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平成24年1月24日判決言渡
平成22年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件
平成22年(ネ)第10041号同附帯控訴事件
(原審・東京地裁平成17年(ワ)第26473号)
口頭弁論終結日平成23年10月5日
判決
控訴人・附帯被控訴人アクシネット・ジャパン・インク
(一審被告)
訴訟代理人弁護士長沢幸男
同矢倉千栄
訴訟復代理人弁護士稲瀬雄一
被控訴人・附帯控訴人ブリヂストンスポーツ株式会社
(一審原告)
訴訟代理人弁護士木孝
同村田真一
訴訟復代理人弁護士小佐野愛
補佐人弁理士吉見京子
同石井良夫
主文
1一審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)一審被告は,一審原告に対し,9億2152万4055円及び
内金1億3022万1572円に対する平成15年7月1日から,
内金1億5090万3271円に対する平成16年1月1日から,
内金1億4705万5265円に対する平成16年7月1日から,
内金1億3429万9630円に対する平成17年1月1日から,
内金1億4123万5445円に対する平成17年7月1日から,
内金1億4218万7015円に対する平成18年1月1日から,
内金1440万円に対する平成18年1月5日から,
内金508万9563円に対する平成18年3月1日から,
内金5613万2294円に対する平成21年2月24日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審原告のその余の請求を棄却する。
2一審原告の附帯控訴を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを6分し,その5を一審原告の負担と
し,その余を一審被告の負担とする。
4この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨(一審被告)
1原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
2一審原告の請求を棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも一審原告の負担とする。
第2附帯控訴の趣旨(一審原告)
1原判決を次のとおり変更する。
一審被告は,一審原告に対し,19億8308万9933円及び
内金2億8894万3372円に対する平成15年7月1日から,
内金3億3625万0337円に対する平成16年1月1日から,
内金3億2835万8868円に対する平成16年7月1日から,
内金3億0146万8137円に対する平成17年1月1日から,
内金3億1484万4589円に対する平成17年7月1日から,
内金3億1757万4782円に対する平成18年1月1日から,
内金2400万円に対する平成18年1月5日から,
内金1142万9351円に対する平成18年3月1日から,
内金6022万0497円に対する平成21年2月24日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2附帯控訴費用は一審被告の負担とする。
3仮執行宣言
第3事案の概要(略号は原判決の例による。)
1本件は,下記特許権(本件特許権)を有する一審原告が,下記製品(被告製
品)を輸入・販売する一審被告に対し,同製品の輸入・販売は上記特許権を侵
害する等として,①被告製品の輸入・販売の禁止と廃棄,②平成15年1月等
からの損害賠償金(弁護士費用を含む)と平成14年1月からの不当利得金の
合計金56億7786万2000円と遅延損害金(内訳の詳細は原判決記載の
とおり)の支払を求めた事案であるが,本件特許の存続期間が平成21年5月
11日に満了したこともあって,上記①の差止請求は原審係属中の平成21年
12月14日に取り下げられ,平成22年2月26日になされた原判決は,上
記②の損害賠償金と不当利得金請求についてのみ判断した。

(1)本件特許権
・特許番号第2669051号(請求項の数1)
・発明の名称ソリッドゴルフボール
・登録日平成9年7月4日
・出願日平成元年5月11日
・期間満了日平成21年5月11日
・第1次訂正平成19年6月8日(無効2006-80172号)
・第2次訂正平成20年4月30日(訂正2008-390031号)
(2)被告製品
原判決別紙物件目録①~⑪
2原審における争点は,
①被告各製品は第2次訂正後の本件特許発明の技術的範囲に属するか(充
足論)
②本件特許に無効理由があるか(無効論)
③損害額及び利得額の範囲
であったが,平成22年2月26日になされた原判決は,上記争点①につきこ
れを肯定し,同②はこれを否定し,同③につき損害賠償・不当利得金の合計1
7億8620万4028円と遅延損害金(内訳の詳細は原判決記載のとおり)
の限度でこれを肯定した。
そこで,これに不服の一審被告が本件控訴を提起し,同じくこれに不服の一
審原告が附帯控訴を提起した。
3当審における争点も当初は原審と同様であったが,一審被告が平成21年2
月26日付けでなした本件特許についての特許無効審判請求(無効2009-
800049号事件)が特許庁において平成21年9月14日請求不成立の審
決がなされ,これに不服の一審被告が提起した審決取消訴訟(平成21年(行
ケ)第10430号事件)も平成23年2月28日に当庁から請求棄却の判決
がなされ確定したことから,前記2の争点②(無効論)に関する主張は撤回さ
れ,最終的な争点は①(充足論)と③(損害論)である。
第4当事者の主張
以下のとおり付加訂正するほか,原判決記載のとおり(別表1ないし7を含
む。)であるから,これを引用する(ただし,前記争点②に関するものは除く。)。
1当審における控訴人(一審被告)の主張
(1)被告各製品は第2次訂正後の本件特許発明の技術的範囲に属しない(争点
①)
ア原判決の誤り-その1
(ア)包袋禁反言の法理は,出願過程における出願人の主張と侵害訴訟にお
ける主張との矛盾を禁じるものである。出願人は,出願過程において,
拒絶理由を解消するために,特許請求の範囲を限定的に主張して特許権
を取得したにもかかわらず,侵害訴訟において,かかる限定的な主張を
行ったことを無視して,侵害主張を行うことは,信義則に反する。
また,包袋禁反言の法理は,出願過程における出願人の主張を信頼し
た第三者の信頼の保護を目的とするものであり,出願過程における出願
人の主張と侵害訴訟における主張が矛盾するかどうかは,第三者の信頼
保護という観点から決すべきものである。
(イ)ところが,原判決は,本件特許の出願過程で挙げられていない専門的
な文献である甲19(「ファインケミカル事典」昭和60年6月30日
第1版第2刷発行)及び甲30(「便覧ゴム・プラスチック配合薬品」
〔改訂版〕昭和56年4月20日増補改訂版第3刷発行)の知見を前提
に,平成9年3月10日付けで特許庁に提出された本件意見書(乙6)
の主張内容を検討しており,第三者の信頼保護の観点からの検討を一切
行っていない。
これは,包袋禁反言の法理の適用を明らかに誤ったものである。前述
のとおり,第三者の信頼保護という観点からすれば,構成要件Dは,引
用例(乙3)のジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド(DPTT)
と作用効果を相違するものに限定して解釈すべきである。
なお,一審原告は,一審係属中に,本件訂正発明の構成要件Dを「ペ
ンタクロロチオフェノール又はその金属塩」に訂正している。しかし,
かかる訂正によっても,出願過程において,引用例(乙3)との作用の
相違を主張した事実が消滅するものではないし,第三者の信頼保護の観
点からも,出願過程における上記主張と矛盾する主張が許されるもので
はない。
イ原判決の誤り-その2
前記アの点を措いても,原判決は,構成要件Dに,①乙3のDPTTと
並んで,代表的な加硫促進剤とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛が
含まれていること,②ペンタクロロチオフェノール(PCTP)に関して
も,ラジカル供与剤としての加硫促進剤として添加される場合があること
(乙41,乙42)を完全に看過して判断したものであり,失当である。
(ア)仮に,原判決の判示するように,構成要件Dが何らの限定もないとす
ると,加硫促進剤とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛,加硫促進
剤として添加されるPCTPも構成要件Dに含まれることになり,「本
願に係るチオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩は・
・・ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドとはその作用も相違」
という本件意見書の記載自体,意味をなさなくなり失当である。
なお,カルバミン酸及び炭酸は,カルボキシル基(COOH)を有す
るので,カルボン酸に分類される(乙50参照)ところ,これは,チオ
カルボン酸とチオカルバミン酸との関係についても同様に当てはまり,
両者は多くの化学的性質を共通しているといえる。よって,加硫促進剤
とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛が,構成要件Dのチオカルボ
ン酸類に包含されることは明白である。
なお,国際特許分類は,単に特許出願処理の便宜として分類されたも
のであり,化合物の定義に従って分類されたものではないことは明らか
である。
また,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者)が特許文献検索ツールとして国際特許分類を利用しているとし
ても,そのことと,化合物がその定義に従って適切に分類されているこ
ととは無関係である。
このほか,独立行政法人製品評価技術基盤機構(Nite)の分類の
備考欄において,「含金属化合物を除き二から十三分類の各分類におけ
る構成要素が跨っている場合には,数字の大きな分類が優先する」(甲
39)と記載されているように,当該分類は便宜的な分類にすぎない。
(イ)本件意見書(乙6)における「加硫に関与するものではなく」とは構
成要件Dの作用に関して述べたものであり,「加硫促進効果はない」と
は構成要件Dの効果に関して述べたものであり,作用効果の双方ともに
このような条件を満たすものが構成要件Dであると述べたものである。
したがって,構成要件Dは,「加硫に関与するものではなく」かつ「加
硫促進効果はない」に限定されるべきものである。
そして,被告各製品のPCTPは,少なくとも,加硫に関与するもの
であることは明らかであり,構成要件Dを満たさない。
(2)一審原告に損害等は発生していない(争点③)
ア特許法102条1項本文の要件に関し
(ア)被告各製品の譲渡数量(無償譲渡につき)
原判決は,本件における無償譲渡も,特許法102条1項の「譲渡」
に該当するとするが,特許法102条1項は,逸失利益算定のための規
定であり,そもそも一審原告に逸失利益を生じない態様での譲渡は,同
条の適用範囲外である。
そして,大阪地裁平成17年2月10日判決(判時1909号78頁
参照)が判示するとおり,「一般に,製品を販売することができるため
には,これに対応する需要が存在することが必要である。これに対し,
製品を無償で譲渡するためには,必ずしも製品の有償での販売に対応す
る需要は必要ではない。かえって,製品を無償で譲渡するときには,こ
れを有償で販売するときよりも,相当数多い譲受けの需要が生じるのが
通常であるというべきである」。このように,無償譲渡と有償譲渡の需
要が異なる以上,無償譲渡が行われたからといって,原告各製品の販売
数量の減少が生じるものではないことは明らかである。
そして,上記判決は,対象製品が消耗品か耐久財か,購買需要が多大
かどうかといった観点を捨象して,一般に有償譲渡と無償譲渡の需要が
異なる旨判示しているから,本件と事案が異なるものではない。
(イ)単位数量当たりの利益額
a原告各製品と被告各製品とは競合しない
以下のとおり,被告各製品は,原告各製品と競合するものではない。
(a)原告製品TOURSTAGEX-01と被告製品①,②,⑥,⑦につき
原判決は,TOURSTAGEX-01は被告製品①,②,⑥,⑦の価格帯を
超えているが,前者は希望小売価格であり後者はオープン価格であ
るため単純な価格比較はできないこと,及び両者が雑誌(甲50添
付のもの)において性能が類似する製品として紹介されていること
を根拠として,競合関係を肯定している。
しかし,甲50添付の雑誌において,明確に,被告製品①の価格
が6300円(1個当たり525円),TOURSTAGEX-01の価格が7
560円(1個当たり630円)と記載されており,かかる価格情
報に基づきゴルフボールの販売価格が決定されることは明らかで
あるから,オープン価格と小売価格の相違をもって単純な価格の比
較はできないとする原判決は誤りである。
原被告製品が性能が類似する製品として雑誌に紹介されている
という点についても,被告製品⑥とTOURSTAGEX-01を掲載した雑
誌(甲50)には,多数のゴルフボールの中に被告製品⑥と
TOURSTAGEX-01が含まれているにすぎず,また,被告製品⑥と
TOURSTAGEX-01の性能が類似する旨の記載はない。
さらに,別の雑誌の記事(乙111)において,被告製品⑥がス
ピン系ボールに分類され,TOURSTAGEX-01がディスタンス系ボール
に分類されていることからも明らかなように,あるボールがスピン
系,ディスタンス系のいずれに分類されるかについて,客観的な基
準は存在しないのであるから,ゴルフボールの比較記事は到底信用
できるものではない。
また,被告製品②及び⑦は,スピン性能を低下させて飛距離をア
ップさせた点において,それぞれ被告製品①及び⑥と性能が異なる
(乙112)ところ,原判決で認定した雑誌の記事には,被告製品
②及び⑦とTOURSTAGEX-01との性能の対比については何ら記載が
なく,TOURSTAGEX-01が被告製品②,⑦と競合するとの原判決の認
定は,何ら証拠に基づかないものであって,誤りである。
したがって,TOURSTAGEX-01が被告製品①,②,⑥,⑦と競合す
る商品でないことは明らかであり,原判決の認定は明白に誤りであ
る。
また,一審被告のPROV1シリーズと,一審原告のTOURSTAGEシ
リーズが最高級品質であることを示す証拠は全くなく,TOURSTAGE
X-01の価格帯がPROV1の価格帯を超えていることは,原判決が認
定するとおりであるから,「両者が競合品とみられていることは,
ゴルフ業界では常識である」との一審原告の主張は,単なる願望に
すぎず,失当である。
このほか,カタログ(乙112)に「この他社ボールをお使いな
ら,まずはワントライ!」と記載されていることと,ゴルフボール
が競合品であることとは無関係である。
(b)原告製品PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIEと被告製品⑤,⑩につ

原判決は,「PRECEPTLADY及びPRECEPTLADDIEは,被告製品⑤,
⑩と需要の競合関係が存在し,市場において競合する製品に該当す
るものと認められる」と認定するが,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIE
及び被告製品⑤,⑩の価格差が100円以内であったとしても,単
価が200円程度のいわゆる低価格帯のゴルフボールにおいては,
100円の価格差は非常に大きいものである。現に,PRECEPTLADY,
PRECEPTLADDIEの価格は,被告製品⑤の約1.5倍となっているの
であり,市場において競合する商品とはいえない。
また,原判決は,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIE及び被告製品⑤,
⑩はいずれも女性のユーザー層を対象とした製品であると認定す
るが,一審原告のPRECEPTシリーズは,女性のユーザー層を対象と
するのに対し,被告製品⑤,⑩は女性のユーザー層を対象としてい
ない(乙105,107)ため,両者が競合することはあり得ず,
原判決の上記認定は事実誤認である。
この点につき,一審原告は,「原告製品の中では,PRECEPTシリ
ーズが,コンセプト面・価格面で,最も被告製品⑤,⑩(DTSoLo
シリーズ)に近いことに変わりはない」旨主張するが,上記主張は,
被告製品⑤,⑩と市場で競合する原告製品が必ず存在することを前
提としており,失当である。一審被告は,被告製品⑤,⑩と市場で
競合する原告製品が存在せず,被告製品⑤,⑩の販売を逸失利益の
