弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人平林真一の上告理由第一点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認しうるところ、右認定
した事実関係のもとにおいては、本件売買を被上告人を売主、上告人を買主とする
内地売買にすぎない旨の原判決の判断は、当審も正当として是認し得る(本件契約
書の価格欄にエフ・オー・ビーと記載されたからといつて所論のようにエフ・オー・
ビー契約と解しなければならないものではなく、かつ単に本件物件の価格を定める
基準として記載されているにすぎないどする原審の判断も正当として是認し得る)。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠
の取捨選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第二点について。
 所論は、まず原判決が訴外Dコンパニーのすべき信用状の不開設について上告人
に債務不履行の責任を帰せしめた原判決は、上告人の主張について判断をしない違
法があるか、または、法令の解釈をあやまつた違法があるという。
 しかし、原判決および第一審判決ならびに本件一件記録によると、被上告人は、
上告人と被上告人との間に成立した本件売買契約の履行として買主たる上告人に対
し右売買代金の支払義務の履行を求めていることは明らかであり、所論のように上
告人に対し債務不履行に基づく損害賠償の請求をしているものではないから、この
点の所論は、前提を欠くものとして、排斥を免れない。
 その余の論旨は、原審の認定しない事実を前提としてこれを非難するか、または
原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第三点について。
 所論は、まず、本件売買契約は信用状の開設を停止条件とするものかまたは確定
期売買である旨強調する。
 しかし、原判決は、その挙示の証拠により、原判決の記載する事実を認定したう
え、本件売買契約はいわゆる内地売買に当る旨を判示し、信用状の開設を停止条件
とし、または確定期売買と認めることができない旨を説示しているのであり、当審
も、右原判決の判断を正当としてこれを是認することができる。
 この点の所論は、原判決の認定しない事実、すなわち本件売買をいわゆるエフ・
オー・ビー契約に該当することを前提とするものであつて、採るをえない。
 つぎに、所論は、原判決が所論のような商慣習の存否について判断しなかつた違
法があると主張するけれども、所論のような商慣習のあることは本件一件記録上う
かがい知ることができないのみならず、原判決は所論の商慣習と異なる新たな合意、
すなわち信用状の開設以前でも昭和二六年五月の船積に間に合うように本件取引の
目的商品たる釘の製作に着手する旨の合意が上告人と被上告人間に成立した旨を認
定しているのであり、右のような合意が有効であることは明らかであるから、原判
決が所論のような商慣習の有無について判断をしなかつたのは、当然である。この
点の所論は、採用しがたい。
 つぎに、所論は、原判決は、上告人の更改の主張を排斥したのは失当である旨非
難するけれども、原判決の適法に認定した事実関係のもとにおいては、所論のよう
な合意の変更は本件売買契約の履行方法の一部の条件・態様の変更にすぎない旨の
原判決の判断は、当審も正当として支持し得る。
 結局、原判決には所論のような違法はなく、所論は、いずれも、採用しがたい。
 同第四点について。
 論旨は、まず、本件売買契約は、売主たる被上告人において債務の本旨に従う履
行の提供をすることが不可能となつた以上、売買代金の支払を請求することができ
ない旨をいう。
 しかし、被上告人が本件売買契約について、債務の本旨に従つた履行の提供をし
たものと解すべきことは、後に判断するとおりである。この点の論旨は、前提を欠
くものとして、排斥を免れない。
 つぎに、論旨は、本件売買契約の代金は外国通貨をもつて表示されたものにかか
わらず、民法四〇三条の規定を適用しなかつた原判決は違法であるという。
 しかし、本件売買の価格は米貨をもつて表示せられているが、これをもつて民法
四〇三条にいうごとく米貨をもつて債権額を表示したものと認めがたいとした原判
決の判断は、その挙示の証拠に照らし、当審も正当として是認し得るのであつて、
本件売買契約に同条の適用のあることを前提とする、この点に関するその余の論旨
は失当である。
 また、論旨中には、本件売買契約の一部九九三樽のうちいずれが米ドル一六ドル
五〇セントに当り、一六ドル六〇セントに当るか明示していないのは不当であると
いう。
 しかし、原判決は、本件釘九八七樽の売買代金額の算出に当つては、当初の代金
額の割合により一ドル三六〇円の割合で算出していることはその判文上明らかであ
り、特段の事情の認められない本件においては、代金額算出の方法としては合理的
なものであり、これに基づいて算出した金額は正当として当審も是認することがで
きる。原判決には、この点について違法は認められない。
 最後に、論旨は、被上告人のした弁済の提供は数量不足であつて、不完全履行と
して契約の本旨に適応した弁済ということはできない旨主張する。
 しかし、原判決が適法に認定したところによると、上告人は、昭和二六年四月末
頃予定していた信用状を入手しえずに不安を抱き、被上告人に対し釘の製作の中止
を申し入れ、被上告人も訴外E株式会社の釘の製作を中止せしめたが、すでに九九
三樽の釘が完成していたので、被上告人は上告人に右釘の引取方を要求したが、上
告人は右釘の転売できるまで猶予方を懇請するのみであつたというのであり、右認
定した事実関係によると、本件売買契約の釘一五〇〇樽のうちすでに完成した九九
三樽を除く残五〇七樽の分については将来に向つて合意により解約したものと認め
られる。
 したがつて、すでに完成した分九九三樽について、被上告人が上告人に対し原判
決認定の事情のもとに約定に従い引取方を要求した以上、上告人の債務につき契約
の本旨に従つた弁済の提供があるものと解するのが相当であり、この点についての
原判決の判断は、相当であつて所論のような違法はない。
 以上のように、所論は、いずれも、採用しがたい。
 同第五点について。
 原判決が、その挙示の証拠により適法に認定した事実の関係のもとにおいては、
所論の自助売却は適法であり、権利の濫用に当らないとした原判決の判断は、当審
も正当としてこれを是認し得る。
 所論は、原判決の認定しない事実を前提としてこれを非難するものか、または、
原審において陳述しない主張に基づいてこれを非難するものであり、採るをえない。
 同第六点について。
 論旨は、被上告人が上告人に対し本件売買契約の債務不履行を理由として損害賠
償の請求をしていることを前提とするが、被上告人の本訴請求は、被上告人と上告
人との間の本件釘の売買契約に基づく代金債務の履行およびその遅延損害金の支払
を求めるものであることは論旨第二点において判断したとおりであるから、所論の
ような事由についてしんしやくすべきいわれはない。
 論旨は、原判決を正解しないことに基づくものか、または、原審の認定しない事
実を前提とするものであつて、採るをえない。
 同第七点について。
 原判決その他の一件記録に徴するも、原判決に所論のような当事者の申し立てな
い事項について判断をした違法ないし釈明権の不行使などの違法があるものとは認
められない。
 所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するか、または原判決の認定しない事
実を前提としてこれを非難するものであつて、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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