弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原決定を取り消す。
二 抗告人が、水戸地方裁判所平成一〇年(行ウ)第一一号違法確認請求及び損害
賠償請求事件について同事件被告らを補助するために参加することを許可する。
三 本件補助参加申立てに対する異議申立てによって生じた費用及び抗告費用は、
いずれも相手方らの負担とする。
       事実及び理由
第一 本件抗告の趣旨及び理由
 抗告人は、主文同旨の決定を求め、抗告の理由として、原決定は、補助参加の利
益を限定的に解釈する点で裁判例に反しているし、参加の利益を判断するに当たっ
て、住民訴訟の位置付けに関する最高裁判例に違反し、住民訴訟において自治体の
被告側への補助参加を認めた裁判例及び株主代表訴訟において会社の被告側への補
助参加を認めた裁判例にも違反するもので、誤った法的判断に基づく違法なもので
あると主張した。
第二 当裁判所の判断
一 本案事件は、つくば市民である相手方らが原告となり、つくば市長である被参
加人A及び同市財務部長である被参加人B各個人を被告として、平成八年度つくば
市一般会計市税不納欠損処分額合計金一億二六五六万八〇三一円相当が、抗告人
(つくば市)の損害であるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号後段の規定
に基づき、抗告人に代位して、被告らに対し抗告人への損害賠償を求めた住民訴訟
である。相手方らは、その理由として、つくば市では徴税吏員による市税滞納者に
対する督促や財産の差押えが僻怠された上、時効中断の措置がとられないまま漫然
と平成八年度一般会計において、一三二七件分の合計金一億二六五六万八〇三一円
の市税不納欠損処分がなされ、多額の租税債権が時効消滅したが、これは、被告ら
の職務僻怠によるものであると主張している。
 住民訴訟については、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条、
七条により、地方自治法及び行政事件訴訟法に定めのない事項については民事訴訟
の例によるとされているから、補助参加の適否については民事訴訟法四二条が準用
されることとなる。同条の一般的な解釈については、原決定三頁二行目から四頁七
行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 しかし、住民訴訟は、行政事件訴訟の一種として民事訴訟とは異なった性質を有
するのであるから、これに民事訴訟法の規定を準用するに当たっては、その性質を
十分に考慮し、解釈上、適切な変容を加えることも必要となるというべきである。
二 そこで、まず、本件住民訴訟と類似した形態を有する債権者代位訴訟とを比較
することとする。
 債権者代位訴訟においては、債権者は債務者が有すると考える債権を債務者に代
位して行使するのであるが、仮に、債務者が当該債権の不存在を主張する第三債務
者の言い分が正しいと考えていたにもかかわらず、その存在を前提とする債権者勝
訴の判決があったとしても、その判決は債務者に対し当該債権の存在を確定する効
果を及ぼすにすぎず、債務者をめぐる他の法律関係に影響を及ぼすものではない
上、債務者は当該債権を行使する義務を負うものでもないから(そのために債権者
は金銭債権を代位行使する際には直接自己への給付を求め得るとされている。)、
債務者は、自己の意に反する判決を受けたという精神的な不利益は受けるものの、
法律的には特に不利益を受けるものではない。このことから、債権者代位訴訟の被
代位者である債務者は、原告である債権者と利益を共通にするものであり、これが
被告である第三債務者のために補助参加をすることは、対立当事者の一方が他方に
補助参加するに等しく、民事訴訟の基本的な訴訟構造に反するものと解されている
のである。
三 これに対し、本件住民訴訟のように住民が公金の賦課徴収を怠った当該職員個
人に対して自治体に代位して地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づき損害
賠償請求をした場合において、自治体が当該損害賠償債権の不存在を主張する長個
人の言い分が正しいと考えていたにもかかわらず、その存在を前提とする住民勝訴
の判決があったときは、自治体は営利を目的とする団体ではないのであるから、自
己が不存在と考えている債権を有していることになることが法的に見て利益となる
か否かにも疑問があるし、他方、自治体は、私人とは異なり、債権を有する以上こ
れを行使すべき公法上の義務を負うと解すべきであるから(地方自治法二四〇条二
項参照。同項はこれを長の義務として規定しているから、直接の行為義務を負うの
は機関としての長と解すべきであるが、機関としての長には法人格はないのである
から、右公法上の義務はその機関の属する行政主体としての自治体に帰属すると解
