弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について
 一 本件は、被上告人から昭和六三年度及び平成元年度の国民健康保険税(所得
割額)並びに同年度及び平成二年度の国民健康保険税(被保険者均等割額及び世帯
別平均割額)の各賦課処分(以下「本件処分」という。)を受けた上告人が、本件
処分の無効確認を求めるものである。そして、上告人が、本件処分の無効事由の一
つとして、昭和六三年以前に交通事故に遭い傷害を負って、それまで行っていた仕
事ができなくなり、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき生活費の支給
を受けていたから、雇用保険法一二条により、上告人に国民健康保険税を賦課する
ことは禁じられている旨主張していることは、原判決の摘示するところであり、ま
た、記録によれば、上告人は、上告人の作成したとされる昭和六三年度分及び平成
元年度分の国民健康保険税申告書の成立を否認し、同申告書に記載のある昭和六二
年及び昭和六三年の上告人の給与所得各一〇〇万円の存在を争っているものと認め
られる。
 二 原審は、上告人は、大東市保険課国民健康保険税の担当係員に対し昭和六二
年及び昭和六三年について各一〇〇万円の給与収入があった旨申告したので、右係
員が、前記国民健康保険税申告書にその旨記載して、上告人に内容を確認してもら
った上で、署名、押印を得て、その提出を受けたと認定した上、右各給与収入があ
ったとして各年度の国民健康保険税額を計算すると、本件処分の金額となるから、
本件処分は法令にのっとって適法にされたものであり、雇用保険法一二条は失業等
給付として支給を受けた金銭を標準とする租税その他の公課を禁ずる趣旨のもので
あって、本件処分の違法の根拠たり得る規定ではないなどとして、本件処分に無効
事由はないと判断した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
   雇用保険法一二条が本件処分の違法の根拠たり得る規定でないことは、原審
の説示するとおりである。しかし、上告人の前記主張によれば、上告人は高年齢者
等の雇用の安定等に関する法律に基づき生活費の支給を受けていたというのである
から、右生活費というのは、同法一八条に規定する雇用対策法の規定に基づく手当
のことを指すものと解することができる。そして、同法一三条は、求職者等に対し
職業転換給付金を支給することを規定しており、これが右の手当に当たるところ、
同法一七条は、「租税その他の公課は、職業転換給付金(事業主に対して支給する
ものを除く。)を標準として、課することができない。」と規定しているから、結
局、右の手当については、これを標準として租税を課することができないものとい
うべきである。そうすると、上告人が職業転換給付金の交付を受けていたとすれば、
これを所得とみて国民健康保険税の所得割額を課税することは許されず、また、地
方税法七〇三条の五第一項及び大東市市税条例(昭和三一年大東市条例第三五号)
一一〇条によれば、総所得金額及び山林所得金額の合算額が所定の金額を超えない
場合には、国民健康保険税の被保険者均等割額及び世帯別平均割額を減額するもの
とされているのであるから、右総所得金額に職業転換給付金を含めて右規定を適用
することも、許されないものといわなければならない。そして、雇用対策法一七条
が、事業主に対して支給されるものを除く職業転換給付金が求職者等の生活や求職
活動を支えるための給付であることを考慮して、これに課税することを禁止してい
ることに照らせば、本件処分が右の各禁止に違反してされたとするならば、本件処
分には課税要件の根幹についての過誤があるものというべきであり、徴税行政の安
定とその円滑な運営の要請を斟酌しても、なお、不服申立期間の徒過による不可争
的効果の発生を理由として上告人に本件処分による不利益を甘受させることが著し
く不当と認められる例外的な事情のある場合に該当するものというのが相当である(
最高裁昭和四二年(行ツ)第五七号同四八年四月二六日第一小法廷判決・民集二七
巻三号六二九頁参照)。
 原審は、上告人が昭和六二年及び昭和六三年について各一〇〇万円の給与所得が
あった旨を申告したと認定しているが、上告人の前記主張に照らし、そこでいう給
与所得なるものの全部又は一部が職業転換給付金であった可能性を否定することが
できないのであって、右申告の事実から直ちに、右給与所得があったとして各年度
の国民健康保険税額を計算すると本件処分の金額となることを理由として、本件処
分が法令にのっとって適法にされたものであると即断することはできないものとい
うべきである。そうとすれば、上告人が雇用保険法一二条という誤った法条を指摘
し、雇用対策法一八条を援用しなかったからといって、上告人の収入が実際に給与
所得であったのかどうか、殊に職業転換給付金を含むか否かを確定しないまま本件
処分を適法とした原審の判断には、審理不尽、理由不備の違法があり、右違法は判
決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があ
り、原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すべ
きである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    山   口       繁
            裁判官    元   原   利   文

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