弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が昭和四〇年五月一五日付でした、原告の寝屋川市<以下略>A方製造場
における昭和三九年四月より同三九年八月までの製造移出品に対する物品税決定処
分および無申告加算税賦課決定処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は昭和四〇年五月一五日、原告の寝屋川市<以下略>、A方所在の製造場
における製造販売品(商品名「ロイヤル香水袋」、以下「本件香水袋」という)に
対し、課税期間を昭和三九年四月から同三九年八月まで、課税標準を九七万五一〇
〇円として、九万七五一〇円の物品税、および九三〇〇円の無申告加算税を賦課す
る決定(以下本件処分という)をし、原告は昭和四〇年五月一六日右決定通知書を
受領した。
2 そこで、原告は同年六月一四日被告に対し本件処分につき異議を申立てたとこ
ろ、被告は同年九月七日これを棄却するとの決定をし、右決定書謄本は同月九日原
告に送達されたので、原告は同年一〇月六日大阪国税局長に対し審査請求をした
が、同局長は昭和四三年一一月一一日これを棄却するとの裁決をし、原告は同年一
二月五日右裁決書謄本の送達をうけた。
3 しかし、本件処分には以下に述べるとおり、(一)本件香水袋が課税物品に該
当せず、(二)仮に課税物品に該当しても、非課税の取扱いがされるべきであるの
に課税し、更に、(三)課税標準の範囲を誤つて課税した違法がある。
(一) 本件香水袋は、昭和四一年法律第三四号による改正前の物品税法(以下
「法」といい、改正後の物品税法を「新法」という。)別表第二種第四類第四〇号
に掲げられている「香水(固型、粉末及びねり状のものを含む。)しに該当しな
い。
(1) 本件香水袋は、香油原油(化粧香料)一リツトルにプロピレン・グリコー
ルを五リツトル、メチル・アルコールを一リツトルの割合で混入して稀釈溶解し、
この香剤(以下本件香剤という)の僅少量(〇・三立法センチメートル)をスポン
ジ片に含ませ、これをポリエチレン袋に入れて密閉したものであり、右香剤はポリ
エチレンの通気性により外部にその芳香を発散するのである。
(2) このような物品が課税物品である香水に該当するか否かは、法上の香水の
概念如何にかかわるが、香料を用いた物品、人類が香気を楽しむ芳香品、あるいは
嗅ぐ者をして爽快感を覚えさせる特性を有する物品を全て香水と解するときは、化
粧品以外で香料を使用している香水紙(ちり紙)、トイレツト香水、香水毛布、香
水織物、更に芳香を有する石鹸、ウイスキー等も香水に該当することになつて不適
当であるし、香水についての法の規定の位置、態様からみても、香水とは化粧品
(その定義は薬事法第二条第三項に準拠すべきである。)としての香水を指すもの
と解すべきであり、その概念は、国税庁において編集した「物品税課税物品の解説
書」に記載されている香水の定義によるのが相当であつて、法上の香水はこれに限
定すべきである。
そして、同解説書によれば製法、成分、効用の面から各種香水は次のとおり定義さ
れている。
「真の香水」とはハンカチ等に用いられ、天然の動植物性の香料や人造香料を配合
して純度の高いアルコールに溶解したもので、ねり香、固型芳香品、香粉より香
料、アルコール分ともに多く、香料分は一五ないし二〇パーセント、アルコール分
は大体八〇パーセント以上である。
「ねり香」(固型また練状のもの)とは、耳、首、腕等に直接に塗りつけ、体温に
より芳香を自然に発散せしめる固体芳香品の一種で、豚脂、牛脂、密ろうと固型パ
ラフイン、ワセリン等を基礎原料とし、これに香料を配合して製造する。
「固型芳香品」にはひし型芳香、芳香錠、百花香、香晶等と言われるものがあり、
タンス、机、ハンドバツク等の中に入れて用いられ、室内または浴そう中に用いら
れるものもある。基礎原料にはでん粉、炭酸マグネシウム、デキストリン、ほう
砂、塩等が用いられ、これに香料を配合して製造する。
「香粉」はオリス根末、びやくだん末、ラベンダーの花、バラの花、だいだいの
皮、じや香等を原料とし、これにバニリン、クマリンおよび各種の花香油、人工香
