弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1経済産業大臣の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,
1平成16年5月28日ころから同年6月5日ころまでの間,山梨県甲府市○
○○丁目○番○号○○○号被告人方において,噴出花火などから煙火火薬を取
り出し,もって火薬類である黒色火薬を主とする火薬約390グラムを製造し,
2平成16年5月28日ころから同年6月4日ころまでの間,前記被告人方に
おいて,笛ロケット花火などから煙火火薬を取り出し,もって火薬類である過
塩素酸塩を主とする火薬約726グラムを製造し,
3平成16年6月6日午前2時ころ,前記被告人方において,携帯用即冷パッ
クから硝酸アンモニウムを取り出して軽油を添加し,もって火薬類である硝酸
塩を主とする火薬約200グラムを製造し,
第2山梨県知事の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,
1平成16年5月31日午前2時ころ,同市○○○丁目○番○号所在の○○○
店において,同店北西側出入口横に設置された○○株式会社所有の自動販売機
に,判示第1の1で製造した火薬類約157グラムを充てんした金属蓋付きガ
ラス瓶に導火線を装着して装置し,煙草の火で導火線に点火して同ガラス瓶に
充てんした黒色火薬を主とする火薬を燃焼させ,その際,上記自動販売機1台
(損害額10万6830円)を破壊し,もって火薬類を無許可消費するととも
に,他人の器物を損壊し,
2同年6月4日午前2時30分ころ,同市○町○番地所在の○○公園において,
同公園内野球場脇に設置された○○株式会社所有の自動販売機に,判示第1の
2で製造した火薬類約158グラムを充てんした金属蓋付きガラス瓶に導火線
を装着して装置し,煙草の火で導火線に点火して同ガラス瓶に充てんした過塩
素酸塩を主とする火薬を燃焼させ,その際,上記自動販売機1台(損害額26
万1444円)を破壊し,もって,火薬類を無許可消費するとともに,他人の
器物を損壊し,
3同月6日午前4時ころ,同市○町○番地所在の○○寺境内において,判示第
1の2で製造した火薬類約23グラムを充てんしたプラスティック容器に,ヘ
キサメチレントリパーオキサイドジアミン,乾電池,豆電球,洗濯ばさみ,リ
ード線などからなる起爆装置を装着し,通電して同プラスティック容器に充て
んした過塩素酸塩を主とする火薬を爆発させ,もって火薬類を無許可消費し,
4同日午前4時5分ころ,同所において,判示第1の3で製造した火薬類約2
0グラムを充てんしたプラスティック容器に,判示第2の3と同様の起爆装置
を装着し,通電して同プラスティック容器に充てんした硝酸塩を主とする火薬
を爆発させ,もって火薬類を無許可消費し,
第3人の身体財産を害する目的をもって,同日午前7時ころ,前記被告人方にお
いて,爆薬であるヘキサメチレントリパーオキサイドジアミン約30グラムを
充てんしたプラスティック容器に,乾電池,豆電球,洗濯ばさみ,リード線な
どからなる起爆装置を取り付けた爆発物1個を製造し
たものである。
(証拠)
省略
(事実認定の補足説明)
1判示第3の爆発物(以下「本件爆弾」という。)について,検察官は,被告人
が,かつての交際相手で本件当時に復縁を断られていたA女や,A女と当時交際
を始めていたB男などに対して危害を加えるなどの意思の下に製造したものであ
ると主張する。これに対し,被告人は,本件爆弾は自殺をするためだけに作った
ものであるし,未だ実験段階のものであったなどと供述し,弁護人も,被告人の
供述を前提として,「人の身体財産を害する目的」の存在について争っている。
そこで,以下,まず被告人が爆弾の製造等を始めた動機を明らかにした上,被告
人が本件爆弾を製造した目的について検討していく。
2被告人が爆弾の製造等を始めた動機について
関係各証拠によれば,被告人は,Aに復縁を断られた平成16年5月中旬以降,
本件一連の犯行までの間に,AやBあるいは自らの知人に対し,Bに危害を加え
るとか,Bを殺すという趣旨の発言や,その旨のメール・手紙の送付を重ねて行
っていたこと(甲85,87,90,93,94,95)や,被告人がそのころ
から殺人,呪い,爆弾,復讐などに関するインターネットサイトを閲覧するよう
になり,「爆弾」と「殺人」を組み合わせる方法によるインターネットサイトの
検索をも行っていたこと(甲83),その後犯罪事実第1及び第2のとおり実際
に火薬類を製造の上,それを利用した爆弾の威力実験を繰り返していたこと,そ
のころ,Aの妹に対して,Bを破壊するために爆弾を作っている旨の発言をして
いたこと(甲96),威力実験の過程では遠隔操作によって作動する仕掛けの爆
弾をも製造し,実験していたこと(判示第2の3,第2の4)などの事実を認め
ることができる。これらの事実に照らすと,被告人が爆弾の製造や威力実験を始
めた主たる動機は,Bに対して危害を及ぼすことにあったと認めるのが相当であ
る。
この点,被告人及び弁護人は,爆弾の製造等に及んだのは自殺のためであって,
