弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原略式命令を破棄する。
     被告人を罰金一〇万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算
した期間、被告人を労役場に留置する。
         理    由
 本件記録によると、大野簡易裁判所は、昭和四八年二月二八日被告人に対する道
路交通法違反、業務上過失傷害被告事件(同庁昭和四八年(い)第六五号)につき、
被告人に対し、(一)公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年三月二四日
午前九時三〇分ころ静岡県島田市abのc番地先国道において、普通貨物自動車を
運転し、(二)右日時場所において、右自動車を運転中、業務上の過失により、先
行するA運転の普通貨物自動車に自車を追突させ、その衝撃により同人ほか二名に
傷害を負わせた旨の道路交通法違反及び業務上過失傷害の各事実を認定したうえ、
右(一)の事実につき道路交通法六四条、一一八条一項一号、(二)の各事実につ
き刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条その他必要な法律を適用し、「被告人
を罰金一八万円に処する。この罰金を完納することができないときは、金千円を一
日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。」との略式命令を発し、この略式
命令は、同年三月二八日確定したことが明らかである。
 しかしながら、罰金等臨時措置法三条は、昭和四七年法律第六一号罰金等臨時措
置法の一部を改正する法律により、同条一項一号中「五十倍」とあつたのが「二百
倍」に改められ、右法律は同年七月一日施行されたものであるところ、被告人の各
業務上過失傷害の所為は、右改正前の行為であり、犯罪後の法律により刑の変更が
あつた場合であるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時の刑法二一一条前段、
改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号を適用すべきものである。そして、これに
よれば、右業務上過失傷害罪の罰金の法定刑は、五万円以下であり、道路交通法違
反罪につき所定刑中罰金刑を選択し、原略式命令の摘示する各法条を適用すれば、
その処断刑が一〇万円以下の罰金となることが明らかであるから、原略式命令が被
告人を罰金一八万円に処したのは、法律の適用を誤り、科しうべき罰金刑の多額を
超えて刑を科した違法があるといわなければならない。
 よつて、本件非常上告は理由があり、しかも原略式命令は、被告人のため不利益
であるから、刑訴法四五八条一号により
 原略式命令を破棄し、被告事件につきさらに判決する。
 原略式命令の確定した各事実に法令を適用すると、道路交通法違反の点は同法六
四条、一一八条一項一号に、各業務上過失傷害の点は、行為時においては刑法二一
一条前段、昭和四七年法律第六一号罰金等臨時措置法の一部を改正する法律による
改正前の同法三条一項一号に、裁判時においては刑法二一一条前段、改正後の罰金
等臨時措置法三条一項一号に各該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があつた
ときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、右
業務上過失傷害は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条
一項前段、一〇条により一罪として犯情の点で最も重いAに対する罪につき定めた
刑で処断することとし、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段
の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲
内において、被告人を罰金一〇万円に処し、右罰金を完納することができないとき
は、刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留
置することとする。
 よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官栗本六郎 公判出席
  昭和四九年五月三〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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