油を配合して粉末状としたもので、香袋の中に入れて用いられる。
(3) なお、化粧品としての香水はその香気を楽しみあるいはその芳香により人
の人格を美化することを目的とする奢侈品で、その用途により頭髪用、衣料用、床
まきローシヨン、トイレツト、ウオーター等があるが、いずれも身体、衣服、携帯
品その他の対象物に対し塗擦、散布その他これに類する方法で使用され対象物に香
を残して、溶剤は速やかに揮発乾燥するものでなければならない。そのため、揮発
性に富み、比重も軽く、変臭、着色などの変化をおこさず、香料を容易に溶解する
がべとつかないエチル・アルコールがこれに用いられるのであり、香水の成分と用
途とは密接な関係を有する。また化粧品の溶剤としてメチル・アルコールを用いる
ことは薬事法第六二条、第五七条、第四四条により禁じられている。従つて香水の
溶剤としてのアルコールは純度の高いエチル・アルコールに限定して解すべきであ
る。
(4) ところが、本件香剤は、前叙のとおり香油原油(化粧香料)にプロピレ
ン・グリコール、メチル・アルコールを混入して稀釈溶解したもので、右稀釈溶剤
が純度の高いアルコールに該当しないことはもとより、プロピレン・グリコールが
プロピレン・グロリドリンをアルカリ処理した油状液で溶剤として優れた性質を持
ち、湿潤性、可塑性、不揮発性、低融点等の特性をもつため、本件香剤もべたべた
していつまでも乾燥しないのであり、このように成分、製法、特性が前記香水とは
全く異なる。
そして、本件香水袋の用途は銀行、商社、百貨店等の宣伝広告用としてのダイレク
トメール、印刷物あるいは商品等に添付されて無償配布されることにより、これら
を受領した者の嗅覚を刺激して快感を与え、もつて宣伝広告物等の印象を強め、そ
の宣伝効果を増大させることを終局目的とするものであり、化粧品としての香水の
用途と相違することは明らかである。また、本件香剤は専ら本件香水袋に用いら
れ、右宣伝広告物等に賦香することを最終目的とし、化粧品として販売されること
はなく、人体、衣服等に塗擦散布して使用することは、その性状から不可能であ
り、かかる化粧品としての香水の用法は予定されていない。もつとも、本件香水袋
の芳香が長期間持続し、これがハンドバツク、ハンカチ等に挾んで使われることは
望ましいことであるが、これも右宣伝広告の効果をあげるための使用方法であり、
このような用法によつて本件香水袋がその所持者の人格を美化することがあつて
も、それは副次的効果にすぎない。
(5) 以上の成分、製法、特性、効用からみて、本件香水袋、香剤は、法の予測
しなかつた、既往の香水概念に含まれない新製品であつて法上の香水には該当しな
い。
(二) 仮に、香水に該当するとしても、本件香水袋は非課税の取扱いがなされる
べきであつた。
(1) 本件香水袋は宣伝広告物に添付することにより、これを受けとつた最終消
費者の嗅覚に訴える宣伝物品であるが、法およびその昭和四一年政令第七六号によ
る改正前の施行令によれば視覚に訴える宣伝物品である宣伝用人形は通常の人形が
課税物品であつた(昭和四一年四月一日以降は物品税法の改正により人形類の課税
が廃止された)のに非課税扱いとされ、聴覚に訴える宣伝用レコードも通常のレコ
ードが課税物品であつたのに非課税扱いとされていたのであり、その対比上、本件
香水袋も非課税扱いとすべきである。もつとも、本件香水袋については法およびそ
の施行令に非課税とすべき規定がないが、元来、本件香水袋は法が全く予想してい
なかつた物品であるので、非課税とすべき規定の拡張ないし類推適用がなされるべ
きである。
(2) 本件香水袋の価格は極めて低額であつて同種物品に係る価格体系のうちに
占める位置が極めて低く、産業経済に及ぼす影響も少ないので、法第九条により、
あるいは奢侈品に対する間接税を目的とする法の趣旨からも、これを非課税とすべ
きである。
(三) 仮に、本件香水袋が課税物品であるとしても、課税標準は香水袋の価格に
よるべきで、これが添付されている広告物(以下「カバー・ラベル」という)を含
めた全体の価格によるべきではない。