すべきである。)、右住民勝訴の判決は、仮にそれが誤りであったとすると、新た
に債権行使義務を発生させるという自治体にとってはむしろ不利益を生じさせるこ
ととなる。そればかりか住民勝訴の判決の効力については、地方自治法二四二条の
二第六項、行政事件訴訟法四三条三項、四一条一項、三三条一項により、その理由
中の判断も関係行政庁を拘束し、関係行政庁は同一の処分を繰り返すことを禁止さ
れると解されており、ここでいう関係行政庁とは行政処分を行うべき機関としての
長などを指すのであるが、当該機関自体には法人格はないのであるから、右拘束力
によって生ずる公法上の義務は結局その機関の所属する行政主体としての自治体に
帰属するのであって、自治体は、住民勝訴の判決の理由中の判断により、将来の行
動を制約されることとなる。
四 このように自治体は、債権者代位訴訟における私人としての被代位者とは異な
り、仮に誤って住民勝訴の判決がされると、その地位の性質から判決の主文自体か
らも不利益を受けるばかりか、行政事件訴訟特有の効果として判決理由中の判断か
らも法的不利益を受けることになるのであって、これらはいずれも事実上あるいは
反射的な不利益にとどまるものとはいい難いものであり、その法的な立場は、原告
である住民と同一とはいい難いものである。
 したがって、本件のような住民訴訟に民事訴訟法の補助参加の規定を準用するに
当たっては、このような点を考慮して、債権者代位訴訟の被代位者に関する解釈に
かかわらず、自治体が、原告である住民の主張が誤っていると判断する場合には、
被告となっている当該職員らのために補助参加をし得ると解するのが相当であり、
このように解したとしても、対立当事者の一方が他方の補助参加人となるような関
係にはなく、民事訴訟における基本的な訴訟構造に反するものでもない。
五 もっとも、住民訴訟において、一般的に当該自治体が、常に補助参加の利益を
有するというべきではなく、例えば、被告となった職員の不正行為等を理由とする
損害賠償訴訟のような場合はもちろん、本件においても、被告らが単なる個人的怠
慢から公金の賦課徴収を放置していたような場合にまで直ちに抗告人に補助参加の
利益があるとはいえず、本案事件において、まさに抗告人の徴税行政の当否そのも
のが問われ、いわば、抗告人自身が隠れた当事者と目されるような場合にのみ補助
参加の利益があると解するのが相当である。
 そこで、この点について検討するに、一件記録によれば、抗告人(つくば市)に
おいて、多くの滞納債権が徴収に至らず、平成八年度の一三二七件(合計金一億二
六五六万八〇三一円)の一般会計市税不納欠損処分がなされたのは、抗告人の限定
された人員と予算を徴税にどの程度投入するかという徴税行政の裁量の結果、生じ
た一面があることも窺われるのであって、本案事件の実質的争点は、結局、抗告人
の徴税行政の適否に帰着するものと推認され、本件においては、抗告人に補助参加
の利益を肯定できるものというべきである。
六 なお、相手方らは、抗告人の補助参加を許すと、被告らに都合の良い訴訟活動
のみを行い、公正な審理の妨げとなると主張するが、前記のとおり、抗告人に補助
参加の利益がある以上、十分な訴訟活動の機会を与える必要があり、もし不当な行
動がある場合には、裁判所の適切な訴訟指揮によってこれを排除すべきものである
から、相手方ら指摘の点は抗告人の補助参加を妨げる理由にはならない。
 また、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条三項、四一条一
項、二三条により、当該職員を被告とする住民訴訟に機関としての長が行政庁参加
することは可能であり、そうである以上自治体の補助参加を認める必要はないと考
えられなくもない。しかし、自治体とその長とは訴訟当事者としては別である上、
補助参加と行政庁参加とは互いに併存する制度であり、理論的に、一方が認められ
れば他方が認められないという関係にはなく、しかも、行政庁参加を許すか否かは
裁判所の裁量に係ると解されているのに対し、補助参加の場合は要件を満たす者の
申出があれば、裁判所はこれを許さなければならないのであるから、この点からも
行政庁参加の可否にかかわらず補助参加を許すのが相当であると考えられるのであ
って、右の考えは採用できない。
七 以上によると、抗告人らの補助参加申出を却下した原決定は相当でないから、
これを取り消し、抗告人らの右申出を認容することとし、手続費用の負担につき、
行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項、六五条一項本文、六一条を適用し
て、主文のとおり決定する。
平成一一年六月九日
東京高等裁判所第三民事部
裁判長裁判官 高木新二郎
裁判官 河本誠之
裁判官 白石哲

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