算定根拠に用いることができない旨主張するものである。
このほか,ゴルフ白書(乙105,107)の「対象ゴルファー
属性」の「レベル」の欄において,PRECEPTのメインターゲットが
「中級者」となっているのに対し,被告製品⑤,⑩「DTSoLoシリ
ーズ」のメインターゲットが「初級者」となっており,両者のメイ
ンターゲットが異なるから,やはり市場において競合する製品とは
なり得ない。
(c)原告製品TOURSTAGEUXと被告製品⑪につき
原判決は,被告製品⑪とTOURSTAGEUXとが,市場で競合する製
品であると認定する。しかし,原判決は,被告製品⑤,⑩とPRECEPT
LADY及びPRECEPTLADDIEについて,価格差が100円以内である
にもかかわらず,別の価格帯に属すると認定する一方で,被告製品
⑪の価格とTOURSTAGEUXについては,価格差は約130円と大き
いにもかかわらず,同じ価格帯であると認定している。
被告製品⑪とTOURSTAGEUXの単価を単純に比較すれば,その差
は約130円と大きいのであるから,これらが市場において競合す
る製品といえないことは明白であり,原判決で認定された「価格帯」
は,恣意的に定められたものであって失当である。
なお,原判決は,上記競合関係を認定するに当たり,価格差のみ
を考慮しているのであって,競合関係を肯定する理由付けの1つと
して認定しているものではない。
また,一審原告が特許権侵害を主張する2003年(平成15年)
には,既に被告製品⑪とTOURSTAGEUXとの間に130円もの価格
差が生じていたものであり,同年になって被告製品⑪の価格が下が
ったのが事実であるとしても,一審原告は,同年以降に,被告製品
⑪の価格が2002年(平成14年)の水準に戻ったことを何ら主
張立証しておらず,「TOURSTAGEUXと価格差が130円というのは
一時的でイレギュラーなもの」という一審原告の主張は失当であ
る。
(d)原告製品PRECEPTLADDIE,PRECEPTLADY及びPRECEPTMCLADY
と被告製品③,④,⑧,⑨につき
原判決は,「価格帯が共通のゴルフボールに対して向けられる需
要は競合するものといえるから,価格帯が共通の製品は市場におい
て競合する製品に当たるものと解される。」とした上で,被告製品
③,④に競合する原告製品がNEWING(価格■■■円)であると認定
している。しかし,原判決は,被告製品③,④に対応する製品の単
位数量当たりの利益額を認定する上で,NEWINGと価格が共通する
PRECEPTLADDIE(価格■■■円)及びPRECEPTLADY(価格■■■円)
は除外している。
同様に,原判決は,被告製品⑧,⑨に競合する原告製品が,NEWING
(価格:■■■円)であると認定する一方で,価格帯が共通する
PRECEPTMCLADY及びPRECEPTLADDIE(平成15年),並びにPRECEPT
LADY及びPRECEPTLADDIE(平成16,17年)については,対象
から除外している。
原判決において,「価格帯が共通の製品は市場において競合する
製品に当たるものと解される。」と判示している以上,被告製品③,
④,⑧,⑨に対応する原告製品の「単位数量当たりの利益額」を認
定するに当たっては,これらNEWING,PRECEPTLADDIE及びPRECEPT
LADY(PRECEPTMCLADY)も対象に含まれるべきであり,これら3
製品の「単位あたり利益(-25%)」(荒川計算鑑定)の平均値
を,被告製品③,④,⑧,⑨に対応する原告製品の「単位数量当た
りの利益額」とすべきである。
(e)甲51の別紙の信用性はない
甲51(ブリヂストンスポーツ株式会社知的財産室長の平成20
年12月22日付け報告書)の別紙2,4の表は,どのような基礎
データ(店舗数,店舗種類等)に基づいて,累計販売金額及び累計
販売数量を算出したのかが明らかではない上,同じゴルフボールに
対して複数のデータが記載されており,しかも,これら複数のデー
タにおける「AveragePrice」が異なっている。
このように,甲51別紙2,4のデータは信頼性がないことが明
白であるから,かかる甲51別紙2,4の記載に基づいて展開され
る一審原告の主張は理由がない。
b荒川計算鑑定の数値の信用性は低い
原判決は,荒川計算鑑定の「単位数量当たりの利益」の基準額に基
づいて損害賠償額を算定している。
しかし,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■このように,単位数量当たりの利益額は,
同鑑定書の別表1の「-25%」の欄に記載の金額の限度しか立証さ
れていないから,「-25%」の欄記載の金額を基準に算出すべきで
ある。
c本件特許の寄与率を考慮すべきである
(a)本件特許の重要性は低い
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■
また,(一審被告が出願したゴルフボールに関する)特許明細書
において,PCTPが好ましい例として記載されているからといっ
て,ゴルフボールの飛び性能に関して,従来例の硫黄化合物と比較
してPCTPが特に優れた効果を有することは何ら記載されてい
ないのであるから,「PCTPが飛び性能に関して優れている」と
の一審原告の主張は失当である。
しかも,例えば,PRECEPTLADYには,米国におけるパテントマー
キングから少なくとも,対応する日本の特許権が6件使用され(乙
90),PRECEPTMCLADYには,少なくとも7件の一審原告の特許
権が実施されていた(乙92)ように,原告製品には,本件特許以
外にも多数の一審原告の特許権が使用されている。
(b)寄与率
原判決は,単位数量当たりの利益額の算定に当たって,寄与率は
考慮すべきではないと判示するが,本件のような,■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,本件特許権に
よりもたらされたものでないことが明らかであり,本件特許権の寄
与率を考慮しない限り,適切な「単位数量当たりの利益」を算定で
きないことは明白である。
なお,一審原告自らが,製品カタログ(乙116,117)にお
いて,ゴルフボールの「コアテクノロジー」「カバーテクノロジー」
「ディンプルテクノロジー」の各特徴を並列的に記載しており,
「ゴルフボールの芯球は,正に最終製品の最重要の核」という一審
原告の主張は失当である。また,本件訂正発明の作用効果である飛
び性能が「ボール初速度」を意味することは,本件明細書から明ら
かであるところ,上記製品カタログにおいて,飛びのメカニズムと
して,ボール初速のほかに,スピン,打ち出し角,ディンプルが並
列的に記載されているとおり,飛び性能(初速度)が「最も重要な
性能」とする一審原告の主張は誤りである。
また,侵害に係る特許発明以外の技術が製品に寄与しており,こ
れらの技術の寄与が無視できない場合には,「単位数量当たりの利
益」を算定するに当たり,当該特許発明が寄与している割合を考慮
するのが,損害論の実質的な妥当性を図るという観点から合理性が
あり,この点は,特許法102条1項においても妥当するものであ
る。
そして,同項の適用に当たり,寄与度を考慮して減額した裁判例
は多数存在する(知財高裁平成17年9月29日判決,東京地裁平
成14年3月19日判決,大阪地裁平成12年9月26日判決,東
京高裁平成11年6月15日判決)。
(ウ)一審原告の実施能力
原判決は,「荒川計算鑑定の結果によれば,原告は,前記アの被告各
製品の販売数量の全部について原告各製品を製造販売する能力(供給能
力)を有していたものと認められる。」(87頁14行~16行)と判
示するが,失当である。
荒川計算鑑定は,単に,設備ライン数を確認しただけであり(同鑑定
書8頁),実施能力の存在することを鑑定したものではない。
(エ)本件においてそもそも損害は発生していない
aマーケットシェア
一審被告は,本件訂正発明の対象であるPCTPを添加したゴルフ
ボールの販売を2006年(平成18年)2月で打ち切っており,2
007年(平成19年)は本件訂正発明と全く関係のないゴルフボー
ルが販売されていたものである。
2003年(平成15年)~2007年(平成19年)の比較にお
いて,一審原告が侵害を主張していないゴルフボールのみが販売され
ていた2007年(平成19年)において,一審被告が最高のシェア
を示し,一審原告が最低のシェアを示している。このように,本件訂
正発明の使用の有無は,一審原告,一審被告のシェアに全く影響を与
えておらず,一審原告には逸失利益が生じる余地がない。
また,一審原告及び一審被告を除いたシェア(他社のシェア)は,
被擬侵害品のゴルフボールが販売された前後の期間を含め,ほとんど
変わっていないのであり,一審原告及び一審被告のシェアの推移と,
競合会社の販売状況とが無関係であることは明らかである。
そして,特許法102条1項は,被告の侵害行為があった場合とな
かった場合の原告の財産状態の差を問題として,これを計算する規定
であり,一審原告の財産状態の差を算出するためには,侵害製品や特
許実施品以外の製品も含めたゴルフボール全体のシェアを考慮する
ことが合理的である。
bPCTPの有無によってゴルフボールの性能は変わらない
実験結果(乙68)が示すとおり,米国において販売されていたP
roV1(PCTPを含んでいるゴルフボール,黒の弾道)と日本の
ProV1(PCTPを含んでいないゴルフボール,赤の弾道)の弾
道経路は重なっており,同一の飛行性能を示している。
このように,本件訂正発明の対象であるPCTPの使用の有無にか
かわらず,一審被告のゴルフボールの飛行性能は同一であり,これに
より,一審原告,一審被告のゴルフボールの販売,利益の多寡に全く
影響を与えていないことは明白である。
c本件において,一審原告に損害は発生していない
以上のとおり,本件訂正発明の使用の有無により,一審原告の逸失
利益に全く影響を与えていないのであるから,特許法102条1項の
適用の前提を欠くと考えるべきであり,このような場合に,特許法1
02条1項の適用を認めると,原判決のような過大な逸失利益が算定
されてしまい,かかる不合理は明らかである。
なお,特許権が登録要件として新規性,進歩性等を課していること
と,逸失利益が生じるかどうかは無関係である。本件のように,特許
権の実施品が販売されたとしても,ユーザーには全く告知されず,製
品の性能にも何らの影響も与えない場合には,仮に特許権侵害があっ
たとしても,逸失利益の存在を全く観念できない。
(オ)「侵害の行為がなければ販売することができた物」は侵害に係る特許
発明の実施品であることを要する
原判決は,特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売す
ることができた物」とは,その文理上,特許発明の実施品に限定される
ものではなく,市場において侵害品(侵害行為を組成した物)と代替可
能性のある権利者(特許権者又は専用実施権者)の製品,すなわち,市
場において侵害品と競合する権利者の製品であれば足りると判示する。
しかし,複数の裁判例(東京地裁平成14年3月19日判決等)や学
説(乙76)において,特許法102条1項にいう「侵害の行為がなけ
れば販売することができた物」とは,侵害された特許権に係る特許発明
の実施品であることを要すると解されている。
以上からすれば,本件に特許法102条1項の適用があるといえるた
めには,原告各製品が本件特許を実施したものでなければならないはず
であるところ,本件では,原告各製品が本件特許の実施品であると直ち
に認めることはできないから,特許法102条1項の適用は否定されな
ければならない。
(カ)特許法102条1項ただし書に関し
a特許法102条1項ただし書に関して前提とすべきマーケット
原判決の認定するマーケットシェアは,本件訴訟の対象である原告
各製品ではなく,一審原告の全製品に係るものであり,特許法102
条1項ただし書において考慮すべきマーケットシェアではない。
特許法102条1項は,侵害者が侵害行為を組成した物を譲渡した
場合に,その数量を特許権者が「侵害の行為がなければ販売すること
ができた」とみなして,損害額を算定することを認めた規定であるか
ら,当該数量の全部又は一部を特許権者が販売することができないと
する事情として特許権者の製品のマーケットシェアを考慮するに当
たっては,「侵害の行為がなければ販売することができた物」のマー
ケットシェアのみを考慮すべきである。
以上を基に原判決の妥当性を検討すると,まず,原判決が「侵害の
行為がなければ販売することができた物」と認定した5種類の原告各
製品のシェアは非常に小さく,最もシェアが高いNEWINGでも6~7
%程度にすぎず,上記5種類の原告各製品のシェアの合計値は,平成
15年から平成18年にかけて,平均で11%にも満たないから,一
審原告が原告各製品を販売することができないとする事情が存した
のは被告各製品の譲渡数量のうち60%に相当する数量にとどまる
とした原判決の判断は誤りであり,一審原告が「侵害の行為がなけれ
ば販売することができた物」の数量は,被告各製品の譲渡数量の約1
1%を上回るものではない。
b本件訂正発明の有無は需要者の動機付けとなり得ない
そもそも,原判決が認定するように,一般のユーザーがゴルフボー
ルの性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成
分等については特段の関心を抱いていないならば,正に本件特許権が
ユーザーの購買の動機付けに全く寄与していないことは明白であり,
「販売することができないとする事情」として考慮するのは当然であ
る。
一審原告,一審被告のシェアの推移からも明らかなとおり,本件特
許は,ユーザーの購買の動機付けに全く寄与していない。
なお,原判決は「被告作成の製品カタログ(甲43)では,・・・
本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向上をセールスポイ
ントとして挙げており,このセールスポイントがユーザーが上記各製
品を購買する動機付けの一つとなっているといえる」(89頁下5行
~90頁3行)と判示するが,特許法102条1項ただし書の適用に
おいて無意味な認定判断である。
前述のとおり,米国において販売されていたProV1(PCTPを含
むゴルフボール,黒の弾道)と日本のProV1(PCTPを含まないゴ
ルフボール,赤の弾道)の飛行性能に全く相違はなく,被告各製品の
カタログの記載は,本件訂正発明の対象であるPCTPの使用とは全
く関係がない。
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d本件訂正発明の範囲は極めて限定的である
本件特許は,「・・・チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそ
れらの金属塩から選ばれる有機硫黄化合物とを含有するゴム組成物
で形成したことを特徴とするソリッドゴルフボール。」という設定登
録時の特許請求の範囲が,2度にわたる訂正を経て,「・・・ペンタ
クロロチオフェノール又はその金属塩とを含有するゴム組成物で形
成したことを特徴とするソリッドゴルフボール。」という極めて狭い
範囲に減縮されたことにより特許性が維持されている。
同事実は,「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」という
特定の添加剤以外の「チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれ
らの金属塩から選ばれる有機硫黄化合物」という公知技術を用いるこ
とによって,本件訂正発明の「飛び性能のさらなる向上」という効果
を達成できることを意味し,これにより,本件特許が飛行性能の向上
に果たす役割が微小であることが示されている。
e本件訂正発明には公知例に比して同等以下の効果しか存しない
一審被告が行った,本件訂正発明の対象であるPCTPと公知の添
加剤との比較実験(乙47)によれば,PCTPの添加により達成さ
れる「飛び性能の更なる向上」という効果は,公知例(DPTT等の
公知の添加剤を加えて製造したゴルフボール)が示す効果と同等又は
それ以下にすぎないことが判明している。
したがって,本件訂正発明がゴルフボールの飛行性能という点にお
いて顕著な効果を有しているということはできない。
f設計変更は極めて容易である
一審被告は,平成18年1月に一審原告による仮処分申立書の送達
を受けてから,直ちにPCTPを使用したゴルフボールの製造を中止
し,わずか2か月でこれを全く使用しないゴルフボールの販売を開始
している。これは,本件訂正発明の対象であるPCTPを使用したゴ
ルフボールの設計変更が極めて容易であったこと,しかも本件訂正発
明と同等又はそれ以上の飛行性能の効果を奏し,かつ,容易に実施で
きる代替技術が存在していたことを意味する。