(1) 香水袋とカバー・ラベルとでは後者が主体商品であつて、本件香水袋自体
の包装は、本件香剤をスポンジにしませ、ポリエチレン袋におさめた状態のみであ
り、これがカバーやラベルに挟みこまれているにすぎず、両者は接着していないの
で容易に分離しうるうえ、分離しても本件香水袋自体を携帯・保存するには何ら不
都合はない。現に、原告は郡是製糸株式会社および大阪産業株式会社に対し、カバ
ー・ラベルをつけずに本件香水袋を販売している。
従つて、カバー・ラベルは本件香水袋の容器包装に該当しない。
(2) 仮に本件香水袋とカバー・ラベルが不可分の関係にあるとしても、課税物
品はあくまでも香水であり、本件香水袋を添付しないカバー・ラベル、宣伝広告物
には課税されない。しかるに、本件香水袋を添付することにより、カバー・ラベル
を容器包装として、両者の価格の合計額をもつて課税標準額を算出するならば、結
果的には広告物たるカバー・ラベルに課税することとなる。これが認容しがたいこ
とは、課税物品であるマツチでも、広告宣伝用マツチ箱の外装および広告物の価格
には課税されていないことを考えれば、明らかである。
よつて、本件処分の取消を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1、2は認める。
2 請求原因3については次に述べるとおりである。
なお、同3の(一)の(1)の事実中、本件香剤が香料にプロピレン・グリコール
およびアルコールを混入して稀釈溶解したものであり、右香剤を含ませたスポンジ
片をポリエチレン袋に入れて密閉し、ポリエチレンの通気性を利用してその芳香を
発散させるようにしたのが本件香水袋であることは認めるが、右混合の割合は香料
一リツトルにプロピレン・グリコール約四リツトル、アルコール一リツトルであ
り、そのアルコールはエチル・アルコールに不可飲処置を施した変性アルコールで
ある。
三 被告の主張
1 本件香剤は課税物品たる香水に該当する。
(一) 課税物品たる香水は法の趣旨目的に従つて解釈すべきであるが、昭和三七
年法律第四八号による改正前の物品税法は課税物品たる香水を化粧品として明記し
ており、また新法第一条別表第二種第一六号は化粧品類として法別表第二種第四類
第四〇号の香水等と同別表第二種第五類第四六号の化粧品をあわせて規定している
ので、法も香水類を化粧品類として扱つているものと解される。およそ化粧とはよ
そおい飾ることであるから、原告主張の香水紙(ちり紙)等は香水類に含まれない
のであるが、化粧の方法は直接身体に施すことのみならず、物資の多様化、時代の
変化に応じて間接的に身体に施し、自己の身辺における雰囲気を醸成することによ
り、よそおい飾ることが行なわれるようになり、右時代の変化に相応して化粧品の
概念、範囲も拡大してきている。
なお、薬事法第二条第三項は、化粧品について「人の身体を清潔にし、美化し、魅
力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗
擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、
人体に対する作用が緩和なものをいう」と規定している。しかし、新法の化粧品類
中には、明らかに身体に塗擦、散布その他類似の方法では使用され得ない香紙、香
袋が含まれていること、薬事法上は化粧品でなく医薬部外品ないし医薬品とされる
脱毛料、染毛料が法および新法上、化粧品(類)中に含め規定されていることか
ら、法および新法上の化粧品(類)の範囲と、薬事法上のそれとは必ずしも同一で
はない。従つてまた、薬事法は化粧品にメチル・アルコールの使用を禁じている
が、メチル・アルコールが溶剤に使用されても課税物品たる香水に該当しなくなる
わけではない。
そして法上の香水は社会通念上一般に化粧品たる香水として取引され、かつ使用さ
れているもの全てを指称するものである。ところで、ある物品が香水として取引、
使用されているか否かは、商品の同一性の問題に帰着するが、その基準は商品の原
料、成分、製造方法の同一性にではなく、商品の特性、用途の同一性に求めねばな
らず、右特性、用途とは、ある商品が他の商品から識別されるべき要素として本来
