡先に送付し,控訴人
は,その頃,それらの書面をいずれも受領した。
(2) 上記認定事実によると,本件建物2階部分の賃貸借契約を解除する旨の被
控訴人による意思表示が,普通郵便によって,遅くとも平成13年11月15日に
は,控訴人に到達したと推認できるから,これは,前提事実で認定した控訴人が承
継した賃貸借契約上,5条1項の条項の適用による,有効な解除の意思表示に当た
ると解されるから,これを受領してから1ヶ月の経過,すなわち,平成13年12
月15日の経過をもって,本件建物2階部分の賃貸借契約は終了したこととなる。
(3) なお,付言するに,本件訴状送達日である平成13年8月11日に,控訴
人による本件建物2階部分の賃貸借契約を解除する旨の意思表示が被控訴人に到達
したことが認められるが,上記認定事実および2階部分の賃料が月額3万円であっ
たという事実からすると,被控訴人に賃料不払の事実その他債務不履行の事実は認
められず,解除の効果は発生しないため,同日の解除の効力はない。
 5 2階部分の明け渡し時期
(1) 認定事実
 前提事実に(乙13,16の1,当審控訴人代表者,原審及び当審被控訴
人本人)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると,次の事実が認められる。
ア 被控訴人は,自らが契約終了の日と指定した平成13年11月30日ま
でに,明け渡しに際して鍵を受領することをBに申し出るとともに,2階部分の荷
物を全て搬出した。
イ 被控訴人と控訴人との間には,当時既に本件訴訟が係属しており,本件
訴訟係属中,被控訴人はBに対し,2階部分の鍵を受領するように裁判外で再三求
めたが,Bは,その受領を拒否し,何も受け付けないという態度を貫いた。
ウ Bは,平成13年12月,1,2階部分の鍵を,被控訴人から受領し
た。
(2) ところで,賃借人は賃貸借契約終了後も契約上の義務として,目的物を賃
貸人に返還する義務を負うと解されるところ,賃貸人が受領に協力なくしては返還
義務を果たせず,それ以外の手段を全て採った場合には,受領遅滞が成立し,賃借
人が明け渡し義務違反に基づく責任を免れることはもちろん,敷金返還請求におい
ては,明渡があったと同視するのが信義則上妥当である。
 本件でこれをみると,平成13年11月30日の時点で,1階部分と同様
に明渡と同視しうるものと解するのが相当である。
 なお,2階部分について,控訴人は,1階部分のテントと同様の主張をし
て,看板の除去までは明渡の履行がないと主張するが,これまでに認定してきた控
訴人の態度,鍵を明け渡した状況,看板の除去が原状回復義務違反の問題と評価し
うることから,看板の除去を怠っていたことの一時をもって,明渡と同視できない
とは言えない。
 6 1階部分の原状回復義務違反及び2階部分の用法遵守義務違反
(1) 証拠(甲2,4,6,9ないし15(枝番のある物は枝番を含む。),乙
1,14の①ないし⑨,当審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実
が認められる。
ア 被控訴人は,昭和63年頃から本件建物1階部分で喫茶店を営むなどし
て利用するようになり,平成元年から2階部分で囲碁クラブなどとして利用するよ
うになった。
 被控訴人が,本件建物1階部分を借り受けた時点で,換気扇,給湯器,
棚,炊事場等の什器は備え付けられていたが,被控訴人は,それを設置したのが前
賃貸人か,Aかは知らない。
イ 本件建物は,平成7年1月17日の兵庫県南部地震で,半壊認定を受け
たことがあり,その後,Aが外壁面の損傷については吹きつけによる補修工事を行
ったものの,2階,3階については,内壁面の亀裂,雨漏りのおそれがある状態で
あった。
ウ 平成13年4月末日頃,本件建物1階部分,2階部分の様子は,棚,炊
事場,換気扇などが設置されている状況であり,その他の残存物や目立った破損は
見られなかった。
エ 平成13年4月末頃,被控訴人が本件建物1階部分の荷物を搬出し,同
年5月末頃の様子は,本件建物の1階部分には目立った残存物はなく,一見して空
き家とされる状態であった。
オ 平成14年9月30日頃,本件建物の1階部分は,乙14号証⑤乃至⑦
で撮影されていた家具の一部らしき材木片が散在し放置され,2階部分の便所のド
アのガラスは割れていたほか,2階部分内部の内壁には,破損および汚損が見られ
た。
カ 本件建物の外壁には,被控訴人により,2階部分外壁に「囲碁」とされ
る看板が附属され,1階部分外壁に店舗名を記したテントが附属させられていた。
キ 控訴人は,平成14年10月末頃,24万2550円の費用をかけて本
件建物の補修およびリフォームを行い,その際,外壁部分のテント及び看板の撤
去,2階部分の便所のドアの修繕等を行ったが,うち1階テントの撤去に要した費
用は2万7300円(消費税込),看板はずし処分に要した費用は8400円(消
費税込)である。
(2) 1階部分については,以上の事実及びこれまでに認定した事実から判断す
るに,被控訴人は,乙14の各写真を撮影した直後から目的物の引渡しを控訴人に
対して求めているのであって,被控訴人が,乙14の各写真を撮影した後に附属什
器等の家具を破損したことは認め難い。また,被控訴人が1階部分を明け渡した際
には,棚などの什器が残されていたが,これらが,被控訴人ないし前主が設置した
と認められる証拠はないから,これらの残存物について被控訴人が,原状回復義務
を負うものではない。
 次に,2階部分の破損についてであるが,敷引の範囲内で考慮すべき摩耗
等を超えて,被控訴人が原状回復すべき義務があるほどの破損を生じさせたと認め
るに足りる証拠はなく,かえって,内壁に見られる亀裂及びシミは,兵庫県南部地
震によるものと窺える。