加えて,一審原告自身も,原告各製品において本件特許を全くある
いはほとんど実施しておらず,以上からすれば,本件特許は,代替技
術が存し,設計変更が極めて容易な技術に関するものにすぎず,PC
TPの使用は当該ゴルフボールに要求される飛行性能を達成するに
あたって重要な役割を果たしていなかったものである。
g原判決のその他の誤り
(a)一審原告は,一審被告の譲渡数量のうち40%に相当する数量の
ボールを販売することはできなかった
原告各製品のうち,少なくともTourstageUX及びPreceptシリ
ーズについては,一審被告の譲渡数量のうち40%に相当する数量
を販売することができなかったのは明らかであり,原判決の逸失利
益の算定は明らかに誤っている。
例えば,原判決は,一審原告が平成15年上期に約■■■■■ダ
ースに相当するTourstageUXを販売することができたと認定した
ことになるが,荒川計算鑑定書の別表B2-1によれば,平成15
年上期のTourstageUXの販売数量は■■■■■ダースにすぎない。
すなわち,原判決は,一審被告によるゴルフボールの販売がなけれ
ば一審原告のTourstageUXの販売量が約■■■倍になっていたと
認定していることになる。同様に,原判決は,一審被告によるゴル
フボールの販売がなければ,平成15年下期にTourstageUXの販
売量が約■■■倍に,平成17年上期にPreceptシリーズの販売量
が約■■■倍に,平成17年下期にPreceptシリーズの販売量が約
■■■倍に,それぞれなっていたと認定したことになるが,このよ
うな販売数量の増加は,被告各製品の販売だけで合理的に説明でき
るものではなく,被告各製品の譲渡数量のうち40%もの高率で販
売できたというのはあり得ない数字であり,原判決の逸失利益の算
定は明らかに誤っている。
(b)被告製品カタログの認定の誤り
甲43は,2006年(平成18年)の被告製品のカタログであ
るから,原判決が,「被告作成の平成16年の製品カタログ(甲4
3)には・・」と認定したのが事実誤認であることは明らかである。
以上からすれば,甲43上の記載は,2006年(平成18年)
時点における旧モデルである2005年(平成17年)モデルの
「PROV1」「PROV1x」「NXTTOUR」「NXT」「DTSoLo」(原判決
別紙物件目録①~⑤)との比較において,飛距離が伸びていること
を示すものであり,2005年(平成17年)モデルの上記ゴルフ
ボールは,本件訂正発明を使用しているものとされている。
したがって,甲43の「飛距離をさらにアップ」等の記載は,本
件訂正発明の効果ではあり得ず,原判決は,本件訂正発明の効果と
は全く無関係な効果を本件訂正発明の効果と誤解して審理判断し
たものであり,失当である。
(c)市場占有率には大きな変動がある
平成15年以降の一審原告及び一審被告の市場占有率について
は,被擬侵害品の販売を行っていた平成15年ないし平成17年と
比べると,被擬侵害品の販売をほとんど行っていない平成18年,
全く行っていない平成19年及び平成20年において,一審原告の
シェアが大きく減少し,一審被告のシェアが大きく増加しており,
「平成15年から平成19年までの間の原告及び被告の上記市場
占有率には大きな変動が見られない」とする原判決の認定は誤りで
ある。
(d)一審被告のブランド力が考慮されていない
原判決は,ユーザがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの
性能(飛距離性能,スピン性能等)を重視する傾向にあると認定す
るが,被告各製品は,高性能・高品質であることはもちろん,世界
のトッププロ選手による使用率,及びツアーでの勝率がNo.1で
あることを強調することで,世界No.1と評される高いブランド
力を有するに至っている(乙77)。原判決においては,このよう
な被告各製品の高いブランド力を考慮することなく「販売すること
ができないとする事情」が認定されており,誤りである。
なお,知財高裁平成18年9月25日判決においても,「販売す
ることができないとする事情」を認定するに当たり,「競合品・代
替品の存在(マーケットシェア)」と「ブランド及び販売力」とが
別個の考慮要素として認定されている。
イ特許法102条3項に関し
(ア)実施料率を定める際に考慮すべき事項
原判決は,「被告が主張する本件訂正発明の内容,他の構成の代替可
能性,本件訂正発明の寄与度,一審被告の高いブランド力,営業努力に
ついては,本件訂正発明の実施料率を低く評価すべき事情に当たるもの
と認めることはできない」(97頁5行~8行)と判示するが,東京地
裁平成19年12月14日判決や東京地裁平成11年11月4日判決
の判示内容からすれば,上記各事情につき,いずれも実施料率減額の要
素として考慮すべきである。
(イ)本件での適正な実施料率
原判決は,甲55(発明協会「実施料率」)の記載及び弁論の全趣旨
を総合すれば,本件訂正発明の実施料率は,売上高の5%と認めるのが
相当であると判示するが,ゴルフボールは,「最先端の科学技術がぎっ
しり詰まった特許の塊」(乙76)であり,実際,一審原告が侵害を主
張している平成15年~平成18年2月までに,一審原告が保有してい
た特許権だけで233件も存在している。このように多数な特許権で構
成されるゴルフボールは,一般のゴム製品とは全く異なるものであり,
発明協会の「実施料率」に単純に依拠するだけでは失当である。
なお,甲55に「イニシャル無しの実施料率が8%以上のケースはす
べて履物(サンダル,スリッパ,スポーツシューズ等)の商標であった。」
(217頁)と記載されるとおり,実施料率が高いケースは本件とは全
く無関係である。原判決は,このような本件とは無関係の商標案件をも
考慮して実施料率を認定したものであり,誤りである。
また,原判決は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■と判示する。しかし,■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■,原判決の認定は失当である。
また,本件のように,許諾例がある場合には,発明協会の「実施料率」
というゴム製品全体の業界相場に依拠すべきではなく,許諾例を前提に
実施料率を算出すべきである。
(ウ)特許法102条1項ただし書と同条3項は重畳適用されない
a最低限度の保障
一審原告は,特許法102条3項は,最低限度の損害額を保証した
ものであり,同条1項ただし書で控除された分に関しては,当然に同
条3項が適用されると主張する。
しかし,最低限度の損害額の保証とは,実施料相当額よりも「多く
の損害があったことを立証してその賠償を受けることを妨げるもの
ではない」ことを意味するにすぎず,同条1項の逸失利益に加えて実
施料相当額の賠償を認めるものではなく,一審原告の主張は失当であ
る。
b算定方法の相違
一審原告は,前提を異にする算定方式であるからといって,特許法
102条1項ただし書で控除された譲渡数量分に関して同条3項の
実施料相当額の損害賠償請求を否定する根拠とはならないとする。
しかし,同条1項は,被告の侵害行為があった場合となかった場合
の原告の財産状態の差を問題とし,これを計算する以上,これに加え
て同条3項の損賠賠償が認められる余地はない。
c別個の損害を請求するものではない
一審原告は,特許法102条3項の損害賠償を認めても,これは同
条1項で算定される損害とは別個のものであり,逸失利益以上の損害
の填補を受けることを認めるものではないと主張する。
しかし,前述のとおり,同条1項は,被告の侵害行為があった場合
となかった場合の原告の財産状態の差を問題とし,これを計算する以
上,これに加えて同条3項の損賠賠償を認めると,原判決が認めると
おり,逸失利益以上の損害の填補を認めることになり失当である。
ウ弁護士費用に関し
原判決は,本件事案の性質・内容,本件審理の経過等諸般の事情に鑑み
れば,一審被告の本件特許権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額
は5000万円であると認定するが,このような過大な弁護士費用が認定
される根拠は存在しない。本件訴訟が長期に及んだのは,本件提訴後,一
審原告が2度にわたり訂正請求を行い,ようやく特許性が維持できたこと
によるもので,一審被告の行為に基づく相当因果関係の範囲内の損害とは
到底いえない。
2当審における被控訴人(一審原告)の主張
(1)被告各製品は第2次訂正後の本件特許発明の技術的範囲に属する
アそもそも,本件特許の明細書には,PCTP等を添加することによりゴ
ルフボールの飛び性能が向上することが記載されているだけで,どのよう
なメカニズムで飛び性能が向上しているのかを明確に分析することが困
難であるので,メカニズムについては記載されていない。飛び性能向上と
いう作用効果のうち,乙3(引用例)と同一のメカニズムによる作用効果,
すなわち,「α,β-エチレン系不飽和カルボン酸の共架橋に際して生じ
るグラフト鎖の長さを調節する事により,適度の硬さと耐久性を付与しな
がら,同時に反発性能を著しく向上させる」ものだけは除外する,などと
いう意図のもとに出願人(一審原告)が上記補正を行ったはずはなく,審
査官もそのような理解をするはずがない。
イ一審被告は,原判決が甲19(ファインケミカル事典),甲30(便覧
ゴム・プラスチック配合薬品)の知見を前提に意見書の主張内容を検討し
ており,第三者の信頼保護の観点からの検討を一切行っていない旨主張す
る。
しかし,原判決は,本件意見書(乙6)の記載内容を,これに接する第
三者の視点から客観的に検討して,正しく認定した上で,甲19,甲30
に言及している。甲19,甲30の知見は,その当時の技術水準を示すも
のであり,これを考慮することは第三者の信頼保護にも資するものである
から,甲19,甲30の知見を踏まえて本件意見書(乙6)の内容を検討
することに問題はない。
ウ一審被告は,原判決は①構成要件Dに乙3のDPTTと並んで代表的な
加硫促進剤とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛が含まれているこ
と,②PCTPに関しても加硫促進剤として添加される場合があること
(乙41,乙42)を完全に看過して判断しており,失当である旨主張す
る。
(ア)しかし,まず上記①については,ジチオカルボン酸(塩)とジチオカ
ルバミン酸(塩)はCSSH基を共通に含むものの,CSSH基にアミ
ノ基(R2N)が隣接するチオカルバミン酸(塩)類は,チオカルボン
酸(塩)類とは異なる化合物群として当業者に認識されており(甲41),
ジチオカルバミン酸(塩)に属するジメチルジチオカルバミン酸亜鉛は,
チオカルボン酸の金属塩という概念に包含されるものではない。
実際,国際特許分類等において,チオカルボン酸(塩)類とチオカル
バミン酸(塩)類は対等(並列)の関係で分類されており(甲38参照),
同事実は,チオカルボン酸(塩)類とチオカルバミン酸(塩)類が別分
類に属し,当業者が「チオカルボン酸類」にチオカルバミン酸やその塩
を包含するとは理解しないことを示している(甲38~甲40)。
また,有機化学の基本的文献(甲41参考資料1)によれば,カルボ
ン酸は,カルボキシル基(COOH)に水素又はアルキル基,あるいは
アリール基が結合しているもの(907頁),カルバミン酸H2NCO
OHのCOOH部分は,直接アミノ基H2Nに結合し,水素,アルキル
基,又はアリール基とは結合していないもの(986頁)として説明さ
れており,一般的なカルボン酸の具体的化合物の一覧(甲41参考資料
1・910頁「表19.1」)にもカルバミン酸は含まれていない。
このほか,独立行政法人製品評価技術基盤機構(Nite)のホーム
ページ(甲39)では,チオカルボン酸とチオカルバミン酸とは別に分
類されており,「化合物の辞典」(甲40)でも,チオカルボン酸とチ
オカルバミン酸は別分類のものとして併記され,チオカルボン酸はカル
ボン酸R-COOHのOをSで置換した化合物の総称(558頁),
チオカルバミン酸はカルバミン酸H2N-COOHのO原子をS原子で
置換した化合物(559頁)と定義されている。
以上からすれば,当業者は,カルボン酸とカルバミン酸とは,構造の
みならず特性も異なった別個のカテゴリーに属する化合物であると理
解することは明らかであって,上記のような事実を無視して,化学大辞
典における一部の記載のみを取り上げて,形式的にカルバミン酸がカル
ボン酸に分類されると主張しても無意味である。
以上のとおり,訂正前の本件発明の構成要件Dの「チオフェノール類,
チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選ばれる有機硫黄化合物」を
みた当業者は,ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛など加硫促進剤を含む
とは理解せず,一審被告の上記①の指摘は前提において誤っている。
(イ)また,上記②については,乙41も乙42も,特定の特殊な加硫剤
(O-TCEMAやHTCEMA)によるブタジエン・ニトリルゴムの加硫において
PCTPが加硫を促進したことを記載しているだけであり,ペプタイザ
ーとして周知なPCTPが一般的に加硫促進剤として使用され,あるい
は加硫促進剤と同等の機能を有することを記載しているわけではない。
(ウ)したがって,一審被告の前記①②の指摘は,訂正前の本件発明の「チ
オフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩」,ひいてはチ
オフェノール類に属する「ペンタクロロチオフェノール又はその金属
塩」(本件訂正発明の構成要件D)が,加硫に関与せず,加硫促進効果
がないように添加された場合に限定されるものではないという原判決
の認定に影響を及ぼすものではない。
(2)損害論(争点③)
ア特許法102条1項本文の要件に関し
(ア)一審被告は,原判決が無償譲渡も特許法102条1項の「譲渡」に該
当すると判断したことにつき,特許法102条1項は逸失利益算定のた
めの規定であり,そもそも原告に逸失利益を生じない態様での譲渡は同
条の適用範囲外であると主張する。
しかし,無償譲渡が「原告に逸失利益を生じない態様での譲渡」であ
るというのは一審被告独自の見解であり,理由がない。有償であろうが
無償であろうが,侵害品が市場に出回れば,特許権者の製品の販売機会
喪失につながることに変わりはなく,一審原告の逸失利益は生じるので
あるから,同条の適用が認められるのは当然のことである。
また,一審被告は,一審被告によるゴルフボールの無償譲渡は,一般
ユーザーにゴルフボールが出回るというものではなく,原告製品の販売
機会喪失につながるものではないことは明白であると主張するが,鑑定
人Aの鑑定書5頁の表の右から2つ目の列(「無償譲渡内訳」のうちの
左側の列)のタイトルからも,上記主張が誤りであることは明らかであ
る。
また,一審被告は,大阪地裁平成17年2月10日判決を引用した上
で,無償譲渡は特許法102条1項ただし書に該当し,逸失利益の算定
対象に含めるべきではないとも主張する。
しかし,一審被告が引用する上記大阪地裁判決でも,無償譲渡数量分
全てを特許法102条1項ただし書によって控除しているのではなく,
その50%を控除しているにすぎない。
しかも,一審被告が引用する大阪地裁判決の事案は,97%が無償譲
渡という特殊な事案である(被告物件は病理組織検査標本作成用トレイ
であり,被告が製造販売するカセットにしか適合しない)。そして,同
判決は,「消耗品の必需品のように,無償で製品を譲渡するものがなか
ったとしても,これとほぼ同数が有償で購入されるであろうと考えられ
る製品もないわけではない。しかし,被告物件及び原告製品は,いずれ
も金属製であり,また繰り返し使用されるいわば耐久財であるから,こ
のような製品に該当するものでもない。」とし,原告と被告以外にも競
合他社(代替製品)が存在することも考慮して,被告の無償譲渡数量の
うちの50%を特許法102条1項ただし書により控除している。
一方,本件のゴルフボールは,病理組織検査標本作成用トレイと違っ
て消耗品であり,極めて多大の購買需要が存在し,無償譲渡割合も極め
て少ない。また,トレイとカセットの適合性といった問題もない。
したがって,本件では,大阪地裁判決の事案と違って,無償譲渡を考
慮して特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする
事情」を認定すべき理由は認められない。
(イ)単位数量当たりの利益額
a被告各製品と原告各製品との競合関係
(a)TOURSTAGEX-01と一審被告製品①,②,⑥,⑦
一審被告は,甲50に添付された週刊ゴルフダイジェスト(20
04年10月12日号)には,被告製品①の価格が6300円(1
個あたり525円),TOURSTAGEX-01の価格7560円(1個あた