有する特性および本来利用されるべき用途をいうのである。これを香水についてみ
れば、人に香気を与える機能ないし作用を発揮することを特性とし、かかる機能な
いし作用を利用してその携帯者の品位を高め、爽快甘美な香気を楽しむことを用途
とする。
(二) なお、国税庁が編集した「物品税課税物品の解説書」は、部内職員の事務
処理の参考に供するため、第一線の職員が事務処理上通常遭遇する課税物品の性
状、構成、機能等を一般的に解説したものにすぎず、香水等については、これを人
類が香気を楽しむ芳香品の定義したうえ、通常香水として認識されているものを、
その性状により分類して配合等の一規準を示したのであつて、特殊な性状の物品や
新製品について網羅し、あるいは課税物品の範囲限度についてまで規定したもので
はない。
(三) 以上によつて明らかなとおり、いかなる物品を課税物品たる香水に含める
かは、当該物品の原料、成分、製法によつてではなく、完成した商品としての当該
物品本来の特性、用途が前記の香水の特性、用途に該当するか否かにより決せられ
るべきであり、原料、成分等は、その特性、用途に応じて決定されるにすぎない。
ところで、本件香剤の香料配合割合は一六パーセントと高く、プロピレン・グリコ
ールを稀釈溶剤として使用する目的も、その揮発性が少ないことにより香料の揮発
速度を緩和し芳香を長時間維持するためであることからみて、結局、本件香剤は香
気を楽しむ香水として用いられており、揮発性が少いことにより香水としての特
性、効用が左右されてもおらず、原告自身もこれを香水として宣伝し、消費者も香
水の認識のもとに使用しているのである。
(四) また、本件香水袋はその購入者が右物品上に自己の営業等についての宣伝
広告用文句を記載して顧客に配付し、他の商品等の宣伝効果を高めることを目的と
するとしても、それが宣伝広告用に利用される原因は、当該商品等を受け取つた消
費者の嗅覚を刺激し、これを嗅ぐ者に爽快感を生ぜしめるからであつて、本件香水
袋を取得した者が、その芳香を楽しむために、ある期間これを保持し、香水入り袋
として使用することが期待できる以上、、本件香剤および香水袋の終局目的も宣伝
広告物に賦香すること自体にではなく、宣伝広告物を媒体として、これを嗅ぐ者に
爽快感を覚えさせることにあるのである。これによつて、いかなる宣伝効果がある
かは、本件香剤および香水袋の特性、用途とは何ら関係ないところであり、このこ
とは、商品が贈答用に利用されても商品自体の特性、効用は変わらないこと、マツ
チが宣伝用として無償配付されても、火をつけるために使用するという本来の特
性、効用が変わらないことと、同じ理である。
よつて、本件香剤は香水に該当する。
2 仮に右主張が認められないとしても、本件香水袋は法別表第二種第四類第四〇
号の香袋に該当する。
香袋は匂袋ともいい、その典型的なものは香粉を袋に入れ長期間芳香を発するよう
に作られているもので、ポケツト、袂、ハンドバツク、たんす等に入れて使用され
るのであるが、本件香水袋も、同様の使用方法でその芳香を楽しむことを期待され
ており、香袋に該当する。
香袋は、法別表において香水、香紙と同号に並列して記載され、課税標準、税率、
免税点の不適用等について香水と異なるところはないから、課税物品を香水から香
袋に変更しても本件処分に消長をきたすものではない。
3 本件香剤、香水袋に非課税の取扱いをすることはできない。
(一) 非課税の取扱いをすべき物品は、法第九条により、法別表に掲げる物品の
うち政令で具体的に規定している物品に限定されているのであり、宣伝用人形(マ
ネキン人形等)は法第九条の適用をうけて昭和四一年政令第七六号による改正前の
同法施行令第六条別表第四、第五号イにより、宣伝文レコードも法第九条の適用を
うけて同表第四、第一七号によりそれぞれ非課税とされていたのであり、かかる規
定のない香水等について非課税扱いとすべき根拠はない。
(二) 法は広告用マツチを非課税としないが、これを広告用として無償で配布さ
れても、最終消費者はマツチ本来の用途に従つて使用するからであり、これに対