B等に危害を加えるつもりはなかった旨主張している。しかし,そもそも自殺の
手段として爆弾を製造することを思い立つということ自体非常に不自然な話であ
るし,前述のとおり被告人が爆弾の製造等を始めた時期がBに対して危害を加え
る旨の言動を繰り返していた時期と重なることや,遠隔操作により作動する爆弾
をも製造したことなどに照らすと,自殺のためにのみ爆弾の製造等を行っていた
という弁解は,到底信用しがたい。
もっとも,被告人が,爆弾の製造等を始める以前のころから,Aに対し,メー
ルや手紙を使って再三自殺を仄めかしていたこと(甲93など)や,被告人が,
前記のとおり爆弾の威力実験を繰り返していたころ,Aの妹に対し,Bを破壊す
る目的で爆弾を作っている旨告げた際,自らも破壊する目的で爆弾を作っている
とも述べていたこと(甲96),さらに,本件犯行後に被告人の自宅から発見さ
れたAに宛てた手紙の中には,自分が自殺を遂げたことを前提とした文章が記載
されるとともに,Bに対する脅迫はただの脅しであったなどという記載もみられ
ること(甲92)などに照らすと,前記のとおり爆弾の製造等を始めた主たる動
機がBに対する加害の点にあったと認められるとはいえ,その後,爆弾の製造等
を重ねていく過程で,被告人が自殺のために爆弾を使用することをも考えるよう
になっていたこと自体は否定できないし,本件当時,被告人において製造した爆
弾を使用して近い将来Bに危害を加えることを確定的に決断していたとまで認め
ることもできない(本件後に被告人宅から発見されたB殺害時の犯行声明文とも
読める「皆様へ」と題する封書(甲91)にしても,作成時期が定かでない上,
被告人は,この封書のほかにも,前記のとおり自殺を前提としたA宛の手紙をも
したためていたことをも踏まえると,この封書の存在をもってしても,被告人が
近い将来Bに対して爆弾を使用することを確定的に決断していたとまで認めるこ
とはできない。)。
3本件爆弾の製造目的について
(1)以上を前提に,本件爆弾の製造目的についてみると,被告人は,捜査段階か
ら,本件爆弾は最終形態ではなかったのであって,これを起爆装置としてより
威力のある爆弾を作り,マネキンなどを使って実験しようと思っていた旨供述
している(乙9,10,12)ところ,爆弾の製造構想に関する被告人供述は
相当具体的であることや,被告人が判示第2のとおり本件爆弾の製造以前に4
回にわたって実際に爆破実験を繰り返していたこと,前記のとおり本件当時被
告人が製造した爆弾を使用して近い将来Bに危害を加えることを確定的に決断
していたとまでは認められないし,他に被告人が本件爆弾を実験以外のために
近い将来利用する計画を具体的に立てていたようにもうかがえないことなどか
らすれば,本件爆弾が,被告人が供述するように,威力実験のために作成され
たものに過ぎないという可能性は否定できず,他に,被告人が,Bや特定の第
三者に対して危害を加える上で直接利用することを意図して本件爆弾を製造し
ていたとまで認めるに足りる証拠はない。
(2)もっとも,本件爆弾が以上のとおり威力実験のために製造されたものであっ
たと認められるにしても,被告人は,それまでの威力実験の際には,スーパー
や公園に設置された自動販売機を実験場所として選定したこともあった(判示
第2の1,第2の2)ほか,本件爆弾の直前の威力実験(判示第2の3,第2
の4)では,山中を実験場所として選定しているとはいえ,爆弾という極めて
危険な物を扱うにもかかわらず,他人の身体や財産に危害が及ぶことを確実に
防げるような措置を講じていなかったと認められること,本件爆弾ないしこれ
を起爆装置とした爆弾は,それまで被告人が作成したどの爆弾よりも威力が強
いものになることは被告人自身も十分認識していたにもかかわらず,これを使
用して行う実験に当たり,爆発による被害が周囲に及ぶことを防ぐための万全
の措置を被告人が具体的に考えていた様子は見受けられないこと,被告人が,
捜査段階において,「物を壊してしまうことについては,ある意味仕方ないと
思ってあまり考えずにいました。」などと供述していること(乙12)などか
らすると,被告人は,本件爆弾の製造に当たり,本件爆弾が他人の身体財産を
害する可能性があることを少なくとも未必的には認識,認容していたと認める
ことができる。
(3)以上によれば,判示第3の罪については,上記の限度で,被告人に身体財産
加害目的を認めることができ,身体財産加害目的は一切なかったとする弁護人
の主張は採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の1及び第1の3の各所為はいずれも火薬類取締法58条2号,
4条,2条1号イに,判示第1の2の所為は同法58条2号,4条,2条1号ハ,
同法施行規則1条の2第1号に,判示第2の1の所為のうち,火薬類無許可消費の
点は同法59条5号,25条1項,2条1号イに,器物損壊の点は刑法261条に,
判示第2の2の所為のうち,火薬類無許可消費の点は火薬類取締法59条5号,2
5条1項,2条1号ハ,同法施行規則1条の2第1号に,器物損壊の点は刑法26