り630円)と記載されているから,オープン価格と小売価格の相
違をもって単純な価格の比較はできないとする原判決は誤りであ
ると主張する。
しかし,上記雑誌には,被告製品①については「価格/オープン」
「(実勢価格6300円)」と記載されているのに対し,TOURSTAGE
X-01については「価格/7560円」とのみ記載されていることか
らも明らかなとおり,被告製品①の6300円は実勢価格を,
TOURSTAGEX-01の7560円はいわゆる定価を示すものである。し
たがって,これらの価格につき単純な比較はできないから,一審被
告の上記主張は,原判決に対する批判になっていない。
実勢価格の平均単価は,矢野経済研究所作成の市場調査結果デー
タ(甲51別紙2)から知ることができるが,これによれば,20
05年において,被告製品①は■■■円,TOURSTAGEX-01は■■■
円であり(2005年12月期の両ゴルフボールの「AveragePrice」
(右端の列)参照),被告製品①とTOURSTAGEX-01の価格差はほ
とんどない。
なお,甲51別紙2,4は,乙69の元データであり(甲51・
2頁イ参照),甲51各別紙や乙69などの矢野経済研究所の作成
するデータは,バランスのとれた種類の店舗から,十分な店舗数を
抽出して算出されており,同データの信頼性については業界関係者
にとって争いのないところである。
また,原告製品のデータが複数記載され,これらの「average
price」が異なるのは,年の途中に新商品が発売され,それによっ
て旧商品が値下げされたため,販売実態をよりよく示すために,値
下げ(新商品発売)の前後でデータを区別して統計がとられている
ためにすぎない。
一審被告は,被告製品⑥とTOURSTAGEX-01を掲載した雑誌(週
刊ゴルフダイジェスト2004年10月12日号,甲50)には,
多数のゴルフボールの中に被告製品⑥とTOURSTAGEX-01が含まれ
ているにすぎず,両製品の性能が類似する旨の記載はないから,
「性能が類似する製品として対比して紹介」されているとする原判
決の認定は誤りであると主張する。
しかし,甲50添付の週刊ゴルフダイジェスト2004年10月
12日号では,上記両製品はいずれもスピン系ボールとして紹介さ
れており,性能等が類似する競合製品として認識されていることが
明らかであり,多数のゴルフボールが紹介されているからといっ
て,かかる認識に影響を与えるものではない。
さらに,一審被告は,別の雑誌の記事(乙111[Golfdigest
2004年4月号])を根拠にして,あるボールがスピン系,ディ
スタンス系のいずれに分類されるかについては,客観的な基準が存
在せず,信用性に乏しい旨主張する。
しかし,ある雑誌でスピン系・ディスタンス系という分類で違っ
て紹介されれば,それだけで競合関係が否定されるものではない。
試打の回数,試打したのが機械か人か,プロかアマチュアか等によ
って,初速度,飛距離,スピン等の測定値は変わりうるものであり,
雑誌によっては,スピン系やディスタンス系という分類に違いが生
じることはありうるが,一審被告のPROV1シリーズと一審原告の
TOURSTAGEX-01シリーズ(前モデルのTOURSTAGEUXシリーズを含
む。)は,いずれもプロ選手の使用にも適した性能(飛距離も出る
しスピン性もよい)を持つ,両社における最高級品質のゴルフボー
ルであり,価格帯が近いことも考慮すれば,上記各ボールが競合品
とみられていることはゴルフ業界では常識である。
このことは,一審被告自身が「この他社ボールをお使いなら,ま
ずはワントライ!」として,一審被告のPROV1シリーズの競合品
として一審原告のTOURSTAGEUXシリーズを挙げている(乙112)
ことからも明らかである(乙112の2003年時点では,
TOURSTAGEX-01シリーズはまだ発売されておらず,前モデルである
TOURSTAGEUXシリーズが競合品に挙げられているが,それ以降であ
れば,TOURSTAGEUXシリーズの後継品たるTOURSTAGEX-01シリー
ズが競合品と認識されている。なお,両シリーズが共に飛距離も出
るしスピン性もよく,プロ選手の使用に適する同じコンセプトの製
品であり,TOURSTAGEX-01シリーズがTOURSTAGEUXシリーズの後
継品であることは,甲65~67から理解できる。)。
このほか,一審被告は,原判決が証拠として引用した雑誌(甲5
0添付の週刊ゴルフダイジェスト2004年10月12日号)の記
事には,被告製品①及び⑥(いずれも「PROV1」)とTOURSTAGEX-01
との性能の対比については記載があるが,被告製品②及び⑦(いず
れも「PROV1x」)とTOURSTAGEX-01との性能の対比については何
ら記載がないから,「TOURSTAGEX-01が被告製品②,⑦と競合する
との原判決の認定は,何ら証拠に基づかないものであって,誤りで
ある」と主張する。
しかし,「PROV1」と「PROV1x」は,一審被告が乙112を引
用して指摘しているような性能の違い(「PROV1x」は「PROV1」
よりスピン性能を低下させて飛距離をアップさせていること)はあ
っても,いわゆるPROV1シリーズに属する製品であるから,その
性能は基本的に同等であり,競合関係の否定につながるような性能
の差異はない。これは,一審被告自身が,乙112において「この
他社ボールをお使いなら,まずはワントライ!」として,「PROV1」
と「PROV1x」の競合品をそれぞれ挙げているが,いずれの競合品
も全く同じであることからも理解できる。
(b)PRECEPTLADY及びPRECEPTLADDIEと一審被告製品⑤,⑩
一審被告は,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIE及び被告製品⑤,⑩
の価格差が100円以内であっても,単価が200円程度のいわゆ
る低価格帯のゴルフボールにおける100円の価格差は非常に大
きく,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIEの価格は被告製品⑤の約1.
5倍となり,市場において競合する商品とはいえない旨主張する。
しかし,実勢価格の平均単価が分かる矢野経済研究所作成の市場
調査結果データ(甲51別紙2)によれば,PRECEPTLADY,PRECEPT
LADDIE及び被告製品⑤,⑩に大きな価格差がない(PRECEPTLADY,
PRECEPTLADDIEが約■■■円,被告製品⑤が■■■円,被告製品⑩
が約■■■円)上,たとえ100円近い価格差がある時期もあると
しても,原告各製品の中では,PRECEPTシリーズが,コンセプト,
価格面で最も被告製品⑤,⑩(DTSoLoシリーズ)に近いことに変
わりはないから,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIEを被告製品⑤,⑩
の競合製品と考えることに十分合理性はある。
また,一審被告は,一審原告のPRECEPTシリーズは女性のユーザ
ー層を対象とするが,被告製品⑤,⑩はそうではない(乙105,
107)ため,両者が競合することなどあり得ない旨主張する。
しかし,一審原告のPRECEPTシリーズは,男女を問わず全米中の
ゴルファーの好評を博し,「飛びのスタンダード」となっているも
のであり(甲68),女性のユーザーのみを対象とするものではな
い。一審被告の引用する上記証拠(ゴルフ白書)によっても,PRECEPT
シリーズは,男女を問わないユーザー層(ユニセックス)が対象と
なっている。そして,PRECEPTシリーズは,全米の男性ゴルファー
を絶妙な「やわらかさ」と驚異的な「飛距離」で魅了し「ソフト&
ロング」という新しいゴルフボールの世界を創り出したものである
が(甲68),被告製品⑤,⑩(TitleistDTSoLo)の「SoLo」は
「Soft&Long」の意味であり,一審原告のPRECEPTシリーズに対抗
する製品なのである。
(c)TOURSTAGEUXと被告製品⑪
一審被告は,原判決は,被告製品⑤,⑩(■■■円,■■■円)
とPRECEPTLADY(■■■円)及びPREEPTLADDIE(■■■円)につ
き,価格差が100円以内であるのに別の価格帯に属すると認定し
つつ,被告製品⑪とTOURSTAGEUXにつき,価格差が約130円で
あるのに同じ価格帯と認定しており,恣意的であると主張する。
しかし,原判決は,競合関係を肯定する理由付けの1つとして,
「価格差が100円以内である」事実を指摘してはいるが,価格差
が100円以上であれば競合しないなどと述べているわけではな
く,130円の価格差のTOURSTAGEUXと被告製品⑪に競合関係を
認めたとしても,恣意的であるという非難は当たらない。
なお,被告製品⑪の■■■円という単価は,2003年(平成1
5年)に新年度の製品(被告製品⑥,⑦)が発売されたことによる
安売りの影響でかなり低くなったものであり,2002年(平成1
4年)の被告製品⑪の価格が約■■■円であること(甲50の別紙
4)からも明らかなとおり,TOURSTAGEUXと価格差130円という
のは,一時的でイレギュラーなものである。
(d)そもそも,一審被告は,原審において,一審原告が主張した損害
論(被告製品①~⑪のそれぞれと最も競合関係にあると考えられる
原告各製品を選択し,被告各製品の譲渡数量にこれら原告各製品の
単位数量当たりの利益額をかけて損害額とするとの計算方法)に対
して十分に反論の機会もありながら,被告製品①~⑪のそれぞれと
最も競合関係にあると考えられる原告各製品が訴状別表2記載の
とおりであることについては特に争わず,一審原告が主張立証した
これら競合対応製品たる原告各製品の「単位数量あたりの利益額」
についてのみ,その数値の正確性を明らかにするために計算鑑定を
申請したのである。それにもかかわらず,控訴審の最終段階になっ
て,被告各製品と対応関係にあると考えられる原告各製品を争うの
は,時機に後れたものとして許されない。
b荒川計算鑑定の数値につき
一審被告は,荒川計算鑑定の結果により立証された単位数量当たり
の利益額は,別表1の「-25%」の欄に示される金額であって「基
準額」ではなく,原判決は立証に疑いの残る「基準額」に基づいて損
害賠償を算定しており失当である旨主張する。
しかし,荒川計算鑑定の結果は,「基準額」記載のとおりであり,
±25%は一般抽象的な誤差の可能性を指摘したものにすぎないか
ら,特にマイナスに誤差が生じるべき特段の事情がない限り,「基準
額」が合理的に算定された利益額というべきである。そして,本件に
おいては,そのような特段の事情が認められないため,原判決の認定
は正当である。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
c寄与率につき
一審被告は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■が本件特許によりもたらされたものでない
ことは明らかであり,本件特許の寄与率を考慮すべき旨主張するが,
単位数量当たりの利益額は製品の種類ごとに異なって当然である。
また,一審被告は,原告製品のゴルフボールは,特許権の件数とい
う観点からの寄与率も,本件特許権が100%でないのは明らかであ
り,寄与率を全く考慮しない原判決は失当であると主張する。
しかし,一審被告は,原告各製品のうちの特定の製品について,単
に実施されている特許権の件数を指摘するのみで(乙90),原判決
も認定するとおり,「原告各製品について本件特許と本件特許以外の
一審原告の特許がどのように実施されているのかについて具体的に
主張立証するものではない」から,そもそも主張自体失当である。
また,単位数量当たり利益額の算定に当たって寄与率を考慮すべき
という考え方は少数説にすぎない上,寄与率を肯定する見解も,例え
ば自動車のように様々な分野の多数の特許発明が実施されているよ
うな場合に,製品の一部分のみが侵害部分であるときには,製品全体
の価格を基礎として算定した単位当たりの利益額に基づき損害額を
算定することが常識的にみて不都合と思われるような事態を想定し
たものであって,本件のように,ゴルフボールの飛び性能を向上させ
るというゴルフボールそのものに関する物の特許が実施されている
場合には,適用の前提を欠いているというべきである。
本件のゴルフボールの芯球は,正に最終製品の最重要の核であり,
カバーと一体化して最終製品となっているものであって,「芯球はゴ
ルフボールの一部分である」という考え方は妥当性を欠き,製品全体
の価格を基礎として「単位数量当たりの利益額」を算定することが常
識的にみて不都合というような関係にもない。
このほか,本件特許の構成要件の一つとされる物質(PCTP及び
その金属塩)のコスト割合と本件訂正発明の価値は全く無関係である
から,製造コストに占める「PCTP及びその金属塩」の価額割合に
減額すべき合理的理由は全く存在しない。
(ウ)一審原告の実施能力
一審被告は,「荒川計算鑑定は,単に,設備ライン数を確認しただけ
であり(同鑑定書8頁),実施能力の存在することを鑑定したものでは
ない」と主張するが,設備ライン数により供給能力を推察することには
合理性があり,一審被告の上記主張は失当である。
(エ)損害不発生の主張に対し
aマーケットシェア
一審被告は,本件訂正発明の使用の有無は,一審原告,一審被告の
シェアに全く影響を与えておらず,一審原告に逸失利益が生じる余地
はないと主張するが,一審被告が示すシェア割合は,侵害製品(被告
製品①~⑪)以外の製品も含めた割合であり,かつ,その推移は,競
合会社のゴルフボール製品の販売状況など各種事情にも左右される
(しかも,平成19年は,一審被告が侵害製品に匹敵すると称するゴ
ルフボールを投入して1年以上経過した段階である。)。一審原告の
平成15年~平成18年までのシェア割合については,侵害製品が存
在しなければ,もっと高かったであろうことが推認されるにすぎな
い。
そして,一審被告が侵害製品の販売を中止するまで,4年以上にわ
たり侵害製品を販売し続け,市場における一定の地位を築いた後,仮
処分申立てを受け本件特許を侵害しないように成分変更はしたもの
の,そのことを対外的に明示はせず,従来どおりのブランド名で新年
度モデル(2006年モデル)として販売を継続している以上,たと
え本件特許を実施しない製品に切り替えたとしても,販売量やシェア
が維持されることは何ら不自然ではなく,販売量やシェアが減少しな
いからといって,本件特許侵害による逸失利益が発生しないことの根
拠となるものではない。
bPCTPの有無によってゴルフボールの性能に変わりがないこと
につき
一審被告は,本件訂正発明の対象であるPCTPの使用の有無にか
かわらず,一審被告のゴルフボールの飛行性能は同一であり(乙6
8),これにより,一審原告,一審被告のゴルフボールの販売,利益
の多寡に全く影響を与えていないことは明白であると主張する。
しかし,乙68の実験結果についての検証を行うまでもなく,仮に,
平成18年以降のゴルフボールとそれ以前のゴルフボールに飛び性
能としての差異がないとしても,それは,一審被告が本件訂正発明に
おけるゴルフボールに代替しうる性能のゴルフボールを開発しただ
けであって,一審被告が本件特許を実施していた平成18年以前,一
審原告に逸失利益が生じていた事実に何ら影響を与えるものではな
い。
なお,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■,PCTPの有無で飛び性能に差がないのであれば,一審原
告の警告後,速やかに成分変更(PCTPの除外)をして然るべきで
あるが,実際に成分変更がなされたのは,■■■■■■■■,一審原
告が本訴及び仮処分を提起してからであり,一審被告の平成18年3
月以降のゴルフボールとそれ以前のゴルフボールの違いが,PCTP
の有無のみであるとは考えられない。
一審被告自らが,本件出願後に,数ある硫黄化合物中,PCTPを
好ましいものとして選択してゴルフボールの芯球に含有させるゴル
フボールに関する26もの特許出願をしている事実は,PCTPが飛
び性能に関し優れていることを如実に示している。
c逸失利益不発生に対し
一審被告は,本件のように,逸失利益が発生しないことが明らかな場
合は,因果関係の立証の負担の軽減規定を適用する以前の問題であり,
原判決は失当であると主張するが,一審原告と一審被告で市場も需要者
も競合することが明らかな本件において,逸失利益が発生することは明
らかであり,上記主張は独自の主張にすぎない。
そもそも,最高裁平成9年3月11日判決は,旧商標法38条2項(現
商標法38条3項)に関し,同項は,損害の発生まで擬制したものでは
なく,損害不発生の抗弁もありうるとしているが,これは使用されてい
ないために顧客吸引力を化体していなくても登録が認められる商標権
に関する裁判例であり,技術水準を凌駕していることが登録要件とさ
れ,実施されていようがいまいが守られるべき価値を有する特許権に関