し、宣伝用人形(マネキン人形等)、宣伝文レコードが非課税とされるのは専ら宣
伝広告を目的とし、人形あるいはレコードの本来の特性、用途に従つて使用される
ことが考えられないたにめと解される。従つて、宣伝目的を有することから本件香
剤、香水袋を非課税物品と同視することはできない。
4 本件香水袋に添付されているカバー・ラベルは法第一一条第二項の容器および
包装に該当する。
(一) 原告は本件香水袋について、特許庁に実用新案登録の出願をしたが、その
骨子は、携帯に便利で長期間芳香を持続し、しかも外観優美な香水容器の考案とし
て、中央部を溶接して上下二袋に分割されたポリエチレン袋の一方にスポンジに含
ませた香水を収容し、他の一方に模様入りの紙片(ラベル)を封入して香水袋の本
体をつくるとともに、その外装に模様入りの挾持用紙片(カバー)を使用するとい
うものである。従つて、右ラベルおよびカバーがポリエチレン袋と一体となつて香
水の容器および包装としての機能効用を有していることは明白である。
(二) 右ラベルおよびカバーはいずれも香水、香袋の本体とともに最終消費者の
手に渡るものであるから、法第一一条第二項の規定にもとづき、右ラベルおよびカ
バーの費用を含めた価格をもつて課税標準とすべきである。
なお、マツチは物品の数量を課税標準とするいわゆる従量課税であつて、香水、香
袋が従価課税であるのと相違するから、宣伝用マツチ箱の取扱いを本件に類推すべ
きものではない。
5 本件物品に対する本件課税期間中の課税標準、物品税額、無申告加算税額を同
期間中の本件物品移出数量、税抜単価(販売価格)から法第一一条第一項第二号、
第二項、第一四条、別表第二種第四類第四〇号、昭和四二年法律第一四号による改
正前の国税通則法第九〇条第一項、第三項、第六六条に従い算出すると、右各数額
は別表の各該当欄記載のとおりであり、これは本件処分と一致する。
なお、前記カバー・ラベルを課税標準に含めたのは、本件香水袋が原告の製造場か
ら移出される時に右カバー・ラベルが付けられている場合のみであり、本件香水袋
のみが移出された場合は、当該物品の価格をもつて課税標準とし、別表摘要欄に
「無」と記載した。
よつて本件処分は適法である。
四 被告の主張に対する答弁
1 被告の主張1は争う。
2 被告の主張2は争う。
なお右主張は時期に遅れた攻撃防禦方法であるから、却下を求める。本件香水袋と
香袋は成分、製法、性質、効用の点で異なるものであるが、仮に香袋に該当すると
しても、香水として課税した本件処分が適法となるものではない。
3 被告の主張3、4は争う。
4 被告の主張5の別表のうち年月、取引区分、移出数量、税込単価、摘要の各欄
に記載された事実を認める。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1、2の各事実については当事者間に争いがない。
更に本件香剤が香料にプロピレン・グリコールおよびアルコールを混入して稀釈溶
解したものであることも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証、原
告本人尋問の結果(第一回)によれば、右混合の割合はほぼ香料一リツトルにプロ
ピレン・グリコール四リツトル、アルコール一リツトルであること、右溶剤として
使用されるアルコールは現在はエチル・アルコールであるが本件処分の課税期間は
メチル・アルコールであつたことが認められる。
二 そこで、木件香剤が課税物品たる香水に該当するかについて判断する。
1 課税物品たる香水の概念については法も何ら規定することがないので、これを
いかに解するかは、社会通念および法の趣旨の双方を勘案して決すべきである。
(一) 成立に争いのない乙第六および第一号証の各一、二によれば、一般に香水
とは、動植物性の天然香料、合成香料を配合し、これを一〇ないし二〇パーセント
の割合で溶剤にとかした液状芳香品で、右溶剤には芳香を揮散させるために純度の
高いエチル・アルコールが最も望ましく、更に溶剤の揮発および芳香の揮散速度を
調製し、芳香を持続させるために若干の保留剤が加えられ、用途は主にハンカチー
フ用として利用され、社会通念上の化粧品に属するものとして理解されていること