1条に,判示第2の3の所為は火薬類取締法59条5号,25条1項,2条1号ハ,
同法施行規則1条の2第1号に,判示第2の4の所為は同法59条5号,25条1
項,2条1号イに,判示第3の所為は爆発物取締罰則3条,1条にそれぞれ該当す
るが,判示第2の1及び判示第2の2はいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる
場合であるから,刑法54条1項前段,10条によりいずれも1罪として重い器物
損壊罪の刑で処断することとし,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法
45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3
の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処することとする。
(量刑の理由)
1本件は,かつての交際相手に復縁を断られた被告人が,同女と当時交際してい
た男性に危害を加えることなどを意図して爆弾の製造及び威力実験を思い立ち,
インターネットサイトで調べた方法により無許可で火薬類を製造した上(判示第
1の1,2,3),その威力を確認するため,自動販売機2台に仕掛けて爆発さ
せて自動販売機を損壊したり(判示第2の1,2),山中で爆発させたり(判示
第2の3,4)したほか,自宅において更に威力実験のため爆発物を製造した
(判示第3)という事案である。
2被告人は,かつて交際していた相手の女性と復縁する上で障害となっていた男
性に危害を加えることを主たる動機として爆弾の製造を手がけ始め,その後も,
同人に危害を加える意図や,交際相手に思い知らせるべく爆弾を使って自殺をし
ようという意図の下に,威力実験用の火薬類の製造や実験を重ねていたもので,
その極めて身勝手で短絡的な犯行動機に酌量の余地はないし,火薬類や爆発物の
持つ危険性や反社会性について一顧だにせず,自己の目的達成のためには他者の
迷惑等を省みないで犯行を重ねるという態度は強く非難されるべきである。
犯行態様等についてみても,まず,判示第1及び第3の火薬類等の製造行為は,
被告人が,火薬類等の取扱いについて特別な知識や技術があるわけでもないにも
かかわらず,インターネットサイトで調べた方法に従って,自ら材料等を収集し
た上,住宅地にある他の入居者も居住するマンションの一室において,火薬類や
爆発物を約10日間という短期間のうちに繰り返し製造したというものである。
製造した火薬類の種類は複数に渡っており,その量も合計1300グラムを超え
て多量にのぼる上,被告人は,次第に危険性の高い火薬類や爆発物の製造を手が
けるようになっていたものであって,非常に危険な犯行であるし,実際,被告人
は,判示第3の爆発物を製造直後に室内で誤って爆破させているのであって,犯
行場所となったマンションの居住者は,そろって爆発があったことを知った際の
恐怖感を訴えるとともに,被告人に対する強い憤りや厳しい処罰感情を示してい
る。
また,判示第2の火薬類の無許可消費等についてみると,被告人は,威力実験
のためにスーパーや公園に設置された自動販売機に火薬類を仕掛け,2台の自動
販売機を使用不能な状態にさせているものであって,爆発により生じ得る危険性
や損害など他人に対する迷惑を顧みない危険で悪質な犯行であるし,被告人は,
それに飽きたらず,より強力な火薬類を用意して,さらに威力実験として他人の
私有地においても爆破実験を繰り返していたのであって,危険な火薬類を扱うこ
とに対する抵抗感や罪悪感は微塵もうかがわれない。
さらに,被告人による本件一連の犯行が地域住民に与えた不安感も相当なもの
と考えられるほか,模倣性の高い犯罪であることからすると,一般予防の見地も
無視できない。
以上からすれば,被告人の刑事責任は重い。
3そうすると,本件については,かつての交際相手に復縁を断られた被告人が自
暴自棄となり衝動的に本件各犯行に及んでしまったという側面もあることや,損
壊した自動販売機2台についてはいずれも被害会社との間で示談が成立している
こと,被告人の父親が情状証人として出廷し,被告人に対する今後の監督を誓約
していること,被告人自身も捜査段階から反省の言葉自体は述べていること,自
らの犯行により招いた結果とはいえ,判示第3の爆発物の誤爆により左目を失明
するとともに左手首から先を失うという重傷を負っていること,怪我の手当のた
めではあるものの被告人は誤爆させた直後に自ら警察に届け出をしていること,
前科前歴がないこと,いまだ若年であることなど被告人にとって酌むべき事情も
認められるところであるが,これら被告人にとって酌むべき事情を最大限考慮し
ても,前記のような被告人による一連の危険で悪質な犯行に対しては,主文のと
おりの実刑をもって臨むのが相当である。
(検察官千石奈央,私選弁護人内田清各出席)
(求刑懲役3年)
平成18年5月17日
甲府地方裁判所刑事部
裁判長裁判官川島利夫
裁判官矢野直邦
裁判官福嶋一訓

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