してまで射程が及ぶものではなく,特許権侵害につき損害不発生という
ことはあり得ない。
(オ)特許法102条1項ただし書に関し
aマーケットシェア
一審被告は,原判決の認定するマーケットシェアは,本件訴訟の対
象である原告各製品ではなく,一審原告の全製品であり,特許法10
2条1項ただし書において考慮すべきマーケットシェアではないと
原判決を批判するが,上記主張は失当である。
仮に,一審被告の主張の趣旨が,訴状別表2に記載された特定の原
告製品ごとのシェアを求めるべき旨ならば,その分母は,原告各製品
に最も対応すると考えられるブランドの製品を全ゴルフボールメー
カー(一審被告を除く)について1つずつ選択し,これらの各社1種
類ずつ選択されたブランドの出荷量を合計したものとするのが最も
論理的である。なぜなら,侵害品である特定の被告製品の販売がなか
った場合に,代替して販売できたと合理的に考えるべき製品は,価格
帯や性能において当該侵害品に対応する競合品であって,一審原告や
競合各社の全製品ではないからである。
ところが,一審被告は,特定の原告製品の,一審被告を除く市場全
体におけるマーケットシェアを求めて(当然,原告製品全体の一審被
告を除く市場全体のマーケットシェアよりもはるかに小さなシェア
となる),一審被告の侵害行為がなければ,このように極めて低い比
率でしか販売できなかったはずであると主張するようであるが,かか
る主張は,価格帯や性能に差異があり侵害品と競合関係が希薄な他社
メーカーの製品まで,価格帯や性能が類似し競合関係が強い他社メー
カーの製品と同等の代替可能性があることを前提とするもので,明ら
かに不合理である。一審被告のように,特許法102条1項ただし書
の「販売することができないとする事情」の一要素たる競合製品の存
在(そのシェア)を求めるために「一審被告を除く市場全体」を分母
に持ってくるのであれば,分子は「特定の原告製品」ではなく「原告
製品全体」である。
上記のとおり,一審被告の侵害品が市場に存在しなかったと仮定し
た場合に,原告各製品をどの程度代替して販売し得たかを検討するに
当たっては,特定の原告各製品に最も対応すると考えられる競合他社
の製品を抽出して,かかる競合製品市場でのシェアを参考にすべきで
あるが,現実には,かかるシェアの算定は困難であり,各社のゴルフ
ボールの価格帯別シェア又は各社のゴルフボール全体でみたシェア
で代用することには合理性がある(甲53参照)。そして,原判決は,
一審原告,一審被告,他社メーカーの全製品を含むマーケットシェア
を参考にしているが,かかるシェアは,ゴルフメーカー各社の特許等
の知的財産権,営業努力やブランド力等が総合的に反映された結果で
あるから,これを参考にすることには合理性がある。
bユーザーがPCTPの有無に関心がないことにつき
一審被告は,一般のユーザーがゴルフボールの性能を発揮する原因
となる具体的な成分等につき特段の関心を抱いていないならば,本件
特許権がユーザーの購買の動機付けに全く寄与していないことは明
白であり,「販売することができないとする事情」として考慮すべき
旨主張する。
しかし,ゴルフボールを構成する具体的な成分は直接購買の動機付
けとなっていないとしても,飛び性能の向上という本件訂正発明の効
果であるゴルフボールの性能が,ユーザーの購買の動機付けとなって
いるのであるから,本件特許権がユーザーの購買の動機付けに寄与し
ていることは明らかであり,一審被告の上記主張は理由がない。
c一審被告のその他の主張に対し
(a)一審被告は,原判決の認定する「平成15年から平成19年まで
の間の一審原告及び一審被告の上記市場占有率には大きな変動が
みられない」というのは明らかな誤りであると主張する。
しかし,一審原告,一審被告ともに5年間で5%程度の市場占有
率の変動しかみられないのであるから,「市場占有率に大きな変動
がみられない」と評価することが明らかな誤りとはいえない。
(b)また,一審被告は,原告各製品のうち2種類につき,これと競合
する被告製品の譲渡数量の40%に相当する数量を加算すると,荒
川計算鑑定書に記載された上記各製品の販売数量(当該原告製品の
当該期間における実販売数)の数倍となり,あり得ない数字である
と主張する。
しかし,一審被告は,ただあり得ない数字であると主張するのみ
で,その根拠は全く示されていない上,仮に数倍の増加になるとし
ても,一審原告の製造能力の範囲内である。
(c)一審被告は,原判決では,被告各製品の高いブランド力を考慮す
ることなく「販売することができないとする事情」が認定されてい
ると主張する。
しかし,原判決は,「販売することができないとする事情」の判
断にあたり,「市場占有率にはメーカー各社の営業努力及びブラン
ド力が反映されているものと推認される」という事情も考慮の上,
「60%に相当する数量については,一審被告の営業努力,ブラン
ド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,一審被告によ
る本件特許権の侵害がなくとも,一審原告が原告各製品を『販売す
ることができないとする事情』があったものと認めるのが相当であ
る」と認定しており,被告各製品のブランド力を考慮していること
は明らかである。
(d)一審被告は,一審被告作成の製品カタログ(甲43)では,被告
各製品について,本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向
上をセールスポイントとして挙げており,これが,ユーザーが被告
各製品を購買する動機付けの一つになっているとの原判決の認定
に対し,特許法102条1項ただし書の適用においては全く無意味
な認定,判断であると主張する。
しかし,一審被告が引用する椅子式マッサージ機事件では,特許
法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」
の一つとして,「需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の他
の特徴(デザイン,機能等)」が挙げられている。
そして,原判決の上記認定は,被告各製品には「需要者の購買の
動機付けとなるような侵害品の他の特徴(デザイン,機能等)」が
特にないことを認定するもので,これは特許法102条1項ただし
書の適用において当然考慮すべき事項についての認定である。
これに対し,一審被告は,一審被告による宣伝が,需要者の購買
の動機付けとなっていることは明らかであると主張するが,一審被
告による宣伝は,侵害品の他の特徴(デザイン,機能等)とは明ら
かに異なる購買動機付けであるから,一審被告の上記主張は,一審
原告の主張に対する反論になっていない。
(e)なお,一審被告は,原判決は「販売することができないとする事
情」を認定するに当たり,一審被告の製品カタログ(甲43)にお
ける飛距離性能の向上に関する記載を考慮しているが,甲43(平
成18年のカタログ)を平成16年のカタログと認定しており,明
らかな事実誤認に基づく判決であると主張する。
しかし,原判決が,「販売することができないとする事情」を認
定するに当たり,一審被告の製品カタログ(甲43)における飛距
離性能の向上に関する記載を考慮したのは,ユーザーは,PCTP
の有無といった,ゴルフボールの性能を発揮する原因となる具体的
な成分等ではなく,飛距離性能といったゴルフボールの性能を重視
することの一事情としてであるから,カタログの年度にかかわら
ず,上記事情として考慮しうることに変わりはない。
なお,平成15年の一審被告のカタログ(乙112)をみれば,
この時点でも,一審被告が,飛距離性能の向上をセールスポイント
として挙げていることが分かる。
イ特許法102条3項に関し
(ア)一審被告は,原判決の「本件訂正発明の内容,他の構成の代替可能性,
本件訂正発明の寄与度,一審被告の高いブランド力,営業努力について
は,本件訂正発明の実施料率を低く評価すべき事情に当たるものと認め
ることはできない」との判断につき,従前の裁判例と全く相反した判断
であり,これに関して全く理由も付されておらず,失当であると主張す
る。
しかし,「従前の裁判例と全く相反した判断」であることの根拠は全
く示されておらず,一審被告は,上記各事情が実施料率を低く評価すべ
き事情となる理由を示していない。原判決の認定は適正なものであっ
て,一審被告の主張は理由がない。
(イ)また,一審被告は,本件訂正発明は,公知例と同等以下の効果しか奏
せず,設計変更が極めて容易であり,進歩性が認められるとしてもわず
かである旨,市場では代替可能な製品が販売されている旨,ゴルフボー
ルは多数の特許が集積された製品であり,一審原告の特許のみをみても
233件もある旨,本件特許は製品のごく一部に関するものであり,購
買の動機付けとなるものではないという事情があり,実施料率を減額す
る要素として考慮すべきである旨,それぞれ主張する。
しかし,「公知例と同等以下の効果しか奏せず,設計変更が極めて容
易であり,進歩性が認められるとしてもわずかである」との主張は理由
がない上,特許の数に関しては,被告各製品に対応する原告各製品につ
いて本件特許と本件特許以外の一審原告の特許がどのように実施され
ているのかについての主張立証がない以上,無意味な主張である。
(ウ)一審被告は,一審原告が保有しているゴルフボールに関する特許権数
等を根拠に,多数の特許権で構成されるゴルフボールは,一般のゴム製
品とは全く異なるものであり,発明協会の「実施料率」に単純に依拠す
るだけでは失当であるなどと主張するが,原告各製品について本件特許
と本件特許以外の一審原告の特許がどのように実施されているのかに
ついての主張立証がない以上,無意味な主張である。
(エ)また,■■■■■■■■■■■■を根拠とする一審被告の主張に理由
がないことは,原判決も正しく認定するとおりである。
ウ特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用につき
(ア)一審原告が,特許法102条1項ただし書の「販売することができな
いとする事情」に該当するとして控除された数量部分について,同条3
項に基づく実施料相当額の損害賠償を請求したのに対し,原判決は,こ
れを退けたが,原判決の上記判断は誤りである。
(イ)裁判例の動向
特許法102条1項が新設された平成10年法改正(平成11年1月
1日施行)以降,「特許権者が販売できないとする事情」があるとして
同条1項ただし書が適用され,控除された譲渡数量分について,同条3
項に基づく実施料相当額の損害賠償請求をなし得るかについて,従来の
裁判例は総じてこれを肯定していた。
しかし,その後,知財高裁平成18年9月25日判決(平成17年(ネ)
第10047号,椅子式エアーマッサージ機事件)が,裁判例としては
初めて,特許法102条1項ただし書で控除された譲渡数量分につい
て,同条3項に基づく実施料相当額の損害賠償請求を否定し,本件の原
判決が否定説として3例目の裁判例である。
もっとも,裁判例は,上記の知財高裁判決(否定説)が出た後も,一
貫して否定説が続いているというわけではない。
(ウ)特許法102条1項は,特許権侵害による損害の立証の困難性を考慮
し,民法709条の特則として,特許権者の「販売数量の減少による逸
失利益」の算定ルールを規定したものと解されている。
他方,特許法102条3項は,特許権の侵害があった場合に,権利者
に,特許発明の実施により受けるべき金銭の額に相当する額である実施
料相当額については,最低限度の損害額として,権利者の実施の有無や
権利者製品と侵害品との間の競合関係の有無にかかわらず,賠償請求を
認める規定であると解されている。
このように,特許法102条3項は,侵害者が侵害品を販売すれば,
権利者が侵害品に見合う権利者製品を販売できたか否かにかかわらず,
その全数量について,実施料相当額の損害賠償を保証したものであるか
ら,同条1項ただし書の事情が認められて1項本文の算定の基礎数量か
ら控除された数量分についても,侵害者は現実に当該侵害品を譲渡して
おり,その譲渡に当たっては権利者の許諾を得ていなかった以上,権利
者は,その数量分について,同条1項による「販売数量の減少による逸
失利益」とは別に,「得べかりし利益としての実施料相当額」として,
同条3項に基づく実施料相当額の請求ができると解すべきである。
特許法102条1項ただし書は,「譲渡数量の全部又は一部に相当す
る数量を・・・販売することができないとする事情があるときは,当該
事情に相当する数量に応じた額を控除する」という規定であるから,侵
害者の譲渡数量の全部について権利者が販売することができない(侵害
品の販売と権利者の販売数量減少との相当因果関係が全く認められな
い)として,同条1項による「販売数量の減少による逸失利益」はゼロ
となる事態も想定されているのであるが,その場合に,同条1項ただし
書で「販売することができないとする事情」ありとして控除された10
0%について,同条3項による損害賠償請求を認めないとすると,権利
者は全く損害賠償を得ることができず,最低限度の損害額を保証した同
条3項の趣旨にも反することになるのである。
なお,最高裁平成9年3月11日判決は,旧商標法38条2項(現商
標法38条3項)に関し,同項は損害の発生まで擬制したものではなく,
損害不発生の抗弁もありうるとするが,これは使用されていないために
顧客吸引力を化体していなくても登録が認められる商標権に関する裁
判例であり,技術水準を凌駕していることが登録要件とされ,実施され
ていようがいまいが守られるべき価値を有する特許権に関してまで射
程が及ぶものではなく,特許権侵害につき損害不発生ということはあり
得ない。
(エ)原判決は,「特許法102条1項は,特許権侵害に当たる実施行為が
なかったことを前提に原告の逸失利益を算定するのに対し,同条3項
は,特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするもので
あるから,両者は前提を異にする損害算定方式である」旨指摘する(9
4頁下9行~下6行)。
しかし,前提を異にする損害算定方式であるからといって,特許法1
02条1項ただし書で控除された数量部分について同条3項に基づく
実施料相当額の損害賠償請求を否定する根拠にはならない。
これは,原判決自身が,例えば「販売することができないとする事情」
に相当する数量部分が権利者の実施能力を超える部分であって,102
条1項の損害額算定の対象とされていない場合などについて,その部分
につき同条3項による請求を認めていることからも明らかである。
すなわち,特許法102条1項本文の「特許権者の実施の能力」は,
特許権者側で立証が容易な事柄であるため,ただし書ではなく本文に置
かれ,主張立証責任が権利者側にあるとされているが,同項ただし書の
「販売することができないとする事情」の一つであることに変わりはな
い。特許法102条1項と3項が,「前提を異にする損害算定方式であ
る」ことを理由に,同条1項と3項の重畳適用を否定するのであれば,
「権利者の実施能力を超える部分」についても3項の適用を否定するの
が論理的帰結である。
(オ)また,原判決は,「特許権者によって販売することができないとされ
た分についてまで実施料相当額を請求し得ると解すると,特許権者が侵
害行為に対する損害賠償として請求し得る逸失利益以上の損害の填補
を受けることを認めることになる」と指摘する。
しかし,一言で「逸失利益」といっても,「販売数量の減少による逸
失利益」もあれば,「値下げを余儀なくされたことによる逸失利益」,
「得べかりし利益としての実施料相当額」(侵害者が適法にライセンス
を受けて実施したならば特許権者が得られたはずの実施料相当額)など
様々である。
特許法102条1項ただし書の控除数量分は,権利者が販売できなか
ったと認められた数量分であり,「販売数量の減少による逸失利益」は
認められないとされただけであり,この部分について,権利者が何らの
損害も被っていないことまでも認定されたものではないから,同条1項
ただし書の控除後の数量分に基づいて同条1項本文により算出された
金額が権利者の全逸失利益であるということはできない。
このように,特許法102条1項ただし書の控除数量分について同条
3項の実施料相当額の損害賠償を認めても,それは,販売数量の減少に
よる逸失利益とは異なる観点からの損害を,重複のない範囲で正当に算
定するものであって,「特許権者が侵害行為に対する損害賠償として請
求し得る逸失利益以上の損害の填補を受けることを認める」ものではな
い。
(カ)上記のとおり,特許法102条1項ただし書の事情が認められて同項
本文の算定の基礎数量から控除された数量分について,特許権者は,同
条3項に基づく実施料相当額の請求ができると解すべきであるが,これ
は,被告製品の売上高に,0.6(原判決において「販売することがで
きないとする事情」があったものと認定された割合)を乗じ,さらに0.