が認められる。ところで、社会通念上の香水が化粧品に属するとしても、化粧品あ
るいは化粧については、その原料、製品、用途、使用方法等が、時代の流行、海外
文化の影響等により変遷してきているため、確定的な定義をすることは極めて困難
であるが、現在であれば一応、化粧とは服飾以外の方法で、主に視、嗅覚に訴える
刺激を変化させることにより、人の身体を美化し、魅力を増し、あるいは人の周辺
に好ましい雰囲気を醸成し人品を美化することをいい、化粧品とは、その本来の用
途として専ら右化粧目的に奉仕するために用いられる物品といえよう。従つて、社
会通念上の香水とは化粧目的に適した芳香を有する、液状芳香物で、ハンカチーフ
等から芳香を揮散させ専ら右化粧目的に奉仕することを用途とする物品と解され
る。なお右用途とは一般人が通常の使用方法に従つて利用する場合のそれであるこ
とは言うまでもない。
(二) 法は、課税物品たる香水を化粧品(法別表第二種第五類第四六号)とは別
に規定しているが、つめ化粧料を香水と同号(法別表第二種第四類第四〇号)に並
記し、更に、新法は右を全て化粧品類(新法別表第二種第一六号)として一括規定
しており、これは法が第一四条で類別に税率を定めているので税率を異にする香水
等(税率一〇〇分の一〇)と化粧品(税率一〇〇分の五)とを一括すべくもないの
に反し、新法は別表で品目別に税率を定め(右の税率は変つていない)それが異な
つても同じたぐいの物品は一括する方式をとつたことによるもので、法および新法
を通じて香水の概念に変更はないものとみられ、法においても香水は社会通念上の
化粧品に属すると解される。
しかし他方、法は課税物品たる香水には「固型、粉末及びねり状のものを含む」と
明記しているので、課税物品たる香水は社会通念上の香水すなわち液状香水を典型
とし、これと同種の効能用途等を有する固型、粉末、ねり状の芳香品をも包含し
(法別表「課税物品表の適用に関する通則」第二条は、「この表に掲げる物品に
は、(中略)これに他の物品を混合し、又は結合した物品を含むものとする。この
場合において、その物品については、これに性状、機能、用途その他についての重
要な特性を与える物品のみからなるものとみなす。」として、課税物品の加工品に
つき、それがいかなる課税物品に該当するかを、性状、機能、用途を主たる基準と
して決することとしているのであり、本件に直接右規定の適用はないけれども、そ
の判断基準は課税物品たる香水の範囲を決するにつき顧慮に値いする。ただし課税
物品たる香水は物理的性状を問題としない。)、結局、課税物品たる香水とは、化
粧目的に適した芳香を有する芳香物で、芳香を身辺から発散させ、専ら化粧目的に
奉仕することをその用途とする物品と解すべきである。
(三) 成立に争いのない甲第三号証によれば、国税庁において編集した「物品税
課説物品の解説書」には、課税物品がその原料、成分をも含めて解説されているこ
とが認められる。しかし、そのことから同解説書が新製品等をも予測したうえで、
課税物品を原料、成分により限定的に定義したものとは解されず、いわんや、法の
一部を構成すると解する余地はない。
また、薬事法第二条第三項は「身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で」
使用するものとして化粧品を定義し、同法第四二条第二項、ホルモン等を含有する
化粧品基準(昭和三五年八月厚生省告示第二三四号)第4は化粧品にメチル・アル
コールを使用することを制限しているが、これは薬物等の使用による人体への影響
を考慮して薬物等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的とする同法
の趣旨から定められた定義および制限規定と解すべきであり、奢侈品に対する課税
を主目的とする物品税法とはその趣旨を異にする点からいつても、更に化粧品と香
水等が化粧品類として規定されている新法において香袋のごとく明らかに薬事法の
化粧品に含まれない物品が化粧品類に含まれることからみても、薬事法の定義規定
およびメチル・アルコールの使用制限は課税物品たる香水の範囲を薬事法上の香水
