弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人ら敗訴部分を破棄する。
     前項記載の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人貞松秀雄、同吉田賢一の上告状記載の上告理由、上告代理人貞松秀雄
の上告理由書記載の上告理由第一点及び第二点、上告代理人吉田賢一の上告理由書
記載の上告理由について。
 原審の適法に確定した事実によれば、(一) 被上告人(当時の商号はD商事株式
会社であり、のちに合併により現商号となつた。)は、昭和二九年三月五日、訴外
E塗料株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、三三〇万円を、弁済期日同
年六月二四日、利息日歩一五銭、二か月分の利息天引、遅延損害金日歩三〇銭の約
定で貸与し、右債権を担保するため、訴外会社との間に訴外会社が弁済期日に債務
の履行を遅滞したときは代物弁済として訴外会社所有の本件建物(原判決添付第二
目録記載の建物。当時は同第一目録記載のとおりの建物であり、その価額は約六六
三万七〇〇〇円であつたが、その後、二、三階部分が焼失し、修復されて右第二目
録記載のとおりの現況になつた。)の所有権を被上告人が取得することができ、被
上告人は本件建物の換価額が訴外会社に対する債権額を超えるときは、右超過額を
清算金として訴外会社に交付すべきであるが、訴外会社は、被上告人が本件建物に
ついて代物弁済予約完結の意思表示をしたうえ所有権移転登記を経由しても、右清
算がなされないかぎり債務の全額を弁済して本件建物の所有権を回復することがで
きる旨の代物弁済予約を締結し、同年三月二六日右代物弁済予約を原因とする所有
権移転請求権保全の仮登記を経由した、(二) 被上告人は、昭和三〇年三月五日予
め訴外会社から交付されていた本登記手続に必要な書類を用いて、同日仮登記の本
登記を経由した、(三) 上告人A1は、昭和二九年九月訴外会社から本件建物を、
敷金二〇〇万円、賃料一か月八万円の約定で貸借し、その引渡を受けてこれを使用
し、遅くとも昭和三三年七月一八日以降同上告人は、自己が代表取締役をしている
上告人株式会社A2に本件建物を使用させ、以来上告人らがこれを共同占有してい
る、(四) 被上告人の訴外会社に対する清算金の支払はされないまま、昭和四五年
二月一八日上告人A1は、訴外会社の被上告人に対する債務の元利金として計算し
た金員を被上告人の許に持参し、訴外会社に代つて弁済提供したが、被上告人はそ
の受領を拒絶した、というのである。
 いわゆる仮登記担保権者は、債務者が債務を履行しなかつたときは、予約完結の
意思を表示し又は停止条件が成就したことにより取得した目的不動産の処分権の行
使による換価手続の一環として、債務者に対して仮登記の本登記手続及び右不動産
の引渡を求め、更に、第三者がこれを占有している場合には、その者が不法占有者
であるときは直ちに、また貸借人であるときでも、その賃借権が仮登記担保権者に
おいて本登記を経由すればこれに対抗することができなくなるものであるかぎり、
本登記を条件として、その第三者に対し右不動産の明渡を求めることができ、他方、
右不動産の換価額が債権者の債権額を超えるときは、仮登記担保権者は右超過額を
清算金として債務者に交付すべきものであり、その清算金の支払時期は、いわゆる
帰属清算の場合には、仮登記担保権者が目的不動産の評価清算によりその所有権を
確定的に自己に帰属させる時、いわゆる処分清算の場合には、第三者に対して目的
不動産を売却する等その処分の時であつて、清算金の支払時期である右換価処分の
時に仮登記担保権者の債権は満足を得たこととなり、これに伴つて仮登記担保関係
も消滅し、その反面、債務者は、右時期までは債務の全額を弁済して仮登記担保権
を消滅させ、その目的不動産の完全な所有権を回復することができるが、右の弁済
をしないまま債権者が換価処分をしたときは、確定的に自己の所有権を失うことに
なると解すべきことは、当裁判所大法廷の判例とするところである(最高裁昭和四
六年(オ)第五〇三号同昭和四九年一〇月二三日大法廷判決)。仮登記担保権に関
する右判例の趣旨に照らせば、仮登記担保権者が目的不動産の換価手続の一環とし
て、第三者に対しその占有する目的不動産の明渡を求めることができる場合におい
ても、明渡を拒否し占有を継続する右第三者に対し、所有権を侵害されたことによ
り賃料相当の損害を被つたとしてその賠償を求めることは、換価処分前においても
仮登記担保権者が目的不動産を使用収益することができる旨の約定があるなど特段
の事情のないかぎり許されないものというべく、また、仮登記担保権者が、右換価
処分前、即ち、債務者が債務の全額を弁済して目的不動産の完全な所有権を回復す
ることができる間に、適法な債務の弁済提供を受けながらその受領を拒絶して、目
的不動産を占有する第三者に対しその明渡を求めることはできないものと解するの
が、相当である。
 これを本件についてみるのに、前記原審の確定した事実によれば、被上告人は、
本件建物の適正評価額が訴外会社に対する債権額を超過する場合には、その超過額
を清算金として訴外会社に支払うことにより、また、右超過額がない場合には、そ
の旨を訴外会社に通知して清算の意思を明らかにすることにより、本件建物の所有
権を確定的に自己に帰属させることができるが、それまでは、上告人らの本件建物
占有によりその所有権を侵害され、賃料相当の損害を被つたとして、その賠償を求
めることができず、また、上告人A1が訴外会社の被上告人に対する債務を弁済す
るにつき利害関係を有する第三者にあたることは明らかであるから、同上告人が訴
外会社に代つてした所論の弁済提供が適法なものであるかぎり、被上告人がその受
領を拒絶しながら、本件建物の換価処分手続の一環として上告人らに対し、その明
渡を求めることは、許されないものといわなければならない。しかるに、原審は、
上告人A1と訴外会社との間の本件建物賃貸借は本件代物弁済予約の仮登記が経由
されたのちのことであるから、仮登記の本登記が経由された被上告人の本件建物所
有権とは併存できないものであり、被上告人に対しその効力を失つたとし、したが
つて、同上告人が訴外会社に代位してその債務を弁済することにより、本件建物所
有権の回復を求めるべき権利を行使することは許されないとの理由のみに基づき、
前記被上告人が本件建物所有権を確定的に自己に帰属させるに至つたか否か、また、
上告人A1の被上告人に対する所論の弁済提供が適法なものであるか否かを確定す
ることなく、上告人らに対する本件建物明渡及び賃料相当損害金の請求を認容して
いるのであつて、原判決には、この点において仮登記担保関係についての法令の解
釈適用を誤り、ひいては審理不尽に陥つた違法があるといわなければならず、右違
法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。それゆえ、その余の諭旨に
ついて判断するまでもなく、原判決中、上告人ら敗訴部分は破棄を免れず、更に以
上の点について審理を尽くさせるため、右の部分を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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