05(原判決で認定された実施料率)を乗じて求められる。
これを前提に実施料相当損害額を算定すると合計1億9688万5
905円となり,これにその他の損害額を合わせた合計損害額は19億
8308万9933円となる(別表11,12参照)。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,被告各製品は本件特許を侵害しているが,その認容すべき金額
は,原判決と異なり,元本で9億2152万4064円と判断する。その理由
は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決記載のとおりである。
1被告各製品は第2次訂正後の本件特許発明の技術的範囲に属するかについて
(争点①)
(1)原判決45頁22行目から58頁13行目を引用する。
(2)本件意見書(乙6)には,以下の記載がある。
「しかしながら,この引用例は,分子量調整剤としてはたらくジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイドを,硬さ及び耐久性を維持しながら反発性能
を向上させるための必須構成成分として配合することを明らかにしている
だけで,本願発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属
塩を使用すること,及びこれら化合物を使用することによって得られる作用
効果に関しては開示も示唆もしておらず,本願発明の構成及びその作用効果
を想到することは困難である。もともと,引用例のジペンタメチレンチウラ
ムテトラスルフイドは,加硫促進剤として作用するもので,それ自身ゴムの
加硫に関与する。ところが,本願に係るチオフェノール類,チオカルボン酸
類及びそれらの金属塩はこのような加硫に関与するものではなく,加硫促進
効果はないもので,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドとはその作
用も相違し,従って引用例のジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドか
ら本願のチオフェノール類,チオカルボン酸類を想到することは困難であ
り,本願発明の効果は予測し難い。」(2頁下10行~3頁3行,下線は本
判決で付記)
(3)一審被告は,包袋禁反言の法理は第三者の信頼保護の観点から適用の有無
を検討すべきところ,原判決は特許出願過程で挙げられていない専門的な文
献である甲19(「ファインケミカル事典」昭和60年6月30日第1版第
2刷発行)及び甲30(「便覧ゴム・プラスチック配合薬品」〔改訂版〕
昭和56年4月20日増補改訂版第3刷発行)の知見を前提に本件意見書の
記載内容を検討しており,第三者の信頼保護の観点からの検討を一切行って
いない旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本件意見書の下線部分の記載は,ジペンタメ
チレンチウラムテトラスルフイド(DPTT)が,一般的には「加硫促進剤」
として知られている成分であること,本件発明(訂正前のもの)で使用され
るチオフェノール類(PCTPを含む。)等が「このような加硫に関与する」
一般的に知られた「加硫促進剤」ではないことを説明するものにすぎず,上
記記載によって,本件発明で使用されるチオフェノール類(PCTPを含
む。)等を「加硫に関与しないもの」に限定したと解することはできない。
そして,原判決は,そのような一般的な知見(ジペンタメチレンチウラム
テトラスルフイドが,加硫促進剤として知られていたこと)を示すために前
記甲19,甲30を引用したにすぎないと認められるところ,甲19及び甲
30のこのような用い方は,何ら第三者の信頼を害するものではない。
(4)一審被告は,仮に原判決が判示するように,構成要件Dにつき何ら限定が
ないとすると,加硫促進剤とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛,加硫
促進剤として添加されるPCTPも構成要件Dに含まれることになり,「本
願に係るチオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩は・・・
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドとはその作用も相違」との本件
意見書の記載自体が意味をなさなくなり失当である旨主張する。
ア確かに,甲21(西敏夫ほか編著「JIS使い方シリーズ新版ゴム
材料選択のポイント」1993年9月25日新版第3刷発行)及び甲3
6(社団法人日本ゴム協会編集委員会編著「ゴム技術入門」平成17年6
月20日第4刷発行)には,それぞれ,ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛
が加硫促進剤の例として記載されている。
しかし,ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛は,本件特許出願当初の特許
請求の範囲の「有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物」ない
し本件補正後の「チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属
塩から選ばれる有機硫黄化合物」という用語に形式的に含まれるにすぎ
ず,明細書中に具体的に記載された有機硫黄化合物(PCTP,4-t-
ブチル-o-チオフェノール,4-t-ブチルチオフェノール,2-ベン
ズアミドチオフェノール,チオ安息香酸)は,いずれもペプタイザー(素
練り促進剤)として知られた化合物であって(甲19,甲30,乙20参
照),加硫促進剤として知られた物質ではない。
また,化学大辞典(乙50)によれば「カルボン酸とは,カルボキシル
基-COOHを有する化合物をいい,カルバミン酸はH2NCOOHとの
構造を有し,炭酸のモノアミドに相当し,『チオ』とは,有機化合物中の
基-S-の名称や,有機化合物の中の酸素原子が硫黄原子に入れかわった
化合物を命名するのに使う接頭辞」であることが認められるが,他方で,
証拠(甲38,甲40)によれば,国際特許分類において,チオカルボン
酸とチオカルバミン酸は,並列の関係で分類されており,また,「化合物
の辞典」(甲40)においても,チオカルボン酸とチオカルバミン酸は別
分類のものとして記載されていることが認められ,以上からすれば,確か
に,形式的にはカルバミン酸はカルボキシル基を含むものの,当業者は「カ
ルボン酸」と「カルバミン酸」とを分けて認識しているものと認められる。
しかも,事後的にではあるが,2度の訂正を経て,構成要件Dは「ペン
タクロロチオフェノール又はその金属塩」に変更されているものである。
以上からすれば,加硫促進剤とされるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛
が構成要件Dに含まれていたとみるべきではなく,この点に関する一審被
告の主張は失当である。
イ一審被告は,本件意見書における「加硫に関与するものではなく」とは
構成要件Dの作用に関して述べたもので,「加硫促進効果はない」とは構
成要件Dの効果に関して述べたものであり,このように両者は異なる事柄
に関して述べたものであって,これを一体としてとらえる原判決は誤りで
ある旨主張する。
しかし,前記(2)の記載からすれば,本件意見書における「このような
加硫」との記載は,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドのような
「加硫促進剤として」の加硫作用を指していることは明らかであるから,
この部分の記載が構成要件Dの作用に関して「加硫に関与するものではな
く」と限定するものではない。
また,確かに乙41(I.M.Sotskaya,A.A.ChekanovaN.D.Zakharove
及びL.A.Sibeykina著,ソビエト連邦共和国Yaroslavi,Polytechnic
Instituteゴム化学学部「N,1-hydroxy-2,2,2-trichloroethyl
methacrylamideによるBブタジエン・ニトリルゴムの加硫の促進」と題す
る文献)及び乙42(G.P.Frolova,M.A.Polyak,A.A.Chekanova及び
N.D.Zakharove著,ソビエト連邦共和国Yaroxlabiv,Polytechnic
Instituteゴム化学学部「ブタジエンニトリルのゴムSKN-26Mに基づく混
合物の加硫の促進化」と題する文献)には,PCTPが加硫促進剤として
添加される場合があることが記載されているが,これら2つの文献は,同
じ機関に所属する一部重複する著者らによるものである上,メタアクリル
アミドHTCEMAとの特定の加硫剤を用いた系に関するものであって,これ
らの文献以外に,PCTPが加硫促進剤として知られていたことを認める
に足りる証拠はない。
以上からすれば,これらの文献に記載された事項によって,直ちに,P
CTPが加硫促進剤として用いられることが当業者に一般的に知られた
事項であると認めることはできない。
ウこのように,本件意見書の下線部分の記載は,構成要件Dにつき,PC
TPを「加硫に関与しないもの」に限定するものではない。
(5)以上のとおり,一審被告の主張はいずれも理由がなく,被告各製品は,本
件訂正発明の構成要件AないしEを全て充足するから,本件訂正発明の技術
的範囲に属するものと認められる。
したがって,一審被告による被告各製品の輸入,販売は,本件特許権の侵
害に当たる。
2損害額等について(争点③)
(1)特許法102条1項の適用に関し
同項は,「特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権
又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠
償を請求する場合において,その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡し
たときは,その譲渡した物の数量(以下この項において『譲渡数量』という。)
に,特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,特許権者又は専用
実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において,特許権者又は専
用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし,譲渡数量の全部
又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することがで
きないとする事情があるときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除
するものとする。」(下線は下記説示に関連する部分)と規定するところ,
同項本文は,民法709条等に基づき損害賠償を請求する場合の損害額の算
定方法について定めた特別規定であり,侵害者の譲渡した製品の数量に特許
権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当
たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定す
ることとした規定である。これに対し,同項ただし書は,侵害者が同項本文
による推定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額するこ
とができることを規定したものである。
上記法文に沿った本件における争点に対する判断は,次のとおりである。
ア被告各製品の譲渡数量(無償譲渡につき)
(ア)原判決80頁下6行目から82頁8行目まで,及び原判決の別表8を
引用する。
(イ)一審被告は,無償譲渡分については,損害額算定の基準となる被告各
製品の譲渡数量に含むべきでない旨主張する。
しかし,特許法102条1項本文所定の「譲渡」とは,有償の販売と
無償の配布(例えば試供品の配布)を含む概念であり,実質的にみても,
有償でも無償でも侵害品が市場に出回ればこれによって特許権者の製
品の販売機会が喪失することに変わりはなく,逸失利益は生じるという
べきであるから,一審被告の上記主張は採用することができない。
イ単位数量当たりの利益額
(ア)原告各製品と被告各製品との競合関係につき
aまず,権利者製品が当該特許の実施品であることを要するかについ
ては,現行特許法102条1項本文は,いったん侵害者の譲渡数量に
権利者の製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を損害額とする
が,ただし書の適切な適用により侵害者に過大な負担を負わせないこ
とを目指したものであること,特許法102条1項本文の文言上も,
権利者製品が当該特許の実施品であることは必要とされていないこ
とからすれば,権利者製品は,侵害行為がなければ権利者が販売する
ことができた代替可能な競合品であれば足り,権利者特許の実施品で
ある必要はないというべきである。
b具体的競合関係の有無
(a)甲51のデータの信用性
一審被告は,甲51(一審原告担当者作成の報告書(2))の別紙
2,4の表は,その基礎データが明らかでない上,同じゴルフボー
ルに対して複数のデータが記載され,しかもこれらの複数のデータ
における「AveragePrice」が異なっているなど,そこに記載され
たデータは信用できない旨主張する。
しかし,甲51の別紙2及び別紙4は,乙69の1ないし5(株
式会社矢野経済研究所作成の分析レポート)の元となる市場調査結
果データであるものと認められ,同研究所では,国内の百貨店,専
門店及び量販店計81店舗に対して国内の各ゴルフボールメーカ
ーのゴルフボールの販売数量,販売金額等に関する市場調査を行っ
ているもので,信用できると認められるから,一審被告の上記主張
は採用することができない。
なお,甲51の別紙2,4において,同じゴルフボールについて
複数のデータが記載されている点につき,一審原告は,年の途中に
新商品が発売され,それによって旧商品が値下げされた点を反映す
るものであると説明しており,同説明は合理的であって,一審被告
の批判は当たらない。
(b)TOURSTAGEX-01と被告製品①,②,⑥,⑦
一審被告は,甲50添付の雑誌において,被告製品①(PROV1
2005)とTOURSTAGEX-01の価格がいずれも記載されているから,
比較可能であり,これを「オープン価格と小売価格で単純な比較は
できない」とした原判決は誤りであり,両製品は競合しない旨主張
する。
この点,甲51の別紙2(前記(a)のとおり信頼できるものであ
る。)によれば,2005年(平成17年)において,被告製品①
の平均価格は■■■円,TOURSTAGEX-01の平均価格は■■■円であ
り,両者の価格差がわずか16円であったことが認められる。