に限定したり、メチル・アルコールが使用されている物品を右範囲から排除する根
拠とはならない。
2 そこで、本件香剤が課税物品たる香水に該当するかにつき判断する。
前顕乙第二号証、成立に争いのない乙第五号証の一、二、証人B、同Cの各証言お
よび原告本人尋問の結果(第一回)を総合すれば、本件香剤は配合される香料が社
会通念上の香水に用いられるものと同種の香料であつて、同じような芳香を発し、
溶剤中のプロピレン・グリコールは揮発性が少く、これが成分の大半を占めるた
め、本件香剤も揮発性の少い、粘度の高い油状液であり、専ら本件香水袋の香剤と
してのみ利用することが予定されており、その性状から社会通念上の香水と同様に
身体等に塗付して使用することは困難であることが認められ、前顕乙第二号証、成
立に争いのない甲第四号証の一、二、乙第一号証の一ないし四および原告製造の香
水袋であることにつき争いのない検甲第一ないし第一五号証ならびに原告本人尋問
の結果(第一回)を総合すれば、本件香水袋は社会通念上の香水が有する携帯不
便、芳香の短命という欠点を避けるため、ポリエチレンの小袋に香剤を吸収させた
スポンジ片を封入し、ポリエチレンの通気性を利用して芳香を発するもので、ポケ
ツト、ハンド・バツク、ハンカチーフ、書籍に挾んで芳香を楽しみ所持者の品位を
高めることが予定されていることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右によれば、本件香剤は、油状液ではあるが、社会通念上の香水と同種の芳香を有
し、(香料の容積割合約一六パーセント)本件香水袋に利用されることにより香袋
のように所持するという方法で、右の香水を対象物に散布したと同様の賦香作用を
有し、専ら化粧目的に奉仕することをその用途とする物品であるから、課税物品た
る香水に該当すると解するのが相当である。
三 つぎに、本件物品に非課税の取扱いを認めるべきかにつき判断する。
非課税の取扱いにつき法第九条は非課税とすべき物品の要件を規定するとともに、
その具体的指定を政令に委任し、これをうけて、昭和四一年政令第七六号による改
正前の同法施行令は同施行令別表第三、第四に非課税物品を限定列挙しているので
あるが、右各別表中に本件物品が該当すべき物品はなく、また本件香水袋を販売す
る殆どの場合これに購入者の商品等に関する宣伝広告文が印刷されたカバー・ラベ
ルを添付し、これがそのまま最終消費者の手に渡ることは後記のとおりであるけれ
ども、このことは本件香水袋を法上の非課税物品と解すべき理由とならず、他に本
件物品に非課税の取扱いを類推適用すべき特段の事情も認められないから、本件物
品に課税したことは適法である。
四 前記認定の本件香水袋の構造によれば、スポンジ片およびポリエチレン袋が本
件香剤の容器であることは明らかであるが、更に、カバー・ラベルも本件香剤の容
器包装に該当するかを検討する。
1 課税物品が添付され、あるいは課税物品に添付された物が、当該課税物品の容
器包装に該当するかの判断も、社会通念および法の趣旨を勘案して決するべきであ
るが、これを決するに当つては、その物自体の客観的形態、性状等から一搬的に予
想される機能、用途等を主眼として判断しなければならない。
2 前顕甲第四号証の一、二、乙第一号証の一ないし四、第二号証、および検甲第
一号証ないし第一五号証を総合すれば、本件香水袋とカバー・ラベルとの構造上の
関係は、透明な筒状のポリエチレンの中央部を溶接して二つの袋を形成し、その一
方に本件香剤を吸収させたスポンジ片を入れて本件香水袋の本体とするとともに、
他方にラベルを挿入したうえ、右溶接部分で折り曲げて各袋の開口部分を溶接して
一つの香水入り容器とし、これを二つ折紙片のカバーに挟むというものであるこ
と、原告は右構造の本件香水袋、カバー・ラベル全体を香水容器として特許庁に対
し実用新案登録の請求をしたこと、そして原告が本件香水袋を販売する殆どの場合
にカバー・ラベルには購入者の商品、営業等に関する宣伝広告文が印刷されている
ことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして右によれば、カバー・ラ
