弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士久保田美英の上告理由は別紙記載のとおりである。
 論旨が一〇点に分つて論ずるところは要するに上告人等は本訴提起の利益を有す
ると主張しこの点に関する原判決の判示を非難するのである。
 まず第一に、上告人のD市議会の本件議決の不存在又は無効確認を求める訴につ
いて考えて見るに、市議会の議決は法人格を有する市の内部的意思決定に過ぎない
のであつて、市の行為としての効力を有するものではなく、従つて市を被告として
不存在又は無効確認を求めることは全く無意味である。上告人はD市議会議員なる
が故にこのような確認を求める利益を有すると主張するのであるが、なるほど市長
は市議会の議決に拘束されるけれども、このような執行機関と議決機関との関係は
市の内部の機関相互間の関係であつて若しその間に紛争があるならば市が内部的に
解決すべく、訴訟をもつて争うべき問題ではない。機関相互間の権限の争は法人格
者間の権利義務に関する争とは異り、法律上の争として当然に訴訟の対象となるも
のではなく、法律が内部的解決に委せることを不適当として、例えば地方自治法一
七六条五項のように特に訴の提起を許している場合にのみ、訴訟の対象となるもの
と解すべきである。そして市議会の議員が、市又は市長を被告として議決の無効又
は不存在の確認を求める訴は、地方自治法その他の法律中に、これを許した規定が
ないのであるから、原判決が本訴を不適法としたのは正当である。
 右説明のように議決はそれ自体訴訟の対象とすることはできないけれども、市長
が市議会の議決に従つて執行をした場合、その行為は市の行為として効力を持つに
至るから、その無効を主張するについて利益を有する者は、議決の無効を理由とし
て市の行為の効力を争うことはできる。本件建設大臣及大阪府知事に対する許可、
認可の申請又はその変更認可の申請は、法人格を有する市の行為である点において、
さきに説明した議会の議決と性質を異にする。しかしながら、その申請によつて生
ずる法律上の関係はB市と相手方たる建設大臣又は大阪府知事との関係であつて、
第三者に利害関係のないことである。従つて第三者は申請の効力について争う法律
上の利益を有しないものと言わなければならない。このことは申請に対する所轄庁
の許可認可についても同様であつて、第三者がよつて自己の法律上の利益を害され
る特別の事情のある場合は格別、通常の場合第三者は許可認可の効力を争う利益を
有するものではない。そして本件の場合、上告人等はかゝる特別の事情があるとの
主張をしないのであるから原判決が本訴について訴の利益がないとしたのは正当で
ある。上告人はD市議会の議員であるが故に、本件申請及許可認可等の効力を争う
利益を有するというのであるが、市議会議員は地方自治法の定めるところにより議
決機関たる議会の構成員として市の意思決定に参与することができるけれども、議
員としてなし得る事項は地方自治法その他法律中に定められており、これら法律の
規定をはなれて議員なるが故に他の市民と異る立場に立つものではない。また市の
住民なるが故に一般的に市の行為の効力を争う利益があるものということはできな
い。論旨はまた、上告人等は市議会議員として市民のため市長の執行を監視する義
務があると主張するのであるが、このような義務は地方自治法に定める議員の権限
の行使に際して尽すべきであつて、かゝる義務があるからと言つて、そのために本
訴提起の利益を有するものとはいえない。
 以上説明のほか論旨は、原判決の判断遺脱、理由不備、審理不尽等を主張するの
であるが、原判決の趣旨を理解しないか或は誤解に基くものであつて、法律の解釈
に関する重要な主張を含むものとは認められない。
 以上のとおり論旨は理由がないから本件上告はこれを棄却することとし、民訴四
〇一条、九五条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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