また,株式会社矢野経済研究所作成の2004年版ゴルフ産業白
書(乙105)及び同2006年版(乙107)によれば,一審原
告のTOURSTAGEシリーズは,ユニセックスを対象とし,初級,中級,
上級すべてをメインターゲットとし,レジャー及び競技のいずれを
も志向し,中価格帯及び高価格帯の値段であり,他方で,一審被告
のPROV1シリーズは,ユニセックスを対象とし,中級及び上級を
メインターゲットとし(初級についてはサブターゲット),レジャ
ー及び競技のいずれをも志向し,中価格帯の値段であると認められ
る。
以上からすれば,原判決が,PROV1シリーズに属する被告製品①
とTOURSTAGEX-01とを競合製品であると認定したことに誤りはな
い。
また,一審被告は,甲50添付の雑誌では,多数のゴルフボール
の中に被告製品⑥(PROV12003)とTOURSTAGEX-01が含まれてい
るにすぎず,両者の性能が類似する旨の記載はない旨主張する。
しかし,上記のゴルフ産業白書の記載に加え,甲50添付の週刊
ゴルフダイジェスト2004年10月12日号では,被告製品⑥
(PROV12003)とTOURSTAGEX-01につき,いずれもスピン系ボー
ルとして紹介されており,両者が類似する競合製品であることは明
らかである。
このほか,一審被告は,被告製品⑥とTOURSTAGEX-01につき,
スピン系,ディスタンス系のいずれに分類されるかにつき,客観的
な基準はなく,現に,別の雑誌(乙111)では,両者が別の類型
のボールとして紹介されており,両者の性能は類似しない旨主張す
る。
しかし,ある雑誌において,両者が性能の類似する製品として扱
われている以上,仮に他の雑誌において別の類型のボールとして紹
介されていても,両者が市場において競合する可能性を否定でき
ず,これらを競合製品とした原判決の認定に誤りはない。
なお,証拠(甲67,乙112)によれば,両製品は,飛距離も
出る上,スピン性も犠牲にしないなど,優れた競合製品であると認
められる。
さらに,一審被告は,甲50添付の雑誌には,被告製品②(PRO
V1x2005),⑦(PROV1x2003)とTOURSTAGEX-01との性能の対
比につき何ら記載がない旨主張する。
しかし,被告製品②,⑦(PROV1x)と被告製品①,⑥(PROV1)
の名称からも明らかなとおり,両製品は明らかに同じ類型のゴルフ
ボールであって,一審被告の2003年(平成15年)のカタログ
(乙112)の記載内容からすると,PROV1xがPROV1の改良製品
である(スピン性能を低下させて飛距離をアップさせたもの)と認
められるものの,その他の点で大きな差異はなく,後者がTOURSTAGE
X-01と競合する製品であれば,前者もTOURSTAGEX-01と競合する
製品というべきであり,一審被告の上記主張は採用できない。
このほか,一審被告は,自らのPROV1シリーズと一審原告の
TOURSTAGEシリーズがいずれも最高級品質であることを示す証拠は
ないとか,一審被告自身のカタログ(乙112)に「この他社ボー
ルをお使いなら,まずはワントライ!」として,TOURSTAGEシリー
ズのゴルフボール(TOURSTAGEUX)とPROV1シリーズのボールが
並記されていることと,これらのゴルフボールが競合品であること
とは無関係である旨主張するが,既に検討したとおり,TOURSTAGE
X-01と被告製品①,②,⑥,⑦とが競合品であることは認められる
から,上記主張はいずれも採用することができない。
(c)PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIEと被告製品⑤,⑩
一審被告は,「PRECEPTLADY」及び「PRECEPTLADDIE」の価格は
被告製品⑤の約1.5倍になり,これらが市場において競合する商
品とはいえない旨主張する。
そこで検討するに,前記ゴルフ産業白書(乙105,107)に
よれば,一審原告のPRECEPTシリーズは,ユニセックス及びレディ
スをいずれも対象とし,中級レベルをメインターゲットとし(初級
と上級はサブターゲット),レジャー及び競技をいずれも志向し,
普及帯の価格をメインターゲットとする(中価格帯はサブターゲッ
ト)一方で,一審被告のDTシリーズは,ユニセックスを対象とし,
初級レベルをメインターゲットとし(中級レベルはサブターゲッ
ト),レジャーを志向し,普及帯価格である。
また,甲51別紙2からすれば,2005年(平成17年)にお
いて,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIEの平均価格が■■■円,■■
■円,被告製品⑤(DTSoLo2005)の平均価格が■■■円,被告製
品⑩(DTSoLo2003)の平均価格が■■■円であると認められる。
以上からすれば,一審原告のPRECEPTシリーズと,一審被告のDT
シリーズに属する被告製品⑤,⑩は,いわゆる低価格帯のゴルフボ
ールであって,その点において競合する製品というべきである。
なお,一審被告は,前記ゴルフ産業白書の記載に基づき,PRECEPT
シリーズは女性のユーザー層を対象とし,中級者をメインターゲッ
トとするのに対し,被告製品⑤,⑩は,女性のユーザー層を対象と
せず,初級者をメインターゲットとしているから,両者が競合する
ことはない旨主張する。
確かに,一審原告のPRECEPTシリーズがレディスをも対象として
いる点は,一審被告のDTシリーズとは異なる点であり,この点に
関する原判決の「被告製品⑤,⑩が女性のユーザー層を対象として
いる」旨の認定は誤りである。
しかし,複数の製品が市場において競合するか否かを判断するに
当たり,1つの点のみを基準とすべきではなく,総合的に判断すべ
きものであるが,その中でも,製品の価格は,競合品か否かを判断
するに当たり非常に大きな要素であるというべきところ,一審原告
のPRECEPTシリーズと一審被告のDTシリーズとは,低価格帯のゴ
ルフボールであるという点で共通しており,これらが競合する製品
であると認定することは合理的である。
(d)TOURSTAGEUXと被告製品⑪
一審被告は,原判決が,被告製品⑪(PROV1★2002)とTOURSTAGE
UXにつき,その価格差が約130円と大きいにもかかわらず,同じ
価格帯と認定しており,他の認定の仕方とは異なり恣意的である旨
主張する。
しかし,一審原告において,「TOURSTAGE」というシリーズに含
まれる一連の製品は,1つのコンセプトに基づく類似の製品である
ものと合理的に推測され,実際にも,証拠(甲65ないし甲67)
によれば,TOURSTAGEX-01とTOURSTAGEUXとが,いずれも飛距離
も出つつ,スピン性も犠牲にしない優れた製品であることが認めら
れるところ,TOURSTAGEシリーズとPROV1シリーズの特徴は前記(b)
のとおりであって,両シリーズに属する製品は互いに競合する製品
であると解されることからすれば,PROV1シリーズに属する被告製
品⑪とTOURSTAGEUXとが競合する製品であると認定することは合
理的である。
また,一審原告は,被告製品⑪の■■■円という単価は,平成1
5年に新年度の製品(被告製品⑥,⑦)が発売されたことによる安
売りの影響でかなり低くなったもので,TOURSTAGEUXと価格差13
0円というのは一時的なものである旨主張しているところ,この主
張には合理性があり,かつ,前記認定とも整合するものである。
(e)PRECEPTLADDIE,PRECEPTLADY及びPRECEPTMCLADYと被告製品
③,④,⑧,⑨
一審被告は,被告製品③(NXT2005),被告製品④(NXTTour2005),
被告製品⑧(NXT2003),被告製品⑨(NXTTour2003)につき,
NEWINGだけでなく,PRECEPTLADDIE,PRECEPTLADY,PRECEPTMC
LADYについても競合製品と認定すべき旨主張する。
しかし,前記ゴルフ産業白書によれば,一審被告のNXTシリーズ
はユニセックスを対象とし,中級レベルをメインターゲットとし
(初級と上級レベルはサブターゲット),競技をメインに志向し(レ
ジャーについてはサブターゲット),中価格帯の商品であるのに対
し,PRECEPTシリーズは普及帯の価格の商品(中価格帯はサブター
ゲット)であるとされており,また,一審原告のNEWINGシリーズ
は,ユニセックスを対象とし,初級及び中級レベルをメインターゲ
ット(上級はサブターゲット)とし,レジャーをメインに志向し(競
技志向についてはサブターゲット),中価格帯の商品とされている。
以上からすれば,原判決が,PRECEPTシリーズについては被告製
品③,④,⑧,⑨と競合するとせず,NEWINGシリーズが被告製品③,
④,⑧,⑨と競合すると判断したことには合理性があるといえ,一
審被告の主張は採用することができない。
(イ)荒川計算鑑定における数値
a原判決86頁下10行目から下7行目まで,及び原判決の別表9を
引用する。
b一審被告は,荒川計算鑑定では,「予定原価のプラスマイナス25
%の範囲内に真実の原価が存在する」と記載されているから,単位数
量当たりの利益額は,別表1の「-25%」の欄に記載された金額の
限度しか立証されておらず,その値を基準に,単位数量当たりの利益
額を算出すべき旨主張する。
しかし,荒川計算鑑定では,同鑑定書の別表1の「基準額」欄に記
載された数値が最も合理的な数値とされており,±25パーセントは
抽象的な誤差の可能性を指摘したものにすぎず,本件においてマイナ
スの誤差が生じるとすべき特段の事情は認められない。
したがって,荒川計算鑑定書の別表1の「基準額」に基づいて単位
数量当たりの利益額を算出した原判決に誤りはなく,一審被告の上記
主張を採用することはできない。
ウ一審原告の実施能力
特許法102条1項にいう「実施の能力」とは,侵害品の数量に対応す
る製品を権利者において供給することができる能力をいう。
一審被告は,本件において,荒川計算鑑定は,単に設備ライン数を確認
しただけであって,実施能力が存在することを鑑定したものではない旨主
張するが,設備ライン数により供給能力を推定することは合理的であり,
一審被告の上記主張は採用することができない。
エ逸失利益不発生の主張につき
(ア)一審被告は,平成18年2月には本件訂正発明の対象であるPCTP
を添加したゴルフボールの販売を打ち切っているところ,平成15年~
平成19年の比較において,平成19年に一審被告が最高のシェアを示
し,一審原告が最低のシェアを示していることからすれば,本件訂正発
明の使用の有無は,一審被告,一審原告のシェアに全く影響を与えてお
らず,一審原告には逸失利益を生じる余地がない旨主張する。
しかし,一審被告によれば,一審被告は平成18年2月まで本件訂正
発明の対象であるPCTPを使用したゴルフボールを販売していたも
のであり,同月以降も,従来どおりのブランド名で販売を継続している
ものと解されるところ,一審被告が同月以降はPCTPを使用していな
いことを宣伝したものとはみられない。したがって,消費者は,成分が
変更されたことを知らずに,同じ商品名の商品を買い続けているものと
認められる。
このほか,マーケットシェアの推移は,競合会社のゴルフボール製品
の販売状況等の各種事情にも左右される。
以上からすれば,単純にマーケットシェアの比較のみによって,一審
原告に損害(逸失利益)が発生していないと認めることはできず,一審
被告の上記主張は採用することができない。
(イ)次に,一審被告は,PCTP亜鉛塩を含有するPROV1シリーズのゴ
ルフボールと,PCTP亜鉛塩を含まない日本国用に作られたPROV1
シリーズのゴルフボールの性能に関する実験結果(乙68)からすれば,
本件訂正発明の対象であるPCTPの使用の有無にかかわらず,一審被
告のゴルフボールの飛行性能は同一であり,これによって,一審原告や
一審被告のゴルフボールの販売や利益の多寡に全く影響を与えていな
いことは明白である旨主張する。
しかし,乙68の実験では,単にPCTP亜鉛塩の含有の有無しか記
載されておらず,他の化学物質の配合等は不明であって,上記実験結果
のみにより,PCTPの有無にかかわらずゴルフボールの性能が同一で
あるとまでは認められない上,仮に性能が同一であるとしても,それに
よって,一審被告による本件訂正発明の利用により一審原告に全く損害
が発生しなかったとまではいえず(一審被告が,事後的に,本件訂正発
明を利用したゴルフボールに匹敵し得る性質を有するゴルフボールを
開発したものとも解し得る。),一審被告の上記主張は採用することが
できない。
オ本件における「販売することができないとする事情」
(ア)原判決88頁3行目から89頁12行目までを引用する(ただし,8
8頁下3行目の「平成16年」とあるのを「平成18年」と訂正する。)。
(イ)証拠(甲2,甲46,乙77ないし80,乙82,乙83,乙85,
乙90,92ないし98,116,117)及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
a一審被告の親会社であるアクシネット・カンパニーは,2005年
(平成17年)ころ,米国内のゴルフボール市場において,数量で約
49.6%,金額では約60%のシェアを有していた。他方,一審原
告は,同時期において,日本国内では4割ほどのシェアを有していた
が,米国内のシェアでは,数量で約5.6%,金額で約4.8%であ
った。
b一審被告のゴルフボール製品は,高品質で高性能である上,品質が
均一であるとして評価が高く,世界ではもちろん,日本のツアーにお
いても使用率が非常に高い。
また,平成15年ころ,ゴルフ関係の雑誌において,一審被告のゴ
ルフボールが,欧米でも広く使われており,勝率が高いこと等につき
大きく宣伝されていた。
cゴルフボールは,小さなゴム球であるが,最先端の科学技術がぎっ
しり詰まった特許の塊といわれている。
d本件特許に係る発明は,更に飛び性能の向上したソリッドゴルフボ
ールを提供することを目的とするもので,ゴルフボールの芯球部分に
つき,特定の化学物質を含有するゴム組成物で形成したことを特徴と
する。
e一審原告又は親会社である株式会社ブリヂストンが保有するゴル
フボール関連の特許のうち,平成15年1月から平成18年2月まで
の間に権利が存続していたものは,合計233件であった。
f2005年(平成17年)2月ころに米国で販売された一審原告の
製品「PRECEPTLADY」には,米国特許に対応する日本の特許(本件特
許を含む。)が少なくとも6件使用され,同じく「PRECEPTMCLADY」
には,7件の一審原告の米国特許が実施されていた。
g一審原告の製品カタログにおいては,ゴルフボールの技術として
「コアテクノロジー」,「カバーテクノロジー」,「ディンプルテク
ノロジー」が並列的に記載されている。
また,同カタログにおいては,「飛びのメカニズム」として,ボー
ル初速のほか,スピン,打ち出し角,ディンプルが並列して記載され
ている。
h一審被告のゴルフボール製品において,ペンタクロロチオフェノー
ルの亜鉛塩(ZnPCTP)にかかる費用は,製品全体の費用の1.