ベルは本件香水袋に添付されることで、これを美化するという効用を有し、構造
上、ラベルは容器の一部であり、カバーはこれを包装するという機能を有してお
り、原告自身もカバー・ラベルを含めて広く香水容器と考えていたこと、更に、カ
バー・ラベルは、仮に宣伝広告文が印刷されているとしても、その紙片自体では効
用が僅かであり、本件香水袋にその容器包装として添付されることにこそ用途があ
り、その場合に印刷された宣伝広告文もその効用が期待されるのであつて、中心的
効用、用途を決しているのは、本件香水袋であることが認められる。
なお成立に争いのない乙第四号証、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、郡是
製糸株式会社に対してはカバー・ラベルを添付しないで本件香水袋のみが販売され
たことが認められ、カバー・ラベルと本件香水袋とが、分離可能であることは明ら
かであるが、一般の容器に貼布されたラベルもそれがないことから、容器の物を収
納するという機能が害されるわけではなく、いわんや包装が容器から分離しうるこ
とは当然であつて、カバー・ラベルが本件香水袋と分離可能であることをもつて、
その容器包装に該当しないと解する理由とはしえない。
3 従つて、カバー・ラベルは本件香水袋の容器包装と解するのが相当であり、前
顕甲第四号証の一、乙第一号証の一ないし四、第二号証によれば、カバー・ラベル
は、本件香水袋に添付されて原告の製造場から移出された場合、右香水袋とともに
最終消費者の手に渡るものと推認しうるから、カバー・ラベルの費用をも含めた価
格をもつて課税標準としたことは適法である。
なお、原告は広告宣伝用マツチ箱の外装および広告物の費用がマツチの課税標準に
ならないこととの対比上、本件香水袋のカバー・ラベルの費用も課税標準に含まれ
ないと解すべき旨主張する。しかし、マツチはその数量が課税標準とされ(税率は
一〇〇〇本につき一日)、その容器包装の費用について法に格別の規定がないのに
対し、香水については容器包装の費用を含むその価格を課税標準とする旨法が定め
ているのであるから、両者を対比しても原告主張のごとき結論はでてこない。
五 別表の年月、取引区分、移出数量、税込単価、摘要の各欄に記載された事実は
当事者間に争いがないから、これに基き原告の本件課税期間中の課税標準、無申告
加算税額を計算する。
1 本件物品の課税標準は、販売価格に相当する金額であるが(法第一一条第一項
第二号)、右金額は当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額を除いた金額
であり(同条第二項)、本件物品には一〇〇分の一〇の物品税が課されるから(法
第一四条、法別表第二種第四類第四〇号)、税抜単価を一〇〇とした場合の税額は
一〇となるので、合計額一一〇が税込単価となる。従つて、カバー・ラベルの添付
された本件香水袋はその全体の、右香水袋のみのものはそれ自体の各税込単価に一
一〇分の一〇〇を乗じて税抜単価を求め、これに移出数量を乗じて課税標準を求
め、一〇〇円未満の端数は切捨てたうえ(昭和四二年法律第一四号による改正前の
国税通則法第九〇条第一項)、税率を乗じて物品税を算出すれば、別表課税標準
欄、物品税額欄のとおりであり、課税標準合計九七万五一〇〇円、物品税額合計九
万七五一〇円となる。
2 無申告加算税額は、本税額の一〇〇〇円未満の端数、または全額が二〇〇〇円
未満であるときはその全額を、切捨て(右改正前の国税通則法第九〇条第三項)、
本税額に一〇〇分の一〇を乗じた金額であり(同法第六六条)、別表無申告加算税
額欄のとおり合計九三〇〇円となる。
六 以上の事実によれば、本件処分は適法であつて、原告の請求は理由がないから
これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 石川 恭 鴨井孝之 富越和厚)
別 紙(省略)
<略>

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