 他方で,外壁に附属された看板及びテントについては,被控訴人が,附属
したものであるから,撤去義務を負うところ,前記のとおり,被控訴人は,この義
務を履行しなかったので,その撤去費用相当額について,被控訴人が損害賠償責任
を負う。
 そして,現に,控訴人は,1階テントの撤去に2万7300円,看板の撤
去に8400円を要したところ,その工事内容に鑑みると,テント及び看板の撤去
は話し合いにより解決すると被控訴人が考えていたことを考慮しても,その額は相
当であり,これらは,それぞれ1階部分,2階部分の返還されるべき敷金額から控
除されるべきである。
 7 請求に対する判断
  (1) 本訴請求について
ア 2階部分の未払賃料ないし賃料相当損害金額
 前記のとおり,この賃貸借契約は,平成13年12月15日をもって終
了しており,賃料は同日まで発生することになるが,前提事実で認定のとおり,解
約時の賃料は日割計算される。また,被控訴人が,それ以降,占有していたとは認
められないから,賃料相当損害金は発生しない。
 そして,控訴人が請求するのは同年5月以降分であるが,前提事実のと
おり,被控訴人は,同年10月分まで弁済しており,それ以降分を支払ったと認め
るに足りる証拠はない。
 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,同年11月分の賃料3万円と
同年12月分の賃料1万4516円の合計4万4516円の支払義務がある。
イ 1階部分の未払賃料ないし賃料相当損害金額
 前記のとおり,この賃貸借契約は,平成13年5月31日をもって終了
しており,賃料は同日まで発生することになる。また,被控訴人が,それ以降,占
有していたとは認められないから,賃料相当損害金は発生しない。
 そして,控訴人が請求するのは同年5月以降分であるが,前提事実のと
とおり,被控訴人が支払ったのは同年4月分の一部を支払ったのみで,それ以降分
を支払ったと認めるに足りる証拠はない。
 したがって,被控訴人は,控訴人に対し,同年5月分の賃料5万750
円の支払義務がある。
ウ しかし,後記のとおり被控訴人については,1階部分,2階部分の各賃
貸借契約において,上記未払賃料債権を超える敷金返還請求権が発生するところ,
敷金返還請求権は,上記未払賃料債権に当然充当されるから,実体法上は,控訴人
の本訴請求は,理由がないこととなり,本来,本訴請求には理由がないことになる
が,被控訴人からの控訴がないので,控訴人に不利益に変更することが許されず1
1月分の賃料の支払を認める原判決を変更することはできないので,3万円の限度
で本訴請求を認める原判決の主文を維持する。
  (2) 反訴イ事件
以上認定の事実によると,本件建物1階部分については,明渡時に敷金4
0万円を返還する敷金契約が被控訴人とAとの間に存在し,平成13年5月1日に
控訴人が本件建物の所有者となったことで,本件建物1階部分の敷金の返還義務を
控訴人が承継したこと,被控訴人が契約終了により建物を明け渡したことがいずれ
も認められるから,被控訴人は控訴人に対し,敷金の返還を請求することができ
る。
    6(2)で検討したとおり,1階部分のテントの撤去費用2万7300円は原
状回復義務違反に基づく損害賠償として,敷金から控除されるべきものである。
    また,上記のとおり,5万7250円の未払賃料債務も,返還される敷金
から控除される。
 したがって,以上の金額を控除した31万5450円について,控訴人は
被控訴人に対して返還する義務を負う。
(3) 反訴ロ事件
  以上認定の事実によると,本件建物2階部分については,明け渡し時に敷
金18万円を返還する敷金契約が被控訴人とAとの間に存在し,平成13年5月1
日に控訴人が本件建物の所有者となったことで,本件建物2階部分の敷金の返還義
務を控訴人が承継したこと,被控訴人が同年11月末日に建物を明け渡したこと,
同年12月15日に賃貸借契約が終了したことがいずれも認められるから,被控訴
人は控訴人に対し,同年12月15日の経過をもって,敷金の返還を請求すること
ができる。
 6(2)で検討したとおり,2階部分の看板の撤去費用8400円も,(2)同
様2階部分の敷金から当然控除されるものである。
また,上記のとおり,4万4516円の未払賃料債務も,返還される敷金
から控除されるべきであるが,3万円については,原判決の主文を維持せざるを得
ないので,残り1万4516円について2階部分の敷金から当然控除されるべきこ
ととなる。
したがって,以上の金額を控除した15万7084円について,控訴人
は,被控訴人に返還する義務がある。
第4 結論
 よって,控訴人の本訴請求は,3万円の限度で支払を認める原審の判断を維持す
ることとし,被控訴人の反訴イ事件における請求は,31万5450円及びこれに
対する平成13年6月1日から年5分の割合による遅延損害金の支払いを命じる限
度で理由があるからその限度で認容することとし,同反訴ロ事件における請求は,
15万7084円の支払い及びこれに対する平成13年12月16日から年5分の
割合による遅延損害金の支払いを命じる限度で理由があるからその限度で認容する
こととし,その余の請求は失当として棄却すべきであるから,これと異なる原判決
を変更することとし,訴訟費用は,民事訴訟法67条2項前段,61条,64条本
文を,仮執行宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
 神戸地方裁判所第6民事部
    裁判長裁判官    松村雅司
    
       裁判官    水野有子
       裁判官    三宅知三郎

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