0%ないし4.1%程度である。
(ウ)ゴルフボールの芯球部分において特定の化学物質を利用することを特
徴とする本件特許は,必ずしも製品(ゴルフボール)全体の利益に直結
するとはいえないため,特許法102条1項ただし書の適用において,
本件特許の寄与率を考慮することとする。
そして,前記(ア),(イ)のとおり,我が国のゴルフボール市場において
は,平成15年ないし平成19年において,一審原告が1位,一審被告
が3位のシェアを有しており,一審被告を除いた市場を仮定すると,一
審原告のシェアは約40%強である。一方,米国では,2005年(平
成17年)ころ,アクシネット・カンパニーがゴルフボール市場のシェ
アにおいて1位であり,日本でも,宣伝等によりその知名度は非常に高
い。
また,前記のとおり,ゴルフボールは特許の塊ともいわれ,一審原告
のゴルフボールにおいても,本件特許以外に多くの特許が用いられてお
り,本件特許は,ゴルフボールの芯球部分を特定の化学物質を含有する
ゴム組成物で形成したことを特徴とし,飛び性能の更なる向上を目的と
するものである。
そして,ゴルフボールにおいては,コア(芯球)のみでなく,カバー,
ディンプルも重要であって,その性能としても,飛び性能のみならずス
ピン,打ち出し角,ディンプル等に関するものも重要である。
以上の諸事情を総合的に考慮して,本件特許の寄与率を50%と認定
することとし,本件において,一審原告が「販売することができないと
する事情」に相当する数量に応じた控除後の割合としては,原判決にお
ける40%を前提としつつ,本件特許の寄与率50%をも考慮して,上
記控除後の割合を20%と認めるのが相当である。
(エ)一審被告の主張に対する判断
a一審被告は,原判決が,原告製品を5種類のゴルフボールに特定し
ながら,特許法102条1項ただし書の「販売することができないと
する事情」を考慮するに際しては,原告製品のマーケットシェアを原
告製品の全製品としている点が誤りである旨主張する。
しかし,一審原告も主張するように,一審被告による侵害品が市場
に存在しなかったと仮定した場合,原告製品をどの程度代替して販売
し得たかを検討するに当たっては,特定の原告製品に最も対応すると
解される競合他社の製品を抽出して,かかる競合製品市場でのシェア
を参考にすべきであるが,現実には,かかるシェアの算定は困難であ
り,各社のゴルフボール全体でみたシェアで代用することには一定の
合理性がある。
そして,同シェアは,ゴルフボールメーカー各社の特許等の知的財
産権,営業努力やブランド力が総合的に反映された結果であると解さ
れるので,これを参考にすることは合理性があるといえる。
以上のとおり,原判決が,特許法102条1項ただし書において,
一審原告の全製品を含むマーケットシェアを考慮したことに誤りは
ない。
b次に一審被告は,「ユーザーがゴルフボールを選択するに当たり,
その性能を重視するとはいえるが,そのような性能を発揮する原因と
なる具体的な成分等には特段の関心を抱いておらず,本件訂正発明の
対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないことを『販
売することができないとする事情』として考慮すべき余地はない」と
する原判決は失当である旨,及び,そのようにユーザーが関心を抱い
ていないのであれば,正に本件特許権はユーザーの購買の動機付けに
全く寄与しておらず,「販売することができないとする事情」として
考慮すべき旨,それぞれ主張する。
しかし,ユーザーがPCTPの有無に特段の関心がなく,この点が
ユーザーに知られていないとしても,同成分がもたらすゴルフボール
の性能については,ユーザーが関心を持つものと認められるから,一
審被告の上記主張は採用することができない。
このほか,一審被告は,一審被告の製品カタログ(甲43)では,
本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向上をセールスポイ
ントとしており,この点がユーザーの製品購買の動機付けの1つとな
っている旨の原判決の認定に関し,これは特許法102条1項ただし
書の適用においては全く無意味な認定,判断である旨主張する。
しかし,「需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の性能」は,
特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事
情」における考慮要素の一つといえるところ,現に一審被告は,被告
各製品につき,飛距離性能の向上をセールスポイントとして挙げてい
る(甲43,乙112参照)から,この点は購買の動機付けとなるも
のであり,一審被告の上記主張は理由がない。
c次に一審被告は,原告製品のうち2種類のモデルにつき,これと競
合する被告製品の譲渡数量の40%に相当する数量を加算すると,荒
川計算鑑定書に記載された上記各製品の販売数量の数倍となり,あり
得ない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本判決では,「販売することができないと
する事情」に基づく控除割合を8割とするものであるから,一審被告
の上記批判は当たらない。
d次に一審被告は,原判決が,一審被告の平成18年の製品カタログ
(甲43)につき平成16年のカタログと認定しており,明らかな事
実誤認である旨,甲43上の記載は,平成18年時点での旧モデル(平
成17年モデル)との比較において飛距離が伸びていることを示すに
すぎず,甲43の「飛距離をさらにアップ」等の記載は本件訂正発明
の効果ではあり得ない旨,それぞれ主張する。
確かに,原判決が甲43につき平成16年のカタログと認定した点
は誤りであるが,いずれにしても,2003年(平成15年)の一審
被告のカタログ(乙112)上も,一審被告が飛距離性能の向上をセ
ールスポイントとして挙げていることが認められるから,上記の点は
本件の結論に影響を及ぼすものではない。
e次に一審被告は,原判決が,「平成15年から平成19年までの間
の原告及び被告の上記市場占有率には大きな変動がみられない」(8
9頁下9行~下7行)と認定したことが誤りである旨主張する。
しかし,前記のとおり,一審原被告ともに5年間で約5%前後の市
場占有率の変動がみられるものであるところ,これを「大きな」変動
ではないとしたことが誤りとまではいえない。また,いずれにしろ,
この点が本件での結論に影響を及ぼすものではない。
f次に一審被告は,原判決は,被告各製品の高いブランド力を考慮す
ることなく「販売することができないとする事情」を認定しているが,
これは誤りであり,「市場占有率」等とは別個にブランド力を考慮す
べき旨主張する。
しかし,本判決は,前記のとおり,一審原告の高いブランド力をも
考慮して「販売することができないとする事情」に基づく控除割合を
8割と認定したものであるから,上記批判は当たらない。
g次に一審被告は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
についても考慮すべき旨主張するが,これらの点は,特許法102条
3項の実施料率の場面で検討するのはともかく,同条1項ただし書所
定の「販売することができないとする事情」に関して検討すべき事項
には当たらない。
hこのほか,一審被告は,本件訂正発明の範囲が極めて限定的であり,
公知例に比して同等以下の効果しか有しないこと,設計変更が極めて
容易であることについても考慮すべき旨主張する。
まず,本件訂正発明の範囲が,複数回の訂正等によって限定的なも
のとなっているのは事実であるが,この点が,直ちに「販売すること
ができないとする事情」に影響を及ぼすものではない。
また,本件訂正発明が,公知例に比して同等以下の効果しか有しな
いとの事実を認めるに足りる証拠はなく(乙47[「ゴルフボールの
芯の初速の比較」と題する実験結果]は特定の配合例についての実験
にすぎず,同実験結果のみから上記事実を認めることはできない。),
設計変更が極めて容易であるとしても,それによって直ちに一審原告
が「販売することができないとする事情」に影響を及ぼすものとはい
えない。
カ消滅時効の抗弁につき
原判決92頁4行目から93頁11行目までを引用する。
キ弁護士費用につき
(ア)本件における一切の事情を勘案すると,弁護士費用としては,原判決
と同様に5000万円が相当と認められる。
(イ)なお,一審被告は,本件訴訟が長期に及んだのは,本件提訴後に一審
原告が2度にわたり訂正請求を行い,ようやく本件特許の特許性を維持
できたことによるもので,一審被告の行為に基づく相当因果関係の範囲
内の損害とはいえない旨主張する。
確かに,本件特許につき複数回訂正がされたことは,一審被告の主張
するとおりであるが,他方で,本件訴訟において,一審被告が,充足論,
無効論について全面的に争いながらも,結果的にいずれも認められなか
ったことからすれば,訴訟の長期化を一方的に一審原告の責任とするこ
とはできず,一審被告の上記主張は採用することができない。
(2)特許法102条3項の適用に関し
ア原判決95頁12行目から19行目を引用する。
イ本件での適正な実施料率
(ア)一審被告は,原判決が,本件での実施料率につき5%としたことにつ
き,過大であり,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■を考慮して,許諾例を前提に実施料率を算出すべき旨主張
する。
また,一審被告は,本件訂正発明の内容,他の構成の代替可能性,本
件訂正発明の寄与度,一審被告の高いブランド力,営業努力につき,本
件訂正発明の実施料率の減額要素として考慮すべき旨主張する。
確かに,実施料率を定めるに際し,当事者間において許諾例が存在す
る場合,その内容が当事者の意思を最もよく反映しており,当該業界に
おける実施料率の統計値よりも実態に近いものと認められるから,本件
でも,■■■■■■■■■■■■を検討することとする。また,一審被
告が主張する上記の各事情についても,実施料率を検討するに当たって
は重要な考慮要素であるから,これらについても同様に考慮することと
する。
そこで検討するに,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■,それぞれ認められる。
以上の事実及び前記(1)オ(イ)認定の各事実を総合的に考慮すると,本
件での実施料率としては3%が相当と認める。
(イ)原判決97頁11行目から98頁8行目まで,及び原判決の別表10
を引用する(ただし,97頁13行目の「5%」を「3%」と,「24
00万円」を「1440万円」と,98頁6行目の「5%」を「3%」
と,同頁7行目の「1022万0497円」を「613万2294円」
と,それぞれ訂正する。)。
ウ特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用の有無
(ア)特許法102条1項ただし書の適用により,権利者が販売することが
できないとされた部分につき,更に同条3項を適用することができるか
につき,以下検討する。
特許法102条1項は,特許侵害に当たる実施行為がなかったことを
前提に逸失利益を算定するのに対し,同条3項は,当該特許発明の実施
に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれ
が前提を異にする別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権
者によって販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求
し得ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請
求し得る逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認する
ことになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認
めるべき合理的な理由は見出し難い。
以上からすれば,特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用
は否定すべきであり,これと同旨の原判決に誤りはない。
(イ)一審原告の主張に対する判断
a一審原告は,重畳適用を肯定しなければ,特許法102条1項ただ
し書において「販売することができないとする事情」があるとして譲
渡数量の全部を控除された場合,同条3項による損害賠償請求を認め
ない結果,権利者は全く損害賠償を得ることができず,最低限度の損
害額を保証した同条3項の趣旨に反する旨主張する。
しかし,特許侵害による損害は,基本的には侵害行為による権利者
の逸失利益の填補であり,同条1項ないし3項は,そのために特許法
が定めた計算方法である。したがって,特定の期間における侵害行為
に対する損害は,原則として1個の算式で決められるべきであり,同
条1項によって認められた損害は,逸失利益としての限界であり,そ
れ以上,同条3項を更に適用して,特許権者等が販売することができ
ない数量につき,実施料相当額を損害として認める理由はない。
そして,同条3項の実施料相当額も,あくまで,取引による逸失利
益が主張し得ない場合において,逸失利益につき,実施の対価という
形で擬制した規定と解すべきである。
その結果,同条1項による損害額算定において,侵害行為と因果関
係のある販売減少数量が一部でも認められた場合には,その数量が特
許権者の製品についての市場での評価を代弁するものであり,因果関
係が認められなかった数量は,市場で評価されなかったものであっ
て,権利者の逸失利益の全てがそこで評価され尽くしたとみるべきで
ある。この点は,「販売することができないとする事情」があるとし
て,譲渡数量の全部を控除された場合も同様である。
b次に一審原告は,特許法102条1項と3項が前提を異にする損害
算定方式であるからといって,同条1項ただし書で控除された数量部
分につき同条3項に基づく実施料相当額の損害賠償請求を否定する
根拠にはならない旨主張する。
しかし,損害の上限は逸失利益であるところ,同条3項の実施料相
当額は,あくまで,取引による逸失利益が主張し得ない場合において
逸失利益につき実施の対価という形で擬制した規定と解すべきであ
る。
したがって,同条1項の適用において,権利者が販売し得なかった
部分に関し,実施料相当額の請求を認めると,填補された損害額以上
のものを侵害者に請求できることになって相当ではなく,一審原告の
上記主張は採用することができない。
c次に一審原告は,特許法102条1項ただし書の控除数量分につき
同条3項の実施料相当額の損害賠償を認めても,それは販売数量の減
少による逸失利益とは異なる観点からの損害を,重複のない範囲で正
当に算定するものであって,特許権者が侵害行為に対する損害賠償と
して請求し得る逸失利益以上の損害の填補を受けることを認めるも
のではない旨主張する。
しかし,前記aのとおり,同条3項の実施料相当額も,あくまで取
引による逸失利益が主張し得ない場合に,実施の対価の形で逸失利益
を擬制した規定にすぎず,同条1項による損害額算定において,侵害
行為と因果関係のある販売減少数量が一部でも認められた場合には,
その数量が特許権者の製品についての市場での評価を代弁するもの
であり,因果関係が認められなかった数量は,市場で評価されなかっ
たものであって,権利者の逸失利益の全てがそこで評価され尽くした
とみるべきであるから,一審原告の上記主張は理由がない。
d以上のとおり,一審原告の上記主張は,いずれも採用することがで
きない。
(3)小括
以上によれば,一審被告による本件特許権侵害により一審被告が賠償又は
返還すべき一審原告の損害額及び利得額は,別表13の「製品別損害額」及
び「製品別利得額」の各金額となる(なお,その内訳は,別表14及び15
のとおり)。
したがって,一審原告は,一審被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に
よる損害賠償及び不当利得の返還として総額9億2152万4055円(別
表13末行の「合計認容額」欄記載の金額)及び内金1億3022万157
2円(別表13の平成15年上期の「各期間合計額」欄記載の金額)に対す
る平成15年7月1日から,内金1億5090万3271円(別表13の平
成15年下期の「各期間合計額」欄記載の金額)に対する平成16年1月1
日から,内金1億4705万5265円(別表13の平成16年上期の「各
期間合計額」欄記載の金額)に対する平成16年7月1日から,内金1億3
429万9630円(別表13の平成16年下期の「各期間合計額」欄記載
の金額)に対する平成17年1月1日から,内金1億4123万5445円
(別表13の平成17年上期の「各期間合計額」欄記載の金額)に対する平
成17年7月1日から,内金1億4218万7015円(別表13の平成1
7年下期の「各期間合計額」欄記載の金額)に対する平成18年1月1日か
ら,内金1440万円(別表13の「平成14年」の「製品別利得額」欄記
載の利得額)に対する平成18年1月5日(訴状送達の翌日)から,内金5
08万9563円(別表13の「平成18年2月20~28日」の「各期間
合計額」欄記載の金額)に対する平成18年3月1日から,内金5613万
2294円(①別表13の「平成18年1月」の「各期間合計額」欄記載の
金額と②「平成18年2月1~19日」の「各期間合計額」欄記載の金額,
③「弁護士費用」欄記載の損害額の合計額)に対する平成21年2月24日
(訴えの変更申立書送達の翌日)から,各支払済みまで年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めることができることになる。
3結論
以上のとおり,一審原告の請求にかかる認容額は上記2(3)のとおりである。
そうすると,一審被告の本件控訴は一部理由があり,一審原告の附帯控訴は理
由がない。よって,一審被告の本件控訴に基づき原判決を変更することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官東海林保
裁判官矢口俊哉
(以下別表省略)

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